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マスター:御影堂
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2014/03/15


みんなの思い出



オープニング


 某県某市にある商店街では、昨今のゆるキャラブームにあやかり、マスコットキャラを作っていた。第三商店街という名前にちなんで、「サンちゃん」。
 サンちゃんは、海の近い街であることから、魚をモチーフに作られた。
 ぎょろっとした瞳、左右のヒレをぱたぱたと動かし、尾ひれを器用につかって飛び回る。その動き方のため、一度ころぶと起き上がれなかったりするのだが、それが愛される理由ともなっていた。
 予算をがっつりと使って、グッズを作り、着ぐるみも多めに発注。商店会の命運を賭けた、ある意味戦争であった。
 だが、ある日のことである。
 着ぐるみを管理していたタナカさんが、慌てた様子で商店会長の下を訪れた。
 曰く、着ぐるみが4体盗まれたようだというのだ。
 窃盗事件として、警察に届け出、様子を見ることにしたのだが、ここから悲劇が始まる。


 家でゆっくりとテレビを見ていた商店会長は、地元ニュースを見て湯飲みを落とした。
 音をたて割れる陶器と、熱いお茶を顧みず、商店会長は悲鳴を上げた。
 ニュースでは、4体のサンちゃんが別の商店街で暴れ回っている姿が映し出されていたのだ。商店会長は慌てふためき、すぐさま現場へ駆けつけた。
 現場は、警察によって厳重に管理されていて近づくことができない。
 住民たちの避難も行われているようだった。
 何が何だかわからない会長の耳に入ってきたのは、悪魔、という言葉だった。
「あ、あぁ」
 その場で崩れ落ちる会長のもとへ、タナカさんが駆け寄る。
「会長、どうやら着ぐるみの中にナニかが入り込んでいるようです」
「そんなことはどうでもいい! イメージが、サンちゃんの純潔なイメージが!」
 ぴちぴちと跳ね回る奇妙な魚キャラのどこに純潔さがあるのだろうかという言葉を、ぐっと飲み込む。会長はそのまま、言葉にならない叫びを上げて泣き崩れた。


「会長に代わって、お願い申し上げます。あそこのサンちゃんを供養して上げてください」
 タナカさんは、南無といいながら依頼内容を告げる。
 ディアボロに乗っ取られたと覚しき着ぐるみを、着ぐるみごと倒して欲しいというのだ。
「会長は純潔なイメージとかいっていましたが、正直、モンスターチックな路線でいいと私は思うのです。商魂たくましくこの状況をマイナスから、プラスへ転じさせたい」
 しれっとした態度でタナカさんはいう。
「なので、まぁ、一度皆さんに倒してもらって、演出の一環だという風にしようという話になりまして……」
 いずれにせよ、そこで暴れているのであれば倒すしかないのはいうまでもない。
 監視カメラの映像などを使って、PVを作るつもりなのだという。
「戦いの後、少しお付き合いいただければ幸いです」
 商売人らしい素敵な笑顔で、さらっというのであった。


リプレイ本文


 某月某日、第三商店街PVの完成お披露目会が内々で行われていた。
 当然、戦闘や作成に関わった撃退士達も招かれていた。
 天風 静流(ja0373)は、今回の戦いが果たしてイメージアップになるのか疑問を呈していた。はたして、アピールになるのかどうか。その答えが今日わかるのだ。
 PV作成に積極的に参加していた或瀬院 由真(ja1687)や雫(ja1894)は、完成したと聞いてワクワクしながら会場に来ていた。
「やるなら徹底的に、ですよね。小さい子供のいる家族が、皆で観て楽しめるものにしてしまいましょう」
 作成時に由真はそんなことをいっていた。
 二人の演出がどのように生かされているのか、楽しみなのだ。
「お客さん一杯きてくれるといいねぇ」
 片桐 のどか(jb8653)は、苑恩院 杏奈(jb5779)や霧島零時(jb9234)にいいながら着席する。
 杏奈は、クラスの友達と相談して今回の戦いに望んでいた。どうすれば、人気が出るかや何をPRすればいいのか等々。うまくできていたのだろうかという、緊張が今になって再起されてきた。
 おそるおそる周りの様子をうかがっていた零時は、
「ど、どんな風になっているんでしょう」
 と体を強ばらせる。少しずつ商店街の人たちも集まってきていた。
「私でも、役に立てたのかな……?」
 志々乃 千瀬(jb9168)は、問いかけるように声を漏らす。
 千瀬は後方支援役ということで、ハンズフリーな小型カメラもタナカさんから渡されていた。その映像もどれぐらい使われているのだろうと思いつつ、開演を待つ。
 そこへ少しやつれた表情で、黒夜(jb0668)が入ってきた。
「油断してた……」
 着ぐるみが苦手なのを克服するべく、依頼に参加していたのだが……どうやら克服しきれなかったらしい。表に立っていたサンちゃんの着ぐるみたちに、相対して精神をすり減らしていた。
 しきりに案内しようとするのを丁重に断り、なんとか会場内へと足を運んだのだった。
 全員が座るのを確認すると、タナカさんは灯りを消した。
「それでは、ご覧頂きましょう」
 アナウンスが流れ、プロジェクターにカウントが表示される。
 3、2、1、0……そして第三商店街のテーマソングが流れてビデオが始まるのだった。


 第三商店街のテーマが流れきると同時に、画面に並び立つサンちゃんの姿があった。その数四体。時折、スライム状の何かを着ぐるみの隙間から出したり引っ込めたりしながら、暴れていた。
「ああ、あんなに優しかったサンちゃんが、こうも乱暴になってしまったのは」
 杏奈が、アフレコでつけたナレーションが流れる。
 筋としては、悪魔ボッタクールなるものによってサンちゃんが操られてしまったというもの。棒読みな台詞が、手作り感を上々させているが気にしてはいけない。
「悪のビームでサンちゃんを悪者にしてしまったのだー」
 杏奈の台詞が終わると同時に、軽快な戦闘BGMが流れ始める。
「不埒な悪行はそこまでですっ!」
 ババンっとカメラが向けば、太陽をバックに登場する何者かの姿があった。
 アーケードの中に入ってくれば、姿があらわになる。それらは……着ぐるみだった。画面には、アヒルをはじめとする数体の着ぐるみの姿が映し出されていた。
「天魔の手先となり、この商店街を征服しようとは言語道断!」
 由真がアヒルの着ぐるみで、台詞を決める。かけられたタスキには、「第三商店街着ぐるみ戦隊」と書かれていた。
「私たち、着ぐるみ戦隊が成敗いたします!」
 その言葉と同時に、武器を取り出したり構える着ぐるみ達。
 くまの零時は大太刀を、きつねの黒夜はワイヤーをすらりと引き抜く。
「あれは着ぐるみじゃないあれは着ぐるみじゃないあれは着ぐるみじゃ………」
 呪詛のように黒夜は呟いていたのだが、音声はカットされていた。
 うさぎの着ぐるみを着た杏奈は扇を広げ、黒夜に問いかける。
「大丈夫?」
「いや、なんでもねー」
 黒夜は自分を奮い立たせ、ワイヤーをしっかりと握りなおすのだった。
 のどかは風塵のリング、ぱんだな静流は脚甲を中で装備する。由真がランスの切っ先を向けたところで、音楽がやや風流に変わった。
 そこへ現れたのは、ねこの着ぐるみ。
「おいしかったですよ」
 と感想を述べながら蕎麦屋から出てくる。ちゃっかりと店の宣伝がテロップで流れていた。
 ねこの中身は雫だ。着流し衣装で高楊枝という、渋いねこは状況を見て
「助太刀しましょう」
 と着ぐるみ戦隊に加わった。
「うらみつらみはございやせんが……渡世の義理で、お命頂戴いたします」
 直刀を引き抜き、サンちゃん軍団に片目で睨みをきかせる。
 着ぐるみ達の後方で、フードを被った千瀬がナレーションを吹き込む。
「戦いの火蓋が今、落とされるのです」
 同時に、ぱんだが駆け出した。


 静流は駆け出すと同時に、気を練った。光纏の光が、着ぐるみ内へと集約していく。
 ただならぬ気配に、暴れていたサンちゃんたちは、静流に矛先を向けた。複数の触手や液体を放出し、ぱんだの着ぐるみへ襲いかかる。一見してシュールな絵だが、その連続攻撃を静流は気を練りながらじっと耐えていた。
 そんな静流を庇うべく、由真が駆け出す。あひるの走る姿は、どこか愛らしくも思える。
 渋キャラな雫も、シュタタッと軽快な走りを見せる。刀を構えつつ、猫っぽい叫び声をあげてみる。
「ふしゃーーーっ!」
 気合いを入れ、己の中の闘争心を駆り立てる……のだが、どこか野性味溢れていた。
 雫の叫びに複数のサンちゃんが反応を見せた。
「おっと、第三商店街裁縫のイトヤ印の糸をくらっとけ!」
 キュルルッとのびた金属糸が、サンちゃんのはみ出た体を切り刻む。糸を繰り出すきつねが画面に大きく映し出され、店の宣伝がテロップで流れる。
「丈夫な糸は、裁縫のイトヤへ!」
 千瀬は近づきながら、ナレーションを吹き入れる。
「いくぞー、たあーっ」
 そこへ相変わらず棒読みな台詞を吐きながら、うさぎな杏奈が接近する。朱雀翔扇を広げ、ブーメランのように投げつける。
「そっちは、三木さんの玩具屋さんだー。さては品揃え豊富な三木さんのお店でおもちゃをうばうつもりだなー」
 憤るようなポーズを見せて、杏奈は台詞をいうのだった。
 次々と現れる着ぐるみ戦隊に、サンちゃん軍団は
「さーん!」
 と啼き声を上げて威嚇する。
 それに対抗するようにのどかは、ペンギンにちなんで
「ぺーん!」
 と叫ぶ。
 ペンギン印の氷屋の宣伝がちゃっかりと入っていた。


 千瀬が場を切り替えるために、炸裂符を使用する。
 アクションの中に、爆発めいたものが入るとそれだけで派手に見えるものだ。
 爆発の向こう側から、千瀬のカメラに向かってスライム状の何かが飛んできた。銀色の光を自らに纏わせ、攻撃と相対させる。雪のようなアウルが画面の中を舞い散る。
「これくらい……っ」
 小さく呟き、視線を戻す。
 映し出されていたのは、壁を疾走するうさぎの姿だ。
「ヒノヤ靴店の杏奈ちゃんキックをくらえー!」
 靴屋の宣伝をちゃっかり入れつつ、繰り出された一撃はサンちゃんに避けられる。
 さらには、触手を伸ばされその四肢を絡め取られてしまう。
「う、うわー。つかまった―」
 攻撃としては、強くないからか棒読みで台詞いうほどの気力は残っていた。
 そんな彼女を助けるべく、割って入ったのが零時だ。
「仲間には手出しはさせない。覚悟しろ」
 くまの姿で大太刀を振りかざし、触手をざんばらにする。
 切っ先をサンちゃんに向けながら、ポーズを決めていた。
 一方で気を練りきった静流が、サンちゃんへと立ち向かう。
 青さめた光を放出したかと思った、次の瞬間、高速の蹴りがサンちゃんへと与えられた。
 七色の光りを帯びて繰り出される蹴りに、サンちゃんの一体は完全に吹き飛ばされた。
「七色のお菓子は、晴明堂菓子店で食べられる」
 決めセリフに宣伝を混ぜ込みつつ、静流は体をクールダウンさせる。
「あそこの刃物店のように、スパッと鋭い一撃をあげましょう」
 静流と逆側に位置する雫は、二体を自らの射程内に含めると、阿修羅曼珠を素早く抜き放つ。気合いのこもった一撃を、一体はすらりと避けるがもう一体は避けきれない。ざっくりと中身ごと斬られて、その場に一度崩れる。
 だが、そいつは反撃とばかりに触手を伸ばしてくるのだった。


「イトヤには、綿もあるんだ」
 そんな風にPRしつつ、黒夜は深い闇でサンちゃんの攻撃を包む。
 助けを借りて避けた雫は、お返しとばかりに紫焔を武器に纏わせて一撃を放つ。
 だが、くしくも刃は空を切った。別の角度から、別なサンちゃんが攻撃を試みる。咄嗟に気付いた千瀬が、銀色のアウルで触手を相殺する。
「私でも……このくらい……っ!」
 一方で、静流に向かっていくサンちゃんがいた。
 先ほどのクールダウンが終わっていない静流に、突進を試みる。後方には、ケーキ屋があった。割って入ったのは、アヒル……由真だ。ばっと両手を広げて高らかに告げる。
「この店のチーズケーキは、ふわっと溶けるような食感と程よい甘さで大人気なんです。やらせませんよ!」
 下に電話番号が表示されているが、気にしてはいけない。
 零時が、そんなサンちゃんたちを分断するように大太刀を振るう。避けられるも、集中攻撃をさせないためなので、問題は無い。と、そこで黒夜の様子がおかしいことにのどかが気付いた。
「大丈夫、かなぁ」
 視線の先で、黒夜は少しぷるぷるしていた。
 やがて、震えが納まったかと思うと近づいてくるサンちゃんたちに
「来るんじゃねーよ、ボケェ!!」
 といいながら、色とりどりの炎を撒き散らしていた。どうやら、着ぐるみだと認識してしまったらしい。やや錯乱気味に、攻撃をする黒夜だったが仲間は何とか識別していた。
 派手な炎の隙間を縫って、再び杏奈ちゃんキックが炸裂する。
「こんどこそ、どうだー!」
 見事に決まり、サンちゃんは動きを止める。だが、停止しきったわけではない。
「全世界のアヒルに代わって、お仕置きです!」
 由真は、朦朧とするサンちゃんへ最後の一撃を試みる。碧色に輝く光が刃を形成し、猛烈な渦巻きを巻き起こす。
「必殺、アヒルスラーッシュ!」
 技名とともに放たれた衝撃波は、至近距離にいたはずのサンちゃんの体をふきとばす。地面に打ち付けられ、ぴくりともしなくなったサンちゃんがそこにはいた。
「そこの、秘伝のタレが齎す芳醇な香りがウリのお煎餅を潰させはしませんっ」
 由真は、光の消えたディバインランスで、和菓子屋を指し示すのだった。


 優位に戦いが進む一方で、のどかはピンチになっていた。
 なっていたというか、ピンチの演出をしていた。
 黒夜の二発目の錯乱ファイアーワークスが炸裂したのに乗じて、のどかはよろよろと魚屋の前に姿を現した。転倒し手足をバタバタさせてみつつ、近づいていく。そこにあった青魚を一匹、着ぐるみの口の中へと放り込む。
「元気……だ、ぺーん!」
 サンちゃんがサーンと啼いたことで、設定を思い出し、慌てて啼く。
 魚屋のCMが流れる中、ペンギンのどかは力強く立ち上がる。それを見て、零時と杏奈が画面外でサンちゃんを追い詰める。零時による大太刀の一撃、杏奈の高所からの攻撃で動きが鈍る。
「ぺーーん!」
 魚パワーでその攻撃力は百倍となる! という誇大広告を千瀬のナレーションとテロップで演出する。その百倍となっているらしい力で、のどかはサンちゃんの頭を兜割りにする。
 サンちゃんはぐるりぐるりと回転した後、その場に伏した。
 残り一体となったところで、黒夜も平静さを取り戻す。着ぐるみじゃないんだと再び、自己暗示をかけていた。
 どろりとした中身が倒された着ぐるみから漏れ出ようとするのを見せないようにしつつ、最後の一体を追い詰めていく。抵抗するように暴れ回るサンちゃんは、もう着ぐるみ関係ないほどにスライム状の体をあふれ出させようとしていた。
 それを防ぐため、黒夜はワイヤーで触手を刻み、零時は大太刀を使って押さえに入る。ぶっ放されたスライム状の弾丸は、由真が間に入って防いだ。
「終わらせましょう!」
 その声に応じるように、静流が前へ出る。宙返りから放たれる一撃は、青さめた光りを纏っていた。輝かしい一撃に、弾け飛んだサンちゃんへ雫が向かう。
 紫焔を纏った刀が加速し、一閃。同時に、千瀬が炸裂符を放って爆発演出。
 サンちゃんが滅んだ只中で、雫は青く光る武器をおさめた。
 
 最後に杏奈が主導し、七体の着ぐるみがポーズを決め、千瀬がそれを撮影する。
「正義と第三商店街は、勝ーつ!!」
 声を合わせて、宣言したところでVTRは暗転するのだった。


 後片付けをするメイキング映像が流れる中、会場内では拍手が起こっていた。
「お、終わったぁ……」
「やはり、実際の映像があると迫力が違いますね」
 画面の端々に映っていたことに気付き、千瀬は赤面していた。その隣では、したり顔で雫が頷いている。やや後ろでは、着ぐるみ満載のVTRに黒夜が頬をひくつかせていた。
「これで、いいのだろうか」
 聞こえないように、静流は呟く。
「突っ込み所があるほうが話題になるかもよ〜」
 フォローするように、のどかがそう感想が述べる。
「せ、宣伝にはなっていましたよ」
「人気出るといいな」
 零時のいうとおり、時折テロップや電話番号が映し出されていた。杏奈がいうことも、また確かだ。これはPVとして配信されるのだ。もう後には引けない。
「もし、人気が出たら、第2弾とかもやるのでしょうか」
 由真はすでに先を見据えているようだった。タナカさんは感動しました、これはいけますと謎の自身に満ちていた。どうやら商店街の方々も、大きく頷いていた。
 どうやら、商店街のみなさまにはこのPVが響いたようだ。
 きもかわなサンちゃんと着ぐるみ戦隊、その戦いは……第三商店街大繁盛まで続くのだ!
 そう商店街の面々はココロに誓うのだった。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:4人

撃退士・
天風 静流(ja0373)

卒業 女 阿修羅
揺るがぬ護壁・
橘 由真(ja1687)

大学部7年148組 女 ディバインナイト
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
撃退士・
黒夜(jb0668)

高等部1年1組 女 ナイトウォーカー
持たざる人形少女・
苑恩院 杏奈(jb5779)

大学部3年256組 女 鬼道忍軍
撃退士・
片桐 のどか(jb8653)

大学部2年8組 女 鬼道忍軍
友と共に道を探す・
志々乃 千瀬(jb9168)

大学部4年322組 女 陰陽師
いにしへの都の春を彩りて・
霧島零時(jb9234)

大学部2年98組 男 ルインズブレイド