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マスター:牛男爵
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/03/24


みんなの思い出



オープニング

 深夜。森の中を駆ける美女が一人。
 衣服は乱れ、髪は滅茶苦茶にほつれて、腕から血を流している。髪にべったり浴びせられた血液は、はたして誰の流したものだろう。
「たすけて……だれか……! だれか……!」
 落ち葉を蹴り散らし、枯れ枝を踏み折りながら、女は必死に走りつづけた。月明かりさえ届かない、真っ暗な森の中である。どこをどう走っているのか、彼女にもわかってはいない。ただひたすらに、まっすぐ走ってここまで逃げてきたのだ。
 一体どれだけ走っただろう。足はガクガクふるえて思い通りに動かず、心臓は破裂しそうなほど激しく打ち、もう限界が近い。──否、もはや彼女の肉体は限界を超えていた。
「あぅ……っ!」
 盛り上がった木の根に足をとられて、ついに彼女は転倒した。
 顔から地面に倒れ、頬や肘をすりむいてしまう。
 それでもなお走ろうと、膝をついて立ち上がろうとした、そのとき──
 ふと何かの気配に気付き、彼女はおそるおそる顔を上げた。
 目の前に立ちふさがっていたのは、ホッケーマスクをかぶった巨大な男の影。
「キャアアアアアアアアアアッ!」
 すさまじい金切り声が、夜の森を引き裂いた。
 ギュゥン! という音とともに、男の両腕が振り下ろされる。
 その手に握られているのは、巨大なチェーンソー!
「ヒイイイイイイイイッ!」
 叫び声を上げながらも、女はどうにか横に転がってかわすことができた。
 ギュィィィィンン!
 高い音を立てて深々と大地に突き刺さるチェーンソー!
 そのまま抜けなくなるチェーンソー!
 調子に乗って力をこめすぎたのだ!
「ふんっ! ふぬっ!」
 どうにか引っこ抜こうと躍起になる男だが、どう頑張ってもチェーンソーは地面に突き刺さったまま。このあたりの地面は非常に固いのだ。
 そのとき、彼の背後から駆け寄ってくる男が一人。
 サラサラの金髪をなびかせ、端正な顔に爽やかな汗を浮かべながら、彼はチェーンソー男より十センチも長い脚で距離をつめた。
 その登場に気付きもしないチェーンソー男は、「ぐぬっ! ぬぐっ!」などと唸りながら必死に地面と戦っている。なんと孤独な戦いだろうか。
 そんなチェーンソー馬鹿の後頭部に容赦なく叩きこまれる、金髪イケメンの回し蹴り。
 もんどりうって五回ほど前転するチェーンソー男。
「無事かい、ジェシカ。もう大丈夫だ。はぐれてしまってすまなかった」
 イケメンは声までイケメンだった。
 そのルックスは完璧である。
 シャンプーのCMにでも起用されそうな、サラサラの髪。
 GパンのCMにでも起用されそうな、八頭身のスタイル。
 ジャ2ーズにスカウトされそうな、端正な顔だち。
 そしてなにより、命の危険もかえりみず女性を救いにくる勇気。
 すべてがイケメンだった。
 かたや地面にひっくりかえっている男はというと──
 半年間洗ってないんじゃないかという、グシャグシャボサボサの脂ぎった髪。
 キャラクター作成のとき種族を間違えたんじゃないかと思うほどの、寸胴短足なフォルム。
 浮浪者でもゴミに出すのではないかという、ボロボロの衣服。
 そしてなにより、自分が刺したチェーンソーを抜けないというマヌケぶり。
 すべてがアウトだった。
「ああっ。ありがとうマイケル!」
 イケメンに抱きつく美女。
「よしよし、おちついて。立てるかい?」
「うん。どうにか平気みたい」
「よかった。さあ逃げよう」
「あのバケモノはどうするの? 退治しておいたほうがいいんじゃ……」
「残念だが、いまは無理だ。ともかく逃げよう」
 手を取りあって走りだす美男美女。
 チェーンソー男はカエルみたいにひっくりかえったまま、ホッケーマスクに血の涙を流している。
 こぼれる涙もそのままに、彼は悲痛な雄叫びを絞り出した。
「リアジュゥゥゥゥゥウ!」
 やがて静まりかえった森の中に、プスンとチェーンソーの止まる音がした。



 ところ変わって、久遠ヶ原学園の一室。
「では、お話を聞かせてください」
「ええ、では……」
 担当者にうながされると、マイケル(イケメン)は優雅な手つきでティーカップを机に置いた。
「僕たちはインターネット関係のベンチャー企業に勤めてまして。一応、僕が代表取締役ということになってます。ジェシカは秘書ですね」
 イケメンは金と地位まで持っていた。あと美人の秘書も。
「二日前、僕たちは五人でまとめて休暇をとり、水晶湖へハイキングに出かけたんです。ちょうど大きいプロジェクトが終わったもので、まぁ骨休みにと思いまして。……ところが、その晩。あいつが現れたんです」
 ギュッと拳をにぎりしめるマイケル。
 その肩を、ジェシカがそっとなでる。
「こまかい経緯は調書に書いたとおりですが、最終的に三人の命を奪われました。僕はアウルと阻霊術を使うことができたので、どうにか彼女だけは連れて逃げることができたんですが……。まったく、あいつらにはかわいそうなことをしました。僕にもっと力があれば……!」
 マイケルは顔をうつむかせ、何度も首を横に振った。
「しかし、この調書とあなたの経歴を拝見するかぎり、決して遅れをとるような相手ではないように見えますが……」
 担当者の言うとおり、マイケルは腕利きの撃退士だった。そこいらのディアボロ一匹に手こずることはないはずだ。
「あいつは、ただのディアボロではありません。おそらく、リア充に対して深い恨みを抱いたまま死んだ男の変じたもの……。あの打たれ強さと執念深さは、尋常なものではありません」
「それほどですか」
「僕は過去にヴァニタスやデビルとも戦ったことがありますが、耐久力だけならあいつはそれらにも匹敵するかもしれません。まぁ、ほかは大したことないんですが」
「つまり、異常に体力がある、と」
「ええ、それに加えて、あいつはイケメンに対してはより打たれ強くなる性質を持っているようです」
「なるほど。それであなたは撤退したというわけですね」
「ええ、まぁ僕がイケメンだと言うわけではありませんが」
 マイケルは否定したが、あきらかに自分はイケメンだと言い切っていた。
 しかし、だれもそれを否定できない。
「わかりました。ではただちに有志の学生を募集します」
「できるかぎりブサメンをそろえたほうがいいですよ」
「……善処します」


リプレイ本文


 チェーンソー男の一日は、ホッケーマスクの手入れから始まる。
 え、チェーンソーの手入れからじゃないの? と思ったあなた、それは間違いだ。チェーンソー男にとって何より大切なのは、醜い顔を隠すためのホッケーマスク。そしてこれこそが無限の耐久力を誇る彼にとって唯一の弱点なのである。って、いきなり種明かししちゃったよ。まぁいいか。わかりやすい弱点でしたね。
 彼がマスクの手入れに費やすのは毎朝二時間。だれもいない山小屋で鏡台の前に座り、マスクの角度を整えたり、マスクの角度を調節したり、マスクの角度を直したりと大変いそがしい。
 それが終わると、次はシャドースプラッターだ。これは架空のリア充を想定して戦うという一種のイメージトレーニングで、ホッケーマスク男にとって欠かせない日課となっている。
 燦々と降りそそぐ朝日の中。チェーンソーを振りまわして架空の敵と戦うホッケーマスク男。その姿は、だれが見ても頭のおかしい人である。ひかえめに言っても、頭のおかしいディアボロだ。もっとも、たいていのディアボロは頭おかしいものだが。
 さて、本日そんな彼のもとへやってきたのは、以下八名の撃退士たち。

 クールなイケメン、本日SATSU☆GAI候補ナンバー1の影野恭弥(ja0018)
 180cm71kgの森ガール(女装済み)星杜焔(ja5378)
 登場しただけでシナリオのホラー度五割増し、マッドなドクター帯刀弦(ja6271)
 猫ぐるみ忍者(ドリル装備Ver)カーディス=キャットフィールド(ja7927)
 履いてない! 履いてないよ! 履いてないぜ! 蘇芳更紗(ja8374)
 予習は完璧、ツッコミ用にナックル装備で参戦の黒井明斗(jb0525)
 全裸……じゃなく半裸の筋肉天使。自称パーフェクトイケメンのマクセル・オールウェル(jb2672)
 天然ワンコ系、ホラー映画では絶対に殺されない立ち位置の、アッシュ・スードニム(jb3145)

 いずれ劣らぬ、イケメン&美女ぞろいである。(一名除く)
 まともに戦えば、チェーンマスク男の能力値は700%増しだ!(無茶苦茶です)
 撃退士たちの到着に気付き、振り返るチェーンホッケー男。
 つかのまの沈黙。もしかするとシリアスな戦闘もありえるかもしれないと思っていた撃退士たちの間に、緊張が走る。
「イケメンンンン!」
 ホッケーソー男は、いきなり襲いかかってきた。
 標的は帯刀弦。ホッケー男独自のイケメンセンサーと、マッドサイエンティストは真っ先に死ぬというホラー映画のセオリーによるものだ。
「おや。僕を狙ってくるのかい? ああ、良いなあ……その体つき、匂い、見るに耐えない。きみ、きっと素敵な死体になるよ。僕が保証してあげる」
 すいっ、と横に動きながら、弦はサバイバルナイフを一閃させた。
 ブシュゥゥッ!
 ホッケー男の脇腹から、スプラッターっぽく鮮血が噴き出す。
「イケメンンン!」
 血を噴き出しながらも、チェーンソーで殴りかかるホッケー男。ちなみにこの血は演出によるものなので、いくら噴き出しても命に関わりはない。っていうか、もともと死んでるから命とかないし。
「ずいぶん頑丈だね、きみは」
 予想外の反撃に、肝を冷やす弦。
 そこへ、白銀の退魔弾が飛んできてホッケ男の手元を撃ち抜いた。
 恭弥の放った弾丸だ。ちなみに彼は「なんとなく狙われそうな気がする」という予感から、まえもって物陰に身をひそめている。じつに正しい判断だ。
 あと、この怪人の名前は以後『ホッケ男』と表記します。なぜなら字数制限(略)

「ひゃっはー!」
 奇声をあげつつ、ゆるふわワンピースをひるがえして飛び出したのは、女装姿の焔。その手に握られたリボルバーが、景気よく火を噴く。
 よけようとも身を守ろうともしない、ホッケ男。
 全弾命中し、よろけたところへカーディスのドリル攻撃!
「我が一撃に貫けぬ物無し! 穿て!」
 顔面めがけて放たれたドリルを、しかしホッケ男は意外なほどの機敏さで回避した。まるで、そこが弱点なのだと言わんばかりに!
「ヌコォォォォ!」
 じつは猫嫌いのホッケ男。カーディスを目にしてさらに戦闘力UP! チェーンソーを振りまわして襲いかかる!
 ちなみにこのチェーンソー、さきほどから刃が回ってない。エンジンかけるのを忘れているのだ。
「黒猫忍者(自称)として13日の金曜日の代名詞のような輩に負けるわけにはいきません!」
 謎の敵愾心を燃やしながらチェーンソーをかいくぐり、懐に飛び込んで再びドリル攻撃を見舞うカーディス。
 バシュゥゥゥッ!
 心臓を貫いたドリルが、盛大に血しぶきをまきちらす!(演出です!)
「ヌッコヌコォォォ!」
 血煙を散らしながら、空手仕込みのチェーンソーキックを放つホッケ男。
 想定外の攻撃を受けて、派手に吹っ飛ぶカーディス。
 倒れたところへ、プロレス仕込みのチェーンソーボディプレス!
 そして、とどめとばかりに必殺ゲージを消費してのチェーンソー上四方固め!
「にゃあああああ!」
 おもに嗅覚的なダメージを受けて、悲鳴をあげるカーディス。(芸人的にはおいしい役です)

「そうじゃないだろうがあああ!」
 ナックルでツッコミを入れたのは、明斗である。
「どうしてチェーンソーを使わない! というかエンジンかかってないし! 上四方固めをかけてくるジェ○ソンなど聞いたことがないわ!」
 みごとなツッコミで十メートルほど転がっていったホッケ男は、むくりと起き上がって手元の武器に目をやった。
 動作していないことにようやく気付いたホッケ男。彼はおもむろにチェーンソーを地面に置くと、まず燃料タンクの蓋を開けて残量をチェックし、次にオイルタンクを確認して、さらに安全レバーを
「ふざけるなあああ!」
 明斗のヒュームナックル蹴りが炸裂し、ごろごろ転がっていくホッケ男。
 彼は何事もなかったかのように起き上がると、チェーンソーの安全レバーがかかっているかチェックし、エア抜きボタンを押して圧力を調整し、エンジンスイッチを入れて、スターターロープを引き──
 スカッ、スカッ、というエンジンの空転する音が響きわたった。
 微妙な空気が流れ、明斗はツッコむ気も失せて溜め息をつくばかり。

「茶番は終わりにしよう」
 ひとりシリアスな恭弥は、両手の拳銃を容赦なく発砲した。彼はチェーンソーに対して、あまり良い思い出がない。コメディと思って油断するわけにいかないのだ。万が一こんな依頼で重体にでもなろうものなら、末代までの恥である。
 しかし、こう見えても実は超強いホッケ男。拳銃弾ぐらいで倒れはしない。ましてやイケメンの放つ銃弾ごときでは。彼を倒したければ、対物ライフルどころか対戦車ロケットを持ち出さなければ駄目だ。あるいはハリセンでもいい。
 恭弥と焔による銃弾の雨を浴びながら、必死になってスターターロープを引っ張り続けるホッケ男。盛大な発砲音にまじって、スカッスカッという音がむなしく響く。それにしても、平然と弾丸を浴びつづける耐久力は驚異的と言うほかない。

「うわぁ、イケメンに対してはホントに強いんだねぇ」
 感心するように言ったのはアッシュだ。
「ねぇみんな。これだけ攻撃しても倒せないんだから、やりかたを変えてみたらどうかなあ。ウワサだと弱点があるっていう話だし……。無理やりイケメンにしちゃう作戦とか、ためしてみない?」
「「いいね、それ!」」
 思いっきり食いついたのは、更紗と焔。
「ではシバルリーを使用して攻撃を受け流しながら……」
 更紗が言いだしたのをそっと手で制して、アッシュはホッケ男のほうへ向かっていった。
 エンジンのかからないチェーンソーと孤独な戦いをつづけるホッケ男はアッシュが近付いてくるのに気付くや武器を頭上に掲げて身構えたが、それが振り下ろされることはなかった。
 そう、無垢な少女は殺されない。ホラーの鉄則である。
「ねぇ、ホッケさん。イケメンやリア充を恨むより、自分を磨こうよ。身体的特徴はどーでもいいしどうにもならないけど、他はどうとでも改善できるじゃないか! 大事なのは清潔さと誠意だよ!」
 女性からそんな優しい言葉をかけられたことなど一度もないホッケ男にとって、これは衝撃的なできごとだった。マスク越しに熱い涙がこぼれ、チェーンソーが地面に落ちる。
「よかった。言葉が通じたんだね。じゃあとりあえず、服を脱いでよ。体をきれいにしてあげるから」
 そうして、三人の女性(一名男性)による『ブサメンイケメン化計画(仮)』が始まった。
 されるがままのホッケ男。天使のような少女アッシュと、履いてない更紗、そして180cm71kgの森ガール焔による献身的なイメチェン作業が、リア充への恨みで凝り固まっていた哀れなディアボロの心をゆっくり解きほぐしてゆく。それは、じつに感動を呼ぶ光景だった。(介護職のドキュメンタリーみたいなシーンを想像してください)

 やがて完成したのは、春先の可愛らしいファッションに身をつつんだ身長二メートルの男。さらさら金髪ウィッグとホッケーマスクの対比は筆舌に尽くしがたく、スカートの裾から覗くスネ毛には目をそむけざるを得ない。
「ムダ毛は処理したほうがよかったかもしれんな……」
 つぶやいたのは更紗である。
「まぁ、ともあれ見せてやろう」
 そう言って、鏡を見せつける更紗。
 変わり果てた己の姿を見て、ビクッとするホッケ男。しかし、まじまじと鏡を覗きこんでマスクの角度を調整したりする様子から見ると、悪くはなさそうな反応である。
「うまくいった……か?」
 ブラシをにぎりしめて、様子をうかがう更紗。
 その後ろから、弦が覗きこんでくる。
「おや。ずいぶん変わってしまったね。正直、さっきまでのほうが僕としては好みなのだけれど。まぁ、これはこれで倒錯的な美しさと言えるかな。おつかれさまだったね、更紗君たち」
 弦の手が更紗の肩に軽く触れた、その瞬間。
「リアジュゥゥゥウ!!」
 唐突に怒りゲージを爆発させて、ホッケ男はチェーンソーのスターターを引いた。
 スカッ。
 エンジンのかかってないチェーンソーを振りかざし、襲いかかるホッケ男。彼にとって、男女が仲良くしている場面こそ、もっとも許しがたいものなのだ。女性の肩に手を触れるなど、神が許してもホッケ男が許さない!
「おっと」
 とっさに跳びのき、弦は羽織っていた白衣を投げつけた。
 頭から白衣をかぶり、視界を奪われたホッケ男はめくらめっぽうチェーンソーを振りまわす。
「ふふ。可愛いな、もっと見せてくれ、君の哀れな姿。興奮する」
 ナイフがホッケ男の胸板に突き立てられ、返り血が弦の頬に飛び散った。その血を指先でなぞり、うっすら微笑む弦。ひとりだけホラーの世界を満喫である。

「リアアアジュウウウウウ!」
 怒りゲージMAX状態で、狂ったように暴れまわるホッケ男。
 滝のごとく浴びせられる銃弾は、まるでダメージを与えられない。リア充に対する底なしの怒りが、彼の耐久力を飛躍的に跳ね上げているのである。弱点であるマスクには一発も当たらない。チェーンソーが盾になっているのだ。
 カーディスのドリルアタックも、明斗のナックル制裁も、まったく効果なしだった。なんだかんだ言ったところで、結局彼らはイケメンかつリア充なのだ。
 怒りが有頂天状態のホッケ男は、もはや手のつけようがなかった。不死身かと思われる耐久力を前にして、任務失敗という言葉がちらつきはじめる撃退士たち。
 だが、そこにひとすじの光明が!
「ここは我輩にまかせるが良い!」
 ルーンブレイドを手に敢然と斬り込んだのは、究極☆筋肉天使マクセル・オールウェル!
 自称イケメンによる一太刀は、あざやかにホッケ男の首筋を断ち切り──
 バシュゥゥゥッ!
 噴水のように血液を噴き上げながら、ホッケ男の頭部と胴体は別れ別れになった。
 そのまま、ばたりと倒れるホッケ男。
 おお……、というどよめきが、撃退士たちの口から漏れた。
「ふははは。真のイケメンたる我輩の手にかかれば、このようなディアボロごとき一刀両断よ!」
 その発言について、撃退士たちの間では審議が開かれた。
 ただひとり、アッシュだけが「うわあ、すごいね、マクセルさん!」と、満面の笑顔だ。

 しかし!(ショッキングな効果音からテンション高めのヘビメタっぽいBGMを脳内再生してください)
 がばっと立ち上がるホッケ男。転がっている頭をわしづかみにして首の上に乗っけると、あっというまにつながってしまうではないか! おお、彼は不死身なのか!?
「おぬしの弱点、見切ったのである!」
 くっついたばかりの頭部めがけて、大上段から振り下ろされる大剣。
 しかし、その斬撃がマスクをとらえる寸前、チェーンソーが大剣を受け止めていた。そして鍔迫り合いをはじめる、むさ苦しい男ふたり。ビジュアル的には最悪である。
「非イケメンンン!」
「ぬあああっ!?」
 チェーンソーキックを受けて尻餅をつくマクセル。カーディスほど吹っ飛ばずに済んだのは、体重が重いからではなく彼がイケメンではない(とホッケ男が判断した)からである。
 そんな自称イケメン天使を無視して、恭弥に襲いかかるホッケ男。彼のイケメンセンサーによれば、なにはともあれサツガイしなければならないのはこの男だ。
「やはり俺を狙ってくるか……」
 マスクを狙って撃ちまくる恭弥だが、チェーンソーが盾になり一発も届かない。
「待てい! おぬしの相手は我輩である!」
 ボディビルのポージングをとりながら挑発するマクセル。
 華麗にスルーして恭弥に跳びかかるホッケ男。

「ち……っ。やむをえん。ついてこい」
 恭弥は撃ちながら走りだした。この不死身のディアボロを仕留めるには、もう最後の手段に賭けるしかない。
 恭弥は前もって地形を把握していた。迷いなく森を走り抜け、たどりついたのは湖のほとり。桟橋を走って、さらに深く敵を引き込む。
 一方、ホッケ男にも迷いはなかった。イケメン滅びるべしとの怨念に取り憑かれた哀れなディアボロは、エンジンのかかってないチェーンソーを手に恭弥を追いつめる。
 そして恭弥は賭けを実行した。このモンスターがカナヅチであることに賭けたのである。
 足下を狙って放たれる銃弾。しかし、ものともせずに詰め寄るホッケ男。
 その背中へ、明斗の放つ『審判の鎖』が命中した。麻痺の効果を受けて、動けなくなるホッケ男。つづけて命中したのは、焔の『虹色魔弾』だ。吹っ飛んだところへ、マクセル渾身の突き落としが炸裂!
 どばーん!
 水柱を立てて桟橋から落っこちたホッケ男は「リアジュゥゥゥゥゥ」という恨みの言葉を吐きながら湖底へと沈んでいった。
 こうして、水晶湖の森につかのまの平穏が取りもどされたのである。


【本日の一番】
○マクセル ●ホッケ 決まり手:突き落とし


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 伝説のシリアスブレイカー・マクセル・オールウェル(jb2672)
重体: −
面白かった!:8人

God of Snipe・
影野 恭弥(ja0018)

卒業 男 インフィルトレイター
思い繋ぎし翠光の焔・
星杜 焔(ja5378)

卒業 男 ディバインナイト
骸への執心・
帯刀 弦(ja6271)

大学部5年84組 男 阿修羅
二月といえば海・
カーディス=キャットフィールド(ja7927)

卒業 男 鬼道忍軍
屍人を憎悪する者・
蘇芳 更紗(ja8374)

大学部7年163組 女 ディバインナイト
鉄壁の守護者達・
黒井 明斗(jb0525)

高等部3年1組 男 アストラルヴァンガード
伝説のシリアスブレイカー・
マクセル・オールウェル(jb2672)

卒業 男 ディバインナイト
優しさを知る者・
アッシュ・スードニム(jb3145)

大学部2年287組 女 バハムートテイマー