校庭に、猫がちょこんと立っていた。(俳句)
「あたしが好きなのは犬よ、犬。猫なんてアウトオブ眼中ね」
開幕早々、すべての猫派を敵に回して登場したのは、日本撃退士攻業 美奈(
jb7003)
毎度おなじみ謎の社歌を「ブレイカー♪ ブレイカー♪」と熱唱するのも忘れない。
彼女は猫ボロを文字どおり猫襤褸にするため参加したのだが、さすがに猫をモフるためだけに参加した撃退士たちの前でそんなことをするほどKYではなかった。言っておくが、けっして命が惜しいわけではない。けっして。
しかし、敵は撃退しなければならない。
そこで美奈のとった妥協案は、『猫ボロを親しみやすく撃退する』という斬新な策。
「極東の島国で唯一存在を許された直立する猫といったら、あいつしかいない。そう、それは、サザ○さんちのタマではない。サイボ○グクロちゃんでもない。そう、それは?(OH兄貴〜、もうだめだー)」
よくわからない溜めを作って、美奈は声を張り上げた。
「それは、ドラピーえもんだー!」
伏せ字失敗してるが大丈夫か、これ。
「猫ボロが生き延びるには、極東島国の人気アイドルに似せるしかない。まず第一に、耳が邪魔なのでサンダーボルトキックで耳を粉砕グワーッ!」
物騒なことを口走る美奈の背中を、ニグレット(
jb3052)がバッサリ斬りつけた。
「我が野望を邪魔する者は許さん!」
忍法『友達汁』をまきちらし、闇の翼をはばたかせて、猫ボロに迫るニグレット。その姿は、まさに悪魔そのもの!
だが、それより早く猫ボロに近付く者がいた。
鳴海鏡花(
jb2683)だ。明鏡止水で潜行しつつ、側面から回りこんで呪縛陣発動!
束縛を食らったニグレットは墜落し、ほかの撃退士たちもその場から動けなくなった。戦闘依頼では微妙な呪縛陣も、コメディでは大活躍だ!
「狙いどおり! 思う存分、モフってモフってモフり倒すでござるー!」
よだれをたらしながら、鏡花は猫ボロに抱きついた。
事前に用意しておいたマタタビをエサに、やりたいほうだいモフりまくる鏡花。猫のおなかに顔をうずめたり、猫耳をはむはむしたり、「かわいいでちゅねー♪」などと頬ずりしたり、とても外見年齢28歳の天使とは思えないありさまだ。彼女は以前にもハムスター型ディアボロをモフりまくって陶酔のあまり失神KOされた経験があるので、今回も無事に済まない可能性が高い。というか、ほぼ確実に無事には済まない。
「どけい! それは私のものだ!」
謎の汁をたらしながら、ニグレットが鏡花を斬り飛ばした。
「ふはははは! 金に飽かせて覚えた、この力! 存分に振るってくれるわ!」
『この力』とは、どんな相手でも友好的になってしまう『かもしれない』友達汁。
無論、天魔相手にも効果抜群だ!……なわけないだろ!
「にゃーん♪」
突撃してきたニグレットの顔面めがけて、『必殺奥義・肉球☆ぱんち』が繰り出された。
完璧なカウンターで炸裂した右ストレートは、一撃でニグレットを戦闘不能に。そのまま太平洋沖まで吹っ飛ばした。
まぁナイトウォーカーの紙装甲じゃ仕方ない。
そういう次元ではないようにも思うが。
「ほらほらー。こわくにゃいよー? 仲間だよー?」
動かなくなった鏡花とニグレットをよそに、姫路明日奈(
jb2281)は四つん這いになりつつ猫じゃらしで敵をおびきよせていた。
近付いてきた猫ボロの顎や頭をなでる明日奈。
まるきり、猫が猫をなでているような光景である。
それと一緒に、シグリッド=リンドベリ(
jb5318)もマタタビを手にして猫ボロをなでていた。
「天魔にもマタタビって効くのかなぁ……?」
退治する気など一切なく、ただモフるためだけに参加した彼は、ネコジャラシや猫缶まで準備済みであり、猫欲を満たすことに抜かりがない。その表情は、とても幸せそうだ。
「猫ボロ……。恐ろしい子……。たった一匹で、これだけの撃退士がメロメロに……」
惨状をまのあたりにして、ソーニャ(
jb2649)は冷静に呟いた。
しかし、こんなこともあろうかと彼女は秘策を用意してある。
猫カフェから、精鋭サバトラ部隊を5匹つれてきたのだ。
いつもどおりよくわからない作戦だが、ソーニャは本気だ。
「さぁ、やぁっておしまい!」
手を振りかざして命令するソーニャ。
そのとたん、対猫ボロ用のマタタビ粉がこぼれて頭からかぶってしまった。袋が破れていたのだ。
当然のように、精鋭サバトラ部隊がソーニャに襲いかかる。
なんという自爆行為。
そのまま全身をぺろぺろされてしまう、ソーニャちゃん13歳。
「いやん、だめ……。まだ明るいうちから、こんなこと……。それにボクたちの仲は秘密だって……」
あちこち舐められて、ぴくんぴくんするソーニャ。
しかし、彼女の戦意はくじけない。
そう。ソーニャは猫型天使! 猫型ディアボロになど負けはしない! そもそも戦ってすらいないというか100%自作自演の一人芝居だが、それとこれとは別問題だ! どういう問題だかは知らん!
「こ……こんなこともあろうかと……!」
ぴくぴく痙攣しながら、ソーニャはマタタビ玉を取り出した。
がちゃぽんのカプセルにマタタビ粉と爆竹を詰めた、手製爆弾だ。(よいこはマネしないように)
炸裂するマタタビ玉。
「「にゃお〜ん」」
匂いにつられて、あたり一帯から野良猫が集まってきた。
これぞ、ソーニャの切り札。大量無差別モフモフ兵器!
集まった猫たちは、いっせいにソーニャをぺろぺろしはじめる。そりゃまぁ、そうなるわ。
「にぁあああああ……っ!?」
あんな所やこんな所まで、全身くまなく舐め尽くされて、ソーニャはビクンビクンするだけだった。
策士ソーニャの戦術に、ミスという文字はない!
こんな危険な相手は、たとえ無害でも排除しなきゃ!
最初はそう考えていた桜花(
jb0392)だが、現状を前にして彼女は動けずにいた。
なにしろ、目の前にいるのは子猫と戯れるローティーンのピチピチ少年少女たち。真性ロリショタの桜花にとっては、天国のような光景である。いや、天国そのものだ。
「も……もう耐えられない! 私も仲間に入れて!」
よだれをたらしながら突撃する桜花。
「うわ……っ!?」
いきなり背後からモフモフされて、跳び上がるシグリッド。
「ね、猫はこっちですよ!?」
「うんうん。猫はこっちだよね」
桜花は聞く耳持たずにシグリッドをモフモフなでなでしていた。
彼女の行動に、迷いやブレは一切ない!
「にゃー! ボクもモフってほしいにゃー!」
明日奈がコロンと仰向けに転がって、おなかを見せた。
その姿を見て、桜花が「う……っ!」と呻き声を上げる。鼻をおさえているのは、鼻血を防ぐためだ。最近すっかり鼻血担当の彼女だが、今回は大丈夫。たぶん大丈夫! まぁちょっと覚悟はしておけ。
「待て! 明日奈をモフるのは私の役だ!」
颯爽と参上したのは、姫路神楽(
jb0862)
仰向けになった明日奈の頭やおなかをなでまくる姿は、だいぶ理性を失っているようだ。
「にゃふー♪」
「ああ、明日奈はかわいいなぁ……」
猫ボロそっちのけで、公然とイチャつく神楽と明日奈。
天魔退治どころか天魔をいっさい相手する気がない神楽は、そもそも明日奈をモフるためだけに今回の依頼を受けたのだ。そのモフ欲は相当なものである。
「猫なんて、明日奈のかわいさに比べたらゴミみたいなもの……。ああ、かわいいよ……かわいいよ、明日奈……」
「にゃー♪」
「こっちを見て。……そう、その角度。いいね」
などと言いながら、カメラで明日奈を撮りまくる神楽。
はためには、完全に百合ップルである。いいぞ、もっとやれ。というか、どこまでやっていいのか書いてほしかった。
「うう……私もカメラ持ってくればよかった……」
猫プレイに興じる神楽と明日奈を見つめながら、残念そうに呟く桜花。
その眼前で、神楽と明日奈のプレイは段々とエスカレートしていく。
「もふもふ……。ああ、猫ボロは駄目でも、この猫なら持ち帰ってもいいよね? むしろ、持ち帰るべきだよね?」
だれにともなく問いかける神楽。
明日奈は、ごろごろすりすりしながらモフられる一方だ。
「お、おねがい! 私にもモフらせて!」
ついに我慢できなくなって、桜花が懇願した。
しかし、神楽はあまり良い顔をしない。それは当然だ。いくら同性とはいえ、恋人の体を他人に触らせるのはイヤだろう。
「おねがい! ほんのちょっとだけでいいから! ほんとに! ちょっとだけなんで! さきっぽだけなんで!」
必死で欲望を訴える桜花さん。
「いや、あの……」
神楽は少々ヒキ気味だった。
それを見て、明日奈が言う。
「にゃ。ちょっとじゃなくて、いっぱいモフってにゃー」
「あ、ありがとう! じゃあモフるよ? モフっちゃうよ? 好きなようにしていいんだね? やりたい放題だね?」
だれもそんなことは言ってないのだが、桜花だから仕方ない。鼻血を流してしまうのも仕方ない。うん。今回は大丈夫かと思ったが、やっぱり駄目だった。次あたり、鼻血関連の称号あげますね。
──という流れで、現状はこうなっている。
美奈:ニグレットに斬られてKO。
鏡花;同上。
ニグレット:肉球ぱんちで太平洋に出張中。
ソーニャ:猫軍団にぺろぺろされて自爆KO。
神楽&明日奈:いちゃいちゃ。もっとやれ。
桜花:明日奈もふもふ。
シグリッド:猫もふ。
なんと、本来の目的を実行してるのがシグリッドしかいない!
いやまぁ、依頼内容は飽くまでも猫ボロを撃退することなのだが。
「一人占めしていいのかな……」
疑問に思いながらも、シグリッドは好きなように猫ボロをモフっていた。
ときどき肉球パンチや尻尾スイングが命中したりするが、冷静なシグリッドにとっては何のダメージにもならない。一撃で太平洋まで吹っ飛ばされたニグレットとは、えらい違いである。名前は似てるのに。って、まったく関係ない。
「まぁ、たしかにかわいいけど……」
猫じゃらしで遊びながら、このあとどうしようかなとシグリッドは考えていた。なんせ、猫ボロを撃退できそうな位置にいるのが自分だけなのだ。年上のお姉さんたちは、まるで頼りになりそうもない。とくにアラサーのお姉さん二人は、ひどいありさまだ。ひとりは、この場にすらいないし。
「く……っ。不意打ちを食らうとは不覚……」
そのとき。鏡花がよろめきながら立ち上がった。頭からは血が流れている。
「大丈夫ですか?」と、シグリッドが問いかけた。
「ふ……。この程度のダメージで拙者のモフ欲が消えることはござらん!」
鏡花は再び明鏡止水を発動すると、呪縛陣で猫ボロの動きを封じ込めた。
そして、欲望丸出しの表情で猫ボロに襲いかかる。
オリジナル技『我 欲 解 放(Unleash The Fire)!』
二本足で立つアメショの背後から、もふっと抱きつく鏡花。
「おおお……! なんという愛らしさ! なんという柔らかさ! もっふもっふでござるぅぅぅ……っっ!」
猫の背中に顔をうずめて、頬ずりしまくる鏡花。
この状態になってしまった彼女を止められる者は、どこにもいない。
いや、ひとりだけいる。猫ボロ本人だ。
「にゃにゃにゃっ!」
肉球ジャブからの肉球ストレート。さらにとどめの肉球アッパーが叩きこまれて、鏡花は大迫力の見開きページで脳天からリング外へ墜落した。
ドグシャアアアアッ!!
すさまじい音をたてて、鏡花は血みどろのまま動かなくなった。
が、その顔は全てをやりとげたかのように満足げだったという。
「はっはっは! 猫ごときに負けるとは!」
闇の翼をひるがえし、頭に昆布をのっけて舞い戻ったのは、ニグレット。
おお、太平洋まで吹っ飛ばされたにもかかわらず戻ってくるとは、なんと見上げたモフ欲か! てっきり出番は終わったと思っていたぞ!
「行くぞ! 今度こそ、お友達になるのだ!」
海水まじりの友達汁をまきちらして、ニグレットは真正面から突撃した。
さっきカウンターくらったのとまったく同じ行動なのだが、今度は何か策があるのだろうか。
「これぞ、忍法友達汁! さぁ、いさぎよくお友達になってしまうが良い! そして未来永劫モフられ続けるが良いわ!」
ニグレットの手が、猫ボロのおなかに触れた。
そのフワフワもふもふの感触たるや、顔面がとろけそうなほどである。
「これは……なんというモフ度……! もふっ! もふもふもふ……っ!」
しかし、ニグレットがモフモフを味わえたのは3秒間だけだった。
友達汁の効果もむなしく、豪快に薙ぎ払われる『しっぽ☆ふるすいんぐ』
グワァラゴワガキーン!!
ふわふわの尻尾から有り得ない打撃音が飛び出して、ニグレットはまたも海まで吹っ飛ばされた。
「我が人生に一片の悔いなし……。ふふふ……やった、やったぞ……」
海面にぷかぷか浮かびながら、ニグレットは安らかに微笑んでいた。
「さぁ、猫欲に取り憑かれた者たちは死んだ! 撃退士攻業美奈さんの出番だ!」
青ペンキを手に提げて、美奈が名乗りを上げた。
彼女は独自の理論で猫ボロを親しみやすく撃退するため、敵を猫型ロボットっぽくしようと考えている。
まず最初に、サンダーボルトキックで耳を粉砕!
「ぎにゃ〜!」
そして四次元なポケットの代わりに、アップリケを無理やり装備させる。
さらに猫ボロの頭から青ペンキをぶっかけて、ピーどらピーえもんピーの完成!
知らない人が見たら完全に動物愛護法違反だが、相手は天魔なので問題ない!
「食らえ! トンファーキィィック!」
両手にアイスウィップを持って、喧嘩キックをぶちこむ美奈。
あわれなディアボロは、たった一撃で爆発四散。
こうして、依頼は無事に成功したのであった。
「うぬぬ……。よもや、平気で子猫を蹴り殺すとは……悪魔か、あの女は……」
遠くから一部始終を観察していた悪魔が、くやしそうに歯軋りした。
猫ボロで撃退士たちを骨抜きにする作戦は、完全に失敗である。
「……いや、しかし、撃退士2人を倒すことはできた。発想は間違ってないはずだ……。もっとかわいい動物をディアボロにすれば良いのでは……? 猫以上にかわいい動物を、だ。たとえば、そう。ハムスターとか……」
彼の作戦が日の目を見ることは、おそらく永久にないだろう。