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マスター:御影堂
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/03/29


みんなの思い出



オープニング


 なだらかな丘の上、最初にそれを見つけたのは一組のカップルだった。
「ね、今何か光らなかった?」
「え、どこ?」
 街を眺望できる丘から、確かに街中を行く稲光のようなものがかいま見えたのだ。
 空ではなく地面を走る雷に、カップルはすぐさま通報した。はじめ、送電線の事故かなにかだろうかと警察も思ったという。
 一報を受けて、警察はその場所へ行ったが、特に変わった様子はなかった。誤報だったのかと思ったところへ、次なる通報が入った。
 オオカミの群れがいるというのだ。
 嫌な予感をひたいの汗にして、その場所へ向かう。近づくまでもなく、そこに何かいるのがわかった。
 単なる獣であったらば、すぐさま対処もしようがあったのだが。
 雷を帯びている大型の獣、それが複数匹群れをなして移動していた。
 恐れつつも、目を凝らせば獣はオオカミ。気配を察知すれば、牽制するように雷撃が飛ぶ。
 逃げるように駆け出した警察官は、彼らの向かう先にあるのは例の丘だった。
「梅が……」
 呆然とオオカミの行く末を見つめ、警察官はそんな声を漏らすのだった。


 東風吹かばにおいよこせよ梅の花

 かつて菅原道真公が、太宰府へ左遷されたときに読んだとされる歌だ。
 菅原道真は、流された先の太宰府で死した。その後、雷神となって都を荒らし、鎮められて天満様となった。
「梅に雷といえば、菅原道真公が思い出されますね」
 開口一番、オペレータはそんなことをいう。
 とある街の梅に、サーバントが迫っているとの一報が今朝入った。
 梅の花は、なだらかな丘の上に一本だけ生えている。周囲はひらけており、カップルや家族の憩いの場ともなっている。
 そこへ向かうサーバントは、雷のようなものを帯びたオオカミの姿をしているという。何故かはわからないが、複数群れをなして梅を目指しているというのだ。
 その梅は、町にとって重要なものだとオペレータは語る。
「先ほど、道真と梅の花についてはお話しましたよね? この町では、この逸話にあやかって一本梅が受験生の守り木になっているんです」
 いわんや、この時期である。
 梅の枝には多くの合格祈願が結ばれているという。この町では、合格したらサクラサクの代わりにウメガサクと伝えるほどだというのだ。
「街の学業を守ってきた梅です。久遠が原学園生として、何としても守らなければなりません」
 少し間を空けて、オペレータは小さな声であなたたちに告げる。
「ついでに、私の学業祈願も結んできてもらえませんか……?」


リプレイ本文


「最後は験担ぎってのが受験の定番だよねー」
 お守りが多く結わえられた梅の木を見上げながら、東雲 凪(jb9404)はそう感想を述べた。
「季節柄落ちるーとか滑るーって言葉を連発したくなるねぇ」
 ふふっと笑いながら、嵯峨野 楓(ja8257)もそんな冗談をいってみる。
 梅の木がどれだけ愛されているかは、この量を見ればあきらかだった。
「このような雅な梅を狙うなど……さすが、ケダモノですわね」
 支倉 英蓮(jb7524)は視線を梅花から丘の向こうへ移す。
 お守りを除いたとしても、長らく生きた梅の花は立派に咲き誇っている。
「何故、この梅の木を狙っているのでしょうねぇ?」
 樹月 夜(jb4609)がそんな疑問を呈する。
「確かに、何故こんなとこを狙ったのかとか気になるが。いつも通り、考えて戦うだけだ」
 矢野 古代(jb1679)の答えに、華愛(jb6708)が頷く。
「梅の木、守るの」
 その思いは誰しもが一致していた。
 全員、ハンズフリーの携帯を用いて上空から偵察する橋場 アイリス(ja1078)の言葉を待っていた。敵の接近があれば、すぐに伝達される。
「絢ちゃん大丈夫……? 使い方教えるよ」
 楓が鴉女 絢(jb2708)に問いかける。
 絢は素直に楓の言葉を聞き、電話の使い方を学んだ。
「安心してもらおう、携帯の使い方は完璧にますたーしたよ!」
 どやっとした顔で、絢がいう。
「梅の木を守って、頭よくしてもらおう」
 気合い十分だった。
 少し和やかになりかけていたところに、アイリスから通話が入る。
「来ました! 全員、同じ方向から駆けてきます」
 いうやいなや、アイリスは機先をとるために飛んで行く。
 全員に緊張が戻り、それぞれのポジションへ動いていく。
「鈍ってないと良いのだが」
 久々の戦闘に古代が呟く。
「躾けて差し上げましょう……」
 戦斧を構える英蓮をはじめ、全員がそれぞれの武器を手にして動き出す。
「梅を無事に守りきれたら、ジュースを奢ろってあげよう」
 古代が全員にそんな約束を告げる。
「それは、頑張らないとね」
 凪の言葉に、全員が頷いたように思えた。
 そして、雷を纏った狼の群れが視界へ入ってくる。


「動きが……」
 先行するアイリスの耳に、一際大きな狼の咆吼が聞こえてきた。
 同時に、狼の群れが二手に分かれる。左右から挟撃を仕掛けるような動きを見せていた。
「二手に分かれるようです。各陣営ともに気をつけてください」
 言うと同時に、東側面に回ろうとする狼へ向かう。
 アイリスに気付いた狼の一匹が、その毛並みを逆立て前進に纏った雷を震えさせた。そして、自身の口元へ集約させて穿つ。一筋の雷撃は飛翔するアイリスを狙う。
 だが、冷静に、アイリスはその雷撃をかわした。
「地を這うというより、撃つって感じですね」
 そして、仲間に情報を伝えるのだった。
「サーバントはとりあえず殺すよ、皆殺し」
 などと物騒なことをいいながら、絢は冥府の風を纏う。
「倒すのには賛同しますよ」
 その側で、夜がじっとスパイナーライフルのスコープを覗く。狙うは、東側から向かう大狼。しっかりと動きを見て引き金を引けば、吸い込まれるように弾丸が狼の体を穿つ。
「頭が二人ある集団は分散を疑え、だ。古事記にもそう書かれている」
 そんなことをいいながら、西側では古代がスナイプゴーグルで狙いを付ける。もちろん狙いは、西側から来たる大狼。よく引きつけて、引き金を引く。
 撃たれた狼は一瞬ひるんだが、構わず進撃を続ける。
 そこへ、黒い霧を纏った弾丸が飛来する。大狼は、弾丸をすんでのところで避け、威嚇するように咆吼した。
 咆吼を耳にしながら、凪は歯がみする。
「獣だけあって、素早いね」
 素早いというのは、回避力だけではない。そこそこの機動力を持つ狼はべくもなく梅の木に迫ろうとする。
「スーさん、お願いします、なのです」
 行く手を遮るように、華愛がストレイシオンのスーさんを呼び出す。スーさんは、狼共へ向かって牙を剥き声を荒げる。威嚇の声に、近接していた狼たちが注意を引かれた。
 それを諫めるように大狼が、吼えかかっていた。


「ちょこまか、動かないでよ」
 大狼に放った矢を避けられ、絢は少し苛立つ。
 東側は大狼を筆頭に、上手く回り込もうとしていた。
 それを阻むように、降り立っていったのがアイリスだ。黒白の双剣を振るい、攻撃を仕掛けた。一匹へ集中すれば、隙も生まれる。もう一匹が抜けようとしたとき、アイリスは無茶をした。
 身を広げて行く手を遮ったのだ。
「ぐっ」
 牙と爪、さらには纏う雷に身を焦がす。
 雑魚は押さえられたが、大狼は抜けていく。そのまま雷撃を最も近くにいた楓に放つ。その雷撃を楓は魔方陣を展開し受けきる。多少体は痺れたが、直ぐに抜けていった。
「お返し、だよ」
 楓がそう告げると、大狼の周囲に青白く光る蝶が舞う。蝶は突風を巻き起こし、大狼を風の刃で切りつける。さらには、青白い鱗粉が、大狼の体を冒す。
 風が去った後、大狼はその場に立ち尽くしていた。


 西側も大狼が先陣をきり、二匹が連れ添って続く。
 後続の狼たちは、威嚇されたお返しとばかりにスーさんへ向けて雷撃を放つ。連続の雷撃を受け、一瞬ひるみをみせつつもスーさんは立ち向かう。
 大狼は、先を抜け華愛自身へと雷撃を向けた。重たい一撃を受けながらも、行かせまいとしようとする華愛に凪がいう。
「危なくなったら、下がってよね」
 頷いたのを確認しつつ、大狼を穿つ。今度は黒霧の弾丸が見事に、その毛皮を破った。
「スーさん、今です」
 同時に、スーさんがお返しとばかりにサンダーボルトを撃つ。引っ被った大狼は、性質の違う雷に全身の動きを狂わされたらしい。
「雷纏いながら、雷におぼれてたら世話ないね」
 動きの鈍った的へ、古代の一撃は響くようだ。
「私の纏う白き雷は鳳凰と獅子……梅の木の前に、先ずはわたくしのお相手を願えますか。お犬さん方……?」
 斧を振りおろし、英蓮が大狼の体を叩き切る。
 西側を統べる大狼はその場に伏した。


 無茶は続かない。
 アイリスの脇を一匹の狼が抜け、梅花を射程におさめた。毛が逆立つ。纏う雷がいななく。
「させません」
 きっぱりと言い放ち、雷撃を放つと同時に引き金を引く。
 弾丸は狼の足元をかすらせ、その狙いをそらさせた。梅花に当たることなく、雷撃は空へと消える。
「鬱陶しい狼達だね、目障りだから消えてくれないかな?」
 左目をつむりながら、絢が告げる。
 アウルの集中する右目が、狼を捉える。捉えられた狼には、黒の魔弾が撃ち込まれた。鴉の羽根が狼の傍を舞っていた。それでも、狼は息を残す。
 再び放たれた雷撃を阻んだのは、楓だ。
「させないよ。私を無視するなんていい度胸してんじゃない」
 魔方陣で雷撃を受け止めてみせる。梅の木に届かせはしない。
 体の痺れは気にならない。全力で阻むことだけを考える。
「これ以上は、行かせないよ」
 残った一匹も抜けようとしたが、アイリスが防ぐ。力一杯に振るわれた剣は、狼をひるませ、その場に留まらせた。


 大狼という頭をなくした二匹は、スーさんを狙いながらも前へ進もうとする。
 雷撃を受けたスーさんと狼の間に、英蓮が割り込む。
「躾のなってないワンちゃんには、痛〜い首輪をしませんとねぇ……?」
 掌底を放ち、狼を引き離す。そして、脇を抜けようとする狼も身を挺して留めようとする。
 牙や爪を受けながらも、英蓮は斧を落としはしない。
 そこを狙って凪が攻撃を撃ち込む。合わせて古代も、狙いを付ける。
 弾丸の幕に押されて、狼たちは思うように動けない。
「それにしても戦いながら情報を区別ってのは面倒だな! ……言っても仕方ないが」
 状況は一刻一刻動いていく。古代はそんな愚痴を言いながらも、しっかりと弾幕を張るのだった。


「そろそろ、終わりにしようよ」
 絢はそういいながら、梅花に最も接近していた狼に向かう。同時に三日月の刃を無数生成し、狼に斬りかかる。無数の刃に引き裂かれ、その場に狼は伏す。
 続けとばかりにひるんでいた狼が駆け出そうとする。押さえるべくアイリスは双剣を突き立て、振るわれる爪牙を身に受ける。
「こっちは任せて」
 というアイリスに返事し、夜は朦朧としている大狼を撃ち抜く。
「悪いですけど、これ以上は抜かせませんよ……」
 弾丸をその身に受けながらも、大狼は未だに健在。撃たれたことで、むしろ、意識を回復しつつあるようにも見受けられる。
「お願いだから、大人しくしててよ」
 その様子を見た楓が素早く印を結ぶ。意識を取り戻した大狼の体を見えないほどの糸で縛り上げる。その身に何が起こったのかわからない大狼は、自分を狙ったと覚しき相手に狙いを付ける。
 雷が奔り、楓を襲うも、それは再び防がれた。


 戦いは加速する。
 西側では弾丸の小爆発によって、狼の攻撃を古代が防いでいた。
「こんな所で倒れるんじゃねえぞ!」
 威嚇により狼をたきつけたスーさんは、予想以上に攻撃を受けてしまっていた。さらには、雷撃によって体を痺れさせてしまったのだ。
 そんなスーさんをあざ笑うかのように、一匹の狼が戦線の隙間を縫っていく。英蓮が追いかけるも一歩間に合わない。稲妻が地を駆け、梅花に吸い込まれようとした。
「させるか、此処は、譲らねえぞ……!」
 古代が身を捧げ、狼の雷撃を盾となり防ぐ。身を焦がし、痺れさせながらも銃を杖代わりに立ちふさがる。
「二度目はないよ」
 凪が雷を放った狼を一心不乱に穿つ。
 弾丸に毛皮を破られ、纏う雷もまばら。
「終わり、なのです」
 華愛が白銀の刃で、息も絶え絶えな狼に引導を渡す。
 が、その華愛は小さくうめきをあげるとその場に倒れた。
「え」
 狼の牙がスーさんを捉えたのだ。
 攻撃を惹きつけていたがゆえの、一撃が二人を貫いた。
「八聖霊鳳……それに白雷獅子王よ。力を……!」
 英蓮が踵を返し、スーさんを倒した狼の前に躍り出る。
 斧を振り下ろし、その身を叩き斬る。斬撃は、深く狼を裂いて、息の根を止めた。


 冥府の風を再度荒ぶらせ、絢は弓を引く。
「そろそろ倒れてくれないかな?」
 放たれた矢は、大狼の体に深々と突き刺さり、体力を削る。
 縛られた大狼は、藻掻きながら、悪足掻くように雷撃を放っていく。まずは、お返しとばかりに絢へと一撃をくべる。避ければ梅花にあたるとも限らない。
 歯を食いしばりながら、絢は甘んじて雷撃を受ける。
 大狼の周囲には、二度目の蝶が乱舞した。
 青白い光と鱗粉を散らしながら、大狼の身を削る。
「タフだよね」
 それでも、大狼は立ち続けていた。しかし、息は荒く、纏う雷撃もムラが出ている。
 混濁する意識の中で大狼は自分の元へ、飛来する、何かを見た。
 アイリスだ。翼をはためかせ、影の刃を作りだし、急降下する。
「これで、最後です!」
 双剣と影の刃の波状攻撃、叫ぶ暇すら与えず、大狼を切り裂いた。
 大狼が伏すのを見届け、反動に身を預けたアイリスの元へ古代の声が聞こえてきた。
「あいつ、生きてるぞ!」
 最初に打ち倒したはずの大狼が咆吼し、立ち上がっていた。
 機先をかけるべく、動き出した。
「死んだふりって、卑怯だよ」
 凪が止めるべく弾丸を撃ち込めば、絢も飛び出し深い闇を大狼に浴びせかける。
 闇に囚われながらも前進を続ける大狼に、確実にトドメを差すべく、英蓮が飛び出す。
 発光する剣を振るい、袈裟斬りに獣の体を引き裂いた。
 足が止まり、身が揺れる。
「躾、完了ですよ」
 どっと倒れた大狼の体が起き上がることは、もうなかった。


「頑張りましたね」
 嬉しそうにいいながら、英蓮が夜の頬に軽く口づけをする。
 一瞬、照れを見せながら夜は無言で英蓮のほっぺをむにっと引っ張った。
「にゃ、にゃにをするのですか」
 狼狽する英蓮に、夜がため息混じりにいう。
「……全く、よく俺の前でこういう無茶が出来ますよね」
 その無茶のおかげで、梅の木は守られた。
「木が無事で、よかったのです……」
 同じく無茶をしていた華愛が目を覚まし、梅花を見上げていた。
 古代の鉄拳治療により、気を取り戻したのだ。古代はといえば、口約束とはいえ約束だからとジュースを買いに丘を降りていた。
「見事に咲いているからね」
 デジカメで写真を撮りながら、凪がいう。守れて良かったと心から口にする。
「お願いしたし頭よくなったよね! さすが私と言うべきかな」
 学業祈願を結びながら、ドヤ顔で絢が宣言する。
 その横では楓も自身とオペレータの学業祈願を結んでいた。
「私もねー。やっぱ学業は神頼みだよ」
 そうして真顔になって、一心に願う。
「進級出来ますように……サボってても単位くれますように……」
「さすがに、それは努力次第だな」 
 苦笑しながら、戻ってきた古代が楓に桃ジュースを渡す。
「あ、矢野さんあざーっす!」
「ありがとうございます」
 アイリスも古代からジュースを受け取り礼を言う。
「ごちそうさまです」
 ホットココアを受け取った凪は、口を付けながらホッと一息。春めいてきたとはいえ、ときには寒い風が吹く。
 英蓮と夜もそれぞれにジュースを受け取る。
「頑張ったな」
「治療ありがとうございます。なのです」
 暖かいレモンジュースを受け取り、華愛は頭を下げる。
 学業祈願の祈りも捧げ、梅は今日も咲き誇る。
「今度はお花見にゆっくり来たいねぇ」
 そんな楓の呟きには、皆が頷くのだった。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:3人

踏みしめ征くは修羅の道・
橋場 アイリス(ja1078)

大学部3年304組 女 阿修羅
怠惰なるデート・
嵯峨野 楓(ja8257)

大学部6年261組 女 陰陽師
撃退士・
矢野 古代(jb1679)

卒業 男 インフィルトレイター
子鴉の悪魔・
鴉女 絢(jb2708)

大学部2年117組 女 ナイトウォーカー
桜花の一片(ひとひら)・
樹月 夜(jb4609)

卒業 男 インフィルトレイター
竜言の花・
華愛(jb6708)

大学部3年7組 女 バハムートテイマー
雷閃白鳳・
支倉 英蓮(jb7524)

高等部2年11組 女 阿修羅
能力者・
東雲 凪(jb9404)

高等部2年19組 女 インフィルトレイター