【凧揚げ】
正月の遊びにも色々あるが、やはり目玉は凧揚げだろう。
そんなわけで、常に王道を歩む歌音テンペスト(
jb5186)は凧揚げに参戦していた。
「凧を揚げるにはコツがある!」
フライヤーを前に、歌音は語りだした。
「揚げもので重要なのは、まず衣。卵を加えた冷水で薄力粉をざっくりと混ぜるのがコツ。混ぜすぎたらダメ。薄力粉は、もちろん国産。油は揚げ物用として最高峰と言われる、太白ごま油。油の温度は180度」
言ってることは正しいが、やってることはお花畑だ。
どうやら正月ボケ中の歌音は、このイベントを粉モン屋台バトルと間違えてるらしい。
いや、あなた。そのイベにも参加してたでしょ。こんな短い周期で第二回とかやりませんから!
「衣を付けた凧は、油の温度を保つため少しずつ投入。カラッと揚がったら、天つゆか塩でどうぞ!」
当然だが、だれも食べに来ない。
「は……っ! もしかしてみんな、外見で判断してる? たしかに見た目は凧だけど、食べたらおいしいんだから! ほら、そこのJCたち! カモン!」
カモンと言いながら、揚げ凧を持って女子中学生の群れに突撃する歌音。
悲鳴をあげて逃げるJC。
追いかける、揚げ凧女。
……うん、じつに正月らしい光景だ。お医者さんはまだですか。
そんな騒ぎをよそに、日下部司(
jb5638)は小等部の学生たちに凧揚げを教えていた。
先日まで学園全体で行われていたアルティメット凧揚げは、アウルを使う反則凧揚げだったので撃退士なら誰でも揚げることができたが、今日の凧揚げはごく一般的なもの。ちゃんと走って風に乗せないと、うまく揚がらない。
「俺が凧を持って一緒に走るから、風上に向かって走るんだ」
うまく凧を揚げられない子供に、司が話しかけた。
これでもう、10人目ぐらいだ。
男の子は「うん」と答えて走りだすが、どうにもうまくいかない。
「よし、もう一回やろう。今度は紐の角度に注意してみてね。安い凧だし、壊れたら修理すれば大丈夫だから。失敗は気にしないで、どんどんやろう!」
「うん!」
男の子は再び走りだし、司も凧を持って追いかけた。
やればわかるが、この走りかたは結構つかれる。
しかし苦労の甲斐あって、今回はうまく揚がった。
「やった、できた!」
男の子の手元から、凧糸がするする出てゆく。
「あわてないで。糸の張りに気をつけながら、徐々に高度を上げていこう」
「はーい」
風に乗って、凧はどんどん揚がっていく。
生まれて初めて凧揚げをする少年の顔は楽しげで、それを見つめる司も満面の笑顔だった。
そこから少し離れたところで、龍崎海(
ja0565)も凧揚げを教えていた。
先日のアルティメット大会で凧を揚げて揚げて揚げまくった海は、もはや凧揚げマスターと言って差し支えない凧揚げ師! こんなノーマル凧揚げなど、児戯に等しい。……まぁ実際、子供の遊びなんだけど。
(今までの人生で凧揚げした時間すべてを超えるほど、この正月は凧を揚げた。いくらでも教えてやる)
そんな海のまわりは、子供でいっぱいだった。特殊な性癖の持ち主なら浮かれまくる状況だが、海にそういう趣味はないので淡々と指導を続ける。なんともったいない。
海の教えかたは上手で、苦戦していた子供たちも次々と凧を揚げていく。
はしゃぎまわる子供たちの姿は、とても平和で、正月的だ。
(いやぁ、凧揚げってのはやっぱりこうだよね。精根尽き果てるまでやるもんじゃない)
うんうんと一人うなずく海。
ふと彼は思う。あの外気圏まで揚がった凧は、今どうなっているのだろうか──
「凧は本来、忍者が偵察用に使った飛行器具なんだよ。けっして、お正月に揚げてキャッキャするためのものじゃない!」
ビシッと断言したのは、鬼道忍軍の下妻ユーカリ(
ja0593)。ザ・ニンジャとして、このイベントは凧の正しい使いかたを周知させ、日本の伝統を守る絶好の機会だ。
というわけで、ユーカリは大凧を背中にくくりつけている。
「そこの少年少女たち。だまされたと思って、この紐を持って走ってみて。わたしも一緒に走るからっ!」
「いいけど、本当に揚がるの?」
子供たちがざわめいた。
「やればわかるから! さぁ!」
ゴリ押しするユーカリ。
しかたなくという感じで子供が集まってきて、紐を手に取る。
「よし、いまだ!」
ユーカリの掛け声で、子供たちは一斉に走りだした。
同時にユーカリも走る。背中の凧に受ける風圧がものすごい。
「うぉりゅあああっ!」
気合いは十分だったが、トラックを10周しても凧が揚がる気配はなかった。
子供たちから抗議の声が上がる。
「……えっ? 重すぎて飛ばない? ちょっと、ちょっと待って! わたしそんなおでぶじゃないよ? じゃあ今度は、木の上からチャレンジしてみるから! 今度こそうまくいくよ!」
根拠のない自信をもとに、キラリと微笑むユーカリ。
数分後、高さ10mの木から転落した彼女は、保健室に運ばれた。
そのころ。シエル・ウェスト(
jb6351)もまた、命がけの凧揚げに挑もうとしていた。
ユーカリと同じく背中に巨大凧を背負った彼女は、校舎の屋上で仁王立ちになっている。
そう、この凧で空に舞い上がろうというのだ! あわよくば大気圏外まで! 宇宙空間まで! 学園生全員の力でも達成できなかった偉業を、彼女は自分ひとりで成功させようというのだ! 不可能だからやめておけ!
「風はやや強め……凧揚げには丁度良いのでしょうか?」
真剣な表情で風を読むシエル。
だが無論、凧は一人では揚げられない。
いや、ふつうの凧は一人でも揚げられるのだが。シエルの場合、自分が凧なので。ちょっと無理。
「準備はいいですかなのー!」
校舎の下から、雪城美紅(
jb8508)の声が届いた。
その手には、シエルの凧がつながった糸を持っている。
嗚呼、どうしてこんな自殺プレイに付き合ってしまった!?
いや、まさか率先してサツガイしようというのか!? かわいい顔して、おそろしい子!
「いつでもガッテンでありますよー!」
シエルが応えた。
「ではいきますよなのー!」
糸を引っ張って走りだす美紅。
同時にシエルもダッシュ!
「飛べる! 私は飛べる! アイキャンフライ!」
うん、まぁ、闇の翼を使えばフツーに飛べますよね。
当然のようにどこかのユーカリさんと同じ結末を迎えるシエル──かと思いきや、タイミングよく吹いてきた風に乗って、シエルの凧はフワリと舞い上がった。
「わあ、うまく揚がったですなの!」
「よし、このまま大気圏突破ですよ!」
しかし、そのとき。突風が吹いて、美紅が吹き飛ばされた。
そのまま、凧に吊り上げられるように宙へ舞ってしまう。体重17kgでは無理もない。
「はわわぁぁぁなのぉぉぉ!」
「これはまずいですね。落ちたら大ケガです」
眼下の状況を冷静に判断して、シエルは凧を捨てた。
そのまま垂直に落下して、美紅をキャッチ。闇の翼を広げて、華麗に救出──
「かわいい後輩を怪我させるわけには……!」
グシャアアアッ!
闇の翼を活性化してなかったシエルは、脳天から地面へ激突した。
もうもうと立ちこめる土煙。
その煙が晴れたとき、ひとつのオブジェが現れた。
それは、逆さまに地面へ突き刺さったシエルの姿。おお、これぞまさに犬神家のアレ!
「きゃああああ! シエルのお姉ちゃんがすごいポーズなの!?」
美紅は顔を真っ赤にして、シエルの両脚を引っ張った。
なんせ、シエルはスカートなので。おパンツ様が丸見えだ。
じつに惜しい! そういうときはパンツの色を明記してください! 書いてあればMVPだったのに!
【羽根つき】
「……ん。タコの。唐揚げを。食しに。きた」
最上憐(
jb1522)は、なんの迷いもなく卍に向かって手を出した。
「いや、食いものイベントじゃねぇぞコレ」
「……ん。……ん? んん?」
「正月の遊びをするんだよ、今日は」
「……ん。わかった。了解。合点承知。私は。羽根つきを。する」
くるっと背を向けて、羽根つき会場に行く憐。
卍がホッと息をつく。
「めずらしくおとなしいな。まぁテキトーに遊んでいけや」
そう言って立ち去ろうとした卍だが、直後その背中に爆竹がブチこまれた。
ズガァァン!
「グワーッ!?」
逆エビ状態で吹っ飛ぶ卍。
小型のダイナマイト並みの爆発力だ。
「……ん。手が。すべった。これは。いわゆる。不幸な。事故。アクシデント」
「言っただろ! 爆竹投げんなって!」
「……ん。大丈夫。投げてない。羽子板で。打っただけ」
「よけい悪いわ!」
「……ん。チョッパーを。倒せば。焼きそばパンとか。落としそう」
「俺はRPGのモンスターか!? レアでVギターとか落とすのか!?」
「……ん。倒されたくなければ。焼きそばパンを。出して。ギターは。いらない。無用」
「いいだろう。おまえにはコイツをくれてやる!」
卍が取り出したのは、カレー味のガムだった。
「ずっとコレを噛んでろ! 飲みこむんじゃねーぞ? ガムは飲み物じゃねーからな?」
必死の形相でガムを押しつけると、卍は逃げていった。
「へえ、昔遊びってやつかしら? ……でも、爆竹? なんか物騒な物まで用意してんのね」
会場を眺めながら、シグネ=リンドベリ(
jb8023)は呟いた。
「アタシは羽根つきでもしようかしら。よく、おばあちゃんちでお正月にやったのよ。懐かしいわァ」
着物姿で羽子板を手に取りながら、ふふっと笑うシグネ。
そこへ、自称ニンジャの立花螢(
ja0706)がやってきた。こちらも、正月らしく着物姿だ。
「はっはっはー。懐かしいものばかりでござるな。よーし、羽根つきで勝負でござる! 当然、羽根を落とした者は墨で落書きでござるよ。さぁ羽根つきバトルロワイヤル開始でござる!」
鼻息荒く羽子板を振りかざす螢。
しかし、吾妹蛍千(
jb6597)が冷静に言う。
「僭越ながら、皆様に正しい羽根つきをお教えしましょう」
当然のように振り袖を着た蛍千。日差しを遮る番傘が、よく似合う。
「我ながら日本人らしくない身なりですが、これでも私は関東の老舗菓子店の娘ですからねぇ。元日の遊戯は幼少より嗜んでおりました。……さて、羽根つきとは室町時代に中国より伝わり……ああ、ここ必要ないですか、そうですか」
コホンと咳払いすると、彼女……もとい彼は言葉をつなげた。
「要は羽を板で打ち返すんですよ。落としたら、墨で顔に落書きされるのです。……が、しかし! かつて江戸時代の芸役者や遊女など顔が商売道具の者には、顔ではなく腕に落書きしたのです。そこから、美人に限り腕に落書きする風習が生まれたのです! 本当ですよ、私は嘘つかない女ですよ!」
ぬけぬけと嘘をつき、堂々と自らを美形だとアピールする蛍千。
つーか、おまえは男だろ! そんなんだから、紅組と白組をまちがえるんだ!
──というわけでMS以外ツッコミを入れる者はいなかったので、問題なく試合が始まった。
4人同時プレイの、サバイバル羽根つきだ!
「では私から行くぞ! 覇熱気(はねつき)開始だ!」
ラテン・ロロウス(
jb5646)が、右手の羽子板を天高く掲げた。
ちなみに彼は人界知らずの堕天使なので、羽根つきのルールなど知らない。そこでいつものように民名出版社の本を読んで勉強してきた次第だ。書かれていたのは、以下のようなルール。
1 全身に爆竹を装備する。
2 頭から油をかぶり、羽根にヤニを塗って火をつける。
3 死合開始。
4 ミスると火達磨になり、爆竹が爆発して黒こげに。
5 だれかがダウンするか、心が折れた時点で決着。
──というわけで、ラテンだけが全身に爆竹をくくりつけ、油でヌルヌルになっている。
あまりに異様すぎて、だれもツッこめない。MSでさえ、どこからツッこめばいいのかわからないほどだ。これぞラテンの真骨頂!
「羽根つき……それは地上最速の球技!」
ラテンは羽根を投げ上げると、羽子板を振りかぶって強烈なスピンサーブを──
打とうとした瞬間。油で足が滑り、ツルッと転倒。油と爆竹に引火して、盛大に爆発炎上した。
ちゅどぉぉぉん!
「……では、一名脱落ということで。ゲームをつづけましょう」
なにごともなかったかのように蛍千が言い、シグネと螢もうなずいた。人外の行動には付き合ってられない。
羽根を持ちながら、シグネは言う。
「羽根つきで負けた人は、今年1年間彼氏ができないっていうジンクスがあるんですってェ。怖いわねェ?」
バシィッ!
プレッシャーをかけると同時に、シグネの殺人サーブが放たれた。
蛍千の前に、亜音速の羽根が迫る。
「彼氏など無用です!」
ガキィン!
金属音とともに、羽根という名の弾丸が打ち返される。狙いは螢だ。
「打ち合いの競争も楽しいでござるが、長く打ち続けるのも楽しいでござるな!」
バキィン!
音速を超えた羽根が、衝撃波をともなってシグネに襲いかかる。
「羽根つきは腕の運動になるから、胸が大きくなるらしいわよォ!」
ゴキィン!
さらに加速された羽根が、ヤバイスゴイデタラメな速度で蛍千の胸元へ!
「おっぱい上等ォ!」
ゴギャアン!
こうして、乙女たちのプライドを賭けた戦いは、いつ果てるともなく続くのであった。
【お手玉】
外の喧噪と裏腹に、屋内は静かだった。
お手玉スペースには、着物を着た女子がいっぱいだ。
そこへ、天王寺伊邪夜(
jb8000)がやってきた。
もちろん着物姿だ。飼い猫のヴァロムも、和装で着飾っている。
「さて、衣装もばっちりで頑張るんだよ! 行くよ、ヴァロム!」
意気込んでお手玉をはじめる伊邪夜。
縦回し、おひとつ、投げ玉、3つ回し……と、次から次へ技を披露していく。
「お手玉は得意なんだよー♪」
最後に四つ回しを見せると、やりきった顔で伊邪夜は微笑んだ。
そのとき。周囲の女子たちがざわめいた。
というのも、女子ばかりの空間に稲野辺鳴(
jb7725)が堂々と乗りこんできたためだ。しかも、どういうつもりか般若の面をかぶっている。まるで、モモタロ=ザムライだ。
引き潮のように退いていく女の子たちを無視して、鳴は持参したお手玉を取り出す。
そして、歌を口ずさみながらお手玉を投げ始めた。
「ひとつ、人の世の生き血をすすり……」
歌は2ビート、お手玉は8ビートで投げられている。
これぞ、変則倍速お手玉四つ回し! やってる本人は得意げだが、まるで似合ってない!
というか、なぜお手玉!? 爆竹かかえて蛍千を襲撃してくれよ! 汁粉は主食とか、玉子は固ゆでとか、目玉焼きには醤油とか、そういうことをわめきながら! なんのために爆竹を用意したと思ってんだ! お手玉なんか女子供にやらせておけ!
だが、そんなMSの叫びは鳴に届かない。
あろうことか、伊邪夜に誘われて、つき玉をはじめる始末だ。
「がんばってみるんだよ、一緒にレッツトライなんだよー♪」
「いいぜ。かかってこい!」
「いくんだよー♪」
仲良くお手玉を投げ合う、伊邪夜と鳴。
飛び交うお手玉を見つめるヴァロムも、たのしげだ。
まったく! 正月早々ほのぼのしやがって! 羨ましい!
【双六】
藤沢薊(
ja8947)、月乃宮恋音(
jb1221)、袋井雅人(
jb1469)の3名は、死のゲームを始めようとしていた。
彼らの手にあるのは、撃退士専用サバイバル双六! しかも、肉体ではなく精神を痛めつけるSM双六だ!
「本当に……やるのですかぁ……?」
始める前から、恋音の声は震えていた。
桜色の振り袖を着た彼女は、胸元がドンジャラ……デンジャラス!
「だ、大丈夫。所詮ゲームですよ!」
応じる薊も、心なしか震えている。
「私は既に準備済みですよ! いざ勝負!」
なにも失うものがない雅人は、えらく強気だ。
そしてジャンケンの結果、一番手は薊に。
「変なマス踏みませんようにっ!」
ダイスは6。
「ラッキー♪」と笑顔でコマを進めた薊は、マスの指示を見て絶句した。
『右隣の人とキスする(10秒以上)』
「……ッ!?」
「いきなり地雷ですか……。さいわい私たちは男同士。問題ありません」
キリッと言い放つ雅人。
「問題ありすぎですよ!?」
「では棄権しますか?」
「く……っ。ごめんなさい、月さん!」
薊は意を決すると、雅人の唇にキスした。
この状態で10秒間は、なかなかの試練だ。
終わったあと雅人はわりと平気な顔だが、薊は疲れ果てている。
「まぁ……これはゲームですのでぇ……お気になさらず……」
笑顔でサイコロを振る恋音。
マスの指示は『猫耳スク水に着替えて四つん這いになり、語尾にニャーをつける』
「あのぉ……そのような衣装はどこにもぉ……」
「ここにあります! あと、ニャーを忘れないように!」
雅人がスクール水着を見せつけた。
この双六セットのオプションは普通じゃない。
「恥ずかしいですぅ……にゃぁぁ……」
きっちりスク水に着替えて四つん這いになる恋音。おっぱいがやっばい。語尾のニャーも、地味に精神を削る。
「どんまい☆ミ」
素敵な笑顔で言いながら、薊は『ドンマイ』と書かれた看板を立てた。
「さて、私の番ですね」
雅人が止まったマスは『男は女装する。女はパンツを脱いで盤面に置く』
「楽勝ですね!」
そう、彼にとって女装はお手のもの。慣れた動作でチャイナドレスに変身だ。
「でも女の子だったら『パンツを脱いで盤面に』ですよ……」と、薊。
「ただ『パンツを脱ぐ』ではないところが深いですね」
雅人が言ったとき、背後から声をかける者がいた。
「だって、ただ脱いでも面白くないでしょ?」
3人が振り返ると、そこに佐渡乃明日羽が立っていた。
「おぉ……新年おめでとうございますぅ……」
恋音があいさつして、薊と雅人も続いた。
「うん、おめでとうね? ところで、それ作ったのは私なの。参加してもいい? いいよね?」
答えも聞かずに飛び入り参加する明日羽。手にはイカサマダイスを持っている。
正月早々、蔵倫がヤバイ!
【かるた】
「ふむ……競技カルタとは奥の深いものですね」
ルールブックを読み終えて、黒井明斗(
jb0525)は眼鏡をクイッと上げた。
会場には30人ほどいるが、あまり真剣にやっている者はいない。
「卍さん、練習相手になってください」
「いいぜ」
明斗と卍は向かいあって座り、モブ女子が読み上げ役になった。
「はじめましょう」
言うや否や、明斗は光纏した。
本気だ。真剣に勝ちに行っている。
それを見て、卍も迷わず光纏。
撃退士かるたバトル開始だ!
読み上げモブ子が札を読む。
「ちは」
卍と明斗の右手が、雷光のように交差した。
ビシィィッ!
はじかれた札が10mほど吹っ飛んで、通りすがりの学生の頭に突き刺さる。
札を取ったのは卍だ。
「やりますね」と、明斗。
「ゲームなら任せとけ」
にやりと笑いあう二人。
次の札が読まれる。
「せ」
バシュゥゥッ!
明斗の右手がうなり、札をはじきとばした。
「グワーッ!」
またしても、罪のない学生の頭に札が!
「やるな」
「負けませんよ」
そして、次の札。
「む」
ズバァァッ!
「アイエエエ!」
札が! だれかの頭に!
──こうして、十数分後。試合は卍の勝利で終わった。
冷静になって見てみれば、周囲は死屍累々。
「皆さん、はしゃぐのもほどほどに、ですよ」
眼鏡をクイッとしながら、冷静に告げる明斗であった。
そんな惨劇の中、陽波透次(
ja0280)は会場の隅っこで一人カルタに興じていた。
自分で上の句を読み、自分で下の句を取るという、究極のエクストリームスポーツだ。
爆竹で襲われないよう、壁を背にして遁甲で気配を消している。読み上げも黙読なので、はたから見ると自分で並べた札を意味もなく弾き飛ばしているようにしか見えない。事情を知らない人が見たら、完全に頭がイっちゃってる人だ。猫の着ぐるみ姿が、そのイメージに拍車をかけている。
ただ、間違えてはいけない。透次は、ぼっちではないのだ。べつに、皆の輪に入れなくてしょぼくれているわけではない。居場所がなくて隅っこにいるわけでもない。彼は、ただ純粋に、カルタをたのしみに来ただけなのだ。この競技に、対戦相手など無用!
だから、ときどき嗚咽のようなものが聞こえたとしても、それは気のせい。──そう、気のせいだ!
透次は黙々と一人カルタを続ける。
まるで機械のように、正確に、テンポよく。
あたかも、それだけが自らの存在意義であるかのように──
【爆竹】
「東洋では新年を花火で祝うようですね。知りませんでした。せっかくですので、今日は色々と用意してきましたよ」
エイルズレトラ マステリオ(
ja2224)は、ロケット花火やネズミ花火を大量に持参していた。
これに爆竹をあわせて、いざ出陣! まずは羽根つき会場だ!
「日本では、笑う門には福来たる、という言葉があるそうですね。つまり、大騒ぎすれば幸運の女神が天岩戸から這いずり出て来て這い寄ってくるというわけですね。……なれば、騒ぎまくって今年一年分の幸福をもらいましょう」
そんなニャルさんみたいなアマテラス様はイヤだが、ともあれエイルズレトラはネズミ花火に火をつけて、羽根つき会場へ投げ込んだ。さらに爆竹を放り投げ、ロケット花火を発射する。
周囲はたちまち大騒ぎだ。
「な、なにごとでござるかー!?」
螢が怒鳴った。
「だれかが爆竹を投げてきたみたいねェ」
シグネは、煙と硫黄の匂いに目をしかめた。
「笑う門には福来たる! さぁ皆さん、たのしくやりましょう!」
ひょいひょいと、あたりかまわず爆竹を投げるエイルズレトラ。
その爆竹を、螢とシグネが羽子板で打ち返した。
「な……っ!?」
とっさに回避しようとするエイルズレトラ。
だが、2発とも回避するのは無理だ。
ならば、空蝉で──?
ところがどっこい、この爆竹は範囲攻撃!
「しまった……!」
どぱぱぱぱーーん!
「グワーッ!」
こうしてエイルズレトラは、自らの投げた爆竹で倒れたのであった。
「とぉぉぉしのはーじめも食べヒトデェェェ〜♪」
フリーダムな歌とともにやってきたのは、パルプンティ(
jb2761)
そこで鉢合わせたのは、ウェンディスだった。
「おまえか。いつぞやは世話になったな」
「おー! 屋台好きの悪魔さんですねーぃ。明けましておめでとう御座いました! 今日は、いわゆるアレ。オショーガ・ツですよーぅ。人界のニッポンポンでは、シンネーンとかガンターンとか唱えながら、108回も蛸を揚げたり烏賊を揚げたり、落とし球を揚げたりするんですよね♪」
「俺も人界には詳しくないが、だいぶ間違っているぞ」
「え、違うのですか!? むむぅ、奥が深いですー。後学のために、オショーガ・ツの作法を教えてもらうです!」
「とりあえず、その爆竹とやらを鳴らすのが正月の風習だと聞いた」
ウェンディスが言うと、パルプンティは爆竹を手に取った。
それをしげしげと見つめながら、彼女は言う。
「これは、ハナービの一種ですねー。ハナービはオショーガ・ツにもやるんですねー。初めて知りました♪ では早速」
なにも疑うことなく、淡々と爆竹を鳴らそうとする悪魔ふたり。あきらかに危険フラグだ。
「んー。こっちがわを持ってー、ん? こうでしょうか?」
パルプンティは導火線をつまんでぶらさげると、束になった爆竹本体を火で炙った。
ズパパパパパンッ!!
「ギャース!」
とっさに爆竹を投げ捨てるパルプンティ。
投げられた爆竹は、大量の爆竹が保管されている箱の中へ。
ドバババババババ!
「ギャーーース!」
という次第で、人界知らずの悪魔ふたりは全身やけどで保健室送りになった。
「俺は退魔墨……もとい爆竹を使うぜ」
ラファル A ユーティライネン(
jb4620)は、迷いなく爆竹コーナーに姿を見せた。
だが、この爆竹をただ爆発させるのは素人。ラファルほどの悪党……もとい切れ者ともなれば、やることは決まっている。──そう、爆竹を分解して火薬をあつめ、巨大爆竹を作るのだ!
「どうせなら、派手にやらねーとな」
てきぱきと爆竹をバラし、大玉へ火薬を詰めていくラファル。その表情は、いつにも増して楽しそうだ。
やがて、直径1mほどの爆竹5発が完成!
1mと軽く言っても、打ち上げ花火の3尺玉よりデカい。シャレにならん。
その『爆竹』を竹竿の先にくくりつけ、くす玉みたいに仕立てるラファル。
「よーし、まずはお手玉会場だ。くす玉でお手玉を祝ってやるぜ!」
爆弾魔は竹竿を担いで走りだした。
お手玉会場は、和気藹々とした空気に包まれていた。
そこへ、くす玉めいたものをひっさげてラファル参上!
一見、本当にくす玉っぽい。まさかこれが火薬の塊だとは、だれも気付かないだろう。
「……お? なんだありゃ」
鳴が般若の面をはずした。
「なんだろ。くす玉みたいに見えるんだよ」と、伊邪夜。
そんな会話をしながらも、ふたりはお手玉をつづけている。危機感というものが、まったくない。
ラファルは「くっくっく」と笑いながら、竹竿を立てて爆弾を宙吊りに。そして導火線へ点火!
「なん……だと……!?」
異変に気付いた鳴は、とっさに伊邪夜の前に立ちはだかった。
直後、爆弾が炸裂!
ドガァァァァン!
「アバーッ!」
爆風で吹っ飛ぶ鳴。
しかし、彼のおかげで伊邪夜は無事だ。
「稲野辺さんっ!」
「無事だったか……よかった……」
ガクリと崩れ落ちる鳴。
おいおいカッコイイじゃねぇか、畜生。ぜんぶアドリブだけど。
「次は凧揚げ会場だ。待ってろよー?」
お手玉会場を地獄に変えたラファルは、意気揚々と次の舞台へ走っていった。
凧揚げ会場では、海と司が子供相手に指導をつづけていた。
ユーカリ、シエル、美紅の姿はない。
そのかわり、歌音がいる。きっと彼女がラファルを止めてくれるはずだ!
「おー、ガキがいっぱいじゃねーか。あれを爆破するなんて……すげぇたのしそうだぜー!」
ためらいなく突撃するラファル。
だが、警戒していた海は即座に気付いた。
「待て! そんなことはさせない!」
海の手から、幻影の鎖が飛んだ。
ラファルに鎖が絡みつき、束縛する。
が、『束縛』では駄目だった。睡眠かスタンなら良かったのだが。
「まだよ! 子供たちはあたしが守る!」
ヒーローっぽい効果音とともに、歌音が出てきた。
そして、揚げ凧用の油をまきちらす。
ツルッ。
足をすべらせる歌音。
ゴツッ。
後頭部を地面にぶつける歌音。
──というわけで、ラファルのくす玉爆弾はみごと大爆発。
海と司は、負傷者の対応に追われることとなった。
「……さて、ここが羽根つき会場か。女ばかりだな。カワイイ悲鳴をあげさせてやる」
ドS丸出しでニヤリと笑うラファル。
「あれは……まさか爆竹ではござらぬか!?」
いち早く気付いた螢が、ハッと目を見開いた。
その直後。
バスゥゥゥッ!
鳩尾に羽根が突き刺さり、螢は倒れた。
音速羽根つきラリー中に、よそ見するから……。
「爆竹って……あれは反則じゃないのォ?」
シグネが抗議した。彼女は『爆竹を打ち返す』ために、羽根つきを選んだのだ。直径1mの巨大爆竹など、想定外。
一方、蛍千は余裕の表情だ。
「大丈夫。この番傘が私たちを守ってくれます。昨日の敵は今日の友。羽根つきの健闘を讃えあいながら、このピンチを切り抜け
ドカァアアアン!
最後まで言うより先に、巨大爆竹が炸裂。蛍千とシグネは黒こげになった。
ラファルに慈悲はない!
「さーて、次は双六だ。どいつもこいつも沈めてやるぜー」
その会場に着いたとき、さすがのラファルも目を疑った。
なにしろ、雅人はチャイナドレス、薊はメイド服で女装し、謎の液体でデロデロになっている。
恋音はといえば、猫耳スク水姿で四つん這いになり、全身を紅潮させて震えていた。
「……おまえら双六やってるんだよな?」
ラファルが問いかけた。
「そ、そうですにゃあぁ……」
涙まじりに答える恋音。
「どーゆーこった、これは」
「それは……そのぉぉ……」
「普通に凄69やってるだけだよ?」
ひとり平然としたまま、明日羽が答えた。
「どんな双六だよ……」
「知りたい? 一緒にやる?」
「やらねーよ! 俺は、こいつで盛り上げに来ただけだ!」
ジャーンと、くす玉爆弾を見せるラファル。
「じゃあ爆発させてみて?」
「いいのかよ。けっこう破壊力あるぜ?」
「だって、たのしそうじゃない?」
心底たのしそうに言う明日羽。
「……ちっ。調子狂うな。もういい、こいつは置いてくから好きにしろ。じゃあな。俺は最後の舞台に行くぜ!」
吐き捨てるように言うと、ラファルはカルタ会場へと向かった。変態は苦手なのだ。
双六会場から爆発音が轟いたのは、その1分後のことだった。
「はーっはっはっは! やってきたぜ。カルタ会場!」
高笑いするラファルだが、そこにいるのは頭部に札を突き刺して倒れた学生たちだけだった。
卍と明斗の姿はない。意気投合して、タコ焼きを食べに行ってしまったのだ。
「ここで、こいつを爆発させるのか……」
さすがに躊躇するラファル。
「いや、俺の名はラファル! 疾風だ! だれにも止められやしねぇぇ!」
理由になってないが、ともかく彼女は最後の爆弾を炸裂させた。
ドォォォン!
「「アバーッ!」」
倒れていた学生たちが、まとめて薙ぎ飛ばされた。
ついでとばかりに、透次も吹っ飛ばされる。
が、彼は倒れなかった。ソロカルタというEXスポーツで心身ともに鍛え抜かれた透次は、いまや撃退士を超えた撃退士! 独りカルターとして、このテロ行為は許せるはずがない!
復讐に燃える透次は爆竹を全身に巻きつけると、遁甲の術と無音歩行でラファルに忍び寄った。そして背中から抱きつくと、爆竹に一斉点火!
ズドォォォン!
以上が、『凧揚げイベント連続爆破テロ』として知られる一連の事件のあらましである。