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色づいた紅葉が舞い落ちる山中。ある別荘に、4人の人影があった。礼野 智美(
ja3600)、ジェラルド&ブラックパレード(
ja9284)、月乃宮 恋音(
jb1221)、川内 日菜子(
jb7813)である。
彼女たちは拠点として、依頼者からこの別荘を借りていた。部屋は流石に片付けられていた。ただ、割れたショーケースだけが被害を物語る。
日菜子は、そんなショーケースを見ながら、
(大切なモノなら厳重に保管すればいいのに)
と思案顔。
「……やっぱり、人間くさいですよね……」
そう言ったのは恋音だった。
「罠も仕掛けているらしいからね」
答えたのは智美だった。ジェラルドも賛成するように頷く。
一般人やはぐれ撃退士なら捕縛すればいいし、ディアボロなら殲滅すればいい。
「……行きましょうかねぇ……」
恋音が先導し、捜索を開始する。
彼女たちは、別荘回りを探索する班だ。
別働隊として、猫野・宮子(
ja0024)、水城 要(
ja0355)、鴉乃宮 歌音(
ja0427)、キスカ・F(
jb7918)が山狩りに向かっていた。歌音たちの班は、山の奥まで探索に向かうため、先に向かってもらっていた。
続く彼女たちも、散策を開始する。
紅葉の映える道は、別荘地らしく、豪奢な感じがする。まるで紅絨毯をしきつめたようだ。
静寂……。時折聞こえるのは、小鳥のさえずり、虫の音。
それから、怪しい物音くらいのものだ。
がさごそという木葉の擦れ合う音だ。
明らかに人為的なそれに、日菜子が気付く。
「今、音がしたぞ」
駆け出そうとした彼女をジェラルドが制す。
「星と決まったわけじゃないよ。とりあえず、いってみようか」
「あっちの方だ」
智美が指さした方に、静かに歩み寄る。
まだ、動物の可能性もある。ほら、鹿の角が見えて……鹿頭のマッチョマンがそこにいた。蝶の羽根を生やし、タスキを掛けている。
野生の動物よろしく、そいつは恋音たちを見て固まった。
奥にも、さらに猪頭がいる。
「……あっさり、見つかりましたねぇ……」
恋音が告げると同時に、鹿男は踵を返した。
森の奥へと逃げようとする鹿男に恋音は素早く、手を向けた。鹿男の周囲に無数の手が生えて、その場に伏させる。
異常に気付いた猪男が、慌てて逃げ出そうとした。
「あ、待て!」
日菜子が急いで繁みの中に、駆け出した。
「罠が」
10フィート棒を片手に持った智美が、声をかけたが、
「きゃぁあああ」
遅かった。日菜子の姿が地中へ消えた。
「先に追いかけるよ」
そう告げて、ジェラルドは罠対策に紐と鈴を結わせた武器を突き出しながら、駆けていく。すり足気味に猪男のいた場所まで来ると、智美とともに、猪男の走った場所をなぞるように駆け出した。
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山奥はより一層、葉が色づき真っ赤に染まっていた。
猟友会のオレンジジャケットを羽織った歌音を先頭に、山の中を分け入っていく。歌音は、周囲に展開していた紫色の光を閉じて歩き始めた。
「ずれないように着いてきて」
今まで歩んできた獣道を外れ、迂回するように繁みに入る。歩きながら、その都度、歌音は指示を飛ばす。
「トラバサミ、今の位置から一二歩、右側の繁みの中」
指示を受けて、宮子が破壊する。市販されているような、普通のトラバサミだ。簡単に破壊できた。
感想が思わず出た。
「うに、罠も罠で人間臭い罠にゃね」
「宮子さんのいうとおりですね。落とし穴に丸太トラップ……タライまでありましたからね」
遠い目をしながら、要も述べる。
あまりにも人間臭いディアボロと覚しき変態。いや、ほぼ確定だろうと誰もが思っていた。
そのとき、
「……っと、みなさん」
歌音が立ち止まった。展開された青いモニタ状の光を見つめ、すっと消した。とくと見れば、繁みの中に鹿の角。ちょこちょこと蠢く蝶の羽根も見える。
「じゃあ、手はず通りに」
全員が目標を確認すると同時に、宮子と要が先陣を切った。
歌音は、紫のモニタを展開し、再び罠探知の体勢に入る。キスカは、息を潜めて、3人からやや外れていった。
「あからさまに怪しいけど、変態な天魔もいるからにゃ。とりあえずは油断せずにいくにゃよ!」
宮子が飛び出すと同時に、鹿頭が反応した。
しゃがむ姿は鹿、立てば変態、かけたタスキはディアボロの文字。そいつは宮子の姿を見留めると、逃げようとした。
宮子はネコミミと尻尾をゆらして、咄嗟にかわいいポーズを決める。
「魔法少女、マジカルみゃーこ。出陣にゃー♪」
その途端に、そいつの動きが止まる。いや、実際には止まったというよりも、宮子に過激な反応を示したというべきか。
両手をグッと握りしめ、立ち上がったまま、テンションを上げていた。
そして、テンションが上がりきったのか、そのまま倒れた。蝶の羽根をぴくつかせ、動かなくなる。
「みゃ!?」
自分がそんなに魅力的だったかにゃと呟きながら驚く宮子に、そっと要がツッコミを入れる。
「威圧してみたのですよ、宮子さん」
「……わ、わかってたにゃ」
ぷいっと横を向きながら、強がる。
「にゅ、やっぱり人間だったにゃね。それならしっかりと縛って確保にゃー!」
倒れたのならそういうことだろう、と頷き合う。
そのときだ。
「もう1人いるぞ!」
そこへ、歌音の檄が飛んだ。見れば、さらに奥に鹿頭のマッチョマンがいた。2人は急いで近づこうとする。
「要、そこから十歩先、落とし穴!」
歌音の指示を聞き、さっと跳躍する。木の上へ移ろうとしたとき、パキッという音が聞こえた。
「しまっ!?」
声を上げると同時に金盥が向こうから飛んできて、ぶち当たる。
宮子が再び、名乗りを上げて、注目を掠おうとする。しかし、そいつは逃げた。
「天魔を騙るならば、天魔として葬られるのもやむ無し、だろう?」
言うより早く、銃を構えて引き金を引く。光の弾丸が、鹿男の頭上をかすめた。鹿男は一般人ではあり得ない速度で弾丸を避けた。
「撃退士くずれか、天魔か」
苦々しく、歌音が呟く。
そのまま鹿男が疾走しようとしたところで、足元に弾丸が降ってきた。思わず急ブレーキをかける。
「止まれ」
短い警告をキスカが発する。だが、そいつは再び駆け出そうとした。
「警告はしたからな」
キスカの言葉と同時、光の弾丸がそいつの足を撃ち抜いた。鹿男はその場に倒れる。なおも逃げ出そうと這っていたが、追いついた宮子たちに押さえつけられた。
「にゅ。大人しくするのにゃ」
悪態をつきながら暴れようおとする鹿男に、歌音が容赦なく銃を向けた。動けない状態で、銃を突きつけられたら黙るしかない。
「撃たれるようなことをしているんだ。天魔と判断されたら、命を落としても仕方がないほどだ」
淡々と笑顔で述べながら、銃を突きつけていた。
そこへ罠から抜け出した要と、キスカが合流する。気絶している片方も縛り上げて、宮子が意気揚々と二人を転がしながら拠点へと戻る。
連絡をしたとき、聞こえてきたのは、
「……そちらも確保ですかー……」
という声だった。
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A班から連絡が来る少し前……。
日菜子の悲鳴が上がり、逃走する猪男をジェラルドと智美は追いかけていた。猪男は、明らかに常人離れした脚力を見せていた。
一直線に走ってくれるおかげで、実に追いやすい。10フィート棒と鈴と紐付きの刀を使うまでもない。だが、単純に相手が早い。
「……猪突猛進ですねぇ……」
恋音が漏らす。先に捕らえた一人を縛っている間に、猪男と追いかけた2人は見えなくなっていた。
智美たちは離されない距離で追っていたが、相手がスピードを上げようとするのを見て動いた。脚力にアウルを集中、一気に智美は加速する。
「ふっ!」
同時に、自作したボーラを投擲した。シュッシュと音をたてながら、ボーラは猪男の足に絡みつき、盛大にずっこけさせた。絡んだボーラを振りほどこうとしている間に、智美が追いつく。
猪男は喚きながら、拳を振るう。
「往生際の悪い……多少の怪我は自業自得だろうが」
一般人ではあり得ないが、見たところ天魔ではない。撃退士くずれだと思われた。暴れられては、縛ることもできない。
手をこまねいているうちに、ジェラルドも追いついた。
「んー」
一瞬で状況を把握し、赤黒い気を発するとドスっと刀を突き立てた。
猪男のかぶり物が破れるほどのギリギリのところだった。スパンとかぶり物が取れれば、中年男の顔があった。顔面が蒼白になるところへ、一言。
「甘いねぇ」
男は押し黙り、振りかざしていた腕を降ろした。どうやら観念したらしい。ただし、今度は黙秘権を行使するがごとく頑な表情をしていた。
とりあえず、手足を縛り、連行すると木葉や土汚れがところどころ付いた日菜子がやってきた。
「おのれ怪人共ッ! 絶対にゆ゛る゛さ゛ん゛!」
ものすごい剣幕で、捕まえた猪男を揺さぶる。
おわかり頂けただろうか……。彼女の通り抜けてきたであろう道々には、幾多もの罠の残骸があった。
日菜子に揺らされる猪男をジェラルドたちが連れてきたとき、恋歌の携帯電話が鳴らされた。
出ると、歌音が状況を報告する。
「無事、捕まえた」
「……そちらも確保ですかー……」
恋音は答えながら、一度、拠点に集まることを提案した。
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一同に介し、猪鹿蝶を並び立てる。
マスクを斬られた猪以外は、マスクが取れない仕様らしい。結果として、鹿蝶と中年男蝶という謎の構図になっている。
「いつまで黙秘を続けるつもりですか」
超笑顔で歌音が、正座する4人に問いかける。黙秘を貫くつもりなのか、口を閉ざしたまま全員が下を向いていた。
「さっさと喋った方が身のためだぞ?」
拳を突き出して、日菜子が脅してみるが効果は無い。
撃退士くずれだけでなく、一般人であるらしき鹿2匹も同じだった。
「らちがあかないですね。ここは、お願いできますか?」
「……自発的に喋ってくれる方が身のためだと思ったんですけどねぇ……」
仕方ないという感じにため息一つ吐き、恋音が前に出た。
中年男に近づき、手をかざす。感覚では、おそらく4人の中で一番、幹部っぽいからだ。中年男は、その手が何のためであるのかを悟ると暴れようとしたが、しっかりと縛られた状態では動くことかなわず。
「大人しくしていろ」
と智美に押さえられてしまった。
手を男の額に当てる。
「な、何をするだぁああ」
これには思わず、中年男も叫びをあげていた。
恋音は、男の過去3日間の行動を読み取っていく。被害者たちがディアボロだと認識するてんやわんやや、宝を持ち去ったアジト、そこで待ち構えている猪鹿蝶変態集団……。何だかんだの宴会で、芸が始まろうとした瞬間に、手を離した。
あまりにも刺激的な映像があったのか、手を離した恋音はうつろな目をしていた。
「……だ、大丈夫か」
恐る恐るキスカが問いかけると、我に返ったように恋歌が頷いた。
「……すいませんねぇ。ちょっと……」
得られた情報を整理して語る。アジトの場所、入り口の位置、そして敵の人数が把握できた。計10名程で、残りが6名。
「……撃退士っぽい人は、あと二人でしょうか……」
「完璧だ! 早速、行こうぜ」
意気揚々と日菜子が出ようとしたところで、中年男がクククと笑い声をあげた。
全員が注目する中、中年男はおもむろに
「我らは猪鹿蝶四天王の中でも」
と言い出したところで、
「面白いけど、反省してね☆」
さわやかにジェラルドが遮り、中年男を気絶させた。
厳重に縛り上げ、警察にも連絡をしておいた上で、アジトの殲滅に向かう。
アジトは山奥のコテージだった。
とはいっても、持ち主はすでにいなくなっていたのか、外観からぼろい。何年も放置されていたのがよくわかる。
「隠れ家にはうってつけだにゃ」
遠くから眺めつつ、宮子は呟く。
「ちょうど、全員いるようだね」
歌音が青い光を見つめながら、全員に告げる。さっと、紫のモニタに切り替えて全体を眺めていく。
「周囲に罠らしき罠もない。けど、油断はしないで」
光を閉じて、銃を手にする。慎重に、逃げ場をなくすように全員でコテージを囲んでいく。
「……行きましょう……」
恋音の声と共に、コテージのドアが日菜子によって蹴破られる。突入すると、見るからに怪しい鹿頭と猪頭が真剣な雰囲気で会議をしているところだった。
突然の来訪者に、ガタッと立ち上がる。
「怪人はヒーローに敵わない。それがお約束だッ!」
意気揚々と決めポーズを決め、完璧だと漏らす日菜子を無視して変態達は逃走しようと窓に近づいた。
「あ、こら」
慌てて中に入ると同時に窓をキスカやジェラルドがぶち破った。なお、先に了承を得ているので、破損に問題はない。
庭へと続くガラス扉からも、宮子と要が突入する。右往左往する変態たちの注目を集めるべく、宮子もいつものポーズと台詞を述べた。
「マジカルみゃーこ参上にゃ!」
4人は立ち止まり、宮子を見てしまった。
同時に要が威圧し、その場で萎縮させた。
「やれやれ」
残されたのは、猪頭と今までのとは違う立派な角を生やした鹿男だった。日菜子に向かって、鹿男は角を押し出し猛進する。
押さえようと構えるが、鹿男の角は鋭利な武器でもあるようだった。
「伏せて!」
指示が飛び、咄嗟に日菜子は背をかがめる。同時に、光の弾丸が頭上を通過した。角が破壊され、衝撃を受けて鹿男が飛ばされる。
一方の猪男は、接近を許したジェラルドと智美によってあっけなく、伏されていた。赤黒いオーラを纏ったジェラルドの一撃、それから智美による足への攻撃が、男の抵抗する力を奪った。
「ぐぐぐ」
声を上げながら、なおも立ち上がろうとする鹿男のみぞおちを日菜子が叩く。これで、完全に沈黙した。
グッとガッツポーズをして、日菜子はいう。
「完璧だ!」
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縛り上げた変態たちを一同に正座させ、
「さて、しっかりと説教しないとにゃ。足が痛くなっても許さないにゃよ♪」
と宮子は述べた。智美と宮子に同時に説教を受けさせられ、変態の中には少々嬉しそうなのもいたが、気のせいだろう。
日菜子と歌音は、盗品を確認するためにコテージの一室に赴いていた。
そこにあったのは、見事な金細工で作られた紅葉や銀杏の枝葉だった。その他は、別段、金庫や札束、宝石類で目立つ者はない。
「これが依頼主のかな」
枝葉を見つめながらがら、歌音が呆れた感じで口に出す。
「紅葉狩りをしながら、自分の作った紅葉も眺めたいってことか。完璧だなぁ」
皮肉っぽく日菜子も口にする。
一通り、事件の収束が見えると全員で山へ出かけた。
紅葉狩りを兼ねた、罠潰しだ。
賊から聞き出した罠の配置と歌音による探査で、的確に罠をつぶしていく。
夕方にさしかかると、紅葉がきらきらと輝く。その頃には、罠もあらかた潰し終わっていた。
「やっぱ、静かに見たいよね」
ジェラルドの一言の通り、静寂の中でしめやかにみる紅葉は格別だった。