「♪もぉ良い靴ねぇ√ぉ、Oh Show Got 2〜♪ お正月には餅食べて〜、のーどに詰まらせ死んじゃった〜。は〜や〜く〜こ〜い〜こ〜い〜。れ〜い〜きゅ〜う〜しゃ〜♪」
正月の定番ソングを口ずさみながら、ルルディ(
jb4008)はゴスロリ女装姿で神社に乗りこんだ。
「健全な青少年の育成にご協力をだよ〜」
引率の先生みたいにピピーッとホイッスルを吹いて、パーティーの行進を止まらせるルルディ。
目の前では、老婆ディアボロがうずくまって餅を滅多刺しにしている。
「餅がそんなに憎いですか、そうですか。由々しきまでにお粗末です。一切合切美しくありませんね」
優雅に番傘をくるくるさせながら、吾妹蛍千(
jb6597)は冷笑した。
余談だが、彼も女装している。
「なんつーか、この依頼……千手観音でも手に負えないぐらい、ツッコミどころ満載なんだが……」
ぼやくように呟いたのは、稲野辺鳴(
jb7725)。アウトローな外見のわりに、意外と常識派である。
「戦闘は任せてください!」
ズサッと前に出たのは、袋井雅人(
jb1469)
彼もまた、『当然』チャイナドレスで女装なう。
さすが久遠ヶ原! 安定の女装率!
ついでに言っておくと、江沢怕遊(
jb6968)はナチュラルボーン男の娘。したがって、男が5人いるにもかかわらず、一見すると鳴のハーレム状態だ。
だが、しかし。任せてくださいと言ったにもかかわらず、雅人は老婆を無視して餅を食べ始めた。しかも、ものすごい食いっぷりだ。まさに、餅は飲み物と言わんばかり。
が、実際のところ餅は飲み物ではない。
「んがんぐ……ッ!」
ああ大変、雅人の喉に、詰まる餅(俳句)
いきなりMNT重体かと思いきや、さにあらず! これぞ雅人の狙い!
餅が喉に詰まったということは、すなわちバステ! ここで満を持してペインズアンロック発動! 生命力の10%を代償に、バステ回復! 吐き出された餅で老婆を攻撃だ! これぞナイウォならではの、季節限定必殺技『即席お餅キャノン』!
──と言いたいところだが、ちょっと待て。雅人、生命力1だぞ!? 発動したら死ぬんじゃないか!? あと『季節限定』って何だ!? 餅は一年中食えるぞ!?
でもまぁ、アンロックは発動したことにしよう。生命力1で発動できるのか疑問だが、秋姫・フローズン(
jb1390)が応急手当してくれたんだ。
とはいえ吐き出されたのはただの餅なので、老婆にダメージを与えることはできなかった。残念!
ここでおさらいしよう。天魔にはV兵器しか通じない! 餅で天魔が倒せるなら、人類はこんな苦労してないぞ! 次はV餅を持ってくるんだ!
「く……っ、体を張ったネタが……!」
がくりと膝をつく雅人。
「無理は禁物ですよぉ……」
月乃宮恋音(
jb1221)が、雅人の背中を撫でた。
「あとはボクにおまかせ〜。行けっ、フィロ君!」
ルルディはヒリュウを召喚して、けしかけた。
「……援護射撃、行きます」
秋姫がクロスボウを撃ち放つ。
「いてこましたるでー!」
ミセスダイナマイトボディー(
jb1529)も、ファイアワークスをぶっぱなした。
ほかの人は戦闘プレイングなしだったので、鼻をほじって眺めていたことにしよう。
「お餅を焼く感じで、おばあさんを攻撃だよ!」
無邪気に微笑みながら、火炎放射器で餅ごと老婆を火炙りにするルルディ。サツバツ!
「アイェェェ……!」
あんまりいたぶるとアレなので、老婆はこんがりローストされて昇天しましたとさ。めでたしめでたし。
「うぅ……かわいそうに……」
率先してサツガイしておきながら、ルルディは涙を流していた。
シャベルで穴を掘り、自ら手にかけた相手を丁重に埋葬する。
「こんなひどい目にあうなんて、かわいそうだよ……ご冥福をだよおお……」
ガチ泣きしながら、穴を埋めるルルディ。
最後に割り箸を取り出すと、彼女は『お餅のお墓』と書いて穴に突き刺すのだった。
以上、撃退完了!
というわけで。天魔の死骸はすぐに搬出され、餅つき大会が再開された。
だれか一人ぐらい杵で仲間を殴って病院送りにするかと思ったが、特にそういうこともなく、フツーに餅が供される。
否、フツーではない。割烹着に着替えてトランス状態に入った恋音は完全無欠なお料理マシンと化しており、出てくる餅料理はいずれも絶品!
お品書きは以下のとおり。
・善哉
・磯辺餅
・胡桃餅
・きなこ餅
・からみ餅
・ずんだ餅
・黒ごま餅
・みぞれ鍋
・あんころ餅
・餅入りキムチ鍋
・みたらしあんかけ
・バター醤油チーズ餅
・トマトとバジルの餅ピザ
・ネギとジャコのピリ辛餅ピザ
・ベーコンとバター醤油の餅ピザ
……字数の制限上、そのあたりで勘弁を。
「おー、お餅、お餅、いっぱい食べるのです♪」
怕遊は、お餅スイーツを作っていた。
チョコレートを餅で包んで焼いた、生チョコ餅。
イチゴと餡子を餅で包んだ、イチゴ大福。
餅とホットケーキミックスを混ぜて焼き上げた、もちもちパンケーキ。
スポンジケーキを季節の果物や生クリームで飾りつけた、いわゆるショートケーキ。餅など一片も入ってないが、とにかく理由をこじつけて甘い物が食べるのが、怕遊の目的なのだ。
「わぁー、ケーキだぁー!」
餅に飽きた子供たちが集まってくる。
「おー、見つかってしまったのですー」
子供たちに取られまいと、一心不乱にスイーツを食べる怕遊。
この一角だけ、餅つき大会の様相を呈してない。
まぁ、餅よりケーキのほうがいいもんな。無理もない。
一方、秋姫は黙々と餅料理を作っていた。
砂糖醤油を絡めてパリパリの海苔で巻いた、磯辺焼き。
大根おろしたっぷりの、からみ餅。
ほどよい甘味の、きな粉餅
甘さたっぷり(それでいてくどくない!)あんころ餅。
どれも定番だが、ゆえに人気は高い。
それだけでなく、秋姫はきりたんぽまで焼いていた。
材料は無論あきたこまち。半殺しにした米を割り箸に固めて火で炙り、赤味噌を塗ればできあがり。
「これでよし……ですね……」
だれにともなく呟く秋姫。
『……うまそう……だな……』
応えたのは、彼女の中に潜む別人格、修羅姫だ。
「あとで……召し上がりますか……?」
『……うむ……そうさせてもらおう……』
そんな会話をしながらも、淡々ときりたんぽを焼き続ける秋姫であった。
──という具合に秋姫と恋音はフル稼働で餅料理を作っていたのだが、それを上回る勢いでミセスが食べまくっていた。
「ああ、恋音と秋姫のこさえた料理……なんてうまいんやろ……」
あんころ餅を頬張り、餅ピザを噛み千切り、きりたんぽを一本食いするミセス。
いまの彼女は標準体型だが、このまま行けば即増量だ。
「やっぱ、こんな痩せっぽっちな体おちつかん。うち産まれた時から、ふくよか体型なんやから。この、昔の姿も気に入ってるんやけどな……やっぱり今の姿に戻らな……」
よくわからないことを言いつつ、ミセスは餅を食べまくる。
「このカロリーやったら、簡単に肥満化……いや、メタボルフォーゼできるで……。……おお、そろそろやな。瑞姫・イェーガー、メタボルフォォォーゼ!」
謎の光がミセスの全身をつつんで、みるみるうちに体が肥満化した。
すらりとした脚は桜島大根に。腰のくびれはなくなり、腹は三段に分かれ、尻と胸の肉がはちきれて、あごはなくなり、頬はパツンパツンに。
これぞ魔法少女ミセス瑞姫・イェーガーの変身技メタボルフォーゼ!
「はぁ、はぁ……ミセスダイナマイトボディー完全復活やで! ええやろ、秋姫。このもちもちした肌。大きくなった胸と尻。そして、この三段腹!」
得意げに言うと、ミセスは磯辺餅を口に放りこんだ。
その直後、顔色が急変。ミセスが悶絶しはじめた。
「んぐっ……! んがんぐ……も゛ぢがずま゛だ……!」
「……こんなこともあろうかと……」
秋姫が掃除機を取り出した。大損のサイクロン掃除機だ。
「荒療治に……なってしまいますが……」
掃除機のノズルをミセスの口に突っ込むと、秋姫はスイッチを入れた。
「ふぐぐ……っ!」
苦しむミセス。
「とれませんね……。吸引力が弱いのでしょうか……。吸引力が変わらないというのは誇大広告……?」
秋姫が首をひねった。
そこへ、恋音が駆けつける。
「お餅が詰まったのですかぁ……? では、背中を叩いてみましょう……」
パンパンと、物理攻撃73で背中を叩く恋音。
だが、餅は出てこない。
「やむをえません……最後の手段を……」
めったに使われない恋音の炸裂掌が、魔法攻撃491でミセスの背中に叩きこまれた。
ドバァァァン!!
「……!?」
ふつうなら「アバーッ!」と叫んで倒れるところだが、餅が喉に詰まっていたためミセスは無言でブッ倒れた。
「……救急車を……呼びましょう」
秋姫が言い、恋音はうなずいた。
つーか、これだけ担当してて初めてお目にかかりましたよ、恋音の炸裂掌。しかも味方殺しに使うとは。
「ぅぐ……っ!?」
衝撃的な光景を目の当たりにして、怕遊も餅を詰まらせてしまった。
しかも、一粒700円というデルレイッチの最高級品をくるんだ贅沢チョコ餅。飲みこまずには死ねない!
「今度は……吸い取ります……」
秋姫が大損掃除機をかかえて走り寄った。
このブランド名は、正直どうかと思う。……あ、掃除機と正直をかけた駄洒落なんで。わかりますね?
「異物を確認……ノズルセット……スイッチオン……」
サイクロンがうなりを上げ、怕遊の喉を痛めつけた。
「んぐぐぅぅ……!」
涙目で悶える怕遊。
冷静にこの光景を見ると、なにやらエロい。だって、掃除機のノズルが触手だったと思ってみてくれ。エロすぎるだろ。
まぁそれはともかく、ミセスのときと同様に餅は吸い取れなかった。触手だったら取れたのに。
「今度こそ……吐き出させるのですよぉ……」
恋音は振り袖をたすき掛けにすると、気合い十分に炸裂掌を起動した。
ドゴォォォン!
砲弾が炸裂するような音を立てて、派手に吹っ飛ぶ怕遊。
もちろん餅はとれなかった。
こうして、意図せぬ駄洒落とともに、怕遊も帰らぬ人となったのである。
「……救急車を……もう一台、呼びましょう……」
秋姫が言い、恋音は同意した。
そのころ。ルルディはお餅のお墓の前で、フィロと一緒に餅を食べていた。
「かわいそうな餅さんのためにボクができることは、こうして餅を餅として食べてあげることだけ……悲しいね……」
シリアスに語るルルディの横では、フィロが食い意地を張って餅をモグモグしていた。
「きゅ……っ!」
不意に高い声をあげるフィロ。
餅が詰まったのだ。
「フィ、フィロ君!? た、助けなきゃ!」
あわてて助けようとした、そのとき。飲みこんだ餅がルルディの喉に!
「んがんぐ……っ!」
喉をかきむしって崩れるルルディ。
まさか、焼き殺された餅の呪いか!?
「二度あることは三度ある……今度こそ汚名返上です……」
掃除機片手に、秋姫がやってきた。
そして、ルルディの口に触手を……じゃなくてノズルを挿入。スイッチオン!
「んぐぅぅ……っ!」
ほら、やっぱりエロいって。
んで、やっぱり吸い取れない。まるで駄目だな、この掃除機。
「ダアトの誇りにかけて……今度こそ餅を撃退ですよぉ……」
恋音は瞬間移動で駆けつけると、渾身の魔力で炸裂掌をブッこんだ。
チュドォォォン!
背中を反り返らせて、20mぐらい吹っ飛ぶルルディ。
もちろん餅は(略
こうしてルルディも(略
「……救急車を……もう一台たのみましょう」
秋姫が言い、恋音は「出前感覚ですねぇ……」と応えながらうなずいた。
そんな一連の騒動をよそに、鳴と蛍千は真剣な議論をかさねていた。
「ゆで玉子は固ゆでだろうがよ! すくなくとも俺の家は固ゆで派だった! ついでに、おまえの親父さんと弟もな!」
「固ゆで玉子は 口の中の水分がなくなってしまいます。あんなパサパサの玉子を好んで食べるなんて、理解できません」
「おまえの口の中の事情なんか知ったことか! あんなドロドロの玉子を食べるほうが理解できねぇよ!」
えーと……? これ、餅つき大会だよね? ゆで玉子の大会じゃないよね? なにをしてるの、キミたち。
「あのトロッとした黄身の風味がわからないんですか? ガチガチに固めた黄身なんて、チョークみたいなものですよ。せっかくの玉子をわざわざマズくして食べるなんて……本当に理解しがたい」
「てめえ! バンドーさんに謝れ! あの人はガチガチの固ゆで派なんだぞ! 日本で一番、いや世界で一番ゆで玉子を愛してる人が固ゆでなんだ! 結論は出てるだろうが!」
激昂しながら七輪で餅を焼く鳴。
蛍千も、七輪をはさんで餅をひっくりかえしている。
「たった一人の意見を多数派の代表みたいに扱うのは、詐欺の常套手段ですよ。アンケートをとればわかります。半熟派が圧倒的多数だということが」
「俺を詐欺師呼ばわりしやがったな!?」
砂糖醤油の磯辺餅をかじりながら、鳴は立ち上がった。ここが神社の境内でなければ、確実に殴りかかっているところだ。
「そんな風に怒るのは、私の言葉が図星だったからでしょう?」
「ぐぬぬ……、ぬ……んぐっ!?」
鳴は急に喉をおさえて倒れた。
なんということだ! 餅が! 喉に!
あ、言わなくてもわかってますね。
「鳴! 大丈夫ですか!? 私がすぐにトドメを!」
「んぐっ! ごふっ! げふっ!」
むせかえりながら、鳴は右手を突き出して蛍千を制した。
「大丈夫、まかせてください! 三秒とかからずラクにして差し上げます! ちょっと喉をサクッと!」
蛍千が番傘の仕込み刀を抜き放った。これで気道を切開して、呼吸を確保しようというのだ。
「んぐぐ……っ!」
顔を真っ赤にして、後ろに倒れる鳴。
そこへ、蛍千が悪魔の笑顔で斬りかかった。
嗚呼、さらば鳴!
と思いきや、斬られる寸前で鳴が蛍千の腕を止めていた。
「あ、もちろん冗談ですよ!? 私が鳴君に力で勝てるわけないですよー!」
腹黒い笑みを浮かべる蛍千。
その直後、鳴の腕から力が抜けた。呼吸困難で意識を失ったのだ。
と同時に、押さえられていた蛍千の腕が振り下ろされて──
ズバシュゥゥゥ!
境内に、血の雨が降った。
こうして、4人の撃退士が餅を喉に詰まらせたうえ理不尽な暴行を受けて病院送りになった。
「ともあれ一件落着です。さぁ、お参りでもして帰りましょう」
重体者などいなかったかのように平然と言いだしたのは、雅人だ。彼自身が重体だというのに、見上げた根性である。
「あまり無理をしないように……ですよぉ……」
心配げに言う恋音だが、参拝を止める気はないらしい。
「……この掃除機……お祓いしてもらいますね……」
3人の血を吸って赤く染まった掃除機を手に、秋姫が言った。
のちに『撃退士殺し(ブレイカースレイヤー)』と呼ばれる殺人掃除機の、これがデビュー戦であった。