かぽーん♪
露天温泉に、猿ボロがいた。
その背後から無音歩行で忍び寄るのは、エルリック・リバーフィルド(
ja0112)
どんな相手でも油断は禁物でござる──と、シリアス顔で三味線糸……もといワイヤーをキリキリさせている。
次の瞬間。ワイヤーが螺旋を描いて飛んだ。
キュルルッ、と猿の首に巻きつく鋼糸。
エルリックはすかさず壁走りで木を駆け上り、枝にワイヤーをひっかけて飛び降りた。
「キィィッ!?」
温泉から引きずり出されて宙吊りになる猿ボロ。
エルリックがキメ顔でワイヤーをピィンと弾くと、猿ボロはガクリ絶命。
そこへ、橋場アトリアーナ(
ja1403)のバンカーがぶちこまれた。
首吊り状態のまま、振り子みたいに揺れる猿ボロ。
振り子が戻ってきたところへ、深森木葉(
jb1711)のハリセンが炸裂。
つづけて、東風谷映姫(
jb4067)の雨霧護符が乱れ飛んだ。
とどめにソーニャ(
jb2649)の猿ホイホイ……と思ったが、あわれな猿ボロは既に跡形もなく砕け散っていた。
桜花(
jb0392)は『できるだけ苦しませず、ご退場ねがいたい』と思っていたが、結果はこのとおり。
仕置き終了!
「わあ、すてきな和室ですの。いかにも温泉宿ですの」
部屋に通されたアトリアーナは、目を輝かせた。
「うむ。これぞ日本の侘び寂びでござる」
うなずくエルリック。
彼女は座布団に座ると、「まずはお茶でも」と急須を手にした。
ちなみに、この部屋は二人の貸し切りである。
「では、お茶を飲みながらマッサージしてあげますの」と、アトリアーナが言った。
「マ、マッサージでござるか……」
急に震えだすエルリック。
「はい。前回はちょっとグキィってしてしまいましたが、今回は大丈夫なのです」
「……本当に、痛くないのでござるな?」
「まかせるのです。では、横になるのですのっ!」
言うや否や、アトリアーナは獣のように襲いかかった。
「ぬあ……っ!? 横にという勢いではないでごz」
ばたーーん!
力ずくで押し倒されてしまうエルリック。
「このツボが、疲労回復に効くんですの」
アトリアーナはエルリックの背中へ馬乗りになり、腰に親指を当てた。
「し、慎重にやるでござるよ!? グキィは御免でござるからな!」
「心配無用ですの。ちゃんと加減しますのー」
そう言って、アトリアーナは指に力をこめた。
グギィィッ!
「qあwせdrftgyふじこlp!」
V字型のエビぞりポーズで絶叫するエルリック。
「あ、あら……?」
「『あら?』ではないでござる! いま、人として有り得ない角度になったでござるぞ!」
「じ、じつは体が柔らかくなるツボなのですの!」
「ならば、アトリも柔らかくなるでござる! そこへ寝るでござるよ!」
「え、遠慮しますの!」
「遠慮無用でござるぅぅ!」
「だんじて遠慮しますのぉぉ……!」
ドタンバタンじゃれあう二人は、とてもたのしそうだった。
「おんせん、おんせん、あったかおんせ〜ん♪」
脱衣所で、上機嫌に着物を脱ぐ木葉の姿があった。
それを真正面から堂々とガン見する桜花。
重度のロリコンである彼女は、『合法的に幼女の裸が拝める!』という動機で今回の依頼に参加したのだ。どこにも書いてないけど間違いない。
「うへへ……うふぇへへ……」
いつもなら鼻血を噴いてる場面だが、今日の桜花は対策済み!
そう、ここへ来る前に献血してきたのだ! 1リットルほど!
おかげで死にそうだが、背に腹は代えられない!
やがて服を脱ぎ終えた木葉は、湯着を手に取った。
「ストォォップ! なにしてるの!?」
血相を変えて叫ぶ桜花。
「湯着を……」
「ノー! 今日は女の子だけなんだよ!? 私も裸で入るから木葉も一緒に! ね!」
「は、はい……」
まぁ隠すものもないし、と納得する木葉。
「っしゃあ!」
桜花は『コロンビア』ポーズで、ずばーんと一発脱衣!
そして木葉の手を取ると、誘拐犯じみた手際で温泉へ連れ去るのだった。
ロリショタ桜花さんは、本日も通常営業!
かぽーん♪
「一度、温泉で泳いでみたかったんですよ〜」
湯煙の中、しずかに泳ぐ映姫の姿があった。
そこへ、木葉が飛びこんでくる。
豪快に飛び散る水しぶき。
「きゃっ! やりましたね! おかえしです!」
笑いながら木葉に湯をかける映姫。
木葉も応戦して、お湯のかけあいが始まる。
それを満足げに見守る桜花。
その後ろをちょこちょこっと走る小動物みたいなのは、江沢怕遊(
jb6968)だ。
腰にタオルを巻いているため、女の子にしか見えない。
「待ったぁ! 今日は女の子だけの無礼講! 隠し事はなし!」
桜花は問答無用で怕遊のタオルをはぎとった。
「ふわあっ!?」
「お、男の子……!?」
「あわわっ。タオルを返してくださいですぅ……!」
桜花のほうを見ないようにしながら、怕遊は手をのばした。
その拍子に、足がツルッと滑り──
ビタァァン!
怕遊は桜花を巻きこんでひっくりかえった。
「いたたた……」
気がつけば、怕遊の手にはムニュッとした感触。
一瞬、時間が止まった。
なにしろ、全裸の怕遊が全裸の桜花に乗っかっているのだ!
「うわああっ!? ご、ごめんなさいなのですぅぅっ!」
全身真っ赤になって跳びのく怕遊。
次の瞬間。堰を切ったように、桜花は鼻血を噴き上げた。
その顔は、じつにやすらかだったという。享年16。……これ書くの二度目だぞ。
「やれやれ。さわがしいねぇ」
湯に浸かりながらクイッと猪口をあおるのは、ウェル・ウィアードテイル(
jb7094)
酒と温泉のことしか頭にない彼女は、だれよりも早く湯を浴びて祝杯をあげていた。
戦闘時なにもしなかったので、完全にタダ飯タダ風呂だ。これぞ撃退士冥利に尽きるというもの。
「あの連中は、なにもわかっちゃいないね。温泉の正しい楽しみかたといえば、『富士山を眺めながら一風呂』『日本酒を飲みながら一風呂』が同率一位と決まってるんだ」
日本の温泉は初めてなのに、やたら上から目線のウェル。
「紅葉が綺麗ですね……」
ソーニャも湯にタライを浮かべて、またたびジュースを飲んでいた。
カリスマ猫にゃんな彼女にとって、このジュースは酒と同じ。
じきに酔っぱらったソーニャは、こんなことを言いだした。
「都市伝説で聞いたんですけど、ここってきょぬーの湯なんですよ。この湯に浸かりながら揉むと、大きくなるんですって。だから揉んであげますね」
「ほう。やってみてくれ」
堂々とおっぱいをさらけだすウェル。
ソーニャは後ろに回って、両手でもみもみ。
「これは、なかなかの逸品……」
「ふ。酒の効能さ」
「せっかくなので、もっと小さい人を……」
そのとき。ソーニャと映姫の目が合った。
「私は結構ですぅ〜!」
映姫はクロールで逃げだした。
ソーニャは素早く光の翼で舞い上がり、上空から急降下爆撃もみもみ!
どばあああん!
「にゃああああっ!?」
「これまた、見かけによらぬ充実ぶり……」
酔っぱらいソーニャの狼藉はとどまるところを知らず、次に目をつけたのは怕遊。
「男の娘だから、下を揉んだほうがいいのかな」
「え、遠慮するのですぅぅっ!」
全力で逃げる怕遊。
追うソーニャ。
そこへ、桜花が立ちはだかった。
「駄目だよ、そんなこと! 私も仲間に入れて!」
「じゃあ、はさみうちしましょう」
「がってん!」
そうして、揉みつ揉まれつの裸祭りが始まった。
蔵倫がマッハで発動なので、あとは想像にまかせる!
数十分後。
怕遊、映姫、木葉の3人は全身を上気させて湯に浮かんでいた。
ソーニャも桜花の毒牙にかかり、ぷかーんと浮いている。
そして桜花は全てを成し遂げたかのような顔でヒノキの椅子に座り、真っ白な灰になっていた。
生きているのはウェルだけだ。
「ふぅ……酒がうまいな……」
なにも見なかったかのような顔で、ウェルは夕焼けに染まる富士山を眺めるのだった。
温泉を出て大部屋に戻った撃退士たちは、アザラシみたいにグターッとなっていた。
ウェルだけが、ひとり黙々と酒を飲んでいる。
そこへ、仲居がやってきた。
「お食事のご用意をさせていただきます」
運ばれてきたのは、豪勢きわまる山の幸と海の幸!
しかも、テーブルに乗せきれないほどの量だ。
「なんだか、パンフレットより豪華なのです」
怕遊が目を丸くした。
「ふ……。ここの女将と賭けをしたのさ。私が勝てば、料理のレベルを上げてもらう。負ければ一週間タダ働きをすると」
ウェルが得意げに微笑んだ。
無論、素人に負けるような彼女ではない。
「うわぁ……おいしそうですね」
死んだような目をしていた映姫も、完全復活。いそいそと席について、品定めをはじめる。
そして6人全員がテーブルにつくと、ウェルは日本酒の入ったグラスをかかげた。
ほかの5人は、ジュースやお茶である。
「えー。本日はおつかれさま。うだうだ言うのも面倒なので、とりあえず乾杯!」
「「かんぱ〜い!」」
「おいしそうなのですぅ〜。いっただきま〜す!」
ジュース片手に、ちいさな手まり寿司を頬張る木葉。
「おいしいですぅ〜。ぷりぷりのエビさんなのですぅ〜♪」
「あ、おいしい。この牡丹鍋」
ソーニャは猪肉をハフハフしていた。
仲居によれば、このあたりで獲れたものらしい。野生のシシ肉ほどうまいものは、そうそうない。味噌仕立ての鍋とは相性抜群だ。
「この鮎も、良い塩加減ですね。とても上品なお味です」
映姫は、きれいな箸使いで鮎の塩焼きをほぐしていた。これも地元で獲れたものだ。この季節の鮎は腹に卵を抱えていて、食感が楽しい。
そんな食事風景の中。
桜花は自分の食事をいっさい放棄して、怕遊に料理を食べさせていた。
「ねぇねぇ。次はどれ食べる?」
「じゃあ、茶碗蒸しを……」
「これ? 熱いから、フーってしてあげるね。ふーー。はい、あーん♪」
己の道を歩み続ける桜花は、いま最高に輝いていた。
怕遊もまったく拒否しないので、やりたい放題である。
だれか、彼女を現実に連れ戻してくれ。
そのころ。
別室の二人も、食事を堪能していた。
「はい、エリー。あーんですの」
カニの天ぷらをつまんで、食べさせようとするアトリアーナ。
エルリックが、ザクッとかじりつく。いい音だ。
「味はどうですの?」
「うぅむ……。正直、うまいとしか言いようがないでござる」
そう言って、エルリックもカニ天を箸で持ち上げた。
「食べればわかるでござるよ。あーんするでござる」
「あーん」
そして再び、ザクッという音。
「これはみごとなカニですの。揚げ具合も申し分ありませんの」
「うむ。ひなびた旅館にしては立派なものでござる」
あれこれと評論しながら食事をたのしむ二人。
どちらも料理が好きなので、食べ物には関心が強いのだ。
「次は、この特大エビ天いってみますの?」
「おお、いってしまうでござるか? しかし、天つゆと塩で迷うでござるな……。塩にも、昆布塩と抹茶塩と梅塩があるでござるし……」
「天つゆにも、大根おろしともみじおろしがあるんですの……」
「これはもう、全部ためすしかないでござるな!」
「では、はりきっていきますの!」
ふたりきりで温泉宿というシチュエーションに、やたらテンション高めなカップルであった。
「ふはぁ、食べすぎましたぁ……でも、おいしかったです……」
映姫は仰向けに寝転がって、ふくらんだおなかをポンポンしていた。
「食べすぎて、ねむねむなのですぅ〜。……って、よく見たらもう10時なのです。寝るのです〜」
木葉は、すっかり寝ぼけ顔だ。
「なに言ってるの! 夜はこれから! オールナイトニッポン! サタデーナイトフィーバーだよ!」
今日の桜花は、テンションMAXすぎる。
とりあえず、今日は土曜日じゃないぞ。
「もう無理なのですぅ〜。いっしょに寝るのですぅ〜」
「いっしょに!? それすなわち、ひとつの布団でって意味だよね!? よし、寝よう! いますぐ寝よう! 電光石火で寝よう!」
怒濤の勢いで布団を敷く桜花。
そこへ木葉と怕遊を押し倒し──ついでとばかりに、映姫とソーニャも押し倒す!
ロリッ子3人とショタッ子1人が一枚の布団の上でもつれあう姿は、まさに──
「欲望の宝石箱やぁ〜!」
すぽーんとキャストオフした桜花は、獲物目がけて華麗にルパンダイブ!
お約束なら空振りするかKOされるかの二択だが、拒否する者がいなかったので、とんでもないコトにぃぃぃ!
ってわけで、つづきは見せられないよ!
本日のMVPは蔵倫だ!
「……ん、そろそろ良い頃合でござろうか」
「温泉ですの〜」
皆が寝静まったころ、エルリックとアトリアーナは人目を忍ぶように部屋を出た。
せっかくの温泉。やはり二人きりで楽しみたいのだ。
浴場へ出ると、空には真円を描く月。
「きれいな月ですの……」
「あんなもの、アトリを照らすための照明係に過ぎぬでござる。さぁ、そこに座るでござるよ」
「……はっ! まさか、グキィってするつもりなのです!?」
「考えすぎでござる! 背中を流すだけでござるよ!」
「あら。では遠慮なく、ですの」
アトリアーナは椅子に腰を下ろし、エルリックが後ろに座った。
そして、背中に湯を流す。
「それにしても、アトリの髪は綺麗でござるなー。すこし羨ましくなるでござる」
「髪を誉めてくれるのは嬉しいのですが……エリーはスタイルがいいのですの。背中を洗ってもらうだけで、わかりますの」
なぜわかるのかは言うまでもない。エルリックのおっぱいが背中に当たっているからだ。ここ2年間まったく胸囲の変わらないアトリアーナにしてみれば、うらやましい限りである。
「いやいや、アトリも立派でござるよ。おっと、手が滑ったでござる」
ぽよん♪
「ど、どこをさわってるんですの!? おかえしですの!」
ぷるん♪
なんなの、この百合っぷる。たのしそうすぎる。
そんなこんなで、ふたりは終始キャッキャウフフしながら風呂に浸かってジュースを飲み、夜景を満喫すると、最後は『腰に手をあててフルーツ牛乳一気飲み』の儀式を済ませて部屋へ戻るのだった。
もちろん、おなじ布団で寝たことは言うまでもない。
「やれやれ。そのつもりはなかったが、ぜんぶ見てしまったよ……」
仲良し二人組が去ったあと、岩陰からウェルが現れた。
もうかれこれ一時間ほど、彼女は湯に浸かったまま酒を飲んでいる。
一般人なら確実に死ぬであろう飲みかただが、撃退士かつ悪魔のウェルにとっては何の問題もない。
「いや〜、極楽極楽」
頭に乗せた手ぬぐいで顔を拭き、クイクイッと酒を飲むウェル。
肴は、空に浮かぶ月だ。それだけで、何杯でも飲めてしまう。
さすがに二日酔いが心配になる酒量だが、明日のことは明日考えればいい。いや、いっそのこと朝まで飲みつづければ二日酔いにはならない。よし、そうしよう。
そんなことを考えながら、ウェルはいつまでも酒をあおりつづけるのだった。