「スタイリッシュ闘技会、開幕や! 25人の撃退士が熱いバトルを繰り広げるでぇ!」
マイクを握る蛇蝎神黒龍(
jb3200)は、最初から実況役だった。
競合相手がいなかったので、解説席は一人舞台。おいしい役だ。
「第一試合! あえて称号を名乗らない阿修羅、佐藤七佳(
ja0030)が登場や! 反対側には、おなじく阿修羅の桐原雅(
ja1822)! 魂導きたる戦乙女が降臨やで!」
ふたりはともに、長い黒髪を風に揺らしながら登場した。
とくに前口上などもなく、開幕の笛が鳴る。
「カッコ良く戦う……なら、無駄に派手にするくらいが良いわね」
七佳の背中から光の翼が展開して、砂煙を巻き上げた。
光纏式戦闘術、光翼。
背中と足下から噴き出すアウルが、七佳に風のような素早さを与える。氷上のスケーターより早い。撃退士の中でも卓絶した速力だ。
瞬時に距離をつぶして、七佳が雅の眼前に迫った。
「先手必勝! 迅雷のごとき一撃、叩きこみます!」
両脚に輝く光がスラスターのようにアウルを噴射し、絶妙なバランスで姿勢をコントロールする。と同時に何重にも重なった魔方陣が現れ、抜き放たれた白刃が弧を描いて、雅の胴体を水平に薙ぎ払った。
七佳の十八番にして、独自の技。『封意』だ。武器を介してアウルをねじこみ、相手の肉体と意思を乖離させる技。まともに受ければ、数秒間は動けない。
「いい技だね……」
雅はほとんど動かずに、その一撃を受けた。
膝をついた雅の背後へ、七佳が回りこむ。
そして『魂斬』を発動。紫色に輝く刀身が魔方陣で覆われ、勢いよく振り下ろされる。
ゴシャッ、と岩を砕くような音がはじけた。
なすすべもなく倒れる雅。
「おおっとぉ!? 桐原選手、見せ場ナシで終了かぁぁ!?」
黒龍が叫んだ。
が、無論この程度で終わるわけがない。
「たしかに、これまでのボクは地味だった……。でも……生まれ変わるんだ!」
不撓不屈の力で、ゆらりと立ち上がる雅。
つづけて死活。さらに、闘気解放。ふだんは消している純白のオーラが翼のように広がり、解き放たれた闘気が暴風のごとく吹き荒れる。
その暴風の渦の中。雅は右腕を天に突き上げ、グッと握りしめた。
その瞬間。吹き荒れていた闘気は拳の中へ収束し、嘘のように静寂が訪れた。
しかし、それは嵐の前の静けさにすぎない。
「いくよ!」
突風が吹き、雷鳴が空気を震わせた。
その風に乗るようにして、雅の体が空高く舞い上がる。
くるりと空中で一回転した雅は、颶風と稲妻を引きつれて一直線に急降下した。
それはさながら、神の投げ放つ槍のごとし。
繰り出された雷打蹴は七佳の胸に突き刺さり、瞬時に意識を刈り取った。
「これがボクの全力……だよ」
払いのけるようにオーラの翼を打ち払う雅。
その直後、風は止み、雷鳴は収まり、死活の切れた雅はドサッと倒れた。
「両者ノックアウト! ダブルKOやでぇ! 熱い対戦を見せてくれた二人に拍手ゥゥ!」
ノリノリで実況する黒龍。
「さて、いまの戦いを審査してもらおかー。本日の審査員は、この三人……いや、二人と一組や!」
審査員席には、佐渡乃明日羽、鐘持兄弟、臼井教師の姿。
「採点やでぇ! まずは佐藤選手!」
明日羽9
鐘持 8
臼井 7
「高得点やな! 次、桐原選手の得点や!」
明日羽10
鐘持 9
臼井 9
「さらに高得点! 第一試合からこんな点数出してええんか!?」
「では、私から一言解説を」
臼井教師がマイクを手に取った。
「えー、佐藤君は得意の高速機動戦法で、薙ぎ払いからの黄昏という連携を見せてくれた。阿修羅の定番コンボだな。戦闘スタイルも申し分なかったが、少々直球すぎた感がある。もう少し工夫がほしかった。一方、桐原君は相手の技を受けてから反撃するという形で、相手を引き立てると同時に阿修羅の特長である死活を効果的に見せ、ほぼ完璧な舞台を演じてくれた。28点という高得点も納得だ」
「解説おおきに! さぁて、第一試合から28点ちぅ記録を出してもうた桐原選手! 抜けるんか、これ!」
「次いくで! 第二試合! 近接型拳銃使いの麻生遊夜(
ja1838)! 対するは、露に濡れる黒薔薇……って凄い称号やな、これ! まぁそんな感じの来崎麻夜(
jb0905)や!」
黒龍の紹介で闘技場に現れた二人は、先輩後輩の関係だ。
おたがい手の内を知り尽くした彼らは、いかなる戦いを見せるのか。
「さ、残念だけどボクの相手をしてもらうよー。いまはボクだけを見ててよね?」
くすっと笑う麻夜。
全身黒ずくめの彼女は開始と同時にツインクルセイダーを抜き、光纏した。全身から滲み出した真っ黒なアウルが骨だけの翼を形成し、鴉のような羽が舞い散る。
さらにChange houndを発動した麻夜は、犬耳ワン娘に変身! かわいさ十倍増しになったところでDancer in the darkを起動。影を引きつれ、死のステップを踏みながら遊夜に襲いかかる。
「かわいい後輩に、カッコ悪いところは見せれんやな」
にやりと微笑みながら、遊夜は『時限式の英雄』を使った。黒い涙のようなアウルが両目から流れ出し、麻夜の攻撃を的確に回避する。
そして、密着するほどの距離から拳銃を発砲。
「これで終わりだ!」
しかし弾丸が放たれる寸前、麻夜の体はクルッと反転して遊夜の背後に回りこんでいた。そのまま後頭部に銃口を押しつけ、一抹の躊躇もなく発射。遊夜の頭部を貫いた。──と見えたが、撃ち抜いたのは残像だった。
「ヒュゥ。冷や汗もんだな。これでどうだ」
遊夜の銃から、『手引きする追跡痕』が撃ち出された。
麻夜は二挺拳銃を交差させて受け止め、後ろへ跳びのく。
直後、テラーエリアが行使されて、麻夜の周囲は暗闇に包まれた。
「隠れても無駄だ!」
遊夜はためらいなく『逃れえぬ銃丸』を発動し、雨のように弾幕をばらまいた。闇の中に潜んでいても、『追跡痕』で麻夜の位置はわかる。にもかかわらず、弾丸は一発も当たらない。
「なかなか終わらないね?」
闇の中で麻夜の表情はわからないが、忍び笑いが聞こえそうな口調だ。
そしてSilent danceで闇から飛び出した麻夜は、完璧な不意打ちで遊夜の頭部に銃を突きつける。
しかし、同時に麻夜の眉間にも銃口が押しつけられていた。
麻夜の腕は真っ黒なアウルに染まり、遊夜の腕には真っ白なアウルが螺旋状に巻きついている。
両者とも、トリガーを引けば終わらせられる状況だ。
しかし、引くことができない。
アクション映画のワンシーンのような、メキシカンスタンドオフ。
「さすが。良い動きだ」
にやりと微笑む遊夜。
「先輩ほどじゃないよ?」
麻夜はクスクスと笑う。
この膠着状態から二人はどうするのか──
プレイングには、こう書いてある。
『結果はお任せで』(遊夜)
『結果はお任せします』(麻夜)
こんな状態から任せられても困るわ! 無茶振りすぎるぞ!
えーと。とりあえずカットでよろしいですかね。
無駄に白い鳩とか飛ばしますか?
ぶっちゃけ爆発オチしか思いつかないので、試合終了!
「おーっと。ここで試合終了や! でも近接拳銃術、えらいカッコよかったで。ほな、採点いってみよかー!」
†遊夜
明日羽5
鐘持 10
臼井 9
†麻夜
明日羽10
鐘持 8
臼井 8
「明日羽さーん? この点数おかしいんちゃいますかー?」
「公正に審査したよ?」
「この点数差は不自然すぎまっせー?」
「麻夜ちゃんが10点なんだから、相対的に見たらそれぐらいだよ?」
「審査に個人的な趣味を持ち込まんといてくださーい」
「私が主催者なんだけど?」
「よしゃー! 次の試合いこかー!」
そういうわけで、男子は色々あきらめてほしい。
「第三試合は、闘諍の戦鬼・神凪宗(
ja0435)vs闇を斬り裂く龍牙・蒼桐遼布(
jb2501)! おお、どっちも厨二……やなくて、スタイリッシュ度の高い称号やで! この大会では有利や!」
「かっこよく戦え、か……。正直気は乗らないのだが、致し方あるまい。この一度だけやりきろう」
だるそうに出てきたのは、宗。
だが、開始の合図とともに彼は身につけたサーコートをガバッと左右に開いた。
すると、その下には真っ赤な風車が!
おお、これはサイクロンベルト!
身構えた宗は無駄に派手なアクションで両腕を動かし、闇色のアウルをベルトに収束!
猛烈な勢いで風車が回転し、明星の兜がシャキーンと装着される!
「癒、着!」
蒸着じゃないのかよ。
ともあれ謎の忍者ライダーに変身した宗は、接近戦を挑むべく猛ダッシュで突撃。
どう見ても、気が乗らない人間の行動ではない。むしろノリまくりだ。
「ゆくぞ!」
「受けて立つ!」
光纏した遼布を、蒼銀色のオーラが包んだ。
真っ向からぶつかりあう二人。
宗の拳がうなり、遼布の剣が走る。
その切っ先をかいくぐって宗が踏み込み、ボディブローを叩きこんだ。
よろけた遼布の顎を狙って、アッパーカットが繰り出される。
すんでのところで回避する遼布。──だが、そのまま膝から崩れてしまう。
アッパーがかすっていたのだ。軽い脳震盪を起こしたのである。
「なかなかやるな……。それじゃ、俺もマジでやらせてもらおうか」
にやりと笑って遼布が取り出したのは、なんとサイクロンベルト!
ババッと両腕が交差され、シンプルな変身ポーズとともに──
「Transition!!」
掛け声が上がり、煙幕が立ちこめた。
もうもうと湧き上がる白煙の中、必死で着替える遼布。
やがて煙が晴れたとき、そこにはヒーローマスクと明星の兜を装備した遼布の姿が! 蒼をベースにした普段の服装とは一変して全身を漆黒に染めた彼は、まさにバッタライダーブラック!
「勝負だ!」
遼布は、あえて素手による戦闘を選んだ。
正拳突きが打ち込まれ、回し蹴りが炸裂する。
しかし、蹴り足が捕らえたのはスクールジャケット。
「ふ。どこを見ている」
宗の拳が突き刺さり、遼布の影を縛りつけた。
「ぬぅ……っ!」
動けなくなった遼布の前で、宗は天高く跳躍。右手のマグナムナックルがバチバチと音を立てて、青白いスパークが飛び散った。
「これで終わりだ! ライトニング……スマッシュ!」
遼布の頭上から、豪腕が襲いかかった。
しかし、遼布は不敵に微笑む。
「これが俺のジョーカーだ」
闘気が噴き上がり、遼布の全身から血の滴がほとばしった。龍族の末裔たる血の奔流が全身を駆けめぐり、腕や肩にエナメル状の龍鱗が浮かび上がる。と同時に光の翼が広がり、砂塵を巻きあげながら遼布は飛翔した。
そのまま空中で一回転。放たれたのは、雷打蹴!
「ぐああ……っ!」
宗のうめき声が上がり、煙幕が周囲を包んだ。
そして煙が切れたとき、そこには超然と立つ遼布の姿が。
「ライダー対決、ここに決着や! まさか二人とも変身しよるとはビックリやで! んじゃ得点見てみよかー!」
†宗
明日羽5
鐘持 9
臼井 7
†遼布
明日羽5
鐘持 10
臼井 8
「明日羽さーん? やる気ありますかー?」
「だってライダーとか興味ないし?」
「あかんわ、この人」
「ライダー最高にカッコ良かったよ!」
「お。鐘持兄弟には高評価やね」
「一度やられてピンチになってから変身するのが良かったよね! でも、どっちもサイコーだったよ!」
「そかー。よし、次いくでー!」
「第四試合! スマートガード・仁良井叶伊(
ja0618)と、全てを射貫く赤目・各務与一(
jb2342)の対戦や! 称号的には各務選手が勝っとるな。一方、仁良井選手は2m110kgと今大会最大の巨漢! まぁ撃退士の戦いには体格カンケーあらへんけど、見た目は迫力あるで!」
「実戦が身に染みついている私には、こういう戦いは苦手なんですがね……」
叶伊は拳にシャイニングバンドを巻きながら登場した。
だが、研ぎ澄まされた実戦技こそ最も美しいという見方もある。勝負はわからない。
「訓練になると思って請けたんだけど、スタイリッシュってどういうことなのかな……。舞踏のように戦え、という意味ならなんとかなるかな?」
与一は巨大な弓を手に舞闘場へ。
よく見れば、弓の本体が刃になっている。遠近どちらにも対応可能なトンデモ……理想的な兵器だ。
「よろしくおねがいします。正々堂々と戦いましょう」
叶伊が前に出て一礼し、握手を求めた。
応じながら、与一が答える。
「戦いの場では言葉ではなく武で語るのが礼儀、と言うしね。手加減はしないよ」
「のぞむところです」
なんとマナーのできた二人。いままでの選手とは違う!
こうして、勝負は始まった。
「まずは、こちらから!」
先手を切るのは、天翔弓を携えた与一。
素早く放たれた矢が音もなく飛んで、叶伊の肩に突き立つ。
「私の番ですね」
叶伊は雷帝霊符を取り出し、アウルをこめた。
バリバリと空気を引き裂く音とともに、稲妻状の刃が撃ち出される。
こちらも与一の胸に命中。たがいに譲らぬ幕開けだ。
両者とも距離を問わず戦えるスタイルなので、あえて距離をつめようとはしない。
与一の弓矢がうなり、叶伊の雷撃が応じる。一進一退の攻防だ。
「これはどうかな?」
不意を突く形でナパームショットが撃ちこまれ、叶伊の周囲を白煙が埋めつくした。
視界を奪われ、足が止まる叶伊。
すかさず、与一が走り寄った。ブレード状の弓をきらめかせ、精密殺撃を発動させて叶伊の胴体を薙ぎ払う。
「く……っ」
ばっさりと胴を斬られて、叶伊は地面に手をついた。
「ただの弓使いと侮っちゃだめだよ。俺は与一の名を受け継ぐと決めた弓使いだからね」
「侮ってなどいませんよ……!」
叶伊は立ち上がり、ヒヒイロカネから巨大な斧を抜き出した。
与一の頭上へ、必殺の一撃が振り下ろされる。
ギャリッ、と音を立てて、与一の弓が斧を止めた。
「俺は油断しないよ?」
「そうですか……?」
言った直後、叶伊の姿が消えていた。
斧による攻撃は捨て駒。ここからが本命だ。
神速で与一の背後に回りこんだ叶伊は、身をかがめて肩口から体当たりを敢行。我流の貼山靠だ。
まともに受けた与一は宙に浮き、そこへ叶伊の旋風脚が打ち込まれた。そのまま流れるように回し蹴りが入り、裏拳がヒットする。そして、とどめとばかりに山嵐が炸裂。背中から地面に叩きつけられた与一は、もう動けなかった。
「弓道対柔道、ここに決着ゥゥ! いや別に柔道だけやなかったな。しまいのほうは格ゲーみたいなことになっとったけど。点数はどんなもんや?」
†叶伊
明日羽5
鐘持 8
臼井 7
†与一
明日羽6
鐘持 7
臼井 7
「あれ? 明日羽さん、男は全員5点にするんかと思っとったけど?」
「男の子でも、見た目がかわいければ点数つけるよ?」
「フリーダムやな……。まぁ時間も押してきとるし、次いこかー」
「さて第五試合。支えし剛盾・レグルス・グラウシード(
ja8064)vs緋焔を征く者・楊礼信(
jb3855)! アスヴァン同士のバトルやで!」
「スタイリッシュかどうかはわかりませんけど、がんばります (*´ω`)!」
レグルスはベルゼビュートの杖を手に、ローブ姿で登場。
リア充オーラを身にまとい、さわやかスマイルを浮かべたその姿は、まさに貴族。
「……どういう意図なのかわからないけれど、格好良く戦えばいいんだよね? いままでの戦いも見てて勉強になったし、僕もみんなの参考になるような戦いができるといいなぁ」
たのしげにやってきた礼信は、体より大きなクレイモアを担いでいる。
そして試合開始と同時に、彼は走りだしていた。
戦いは先手必勝!
燃え上がる大剣を天にかざして、礼信は声を張り上げる。
「……我が呼びかけに応え、今こそ天空より来たれ! あまたの罪を浄化せし聖なる鉄槌よ!」
おお、なかなかの詠唱力だ。
礼信の呼びかけに応じて、アウルの彗星が降りそそぐ。
それに対応して、レグルスも詠唱を開始。
「僕の力よ! 何物をも通さない、無敵の盾となれッ!」
詠唱力(厨二力)で言うとレグルスの完敗だが、一応ブレスシールドは発動した。
しかし、シールドごとアウルの雨に打たれるレグルス。重圧を受けて動きが鈍ったところへ、礼信がクレイモアを振りかざして襲いかかる。
「く……っ! 僕の力よ! 決して砕けない、鋼鉄の鎖となれッ!」
レグルスの手から、審判の鎖が投げ放たれた。
礼信の体にジャラジャラと鎖が絡みつき、動きを封じ込める。
間髪入れずに、レグルスはヴァルキリージャベリンを発動。
「僕の力よ……すべてを貫き通す、白銀の槍となれッ!」
銀色に輝く巨大な槍がレグルスの手に握られ、ブンッと投げ飛ばされた。
礼信の体を真っ白な閃光が貫き、鎖が千切れて散らばる。
がくりと膝をつく礼信。
しかし、終わってはいなかった。レグルスの攻撃には、詠唱力が足りなかったのだ!
「格好良く戦うのって、よくわからないけど……。こうやればいいのかな……」
スクッと立ち上がり、礼信はレグルに向かって指を突きつけながら命じた。
「……我が前に立てる咎人よ。今こそ己が罪の重みに打ちひしがれよ!」
「え……っ!?」
みごとな詠唱から放たれた審判の鎖は、あっというまにレグルスの動きを封じ込めた。
そして礼信の大剣が緋焔の軌跡を描き──
「うぁぁ……っ!」
レグルスはどうすることもできないまま、地に伏した。
「みごとな詠唱合戦やったな。楊選手のほうが一枚上だったっちうわけや。んで、採点いってみよかー?」
†レグルス
明日羽
鐘持 7
臼井 7
†礼信
明日羽
鐘持 8
臼井 8
「ちょ……。明日羽さーん。寝んといてくださーい!」
「寝てないよ? ちょっと目を閉じて意識を消してただけだよ?」
「それを巷では『寝てる』言うんや。とにかく点数つけたってや!」
「両方5点で……あ、礼信君は7点かな?」
「あんた、ルックスだけで決めとるやろ」
「スタイリッシュ度を競うんだから、ルックスは重要だよね? まぁいいから次に行こうよ。ね?」
「ひどい男性差別やで、ホンマ」
「こんな無法な審査員は置いといて、次いくでー。第六試合! 電脳陰陽師・月丘結希(
jb1914)と銀狐の絆【葉】深森木葉(
jb1711)の激突や! これまた同じ職同士の決闘やで!」
先に闘技場へ現れたのは結希。
彼女が光纏すると、周囲の空間に無数の仮想モニタが浮かび上がった。手にした電子機器とリンクして目まぐるしく移り変わる映像は、まさにSF的スタイリッシュ。
対する木葉は巫女装束に身をつつみ、黒髪を水引で結うという正反対のスタイルだ。
榊の枝に紙垂を飾り付けた玉串を構え、しずしずと歩を進める木葉。
そのとき。審査員席のマイクが倒れて、ガタンとスピーカーを震わせた。
見れば、明日羽が乱入しようとしている。
「ちょ……! なにするつもりや?」
さすがに慌てる黒龍。
「ふたりとも私が相手するから。いいでしょう?」
「駄目やって!」
「私が主催者なんだよ?」
「主催者でもや! ちょっとセンセー、止めたってください」
「佐渡乃、席につけ。こんな大勢の前で倫理規定に反するマネはするな」
「でも、あの子がおいしそうなんですよ……?」
木葉のほうへ視線を向ける明日羽。
ヘビに睨まれたリスみたいに、木葉は体を硬直させる。
「とにかく座れ。そういうことは後でやれ。な?」
「あとで、ですか? では、そうしますね?」
ふふっと笑って席に戻り、真剣な眼差しで闘技場を見つめる明日羽。そのさまは、さきほどまでと別人だ。
そんな騒ぎのすえ、ようやくバトル開始。
「よろしくおねがいしますぅ」
深々と頭を下げて、木葉が一礼した。
結希はそれを無視して、空中の仮想モニタを指先でタップする。
「もう戦いは始まってるの。あいさつしてるヒマなんてないわよ?」
手元のスマホが駆動音を上げ、結希の指が空中に投影されたキーボードの上を走り、術式を構成する呪文の文字列が滝のようにスクリーンを流れ落ちた。
Yin-Yang [Conversion] Ver1.05.2
五芒星の光輝が木葉の背中に投影され、くるりと星が半回転する。
天地逆転。陰と陽を反転させて、相手の動きを封じる術だ。
「……えっ!?」
なんの抵抗もできないまま、木葉はパタッと倒れた。
結希はそれを見下ろしながら、一歩も動かず淡々とモニタをタップし、スライドして、次の術式を起動させる。
Evocation [Saisetu] Ver1.03.1
八将神の一柱、歳殺神の力を借りる術だ。万物を滅する凶神。その力は、わずかな片鱗でも凄まじい威力を誇る。
ピアニストのような指先から召喚プログラムが打ち込まれ、モニタがフラッシュして、ノイズが流れた。
結希を中心に青白い光輪が広がり、太極図となって回転する。
プログラムが起動した瞬間。無数の白刃が降りそそぎ、美麗なほどの残酷さで踊り狂った。
動くこともできず、血しぶきを上げて倒れる木葉。
「月丘選手のサイバー陰陽術が決まったでぇぇ! 深森選手はダウンしたまま動けない! このまま終わってまうんか!?」
黒龍が実況した直後、木葉の体を光が包みこんだ。
サクリファイスだ。長い射程距離を持つ回復術。
無論、木葉が使ったのではない。
「明日羽さん! あんた、なに勝手に回復しとるん!?」
「部外者が手を出しちゃいけないなんてルールはないよ?」
「そりゃわざわざルールに書く必要ないからや!」
「でも、もう治しちゃったし。ね? 試合続行だよね?」
「もー、勝手にしてくれやー!」
投げやりになる黒龍。
じつは一番きびしい配役だったかもしれない。
「ありがとうございますぅー」
木葉は明日羽に向かって一礼すると、結希のほうへ向きなおった。
バサッと巫女装束をひるがえし、玉串を水平に構えて恭しく頭を下げる。
「謹請し奉る 祈り願うは呪縛の儀 緑豊かに生茂る 大樹の蔦の束縛を 聞食せと 恐み恐みも白す」
樹木の女神『大屋都比賣』への祝詞が唱えられ、無数の蔦が地面から湧き上がった。
蔦は意思があるかのように結希へ襲いかかり、両脚を絡め取る。
動けなくなったところへ不可視の刃『鎌鼬』が走り抜け、結希は血を噴いて倒れた。
「おおっと! みごとな逆転勝利やでぇ! だれかの回復魔法とかあったけど、気にせんといてや! 勝因は詠唱力! 詠唱力や!」
†結希
明日羽9
鐘持 8
臼井 9
†木葉
明日羽12
鐘持 7
臼井 8
「明日羽さん? これ10点満点ちゃうん?」
「だれが決めたの?」
「あんたが決めたんでっせ?」
「じゃあ決めなおしても問題ないよね?」
「無法すぎるやろ……。まぁ言ってもしゃあないわ。深森選手は27点ちぅ高得点やけど、依然トップは桐原選手やでぇ! ほな次の試合や!」
「さて、第七試合! フランス娘のシェリア・ロウ・ド・ロンド(
jb3671)vsベテラン解説者・小田切翠蓮(
jb2728)! なんや、この称号。ボクがほしいわ。ほな試合開始やでー」
「ふふ……。わたくしのために用意されたような舞台ですわね」
シェリアは優雅に燕尾服で登場。
手には旋棍を持っているが、ダアトの彼女がこれを使うことはあるのだろうか。フランスパンのほうが良かったんじゃないか?
そのとき。
会場のスピーカーから能楽が流れはじめた。
こういう演出から入る選手はいなかったため、観客席がざわめきだす。
そのざわめきが頂点に達したとき。
カツッ、と硬い音を立てて地面に扇子が突き刺さった。
そして、時代がかった前口上がスピーカーからほとばしる。
鬼に逢うては鬼を斬る
仏に逢うては仏を斬る
斯くの如くんば行く手を阻む者、悪鬼羅刹の化身なり……
ズシャアッ!
砂煙をあげて、闇の翼で舞い降りたのは翠蓮。
おお、つかみは完璧だ!
しかも鐘持兄弟と面識のある彼は賄賂による買収工作を済ませており、準備に抜かりはない。──そう。闘技場に立つ前から戦いは始まっているのだ。
「Come on! Profitez de la lutte(さあ! 闘争を楽しみましょう)」
光纏と同時に、シェリアの銀髪が黄金色に輝きだした。
そして発動されるのは、煌氷の輪舞曲。
真っ白な冷気が渦を巻いて燕尾服をはためかせ、錐のように尖った氷がズラリと宙に浮き上がって、ロンドのごとく回りだす。
「ご一緒にロンドでもいかが? ……ふふ、安心なさって? わたくしがリードして差し上げますから……!」
妖艶な笑みとともにシェリアの両腕が広げられ、無数の氷筍が一斉に撃ち出された。
凍てつく刃が容赦なく翠蓮を切り刻み、血煙を噴き上げさせる。
「やりおるな……。次はわしの番よ」
翠蓮の右手に握られた数珠が、じゃらりと鳴った。
腕全体に巻きつく蛇の幻影は、アウルが変化したものだ。
「行け。我が覇道を阻む者に、すみやかな死を」
アウルの蛇がシェリアに跳びかかる。
しかし、蛇の顎が彼女をとらえることはなかった。寸前で発動された術がシェリアの周囲に風の障壁を作り、蛇を撥ね飛ばしたのだ。
「ふふ……! 当たらない! 当たりませんわ!」
荒れ狂う風がシェリアの髪を吹き上げた。
竜巻のような風の中。シェリアは朗々と告げる。
「荒れ狂う地獄の業火よ……汝我が召喚に従い、敵を永劫の虚無へ還し給え。ブリュム・ドゥ・シャルール!」
燃えたぎる炎のかたまりが彼女の頭上に出現し、次の瞬間には発射されていた。
ゴォッ!
火の粉と轟音をまきちらして、火球が一直線に突き抜けた。
爆裂した火球は、周囲一帯にナパームのような炎の雨を浴びせかけ──
「む、無念……」
直撃を受けた翠蓮は、炎の海に崩れ落ちた。
「入場パフォーマンスvs詠唱力対決、ここに決着ゥゥ! さーて、得点は?」
†シェリア
明日羽9
鐘持 9
臼井 8
†翠蓮
明日羽5
鐘持 10
臼井 7
「翠蓮さんカッコよかったよ! ねえ?」
「そうだよ! 10点じゃ足りないよ!」
わかりやすく買収されている鐘持兄弟。
たしかに翠蓮の作戦は悪くなかった。が、彼が男である時点で最初から優勝は有り得ないのだった。
あと、やっぱりフランスパンで良かったと思う。
ていうか、フランスパンなら優勝してた。
「さぁどんどん行くでー! 第八試合! ナナシ(
jb3008)vsイリス・レイバルド(
jb0442)! まずはイリス選手の入場や!」
「天に星あり! 青空−そら−に虹あり! そして地上にボクがある! お茶の間の人気者イリスちゃん、ただいま参上!」
ツインテールをなびかせて、制服姿で入場したのはハイテンション小動物のイリスちゃん。
「乙女のファッションは常在戦場! 普段着さえも戦装束! つまりボクは常に可愛いッ!」
どうやら、かわいいらしい。
では次にナナシの入場。
ストンつるんペタンのロリッ娘が魔法書片手に闘技場へ上がり、口をひらく。
「やっぱり忍軍の扱いがひどいと思うの。だから教えてあげるわ。忍軍の本当の凄さを。先に一撃殴らせてあげる。それで勝てないなら、あなたの負けよ」
「いいの? 出番なしで終わっちゃうよ?」
「私が先に攻撃したら、あなたこそ出番なくなっちゃうでしょう?」
「ふーん。じゃあ先に殴らせてもらうよっ!」
そう言って、イリスはピコピコハンマーを……ではなく、ウォーハンマーを装備した。
試合開始!
「まっすぐ行って、ぶっとばーす!」
無駄に派手な虹色のオーラをばらまきながら、イリスはミサイルのように突っ込んでいった。
一気に懐へ飛びこみ、巨大なハンマーをカチ上げる!
バコォォォンン!
まともに食らったナナシは天高く舞い上がり──
そこへ、小天使の翼で追いついたイリスがタウントを使いながら追撃した。
観客たちの視線が彼女に集まる中、最高の笑顔でイリスは言い放つ。
「ボクのハンマーに聖火が灯る! だれよりも輝けと猛り狂う! いくぞ必殺! セイクリッドイリスちゃんハンマーッ!」
ナナシの脳天に鈍器が振り下ろされ、彼女は地面へ激突した。
ザザッ、と地面を削りながら着地したイリスは、豪快にハンマーを振りまわしてビシッとポーズを決める。
「完全燃焼! 決まった!」
だが、決まってはいなかった。
ナナシは血を流しながら立ち上がり、言い放つ。
「良い攻撃ね……でも無駄よ。いまから貴方に絶望を。教えてあげるわ」
闇の翼が風を打ち、ナナシは天高く舞い上がった。
バッ、とまきちらされた三冊の魔道書は宙に浮いて三角形を描き、淡い光をこぼれ落とす。
「受けなさい。絶望の三重奏(トライ・レイン)!」
魔道書フェアリーテイルからは光の弾丸が、
ミーミルの書からは、ほとばしる水流が、
雷霆の書からは剣撃のごとき稲妻が、
いっせいにイリスの頭上へなだれ落ちた。
「グワーッ!」
ばたりと倒れるイリスちゃん。
しかし、ナナシの攻撃は止まらない。
「トドメよ! 魔法忍法火の鳥!!」
科学忍法ではない! 魔法忍法だ!
『煌めく剣の炎』がナナシの全身を炎で覆いつくし、黒煙を上げた。
そして、流星のように急降下。
ズドォォォォンン!
爆煙が巻き上がり、ナナシとイリスの姿は見えなくなった。
やがて煙が消えたとき、そこには折りかさなって倒れる二人の姿が。
「おーっと! ダブルKO! ちぅか、最後の体当たりは余計だったんとちゃうか!? とりあえず採点や!」
†イリス
明日羽9
鐘持 7
臼井 8
†ナナシ
明日羽9
鐘持 8
臼井 8
「両者とも高得点! せやけどトップは変わらんままや! このまま桐原選手の優勝か!? それはそれで面白いで!」
「スタイリッシュ闘技会も佳境やで! ここで登場するのは、炎熱の舞人・黒百合(
ja0422)! 対するは、白衣のイケメン・坂本桂馬(
jb6907)や!」
「さてェ……どんなのが相手かしらァ……たのしみだわァ……♪」
黒百合は巨大な鎌を手に登場。
対する桂馬は、白衣姿でタバコをくわえながら舞台に立った。武器は拳銃一丁だ。
が、彼の本当の武器は銃でも肉体でもない。桂馬の用意した武器は『情報』だ。なんと彼は本日の対戦にそなえて、相手の弱点や素性、性格などを調べておいたのである。そのため、黒百合の生い立ちについて熟知している。
試合開始と同時に、桂馬は黒百合の左側へ回りこんだ。彼女の左腕は義手なのだ。
さらに動揺を誘うべく、過去のトラウマを引きずり出す。
「黒百合の嬢ちゃん、嬲りものにされたときの気分はどうだった? 両親の目の前で嬲られたって話じゃないか」
その瞬間、黒百合の足が止まった。
一気に距離をつめた桂馬は、バネのように右脚を跳ね上げる。
爪先が風を切り、みごとなラインを描いて黒百合の側頭部に突き刺さった。
よろけたところへ、クイックドローからのゴーストバレット。
透明な弾丸を眉間に受けた黒百合は、声も上げずに倒れた。
その直後、会場がブーイングに包まれる。
桂馬の戦いかたが汚すぎたせいだ。「卑怯者ぉー!」などという罵声を浴びせる者もいる。
「卑怯だと? 褒め言葉として受け取っておこう!」
いかにもヒールらしい決まり文句を返す桂馬。
しかし、この程度の攻撃で沈むような黒百合ではなかった。そもそも、彼女は動揺して足を止めたわけではない。単に桂馬が何を言うのかと興味を持っただけなのだ。
起死回生で立ち上がった黒百合は、不気味に微笑みながら桂馬を睨みつける。
「あァ、痛かったわァ……この痛みは貴方の血で癒して頂かないとォ……。私を傷つけた責任、その体でとってよねェ♪」
言い終わると同時に、黒百合の手から金属製の糸が繰り出された。
きりきりと音を立てて、糸が桂馬の体を縛り上げる。
身動きできなくなった桂馬を引きずり寄せながら、黒百合は『憑かれた狂人の凶牙』を発動。口元に覗く犬歯が巨大な牙と化して、毒液をしたたらせた。
「な……っ!?」
桂馬の全身に、冷たい汗が噴き出した。
その首筋めがけて、肉食獣さながらに黒百合が跳びかかる。
ザグッ、と肉を噛み裂く音。
桂馬の首から血が噴き出し、彼はその場に膝をついた。
「さァこれでとどめェ……。貴方の頭が弾けるのよォ……脳髄と脳漿が散らばって、眼球転がりィ、真っ赤な紅い花を咲かせるのよォ……あァ、きっと綺麗な花でしょうねェ……♪」
ガバッと開かれた黒百合の口の中でアウルが圧縮され、光を発した。
破軍の咆哮。見た目の狂気度もさることながら、ダメージも半端なものではない。
あわてて逃げようとする桂馬だが、毒で足が動かない。
そこへ、収束されたアウルの塊がレーザーのように走り抜けた。
ヒール役らしく敗れる桂馬──と思いきや、破軍砲は彼の頬をかすめただけだった。
「おのれ、黒百合……!」
毒が切れたとたん、桂馬は全力で逃げだした。
そのまま審査員席のほうへ走ってきて、明日羽の隣に座っていた百合華に話しかける。
「あとはお任せします、百合華様! あの強敵をみごと倒してください! ハイルマインフューラー!」
一方的に無茶振りして、テラーエリアで逃げ去る桂馬。
唖然とする百合華の肩を、明日羽がポンと叩いた。
「じゃあ頑張ってね?」
「ええ……っ!? イ、イヤですよ、あんな人と戦うの!」
「応援してあげるから。ね?」
「イヤですよぉぉ……! ものすごい怖そうじゃないですかぁ、あの人……!」
正直な感想を口にして、震える百合華。
それを見た黒百合は、口元の血をぬぐいながら手招きする。
「怖がらないでェ……? 痛くないように遊んであげるからァ……」
「無理無理無理! ぜったい無理ですよぉぉ……!」
脱兎のごとく逃げだした百合華はトイレの個室に閉じこもり、闘技会が終わるまで出てこなかったという。
†黒百合
明日羽10
鐘持 8
臼井 8
†桂馬
明日羽7
鐘持 5
臼井 8
「あら? 明日羽さん、坂本選手に7点つけるん? こう言ったら何やけど、かわいいタイプちゃうで?」
「白衣は大事だよ?」
「そんな理由かい。まぁええわ。次いくでー」
「んで、これが十試合目や! 赤コーナー、惨劇阻みし破魔の鋭刃・コンチェ(
ja9628)! こいつぁなかなかの称号力や! 対するは灼魔を討つ者・御供瞳(
jb6018)! 称号だけならコンチェの圧勝やな!」
「スタイリッシュなのは称号だけではない。俺の実力を見せてやろう」
黒い羽を舞い散らせ、分身しながら舞台に上がったコンチェは、目に巻いている包帯を解いて光纏した。黒いオーラが翼の形となって顕現し、ゆらりと揺れる。
「旦那様に見つけてもらうために、オラは今日も頑張るっちゃ!」
大剣を引きずりながら登場した瞳は、コンチェと正反対の行動をとった。すなわち、目に手ぬぐいを巻いたのである。霊の声をたよりに戦うイタコ系霊視戦士である瞳は、視覚を必要としないのだ。だからといって目隠しをする必要はないと思うが、きっとこれがスタイリッシュなのだ。
謎の目隠しバトル、いまスタート!
「行くぞ! アウルと密法を駆使した鬼道忍軍の力、とくと見よ!」
コンチェはツヴァイハンダーをひっさげて斬りかかった。
ストイックな彼は若い女性が苦手なのだが、瞳に対してはあまり苦手意識が働かない。なんせ瞳からは、女性らしいフェロモンが全く出てないのだ。
なんのためらいもなく刃を操るコンチェは、いま完全に一人の闘士! 迷いのない太刀筋が、冷徹に瞳を襲う!
「旦那様、見える、見えるだっちゃよ!」
瞳は視界をふさがれたまま、華麗にコンチェの剣撃を回避した。
体勢を崩したコンチェの背後から、瞳の剣が薙ぎ払われる。
「旦那様ぁ、刻が見えるっちゃー!」
ザシュッ、とコンチェの背中が切り裂かれ、血の飛沫が飛んだ。
目が見えないとは思えないほどの、的確な攻撃である。
だが、コンチェもやられるばかりではない。
すばやく距離をとった彼は右手で剣をかまえ、左手で印を結びながらオリジナル忍法を発動した。
「ナウマク、サンマンダ、バサラダンカン! 西蔵忍法、倶利伽羅剣!」
紅蓮のオーラが剣先から燃え上がり、矢のように空間を突き抜けて、瞳の胸に命中した。
火焔をまとった龍のオーラが瞳に絡みつき、その身を焼き焦がす。
「我が忍法の威力、思い知ったか! これでとどめだ!」
「旦那様と再会する日まで、オラは絶対に負けないっちゃー!」
襲い来るコンチェを前に、瞳は『Oh!MOUREETU!!だっちゃ』を発動した。
これは、『足元に霊的地下鉄を走らせることで発生する風を霊的通風孔から解放。自身を中心に範囲内の敵をノーダメージで1スクエア後方に吹き飛ばす』という技だ。斬新というか奇っ怪というか、よくそんな技を思いついたなと思うが、ともかくコンチェは吹っ飛んだ。
しかも、それだけではない。吹き上げる風によって瞳のスカートは舞い上がり、パンツがチラリ。
「ぅお……っ!?」
いくら瞳が女性っぽくないとはいえ、パンチラはコンチェの動揺を招くのに十分すぎた。
おもわず両手で目を覆ってしまった瞬間、瞳の大剣がパコーンと命中。
「やった! オラの勝ちだっちゃ! 見ててくれたかや、旦那様ぁー!」
「目隠し対決、ここに決着やでー! 旦那様への愛を貫いた御供選手の勝利や! んなら得点発表!」
†コンチェ
明日羽5
鐘持 8
臼井 8
†瞳
明日羽9
鐘持 7
臼井 8
「コメントとかほしいとこやけど、時間ないから次いくでー! 残るは2試合! 依然、トップは桐原選手! このまま逃げ切ってまうんか!?」
「十一試合目! 氷月はくあ(
ja0811)vs楯清十郎(
ja2990)! ……って、明日羽さん、試合前から10点つけるのヤメとってください! まぁとりあえず試合開始や!」
「去年の射的大会で出来なかった勝負といきますか」
全身を白銀色の装備で固めて登場したのは、清十郎。そのたたずまいは、さながら聖騎士だ。
一方、はくあは深紅のコートを羽織ってステージに。
PDWを抜き、にっこり笑って応える。
「のぞむところだよっ!」
試合開始の合図で、ふたりは揃って前に出た。
清十郎は魔法書マビノギオンを開き、高らかに命じる。
「いにしえの英霊たちよ、我が命に応じよ!」
ギャリンという音とともに呼び出されたのは、数本の白刃。
そこへ、はくあのPDWが火を噴く。
チィィン
横っ飛びにかわした清十郎の腰から、メダル状のヒヒイロカネが弾け飛んだ。
そのメダルをさらに頭上へ弾き上げるように、魔法の刃が切っ先を振り上げる。
「全軍抜刀! 第一陣突撃!」
清十郎の号令で刃の群れが騎士団のごとく整列し、はくあに襲いかかった。
はくあは冷静に『全知の黒瞳』を使い、漆黒の瞳を輝かせながら攻撃を回避する。全身を覆うアウルは蒼から黒へ変わり、若草色の髪は力強い夏草のようにきらめいた。
左手でPDWを連射しながら右手にエネルギーブレードを抜き放つ、はくあ。
剣光が一閃し、ギンッ、と金属音を上げた。
はくあの剣と清十郎の『騎士団』が交錯し、落ちてきたメダルが再び跳ね上げられる。
騎士団の一派はそのまま突き抜け、はくあの『聖盾』がそれを受け止めた。
しかし、この攻防も清十郎の計算のうち。
「魔術士隊! 斉射!」
地面に突き立った刃が五芒星を描き、フォースが発動して聖盾ごとはくあを吹き飛ばした。
ここぞとばかりに、清十郎が畳みかける。
「全軍突撃! 我に続け!」
破暁によって一本の剣と化した魔法書を手に、清十郎は突撃を敢行した。
その手から放たれるのは、すべてを貫くかのような一文字突き。
燦爛たる光が一条の輝線を描き、はくあの聖盾を一枚、二枚、と突き破った。
とっさに首を傾けたはくあの頬をかすめて、真っ白な長剣がチンッ、とメダルを打ち上げる。
「次はこっちの番だね。全力で行くよ……!」
はくあは一歩跳びのくと、剣を納めてグラビティゼロを腕にはめた。強力無比な、接近戦用のバンカーだ。装備しただけで、はくあの生命力が削り取られる。
「行くよ……。我は意志持つ不敗の剣。閃光は三度世界を巡りて衰えず、万象全て穿ちて滅す……」
詠唱とともに、はくあは走りだした。
その利き腕が炎のようなアウルに包まれ、清十郎の破暁と逆向きのコースで真っ赤な軌跡を描く。
受ける清十郎は、あわてずに防壁陣を起動。カウンターの一撃を狙う。
「全軍防御陣形! 騎士の心は勇気! その力は守護! その剣は正道! そしてその存在は善と示せ!」
それに対して、はくあは真正面から拳をぶつけていった。
燃え立つ炎が空間を焼き焦がし、溶かし尽くして、ぐにゃりと歪める。
「いっけぇーーっ、クラウソラス!」
バンカーが爆裂して、清十郎は真後ろへ吹っ飛んだ。
そして、そのまま立ち上がれない。
はくあは「ふぅ」と息をつき、落ちてきたメダルをキャッチした。
「おおー! こりゃ見せ場の多い対戦やったな。得点も高そうやで。さぁ審査員の皆さん、出番やでー!」
†はくあ
明日羽15
鐘持 10
臼井 10
†清十郎
明日羽7
鐘持 10
臼井 10
「えらい点数出よったで! ちうか明日羽さんの趣味的な問題ぬかしたら、ふたりとも満点やんか! えー、これは先生から解説もらいましょか」
「まず、みごとだったと二人に言いたい。これは事前の打ち合わせがなければ出来ない芸当だが、たがいに攻防の組み立てがうまく、最後の大技ではきっちりと詠唱も挟み、見せ場の作りかたが秀逸だった。メダルをはじきながら戦うというのも、ビジュアル的に他を圧倒していたと言えるだろう。とりわけ清十郎君は装備まで完全に『騎士団』になりきっており、隙なしだった。個人的には15点つけたいぐらいだ」
「大絶賛やな。ちぅわけでトップは氷月選手に交代やでー! そんでもって、次が最終戦や!」
「さぁ泣いても笑ってもコレが最後! カレーの伝道師・最上憐(
jb1522)と、酢昆布の伝道師・蓮城真緋呂(
jb6120)の対決や! なんで最後にこんな対戦やねん!」
「……ん。カレーのおいしさを。伝えるために。きた」
いつもの調子でやってきたのは、憐。
右手にベルフェゴルの鉄槌を持ち、左手にはカレーの入った寸胴鍋を提げている。もう初っぱなから全力全開でスタイリッシュバトルを拒否するかまえだ。さすがと言うほかない。ええ、大歓迎ですとも。
そして対する真緋呂は、両手に酢昆布を持って登場。
「常に酢昆布を携帯する私は、いわば酢タイリッシュの鑑。酢昆布の力、今こそ見せてあげる!」
あんまり見たくもないような……。
ともかく、カレーvs酢昆布の華麗なる酢タイリッシュバトルが始まった。
憐は開幕早々に『発破』を使用。ダイナマイトのような爆炎と爆音が真緋呂を襲い、視覚と聴覚を一瞬マヒさせた。
その隙に『擬態』で姿を消した憐は真緋呂の背後へ回りこみ、ダークハンドを発動。
「きゃあっ!?」
動けなくなった真緋呂に向かって憐は素早く突撃。カレーを寸胴鍋ごと真緋呂の口に押しつけ、無理やりカレーを食べさせ──否、飲ませはじめた。
「……ん。カレーは。飲み物。飲料。飲む物」
グビグビと注ぎこまれるカレー汁。
「……ん。カラダの。力を。抜かないと。鼻から。カレーが。逆流するよ? 素直に。飲まないと。胃に。撃ち込むよ?」
巨大なハンマーで脅迫する憐。
だが、しかし。真緋呂は抵抗してなかった。
食いしんぼう万歳な真緋呂にとって、この程度のカレーは容量内!
彼女なら食える! 否、飲める!
クールな憐も、さすがに戸惑った。まさか、この攻撃を難なく乗り切る者がいようとは──。いや結構いますけどね、そういう人。
そんな次第でカレー攻撃を切り抜けた真緋呂。反撃開始!
「Usamiro etiadati etesasaknas ukihsonat omusti」
深いスリットの入ったチャイナドレスをひらひらさせながら謎の魔法言語で詠唱すると、その手に現れたのは氷の鞭。
それを新体操のリボンっぽくクルクルさせたあと、憐に打ちつける。
反撃の隙を与えず、真緋呂は追撃の大ジャンプ。
「Usediatihs akusti uosum ubnokus」
広げた両腕に炎が宿り、クロスされた腕の間から灼熱の槍が射出された。
頭上からの攻撃をまともに受けて、倒れる憐。
そこへ、とどめの魔法が行使される。
「Iasaduk iaijog adarako iaduohebat ahinohsuom」
ずらりと扇状に広げられた酢昆布が真緋呂の両手で神々しく輝き、すっぱい潮風が吹き荒れて、憐は場外まで吹き飛ばされていった。
酢昆布WIN!
「はいはい、ネタバトルおしまいやー。逆転は無理や思うけど、一応点数見とこかー」
†憐
明日羽9
鐘持 6
臼井 7
†真緋呂
明日羽9
鐘持 7
臼井 7
「明日羽さん、このネタバトルに9点つけるんかい……」
「かわいい子に8点とかつけられないでしょ?」
「そういや女子は全員9点以上やな。無茶苦茶な審査基準やで、ほんま」
「もともと私の趣味で開催してるんだよ?」
「それ言われたら、なんも言い返せへんわ。まぁそんなわけで、優勝は氷月はくあ選手に決まりやー! おめっとさーん!」
「はくあちゃんは、あとで私のところに来てね? ごほうびあげるからね?」
「行ったらアカンでー!」