その日。たった1匹のナマコを倒すために、7人の撃退士が集まった。
が、これを本気でディアボロ退治と信じているのは、鮫嶋鏡子ただ1人。
ほかの6人は、鏡子のパンチラ撮影のために集まったのだ!
正直トチ狂ってるとしか言いようのない依頼なのだが、こんな案件を引き受けてしまうだけあって、あつまったメンバーもタダモノではなかった。
「俺はスカートをめくりたいから依頼を受けたんじゃない。依頼を受けたからスカートをめくるんだ!」
いきなりワケのわからないことを言いだしたのは、郷田英雄(
ja0378)
『なにを言ってんだコイツは』という視線を浴びながら、彼は熱い口調で続ける。
「おまえら、依頼人からの報告をよく考えるんだ。あの報告によれば、スカートをめくればパンツが見えるという物理法則は無視されている。つまり、いくらスカートをめくろうと、破ろうと、脱がそうと、パンツを見ることはできない! 前提からして不可能なのだ!」
初手からエンジン全開でまくしたてる英雄。
聴衆は唖然とするばかりだ。
「ここで、別視点から考えよう。スカートをめくるという行為は、すなわちパンツを見ることにほかならない。つまり脳内にパンツを思い浮かべ、自らの視覚をごまかすことで、スカートをめくったとも言えよう。この程度のことは、健全な男子の妄想力なら容易だ。肝心なのは、妄想と現実が一致するか否か。……そう、知ってのとおりパンツにも色々ある。色はもちろん、形に関しても、Tバック、紐パン、ドロワーズなど種類豊富で、横縞、水玉、プリントなどの柄も多種多様。さらには布地の種類まで考えれば、その数は天文学的に膨れ上がる。パンツは偉大だ……!」
ここまでパンツのことばかり書いてあるプレイングは初めて見た。
が、英雄の主張はまだ終わらない。
「おちついて、冷静に考えよう。パンツを構成する要素は、色、形、素材の三つ。ここで注目すべきは素材だ。スカートをめくったにも関わらずパンツが見えないとは、どういうことか? こんなことが現実に有り得るのか? ……と、問題提起したところで、俺の回答を述べよう。……いいか、目当てのパンツは、そこにはない。どんなパンツも、『スカートをめくればパンツが見える』という法則をくつがえすことはできないからだ! となれば、パンツもまた物理法則を無視する素材でなければならない。……が、現実にそんなものは存在しない。よって導き出される解は、ノーパン! 彼女はノーパンだったのだよ、ワトソン君!」
700字以上を一気に吐き出して、ビシッ、と鏡子を指差す英雄。
参加者8人だったら、これだけで出番終了だ。
あまりのことに、さすがの鏡子も何も言えない。
だれもがツッコミのタイミングを逃がして、ぽかーんとしていた。
えーと? どうすんだ、これ。
……よし、なにもなかったことにして話を進めるぞ!
すまん、英雄!
だが、ノーパン理論を披露している間のキミは、まちがいなく英雄(ヒーロー)だった!
キミの名は永遠に……すくなくとも明日までは忘れない!
「パンツ野郎はほっといて、さっさと終わらせるぜ」
鏡子が光纏して突撃した。
それを、桐原雅(
ja1822)が引き止める。
「ちょっと待ってくれるかな、鮫嶋さん。アイツはボクに殺らせてもらいたいんだよ」
「あァ? なんでだよ」
「アイツとは、戦わなくちゃいけない理由があるんだ。なぜなら、ボクはアイツの父親の仇だから……」
そう言って、雅は今年の3月に戦ったナマコディアボロのことを語りだした。
その戦いもまた、クソ弱いナマボロをできるだけスタイリッシュに倒すという意味不明の依頼だった。最終的には雅の用意した『普通のナマコ』を8人がかりで惨殺するという前代未聞の結末となったのだが、そのとき殺害したナマコの子供が今日の相手というわけだ。
無論、作り話である。半年前のナマコと今日のナマコに、血のつながりはない。DNA鑑定をすれば一発でバレるのだが、さいわいなことに『おまえの供述には怪しい点があるからナマコのDNAを調べよう』と言いだす者はいなかった。
「じゃあアンタは、わざと殺されてアイツの仇討ちを助けようってのか?」
鏡子も鏡子で、言うことがおかしい。
「ううん。そんなことはしない。ただ正々堂々と戦って、きみの父親は立派なナマコだったよって伝えたいんだ」
「そういうことなら仕方ねぇ。ゆずってやるよ」
「ありがとう。じゃあ、まずは戦闘準備。練気をかけて、闘気解放して、さらに死活……!」
ただのナマコにそこまでするかという念の入れようで自己強化する雅。
だが、これは時間かせぎだ。
この間に誰かがパンチラを成功させれば、それでいい。
しかし、成功できなかった場合には──
「まずは動きを封じるっす!」
九四郎(
jb4076)が、石縛風を発動した。
対象はナマコでなく鏡子だ。しかも、みごと石化成功!
「てめぇ! なにしやがる!」
「すまんっす! 誤爆っす!」
ナマコと鏡子は20mぐらい離れてるのだが、これを誤爆と言い張る四郎も、なかなかの大物だ。
つづけて誤爆した『黒風』が、鏡子のスカートを舞い上がらせる。
しかし、残念。黒い風が邪魔してパンツが見えない!
「風の色がネックになるとは、思いもしなかったっす……!」
「女に暴力をふるうヤツぁ、俺が許さねぇ!」
四郎の後頭部に、英雄の雷打蹴がブチこまれた。
『注目』効果で全員の視線を浴びる英雄。
「仲間を攻撃するとは、ひどいっすよ! 助けてほしいっす!」
皆の視線が英雄に集まる隙をついて、四郎は鏡子のほうへ走りだした。なんと、スカートの中へ避難しようというのだ。
ちなみに四郎は、251cm128kg。
どうやってスカートの中に入るんだと言いたいが、鏡子は石化中なのでどうにかなるかもしれない。
もしや、ラクラクと任務成功か──?
と思われた直後。
草薙雅(
jb1080)のティアマットが尻尾を薙ぎ払い、スパーンと四郎を吹っ飛ばした。
「なんでっすか? なんでっすか? なんで妨害するんすかー!?」
「女性を辱めるのは許さない! やられる前にやり返す! 百倍返しでござる!」
「畜生! 妨害目的で依頼を受けるなっす! こっちは依頼人の熱いスピリットに感銘を受けて、全力で取り組む構えなんすよ!」
「拙者も本気でござる! こんな依頼が成立したのは、学園の恥でござるよ!」
ふたりとも、いささか暴走気味だ。
そこへ拍車をかけるべく、やってきたのはサイボーグ撃退士ラファル A ユーティライネン(
jb4620)
「パンチラなんかに興味ないが、受けた依頼は成功させる! 邪魔する奴には、俺のシャイニングフィンガーが唸るぜ!」
いやいや、ナイトウォーカーにはないから、その技。
「俺もパンツなんかどうでもいいが、これは依頼だ。全力でやらせてもらう!」
パンツを見るためだけに参加した英雄は、クールなキメ顔で騙った。
「だったら、ボクも遠慮しない。堂々と妨害させてもらうよ」
桐原雅は、鏡子をかばうように立ちはだかった。
ここに、『乙女のパンツを護り隊』のW雅ユニットが成立!
「ええと……依頼の目的は『スカートをめくる』でいいんだよね?」
なりゆきを見守りながら、カイン・S・ラスト(
jb7656)は不可解そうに問いかけた。
「ちがうっす! 目的は『パンチラ激写』っすよ!」
もはや隠そうともしない四郎。ある意味すがすがしい。
ただひとり、鏡子だけが状況を把握してなかった。
「さっきから、おまえらの言動がまるで理解できねぇぞ……」
「拙者が説明するでござる。じつは今回『ナマコ退治』というのは、真っ赤な嘘。天魔退治にかこつけて鏡子殿のパンチラを撮影するのが、本当の目的なのでござる!」
草薙雅が、すべてを明かした。
「パンチラ……? なんだそりゃ」
「信じがたいことなれど、事実でござる。真相を伝えたからには、とっととナマコを始末してしまうでござるよ!」
ティアマットがナマコに襲いかかった。
「そうはさせないぜ?」
ラファルは『たまたま買ってあったナマコ』を大量にバラまいた。
さらにテラーエリアを発動し、ナマコを闇の中へ。
「これで、いくら闇の中を攻撃しようとナマコの生死は不明。光の下で全ナマコの死体が観測されないかぎり、生きているかもしれないし、死んでいるかもしれない。これぞ『シュレディンガーのナマコ理論』! テストに出るぜ!」
「なにぃ……?」
理論が理解できなくて、たじろく鏡子。
そもそも、ただのナマコと判明した時点で撃退する必要ないのだが、気付いてないらしい。鏡子は、ちょっと頭脳が残念なのだ。
「いまのうちだ! 3人まとめてパンチラGETだぜ!」
「おう!」
「まかせろっす!」
ラファル、英雄、四郎が一丸となって走り寄った。
「破廉恥な輩どもめ! 返り討ちでござる!」
「こんなことで撃退士同士が戦うなんて馬鹿げてるけど、いまさら引くわけにはいかない!」
草薙と桐原のW雅も、真剣に戦闘モード突入。
それを見て、鏡子が言う。
「いいのか、おまえら。アタシのパンチラを撮るのが任務なんだろ? ンなコトしたら、失敗になっちまうぜ?」
その問いに、W雅は力強くうなずいた。
「拙者には腹案があるでござる。いまは、あの輩どもを撃退するでござるよ」
「あの人たちがボクたちに勝てなければ、そういう運命だったんだよ」
こうして、3vs3のバトルが始まった。
そんな中、カインだけが判断を決めかねている。
「まさか、こんなことになるとは……。しかし、そもそも、あの子のスカートをめくる意味はあるのか? そんなことをしなくとも、あの子は十分かわいいのに。……いや、そういう問題ではないのか。考えてみれば、これは僕にとって初めての依頼……」
カインは「よし」とうなずき、走りだした。
片手には剣。片手にはデジカメ。
「やはり、撃退士として依頼を失敗させるわけにはいかない。戦いは好まないが、仕事だけはさせてもらう……っ!」
「全装備展開! ヘカトンケイル起動! 全員拘束しろ!」
ラファルの背中からロケットアームが飛び出し、鏡子と草薙を押さえつけた。
「なんの! 召喚獣は動けるでござるよ!」
ティアマットがサンダーボルトを放ち、ラファルは周囲のナマコと一緒に吹っ飛んだ。
「この程度でやられる俺じゃ……ぐはっ!」
火事場の馬鹿力で逆転劇を演じようとしたラファルだが、生命力が7しかないので無理だった。って、この魔装値なんなの……。
「ぐ……っ。しくじった……」
ラファル、無念のリタイア。
「行くぜ。闘気解放! そして死活からの雷打蹴!」
英雄が桐原雅に襲いかかった。
「おなじく、闘気解放! 死活からの雷打蹴……と見せかけて、薙ぎ払いだよ!」
「なにぃ……っ!?」
どれだけダメージを受けようと3ターンは動ける死活だが、スタンを食らったら意味なかった。
そこへ鏡子の『黄昏』がぶちこまれ、英雄もゲームオーバー。
「あっというまに2人が……!? しかし、あきらめないっす! この拳に賭けて、パンツをめくるッす!」
言ってることが微妙にヤバい四郎。
女の子のパンツめくったら犯罪だぞ。(スカートでも犯罪です)
「秘技! すべりこみっす!」
ズザーッ、とヘッドスライディングで鏡子のスカートへ潜りこもうとする四郎。
その後頭部に、鏡子の踵落としが炸裂した。
「いまっす……!」
死力を振り絞って顔を上げる四郎。
だが、しかし。
その目に映ったのは、やはり見えそうで見えない鉄壁スカートだった。
「ありえないっす……」
四郎は砂浜に突っ伏し、動かなくなった。
残るはカインだけだ。
「ふ……。これは少々……いや、だいぶ不利だな」
「やめておいたほうがいいよ?」
と、桐原が説得を試みる。
「いや、ここで退いては仲間たちに合わせる顔がない。無理は承知……っ!」
カインは一気に間合いを詰めると、アイスウィップで鏡子のスカートを跳ね上げた。
が、やはり見えない。
「『非常に難しい』は伊達じゃなかったというわけか……」
妙にすがすがしい顔で納得すると、カインは鏡子の肘鉄を浴びて倒れた。
「……ああ。やっちゃったね。これで任務は失敗だけど、ボクは後悔してないよ。撮影するチャンスだって、あったんだし」
桐原雅は、さわやかな笑顔で言った。
「いや、失敗と決めつけるのは早計でござる」と、草薙。
「そういえば、腹案があるとか言ってたね」
「さよう。拙者が鏡子殿の服を借りて、なりすますのでござる。拙者なら、いくらでもパンチラ撮影オーケーでござるからな」
「それは無理があるんじゃないかな……。だったら、ボクがなりすますほうがまだバレにくいと思うよ」
「いやいや、女性にパンチラさせるなど、とんでもない。ここは拙者が……」
「いや、ボクは最初から覚悟してる。まかせてくれないかな」
「いやいや、拙者が」
「いや、ボクが」
どこかの3人組のコントみたいなことをはじめる、W雅。
「なにやってんだ、おまえら」
ようやく鏡子がツッこんだ。
「鏡子殿、ぜひとも拙者に服を貸してほしいでござる」
「いや、ボクに」
「いや、拙者に」
「……いや、どっちにも貸さねーぞ?」
鏡子の言葉に、ふたりは「「そんな!」」と声をそろえた。
「つーか、アタシのパンツを撮影するのが目的なんだろ? それぐらい見せてやるよ。べつに、へるもんでもねぇし」
「それでは、守り抜いた意味がないでござる!」
「アンタらの気持ちだけで十分だよ。だいたい、依頼人に逆らってまでアタシの身を案じてくれた侠気に対して、礼をしないワケにいかねーだろうが」
「しかし……」
「一回しか見せねーからな? ちゃんと撮れよ? ……ほらよっと!」
鏡子が景気よくスカートの裾を跳ね上げた瞬間。
倒れていた英雄が、反射的にデジカメのシャッターを切った。
「白……か……。我がノーパン説は崩壊……。ふ……っ」
そう呟いて、英雄は再び気を失うのであった。
「おそるべき執念でござるな……」
「本当だよ。パンツなんて、ただの布きれなのに……」
あきれはてるW雅。
だが!
「ただの布きれだと!? ちがう! 断じて違うぞ!」
ガバッと起き上がった英雄は、ふたたび熱い口調で語りだした。
「パンツをただの布きれだと言うのなら、紙幣もただの紙切れに過ぎない! 紙幣には額面どおりの価値があると反論するだろうが、そんなものは単なる幻想! 世界が崩壊すれば、ケツを拭く紙にもなりゃしねぇんだ! しかるに、パンツはどうだ? たとえ世界が崩壊しようと、パンツは価値を失わない! いかなる世界においても、パンツの価値は不変! それを『ただの布きれ』などと、無知蒙昧も極まれり! おまえたちには、この世界の真実がまるで見えていない! いいか、教えてやろう! そもそもパンツというものはだな……」