ある日の午後。よく晴れた空の下。
チョッパー卍と矢吹亜矢の手によって、よくわからないイベントが開催された。
「さぁ、己の愛するもののために戦え! 骨は拾ってやるぜ! ゲーム開始だ!」
自分は不参加だからと勝手なことを言って、卍は号砲代わりのファイアワークスを打ち上げた。
「リタイアなのですよぉ〜」
号砲の直後。深森木葉(
jb1711)は自らグラウンドの外に出て、戦いを放棄した。
そして、なんと。おにぎりを作りはじめたではないか。
「よいしょっと……。さぁ始めるのですよぉ〜」
用意したお櫃には、あったかごはんがたっぷり。
タッパーには、梅干し、おかか、ツナ、鮭、沢庵などの具も準備されており、お茶も用意済みだ。
「おにぎりはおいしいのですよぉ〜」
こうして退場した人におにぎりをごちそうすることで、おにぎりの優勝を狙う作戦なのだ。……というわけではなく、単にボランティアらしい。
だが、しかし。今回の戦争において、安全な場所などない。
安穏とおにぎり食べてる余裕はないのだ。
「俺が好きなモノは『ラーメン』だっ!」
佐藤としお(
ja2489)は、右手にラーメンどんぶりを掲げて宣言した。
その背後で背中あわせに立っているのは、ヒロッタ・カーストン(
jb6175)
タッグでラーメンの優勝を狙う方針だ。
注目を浴びるのも構わず、としおは大声でラーメン愛を言いつのる。
「どれくらいラーメンが好きか? その思いをここで叫べ? そうかい、なら遠慮なく叫ばせてもらおう……おっとその前に、まずは俺がなんでラーメンを愛するようになったかを説明しなくてはならないね。ではまず、俺とラーメンの出会いから伝えよう。……そう、あれは学園に来る前のことさ。そのころ荒んだ生活を送っていた俺は、幾度となく繰り返す争いの中で手痛い怪我を負っちまったのさ。しかし、そのとき。傷つき倒れた俺の前を、偶然通りすがった屋台のラーメン屋。……その頃の俺はラーメンなんてフニャフニャした食いモンは漢の食べるもんじゃねぇと思……ってオイ! まだ話は終わってねーっ!」
字数が尽きたので以下略。
「つーか、あいつ喋ってばっかで周りを見てねーだろ!」
ヒロッタが苦言を呈した。
なんせ、しゃべってばかりのとしおは周囲を囲まれたことに気付いてないのだ。
「ふ……。ラーメンなんてフニャフニャ料理、フランスパンに勝てる道理がありませんわ」
ふたりの前に、シェリア・ロウ・ド・ロンド(
jb3671)が現れた。
今回の彼女は本気だ。大人げなくも上流階級の全力をあげて、名門ロンド家の資産と技術を結集させたフランスパン。それを両手に抜き放ちながら、シェリアは勝ち誇ったように言う。
「ごらんなさい。これが新たに改良されたパン。生地はフランス最高のパン職人にお願いして、芯を鋼鉄でコーティング。最高の強度を実現しましたわ。戦闘時はミサイル型のベーコンエピが射出される遠距離武器にも変貌。ふふふ……名付けて鋼鉄の仏麺麭(フルメタル・パン=フランセ)!」
ドヤ顔で両手の鈍器を見せびらかすシェリア。
それはもう、どこから見てもパンではない。ただの凶器だ。そこらのV兵器より恐ろしい。
しかし、ヒロッタは慌てない。
「僕のテリトリー(どんぶり)に入ってきたね? 足元をよく見てみろ。それは地面じゃない。地麺だっ!」
「な……っ!?」
おどろくシェリア。MSも驚いたわ。なんなの地麺って。
まぁとりあえず、アウル的な何かだろう。たぶん。
「この麺は、自動で僕たちを守ってくれるんだよ? ……そしてこんな使い方も出来るんだぜ!」
地麺が盛り上がり、としおを天高く持ち上げた。
あっというまに見えなくなり、敷地外へ放り出されるとしお。それでもなお、ラーメン愛を力説している。
「……あれ? ちょっと盛り上がりすぎたか? としおが見えなくなったぞ? 大丈夫か?」
首をひねるヒロッタ。
そこへ、シェリアのパンが突き出された。
「このパリパリクラストを食らいなさい! 絶技! フルメタルパン・バレットストーム!」
ベーコンエピの鋼弾が嵐のように撃ちこまれて、ヒロッタは地麺に倒れた。
「そんなの、パンじゃない……」
「おーっほっほ、勝てばよかろうなのですわァー!」
すっかり悪党スタイルが板に付いてるシェリア。
3戦目ともなると、色々すさんでくるようだ。
そんな彼女の前に、ユリア(
jb2624)が立ちはだかった。
カレーパンの化身とも言える彼女は、パン戦争においては無類の強さを誇る。なんでもアリ戦争でも、やはり無双なのだろうか。
カレーパンをもぐもぐしながら、ユリアは高らかに言い放つ。
「いまこそ、93個のカレーパンLv5の力をひとつに!」
発言内容が完全に常軌を逸しているのだが、これぞユリアのカレーパン愛! 言葉ではなく行動で愛を示すのがユリア流だ!
「いいでしょう。かかってきなさい。ふっくらもちもちのカレーパンなど、フランスパンの硬さの前には紙切れ同然です」
シェリアが二刀流で構えた。
ユリアは右腕をかざして、号令をかける。
「言葉など無用! 圧倒的物量で、すべてを制圧する! 薙ぎ払え!」
「返り討ちにしてみせますわ! フランスパン最強!」
3秒後、シェリアはカレーパンの山に押しつぶされていた。
……うん、相手が悪すぎたわ。
「言葉が無用とは、聞き捨てならないね」
ユリアの実力を目の当たりにしながらも、戦いを挑む者がいた。
日下部司(
jb5638)だ。好きなものとして『言葉』を選んだ彼は、ここで退くわけにいかなかった。
「たしかに、言葉というのは扱いが難しい。言葉を発することで誤解を生み、争いが起きることも否定しない。でもそれ以上に、言葉によってつながれる……つながっていると強く思う瞬間も確かに存在するんだ」
熱く訴える司は、だれよりも真剣だった。
シリアス禁止って言ったのに!
「以心伝心というものは確かにあるし、必要なことだと思う。動物たちは言葉を返さないけれど、言葉を介して本当に繋がっていると思うし……。俺たち人間や天魔が言葉を持っているのには、きっと理由があるんだ。俺たちは相手が思っていることの全てを理解することは絶対にできない。だからこそ言葉を発するんだ……!」
「わかったよ。だったらあたしも言葉を発するね……。カレーパン最強!」
「アバーッ!」
ユリアのカレーパンLv5×93が猛威をふるい、司は何もできずに倒れた。
まぁ、覚悟の上でのことだろう……。
「おつかれさまなのですぅ〜。さぁさぁ、お気を落とさずに、これでも食べてくださいな。おいしいのですよぉ〜」
脱落者たちの元へ、木葉がおにぎりを持ってきた。
としおは学園外まで吹っ飛ばされたので、おにぎり食えず。
そこに顔を見せたのは、村上友里恵(
ja7260)だ。
今回もまた、負傷者をいたぶる……いたわる診療所を開設中である。
そんな友里恵の好きなものは『博愛』!
たぶん、彼女には最も縁遠い言葉だと思う。
「では、ケガをされた皆さん。どうぞこちらへ」
診療所へ案内しようとする友里恵。
シェリアは彼女の診療を受けた経験があるので、首を振ってあとずさる。
「どうか、遠慮なさらず。皆さんが最後まで心置きなく戦えるよう助力する……それが私の生き甲斐なのです♪」
「いえいえ、遠慮しますわ」
「いえいえ、遠慮無用です」
友里恵はシェリアを無理やり診察台に寝かせて縛り上げると、愛情たっぷりハバネロたっぷり蔵倫違反的な物体たっぷりの軟膏を傷口に塗りこんだ。
「qあwせdrf!?」
跳び上がって永眠するシェリア。
「ゆっくりお休みください。私の手当ては完璧なのです。さぁ、次はあなたですね♪」
ヒロッタを見つめて微笑む友里恵。
もはや、どこにも逃げ場はなかった。
「好きなもの……主人以外でなら、やはりおさk……お花! ですね!」
少々口をすべらせぎみなのは、天ヶ瀬紗雪(
ja7147)
争いは好まないのだが、今日は酒のため……もとい花のために参戦!
対するは、稲葉奈津(
jb5860)
好きなものは『メイクアップ(化粧)』だ!
酒に勝つのは難しいが、花になら勝てる!
「ウフフフ、みぃ〜んな可愛くしてあげちゃうゾ♪」
奈津は『気迫』で相手を怯ませると、どこからともなく取り出した荒縄で紗雪を縛り上げた。
そして奈津専用メイクセットを使用しつつ、化粧水&乳液を紗雪の顔に噴射。
「肌のハリを保つため、歳の数だけ叩きなさいって言うわぁ」
奈津の平手打ちが往復して、紗雪の頬を叩いた。どう見ても、ただのビンタである。
赤く晴れた頬には、たっぷりファンデーション。
「あっはぁ♪ これで顔の傷も隠せるわよぉ……?」
邪悪に微笑む奈津。
だが、彼女のターンはまだ終わらない。
ルージュを指に挟むと、紗雪の首筋にキスマークをつける。
「あらあら。おうちに帰ったら大変」
からかうように言って、爆笑する奈津。
紗雪は既婚者なので、わりとシャレにならない。
「どう? めざめた?」
奈津がセクシーな口調で問いかけるが、紗雪は答えない。
しかし、数秒後。にっこり穏やかに微笑むと、紗雪は何でもないことのように荒縄を引きちぎった。そして、言葉を紡ぎ出す。
「花は良いです……育ててよし、観賞してよし、食べてよし。薬にも毒にもなり、あますところがない……。この良さをわかってもらうには、あなた自身が花になるのが一番」
花弁のようなアウルが紗雪の足下から舞い上がり、オリジナル技『花蛍』と『縛の花』が発動した。
「あなたの最期を飾る花。弔いの花。終焉の刻……今ここに咲かせます」
無数の花が、奈津の全身を彩った。
紗雪は何故か両手に一升瓶を持って、ジャグリングしている。ラベルは『花の舞』
まさに、彼女の愛する花と酒の究極コラボだ。
「好きなものは一つしか選べないはずなのにぃぃ……!」
無念の叫びを残して、奈津は倒れた。
すみません。基本的に当MSのイベントは反則上等です。
「一番は恋人です! こればかりは、ゆずれません!」
いつもどおり恋人の月乃宮恋音(
jb1221)を引きつれて、袋井雅人(
jb1469)が颯爽と登場。
公衆の面前にもかかわらず、イチャつき始めようとする二人。
「……そういえば、最近このようなことを始めようとしますと、よく……」
恋音が自らフラグを立てると、待ってましたとばかりにイカ天(イカ型天魔)が襲いかかってきた。
なんでこんなところに天魔がいるのかと思うが、どうやら海から地下水路をたどって学園内に忍び込んだようだ。なんと強引なプレイング。
「まさか学園でイカ天に出会うとは、願ってもない僥倖……もとい不幸! ここは友達汁の出番ですね!」
妙なことを口走りながら、雅人は謎のヌルヌル汁をイカ天めがけて放出した。
ただでさえ粘液ぬるぬるのイカ天は、よりヌルンヌルンに。
そして、何本もの触手が恋音に絡みつく。
「あああ……っ!? なんでこんなコトにぃぃ……っ!?」
身動きできなくなって、デロンデロンにされてしまう恋音。
「た、たすけてください……先輩ぃぃ……!」
扇情的な声で助けを求める恋音だが、雅人は助けるどころかイカ天と一緒になって恋音を弄んでいた。
「やはり恋人こそが至高! というか、すごくHな恋音こそが最高なのです。さあイカ天君、カモン! 私と一緒に恋音を責めまくって、みんなに彼女の魅力を見せつけちゃいましょう!」
色々どうかしているとしか思えない発言だが、雅人が楽しそうなので問題ない。
「……わかりました。先輩がご希望でしたら、いくらでもどうぞ、ですよぉ……」
抵抗をあきらめて、なすがままにされる恋音。
なにをやってるのかとツッコみたいところだが、これは恋人のためなら何をされても平気だという覚悟を見せつけることで、愛の強さを主張する作戦なのだ。
しかし。ふたりが真に主張したいのは、『需要にあわせてキャラクター性を調整するサービス精神』
たしかに、このサービス精神は見上げたものだ。天魔を無理やり召喚してサービスシーンを披露するなど、ほかの誰にも思いつかない。思いついても普通は実行しないけど。
でもまぁ延々と触手に嬲られてるだけなので、戦争に勝つのは無理だった。そりゃそうだ。
「うう……なぜこんなことに……。胃が痛い……」
不二越武志(
jb7228)は、胃を押さえながら戦況を見守っていた。
参加する気などなかったのに、いつのまにか戦争が始まって今さら逃げることもできない状態である。
そんな彼が好きなのは、健康補助食品!
胃弱でマトモに栄養が摂れない武志にとっては、必須アイテムだ。
持ってきたのは、青汁Lv5とミネラルウォーターだけ。
比較的話しかけやすそうな相手を選んで、武志は声をかける。
「正直なところ青汁はマズイが、栄養補給のために飲んでいる。そこのお嬢さん、きみも飲んでみないか? 遠慮は無用だ」
「ふわ……っ!?」
話しかけられたのは、江沢怕遊(
jb6968)だった。
見た目は幼女、中身は男の子の、スイーツ目当てで天界を捨てた堕天使だ。
「青汁はいらないのです。あなたもケーキを食べるのです♪」
「ケ、ケーキ!?」
胃の弱い武志にとって、甘ったるいケーキなど食べられるものではない。
「ケーキは良いのです♪ 色々な種類があって万人の好みに合うのです♪ ケーキは幸せの象徴なのです♪ みんなうれしい時にケーキを食べるのです♪ つまりケーキを食べると幸せになるということなのです♪ みんなケーキを食べて『幸せ♪』になるのです♪」
「ううう……っ」
怕遊の手にした大量のケーキを見て、胃液が逆流しそうになる武志。
「遠慮はいらないのです♪ 特製ケーキをどうぞなのです♪」
怕遊が右手のケーキを投げつけた。
武志の顔面に命中したケーキが、彼の視界を奪い去る。
そこへ左手のケーキが炸裂して、武志の口に押し込まれた。
「もが……っ!?」
胃弱の武志にとっては、鬼のような攻撃である。
さらに、とどめとばかりに怕遊の投げっぱなしジャーマンが発動!
「グワーッ!」
ケーキの山へ頭から突っ込んで、武志は動かなくなった。
その後。村上診療所へ搬送された彼は、無理やりおにぎりを食べさせられてひどい目にあったという。
「怪物は理解不能ゆえ怪物なのだよ。ゆえに私が六十一式にょろーんを撤廃しても不可能なわけだ」
怕遊の前に、鷺谷明(
ja0776)が姿を見せた。
彼の好きなものは『正体不明』
人であって人でないというか、忍者であって忍者でないというか、にょろーんであってにょろーんでないというか。
「人外を倒すのに必要なのは、愛と勇気(ちゃばん)。人間だから、人間でないものに憧れたのだ。AをBに、BをCに、CをDに……」
光纏のON/OFFをくりかえして、めまぐるしく姿を変える明。
「え……? え……?」
怕遊は何が何だかわからず、とまどうばかり。
その隙をついて、明が両手に鉛筆を抜き放った。
「解き放て、我がウロブチックHB鉛筆(エクスカリバー)!」
いや……さすがに、そんな聖剣はないと思うんだ……。
怕遊は両手にケーキを持って身構えた。
それを見て、明が言う。
「嗚呼……愛憎憧憬入り混じる混沌こそ美しい……」
シリアスなセリフを口にした瞬間、明は意識を失って倒れた。最後だけシリアスになったせいというか、最初から最後までシリアスだったというか……混沌すぎてわからない。
「ふぇぇ……!?」
なにもせずに倒れた相手を見て、怕遊は驚愕の声を上げた。
「スキありだよ!」
ぽかんと口を開けた怕遊の顔面に、ユリアのカレーパンLv5が命中した。
「ぐふ……っ。ボクの中で、カレーとケーキがひとつに……」
ケーキとカレーパンという最悪の食べ合わせの前に、怕遊は悶絶しながら倒れた。
「今回はガチって言ってたわよね」
黒い笑みを浮かべながら、シエロ=ヴェルガ(
jb2679)はハリセン片手に登場した。
彼女の好きなものは、このハリセン! 学園に来てから、友人のクリフ・ロジャーズ(
jb2560)にもらったものだ。
「さぁ、ストレスを発散しましょうか」
真顔でハリセンを素振りしながら、シエロはクリフに近付いていった。
「クリフ。このハリセン少し強化したのよ。……避けないわよね?」
恩を仇で返すとは、まさにこのこと。
だが無論、クリフも黙ってやられはしない。
彼の好きなものは『玩具』
その代表として、自作したロボットのヨシダ君をつれてきている。
ヨシダ君の外見は、丸くて怖い目玉、のっぺらぼうみたいな鼻。アゴはしゃくれ、頭も体も四角くて3〜4頭身。色は灰色。口を開ければ「ケヒー」と奇声を上げて鳴き、ロボットらしくカクカク動く。
「ハローハロー。ヨシダだヨー。コワクないヨー」
ギッチョンギッチョンと音を立てて歩く姿は、ちょっとしたホラーだ。
「ちょ……っ! こっち来ないで!」
ヨシダ君の気色悪い動きを見て、認識障害に陥るシエロ。
「ク、クリフが襲われてる! いま助けるぞ!」
状況を正確に誤認しつつ、アダム(
jb2614)が乱入してきた。
光の翼で舞い上がり、シエロの頭上からいちごみるくをぶっかけるアダム。
「きゃっ!? なにするの、アダム! 襲われてるのは私よ! これ上げるから、クリフを捕まえて!」
対アダム用にマシュマロを持ってきたシエロに、抜かりはなかった。
「よし、クリフをつかまえちゃうぞ! くらえ!」
アダムは水鉄砲にいちごみるくを入れて、クリフの顔に発射した。
「目がぁぁ! 目がぁぁっ!」
視界を奪われて認識障害に落ちるクリフ。
「いくわよ、クリフ! いま渾身の! ハリセンキーック!」
シエロがハリセンを手に、クリフの背中へ跳び蹴りを叩きこんだ。
しかし、その直後。襲ってきた吉田君を見て逃げるシエロ。
アダムも一緒になって逃げまどっている。
キャッキャあははと戯れる、仲良し3人組。
きみたち、もうすこし天魔としての自覚を(略
そんなお遊戯会みたいな現場へ。大剣をひっさげて登場したのは、桝本侑吾(
ja8758)
彼の好きなものはズバリ『酒』! しかも、ビールにワイン、日本酒、焼酎、ウィスキーからカクテルまで、あらゆる酒を愛する熱愛ぶりだ! MSは露骨に侑吾を応援します!
「あら、桝本。味方になってくれると思ってたんだけれど……?」
シエロが訊ねた。
「友といえど、ひとたび戦場に立った以上は敵。……否、友だからこそ全力で戦おう」
侑吾は本気だった。
アダムはクリフの後ろに隠れながら、「な、なぐるのか……?」と涙目になっている。
「これが戦争だ。いまこそ、酒の力を見せよう」
「ギャーッ! およしにナッテー!」
背中を見せて逃げだすクリフ。
だが、これは逃げたフリだ。隙をうかがって反撃する構えである。
一方、アダムはいちごみるくをまきちらしながら封砲を発動!
「いちごみるくの本気を見ろ!」
つづけとばかりに、シエロもハリセンを振りかざして殴りかかる。
「3人がかりは卑怯だなんて言わないわよね、桝本」
シエロの言うとおり3対1だが、侑吾は動じなかった。ハリセンやいちごみるくに酒が負けるはずないのだ。
「悪いが、酒を選んだ時点で俺の勝ちだ」
侑吾は全力跳躍で跳び上がり、アダムとシエロの攻撃を華麗に回避した。
そして着地と同時にブチかまされる、真・ウェポォンバァッシュ!
ドバァァァンン!
「「あーーっ!」」
仲良く吹っ飛ぶ、クリフ・アダム&シエロ。
なんだか、エマーソン・レイク&パーマーみたいな響きだ。
さぁ、酒とWBとMSを味方につけた侑吾を止められる者はいるのか!?
もちろん、いる。
たしかに酒は強いが、猫もまた強いのだ!
しかも今回、猫派は4人! 人数では圧倒的だ!
まず立ち向かうのは、シグリッド=リンドベリ(
jb5318)
「ぜったい、ねこさんが一番に決まってます!」
元気に言いながら、こたつに入ってシグリッド登場! しかも猫の着ぐるみを着用して、餌付けした野良猫と戯れている。さらに、こたつの上にはミカン。
こたつ!
みかん!
ねこ!
完璧だ。これぞ日本の冬の過ごしかた。360度いずれから見ても、戦う気ゼロ!
そう。シグリッドは戦争にかこつけて猫と戯れに来ただけなのだ!
「ねこって本当にかわいいですよね。鳴き声で多くの人間を(萌え)殺す……強くて可愛いねこ最強です……!」
うっとり顔で言いながら、猫をモフモフするシグリッド。
「見てください、このガラス細工のような瞳。つややかで滑らかな毛並み。むっちりぷにぷにした肉球……どれをとっても完璧です!」
うん、まぁ、だれも反論はしないんじゃないかな。
「ああ……僕、将来立派なねこになるんだ……」
無茶を言うシグリッドだが、光纏すると猫になる人もいることだし、不可能ではないかもしれない。
いずれにせよ、こたつで猫と遊んでるだけの相手を背後からバッシュして沈めるのは侑吾にとって造作もないことだった。
「勝負の世界は非情だ……」
「その程度の猫愛で、この戦いに挑むとは」
シグリッドがこたつごと吹っ飛ばされたのを見て、ニグレット(
jb3052)は不敵に笑った。
また非情な結果になりそうだなと思いながら、侑吾は様子をうかがう。
「諸君、私は猫が好きだ。我が家の仔猫との会話を目標に日々がんばるくらい好きだ。ふふふ……見よ、これがその一幕だ!」
バッ、と写真がバラまかれた。
そこに写っているのは、猫耳、猫尻尾、猫スーツを装備して子猫の前でニャーニャー言ってるニグレットの姿。
アラサーの女性、しかも悪魔であることを考えると、痛々しすぎる。
「見ろ! タブレットに動画も入ってるぞ! 大音量で垂れ流してくれよう!」
全身猫スタイルで床をゴロゴロしながらニャーニャー言ってるアラサー女性の動画が、スクリーンに展開された。
「どうだ! これが私の猫愛! 生半可な愛しか持たぬ小僧ども程度では直視すらできまい!」
たしかに直視できない。別の意味で。
「痛々しい……」
あまりの光景に、つい本音をもらしてしまう侑吾
その瞬間、ニグレットは自爆。アラサー猫コス写真を盛大にバラまいて轟沈した。
さて、そのころ。
鴉乃宮歌音(
ja0427)はグラウンドの外にイスとテーブルを設けて、優雅に紅茶を飲んでいた。カモミールメインのブレンドティーだ。添えられているのは、上品な甘味のクッキー。
そこへ、チョッパー卍と矢吹亜矢がやってきた。
「主催者か。せっかくだ。一杯飲んでいくと良い」
そう言って、歌音は二人に紅茶を淹れた。
「おお、うめぇなコレ」
「上品なあたしにピッタリね♪」
などと言いだす二人。
それを見て、歌音が言う。
「自分が好きなものを紹介しつつ、他者をリスペクトするのが大事だと、私は思っている。私は紅茶を勧めるが、それで緑茶やバナナオレなどをディスることはない。お好み焼き好きな大阪人がタコ焼きをディスるかね? 広島焼きやキャベツ焼きをディスることはあるだろうが、それをリスペクトするのが大人だ。そも、争いは同レベルのことでしか成立しない。これがグローバリゼーション。そこに優劣はなく、皆ちがうから楽しいのだ」
白衣姿に伊達眼鏡の歌音は、まるで教師のようだった。
「だよねー。争いからは何も生まれないよねー」
クッキーが気に入ったのか、全面同意してしまう亜矢。
すべては彼女の気まぐれから始まった戦争だというのに。
だが、そんな彼女らに天罰がくだるときがきた。
「俺は高みの見物を決め込んでる奴らをドブに沈めるのが大好きなんだぜ」
全身ロボ化して走ってきたのは、ラファル A ユーティライネン(
jb4620)
彼女はロケットアームを発動すると、右手に卍を、左手に亜矢をぶらさげて辺り一面を薙ぎ払った。
歌音は冷静にエスケープして難を逃れたが、木葉をはじめとした何人かの撃退士たちが巻き添えになっている。触手プレイをおたのしみ中の恋音と雅人も、ついでとばかりに吹っ飛ばされた。
ラファルは、いい気になってる天使や悪魔の顔を足蹴にしてご飯3杯はいけるという、地獄の女。まともな戦争には参加せず、非戦闘員から潰していく算段なのだ。
まずは、村上診療所に殴りこみ。
「毎度のようにケガ人をいたぶってんのが気に入らねー」
両手に持ったNPC二人を鈍器代わりにして、友里恵をホームランするラファル。
「てか、おまえら。戦争なんだから死ぬまで戦えよ。傷病記章なんて100年早い」
無茶な難癖をつけて、ラファルはリタイアした参加者たちを次々と殴り飛ばしていく。
とりあえず彼女には、4行前のセリフを振り返ってもらいたい。
「よし、最後にこのレポートを書く報告官も襲撃して……」
やめてください、死んでしまいます。
「ここは止めておきましょう。お酒のために」
駆けつけた紗雪の手から、審判の鎖が飛んだ。
「そうだな。報告官の命は別として、酒は重要だ」
侑吾は淡々とウェポンバッシュを敢行。
こうしてラファルは、多くの犠牲者とともに倒れた。
そんなこんなで。ラファルの大暴れのすえ、残ったのは6人だった。
酒ペアの侑吾と紗雪。
カレーパンのユリア。
そして猫チームの滅炎雷(
ja4615)と崋山轟(
jb7635)
最後に、純情エロの歌音テンペスト(
jb5186)
いつもどおりプレイングが不可解な歌音ペストだが、勝負の行方やいかに。
「俺はとにかく猫が好きだ! どんぐらい好きかっていうと、道端にいる野良猫や道行く飼い猫にも手をつけちまうほど!」
牽制や様子見などせず、轟が突撃した。
狙いはユリアだ。たまたま近かったというだけの理由だが、彼らしい直情径行ぶりである。
「猫の自由奔放な姿を見てると、心が和むんだ。ときどき後ろ足で立ったりとか、かまってほしくて頭こすりつけてくるところとか……。もろもろ含めて、俺は猫が大大大っ好きだ!」
熱血口調でニャンコ愛を語る轟。
胸には可愛い猫を一匹抱いている。それが彼の武器なのだ。
そんな轟のあとを追うように、雷も走りだした。
「猫……それは可愛さと気まぐれさが同居する、愛しい生き物! その凄さを見せるために、僕は頑張る!」
雷は子猫のミーちゃんを頭に乗せていた。
これはかなりのカワユスさ。
だが、相手はカレーパンLv5×93という怪物。
はたして彼らのニャンコ愛は通用するのか?
「いくぜ! まずは構ってポーズで相手を戦意喪失させる『安らぎへの誘い』!」
轟の必殺技が発動した。
同時に、雷のミーちゃんも頭の上でコロンコロンしている。
なかなかの攻撃力だが、無論この程度でカレーパンフィールドは突き崩せない。
「カレーパンが何だってんだ! 猫最強! 猫が最強に決まってんだろぉぉ! くらえ! 肉球乱舞!」
轟の猫が、目にも止まらぬ速度で肉球パンチを繰り出した。
まったく同じタイミングで、ユリアを挟撃するように雷が襲いかかる。
ミーちゃんを頭に乗せたまま、走って行って自らの足で蹴るという技だ。
「くらえ、必殺の猫キック! ……え、猫関係ないって? それは違うよ! 猫を乗せているからこそ、この威力なんだよ!」
一瞬後、ふたりは普通にユリアのMoonlight Dustをくらって倒れた。
まぁ当然の結果と言えば当然の結果ではある。
「猫、バンザイー! ガク……ッ」
意識を失いながらもミーちゃんを守ることを忘れない雷は、真の猫愛好家に違いなかった。
「さすがに強いな……というか、前回よりパワーアップしてないか……?」
侑吾は苦笑した。
彼は過去2回もカレーパンに煮え湯を飲まされており、今日こそリベンジを誓っているのだ。
「無論、相手にとって不足はない。今回、酒を選んだ俺は最強のはず……。カレーパンが何個あろうと、酒の前には無力……のはず……!」
自らに言い聞かせる侑吾。
その横へ、紗雪が並ぶ。
「お酒を愛する者として、ともに戦いましょう。私たちはビアガーデンの平和を守った者同士。知らぬ仲でもありません」
「ありがたい。ならば、同時に行こう」
「はい」
侑吾が大剣をかまえ、紗雪は両手に一升瓶をにぎった。
そして、両者同時にユリアへ斬りかかる。
「ちょっと待ったぁー!」
3人が衝突する寸前、歌音ペストが立ちふさがった。
「最終決戦の前に聞いて! あたしが愛するもの……そう! それは究極の清純エロ! すなわち、蔵倫に触れないエロ! けっして中身は見せず、パンツとチラリズムだけで戦う清らかなエロよ!」
この、頭のネジが衛星軌道上までスッ飛んだような発言。まさに歌音クオリティ。まぁ大部分アドリブだが、本人もこれぐらい言うだろう。
今回の彼女は、Gパン&ヘソ出しブラウスで参戦している。
ベルトを着けてないため、腰元からパンツのみならず腰骨もチラリ。
ブラウスの首元からは、ブラ紐&鎖骨&Gカップの谷間がチラリ。
発動されずに溜めこまれた蔵倫エナジーが大爆発を引き起こし、歌音ペストもろとも4人を吹っ飛ばす。
が、それは序章に過ぎない。
蔵倫エナジーとチラリズムの描く二重螺旋が宇宙の法則を乱して、時空をかきまぜる!
そしてすべての存在をロリorショタまで退行させ、永き闘いに終止符を──
と思ったが、退行した瞬間に侑吾と紗雪は飲酒規制に引っかかって一発退場。
「そ、それは計算外……!」
頭をかかえる歌音ペストだが、彼女の人生で『計算』なんてしたことあるのだろうか。
ともあれ、乱れた時空は一瞬で元にもどり、歌音ペストはカレーパンの雪崩に巻きこまれて帰らぬ人となったのであった。
よけいなことしなければ、酒にも勝ち目あったのに……。
「やった。また勝っちゃった! カレーパンを食べ続けるかぎり、あたしのカレーパン愛が尽きることはないよ!」
極上の笑顔で勝ちポーズを決めるユリア。
彼女のカレーパン愛は、永遠に不滅だ。