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マスター:牛男爵
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
参加人数:25人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2013/12/27


みんなの思い出



オープニング


「ふふふ……はははは……ふぅーーはァははははは!」
 ここは久遠ヶ原学園。だれもいないクラブ棟の一室で、平等院は高らかに哄笑した。
 私設サークル『未来トラップ研究所』の所長である彼は、頭のおかしい発明家として一部の学生たちに知られている。
「ついに! ついに完成した! この夢のマシーン! まさに、文字どおり、一寸の狂いもなく夢の機械が!」
 勝ち誇ったように平等院が頭上に掲げているのは、一見なんの変哲もない枕だった。
 だが、じつはこの枕。ただの枕ではない。『見たい夢を見ることができる枕』なのだ。
 なぜそんなことが可能なのか、正直なところ平等院にもわかってない。ただ、科学の力とアウルの力が融合したとき、このような発明品が生まれてしまったのだ。
 一言で言えば、ただ『望んだ夢を見ることのできる枕』に過ぎない。──が、それは恐ろしい結論を生み出す。たいていの人間は夢の中にいる間、それを夢だと気付かないからだ。すなわち、夢の中に住み続ければ夢がそのまま現実になる。平等院自身、この枕の開発中にハーレムラノベ世界の主人公となってしまい、現実へ戻るのが馬鹿らしいと思ってしまったほどだ。
 しかし、平等院は夢に逃避するような男ではなかった。というより、いま放映中の魔法少女アニメを最後まで見届けなければ、死んでも死にきれなかった。夢に逃避している場合ではなかったのだ。
 おかげで平等院は夢の中で死ぬことができず、冷静に考えたすえ枕に目覚ましアラーム機能をつける結果となった。これで、どんなに夢のような夢でも安心して見ることができる。まさに、究極の枕!
「はははははは! この枕があれば、世界を支配することも可能! 誰も彼も、夢の世界にウェルカム!」
 すっかり世界を支配した気でいる平等院だが、一般人にはこの枕を使うことができなかった。
 そのため、せいぜい久遠ヶ原の学生たちにレンタルして小銭を稼ぐぐらいしかできなかったのである。




リプレイ本文

● 龍崎海(ja0565)

「これが例の枕か……。どういう仕組みなのか気になるな、医学的に」
 しかつめらしい顔で言いながら、海は眠りについた。
 そして、希望どおりの夢が始まる。
 そこは、天魔の襲撃が80年代で解決していたらという『IF』の世界。全人類がアウルに目覚め、天魔にとって侵略する意義がなくなり、中立となった地球だ。まさに平和そのものの、夢の世界。
 医師の道を夢見ていた海は願いをかなえ、優秀な医師として日々患者たちを救っている。
 まじめな彼は、夢の中でもストイックだ。
 が──
「あなた、おつかれさま」
 仕事を終えて帰宅した海を、グラマーな姉さん女房の悪魔が出迎えた。
「お風呂にする? ごはんにする? それとも、あ・た・し?」
 豊満な胸を海の腕に押しつけて誘惑する悪魔。
 そこへ、童顔スレンダーで幼妻な天使が割って入った。
「なにをしてるんですか! 海さんはお疲れなんです! まずお風呂ですよね、海さん。もちろん私と一緒に」
「なに言ってんの! 海はあたしと遊ぶのよ!」
「認めません!」
 とっくみあいの喧嘩を始めそうになる美女二人。
 それを、二人の子供がなだめる。
 平和かつ波乱の人生だが、これが海の望んだ夢なのだ。

「……俺はなぜ、あんな夢を……。いやあれは、両方のハーフを平等に登場させる為にああなっただけだ。きっと、いや絶対そうだ……」
 目覚めた海は、しばらく自己嫌悪に陥ったという。



● シエル・ウェスト(jb6351)

「最後の勝負であります! 突撃ィ!」
 夢の中で、シエルは大声を張り上げた。
 彼女が望んだのは、海と正反対の凄惨な世界だ。
 西暦20XX年、宇宙より襲来した生命体によって滅亡の危機に晒された地球。そんな中、人類は想像具現化システム『ナナイロ』を用いて敵マザーへの反撃に打って出たのだ。そして、いままさに人類の運命を賭けた最後の戦いが始まろうとしている。
「ここだ……っ!」
 ナナイロ搭載機『彩孔雀』の全火力をマザーに叩きこむシエル。
 だが敵のシールドは硬く、傷さえ付けられない。
「万事休すか……!?」
 敗北の二文字が、シエルの脳裏をよぎった。
 が、その直後。彼女は奇跡の逆転技を思いついた。
 それは、ナナイロの力で自分と彩孔雀のコピーを作り出すこと。
 とてつもない手段だが、作戦は成功。無数に増えたシエルたちの一斉攻撃を浴びて、マザーは沈黙。盛大に爆発四散した。

 その後、シエルの行方を知る者はいない。
 おそらくマザーの爆発に巻き込まれて宇宙の塵になったと見られるが、真相は定かでない。
 これは、ナナイロ搭載機『彩孔雀』と、そのパイロットたるシエル・ウェストの記録だ。



● ミリオール=アステローザ(jb2746)

「ワ、ワふーっ! なんでもOKということは、地球を手に入れることも……!」
 邪かつ壮大な夢を見ようと目論むミリオール。
 しかし、簡単に支配しても達成感がなさそうだと気付いて思いなおす。
 重体中なので、こうしてる間も全身が痛い。
「ぅー、存外もろいのです……」
 体を引きずりながら、ベッドに入るミリオール。
 そのとき、ふと思いついた。
「あ、そうですワっ! もし天界にいたときの力のまま人間界に来てたら……人間の形をとるにしても、いまよりずっと大人な感じになれるのですワっ!」
 どちらにせよ物騒な考えを思いつくミリオールだった。
 そのまま眠りに入った彼女は、天使の力で冥魔をボコボコにして地球を征服!
 その後は生産性の向上や環境問題を手助けして、人類から崇拝される唯一神に。まるでシミュレーションゲームだ。
 そして、紆余曲折。長い時を経てLv14まで強化した地球を、とうとうLV15に……!
 だが、その瞬間。なんとなくイヤな予感がして、ミリオールは跳ね起きた。

「くず鉄は駄目なのですワっ!!」
 そのとたん、ベッドから転げ落ちるミリオール。
「〜〜〜〜ッッ!!」
 あまりの痛みで、彼女は小一時間ほど起き上がれなかった。



● 雫(ja1894)

 失った家族の記憶を呼び起こそうとして眠りについた雫は、どういうわけか知り合いの男子とデートしていた。
 名前は出せないが、上流階級出身のはぐれ悪魔で、一部の学生によく知られている少年だ。
 場所は遊園地。ふたりとも小等部なので特に違和感もなく、お似合いのカップルに見える。
 最初は手をつなぐ程度だったのだが、時間が経つにつれて雫は段々とエスカレートしていく。男の子の腕をギュッとしたり、背中に抱きついたり、ひとつのソフトクリームを二人で食べたりと、ベタベタ甘々なバカップル状態だ。コロコロと楽しげに表情を変える雫の姿は、ふだんのクールな彼女からは想像もできない。まるきり別人だ。
 あるいは、これが彼女の本当の姿なのか。それとも──

「は……っ」
 アラームの音で目覚めたとき。雫は一瞬で顔を真っ赤にさせた。
 どうしてこうなった……と自問しながら溜め息をつき、あまりの恥ずかしさに布団をかぶって悶絶する。
 八つ当たりで枕を破壊したい衝動に駆られるが、しかしもったいないと思ってしまい、そう思ってしまった自分がイヤになって、ますます恥ずかしくなる。
「ぅああああ……。なんで、あんな夢ををを……」



● エレハイム(jb7218)

 204cm100kgのエレハイムが望んだのは、『自分と他人の体型を自由に操作できる夢』だった。
 まずは自分の胸をぺったんこにして解放感を味わい、身長も170ぐらいにして、16歳まで若返る。
「すごく体が軽い……。でも何だか虚しいわね」
 そう言うと、エレハイムは開きなおったように胸を巨大化させた。
 自分だけではない。世界中の美女と美少女が相手だ。
 これぞ、全人類爆乳化計画!
 世界中から阿鼻叫喚の嘆きと拍手喝采が湧き起こる中、エレハイムはひたすらに膨らみ続けていた。それこそ、世界すべてが埋まるぐらいに。
 服は裂けて、ボロ雑巾に。自慢の爆乳は超肥大化して腹肉に乗っかり、ウェストもヒップも贅肉に蹂躙され、首は消滅。怜悧な眼も贅肉に押し上げられて細くなり、肉塊状態に。声も野太く変わり、髪だけが美しいままだ。スリーサイズは、言わずもがなの悲惨な数値。
「ふふふ……。夢の中ではダイエットしなくていいから、太り放題ね」
 満足げに微笑むエレハイム。
 彼女の目的は謎に包まれていた。



● 文銀海(jb0005)

 この枕を借りる者たちの動機は様々だが、銀海は『ぐっすり寝たい』という動機を持つ変わりダネだった。夢はオマケ。ただ睡眠不足を解消するためだけに借りたのだ。
 そんな銀海だが、ふと夢の中で目覚めると何か違和感を覚えた。
 寝起きなので彼は理解してないが、なんと体が三頭身になっているのだ。
「んん……あれ……? なんか、まわりが大きいような……」
 寝ぼけまなこをこする銀海。
 無論、まわりが大きくなったのではない。彼が小さくなったのだ。
 服のサイズも合ってない。最初に感じた違和感はこれだ。
「ちょ……ちょっと待てよ……? どういうこと、これ……」
 思わず跳び起きて、鏡を見ようと走りだす銀海。
 その直後。
 びたーーん!
 ズボンの裾を踏んづけて、銀海は思いきりズッこけた。
「く……っ! なんだこれは! まさか、天魔のしわざ!?」
 こんな意味不明な攻撃をする天魔は、多分いない。
 というか、彼自身が望んだ夢なのだが……。
 にもかかわらず、パニック状態で走りまわり、みごとにスッ転ぶ銀海。
「冗談だろ……? 夢なら覚めてくれ……!」
 思わずそんなことを口走ってしまう銀海だが、アラームが鳴るまでは目覚めそうになかった。



● 吾妹蛍千(jb6597)

「じつは、ちょっと憧れてたんだ。性転換するの」
 怪しいことを自白する蛍千は、すでに女の子になっていた。
 持っている服を全部かきあつめて、鏡の前で一人ファッションショー開始。
「やっぱ、こういうの。良いよねぇ……」
 実際、女性用の服は女の子が着たほうがいいに決まってる。
 だが、ちょっと待ってほしい。
 もともと144cmしかない蛍千が女体化すると、身長は驚異の132cmに!
 夢の中でさえチビ! まさに絶望!!
「……ってか! なんで、もともとない背が! より縮むかな!」
 騒ぎだす蛍千。
 だが、これは彼自身が望んだ夢だ。
「うわああ! どれ着てもダボダボ! いまなら小等部の制服が余裕で着れちゃう! しかも、すっごく似合いそう!」
 自慢なのか自虐なのか判断つかないことを叫んで、頭をかかえる蛍千。完全に一人コントだ。
「……そう。もともとなかった身長が、よけい縮んだんだ……。なんで、こんなことに……」

 ものすごい勢いで落ち込んだとたん。あまりに萎えたショックで、彼は目をさましていた。
「……はぁ。なにやってんだろ僕」
 しょげかえる蛍千だが、すべて自業自得だった。
 心なしか実際の身長も小さくなったように見えるが、たぶん気のせいだ。



● シグリッド=リンドベリ(jb5318)

 夢なら何でもアリですよね!
 というワケで、シグリッドは自分自身を何百にも分裂させ、本体だけ残して全部ネコにしてしまった。
 三毛、アメショ、シャム、スコティッシュ、ヒマラヤン、メインクーンにサファリ……etc
 世界中から、ありとあらゆる種類の猫が大集合!
 魅惑の猫ハーレムが始まる!
「いっくよー♪」
 猫の海に向かってダイブするシグリッド。
 そして実行される、凄絶なまでのモフモフ!
「こ、これは……まさに天国! 楽園! 理想郷! 猫まっしぐら!」
 全身猫まみれで狂喜乱舞するシグリッド。猫をモフる自分と、猫になってモフられる自分という、これぞ究極の自己発電永久機関だ! おお、こいつぁノーベル平和賞ものだぜ! とりあえず、晩飯はしゃぶしゃぶだ! 猫をもふもふ! 牛肉をしゃぶしゃぶ! 猫スライダーで僕と握手! なにがなんだかわからんが、夢のような話だ!

 だがしかし。どんな夢にも終わりは訪れる。
 というか、アラームが鳴ったのだ。
「ふぅ……これは幸せすぎて起きられなくなりますね……。タイマーは正解だと思います」
 こうして今日もまた、アラーム機能が一人の撃退士を救ったのであった。



● 緋野慎(ja8541)

「おおー! これが何でも願いが叶う枕かー!」
 なにか勘違いしたことを言いながら、慎は瞳をキラキラさせた。
「俺の見たい夢は決まってるぜ。おなかいっぱいご飯を食べることだー! いやっほーう! 現実の世界では食べ続けてたらいつかはお腹が満杯になって動けなくなるけど、夢の中ではそんなことないもんね! よぉっし、食べるぞー! おやすみなさーい!」
 こんなにテンション高くて眠れるのかと思うが、実際のところ寝床について数分後には寝ている慎。
 のぞみどおり、夢の中では山のような料理が現れた。
 フレンチ、イタリアン、中華、和食……なんでもそろっている。
「うはっ! これ全部食べ放題!? 夢みたいだ! いっただきまーす!」
 漫画みたいに馬鹿でかい肉を丸かじりして、フカヒレスープを飲み、寿司をほおばる慎。
 どれも最高においしいが、食べても食べても腹がふくれない。
「うぅん、なんだろう……食べてるのに満たされない、この感覚……。なんか違うぞ、これ。絶対違う」

 慎は、ガバッと跳ね起きた。
 腹の虫がキュルキュル鳴りまくっている。
「あんなに食べたのに……。うん、もういいや。これ、返そう。ついでに、ご飯も食べに行こーっと」



● シェリア・ロウ・ド・ロンド(jb3671)

「いらっしゃいませ! フランスベーカリー、マルシェ・ド・ロンドへようこそ♪」
 庶民の家に生まれたシェリアは、今日も実家のパン屋を手伝っていた。
 髪はおさげで、頭には三角巾。学校から帰ったばかりなので、制服にエプロンを着けた格好だ。
 絵に描いたように平凡な庶民だが、かわいい看板娘として近所ではちょっと人気がある。
「当店自慢のクロワッサンは、いかがですか? サクサクで美味しいですよ!」
 実際おいしいので、飛ぶように売れる。
 夕暮れ時のパン屋は、客でいっぱいだ。
 シェリアは焼きたてのパンをトレーに乗せて、忙しそうに働いている。絶えることのない微笑みは、充実した人生を証明するかのようだ。
「お、お父さん、まだ焼き上がらないの? お客さん待たせちゃってるよ!」
「パンはそれぞれ焼き時間が決まってるんだ。あわてるんじゃない」
 どっしり構えてパン釜を見守る父親は、パン職人をめざすシェリアにとって自慢の師匠だ。
「……よし、焼き上がりだ。並べてくれ」
 釜から取りだされたバゲットはキツネ色で、香ばしい匂いを漂わせている。
「こちら、たったいま焼いたばかりでーす! おひとつどうですかー?」
 元気に働くシェリアの姿は、輝いて見えた。



● 周愛奈(ja9363)

「ふふ……わたくしの前にのこのこと現れるなんて、運がなかったですわね。この周愛奈が、あなたたちを本来いるべき場所へと送り返して差し上げますわ」
 大人になって完璧なモデル体型を獲得した愛奈は、凄腕の撃退士へと変貌を遂げていた。
 その横に立つのは、すらりとした体に力強さを秘めた青年。
「カバーをお願いね。きちんと護ってくれるって信じてるから」
「まかせておけ。愛奈を護るのが俺の使命だ」
 青年が答えると同時に、天魔が襲いかかってきた。
 見るからに凶悪な、双頭の竜だ。
「せっかちですわね。これを食らうと良いですわ」
 深いスリットの入ったチャイナドレスが翻り、火炎流が渦を巻いた。
 高レベルのファイヤーブレイクだ。
 つづいて、青年の雷撃が竜を捉える。
 黒煙を上げて倒れる竜。
「あらあら。見かけ倒しですこと」
 愛奈は長い黒髪を撫でつけると、モデル立ちで敵を見下ろした。
「愛奈が強すぎるのさ。美しい上に強いなんて、まったく罪な存在だよ」
「ふ……それほどでもありますわ」
 艶然と微笑む愛奈は、まさに完璧な女だった。

「……あれ? もう時間?」
 アラームで目を覚ました愛奈は、驚いて時計を見た。
 そして夢の中のことを思い返し、にんまりする。
「ああ……とっても素敵な夢だったの……」



● セリェ・メイア(jb2687)

「ここは……?」
 セリェは森の中で目をさました。
 周囲には色とりどりの花が咲き乱れ、空には極彩色の鳥が羽ばたいている。
 巨木に背をあずけたセリェは、スポットライトのような木漏れ日に照らされて──
 それはまるで、楽園のようだった。
「おいで……」
 小鳥に向かって手を差し出せば、ふわりと舞い降りてきてセリェの肩に止まる。
 そのさえずりは耳に心地良く、花々の香りは甘やかで、日の光は暖かい。
 まさに夢心地のような感覚だ。
 ふと気付けば、一匹の茶猫が近寄ってくる。
 ただの猫ではない。王冠をかぶっているのだ。
「変わった猫……」
 セリェは思わず手をのばした。
 その瞬間。猫は男の姿に変わり、セリェの腕をやさしくつかんだ。
 不思議な感触だ。暖かいような、冷たいような──
「あなたは……?」
 セリェが問いかけると、男は彼女の手をそっと引き寄せて──ごく自然な動作で、手の甲に口づけを落とした。
 はっとして男の顔を見ようとするセリェ。
 だが、かなわなかった。
 夢が終わってしまったのだ。



● カイン・S・ラスト(jb7656)

 ここは、どことも知れぬ森。
 鳥のさえずりと草木の香りの中を、カインは一人歩いている。
 やがて彼は出会ってしまった。
 巨木に背をもたれて小鳥たちと戯れる、白い髪の乙女に。
 その姿を見た刹那。カインは恋に落ちてしまった。
 真の愛は瞬時に生まれる。
 カインはためらうことなく彼女に近付くと、その手を取って唇をつけた。
「君の名前が、知りたい」
 直球だった。
 それが悪魔の特性なのか、あるいは単にカインの流儀なのか──
 いずれにせよ、名前は聞けなかった。
 夢が終わってしまったのだ。

「無念……」
 カインはもういちど夢の世界へ沈もうとしたが、どうにも寝つけなかった。
 枕のレンタルは一日限り。今日中に返さねばならない。
「仕方ないな……」
 あきらめて、カインは枕の所有者を訪ねた。
 平等院という、マッドサイエンティストだ。
「いい夢を見られたかね?」と、平等院が訊ねる。
「ああ。悪くはなかった」
 そのとき。ドアが開いて一人の女性が入ってきた。
 セリェだ。手にはカインと同じ枕を持っている。
「え……!?」
 驚いて、言葉を失うカイン。
 それは確かに、夢で出会った女性だったのだ。



● ファング・クラウド(ja7828)

『Q:もしも、あなたが神ならば。どんな妄想を望む?』

 夢の中で、ファングは一人の少女と向かいあっていた。
 明るい瞳が印象的な、黒髪の少女だ。
 が、ファングは知っている。
 この少女が既に世を去っていることを。
「……久しぶりだね」
 うつむきながら、ファングは語りかけた。
 が、少女は応えない。ただ、じっと彼を見つめている。その瞳は、磨き抜かれたガラス玉のように純粋だ。
 グッと唾を飲みこんで、ファングは言う。
「あれから、オレ、撃退士になったよ。いまは久遠ヶ原にいる。天魔と戦う毎日だ」
 黒髪の少女は、やはり何も応えない。
 数年前、彼女は天魔に惨殺された。
 原因の一端はファングにある。
 死に際に少女が遺した言葉を、彼は忘れていない。
「約束して。私のことは忘れて幸せになるって……」
 幻聴だろうか。ファングの耳に、懐かしい声が聞こえた。
 遠い日の約束。果たすことの出来ない約束だ。
「あの約束、いまだに守れてないや……ごめんね」
 うつむいたまま、ファングは絞り出すように声を出した。
 心からの謝罪。だが、これは夢の世界だ。どんな言葉も、どこにも届きはしない。
「……オレ、行くよ」
 ファングは最後に一度だけ、少女の顔を見ようとした。
 が、そこに人影はなく──ただ、乾いた風が流れるだけだった。

『A:神は妄想などしない。ただ己の定めた摂理に従って世界を運行させるだけだ。その摂理が、どんなに残酷であろうと』



● 月乃宮恋音(jb1221)&袋井雅人(jb1469)

 うららかな初春の午後。
 一軒家の縁側で、猫が丸くなっていた。
 庭に落ちる日差しは柔らかく、おだやかな静謐で溢れている。
 ふと、なにかを察知したように猫が立ち上がり、玄関へ走った。
 ガラガラッと扉が開く。
「ただいま」
 猫を抱き上げて微笑む雅人。アラサーの立派な男である。
「おぉ……おかえりなさい、雅人さん……」
 廊下の先から、エプロン姿の恋音が歩いてきた。
 こちらも、みごとな淑女だ。おなかが膨らんでいるのは身ごもっているためで、来月には生まれる予定だ。逆に、胸のサイズは現実より小さい。これは恋音の願望だ。雅人はそんなこと望まない。
「そのぉ……お食事にしますかぁ? それとも、お風呂に……?」
「和菓子を買ってきたんで、かるくお茶にしませんか?」
「おぉ……それは是非……」
 和室へ向かう、恋音と雅人。そのあとを猫がついてくる。
 部屋に入ると、恋音が緑茶をいれた。
 湯飲み茶碗を手に、夫婦並んで縁側に腰かける。
「桜餅……。もう、そんな季節なんですねぇ……」
「子供が生まれる頃には、きっと桜が満開ですよ」
「それは……とても素敵な光景です……」
 そんな会話をかわしながら、ふたりは桜餅をつまみ、お茶をすすった。
 ふわりと寄せてくる風は温かく、沈丁花の香りを孕んでいる。
 なんの変哲もない──けれど二人にとっては大切な、春の一日だ。
 ふと思い出したように、雅人が言う。
「そうそう、子供の名前ですが……。知人の天使がつけてくれた『凌雅』というのは、どうでしょう」
「良い名前ですねぇ……。いまから将来がたのしみです……」
「ええ。子供と3人で、たのしい家庭を築きましょう」
 ぐっ、と拳をにぎる雅人。
「3人だけ……ですかぁ……?」
「もちろん、この子も家族です」
 雅人は猫の背中を撫でた。
 が、恋音の言いたいことは違う。
「……いえ、そのぉ……子供は一人だけなのですかぁ……?」
「は……っ! それはもちろん、恋音さえよければ1ダースでも2ダースでも! なんなら、いまからでも!」
 がばっと襲いかかる雅人。
 恋音は声にならない声を上げながら、あっさり押し倒されてしまう。
 バタァァン!

 その拍子に、ふたりとも目がさめた。
 ひとつの枕を同時に使っているため、ほとんど抱きあう形だ。
「うぅ……望んだ内容とはいえ恥ずかしいのですよぉ……」
「ああ、やはり恋音さんのおっぱいはこうでないと!」
 持ち主の許可も取らず、勝手に揉み揉みする雅人。
「む……? なぜか、寝る前より大きくなってるような……。まさか、アウルの副作用!?」
「そ、そんなぁぁ……!」
 アウルを使うと胸が成長する恋音の謎体質は、今後も続く。



● 真城風紗耶(jb7336)&ロキ(jb7437)

 ふたりは街へショッピングに来ていた。
 ロキは体質の問題で昼間あまり外出できないため、夢の中で思いきり楽しむ作戦だ。
「んー……紗耶、どこか見たいところある?」
「私より、ロキがいきたい所に行きましょうよ。普段は来れないんでしょ? 行きたいところ、どこでも連れていってあげるわ」
「んー……とりあえず、ぶらぶらしてみない?」
「ぶらぶらするだけ? せっかくなのに、それでいいの?」
 紗耶の問いに、ロキはコクリとうなずいた。
 そして、言葉どおりに目的もなく歩きだす。
 とくに何かを買うわけでもなく、気ままなウインドウショッピングだ。
「見て見て。あのワンピース、ロキに似合いそうじゃない?」
「んー……そう? 紗耶のほうが似合うと思う」
「そうかしら。……あ、ねぇねぇ。クレープ食べない? 今日は特別だから、おごってあげるわ」
「クレープは食べるけど、お金は自分で払うよ。んー……どれにしようかな。メニュー多すぎ……」
「じゃあ別々のを買って半分こしない?」
「いいよ」
 そういう流れで、ふたりはクレープをかじりながら街をぶらつくことになった。
 昼間の繁華街は明るく賑やかで、ふだん見慣れない景色にロキは内心はしゃいでいる。
 ただ、根本的に紗耶のほうがテンション高いので、ロキの感情が目立つことはない。
 その後ふたりは気の向くままにショップを巡り、気がつけば空は暗くなっていた。
「夜になったら冷え込んできたわね。そろそろ帰る?」と、紗耶。
「んー……そうしようか」
「結局、クレープとソフトクリーム食べただけね」
「……でも、たのしかった。こんな夢なら、毎晩見たいな……」
 ロキがそう言った直後。
 紗耶は突然ロキの腕をつかんで引き寄せた。
 そのまま、強引に唇を奪ってしまう。
「んなっ、なにを……!?」
 おどろくロキ。
「ふふ、びっくりするロキが可愛いから、ついね♪」
「……いつも急なんだから……びっくりするよ……」
 そう言いながらも、ロキはもう平静を取りもどしている。
 わりといつものことなので、慣れているのだ。
「ああ、もう……。ロキってば、本当に可愛い」
 紗耶はロキの頭をポフポフすると、手をつないで歩きだした。
 彼女たちの関係は、友達以上恋人未満。
 これから先、その関係はどう発展していくのだろう。
 あるいは、ずっとこのままなのだろうか。
 がんばれ、紗耶。



● 黒百合(ja0422)

「あはァ、やっぱり悪役ってやってみたかったのよねェ〜♪」
 黒百合は重戦車の上で仁王立ちになり、街を睥睨していた。大悪魔になった彼女は、戦車型や航空機型などから構成される数万のディアボロ軍団を率いており、いままさに一つの都市を殲滅しようと目論んでいるのだ。
「それェ、掃討戦だァ! パンツァーフォーォォ!」
 号令一下、戦車部隊が一斉に突撃して主砲を発射した。
 みるみるうちに、瓦礫の山と火の海が広がる。
「さァ、逃げる奴は撃退士だ! 逃げない奴はよく訓練された撃退士だァー!」
 名台詞を吐きつつ、破壊と殺戮の嵐を展開する黒百合。
 なんというハマリ役か。どう見ても、撃退士より天魔のほうが似合っている。
「さァ、化け物を殺してみろォ、人間ゥ……! 化け物に喰われるのが人間なら、化け物を殺すのも人間よォ……! 手加減してあげるからァ、死ぬ気でかかってきなさいィ……♪」
 しかし、彼女の要望に応えられる者はいなかった。……って、そりゃそうだ。
「あァ、つまらないィ……。だったら他人の夢に殴りこみよォ……?」
 そう言い放つと、黒百合は軍団ごと姿を消した。



● 静馬源一(jb2368)&鳳静矢(ja3856)+黒百合

「見たい夢……おなかいっぱい美味しいごはんを食べるのも良いで御座るが……。やはり自分も男の子! 凄くて強くてカッコいい天才忍者になった自分の夢を見てみたいで御座るね!」
 枕を手に、無茶なことを言いだす豆柴がいた。
 これこそまさに、夢のような夢だ。
「いざいざいざ! 夢の世界にれっつごーなので御座……ぐかー」
 源一は枕に頭を乗せた瞬間に熟睡していた。なにかのスキルか、これ。

 そのころ。静矢も枕を使っていた。
「まさか夢とはいえ、こんな世界が実現する日が来るとは……」
 彼が見ているのは、『本当の意味で人間と天魔が共存している世界』
 天魔の脅威がない、平和な世界。騒がしいながらも、夢のような世界だ。
 しかし、たとえ夢の中でも静矢にはわかっている。現実世界は厳しいのだと。
「天魔と人の争いで傷つく者がない世界を、いつか必ず築いてみせる……」
 シリアス顔で決意を言葉にする静矢だが、あいにくこれはコメディだった。
 なにしろ彼は、最初から女装済み&化粧済み。
 理由はわからないが、単にMSの趣味だった。……って理由わかってんじゃねぇか。

「これは奇遇。オオトリ=サンでは御座らんか」
 問いかける源一もまた、なぜかメイド服姿だった。当然メイクもバッチリだ。
 理由はわからない。が、真にスゴイツヨイ忍者をめざすなら、女装するほかないのだ。だって男の子だし!
「ドーモ。シズマ=サン」
「ドーモ。オオトリ=サン」
 忍者らしく仁義を切る二人。
 そう。静矢は一見ルインズめいた何かだが、じつは忍者なのだ!

 CABOOOOM!
「「グワーッ!」」

 いきなり戦車砲がぶちこまれて、静矢と源一はパンチラしながら吹っ飛んだ。
 実際ヒドイ。だれのしわざだ!(
「お邪魔しますゥ、悪魔の軍団が本夢の制圧しに来ましたァ♪」
 おお! なんと、黒百合ではないか! みんな知ってたけど!
「「ドーモ。クロユリ=サン」」
 女装忍者ふたりが、黒こげになりながらアイサツした。
 たとえどんな相手でも、イクサ前のアイサツは欠かしてはならない。これぞ忍者の掟!

 CABOOOOM!
「「グワーッ!」」

 ふたたび炸裂する戦車砲。
 黒百合に忍者の掟とか通じるわけない。
「許せぬで御座る! 豆柴忍法ハヤブ=サツキ! イヤーッ!」
 ロングスカートをひるがえして、スタイリッシュに斬りかかる源一。超カッコイイ!
「平和な世界を築くために、私はあえて剣を取る……! 行くぞ、ルインズ忍法・フー=ホー!」
 静矢は源一と並走しながら、さらさらヘアーをなびかせて突撃! 超イケメン!
 そんな二人だけの忍者軍団を、黒百合は数万のディアボロ軍団で迎え撃つ。
「忍者死すべし。慈悲はないわよォ……?」
「「アバーッ!」」
 源一と静矢は、木っ端微塵に爆発四散した。
 ていうか、勝てるわけなかった。ナムアミダブツ!



● 桜花(jb0392)&深森木葉(jb1711)+源一(友情出演)

「好きな夢が見れる枕か……。どこまで見れるのかっていう疑問はあるけど、まずはソフトな夢から見よっかな」
 128人のイタリア配管工を動かす脳性能テストはまたの機会にして、桜花は欲望に忠実なまま眠りに落ちた。
 場面は、どこかの公園。
 そこへ、メイド姿の源一がやってくる。
「桜花殿。一緒に遊ぶで御座るよ」
 リアルの源一がこんな発言するとは思えないが、桜花の夢だから仕方ない。
 しかも、やってきたのは源一だけではなかった。
「あううぅ……なんだか喉が痛いのですぅ……。桜花ちゃんに介抱してほしいですぅ……」
 コンコンと咳をしながら登場したのは、木葉。
「わ、わかった! じゃあ3人でお昼寝しよう! そこに芝生があるから! 健全にお昼寝しようね! 健全に! 超健全に!」
 右手に源一、左手に木葉の手をにぎって、桜花は思わず鼻血を出しそうになった。
 大丈夫。まだ出てない。秒読み段階だけど大丈夫!

 公園はとても静かで、空気は穏やかだった。
 芝生に寝転がった3人は、すぐにウトウトしてしまう。
「すごくあったかいですぅ……」
「お昼寝日和で御座るよ……」
 木葉と源一は、桜花の胸に顔をうずめていた。
 桜花は「うへへへ……」などと呟きつつ挙動不審になりながらも、年上お姉さんとしての威厳を保ちつつ(?)ふたりの頭を撫でている。
 そうしていつのまにか、3人とも寝息を立てるのだった。

「……ふあっ!?」
 目をさましたとき、桜花は真剣に思った。
 どうして目をさましてしまったんだと。
 しかし、冷静に思いなおして彼女は枕を抱きしめる。
「最高でした、また次も使わせてほしいです」
 そして、思い出したように鼻血をたらすのであった。



● カレイドスコープ(jb8089)

「希望どおりの夢を見られる枕ねぇ……。ああ、見たい夢を考えてれば朝になるのか……。なんとも画期的な発明だね……」
 淡々と言いながら、カレイドスコープは枕をいじっていた。
「それはさておいて……。豚肉を色が変わるまで胡麻油で炒めてから、キムチを加えて少し熱が入るぐらいまで更に炒め……。醤油大匙1と花椒小さじ半分ほどを加えて混ぜ……。ごはんに乗せて、仕上げに温泉卵を乗せれば完成……。朝食は豚キムチに決まったね……」

 などと言っている間に、いつのまにやら外は明るくなっていた。
 せっかく夢のような枕を借りたのに、いちども使わず返却するというオチ。
 なぜ、そうなった……。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 赫華Noir・黒百合(ja0422)
重体: −
面白かった!:9人

赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
撃退士・
鳳 静矢(ja3856)

卒業 男 ルインズブレイド
久遠の黒き火焔天・
中津 謳華(ja4212)

大学部5年135組 男 阿修羅
特務大佐・
ファング・CEフィールド(ja7828)

大学部4年2組 男 阿修羅
駆けし風・
緋野 慎(ja8541)

高等部2年12組 男 鬼道忍軍
ウェンランと一緒(夢)・
周 愛奈(ja9363)

中等部1年6組 女 ダアト
男だから(威圧)・
文 銀海(jb0005)

卒業 男 アストラルヴァンガード
肉欲の虜・
桜花(jb0392)

大学部2年129組 女 インフィルトレイター
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
ラブコメ仮面・
袋井 雅人(jb1469)

大学部4年2組 男 ナイトウォーカー
ねこのは・
深森 木葉(jb1711)

小等部1年1組 女 陰陽師
正義の忍者・
静馬 源一(jb2368)

高等部2年30組 男 鬼道忍軍
恋愛道場入門・
セリェ・メイア(jb2687)

大学部6年198組 女 ダアト
ファズラに新たな道を示す・
ミリオール=アステローザ(jb2746)

大学部3年148組 女 陰陽師
絆は距離を超えて・
シェリア・ロウ・ド・ロンド(jb3671)

大学部2年6組 女 ダアト
撃退士・
シグリッド=リンドベリ (jb5318)

高等部3年1組 男 バハムートテイマー
久遠ヶ原から愛をこめて・
シエル・ウェスト(jb6351)

卒業 女 ナイトウォーカー
半熟美少女天使・
吾妹 蛍千(jb6597)

大学部1年273組 男 陰陽師
撃退士・
エレハイム(jb7218)

大学部8年98組 女 ディバインナイト
撃退士・
真城風 紗耶(jb7336)

大学部4年160組 女 ルインズブレイド
氷れる華を溶かす・
ロキ(jb7437)

大学部5年311組 女 ダアト
撃退士・
カイン・S・ラスト(jb7656)

大学部5年52組 男 アカシックレコーダー:タイプB
オチ担当・
カレイドスコープ(jb8089)

大学部7年51組 男 阿修羅