遠足当日。猛烈な雷雨の中、25人の撃退士が立っていた。
降りしきる豪雨。
荒れ狂う突風。
そこかしこに落ちる稲妻。
地球最後の日みたいな荒天だが、この程度で延期されるほど久遠ヶ原の遠足は甘くない!
サバイバル遠足開幕だ!
「さぁ行くわよ!」
いきなりルールをぶち破って闇の翼で舞い上がったのは、咲・ギネヴィア・マックスウェル(
jb2817)
3秒後、彼女は引率教師のイカロスバレットで撃墜された。
どぼーーん!
「I'll be back...」
親指を立てて、クールに海へ沈んでいくギネヴィアさん。
そこへ鮫がやってきて、パクッとな。
以上!
と言いたいところだが、じつはこれこそ咲の狙い! 鮫の血を利用して共食いさせる作戦なのだ!
「さぁランチタイムだ!」
透過能力で鮫の攻撃をしのぎ、内臓をぶちやぶる咲。
血の匂いに引かれた鮫が、同士討ちをはじめる。
「召喚!」
咲は意思疎通でクジラを呼び寄せると、どこかのストライダーみたいに背中へ飛び乗り、島へと旅立った。
が──
「ま、まて! そっちじゃない! 右だ、右! 面舵いっぱーい! おい、言うことを聞け! どこへ行く気だぁぁ!」
数日後、咲はグリーンランドで発見されたとかされないとか。
「私に秘策あり!」
二番手。ずばーんと見開きで登場したのは、ラテン・ロロウス(
jb5646)
「このところ出オチと自爆ばかりだが、今回は違う! 今日の私は動物マスターだ! 皆交渉してムツゴ□ウ王国ならぬラテン帝国を築いてくれる!」
猛然と飛び出したラテンは、血のしたたるカマボコで鮫のシャア君と交渉開始。
カマボコごと食われるラテン!
「グワーッ!」
次に現れたのは、北極熊のセキグチ君。
なんで伊豆に北極熊がいるのかと言いたいが、たぶん動物園から脱走したんだ。
「このイクラで私を運んでくれ!」
イクラごと食われるラテン!
「アイエエエエ!」
つぎにやってきたのは、リトルグレイのタケダ君。
コメディとはいえ宇宙人は出せないから、リトルグレイという名のシャチだ!
「タケダくん、キャトって島まで運んでくれ! 鉄くずあげるから!」
鉄くずごと食われるラテン!
「アバーッ!」
最後に襲いかかってきたのは、はぐれディアボロのフライングサザエ!
ラテンは器用に飛び乗り、それを土台にして持参した火薬に点火。
爆煙とともに上空へ吹っ飛び、そのまま病院送りになった。
以上!
「いまの時点で覚えられるスキルは(大体)ぜんぶ覚えた! これで勝つる!」
グリーンアイス(
jb3053)は、あぶない水着姿で登場!
いやいや、待て待て。炎陣球! 炎陣球!
「……って。なによ、この大雨! 白い砂浜は!? サンゴ礁は!? サバイバルって何!?」
サバイバルはサバイバルです。
「まーいいや。鼻の下のばしたモブ男子でも囲っておくか。おとり用に。……って、モブ男子ゼロ!?」
まぁ参加者25人なんで……。こんな自殺系遠足に参加するモブはいないんで……。
「まぁいいわ。ただの鮫なんて、物質透過で楽勝! 天使を甘く見ないでね!」
ザブーンと海に飛びこんだグリーンアイスは、華麗に泳ぎだした。
襲いかかってくる人食い鮫を、宣言どおり透過で回避。
そこへやってきたのは、メガロドンみたいな巨大鮫だ。
「ふ……。どんな相手だろうと、透過の前には無力!」
グリーンアイスはドヤ顔で突っ込んでいったが、あいにく敵は鮫型のディアボロだった。
「ウソォォォォッ!?」
おいしく食べられてしまうグリーンアイスさん18歳。
以上、開幕自爆ネタ3名の熱演でした。
ひきつづき、遠足をおたのしみください。
「さぁ今日は楽しい遠足だ! みんな頑張ろう!」
3人の犠牲を見なかったことにして、日下部司(
jb5638)は皆を励ました。
最近、思いを新たに再出発することを決めたため、遠足気分とあいまってアドレナリンが大放出なのだ。
もういちど言っておくが、嵐のような雷雨の中である。
「これは遠足というより合宿だと思うのだが……」
ルチル・スターチス(
jb7031)は、競技用水着で登場。
Aカップの胸は少々残念だが、水の抵抗が少ないぶん遠泳には有利だ!
「よぉし! 目的地に向かって、れっつらごーだ!」
佐藤としお(
ja2489)が、拳を突き上げた。
なぜかフンドシ一丁の彼は、えらく気合いが入っている。
「ふむ……。サバイバルで鯖いば……いやなんでもない」
言いかけて口を閉ざしたのは、スリーピー(
jb6449)
その背中は、歴戦の撃退士らしく古傷だらけだ。
まぁ全部自分でつけた傷なんだが。
「がんばるぞー!」
声高く宣言するのは、並木坂・マオ(
ja0317)
できれば、どうやって頑張るのか書いてほしかった!
「過酷な遠足ですが、がんばりましょう」
ユウ(
jb5639)は入念に準備運動してから、砂浜に立った。
防水ドライバッグに食料品や衣料を詰めこみ、準備は万全だ。
そして、いっせいに海へ飛びこむ撃退士たち。
そこへ盛大に水柱を噴き上げたのは、ラファル A ユーティライネン(
jb4620)
ヘルゴートで全身ロボ化した彼女は、まるでどこかの装甲騎兵だ。
足の裏からハイドロジェットを噴射したラファルは、群がる鮫を全火力で迎撃。
「「アバーッ!」」
司やスリーピーなど、数名の撃退士が巻きこまれた。
が、そんなの関係ねぇとばかりに破壊の限りをつくすラファルさん。
ナイトウォーカーだから仕方ない!
そんな中。ものすごい勢いで海を突き進んでいく者がいた。
ミリオール=アステローザ(
jb2746)だ。
なんと彼女は『極光翼』をヒレ代わりにしてマンタみたいに泳いでいるではないか。これは名案! たしかに飛行は禁止だが、翼を使うこと自体は禁止されてない。
「めざせ最高速ですワー♪」
襲ってくるサメは物質透過で受け流し、ぶっちぎりの一位である。
それに続くのは、神凪宗(
ja0435)
移動力15の水上歩行は伊達ではない。
豊富な攻撃スキルで鮫を薙ぎ払い、ひたすら突っ走る。やはり忍軍有利!
「さぁ、いきますよ!」
おなじく忍軍のカーディス=キャットフィールド(
ja7927)も、水上歩行を発動。
しかし、宗ほどスピードが出ない。
というのも、夏木夕乃(
ja9092)を乗せたゴムボートを引っ張っているからだ。
「意外と重いですね……」
「なにか言いました?」
「いえ、なにも」
「あっ、せんぱーい。鮫さんがお友達になりたいそうですぅ」
「Σ!? 鮫さんは、お友達ではなくごはんをご所望なのですよー!」
涙目になるカーディスだが、ここは冷静に影手裏剣を発動!
ファンブル!
「アバニャアアアッ!?」
「せんぱーい、もう1匹きましたよー」
なぜか、にっこり笑う夕乃。妙に楽しそうなのは何故だろう。
「さ、鮫より恐ろしい……」
「なにか言いましたか?」
「な、なにも! 空耳に違いありません!」
全身血だらけになりながら、カーディスは必死でゴムボートを引っ張るのだった。
そんな騒ぎの中、堂々と歩み出たのは若菜白兎(
ja2109)
因幡の白兎の正統後継者たる彼女にとって、鮫の群れはまさに据え膳。
ピピーッ!
白兎が指笛を吹くと、鮫は一直線に並んで橋を作った。
その上をひょいひょい跳んでいく白兎。
これはひどい。
当然、最後は神話どおり丸裸にされちゃうんですよね? 当然ですよね?
「これは試練なの!」
想定外の雷雨に打たれながら、香奈沢風禰(
jb2286)はカマキリの着ぐるみで登場した。
「着ぐるみを持ち込んでる……風禰さんが本気だ」
ごくりと唾を飲みこむ、私市琥珀(
jb5268)
彼もまた、ヤギの着ぐるみ姿である。
「さぁ鬼ヶ島に行くのなの!」
「それは前回の依頼だよ!?」
「とうっ!」
聞く耳持たずに飛びこむ風禰。
琥珀が慌てて追いかける。
たちまち集まってくる鮫の群れ。
「フィーはカマキリなの! 人じゃないの! だから人食い鮫には食べられないの!」
「そのとおり! 僕も謎のヤギさんだよ!」
必死にカマキリとヤギのマネをする二人。
当然、通じるわけがない。
グバアッ、と鮫が飛びかかってくる。
「あぶないっ!」
琥珀が盾を構えて突撃した。
「呪縛陣なの!」
風禰を中心に結界が広がり、鮫と琥珀を束縛した。
「ごぼっ!? お、おぼれる! おぼれる!」
「めざせ鬼ヶ島なのー!」
琥珀が溺れているのにも気付かず、風禰は意気揚々と島をめざすのだった。
「えらく鮫のいる海だな……?」
鋭い眼光で海を見つめるのは、アンネ・ベルセリウス(
ja8216)
「泳いでたら寄ってくるわけか……いや、待てよ、これは……!」
その瞬間。まさに稲妻のごとくアンネに天啓が訪れた。
『フカヒレをとるのです』
「\っしゃああ! 鮫ばっちこーい!/」
わけのわからないテンションで海へ突撃したアンネは、寄ってくる鮫(のヒレ)を千切っては投げ、投げては千切り、ものすごい勢いでフカヒレをGET!
「オラァ! てめぇのフカヒレよこせーっ!」
大剣でヒレを斬り飛ばすアンネ。
周囲は鮫の死骸でいっぱいだ。
その血の匂いで、さらに鮫が集まってくる。
「はっはっは! 取り放題だな!」
なにをしに来たのか、すっかり忘れているアンネであった。
悲鳴が交錯する海岸で、Spica=Virgia=Azlight(
ja8786)は筏を作っていた。
えーと……いや、たしかに禁止しなかったけど……。いいのか、これ。
「いや、これはアリだよな! ルールは守ってる! 私が保証するよ! で、私も乗せてくれないか? 作るの手伝うから!」
声をかけたのは、神係柚莉(
jb7470)
Spicaは、おどおどしながら「いいよ……」とうなずいた。
「なぁなぁ、あたいも仲間に入れてくれへん?」
陽気な態度でやってきたのは、Silly Lunacy(
jb7348)
「おお、いいね! 大勢で組み立てたほうが早いしな!」
気さくに笑う柚莉。
Spicaも無言でうなずく。
こうして3人は撃退士パワーで木を切り倒し、てきぱきとザイルで結びつけ、あっというまに筏を作り上げてしまうのだった。
「さぁて、しゅっぱーつ!」
柚莉は妙に元気だ。
「よっしゃー! 進水式やでー!」
Sillyも、やたらとテンションが高い。
「高波と……潮の流れに注意するの……」
Spicaは、どこまでも慎重だった。
ひどい荒波の中、筏は木の葉のように揺れながらも、沖合い目指して進んでゆく。
そのころ。
月乃宮恋音(
jb1221)と袋井雅人(
jb1469)は、並んで泳いでいた。
「このあたりまで来ると、鮫もいないようですねぇ……」
恋音は自前のフローター(おっぱい!)を利用して、ラクラクと泳いでいる。
え? 小さいほうが有利だったんじゃないかって? なに言ってんだ、でかいほうが有利に決まってんだろ!
「しかし、イヤな予感がします。今年は海で色々ありましたからねぇ」と、雅人。
「そうですねぇ……。いつもの流れだと、そろそろ……」
恋音がフラグを立てた直後。
ドバアアアン!
水柱を立てて、巨大な触手が海面から飛び出した。
「あれはイカ天! 以前戦ったイカ天ですよ!」
雅人は、なぜか笑顔だった。
「うぅ……いやな記憶を思い出してしまったのですよぉぉ……」
「しっかりしてください、恋音さん! 僕たちは撃退士ですよ!」
と言いつつ、スマホを取り出す雅人。
その目の前で、触手が恋音に襲いかかった。
「ひぁあああ……っ!」
あっというまに両手両足を拘束されてしまう恋音。
「すばらしい! みごとなアングルですよ、恋音さん!」
雅人はスマホで撮影なう。
「撮影してないで助けてくださいぃぃ……!」
「おっと、そうですね」
スマホをしまう雅人の前で、いままさに極太の触手が恋音の○○にXXするところだった。
すみません。最近蔵倫が厳しくて。
「必殺技いきます! 暗黒破砕拳・三連撃!」
皆様ごらんください。これが袋井雅人の貴重な産卵……もとい戦闘シーンです。われわれ製作スタッフは、この場面をフィルムにおさめるために何ヶ月もの(略
ともあれ。不埒なイカ天は、雅人の愛によって打ち砕かれた。
「無事ですか、恋音さん」
「……うぅ……ケガはありませんけれど、水着が……」
恋音の着けていた桜色のビキニは、ボロボロになっていた。
「これでは遠足どころではありませんね……。仕方ありません。別の島をめざしましょう!」
「あの……帰るという選択肢は……?」
「なにを言うんです! ここまで来て帰るなんて! 無人島で僕ら二人の愛の巣を作ると約束したじゃありませんか!」
「そ、そのような約束をした覚えはないのですよぉぉ……!」
「これはいけませんね、記憶障害が出ているようです。でも安心してください。僕が恋音さんを守りますからね! さぁ行きましょう!」
そうして二人は、目的地と違う無人島めざして泳ぐのだった。
「……さて、そろそろ頃合いですかね」
黒井明斗(
jb0525)は、全員が海に出たあと満を持して動きだした。
「鮫も生きものです。おなかいっぱいなら、襲ってはこないでしょう」
そう。これが彼の作戦。非情とも言える策だが、こうした冷酷さも撃退士には必要なのだ!
「この遠足を乗り越えてこそ、一人前の撃退士……。みなさんの犠牲は無駄にしません!」
無駄に熱い情熱をたぎらせつつ、明斗は荒波を超えてゆくのだった。
「到着ですワ! 楽勝だったのですワ♪」
島に一番乗りしたのは、ミリオールだった。
彼女は翼をたたむと、方位術で目的地の方角を割り出し、一直線に走りだした。
襲ってくる野生動物は、吸引黒星で撃退しつつエネルギー回復。
「んふー。わたしは食べる側なのですワッ♪」
絶好調のミリオールは難なく樹海を抜けて、断崖に到着。ロッククライミングの要領で、普通に登りだした。
が、この大雨の中での崖登りは自殺行為そのもの。
30mほど登ったところで足を滑らせたミリオールは、あわれ滑落。
とっさに翼を広げた直後、引率教師のイカロスバレットが彼女を撃墜。おしくもリタイアとなった。
「ここが目的の島か……」
二番手に到着したのは、神凪宗。
彼は樹海に入ると壁走りで木を登り、華麗なステップで木の上を跳んでいった。
これなら視界も確保できて、迷う恐れはない。おまけに、熊も蛇も襲っては来れない。グッドアイディア!
じきに彼は崖に辿りつき、迷いなく壁走りで駆け下りた。
……うん、すまない。説明が足りなかった。
というわけで、目的地は上りの崖と下りの崖の2ヶ所あることになった!
で、宗は無事崖下に到着……する前に、雨で弱っていた岸壁が崩れて落下。あえなくリタイア。
「到着なの。鮫さん、ありがとうなの」
三番目に上陸したのは、白兎。
裸にはされない! 残念!
彼女は樹海に入ると、目印をつけながら歩きだした。
ひどく腹が減っているが、まさか蛇や熊を食うわけにはいかない。
やがて彼女は上りの崖に到達した。
「これを上りきれば、お弁当が食べられるの……!」
勢いよく上りはじめた白兎だが、空腹のあまり動けなくなってしまう。
そこへ吹きつける突風。
「うぅ……っ。いまこそ、バナナの封印を解くときなのっ!」
残った力を振り絞り、大ジャンプ!
ガシッ、と崖っぷちに手が届いた直後。雨で弱っていた地盤が(略
「なぁのぉぉぉー!?」
リタイアでごんす。
「方向感覚を失う樹海だと? ふ……。全身機械の俺に、そんな幻覚は通じない」
ラファルは目的地めざして一直線に走っていた。
邪魔する獣にはダークブロウ。鬱陶しい樹木はガトリング砲で粉砕し、脇目もふらずに走り抜ける。
そして、とくに障害もなく崖に到着。下りなので、だいぶラクだ。
ラファルは躊躇なくザイルスパイトで戦闘降下。
お約束どおり地盤が崩れて、墜落するラファル。
だが、落ちた場所が泥沼状になっていたため、運良くセーフ!
「どうやら俺が一番乗りか。楽勝だな」
ドヤ顔で歩きだそうとするラファルだったが、足が動かなかった。
気がつけば、下半身が完全に泥の中へ埋もれている。
そう。ここは底なし沼なのだ!
「聞いてない! 聞いてないぞ……っ!」
もがけばもがくほど沈んでいくラファル。
残念ながら、彼女もリタイアである。
「ようやく着きました……」
ぜぇぜぇと息を切らせて、カーディスがゴムボートを引きずり上げた。
「大変でしたね、先輩。さぁ行きましょう」
「ま、待ってください、夏木さん。すこし休憩を……」
「おなかペコペコなんですぅ。はやく目的地に着いてお弁当食べないと、死んじゃうかも……。あ、もちろん先輩の分も作ってきましたよ?」
「……わかりました。行きましょう」
よろよろと歩きだすカーディス。
ふたりは太陽の位置から方角を導き出すという策を立てていたが、太陽なぞ見えるわけなかった。
必然的に、無策で樹海に入ることになる二人。
カーディスの運命やいかに!
……あ、夕乃は大丈夫なんで。おもに猫忍者が犠牲になるんで。本当なんで。愛され系忍者なんで(肉食獣に)
そのころ、風禰&琥珀ペアも島に着いていた。
潮臭くなったカマぐるみを脱いで、一角獣の着ぐるみに着替える風禰。
「いざ、ジャングルへ突撃なの!」
「よし行こう! まずは、この木に目印を……と」
地味な対策をほどこして、樹海に入る二人。
風禰はツノを方位磁針代わりにして、ワイルドに突き進む。
「これこそ野生児なの!」
襲ってくる獣は、ふたりの息をあわせて撃退。
野生のディアボロは、琥珀が審判の鎖で足止めして駆け抜ける。
やがて彼らの前に現れたのは、上りの崖。
「この先に、お弁当が待ってるのなの!」
風禰はカマふぃに戻って、アイスアックスみたいに鎌を打ち込んだ。
「もしかしたら一番乗りかも」
琥珀も、ヤギの蹄を引っかけながら慎重に登っていく。
コメディ補正によって本来ありえない着ぐるみ性能を引き出した風禰と琥珀は、そのまま崖の上に到達。
「大成功なのー!」
「やったね、風禰さん!」
ガッツポーズをとる二人。
そこへ突然の落雷が落ちて、ゲームオーバー。
島の上空を、一機のヘリが飛んでいた。
乗っているのは、村上友里恵(
ja7260)
および、これまでにリタイアした参加者たち。
そう。本日のダーク村上診療所は、この輸送用ヘリコプター! 今日の遠足があまりに危険であることを訴えて、学園側に用意させたのだ!
「うぅ……お弁当がぁぁ……なのぉぉ……」
担架に寝かされた風禰は、アフロヘアーで訴えた。
「いけません。安静にしてください。お弁当のかわりに、これをどうぞ」
友里恵が持ってきたのは、スッポンの生き血と蔵倫違反の何かを混ぜた、特製栄養ドリンク。
「い、いらないのなの……!」
「遠慮はいけません。さぁ」
仰向けにされた風禰の口へ、ごぼごぼと流し込まれる栄養ドリンク。
「ごふぅぅぅぅ……」
風禰は黒煙を吐き出して沈黙した。
それを見ていた患者たちが、あわてて逃げようとする。
しかし、ここは飛行中の機内。逃げようにも、逃げ場などない。
「動いては駄目ですよ、みなさん。どうか、安静にしてください」
にっこり微笑む、ダーク村上。
そして、いつものようにドクターストップ鉄拳療法が繰り広げられるのであった。
この遠足で脱落した者は、例外なく彼女の治療を受けることになる。
「樹海? 危険生物? 断崖絶壁? そんなもの、勢いとノリで何とかなるでしょ!」
強気に豪語しながら樹海を走るのは、フンドシ姿のとしお。
念のために応急手当と起死回生を活性化させているが、やられるときは大抵一撃なのであまり意味がない。
そんな彼の前に、巨大な熊が立ちふさがった。
「俺を止められるかな!?」
インフィルトレイターにもかかわらず、肉弾戦を挑むとしお。
真正面からがっぷり四つに組むと、上手投げ一閃!
「どうだ。撃退士は強いだろう」
としおは、倒れた熊に手をさしのべた。
その手をつかんで立ち上がる熊。
こうして野生動物との交流を深めた彼は、遠足などすっかり忘れて野生児となり、ターザンのように暮らしていくのでした。
「ア〜アア〜!」
「この森は方向感覚を失うそうだが、残念だったな! もとから方向音痴だ! ヒャッハー!」
世紀末的ハイテンションで、アンネは樹海をほっつき歩いていた。
背中には大量のフカヒレ。
その匂いにつられた熊が、のそっと現れる。
「お、噂どおり熊がいるじゃねーか。よっしゃ、いっちょこーい!」
そして始まる大相撲。
決まり手はドラゴンスープレックスで、アンネの勝利!
星の輝きでマッスルポーズを決めるアンネ。
出会う動物すべてをプロレス技で葬り、やがて彼女は崖に辿りついた。
が、しかし。
「あたいの目的は遠足じゃない! フカヒレだ!」
思い出したように海へ駆けもどるアンネ。
そうして彼女は、気が済むまでフカヒレを採り続けるのだった。
「ふぅ……さすがに鮫は泳ぐのがジョーズだな。まったく、小癪なシャークだ」
島に着いて早々、渾身の駄洒落をぶちかましたのはスリーピー。
周囲の撃退士たちが、エターナルフォースブリザードでも食らったみたいに凍りついた。
「HAHAHA! さすがですね! では俺もひとつ! 樹海に十回行ったと述懐する十回生!」
司の駄洒落が、ブリザードを悪化させる。
体感気温は氷点下だ。
「ストーップ!」
筏から上がってきた柚莉が、すぱぱーんとハリセンでツッこんだ。
「なぜだ……。俺は場をなごませようと……」
後頭部をかかえてうずくまるスリーピー。
「よく見なよ。みんな凍えてるっての!」
柚莉の言うとおりだった。
見れば、マオ、ルチル、ユウの3人が、瞬間凍結されたように固まっているではないか。
「ヘタな駄洒落は……命にかかわる……」
ぼそっと呟くSpica。
「……わかった。今後は気をつけて、寒くない駄洒落をご覧に入れよう」
まるで反省の色が見られないスリーピーであった。
「ところでさ。せっかくだから、みんなで行こうよ。単独行動は危険だし」
提案したのは柚莉だ。
とくに反対する者はいない。
「よーし。じゃあ、このメンバーで樹海に突入だ!」
柚莉が楽しそうに言う。
筏組の3人に、スリーピー、司、ユウ、ルチル、マオを加えた8人である。
「行こう! たのしいたのしい遠足だー! あはははは!」
今日の司は、どこかテンションがおかしい。
「がんばる……」
Spicaは地図とコンパスを取り出して、樹海を見つめた。
雨と雷は激しくなる一方だが、はたして彼女たちは無事に帰還できるのか。それとも、ダーク村上の手に落ちてしまうのか。
8人の撃退士たちは、Spicaの持参したコンパスと地図をたよりに樹海を進んでいった。
「この島には熊がいるそうですね。気をつけないと」
慎重な口ぶりで言うのは、ユウ。
「え? 熊? 熊が出るん? そらええなぁ。みんなで熊カレーでも食べよか!」
無茶なことを言いだすSilly。
カレーを持ってきている者など、いるはずが……
「いいですね。カレーのルーを持ってきてあります」
ユウが、予想外のことを口走った。
「熊カレー? いいねぇ。北海道生まれの私には懐かしい味だ」
柚莉が笑顔を浮かべる。
このスコールみたいな豪雨のことは考えなくていいのかな……と思うルチル。
「よっしゃ。そうと決まれば熊さがしや!」
張り切りだすSilly。
「熊だけに、くまなく探さないとな」
スリーピーが言い、ふたたびブリザードが吹き荒れた。
一同が凍りついたところへ、現れたのは毒蛇。
「スネェェク! ヘビー級の蛇だ!」
お約束の駄洒落をかますスリーピー。
寒さのあまり、だれも動けない。
這い寄ってきた蛇が、マオの足首に噛みついた。
「うぐ……っ!」
あらゆる毒素に耐性がある撃退士だが、駄洒落で体力を奪われていたマオは地面に膝をついてしまった。
「いかん! 毒に詳しいドクターはドコダー!?」
「さ、さむい……さむすぎる……」
「この寒さは雨のせいか! アーメン!」
「ひ、ひどい……」
全自動駄洒落マシンと化したスリーピーの手によってマオは最後の体力を削り取られ、ガクリと崩れ落ちた。
「しっかりしてください! 毒は大したことないはずです!」
ユウがマオの肩をゆさぶった。
が、マオは目をさまさない。
すぐに、ダーク村上の空飛ぶ診療所が現れた。
「どうやらリタイアのようですね……。しかたありません。私たちは、あなたの遺志を継いで目的地をめざします」
キリッと顔を引き締めるユウ。
しかし、彼女たちの道のりは険しい。
というか、スリーピーをどうにかしないと全滅するぞ。
そのころ。明斗は一人マイペースに樹海を歩いていた。
切り株で方角をたしかめつつ、慎重に、真剣に、攻略をめざす。
そこに現れたのは、フライングサザエ!
硬い外殻を持つ、凶悪なディアボロだ! どこが凶悪なのかは知らん! たぶん、野球好きな弟をこき使ったりしてるんだ!
「魔法攻撃が効きそうですね」
明斗の手から、サジタリーアローが飛んだ。
アウルの矢は凶悪なサザエを貫き、偶然とおりかかったスリーピーの側頭部を貫通。駄洒落マシンはそのままリタイアとなった。
「おや……だれかを巻きこんでしまったようですね。まぁ仕方ありません。これは授業ですし、救難処置はあるでしょう」
眼鏡をクイッとしながら、明斗は当然のように言った。
が──
「敵襲! 敵襲! ゲリラ兵だ! 撃て、撃てぇぇ!」
司が声を張り上げ、封砲をぶっぱなした。
「うわ……っ!?」
間一髪でかわす明斗。
ちなみに流れ弾の封砲がカーディスに当たってるのだが、いまは関係ないから忘れてくれ。
「専守防衛……敵は排除……」
Spicaが無表情でライフルを発砲した。
柚莉は拳銃を、ルチルは弓矢を放ち、ユウもマシンガンを掃射する。
とどめにSillyの銃弾が明斗の眉間を撃ち抜き、あっというまに戦闘終了。
数の暴力って恐ろしい。
「大丈夫か? だれもケガしてないか?」
アスヴァンらしく皆の様子を心配するルチル。
見たところ、負傷したのはスリーピーだけだ。負傷っていうかリタイア?
「だれもケガしとらんようやで。ほな、行こかー?」
スリーピーの存在をまるっと無視するSilly。
ユウがうなずく。
「そうですね。約1名、残念な結果になってしまいましたが……正直あの駄洒落ブリザードは厳しいものがありましたし……」
「じゃあ、この6人で改めて出発! ……って、ああっ!?」
司が素っ頓狂な声を上げた。
「どないしたん?」と、Silly。
「い、いや、なんでもない。ちょっと自宅の牛乳の賞味期限を考えてただけだ」
「なんやそれ」
「いや本当になんでもないから」
司は気付いてしまったのだ。自分以外全員女性だということに! つまり、ハーレム状態だという事実に! 口に出せば死亡フラグ確定だから、言えなかったのだ。
(言えば絶対に死ぬ……というか殺される……天の意思によって……)
司はゴクリと唾を飲みこむと、イヤな汗をかきながら歩きだした。
「さぁ行こう! 目的地はすぐそこだ! HAHAHA!」
無理してテンションを上げる司。
その顔には死相が出ていた。
「ここが目的地……」
そう言って、Spicaはザイルとカラビナを出した。
雨で岩盤が弱っているのは一目瞭然だから、ボルダリングではなくトップロープクライミングの要領で降りるほうが安全だ。さいわい、6人編成のチーム。油断しなければ問題ないミッションだ。
「ここは俺が最初に行こう」
すこしでも好印象を与えて、死亡フラグを打ち消そうとする司。
そして、崖下りが始まった。
司は、天に祈るしかない。どれだけ万全であろうと、ザイルが切れたり、落盤事故に巻きこまれたり、雷に打たれたり、謎の人体発火現象に見舞われたりと、死亡原因は無数に存在するのだ。
「たのむ……ハーレムなんていらない。ただ、無事に帰宅させてくれ……!」
祈りは通じた。
とくにアクシデントもなく、司は崖下に降り立ったのである。
底なし沼だったとか、地雷原だったとか、有毒ガスが発生していたとか、そういうことも一切なかった。
「やった……! 死ななかった! 俺は勝った!」
浮かれた拍子に、司は心臓発作を起こして倒れた。
「そんなぁぁ……!」
楽園に男は不要!
「……で、目的地に着いたわけだけど。……どう思う? この景色」
だれにともなく、柚莉が問いかけた。
「どうって言われても……雨雲で何も見えないよね」と、ルチル。
「骨折り損っちぅヤツやな」
Sillyは肩をすくめた。
「ある意味……予想どおり……」
さすがのSpicaも、少々落胆ぎみだ。
「まぁ、ここまで来れたことを誇りましょう。……しかし、たどりつけなかった方々は大丈夫でしょうか……」
ユウが心配そうに言った。
大丈夫。ダーク村上がいるから。みんな丁重な『診療』を受けている。
そのとき。崖の上から声が聞こえた。
カーディスと夕乃だ。
ここに来るまでにドラゴン型サーバントや鈴木土下座ェ門型ディアボロと戦ってきたカーディスは、壁走り以外すべてのスキルを使い果たし、全身ズタボロになっている。
「あとは、ここを駆け下りるだけ……。いきますよ、夏木さん」
「うん。雨で滑りやすくなってるから、気をつけてね♪」
夕乃は、カーディスの背負った籠に入っていた。
「そんなフラグは蹴散らしてみせます!」
走りだすカーディス。
「せんぱい、でっかいハゲタカが!」
「えっ!?」
空を見上げたとたん、カーディスの足が滑った。
「にゃあああっ!?」
びたーん!
大の字で地面に叩きつけられるカーディス。
その上へ、夕乃がボスッと落ちてきた。
いい具合の毛皮がクッションになって、夕乃はセーフ!
カーディスはもちろんアウト!
こうして崖下に集まった女子6名は、適当な所にテントを張ってお弁当を満喫した。
が、おうちに帰るまでが遠足なので、彼女たちの任務はまだ終わっていない──