「みなさん、そろいましたね? では調理開始!」
集まった料理人たちを前に、明日羽は号令をかけた。
が──
「待つのぢゃ! わらわも審査員になりたいのぢゃ!」
手をあげたのは、Beatrice(
jb3348)だった。
「審査員に……?」
明日羽はBeatriceを見つめると、チョッパー卍に声をかけた。
「この子と交代して?」
「はァ!?」
「だって席が足りないし。ね?」
「おま……ふざけんな!」
「どっちが?」
その直後。明日羽の手からコメットが放たれて、チョッパーは倒れた。
「じゃ、そこに座ってね?」
「わかったのぢゃ! わらわは公正にジャッジするのぢゃ! ……そして、聞くのぢゃ皆の者! 優勝者には、明日羽から祝福のキスが贈られるのぢゃ! がんばれ野郎ども!」
「野郎は頑張らなくていいよ?」
「なんと!?」
というわけで、審査員の顔ぶれが変わって調理開始!
しょっぱなから想定外だ!
「料理自慢ですか……たまには手のかかるものにしましょうかね」
沙月子(
ja1773)は、ビーフシチューを作っていた。
鍋に油を引き、タマネギを炒めて、デミグラスソース投入。赤ワインを追加して、炒めた牛肉を入れ、ニンジン、ジャガイモ、マッシュルームを足して煮込んでいく。
「ソースから作れば完璧なんですが、さすがに時間がありませんしね……」
少々不満げな月子だが、くつくつと煮込まれるシチューは見るからにうまそうだ。
その横では、大曽根香流(
ja0082)が名古屋名物の台湾ラーメンを作っていた。
料理研究会の長である香流は、お遊びイベントでも手抜きはしない。
まずはフライパンにごま油を引き、刻んだ鷹の爪と挽き肉を炒めて、青ネギ、ニンニクを加えて、酒、砂糖、塩などで味を整える。
麺は、市販の中細ストレート麺。スープは、鶏ガラと煮干しのダブル仕立てだ。
これがまずいはずはない!
「僕の腕がどこまで通用するかわからないけど、参加する限りは優勝をめざそうっと」
楊礼信(
jb3855)は、真剣な顔で料理していた。
彼の家は中華料理店。腕前は、お墨付きだ。
まずは、シメジやキクラゲ、エノキなどのキノコ類を処理して、だし汁を作る。そこへ、醤油と塩胡椒、ごま油にオイスターソースを加えて、紹興酒で中華風にまとめる。ここへ水溶き片栗粉を投入すれば、とろみのあるキノコあんの完成。それができるまでの間に、旬の秋鮭に下味をつけておく。
これまた期待できそうだ。
「さ〜て、腕によりをかけちゃうからね〜」
御堂龍太(
jb0849)は、妙に張り切っていた。
料理好きの彼女……いや彼にとって、今日は腕前を披露する絶好の機会。
作るのは、フルーツケーキだ。
まずはスポンジ生地からだが、普通の生地ではつまらないので林檎と梨をスライスして混ぜ込む。
「いまが旬だものねぇ〜」
そして、焼き上がった生地に生クリームで飾りつけを施し、キウイや蜜柑などのフルーツを乗せていく。
「ふふ……。見るからに美味しそうじゃなぁ〜い?」
実際、彼の美的センスはなかなかのものだった。
「どうです、このカボチャマスク。造形美もさることながら、なんとこのマスク、食べられるんですよ」
そう言って、かぶっていたカボチャを鍋に入れたのはエイルズレトラ マステリオ(
ja2224)
醤油や味醂で味をつけただけの、豪快な煮付けである。
しかし、煮込み始めてしまえば他にやることがない。
「はー。皆さん一生懸命ですね。僕は暇ですし、せっかくだから手伝って差し上げましょうか」
そう言うと、エイルズレトラは忍軍のスキルを駆使してイタズラ開始!
といっても、ささやかなものだ。たとえば、塩と砂糖を入れ替えたり、蜂蜜とエンジンオイルを入れ替えたり。
まったく、ささやかすぎる。
いつも仲良しのクリフ・ロジャーズ(
jb2560)とアダム(
jb2614)は、いちごパフェを作っていた。
まずは、大量の苺をビニール袋に入れて握りつぶす。
「いちごぉぉぉ」
謎の掛け声をあげるアダム。
半液状になった苺を煮込めば、新鮮なピューレの完成だ。
当然アダムは、味見を忘れない。まずはスプーンで一口。
「おいしくできたぞ!」
でも一度では不安なので、もう一口。念のために、もう一口。再確認のために、もう一口……。
「くりふ〜、いちごピューレできた!」
「甘くていい匂いだね……って、なんだか量が少ない気が……」
「味見はたいせつだぞ?」
口のまわりを苺まみれにして、キッパリ言い切るアダムにゃん。
「まぁ、たりると思うけど……」
「たりなければ、また作ればいいぞ!」
「そうだね。じゃあ俺はババロアを作るから、アダムはゼリーをたのむよ」
「まかせろ! ゼリーはいちばん下だからな。ミントでさっぱり味にするんだ!」
「甘いだけじゃなく爽やかさも出すのかー。おいしそうだね♪」
「ふたりで優勝するんだぞ!」
「がんばろうね」
いつでもたのしそうな二人であった。
「出場する以上は優勝を狙いますよ」
楯清十郎(
ja2990)は、なれない手つきで山芋をおろしていた。
天然ものの、いわゆる自然薯である。これで麦とろごはんを作るのだ。しかし、どうにも手元が危なっかしい。
「肌に付くと痒くなりますし、うっかり飛び散ったりしないよう注意しないと……あっ!?」
つるっと滑った山芋が、審査員席の亜矢に命中した。
「これはすみません。ついうっかり」
「うっかりすぎでしょ……」
亜矢の頬には、とろろがベッタリついていた。
そこへ、明日羽がやってくる。
「かゆくない? ふいてあげるね?」
「席にもどれ、変態!」
「でも自分じゃ拭けないでしょ?」
審判の鎖がぶちこまれて、亜矢は動けなくなった。
「な……っ!?」
「ほらね?」
相変わらずの変態無双だが、その後の顛末を書く字数はない。
そんな騒ぎをよそに、ユウ(
jb5639)は淡々と雑炊を作っていた。
はぐれ悪魔の彼女が人間界で始めて食べた、思い出の料理である。
まずは、かつおだしをとる。多めに作って、あまった分は別の鍋に。
そこへ細切りにした大根と人参を入れ、灰汁を取りながら煮込む。
いい具合に火が通ったら、硬めに炊いたごはんを投入。弱火で更に煮込んでいく。
水分が減ったら、あまっただし汁を追加。
このままだしが染みこむまで煮て、あとは食べる直前に溶き卵を流し入れれば完成だ。
「料理は根性です」
物騒なことを口走りながら、ディアドラ(
jb7283)はコロッケを作っていた。
物騒なのは言葉だけではない。なんと彼女は、ただの料理会にも関わらず光纏し、撃退士パワーで牛肉の塊をブッ叩いている。殴打している。殴りまくっている。肉をやわらかくするためだが、そこまでする必要あるのかという狂乱ぶりだ。
「……ふぅ。これぐらいでいいかしら♪」
フルボッコされたバラ肉は、半ミンチ状態だ。
これを小指の爪ぐらいのサイズに切り、つぶしたジャガイモと混ぜて作るのは、田舎のおばあちゃんの味的な、男爵コロッケ。
それだけではない。
南瓜コロッケ、蟹コロッケ、鮭コロッケ、クリームコロッケ……そしてオススメの一品、焼きそばコロッケ!
これは、約一名の審査員から高得点を得られそうだ。
「料理を作る……。故郷雲南の、まったく日本人向けではない、その料理をっ!」
大陸出身の何静花(
jb4794)は、この機会に故郷の味を広めようと意気込んでいた。
作るのは、とくに何でもない家庭料理の野菜炒め。蒸した雲南ハムと乳扇を乗せただけの、素朴な料理だ。
が、大量の唐辛子油が含まれた、この野菜炒め。見た目によらず非常に辛い。日本人の常識を越えたレベルだ。
もっとも、この学園では『常識』なんて言葉は国語辞典でしか見られないが。
「大理いいとこ一度はおいで」
たのしげに言いながら、調理をつづける静花。
じつは虫食文化を披露する案も考えていたのだが、そこは気を使った。
しかし、そこは気など使わず攻めるべきだったかもしれない。
なぜなら、他の参加者が昆虫料理を出すからだ。
「せっかくやるんだ、おいしく作るさ!」
「初めての料理だけど、がんばるよ!」
桜庭葵(
jb7526)と應角アリス(
jb7566)が、声をそろえた。
作るのは、おでんパスタ。初料理にしては難易度高めのコラボだが、大丈夫か?
「はじめるよ! まず、お湯を沸かすの!」
びたーーん!
ガラッシャーーン!
開始早々、鍋をかかえてスッ転ぶアリス。
「だ、大丈夫か?」と、葵。
「だいじょぶ、だいじょぶ」
答えるアリスは鼻血を流していた。
ともあれ、調理再開!
担当は、アリスがおでん。葵がパスタだ。
あきらかに配役が間違ってるというか、そもそもアリスはおでんの作りかたを知らない。なんせ、湯を沸かして具材をぶちこめば完成だと思っているほどだ。
当然できあがったのは、ただの水煮。もちろん味見などしてないぞ!
「これは……」
味見した葵の目が、丸くなった。
料理人の勘が告げる。こりゃヤベェと。
「いや。ここから味を整えれば……!」
大慌てで昆布と鰹のだしをとり、醤油や酒で味を組み立てる葵。
これで形になるかと思いきや。
「おでんって、カラシが付いてるよね? 最初から混ぜちゃえばいいと思うんだ♪」
「ちょ! 待てぇぇ!」
葵の制止も間に合わず、鍋に流し込まれる大量のカラシ。
呆然とする葵だったが、作りなおす時間はなかった。
「こうなれば、『激辛おでんパスタ』で勝負……!」
無理は承知だった。
「料理コンテスト……腕が鳴りますね。これでも、一児の母(育ての親)ですからね。腕に覚えはあります」
真柴真姫(
jb6699)は、得意顔だった。
「秋ですので、旬のカニと百合根のスープをフレンチ風に……」
彼女の手帳には、世界各国の料理レシピが記されている。
そう。真姫の趣味は料理なのだ。
「スープはブイヨンが命……」
「クルトンをやや多めに……」
「仕上げにバジルを……」
などと料理人らしいことを言ってるが、真姫の味覚は超高校級の絶望レベル。作られているものは、凶器に他ならない。
これぞ、真柴真姫のポイズン☆クッキング♪
試食はCMのあとで!
毒料理を作っているのは、真姫だけではなかった。
九条絢斗(
jb2198)も、そのひとり。
料理するのは今日が初めての彼は、いきなりケーキ作りに挑戦!
無謀にもほどがあるが、男にはやらねばならぬときがある! いまがそのときかどうかは知らん!
男だから、こまかいことは気にしない! スポンジ作りは袋ごと! ケーキ作りの常識など完全無視!
「料理に大事なのは愛情だよな」
などと言いつつ、好きなスイーツの名前を呟きながらホイップしまくる絢斗。
愛情のベクトルが間違ってるが、気にすんな!
焼き上がったスポンジは岩石級に硬いが、男なら食える!
男には優しさも必要だから、着色料は使わないぜ!
「妙な色だけど、食えるモンだし平気だろ」
と言いつつ、絢斗は厨房の食材を手当たり次第にトッピング。
苺、大根、椎茸、昆布、鮭、蟹、ハム、トンカツ……
最後に市販のケーキを乗せ、蜂蜜(エンジンオイル)をかければ完成!
無論、味見はしないぞ! 男には過去を振り返る時間などない!
「ふ……。見てなさい、弟よ。優勝して、料理の腕前を証明してみせる!」
天高く包丁を突き上げたのは、陽波飛鳥(
ja3599)
料理ができないことを弟にバカにされた彼女は、それを見返すために参加している。
作るのはカレー。
無難な選択だ。だれが作っても、まずくなりようがない。
しかし、飛鳥の手にかかればカレーもカレーではなくなる。
ただしく作ったはずなのに、なぜか鍋で煮えているのは謎のダークマター。
どう見ても食べ物ではないというか、人間界に存在して良いのかと疑うレベルの物質だが、飛鳥の目には絶品カレーに見えている。優勝めざして料理の特訓をしてきた彼女は、自作料理を食べつづけた副作用で幻覚症状に陥っているのだ。
これぞ、陽波飛鳥のポイズン☆クッキング♪
「あはははは! この勝負、いただいたわ!」
ヤクをキメたみたいな笑顔で、残念な胸を張る飛鳥。
毒料理では負けないよ♪
「冬の定番料理と言ったら、もつ鍋だろう」
がらっぱちで正体ロボなラファル A ユーティライネン(
jb4620)さんは、見た目からして自炊などしそうにないが、ちゃーんと料理できるのだ。
「行くぞ。作戦開始。目標を裁断し、煮沸する。全兵装展開!」
ズシャアアアン!
瞬時に光纏したラファルは、限定偽装解除で機械化ボディに変形!
対天使用化学兵器を起動して、指先のビームで材料を滅多切り!
腹部から噴き出すメカンダー●トームで、鍋ごと煮込めば一丁上がり!
まわりの人たちが盛大に巻きこまれて吹っ飛んでいるが、知ったことではない!
最後の仕上げは、某所で手に入れたゾンビパウダー!
モツがゾンビ化して、恐怖の生け作り鍋が完成!
これぞ、ラファルのヘルズ☆キッチン!
「人間〜五十年〜下天の内を〜なんちゃらら〜」
白装束で敦盛っぽいのを舞いながら登場したのは、矢野古代(
jb1679)
コメディキャラにも関わらず、妙に悲壮な顔つきだ。
「お父さんだけに逝かせはしないで御座るよ……」
おなじく白装束で登場は、静馬源一(
jb2368)
彼もまた、コメディ派のくせして神妙な面持ちだ。こんな源一は珍しい。
「逝こう、源。ここから先は戦場だ……!」
「京都にも劣らぬ戦地で御座る……」
視線を交わし、決死の覚悟を胸に彼らは歩きだした。
迎えるのは、矢野胡桃(
ja2617)と翡翠龍斗(
ja7594)
ふたりが作っているのはカレーだ。『料理は愛情!』を信念に、愛する父のため胡桃が腕をふるったのである。
入っているのは、愛情たっぷりの砂糖(塩)と、蜂蜜(エンジンオイル)!
「父さん、源ちゃん! もうすぐ完成だよ!」
当然食べてもらえると信じて、屈託のない笑みを見せる胡桃。
「あ、ああ……」
「さようで御座るか……」
古代と源一の顔は、末期癌の患者みたいになっている。
「ともかく調理だ、源。俺はカレーを作る」
「自分は玉子焼きで御座る! 今日が友人や家族との今生の別れかもしれぬゆえ、命がけで挑むで御座るよ……!」
真剣な口調で言うと、源一は一心不乱にオムレツを作りはじめた。
やがて、胡桃&龍斗のカレーが完成!
「さぁどうぞ! おいしくできたよ!」
味見せずにカレーをよそう胡桃。
古代と源一は、必死で聞こえないフリを敢行!
「ねぇ、カレーできたってば!」
「「…………」」
イヤな汗をかきながら、虚空を見つめる古代と源一。
すかさず、胡桃は龍斗に泣きついた。
「龍にぃ! 父さんと源ちゃんが食べてくれないっ!」
「それは問題だな……。モモ、先輩の気を引いてくれ」
小声で耳打ちする龍斗。
胡桃はうなずくと、さりげない感じで「あ、こんな所に父さんのPDWが……」と呟いた。
「なに?」
古代が振り返る。
その隙をついて、背後から龍斗の薙ぎ払いが炸裂!
「グワーッ!」
一撃でスタンしてしまう古代。
龍斗は、間髪入れずに源一も拘束。反乱分子2名を、あっというまに無力化した。
「源ちゃん? お姉ちゃんの料理、食べないの? 食べるよね?」
満面の笑顔でカレーをすすめる胡桃。
「か……覚悟は決めたで御座る! たかがカレーごとき、なにするものぞで御座る……っ!」
源一は龍斗の腕をふりほどくと、微笑みを浮かべつつ自らの手でカレーを口に入れた。
おお、なんたる勇気! そう、女の子の手料理ならば、たとえどんな匂いがしようとも、どんな味がしようとも、笑顔で食べるのが男というもの!
「人類の未来は任せたで御座るぅぅ……」
こうして源一は、笑顔のまま灰になった。
「あれ? 源ちゃんの口にはあわなかった?」
首をかしげる胡桃。
一部始終を見ていた古代は顔面蒼白だが、縛られているため身動きできない。
「そうだ! これ、父さんの口に合うように作ったんだ! 源ちゃんは子供だから、辛すぎたんだね!」
うんうんと納得して、胡桃は古代の前に立った。
「さぁ父さんの大好きなカレーだよ!」
「いや、じつを言うと俺はカレーが嫌いなんだ。体質的に、あれだ。カレーアレルギーなんだ」
「でも、さっきカレー作ってたよね?」
「い、いや、あれはカレーじゃない! ハヤシライスだ!」
「見苦しいですよ、先輩。子供の作った料理を食べれない父親が、この世に存在するとは……。すなおに斬滅されますか?」
龍斗が古代の首筋に剣を突きつけて、冷徹に告げた。
「待て、待つんだ! 話せばわかる!」
「問答無用。娘の愛を、その身で受け止めてください」
龍斗は、力ずくで古代の口にカレーを流し込んだ。
「ぐぼァあああッ!?」
ワイヤーで縛られているにも関わらず、ジェットエンジンみたいに火を吐きながら吹っ飛んでいく古代。
次に彼が発見されたのは、病院の集中治療室だったという。
「矢野殿、静馬殿……おぬしらの骨は我が拾うのである。 友人たちの勇姿に敬礼!」
白猫スーツに割烹着姿で青空を見つめるのは、ラカン・シュトラウス(
jb2603)
その瞳には、空の向こうでキラリと輝く古代と源一の笑顔が映っていた。
そんな彼が作るのは、猫焼きだ。
猫を丸焼きに……ではなく、鯛焼きの型を猫にした物である。
外はカリカリ、中はふんわり。
中身は、こしあん、クリーム、チョコの三種類。
見た目も可愛く、食べてもうまい。
「貴殿らは、よく戦ったのである!」
屍状態の古代と源一に猫焼きを食わせるラカン。
と言いたいところだが、古代はこの場にいなかった。
「ふむ……。このカレー、ラカンにも食べさせてやろう。どれだけ食べれば重体になるか、人体実験だ」
冷静に鬼畜な発言をする龍斗。
しかし彼の視線が向けられたとたん、ラカンは全てを察して光の翼を発動。危ういところで難を逃れたのであった。
そんな騒ぎの中。完成した料理が、順々に審査員へと運ばれていた。
一番手は、真姫のフレンチ。いきなり毒物登場だ。
「どうぞ。見た目はもちろん、味のほうも自信があります。存分に御賞味ください」
「おいしそうじゃん。どれどれ」
まっさきに手を出した亜矢は、一口食べて爆発轟沈した。
「これは命に関わりそうぢゃの……」
「亜矢もたまには役に立つね?」
消し炭みたいになった亜矢を見たBeatriceと明日羽は手をつけず、真姫の料理は無得点となった。
「味のわからない審査員とは滑稽ですね……」
真姫は現実を認めず、フッと笑いながら去っていった。
二番手はラファル。
「冬の風物詩、鮮度抜群のモツ鍋だ!」
ドンッ、とテーブルに置かれた鍋の中では、なにか不気味な物が蠢いていた。
「亜矢、起きて? 出番だよ?」
神の兵士で無理やり屍を叩き起こす明日羽。
「ちょ、どう見てもヤバイでしょ、これ!」
「でも、ひとりぐらい試食しないと。ね?」
「あんたがやりなさいよ!」
「亜矢にまかせるよ?」
お約束どおり審判の鎖がぶちこまれ、ゾンビ鍋を流し込まれた亜矢は再び倒れた。
次にやってきたのは、胡桃&龍斗ペア。
「重体者を出したカレーぢゃな。こんなのばかりぢゃのう……」
Beatriceが溜め息をついた。
「亜矢、がんばってね?」
倒れたままの亜矢の口へ、殺戮兵器を流し込む明日羽。
「アバァァーッ!?」
3連毒物コンボをくらって、亜矢は痙攣しながら動かなくなった。
「矢野殿の無念、ここで晴らすのである!」
カレーを手に現れたのは、ラカン。
「ようやく、まともな料理が出てきたのう」
「まぁ普通のカレーだね?」
「7点といったところかの」
「私は5点ね?」
Beatriceはともかく、明日羽の点数は辛すぎる。カレーだけに。
よし、次いこう。
「これは静馬殿の料理なのである」
次にラカンが出したのは、とろとろの半熟オムレツだった。
「ほほう。これはなかなかぢゃ。味もさることながら、料理人の魂がこめられておる。鬼気せまるかのような魂ぢゃ」
「うん。6点かな?」と、明日羽。
「わらわは9点をつけよう」
審査員が一人欠けたせいで、男性にとっては理不尽な逆境が続く。
「そして、これが我の料理である!」
ラカンが最後に出したのは、猫焼き。
「見た目が良いのう。料理は味だけではないのぢゃ」
「でも鯛焼きと同じだよね?」
身も蓋もないことを言う明日羽。
「なにを言う! 猫は鯛よりかわいいのであるぞ!」
「うん。4点ね?」
「わらわは8点ぢゃ」
次に出てきたのは、エイルズレトラのカボチャ料理だ。
「単純な料理ですが、ハロウィンのシーズンにふさわしいかと」
「うーむ。普通すぎるのう。6点ぢゃな」
「味は悪くないけどね? 4点かな?」
さすがに、ただカボチャを煮ただけでは無理ない点数だった。
もっとも、エイルズレトラはイタズラが目的だったので本人は満足げである。
「俺のターン! ギガントケーキ召喚!」
ズドーンと皿を置いたのは、絢斗だ。
「これは見るからにヤバイのう」
「私は試食拒否するよ?」
審査員は冷静だった。
「見た目で判断するんじゃねぇ! たしかに見た目どおりの味かもしれねぇが、俺のスイーツ愛にかけて、甘いモンは残さねぇ! それが俺のジャスティス!」
キラーンと王子様スマイルを輝かせた絢斗は、自ら招いたスイーツテロに特攻。信念とともに散った。
次に行こう。清十郎だ。
「聞くところによると審査委員長はぬるぬるネバネバが好みとのことなので、麦とろ飯を作ってみました。薬味に、刻みネギと海苔、山葵をそえてあります。シンプルですが、味は格別ですよ」
「ふぅん……?」
試食して、明日羽は一言。
「9点」
「は……!?」
驚いたのは清十郎だ。なぜ9点?
「さっきの事故を含めてね? 料理には演出も大切でしょ?」
「ひどい審査ぢゃのう……。わらわは8点ぢゃな」
ともあれ、17点で清十郎がトップ!
「僕は中華で勝負します」
礼信は、キッチンワゴンにコンロを乗せてやってきた。
そして審査員の前で鮭をフライに仕上げ、熱々のキノコあんソースをかける。
ジュワァアアアッ!
煙と音が盛大に噴き上がり、香ばしい匂いが立ちこめた。
「どうぞ。秋鮭のキノコあんかけです」
「これは本格的ぢゃのう」
Beatriceは一口食べるや、「おいしいのぢゃ! 10点なのぢゃ!」と声を上げた。
「これは素人料理じゃないね? でも男か……」
珍しく悩む明日羽。
「味で評価するのぢゃ!」
「8点でいい?」
「ありがとうございます。点数よりも、おいしく食べてもらえたことが嬉しいです」
にっこり微笑む礼信は、料理人の鑑のようだった。
あっというまにトップ入れ替わり!
「にしても、男ばかりなんだけど? 女の子は?」
男の手料理とポイズン料理ばかりで、明日羽は苛立っていた。
そこへ颯爽と参上したのは、オカマの龍太。
「あたしの出番ね。あまぁぁいケーキを召し上がれ♪」
「なんでオカマ……」
「しかし、これは美味なのぢゃ」
Beatriceが言い、明日羽は仕方なく一口。
「たしかに、味は悪くないかな?」
「いやいや、よくできておるぞ?」
「でしょぉ〜? 料理には自信あるんだから。じゃあ採点よろしくね♪」
「5点」
「8点ぢゃな」
「えぇ〜?」
うん。もうすこしプレイングを埋めてほしかった。
「俺たちの番だな」
「はい! おでんパスタだよ!」
ここで、葵とアリスが登場。
「ふたりともかわいいね? 期待しちゃうよ?」
ようやく女の子の手料理が食べられると思って、明日羽は油断していた。
結果、
「ぐぶっ! げぼっ!」
鼻からパスタをたらしながら、明日羽はむせかえった。
「これはアウトなのぢゃ……」
Beatriceは冷静に試食を辞退。
「でもっ! 一生懸命作ったんだよ!」
涙目で訴えるアリス。
それを見て、明日羽が言った。
「大丈夫。私が食べるから、ね?」
「ほんと? やったあ!」
無邪気に喜ぶアリス。
葵が冷静に口をはさむ。
「俺が言うのも何だが、大丈夫か?」
「大丈夫だよ? おいしいから……うん、10点あげるね?」
震え声で言いながら、明日羽は激辛おでんパスタを完食したのであった。
「では、これで口直しをどうぞ」
「じゃーん! いちごパフェだぞ!」
クリフとアダムの出番だった。
「ふむ。じつにまっとうなパフェぢゃのう。9点ぢゃ」
「素人にしては、まぁまぁかな?」
明日羽の言葉を聞いて、アダムはじっと彼女を見つめた。
じーっと。子猫みたいな目で。
おいしいよな? おいしいよな? と、無言で訴える。
「……8点でいい?」
「やった! 17点だぞ!」
「よかったね〜」
無邪気に喜ぶクリフとアダム。
天魔としての自覚を(略
「私の番ですね。これをどうぞ」
月子の料理は、オムライスにビーフシチューをかけたものだった。
玉子は半熟。深皿に盛りつけられたバターライスの上でトロリと花開き、ふくよかな香りのシチューがオムライスの山に流されている。つけあわせは、星形に切られたニンジンとカボチャの甘煮。そしてブロッコリーのおまけつき。
「10点」
食べる前から採点する明日羽。
Beatriceは、じっくり味わってから「10点ぢゃ」と誠実に評価した。
そして明日羽は一口食べると、「13点」と言うのだった。
こうして月子がトップに。
「私の故郷、雲南の料理だ。食べてみろ」
静花が出したのは、乳扇と雲南ハムの入った野菜炒めだ。
「これはまた辛いのぢゃー!」と、Beatrice。
「ん、辛いのは当たり前だろ。湖が多いといっても、雲南は四川の隣で山奥だぞ」
「しかし、辛さの中にも旨味があるのぢゃ! 9点なのぢゃ!」
「私は12点かな?」
静花の体を見ながら、明日羽は微笑んだ。
次に出てきたのは、料理研の香流。
「辛いのが続きますが、どうぞ。台湾ラーメンです。かなり辛いですので、汗をかきながら食べてくださいね☆」
「ほう、台湾のラーメンか」
「いえ、名古屋のラーメンです」
「なんぢゃ? 台湾ラーメンではないのか?」
「それにはわけが……」
字数がないので説明はカット!
「名古屋ローカルにしておくには勿体ないのう。9点ぢゃ」
「12点あげるね?」
高得点連発である。
「このあたりで、さっぱりと雑炊などいかがでしょう」
ユウが、笑顔で椀を持ってきた。
「おお。辛いのが続いたところへ、この雑炊。うれしい組み立てぢゃのう。10点ぢゃ!」
「うん。順番とルックスを加味して、13点かな?」
明日羽の評価基準に対して何か言う者は、もういなかった。
「すこしでも喜んでもらえたみたいで、よかったです」
ユウは控えめに微笑んだ。
「さっぱりしたところで、ふたたびこってりしてもらいましょうか。7種類のコロッケ盛りあわせです」
ディアドラがやってきた、その直後。
「コロッケ!?」
ガバッと亜矢が生き返った。
「はい。コロッケ好きなら百個は軽いですよね?」
「当然よ!」
気絶していた分を取り返すかのように、凄まじい勢いで食べる亜矢。
「本当に食べきってしまいそうですね……」
「もちろん! 点数は10点!」
「わらわは8点ぢゃな」
「私は11点ね?」
29点獲得で、ディアドラがトップ!
とても公正!
残るは3人。
丁香紫(
ja8460)は、謎の料理を持ってきた。
見た目は、かりんとうを大学芋にしたような感じだ。
「スナックみたい? おいしそうじゃん」
躊躇なく食べる亜矢。
外はカリカリ、中身はジューシー。
「うん、おいしいおいしい。……で、なにこれ」
「え、ミールワームだ。知らないのか? 油で揚げただけでも美味いけど、砂糖をからめると甘くていい感じだよな」
「ミールワーム?」
「昆虫だよ。虫の幼虫」
「な……っ、なな……っ!? 虫……!?」
「ああ。栄養価も高いし、保存食にもなる。でも、日本じゃ見かけないな。なんでだ?」
「……!」
亜矢は慌てて厨房に駆け込み、ゲーゲー言いだした。
Beatriceと明日羽も、さすがに手を出さない。
「だれも食わないのか? うまいのになぁ」
平然とポリポリかじりながら、香紫は不可解そうに首をかしげるのだった。
「さぁ絶品カレーを食べなさい!」
亜矢が戻るのを待って、飛鳥登場。
「やけに黒いのう」と、Beatriceが不安げに言う。
「それはブラックカレー! グリーンカレーとかレッドカレーの仲間よ!」
「イカ墨カレーみたいなもんでしょ。なんにしたって虫よりマシよ」
言いながら、亜矢はスプーンを取ってパクリと一口。
そうして、またしても彼女は崩れ落ちた。
殺人料理どれだけ食ってんだ。まさに被害担当艦。
さて、最後に登場は水無月沙羅(
ja0670)
料理は、地鶏の塩釜焼きだ。
とれたての新米を地鶏の腹に詰めこみ、卵白で練った塩で包んで焼いた一品。
さらに、鶏ガラから取った出汁で玉子スープも作ってある。
え。一人一品じゃないのかって? いいんだよ! スープとセットで一品なんだよ!
「塩釜を木槌で叩いてから、お召し上がり下さいませ」と、沙羅。
「こうかのう?」
Beatriceが塩釜をたたくと、えもいわれぬ芳香が立ちのぼった。
湯気を上げる鶏肉はじつにジューシーで、透きとおった肉汁があふれだす。
「これはうまいのぢゃ! 塩釜を割るという演出もみごと! これぞ至高にして究極の料理! わらわは満足ぢゃ! 言うまでもなく10点ぢゃ!」
「ありがとうございます。味だけではなく、体にも良いよう工夫いたしました」
「うむ、あっぱれぢゃ!」
「私が20点つければトップかな?」
当然のように言いだす明日羽。
「本当は10点満点なのに、20点ですか……。なんだか申しわけないので、辞退させて……」
沙羅が言いかけたところで、明日羽は強引に「合計30点で沙羅ちゃん優勝!」と宣言してしまった。そして、沙羅の頭をぐいっと抱き寄せる。
「さぁ、祝福のキスをあげるね?」
「え? え……?」
「最初にBeatriceさんが言ったでしょ?」
「いえ、あの、遠慮します」
「遠慮しないで?」
その後どうなったかは、ご想像におまかせします。
……うん。ひどい料理会だった。