その日。最強のジョブを決めたりするために、26人の撃退士が集まった。
すべては矢吹亜矢の馬鹿騒ぎから始まったものであり、彼女が『ディバインナイトは全員死ね』と言い放ったことは広く知られている。
「さて……矢吹と言ったか。出てくるが良い。我はフィオナ。誇りあるボールドウィン家の騎士だ」
ゲーム開始前。フィオナ・ボールドウィン(
ja2611)は、剣を抜き放って名乗りを上げた。
「なによ、あんた」
逃げも隠れもせず、堂々と出てくる亜矢。
ぶっちゃけ、この瞬間にディバインナイト全員でタコ殴りにすれば楽勝だったのだが、試合開始前に殴りかかるような不心得者はいなかった。さすがは聖騎士。ルールやマナーは完璧だ。
「貴様が矢吹か。……聞けば貴様、ディバインナイトは全員くたばれと公言したそうではないか。我が耳で確認するが、事実に相違ないか?」
「言ったけど? それがどうかした?」
「そうか。……では王の慈悲として、その発言を撤回するチャンスを与えてやろう。妄言を撤回して頭を下げるならば、なにも聞かなかったことにしてやらんでもない。……さぁ、選ぶが良い。その蒙昧な頭を下げて赦しを請うか、ゴミのような誇りを抱いて仕置きを受けるか。どちらだ?」
「答えはわかりきってるでしょ? あたしは遊びたいのよ。命を賭けてでも、祭りがしたいの。わからない?」
「貴様の考えなど、知ったことか。二度は言わんぞ。我らを侮辱した言葉を撤回せよ」
「しないっての。もとはといえば、あんたらの仲間が百円返さなかったのが悪いんじゃん。そっちこそ謝りなよ。連帯責任でしょ?」
理不尽な要求をする亜矢。というか、彼女の発言の半分ぐらいは理不尽である。
それにしても、たかが百円でこんな騒動になろうとは。死んだ男も浮かばれない。
「なるほど。くだらぬ誇りに殉じるというわけか。よかろう。王の機嫌を損ねた罪は贖ってもらうぞ。……では、あとは剣で語りあうとしよう」
バサッとマントをひるがえし……てほしい場面だが、装備欄になかったので普通に背を向けてチームメイトのもとへ帰るフィオナ。
その背中めがけて、亜矢の火遁が放たれた。
「な゛……っ!?」
いきなりの不意打ちに、なすすべもなく倒れるフィオナ。
「あはははは。油断しすぎ。開始前に攻撃しちゃいけないなんてルールはないよ?」
たしかに、そんなルールはどこにも書いてなかった!
さすがニンジャ! マナーなど知ったことではない!
という具合に、いきなり波乱の幕開けとなった最強ジョブ戦争。いまホイッスル!
その戦いは、グラウンドのスプリンクラーが作動するところから始まった。
動かしたのは、鬼道忍軍の高虎寧(
ja0416)
これで地面をぬかるみ状にして、水上歩行で優位に立とうというのだ。
おお、なんと地味な戦術!
しかも、寧を含む忍軍4人(エイルズレトラ マステリオ(
ja2224)、神凪宗(
ja0435)、亜矢)は遁甲の術で気配を断ち、地面が泥状になるまで待つ構え!
地味! 陰湿!
汚い! さすがニンジャ! 汚い!(注:MSはニンジャが大好きです)
「誇り高きディバインナイトの名を侮辱しおって……許さん! 行くぞ若杉殿! 我らの力、見せてやろう!」
「ええ、これだけディバインナイトのことを馬鹿にされたら、さすがに黙ってられません。アイツは絶対に許しませんよ!」
怒りに燃えて突撃するのは、ラグナ・グラウシード(
ja3538)と若杉英斗(
ja4230)の非モテコンビ。どちらも高レベルのディバインナイトだが、残念ながら潜行した忍軍たちを見つけることはできなかった。
「く……っ。どこへ隠れた、クノイチめ!」
「ラグナさん、敵が!」
英斗の指差した先に、3人の剣士がいた。
雪室チルル(
ja0220)、鳳静矢(
ja3856)、桝本侑吾(
ja8758)
いずれも、名の知れたルインズブレイドだ。
「2対3か……。どうする若杉殿」
「やるしかありません。人数の不利など、ジョブの性能で覆してみせましょう」
「待て待て。3対3だぜ? こんな面白そうなこと、黙って見てられるかよ」
向坂玲治(
ja6214)が駆けつけて、剣を……ではなくトンファーを抜いた。
3対3の魔法剣士対決が始まる!
「ルインズブレイド……それは何者にも勝るジョブ。中途半端などというのは、あさはかな者の考え。すべてにバランスが良いということは、いかなる戦いも可能ということ。物理が得意な相手には魔法で攻撃したり、その逆もまた然り。これ以上オールマイティなジョブは他にない。言っておくが、中途半端ではない。オールマイティである。……オールマイティである!」
やけにオールマイティを強調するのは、女装姿の鳳静矢。
なぜ女装? わからないが、かわいいのでプラス修正しよう。ルックスはジョブ以上に重要だ。(え?
対抗するように、ラグナが語りだす。
「ディバインナイトは、防御力のみならずスキルによって最強。1D6貫通ダメージすら無効にする銀の盾は言うまでもなく、ニュートラライズで冥魔相手も超強力! シールドバッシュで敵のスキルも妨害! そしてなにより、庇護の翼こそ至高! 自分の身を投げ出して味方をグワーッ!」
しゃべり終わる前に、侑吾のウェポンバッシュがぶちこまれた。
「話してる間に攻撃しちゃいけないとか、だれが決めた?」
あくび混じりに言い放つ侑吾。
彼のウェポンバッシュはコメディにおいて無類の威力を誇るが、はたしてラグナは生きているのか?
「く……っ。この程度で倒れはせん。さぁ、もういちど撃ってくるが良い。おまえのウェポンバッシュと私のシールドバッシュ、どちらが上か確かめようではないか」
「そういう暑苦しいのは、あまり好きじゃないんだが……」
やる気なさそうに言いながらも、とりあえずといった感じで剣をかまえる侑吾。
おお、いまここに、夢のバッシュ対決が! ふたりはバッ友!
と思った直後、チルルの封砲が炸裂!
「空気を読めぇぇぇ!」
抗議の声を上げながら、ラグナは轟沈した。
残念! チルルちゃんが空気なんか読むわけないだろ!
「あたいったら最強ね!」
うん。わりと最強だ。
「不意打ちか。……そういう喧嘩は嫌いじゃないぜ。次はこっちのターンだ!」
玲治が神輝掌で殴りかかった。
チルルは冷静にケイオスドレストを発動。
そこへ、さらに英斗の神輝掌が追加される。
これはさすがにチルルもピンチか!?
しかし、彼女は余裕で立っていた。
「ルインズ最強! オールマイティのルインズ最強! 器用貧乏? ううん、そんなのは、たりない物があるジョブの妬みよ!」
ふたたび封砲がぶっぱなされて、玲治と英斗は倒れた。
瞬間的に1対2だったにも関わらず、圧倒的に強いチルルちゃん。なぜなら、ディバインの2人に比べてチルルのプレイングには隙がなかった。というか、ルインズは3人ともみごとなほどにジョブの強さを訴えていた。しかも適度にネタを盛り込みつつ。
一方、ディバイン組は最大人数を擁しながらも亜矢への怒りでプレイングを埋めてしまった者が多く、必然的にこういう結果に。亜矢なんか、ほっとけば勝手に自爆するのに……。
「俺はまだ倒れるわけにいかない……! あのクノイチだけは成敗しなければならないんだ……! ラグナさんと、そう約束したんだ……!」
英斗は立ち上がると、小天使の翼で舞い上がった。
そのあまりの気迫は、ルインズたちも追撃をためらうほどであったという。
さて、ここは救護班。
ラグナと玲治が、担架で運びこまれたところである。
「あらあら。これは手ひどくやられましたね。いますぐ診察しますから」
村上友里恵(
ja7260)はアストラルヴァンガードの有用性を示そうと、あえて救護係を買って出ていた。
保健委員の腕章をつけ、頭にはナースキャップ。とても似合う。
「たのむ、回復してくれ……。若杉殿をひとりで戦わせるわけには……!」
悲痛な声でラグナが訴えた。
玲治も手を震わせながら、救護を要請する。
「俺はまだ戦える……! 俺たちがルインズブレイドに負けるなんてこと、あるはずないんだ……!」
「わかりました。みなさんの誇りを賭けた戦いを影から支えることが私の戦いなのです♪」
天使のように微笑む友里恵。
その表情を見て、ほっと息をつくラグナと玲治。
「では診察しますね。うんうん、なるほど……」
と、ナースっぽいことをはじめる友里恵。
「いいから、はやく治してくれ!」
玲治が声を上げた。
友里恵はニコッと笑って、一言。
「では診断結果を……ドクターストップです♪」
ドスッ、と玲治の鳩尾に肘打ちが叩きこまれた。
「ぐふっ!」と声を上げて、口から魂を吐き出す玲治。
「さて、そちらの方も診察を……」
「ま、まて! それは診察じゃない! 必殺だ! こんなアスヴァンはイヤだぁぁ! チェンジ! チェンジを要求するぅぅ! ぅげはっ!」
友里恵のハンマーナックルをくらったラグナは、今度こそ完全にリタイアした。
「安静にしてないとダメですよ♪」
極上の笑みを浮かべる、ダーク村上。
このあと戦線を脱落した者は全員、彼女の『診察』を受けるハメになる。
「最強のジョブ? それは間違いなくダアトだね。理由は簡単。美しい私がダアトだからさ。すくなくとも私には、それ以外の理由は思いつかないね」
ふ……と微笑みながら金色の髪を掻き上げるのは、ルーイ(
jb6692)
見てのとおり、かなりのナルシスト系ダアトだ。
そんな彼の前に立ちはだかるのは、中津謳華(
ja4212)
「最強の職、か……。愚問にもほどがある。阿修羅の物理火力は、決定的に抜きん出ている。攻撃スキルだけではない。身体能力の強化、豊富なスタンスキル、そして体力の喪失からの即復活。単騎でも闘え、集団でも先陣を切れる。……このような職が他にあろうか? 否だ」
真っ向から向かいあう、ダアトvs阿修羅!
接近できれば阿修羅の勝ち。接近される前に葬ればダアトの勝ちだ。
「私の『美男子バリア』は鉄壁さ。この美しい顔に、キズひとつ付けるけることは出来ないだろうね。ダアトの強さの根拠たる私の美しさを語るのに、残り80文字では全然足りない。しかし強いて語るならば、顔立ちは勿論その一挙手一投足に至るまで、洗練された動きこそが私の美しさを形作っている。起床し」
「ふ。字数が切れたようだな。では行くぞ!」
謳華は躊躇なく突撃した。
ちゃんと相手のセリフが終わるまで待つあたり、なかなかのお人好しである。どこかのルインズとは違う。
「阿修羅のきみに、この魔法がかわせるかい? この美しい私の、美しい魔法が」
ルーイの手から、エナジーアローが撃ち出された。
謳華は回避も受け防御もせず、まともに食らいながら突進する。
おお、阿修羅の唯一の(?)弱点である魔法攻撃を真正面から浴びて平然としているとは!
「阿修羅を舐めるなよ……!」
「なんて美しくない戦いかたをするんだい、きみは」
「美しいのは、ただ勝利のみ……!」
二発目のエナジーアローを食らいながら、謳華は膝蹴りを叩きこんだ。
「倒れる瞬間まで、私は美しい……」
輝く笑顔を浮かべながら、ルーイは崩れ落ちた。
それを見下ろしつつ、謳華が言い捨てる。
「……いつから阿修羅が魔法に弱いと錯覚していた?」
「チームメイトがやられちゃいましたね」
謳華の前に現れたのは、ダアトの鳳蒼姫(
ja3762)
こちらは男装姿だ。一体どうなってるの、この夫婦。
「おまえもダアトか。さぁ自慢の魔法を撃ってくるがいい。すべて撥ね返してやろう」
「ダアトはダアトでも、ただのダアトではありません。打痕ですよっ☆」
「口頭では区別がつかんのだが」
「『打つ』に『傷痕』の『痕』で、打痕です!」
「……そうか、わかった。いや、よくわからないが。ともかく、かかってこい」
「では、いきます!」
蒼姫は猛然と突撃した。
距離をとって魔法を撃つのがダアトの常識なのだが、彼女は違う。レベルを上げて物理で殴るタイプの打痕なのだ!
常!識!外!
「魔法を使わないだと……!?」
予想外の展開に、謳華は一瞬とまどった。
コンセントレートを発動した蒼姫が、巨大な斧槍で殴りかかる。
スパコーン!
みごとにホームランされた謳華は、そのままダーク村上の診療所へIN!
「最強のジョブ? ダアト? ノンノン。それは、物理打痕(防御)なのですよっ☆」
ドヤ顔で言い放つ蒼姫。
魔法に強い阿修羅とか、物理で殴るダアトとか、妙なキャラがいるもんだな!
だが、しかし。そんな蒼姫の背後に忍び寄る影があった。
それは、ナイトウォーカーの職を捨てて『ヘンタイ』にジョブチェンジした袋井雅人(
jb1469)
Tバックのパンツ一丁で、頭には恋人のパンツをかぶり、手錠つきのロープを手にジリジリと近寄る姿は、360度いずれから見ても完全なヘンタイだ。まちがっても恋人には見せられない姿である。……いや、他人にだって見せられる姿じゃないけど、これ。
ハイド&シーク使用中にも関わらず、メチャクチャ目立ってる雅人。
そりゃそうだろ。こんな姿の男がいたらマッハで警察呼ぶわ。
しかし、蒼姫は気付かない。
その背中に、魔の手がせまる!
効果圏内に入ったところで、雅人はテラーエリアを発動!
周囲が暗闇に包まれ、雅人も蒼姫も見えなくなった。
「フオオオオオッ! 愛と笑いの変態戦士『ラブコメ仮面』ここに見参!」
雅人の高笑いが響いた。
見参と言っているが、真っ暗闇で姿は見えない。
そして闇の中で繰り出される、変態技の数々!
「きゃああああ!」
蒼姫の悲鳴が上がり、エナジーアローやフレイムシュートが乱射された。
しかし、夜の番人で視界を確保している雅人は悠々と回避。
ロープやパンツを使った変態技が、次々に披露される。
一口に変態技と言っても色々あるが、はっきり言ってどれもヤバイ。機転を利かせてテラーエリアを発動させたMSは、さすがである。俺はもう蔵倫と戦いたくないんだ!
「なにごとにも屈しない『ヘンタイ』こそが最強のジョブ! 見よ、究極変態技! 悶絶地g」
ズドォォォンン!!
蒼姫の禁呪『ユキの大炸裂SHOW』が文字どおり大炸裂し、ラブコメ仮面は全裸になって吹っ飛んだ。
テラーエリアの効果が切れたとき、そこには亀甲縛りにされた蒼姫が倒れていたという。
もちろん、両者ともダーク村上のもとへ搬送。強制診察により強制退場となった。
……うん。なんつーか、まぁ……ひどい事件だったな。
ひとつ訊きたいんですが、これのどこがラブコメなんですか、袋井さん……。
そのころ。雪風時雨(
jb1445)は、新美新一と記念撮影していた。
新一は今回ただの観客だが、テイマーの道を選ぶきっかけとなった時雨に対しては恩を感じている。
「どうだ、新一君。我がアドバイスのおかげで、毎日モテモテだろう?」
「たしかにモテモテなんですけど、ちょっと弊害が……」
「なんでも言ってみるが良い。相談に乗ろう」
「じつは……」
などと会話する時雨を、遠くから狙う者がいた。
インフィルトレイターの、黒瀬うるか(
jb6600)である。
撃退士としての経験はまだ浅いが、じつは傭兵団の一員である彼女。狙撃の腕は一級品。情報収集も抜かりない。戦闘プレイングも隙なしだ。
一方、時雨は戦闘プレイングゼロ。そしてメタネタ満載。相変わらずの無法ぶりだ!
ともあれ、ガチバトルとネタバトルの仁義なき戦いが始まった!
あきらかに『まぜるな、危険!』と注意書きされてるようなバトルだが、始まってしまったものは仕方ない。
先手を取ったのは、うるか。不意打ちだから当然だ。
放たれたのは、ストライクショット。
それを、時雨のATフィールドが迎え撃つ。
ちなみにATとは、『ああヒリュウ、とってもかわいい』の頭文字だ。
こう書くとオリジナルスキルであるかのように見えるが、どこにもそんなスキルは登録されてない。まぎらわしい!
当然、銃弾は時雨の頭部にヒット!
しかし、彼は倒れなかった。
「前回も語ったが、テイマーはあらゆる状況で万能! そしてモテ具合も万能! 他職なら『えー、その顔と体型で○○?』と言われるところを、テイマーなら容姿関係なく『動物好き』と好印象補正が付くのだ!」
語りだす時雨。
その間も、弾丸はバシバシ当たっている。
反撃しろよと言いたいが、いまは語りタイムらしい。
「さらにテイマーなら、スキル作成で召喚獣に名前をつけたくなる。装備力が高いから特別アイテムも買いたくなるし、召喚獣イラストも発注したくなる。……つまりテイマーが増えると、蔵的に儲かるのだ! わかるな、MS?」
そ、そういうプレイングは反則だろ……。たしかに、言ってることは正しいが……。
ちなみに、この間も時雨は撃たれ放題である。たのむから倒れてくれ。
「な、なんなの、あいつは……」
撃ちまくりながら、うるかは困惑した。
ガチバトルの常識が通じないというか、世界の法則が違っているのだから困惑するのも無理はない。
「そして、前回と同じことを訊く。……おまえらのジョブにこれがあるのかぁぁっ!?」
時雨はヒリュウを召喚!
あざやかに繰り出される、和気藹々ふもふも!
「ふ……。そんなもの、うらやましくなど……」
心の底に眠っていたモフモフ欲を刺激され、うるかは思わず目をそらしてしまった。
その隙を狙って放たれた銃弾が、彼女の頭部を撃ち抜く。
「馬鹿な……。これがコメディの世界……か……」
シリアスに血しぶきをまきちらしながら、うるかは倒れた。
やはり、ガチバトルでネタバトルに勝つのは不可能だった。というか、相手が悪すぎた。
しかし、そんな時雨の背後から近付く者がいた。
アシカコレクター(A)の、蓮城真緋呂(
jb6120)である。
ちなみに、Aというのは血液型とかバストサイズとかのことではない。念のために言っておくが、彼女はEだ。どこかで『Dカップ以上ありそう』などと書いてしまったが、すまなかった。正確にはEだ! Eだぞ! 真緋呂のバストはE! 進級試験に出るから覚えておけ!(注:出ません)
彼女はいま『蜃気楼』で姿を消しており、時雨は気付かない。
その背中に、魔の手がせまる!(コピペ)
そして時雨の頭上から、「せいっ!」という掛け声とともにカップ麺がぶちまけられた。
「ぅあちちちち!」
なんと、銃弾の雨にも平然としていた時雨が、カップ麺で『温度障害』ダメージ!
しかし、なぜカップ麺?
説明しよう! 『蜃気楼』の効果時間は3分間! つまり、そういうことだ!
まったく説明になってないが、ネタバトルなので仕方ない!
「いまこそ、アカコレ……運命の何とか(←)とか言う、厨二病突き抜けたジョブの強さを思い知らせよう!」
「ほう。正面から我に挑むとは、良い度胸だ」
ゆでたての麺を頭に乗せながら、キリッと言い放つ時雨。
『正面から』どころか、真緋呂は姿を消して背後からカップ麺ぶっかけたのだが、温度障害で記憶障害になってしまったのだろうか。大丈夫か、この時雨。
なにはともあれ、ネタバトルVSネタバトルの仁義なき戦いが始まった!(どっちにしても仁義はない)
「見てのとおり、蜃気楼はラーメンタイマー。炎焼で、お湯も沸かせるのよ! ほかのジョブに、こんな便利技がある?」
「ふ。庶民め。教えてやろう。雪風家の者はカップ麺など食わぬ!」
「な……っ!? そ、そんな!? カップ麺は日本人の主食でしょう!?」
「愚かなり、明石コレダー。そんなものを食っているようでは永遠に我には勝てぬ」
「な、なによ! このまえはボタン鍋食べてきたんだから! ボタン鍋よ!? うらやましいでしょう!?」
「それは良かったな。我はウナギを食べたぞ?」
「ウ、ウナギ……!? あの、高すぎて買えない、セレブ専用の、絶滅寸前のウナギををを……!?」
「しかも市販品ではない。天然物だ」
「て、天然物のウナギ……ッ!? そ、それは、もしかして蒲焼きにしたりしちゃったの……!?」
「無論だ」
「まさか……まさか、ホカホカごはんに乗っけて、うな丼にしちゃったり……!?」
「当然だ」
「そ、そんな……! どうして私を呼んでくれなかったのッッ!?」
取り乱し、よだれをたらす真緋呂。
この勝負は、彼女が一方的に不利だ!
っていうか、なんなんだ、この戦いは!
「く……っ。ウナギなんかどうでもいい! 土俵を変えるわよ! 見て、この氷結晶を。これをこうして……」
と言いながら、氷のかたまりを胸の谷間にはさむ真緋呂。
「こうすれば、タダで涼しくなるのよ!」
「ふ。なんと貧相な……。我が家のメイドは全員Gカップ以上だぞ」
「ずがぁぁぁぁん!」
こうして、よくわからないバトルで真緋呂は沈んだ。
精神的なダメージを癒してもらうためダーク村上の診療所へ向かいながら、彼女は「Eは小さくない……うな……Eは標準以上……うな……Eは人として十分……うなぎが食べたいぃぃ……」などと意味不明なことを呟いていたという。
さて、そのころ。グラウンドの片隅ではシリアスバトルが始まろうとしていた。
一方は、フローラ・シュトリエ(
jb1440)
対するは、佐藤七佳(
ja0030)
パラメータを見る気はなかったのだが、どちらもレベル24なのでガチバトルだ!
……え。よく考えたら陰陽師でレベル24って強くねぇ?
と思って検索したら、トップだった。こいつはヤバイ。
まぁいい。とりあえずバトル開始!
先手を取ったのは……INI6+3の七佳。
「薙ぎ払いによる強制スタンを持つ阿修羅こそ、最強たりうる。どんな相手だろうと、スタンさせてしまえば無力。薙ぎ払いのスタンは効果時間も追加可能で、なおかつスタンからの回復は高い達成値を要するのもポイント。よほど防御力が高くないかぎり普通の撃退士は2、3発で沈むから、たったの2ターンだけスタンさせれば勝ったも同然!」
言ってることが正しすぎて困る。
実際、タイマンでの薙ぎ払いは『当たったら終わる』と書いてあるも同然だ。
そして繰り出される薙ぎ払い!(ダイスころころ)
命中(27+19)
回避(15+34)
あっぶね! 当たってたら、描写なしでフローラ退場だったよ!
では、手番交代! フローラのターン!
「装備切り替えを駆使して、物理型には魔法、魔法型には物理、近距離型には遠距離、遠距離型には近接、特殊抵抗が低いならバステと、つねに相手の苦手な戦いかたを選べる万能性こそ、陰陽師の強みよ。おまけに火力もそれなりに備え、カオスレートは0。オールレンジに対応できるスキルが揃っているし、バステ、強化、回復、範囲攻撃と、あらゆる行動が可能! 装備力もあるから装備品による補強も充実! 陰陽師こそ、最強の万能性を誇るジョブよ!」
たしかに陰陽師は万能だ。ぶっちゃけルインズブレイドより万能だ。(禁句)
で……。えーと。ここは石縛風を使うところかな。
命中(22+27)
回避(15+13)
七佳のダイス運がひどい……。
でも、シリアスに判定した結果なんだ。
で、石化の判定を──
基準値12が目標で、七佳の特殊抵抗は7か……。じつは、この駄洒落を言うためだけにガチバトルにしたわけだが……。
そしてサイコロを振ったところ、七佳は石化してしまった。あちゃぁー。
いまさらだけど、阿修羅の特殊抵抗って低いな。さすがにナイトウォーカーよりはマシだけど。つーか、特殊抵抗4って人がいるぞ。それ、バステほとんど食らうだろ……。
それはともかく、タイマンバトルでスタンや石化をくらうと、ほぼ終わりである。
これだからガチバトルはつまらないんだ!(禁句)
そういうわけで、残念ながら七佳は石化したまま終わってしまった。
ああ、個人的に応援してたのに……。
これだからガチバトルは!
だが、しかし! そんなガチな空気を払拭すべく!
やってきたのは! カンブリア紀の生き証人! 歌音テンペスト(
jb5186)!
『なんとかテイマーとしての誇りをかけて真剣に闘う』と宣言した彼女は、まずヒリュウを召喚。
担当5回目だが、歌音の召喚術を見たのは初めてである。
かるく言ったけど、わりと信じがたい事実だぞコレ。一応ディアボロ退治もしてるのに。
そして、エセ召喚士歌音は、呼び寄せたヒリュウをオーバースローで投擲!
ちょ……。召喚獣は鈍器じゃないぞ! ていうか、召喚獣を投げた人って初めて見たよ!
標的にされたフローラは、この攻撃をシリアスに回避しようとした。
が、こんな攻撃の命中値とか存在しない! ガチバトルでネタバトルに対抗するのは不可能だ!
そういうわけで、残念ながらフローラも沈没。
この戦争は、ネタを入れないと生き残れない。
ジョブのアピールとネタを両立させた者が勝つのだ!
さて、そのころ。
戦闘を避けまくっていた月乃宮恋音(
jb1221)は、おもむろに『一般人担当』のたすきを胸元から取り出し、肩にかけた。
なんと彼女は『一般人』で戦おうというのだ。
いやいや無理だろ、そのプレイング。
と思ったが、『生徒会室』を見ると『一般人』のジョブが!
ああ、なるほど。NPC用ね。言われて初めて気付いたよ、こんなの。
そして恋音は、こう主張する。
どれほど優秀な撃退士でも、一般人に手をあげた時点で犯罪者になり、一巻の終わり。
学園の運営には一般人が不可欠であり、世論を敵に回したら学園はやっていけなくなる。
そして学園最高の権限を持つ学園長は一般人であり、その担当は世界最高権力者(GSD)なので、敵に回したら絶対に勝てない!
おいおい。時雨並みにメタネタ多いな!
言ってることが大変おもしろいのでMVPなんですが、これで勝つのは無理よね。だってさぁ……。
「月乃宮さん? どうしたの、変なたすき掛けて。一般人?」
声をかけたのは、歌音。
恋音とは友人同士だ。
「……えと……これは、そのぉ……一般人を攻撃しては駄目ですよぉ……?」
「うんうん。一般人を攻撃したら犯罪だよね。いくら犯罪者予備軍のあたしでも、そんなことはしないよ?」
「……えぇ、ですのでぇ……私を攻撃するのはNGということに……なります、よねぇ……?」
「でも月乃宮さんは撃退士だよね? 一般人じゃないでしょ?」
「……えぅ……そ、それは、そのぉ……」
しどろもどろになる恋音。
そりゃまぁ、こういう展開になるに決まってる。参加者に知人が一人もいなければ通用したかもしれないが、恋音ほど交友関係が広いキャラに、この作戦は不可能すぎた。まさか友人の多さがネックになるとは、予想外!
「勝負の世界は非情! 今回あたしはテイマーとして真剣に勝利をめざすの! 来たれ、ストライキ……じゃなくて、ストリップ……でもなくて、ストリートっぽい名前のアレ!」
おお、歌音が真剣に戦ってる!
そして投げっぱなしジャーマンで、ストレイシオン(鈍器)を投擲!
自称一般人の恋音は、なにもできず下敷きになって潰れた。
「……うぅぅ……また失敗だったのですよぉぉ……」
発想は斬新だったのだが、根本的に無理がある作戦だったと言うしかない。
しかし毎度毎度ユニークなこと考えつきますね、こちらのお嬢さんは。感心します。
こうしてゲームが進み、スプリンクラーは回り続けて、グラウンドは水浸しになっていった。
いよいよ、満を持してニンジャ軍団が暴れだす!
現在4人のメンバーを抱えたニンジャ軍団は、優勝最有力候補。
対抗し得る勢力は、ルインズブレイド軍だけだ。
数で上回るニンジャが地味に水上歩行を使って、ルインズへ襲いかかる!
「ふ、鬼道忍軍の強さをお見せするため、まとめてお相手いたしましょう」
エイルズレトラが、忍者ヒーローを発動した。
しかし、静矢は冷静に対処。
「はっ。そんな児戯に惑わされる我々では……って、うぉおおい!」
なんと、静矢の横を猛ダッシュで走って行くチルルが!
「忍者め、覚悟! あたいのウェポンバッシュを受けてみなさい!」
スカッ。
「おや、当たりませんでしたね。……そう、この回避力こそ忍軍の真骨頂!」
「そのとおり。すべての攻撃は、当たらなければどうということはない。それが忍軍の最も誇るべき優位性だ」
エイルズレトラの背後から、宗が飛び出した。
そして迅雷によるヒット&アウェイが繰り出される。
チルルちゃんピンチ!
あわてた拍子に、足がズルッと滑った。
二重でピンチ!
と思いきや、チルルの跳ね上げた泥水が宗の目に!
「ぬぅ……っ。目が……!」
どこかの大佐みたいに、視界を封じられたぐらいで大騒ぎしたりはしない宗。超クール!
しかしさすがに、泥はねに対して空蝉を使用することはできなかったようだ。
「苦しまないようにしてやろう」
侑吾が剣をひっさげて突撃し、宗にとどめを刺そうとウェポンバッシュの構えを見せた。が──
「そうはさせません」
寧の『目隠』が命中し、侑吾は足を止めた。
「つ……っ。目つぶしか……」
「ふたりとも、いい加減にしなさい! そこは『目がぁぁ! 目がぁぁぁ!』って叫ぶところでしょ!」
亜矢がハリセンでツッコミを入れた。
あやうく倒れそうになる宗と侑吾だが、いくらコメディとはいえ、この程度では倒れない。というか味方を殴るのはヤメておけ。
そのとき。亜矢の前に突撃してくる英斗の姿が!
「出たな、クノイチ! このときを待っていた!」
「なによ、あんた」
「俺はディバインナイトの若杉英斗! 倒れていった仲間たちの無念を、いまこそ晴らす!」
「へぇー。タラコのクセに?」
言ってはいけないワードをわざと口にして、プッと笑う亜矢。
ここでついに、英斗の怒りゲージが爆発!
「てめぇぇえええ! ブッ潰す!」
英斗は戦友ラグナの魂を憑依させてリア充殲滅砲を……というのは不可能なので、ふつうに神輝掌を発動! ぐしゃっ、と亜矢を叩きつぶした。
と見えたが、つぶれたのはスクールジャケット(100久遠)
「あんた馬鹿? 忍軍に単体攻撃なんかムダだよ?」
「ならば、空蝉が切れるまで攻撃するのみ!」
「あはは、ムリムリ。……って!? ちょ、ちょっと待って! ストップ! タイム! 攻撃中止!」
「なにを言ってるんだ、おまえは」
「いや、あのさ。スクジャひとつしか持ってなかったんだ。あはははは。いま買ってくるから待ってて?」
「それは好都合だ」
英斗のスネークバイトが叩きこまれ、亜矢の空蝉が発動した。
「ああっ! マインゴーシュ(18000久遠)が!」
「マインゴーシュぐらいで騒ぐな!」
ふたたび撃ちこまれる英斗の一撃。
空蝉発動!
「ぎゃあああ! スナイパーライフル(500000久遠)がぁぁ!」
「え……!?」
さすがに驚く英斗。
見れば確かに、スナイパーライフルがオシャカになっている。
なんと悲惨な。100円の恨みを晴らす戦いで500000久遠を失うハメになろうとは。
「ディバインナイトめ……。絶対に許さないわよ!」
「スクジャを忘れて、そんなものを持ってきたおまえが悪い!」
英斗が全面的に正しかった。
こうして英斗の加勢により、ルインズ+ディバインの魔剣士連合4人と忍軍4人の死闘が始まった。
と思いきや、そこへ殴りこんできたのは影野明日香(
jb3801)と龍崎海(
ja0565)の医療系アスヴァン組。
「勝負よ、矢吹亜矢!」
ウリエルブレイズを手に、明日香が斬りかかった。
「なんで、あたしなのよ! アスヴァンに恨みを買った覚えないけど!?」
「戦いに理由なんて必要ないでしょう? さぁいくわよ!」
「ちっ。しゃらくさいわね。返り討ちよ!」
影縛の術が放たれた。
が、明日香には通じない。
「忍軍の状態異常? それがどうかしたの? もともと特殊抵抗が高いアストラルヴァンガードが、さらにスキルや装備で抵抗を高めれば、悪魔の幻惑すら効かないわ」
たしかにアスヴァンの特殊抵抗は高い。
というか、15もある……。なるほど、インペリアルリングか。
「さて、状態異常が効かなければ、次は真っ向から攻撃かしら?」
「そのとおりよ! くらえ!」
亜矢の手から火蛇が飛んだ。
明日香はこれをまともに受け止め、ライトヒールで回復。
「この程度なの? ディバインほどではないにせよ、アスヴァンも耐久力は高いのよ。そこへさらに回復スキルを使えば、まさに不落の要塞。徒労だったわね」
「っていうか、あたしだけを狙い撃ちするのは卑怯よ、あんたたち!」
メタな発言をする亜矢。
たしかに、名指しでプレイングを300文字埋められたら、どうしようもない。しかも数名。ある意味大人気だ。
「卑怯? 知ったことじゃないわね。さぁ次はこっちが攻める番かしら。カオスレート差が大きいから、当たったら痛いぐらいじゃ済まないかもね? ちゃんと避けるのよ?」
「ふん。そんなもの簡単に……アバーッ!」
いつも空蝉にばかり頼っている亜矢は、回避も防御も低い。まだ空蝉の回数は残っていたが、コストが払えなかった彼女は為す術なくウリエルブレイズをくらい、そのまま退場。
「『神の炎』の名は伊達じゃないのよ。……まぁ、おつかれさまね」
「く……っ。できれば、この手で引導を渡したかった……」
戦いの結末を前にして、悔しがる英斗。
いやいや、スナイパーライフルを破壊しただけで十分ですよ?
実際にPCのスナイパーライフルを破壊したらヤバイけど。
さて、これで忍軍は3人。
一方、魔剣士+アスヴァン組は6人体制に──
「とりあえず、協力して忍軍を倒すぞ!」
「あら……。隙だらけよ?」
飛び出した英斗を、明日香が背中から斬りつけた。
「なにぃ……っ!?」
「手を組むなんて、一言も言ってないわよ? アスヴァン以外は全員敵に決まってるじゃない」
「く……っ。油断した……」
ドサッと倒れる英斗。ついに脱落。
結果、三つ巴の戦いが繰り広げられる流れに。
にらみあう三チームの間に、緊張感が張りつめた。
ヘタに動けば、その瞬間二つの陣営を敵に回すことになり、一気に全滅する──
皆、それがわかっているのだ。うかつには動けない。
──いや、ひとりだけわかってないチルルがいた。
「ルインズ最強! あたい最強! 封砲最強!」
あとさき考えずに封砲をぶっぱなすチルルちゃん。さすが、歩く封砲発射台。
標的はアスヴァンチームだ。
しかし、高い防御力で耐える明日香と龍崎海。
「やられっぱなしでいるわけにはいかない。……反撃だ!」
海は十字槍を抜き放つと、チルルめがけて突進した。
そして、アピールが始まる。
「そもそも、撃退士の強さを決めるのは何か……。基礎能力は、V兵器の強化でいくらでも変化する。よって、比較の意味なし。ならば、なにが強さを決めるのか。言うまでもなく、スキルだろう。アスヴァンは、攻撃、防御、回復、索敵と、まさに万能」
また万能アピールをする職が。
けっこう多いんだな、万能職。……ああ、だからルインズが器用貧乏とか言われるのか。なるほど、納得。
「攻撃は単体、範囲、バステと、すべてそろっている。防御も、対物理、対魔法ともにあり、生命探知による探索は、相手が見えなかろうが無関係。そして、回復能力は圧倒的だ。戦闘中は、いかに手数をおさえて回復できるかが重要。他職の回復スキルでは全快できない場面でも、アスヴァンなら一発で回復できるのだ。そしてとどめに、他者のスキルを回復できるアウルディバイドがある。これはマクロ視点で考えるならば、ありとあらゆるスキルが使えるということに他ならない。まさに万能! よってアスヴァンが最強と断言する!」
「万能はルインズ! 器用貧乏じゃなくて、オールマイティなルインズ! ルインズ最強!」
冷静かつ理論的に万能を主張する海に対して、感情論100%で万能を言い張るチルル。
その手からウェポンバッシュが放たれ、海はシールドで受けた。
その海の後ろから、明日香が突撃する。
「いまです!」
寧の合図で、3人の忍者が一斉に影手裏剣・烈を発動した。
ズドドドドドド!
雨あられと降りそそぐ手裏剣が、チルル、明日香、海の3人を襲った。
不意打ちとは、さすがニンジャ、汚い!
……いや別に汚くもなかったな。ふつうに一斉攻撃しただけだった。
何にせよ、この攻撃で3人が一気に脱落。ルインズは、静矢と侑吾の2人で忍軍3人と戦うことになってしまった。
「……ま、やるしかないな」
「無論だ。ルインズ最強を証明しよう」
侑吾も静矢も、退く気はなかった。
「あきらめる気はないようですね。では、お相手しましょう」
エイルズレトラが、ふたたび忍者ヒーローを使った。
当然そんなものに引っかかる二人ではないが、いずれにせよ倒さねばならない相手だ。
ふだんあまりやる気のない侑吾が、めずらしく語りだす。
「最強はルインズだろう。硬さをそなえ、生命力も高く、初心者にも扱いやすいジョブだ。……メタい? 気のせいだ。バステはないが、スキルは豊富。CRは変幻自在で、封砲は全スキル中トップレベルの性能だ。自己回復の剣魂も役に立つ。……そして何よりウェポンバッシュ。相手を強制的にノックバックさせる、見た目にも派手な技だ。これで俺はスポーツ対決に勝ち、魚は大漁、合法的に人を吹っ飛ばし、パン戦争でも良い位置に行けた。……カレーパンには負けたけど( 」
最後の一言は余計だったんじゃないかと思うが、ともあれウェポンバァッシュ!
スカッ。
ニヤリと微笑むエイルズレトラ。
「ふ、何故これほど避けられるか、わかりますか? 僕の二つ名は超絶回避! つまり、めっちゃ避けるということです!」
その称号、私が上げたんですけどね。
実際問題、物理/魔法ともに回避値が600オーバーなので、シリアスに判定するとシャレにならない。以前の戦闘シナリオではエイルズレトラ専用のファンブルダイスを作りたかったぐらいだ。しかも命中したところで空蝉が5回分あるし。MSいじめとしか思えない。ノリでプレイングを書くMSにとっては、スクジャを削除する作業が大変なんすよ。
しかし惜しいことに、回避と空蝉と壁走りのことばかりプレイングに書いたエイルズレトラは、攻撃力がいまいちだった。
そこを補うべく、宗が斬りかかる。
「忍軍は、物理/魔法の攻撃に偏りがなく、つねに相手の苦手な面から攻めることができる。そして高い回避力と回復スキルの存在により、戦闘継続時間が長い。迅雷でのヒットアンドアウェイは強力で、遁甲の術や無音歩行との組み合わせによる暗殺や奇襲が可能……。これぞ忍軍の優位性だ!」
宣言どおりに迅雷が発動され、侑吾は倒れた。
残された静矢を、3人の忍軍が取り囲む。
「これはもう、詰みですよね?」
寧がクスッと笑った。
だが、静矢は屈しない。
「ルインズこそ万能ジョブ。あらゆる面から見て、ルインズが最強であることは確定的に明らか。中途半端でも器用貧乏でも多芸無才でもなく、オールマイティである! オールマイティなのである! オォォル! マイティィィ!」
キャラ崩壊が心配になってきた。
しかし気にせず、静矢は続ける。
「……とか、実際そんなことはどうでもいいんだよ、おいちゃん。ザクザク敵を斬ったり、バンバン攻撃を受けたり、それでも立ってるルインズやべー超やべー! とかしたいんだよ! 無双! ルインズ無双! 無双! 無双! 無双! 無双! 無双! 無双! 無双! 無双! 無双! 無双!」
そこまで言われちゃ仕方ない。無双しよう。(え?
ぶっちゃけ、静矢のプレイングが一番理想的だった。ジョブの強さをアピールし、ネタも披露する。両者のバランスが絶妙だった。よって、ごほうびとして今から無双するぞ! ヒャッハー!
というわけで、無双モードに突入した静矢は手始めにエイルズレトラへ斬りかかった。
問答無用で放たれる、ウェポンバァァッシュ!!
と見せかけて、翔閃!
エイルズレトラは回避しようとしたが、静矢がクリティカルを振ったので回避失敗! 範囲攻撃なので、空蝉も失敗!
「こ、これはひどい……」
抗議の声を残しつつ、エイルズレトラは超絶的に沈没した。
「さぁかかってくるがいい。ルインズ最強! ルインズ無双! ふぅーはははは!」
哄笑する静矢に、宗の韋駄天斬りがブチこまれ、寧の影手裏剣がサクッと突き刺さった。
「きかぬ! きかぬわぁぁぁ! くらえ、ルインズレーザー!」
封砲が火を噴き、忍軍2人はゴミのように吹っ飛んだ。
マジで無双状態である。
この時点で、残り5名。
「残るは……あの診察所か!」
眉間に手裏剣が刺さったまま走りだす静矢。
やばい、ダーク村上逃げてぇぇぇ!
ていうか、診察所は重傷者ばかりだぞ! そんなところで今の静矢が暴れたら、20人全員重体判定になってしまう! やめてぇぇええ! またクレームが来ちゃうぅぅぅ! いやぁあああ!(ビクンビクン
そんなMSの願いも虚しく、静矢は診察所で無双しまくった。
無双して無双して、無双しまくった。重傷者からの反撃をものともせず、持ってるスキルは一つ残らずブッぱなした。
阿鼻叫喚。地獄絵図の完成!
だが、そんな地獄をさらなる地獄へと突き落とすべく。やってきたのはラファル A ユーティライネン(
jb4620)
「戦上戦下、唯我独尊。爆炎と硝煙が支配する戦場をただ一機で席巻する鋼鉄騎士。それがナイトウォーカー(騎士型戦闘機兵)」
もう、のっけから言ってることが意味不明なのだが、とりあえず鋼鉄騎士らしい。
彼女は戦場に向かって走りながら、ノリノリで説明をつづける。
「深夜アニメを紐解くまでもなく、最新の流行が鋼鉄と美少女であることは世界の常識。全身の8割が機械であるラファルは、身も心もナイトウォーカー。……見よ、この雄姿。『ヘカトンケイルシステム(ダークハンド)』によるオールレンジ攻撃で敵を戦場に束縛し、『デストロイドモード(ダークブロウ)』による全身砲撃は、射線上の敵を挽き肉に変える。とどめは両肩の『多弾頭式シャドウブレイドミサイル(オンスロート)』だ。広域を爆破し、敵も味方も全てを無に帰すさまは、まさに戦場の死神。あるいは天使である」
なにがなんだかわからないが、カッコ良く見えてきた。
というか、ここまでメカに走ったPCは初めて見た。
うん、これはアリだな。ペンギンの帽子もカワイイし。(関係ない)
ラファルは一直線に診察所へ突撃し、『ヘカトンケイルシステム』を作動させた。
背中から飛び出したメカアームが片っ端から重傷者を拘束し、ついでに静矢も束縛する。
「なかなかやるな。だが、いまの私は無双! さぁ撃ってくるが良い! ルインズ無双!」
「無双? 俺は無敵だ。無敵ナイトウォーカー・ラファルA。そして、すべてを吹き飛ばす」
『デストロイドモード』が発動し、無数の重火器が展開されて、弾丸の雨が降りそそいだ。
「グワーッ!」
穴だらけになって吹っ飛ぶ静矢。
お、おい、無双モードはどうした!? 時間切れか!?
「これで終わりだ。多弾頭式シャドウブレイドミサイル、全門発射!」
凄まじい爆風が吹き荒れ、あらゆるものが粉砕された。
静矢も、重傷者も、ダーク村上も、そしてラファルも、すべてが破壊の嵐に呑みこまれ──
最後に立っていたのは、静矢だけだった。
なんと、あの大虐殺の渦中から生還するとは。おそるべし。
「勝った! 私は勝った! ルインズ最強! ルインズ無双! ルイんぅぐふっ!」
勝ち誇る静矢の背後から歌音のスレイプニルが投げつけられ、下敷きになった静矢はついに動かなくなった。
残念な結果だが、これだけ無双すれば彼も本望だろう。わりと伝説に残るレベルの大暴れだったと思う。
あとはまぁ、テイマー2人のネタバトルがひどすぎた。
「というわけで、最強のジョブはドンキーテイマーに決定!」
得意げに言いながら、歌音は「あいたたた」と腰をおさえた。
スレイプニルを投げたとき、ぎっくり腰になってしまったのだ。
「腰を痛めたのか。そんなときは、和気藹々を使うのだ。どんな病気も怪我も、これひとつで……」
「あたし、それ覚えてないんだよねー」
「ぬぁにぃぃぃっ!?」
ショックを受ける時雨。
正直に言うと、MSもショックだった。
でも、よく考えると持ってる人のほうが少ないのか? 時雨のせいで、『テイマー=和気藹々』というイメージしかなかったんだが……。まぁ戦闘シナリオじゃ使い道ないしな……。
「とりあえず覚えておけ! それは覚えて損はない!」
めずらしくムキになる時雨。
でも、言うだけムダだと思う。なにしろ召喚獣を鈍器としか見てない人だし……。
ともあれ、最強ジョブ戦争は無事に(?)決着し、鈍器を召喚する職の優勝で幕を閉じたのであった。