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マスター:牛男爵
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
形態:
参加人数:9人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/08/05


みんなの思い出



オープニング

「なに? クラブ棟を建て替えるだと!?」
 放課後のラウンジで大声をあげたのは、地獄のギタリスト・チョッパー卍。
 真夏だというのに革ジャンを羽織り、腰まで伸ばした七色の髪は、見るからに暑苦しい。
「老朽化してるから、取り壊して新しくするんだってさ。でもさぁ、あたしは今の部室にこだわりがあるのよね」
 ハァと溜め息をつくのは、ドラマーの矢吹亜矢。
「幽霊部員しかいないってのに、なんのこだわりがあるんだよ」
「はぁ? あんたにはわからないの? あの木造建築の素晴らしさが。あれを取り壊して鉄筋コンクリートにするなんて、建築文化に対する犯罪よ。それに、コンクリートより木造のほうが音の響きがいいでしょ。そう思わない?」
「文化はともかく、音に関しては同意だな」
「でしょ? だから、あたしは抗議したわけよ。でも、ぜんっぜん相手にしてくれなくてさ。アタマきたから実力行使してやろうって考えてるんだけど、どう?」
「なんだよ、その『どう?』ってのは。俺に協力しろってのか?」
「あんただってミュージシャンなんだから、あたしの気持ちはわかるでしょ?」
「おまえの気持ちはわからんが、あのクラブ棟を壊すのはもったいねぇな」
「でしょ? だから解体作業を妨害してやろうと思うんだけど、手を貸してくれない?」
 無茶なことをさらりと言いだす亜矢。さすがのロックソウルである。自爆ソウルかもしれないが。
 チョッパー卍もかなりのメタル魂を持っているが、亜矢ほどバカにはなりきれない。
「それはいいが、ふたりだけじゃどうにもならねぇだろ。相手はショベルカーとか持ってくるんだぞ?」
「そこが唯一の問題なのよねぇ……。だれか、いい人いない?」
「なんだよ、その『いい男いない?』みたいな言いかたは……。あと『唯一の問題』じゃねぇと思うぞ……。まぁ心当たりがないこともないが……」
「だったら、その人にも手伝ってもらってさぁ」
 そのとき、亜矢は首筋に冷たいものを感じて「ひゃっ!」と跳び上がった。
 振り返れば、そこにいるのは佐渡乃明日羽。
 そしてオマケの由利百合華。


「ちょ……っ! 勝手にさわるな、この変態野郎!」
 さわられたところをゴシゴシこすりながら、亜矢は怒鳴った。
「忍軍がそんなにスキだらけじゃダメだよ?」
 とぼけたことを言って、明日羽は指先を舐める。
「大きなお世話だ! さっさとどこかに行け!」
「そんな大声出さないで? ね?」
 明日羽の手には、審判の鎖が握られていた。
 それを見て、身をすくませる亜矢。彼女は今まで何度も明日羽の『鎖』を目撃しているが、はずれたのを見たことがない。自分自身で食らったことも、何度かある。
 おとなしくなった亜矢を見て、明日羽は問いかけた。
「……それで? なんの話をしてたの?」
「あたしたちのクラブ棟が建て替えられるって話だよ」
 仏頂面で答えると、亜矢は舌打ちした。
「ふぅん。くわしく聞かせてくれる?」
「こいつから聞け」
 亜矢はチョッパー卍を指差した。


 やれやれと言いながら、説明をはじめるチョッパー。
 そして経緯を把握すると、明日羽はこう言った。
「つまり、人手が足りないわけね? じゃあ百合華を貸してあげようか?」
「えぇ……っ!?」
 突然のなりゆきに、高い声を上げる百合華。
 彼女の人権は基本的に明日羽のものなのである。
「驚くことないでしょ? 私の友達が困ってるんだから、協力してくれるよね?」
「そ、それは……先輩が一緒なら構いませんけど……」
「私はちょっと無理かなぁ? だって、学園側に楯突くってことでしょ?」
「そ、そんなぁ……!」
「まぁ、気が向いたらちょっとぐらいは手を貸してもいいけど?」
 明日羽の言う『気が向いたら』がどういう意味を含むのか、この場の全員が理解している。
 もちろん真剣に勝利をめざすなら明日羽の協力は心強いが、反面あんまり気が向いてほしくもないなぁと思うチョッパーたちであった。




 そして数日後。
 ブルドーザーやショベルカーを引きつれてやってきた解体業者は、亜矢の率いる『木造建築を守る会』によって撃退されてしまった。
「また、あいつらか……」
 しらせを聞いた教師臼井は、頭をかかえた。取り壊しになる予定のクラブ棟は、彼の管轄下にあるのだ。
「どうしましょう。法的手段に訴えますか? それとも彼らを退学処分に?」
 新任の教師が問いかけた。
「いや、あんなのでも撃退士としての腕は立つ。かんたんに退学処分というわけにはいかない。だいいち、この程度のことは日常茶飯事だ」
「あれが日常ですか……」
 言葉を失う新任教師。
「毒は毒をもって制す……というわけでもないが、こういうときは同じ撃退士に任せるに限る。ちょっと斡旋所へ行ってくるよ」
 そう言って、教師臼井は溜め息をつきながら廊下へ出てゆくのだった。



リプレイ本文



 しょーもない依頼を受けてしまったな、という顔をしながら歩く、9人の撃退士がいた。
 実際しょーもないのだが、相手が本気で抵抗する以上は撃退するしかない。
 とはいえ、クラブ棟に立てこもった5人は、いずれもかなりの実力者。なめてかかると、返り討ちにされかねない。


「『木造建築を守る会』ね……。守るものがなくなっちゃったら、どうするのかな」
 なにやら物騒なことを言って、高瀬里桜(ja0394)は明るく笑った。
 この依頼はもともと『木造建築を守る会を撃退すること』だったが、彼女らは正面切って戦うのは避け、クラブ棟を焼き払ってしまう算段だ。もちろん、学園側の許可は得てある。どうせ壊してしまうのだからということで、あっさり了承を得た次第だ。
「うまく燃えるといいんですけどね」
 淡々と物騒なことを言う雫(ja1894)は、ウォッカを火炎瓶に改造したものを手に提げている。それだけではない。火炎放射器まで持参するという念の入りようだ。
「あんな古くさい木造の建物、かんたんに焼き払えるはずだよ」
 応じる里桜の携帯品は、火炎瓶だらけである。まるで、どこかの抗争に参加する過激派だ。もちろん、火炎放射器を持ってくるのは忘れない。淑女のたしなみとして、当然だ。
 彼女たちは、この『火炎瓶&火炎放射器でヒャッハー作戦』を実行すればラクラク任務成功だと思い込んでいる。
 だがしかし! 世の中そんなに甘くはない! 木造建築が燃えやすいことぐらい、相手もわかってるぞ! 焼き討ちなど想定内だ!


「……あの人たちのほうが、私たちより実力は上。……正面からぶつかっても勝ち目がないなら、絡め手で行くしかないわよね」
 おなじく物騒なことを口にするのは、紅アリカ(jb1398)
 彼女は佐渡乃明日羽の『お友達』であり、敵側の最終兵器に対する切り札になるはずだ。
 無論、ただ『友達だから』というだけのことで何とかなるとは思ってない。アリカはこれまでに何度か明日羽と関係を持っており、常識が通じる相手でないことはよく理解している。籠絡するための策は、十分に練ってきた。
 ──が、やはり世の中そんなに甘くはない! 明日羽が裏切ることぐらい、敵も想定しているぞ! アリカは『私に任せてほしい』と大見得を切ったが、なんでも思い通りに行くと思ったら大まちがいだ!


「ぐわぁお〜! 犬で御座る! 自分は野生の犬になるんで御座る〜!!」
 いつもよりテンション高めなのは、着ぐるみに身をつつんだ静馬源一(jb2368)
 しかし、『犬になる』と言ってるくせして、身につけているのはクマの着ぐるみ。しかも、両腕に『武流我死怨』と書き込んである。
 正直、彼のやりたいことがよくわからないのだが、たぶん『犬の着ぐるみ』が存在しないからクマで代用したのだろう。事情がわかると、少々せつない。運営さん、犬の着ぐるみも作ってあげてください。
「野生の力に目覚めた自分に、倒せない敵はいないで御座る!」
 そうか、野生に目覚めちゃったか。豆柴なのに。
 生きていけるのかな、野生の豆柴って。


「俺、この戦いが終わったら……。ああ! いい言葉が思いつかないッス!」
 中途半端な死亡フラグを立てつつ頭をかかえたのは、柘榴今日(jb6210)
 彼は解体業者からチャーターしたクレーン車に乗り込み、なぜか大砲を牽引している。
 いや、あの……。クレーン車はともかく、大砲ってどこから調達したんですか……? それとも自作……?
 いろいろ無理のあるプレイングだが、コメディだから仕方ない。やったモン勝ちだ!
 というか、死亡フラグを立てるならしっかり立ててくれ! なんなの、この『くしゃみが出そうで出ない』感!




 ともあれ彼らは、クラブ棟前の広場で『守る会』と睨みあった。
 ちなみにこの広場、地雷や落とし穴などのトラップ満載である。うかつに踏みこめば、命がマッハでヤバイ。
 さて、まず口火を切るのは、毎度おさわがせニンジャの矢吹亜矢。
「あっはははは。そんな人数で勝てると思ってるの? 25人ぐらいで来ないと話にならないよ?」
「こんにちは、高等部一年の西行龍希です! 今日はよろしくおねがいします、先輩!」
 元気に応えてペコリを頭を下げたのは、西行龍希(jb6720)
 まだ学園に来たばかりの新米で、しかもこれが初任務だ。将来有望というか無謀というか、本当にこんなの受けちゃって良かったんですか? このMSは無茶苦茶ですよ? まぁ解説に『なんでもOKという人だけ参加してください』って書いたから大丈夫ですよね? 大丈夫と信じて進めよう。
「へぇ。なかなか礼儀をわきまえた子じゃない。おとなしく帰るなら、ケガはさせないよ?」
「いえ、今日は勉強のために来ましたので! それに、この建物……老朽化して危ないし、取り壊しちゃったほうがいいですよ?」
 亜矢の挑発にも乗らず、龍希は清々しいほどストレートに言葉を放つ。

「おまえら、この木造の良さがわからねぇのか? これこそ日本の文化だろうが!」
 七色の長髪に革ジャンという、百パーセント欧米なスタイルでそんなことを言い放つのは、チョッパー卍。
 その言葉に、ソーニャ(jb2649)だけがコクコクとうなずいている。
 彼女は、古い校舎の雰囲気が好きなのだ。本当なら、壊したくなどない。
 しかし、任務は任務だ。それをこなすのが、ソーニャの仕事。
 悲しくはあるけれど、彼女の記憶に残る限り、校舎は消え去りはしない。
 そういうわけで、ソーニャが登場するとシリアス度が急上昇します。ご注意ください。

「あっ。だれかと思えば、トラップハウスで情けない目に遭ってた人だ!」
 大声で指差したのは、グリーンアイス(jb3053)
「おまえは11フィート棒の女じゃねぇか。今回は敵に回ったってわけか」
「敵っていうか、ただ依頼を受けただけだよ? でも大成功にしたいから、あたしのために沈んでね?」
「ざけんな、コラ! てめぇらごときザコに負けるか!」
「おとなしく投降したほうがいいと思うよー?」
「うるせぇ! こちとら、遊びでやってるわけじゃねぇんだよ!」
 人生そのものが遊びのくせに、たいそうなことを言うチョッパー卍。

 そこへ、新崎ふゆみ(ja8965)が口をはさんだ。
「まーまー。おちついて。チョッパーさんだよね? ふゆみのだーりんがいろいろお世話になっちゃってるって聞いたんだよっ☆ミ」
「なんだ、おまえ」
「はじめまして! レグル」
「まて! それ以上言うな! そうか、あいつの知り合いってわけか」
 参加してないPCの名前は出せないので、こういうとき非常にやりにくい!
「うん。でも、それとこれとは別だから、あきらめて帰ってくれないかなっ☆」
「なに言ってやがる。帰るのは、てめぇらのほうだ!」

「卍さん♪ 卍さん♪ ここにギターがありますよね?」
 そう言って、雫は一本のギターを取り出した。
「それがどうした?」
「これを、こうして……っと!」
 雫は、いきなりギターを地面に叩きつけた。
 レベル33阿修羅の力で叩きつけられたら、ギターなど一発でオシャカだ。
「ふふ……。これが、数分後のあなたの姿ですよ」
「はっ。そんな挑発に乗ると思ってんのか? ギターをブッ壊すなんざ、メタラーにとっちゃ日常茶飯事……って、おい!」
 クールに挑発をかわしたチョッパー卍の横を、亜矢が突進していった。
「あたしたちミュージシャンの魂とも言える楽器を壊すなんて……ただじゃおかないわよ!」
「この馬鹿! もどれ! おい!」

 ちゅどぉぉぉん!

 自分たちの仕掛けた地雷で吹っ飛ぶ亜矢。
 予想外の結果に、雫は目を丸くした。
「……まぁ、結果オーライですね」
「あのボケ……。なにやってんだ……」
 チョッパー卍は頭をかかえるしかなかった。



「げほっ、げほっ! だれよ、こんなところに地雷セットしたのは!」
 全身真っ黒こげになりながら、亜矢は大声を張り上げた。
「自分たちで仕掛けたんでしょ? 天罰だよ!」
 真顔で指摘しながら、審判の鎖を投げつける里桜。
「そんな攻撃が通じると思うの?」
 亜矢は空蝉を発動し、スクールジャケットを犠牲にして回避。
 彼女は『防御など空蝉でオールオッケー!』という思想のもと攻撃力と移動力に特化しており、突撃力はかなり高い。
「じゃあこっちだよ!」
 里桜はコメットをぶっぱなした。
「範囲攻撃とは卑怯な……!」
「空蝉のほうが卑怯じゃない?」
 うん。エリュシオン全プレイヤーにアンケートをとったら、まちがいなく空蝉のほうが卑怯だという結果が出るだろう。
「ふ……っ。こんなものを食らうあたしだとでも……アバーッ!」
 地雷で生命力が激減していた亜矢は、コメット一発で簡単に撃沈!
「もしかして、この依頼って『非常に易しい』とかじゃない……?」
 ハッと気付いたように口走る里桜。
 いや、そんなことない。そんなことはないぞ! たまたま雫のギター破壊パフォーマンスがうまくハマってしまっただけだ! あと、亜矢の知能がちょっと残念だっただけだ! ほかの連中は強いからな! 覚悟しろ!



「あの自爆ニンジャ、自分でメンバー集めておいて、勝手に特攻、勝手にリタイアかよ……。まぁいい。役立たずが消えてサッパリしたぜ。かかってきな!」
 地雷原をはさんで挑発するチョッパー卍。
「こんなの、光の翼でひとっ飛びだもんねー」
 先手を切って空に舞い上がるのは、グリーンアイスだ。
 そのまま飛行で地雷原を突破し、クラブ棟めがけてスキルを発動!
「景気よく焼き払っちゃうよー? くらえ、炎陣球!」
 スカッ。
 なんと、炎陣球不発!
 ……え? ルール上、誤爆はあっても不発なんかありえないだろうって?
 いや、ありえますよ? 身につけてないスキルを使おうとしたときなんかは。
 え? そんなことをするヤツはいないだろって?
 いや、いますよ? 実際プレイングに書いてあります。
『炎陣球を……木造建築を守る会のダメ人間どもを巻き込みつつ、本命のクラブ棟へ☆』
 うん。たしかに、まちがいなく、絶対に、そう書いてある。
 でも、グリーンアイスさん。あなた、炎陣球なんて身につけてませんよ??
 残念! いくら『なんでもOK!』とはいえ、おぼえてないスキルは使えません!
 というか、こんなミス初めて見たよ! 以前、拳銃を持たずに拳銃撃とうとした人がいたけど、それよりひどい!
 そういうわけで、グリーンアイスちゃんは必死になって炎陣球を発動しようとしたが、どうやっても発動できなかった。
「そ、そんな……! あたし、炎陣球おぼえてなかったの!? 陰陽師なら覚えてて当然のスキルじゃない!? ちょ、ちょっと待ってて? いま覚えてくるから!」
「あのアホを撃て、百合華」
 チョッパー卍が命令すると、百合華はうなずいてホンモノの炎陣球をぶちこんだ。
「ウソでしょぉぉぉ……!?」
 叫びながら墜落してゆくグリーンアイス。
 いやいや、こっちが『ウソでしょ!?』って言いたいよ!
 見まちがいかと思って、10回ぐらいスキル一覧確認しちゃっただろ! 心臓に悪いので、やめてください! あと、腹筋にも悪い!



「では、気を取りなおして……まいるで御座る!」
 源一は敵陣の中に内蔵・リックの姿を見かけるや、一直線に走りだした。
 トラップなど空蝉で回避してしまえば良いという、亜矢と同類の空蝉万能論的ワイルド思考だ。
 クマぐるみ装備で脳まで野生化した源一に、倒せぬ敵など多分ない!
 でも、いきなり地雷原に突っ込んでいくのは正直どうかと思う。

 ちゅどぉぉぉん!

 ほら、やっぱり踏んだ。
 しかし、源一は冷静に空蝉で対応!
 たしかに空蝉は強い。単体攻撃に対しては、ほぼ無敵だ。
 こんな便利な技がスクールジャケットひとつで発動できるなんて! ……でき……る……え?
 ……あ、あれ? 豆柴さん。あなた、スクールジャケット持ってませんよ?
 じゃあ空蝉を取り消して……と思ったら、ちょうどいいことに魔装コスト20のマインゴーシュがあるんですよね。
 ああ、なるほど! 『自分はスクジャで空蝉するような貧乏忍者ではないので御座る!』というわけですな? これはこれは。失礼しました。『スクールジャケットを持ってくるの忘れた気の毒な豆柴』などと勘違いしてしまい、申しわけない。では、ご希望どおりにマインゴーシュを消費して空蝉します。
「セレブ版空蝉の術! で御座る!」
 ちなみにスクールジャケットは100久遠。マインゴーシュは18000久遠。
 おお、180回分の空蝉コストを一発で消費するとは、なんと贅沢な!
 当然、源一は普段より180倍も遠く離れた場所に出現……したりはしなかったが、180倍スタイリッシュに出現! おお、いまこそ人生で一番輝いてる瞬間!
 しかし残念なことに彼の足下には落とし穴が待ちかまえており、もういちど空蝉を発動したくてもスクールジャケットがないので、源一は「マインゴーシュを返すで御座るぅぅぅ……!」と、セレブらしからぬ発言を残して落ちていくしかなかった。



「とりあえず、危ないものは無くさなくちゃ!」
 源一の結末を見て、龍希は地面を撃ちまくった。
 地雷が爆発し、落とし穴の板が割れ、トラバサミが弾け飛ぶ。
「おいコラ! なにしやがる!」
 チョッパーが怒鳴った。
「こんな危ないものを仕掛けるのは良くないと思います!」
「ち……っ。徹夜で仕掛けたトラップを……! おい、おまえら! 打って出るぞ!」
 チョッパーの指示で百合華が『韋駄天』を使い、ラクーナと内蔵が飛び出した。
 非モテ系ブサメンのラクーナだが、撃退士としての実力は高い。ガチバトルでやりあったら、まともに戦えるのは雫ぐらいだ。しかも、その雫は重体中。百合華とチョッパーの支援を受けたラクーナを止めるのは難しいぞ!



「わはー★ 非モテって本当にいるんだねぇ」
 いきなり、ふゆみの口撃が突き刺さった。
「な……っ!?
 ラクーナの足がピタリと止まる。
 おいコラ、かんたんに止まるな! MSがウソついたみたいになるだろ!
「自分が非モテだからって他人をねたむとか、なさけないなぁ。だから非モテなんだよっ☆ミ」
「ね、ねたんでなどいない! ただ爆発しろと言ってるだけだ!」
「あははー。バカみたーい☆ ばくはつなんか、するわけないじゃーん。ホント、モテないひとってかわいそー☆ミ」

 どかーーーん!

 らくーなは、ばくはつした。
 ふゆみのこうげき。
「なんで、そんなにモテないのぉ? ふゆみ、だーりんとラッブラブだから、わかんなぁい (*´ω`)」

 ずどーーーん!

 らくーなは、だいばくはつした。
 ふゆみのこうげき。
「こんど、いっしょにうみにいくから、みずぎもかったんだよっ☆ だーりん、よろこんでくれるかなぁ?」

 ずどがーーーん!

 らくーなは、ばくしした。
 げーむ☆おーばー
 ……って、おい!



「ラクーナ! しっかりしろ! 傷は深いが、しっかりするんだ!」
 内蔵が引きずり起こして揺さぶった。
 しかし、へんじがない。ただのしかばねのようだ。
 ラクーナの負った心の傷は、再起不能判定をくらうのに十分なレベルだった。PCだったら生命力マイナス300ぐらいしてるところだ。
 でも本当は強いんだぞ、このNPC! ふゆみの攻撃がクリティカルすぎただけだ!
 というか、この精神攻撃はひどすぎるぞ! MSまで心をえぐられたわ!

 そんな非モテの傷心ぶりも知らずに、ふゆみは口撃をつづける。
「あっ、もしかして、そっちの人も非モテなのー? おともだちをたいせつにしてあげてねっ☆ミ」
「あいにく私は、そういうことに興味がない。友の仇を討たせてもらう」
 二挺拳銃で走りだす内蔵。
 彼はインフィルトレイターでありながら、近接格闘を得意としている。敵に近付けば近付くほど力を発揮する。それが彼独自の近接拳銃術だ! 相手が阿修羅であろうと関係ない! 突撃して殴るのみ!

「やだー。暴力はんたーい☆」
 などと言いつつ、刀を抜くふゆみ。
 そこに、百合華の『式神・縛』が撃ちこまれた。抵抗判定の余地なく束縛を与える、チート技だ。まぁそもそもコメディなので判定とかないけどな!
「一撃で終わらせてやろう」
 動けなくなったふゆみへ、内蔵がシリアスに襲いかかる。
 ふゆみリタイアかと思われた、その瞬間。内蔵の背後にそっと忍び寄る、セレブな豆柴の姿が!
 そう、ニンジャに落とし穴は通じない! 壁走りで駆け上がれるからな! しかも、彼の手にあるのはプルガシオン。汚れた心を浄化する、光の魔法書だ! そして源一は、左手に魔法書を持ったまま、右手で攻撃!
「必殺! ゴールデンボール・クラッシャァー! で御座る!!」
 グシャアアアアッ!
「qあwせdrftgyふじ!」
 最後まで言うことさえできず、中途半端な悲鳴を残して内蔵は倒れた。
 彼はインフィルとしては規格外の体力を持つ男だが、この反則攻撃には抵抗する術もなかった。一撃で終わらせるはずが、一撃で終わらされてしまった内蔵、無惨。
「最強のプルガシオンとは……自分自身がプルガシオンになることで御座る!」
 よくわからないことを言う源一。
 ──というか、『手』で攻撃して良かったのか?
 どう考えても、『足』のほうが良かったと思うのだが。攻撃する場所的に。



「行っけー!スカイ□ッド号!」
 そこへクレーン車で乗りこんできたのは、柘榴未來。
 倒れた内蔵をクレーンでつかむと、そのまま大砲へ突っ込む。
 これぞ撃退士砲(ブレイカー・カノン)!
「説明しよう! 撃退士砲とは! 撃退士を大砲の中に入れて、別の撃退士が外側から力を流し、中にいる奴のアウルを無理やり加速! それを発射してアウル弾を発射だ! 人? そんなのオマケさ! 偉い人にはそれがわからないんだよ!」
 支離滅裂なことをまくしたてて、うんうんとうなずく未來。
 言ってることがよくわからないが、とりあえずアウルで撃退士のアウルを加速してアウルるらしいあうる。
 すまん。私には理解不能な理論だった。
 あと、いくらコメディといえどもアウルの設定とか無視して話を進めることはできないので、残念ながら撃退士砲は作動しなかった。
 でも大丈夫。かわりに火薬を使って普通に発射しよう。それで我慢してくれ。むしろ、そっちのほうがダメージは大きい。
 ──というわけで、とりあえず内蔵とラクーナは人間大砲の弾として発射され、太平洋まで飛んでいった。
 しかしホントにやりたい放題だな、この撃退士たち。



 ともあれ、この時点で『木造建築を守る会』5人のうち、3人が戦闘不能に。(2名重体)
 一方、撃退士側はグリーンアイスと源一が少々ダメージを負ったものの、実質的に損害なし。
 あれ……? おかしいな。5人とも、かなり強い設定なんだが……。
「あの……、もうあきらめたほうが……」
 おずおずと、百合華が言った。
「なに言ってやがる。こっちには切り札があるんだぜ?」
 ここまで追い込まれてもなお、チョッパー卍は余裕の表情だ。
「切り札……ですか……?」
「明日羽だ。あいつが来るまで持ちこたえれば……って、うぉぉぉい!」
 見れば、クラブ棟から煙が立ちのぼっていた。
 里桜が火炎瓶を投げつけたのだ。
 雫も一緒になって火炎瓶を投げており、屋根や壁から火の手が上がっている。
「最初からこうしちゃえば、解体作業なんかしなくて済むよねー?」
「古物は焼却です。それにしても、よく燃えますね」
 ふたりとも、じつに素敵な笑顔だ。
 こんなに楽しそうに、かつ堂々と火をつける放火魔は、ほかにいるまい。

「やばい! 火を消せ、百合華!」
 チョッパーが命令した。
「ど、どうやって、ですか……?」
「水を出す技はないのか? 水神召喚とか!」
「ありませんよぉ……そんなの……」
「ファァァック!」
 怒鳴り声を上げるチョッパー卍。
 焼き討ちなど想定内! 対策は万全だ! と思っていたが、そんなことはなかったぜ! 世の中甘いな!

 しかし、それにしても。よくよく考えると相当ひどいプレイングだぞ、これ。
 ありのまま、いま起こったことを話すとだ。
 俺は『木造建築を守る会を撃退してくれ』という依頼を出したと思ったら、いつのまにか『木造建築を焼き払ってくれ』という依頼になっていた。な……なにを言ってるのかわからねーと思うが(略)という感じだ。
 まぁ実際、『べつに、アレを壊してしまっても構わんのだろう?』と言われれば、そのとおりなんですが……。



「ともかく、火を消すぞ!」
「は、はい……ひぁッ!?」
 いきなり尻をさわられて、百合華は跳び上がった。
 チョッパーがさわったのではない。ソーニャだ。
 ええぇ!? シリアス担当の彼女が、なぜこんなことを!?
 ああ、尻assというわけですね? なるほど!
 駄洒落は置いといて、説明しよう。ソーニャの狙いは、こうだ。

 まず、透過能力で百合華のスカートをすり抜け、パンツに触れる。
 その感触で素材やデザインを判別し、『このパンツは自分のものである』と認識することによって相手の体から抜き取る!
 これで、相手の機動力を封じようというのだ!
 それだけではない! 奪ったパンツで、男性陣を籠絡することも可能! 一粒で二度おいしい作戦なのだ! なんという奇策! 孔明も脱帽だ!

 とはいえ。この作戦には、いくつか問題があった。
 第一の問題は、パンツの認識に時間がかかることだ。
 しかし、明日羽から学んだフィンガーテクニックにより、さわればさわるほど百合華はメロメロに。
「ひぁぁ……っ。さわっちゃダメですぅぅ……!」
 むしろ、さわられて喜んでいる百合華。
 ひとつめの問題はクリア!
 だが第二の問題は、阻霊術の存在だ。
 阻霊符は撃退士の必須アイテムだが、百合華ほどの陰陽師ともなれば自らの術で透過能力を退けるかもしれない。
 しかし、これも相手の急所を責めることによって精神を乱し、術を破るのは可能なはずだ!

 ……と、プレイングの8割ぐらいをパンツ抜き取り作戦に費やしたソーニャちゃん。
 見た瞬間に『いや不可能だろ!?』と思ったんですが、もし可能なら夢が広がりんぐなので、MSはオフィシャルに問い合わせました。
『透過能力を使い、他人のパンツを自分のものだと思いこむことによって抜き取ることは可能ですか』と。
 ……あとから考えると、頭がおかしいとしか思えない質問だな、これ。
 で、回答ですが。やっぱり無理でした。
 まず第一に、光纏してる撃退士に透過は無効です。
 第二に、他人のパンツはどこまでも他人のものであって、それを自分のものと認識することはできません。
 畜生! 残念! 畜生!
 俺の……じゃない、ソーニャちゃんの夢が!
 ああ! 訊く前から答えはわかってたよ! でも俺はソーニャちゃんの夢をかなえたかったんだ!
 無念きわまるが、作戦失敗!
 だが、夢をあきらめてはいけない! 自分のパンツを百合華に履かせて、なおかつ光纏してないときを狙えば成功するかもしれない! ……って、どんなシチュエーションだ、それ!
 いや、まて! いっそのこと『百合華のパンツを抜き取れ!』という依頼を出してしまえばいいのか!? よし、これだ!(冗談です。書きません)



 まぁパンツ泥棒の話は、さておき。(泥棒っつーか強盗?)
「も、もう……それ以上さわらないでくださいぃぃ……」
 おしりを撫でられまくった百合華は、ヒクヒクしながら四つん這いになっていた。
 パンツとか抜き取る必要もなく、この時点でソーニャの勝ちである。というか、ふつうに脱がせると思う。
 ちなみにチョッパー卍はクラブ棟の火を消す作業に追われており、百合華を助ける者はいない。
 よし、脱がそう。
 ──と思った、次の瞬間。
 ソーニャは後ろから抱きすくめられて、動けなくなっていた。
「ソーニャちゃん? 今日は積極的だね?」
「あ……明日羽、さん……?」
「ん? 手が止まってるよ? もっと百合華のこと、いじめてあげて?」
「えぇ……っ?」
 とまどうソーニャ。
 明日羽の見ている前で、そんなことをしてもいいのだろうか。
「こう、ですか……?」
 さわさわ。
 ぴくぴく。
「こうしたほうがいいよ?」
 ソーニャのおしりを撫でる明日羽。
「ふあ……っ!?」
 さわさわ。
 すりすり。
 ぴくんぴくん。



「出たー! おかげで、お嫁に行けなくなったぞー! だからお嫁にもらえ、おねーさまー!」
 グリーンアイスが大声を上げた。
 彼女は以前、明日羽と戦って痛い目に遭っている。
『シールゾーンが怖いから、あまり近づかない。炎陣球で巻き込めたらラッキー』などと考えているが、さっきも言ったように炎陣球は覚えてないぞ! そもそも攻撃スキルは炸裂符しか覚えてない!

「明日羽さんですね。僕、西行龍希です! はじめまして!」
 龍希が駆け寄ってきて、ぺこっと挨拶した。
「元気のいい子だね? ふたりとも、私の味方にならない?」
「え……?」
 龍希はグリーンアイスのほうを見た。
 首を横に振るグリーンアイス。
 そう。こんなのでも一応、依頼は依頼だ。敵と手を結ぶわけにはいかない。

「加勢するで御座る! ぐわおー!」
 明日羽の姿を見つけて、野生の豆柴がやってきた。
「行っけー! スカイ□ッド号!」
 未來もクレーン車で大砲を引きずりながら参上!
 マジで、どこから借りてきたんだ、これ。街のレンタカーには置いてないよな。
「はおはお〜★ ふゆみだよっ! よろしくねっ☆」
 ふゆみも元気に到着!
 しかし、彼氏持ちの女性は明日羽の前に行かないほうが……。
「いまごろ来ても、手遅れだよっ」
 放火魔・高瀬里桜は笑いながらクラブ棟を指差した。彼女と雫の放った火炎瓶のおかげで、半分がた火に包まれている。チョッパー卍は、たった一人で『バケツリレー♪水よこせー♪』状態だ。
「さすがに古い木造建築ですね。よく乾いてるから、火のまわりが速くて助かります」
 無表情のまま、さらりと言う雫。
 実際のところ、チョッパー卍は消火活動をがんばっているが、どう見ても全焼は免れないだろう。

「明日羽! そいつら全員病院送りにしてやれ!」
 必死でバケツを運びながら、チョッパーが怒鳴った。
 2対9だが、明日羽なら不可能ではない。レベルも滅茶苦茶高いが、金に飽かせて揃えた装備品がハンパないのだ。
「じゃあ、ちょっと遊ぼうか? ……そうそう、男はいらないから消えてね?」
 鎖を手にして微笑む明日羽。
 撃退士たちに緊張が走る。

「……待って。明日羽さん、なぜ彼らに味方してるの?」
 アリカが前に出た。
「あら、お姉様? このところ、よく会いますね?」
「……質問に答えて。あなたが、こんな馬鹿げた連中に手を貸す理由が見当たらないのよ」
「理由? 亜矢が私の友達だからですよ?」
「……私だって友達のはずよ。こっちの味方にはなってくれないの?」
「亜矢を裏切れって言うんですか?」
「……ただでとは言わない。味方になってくれるなら、私を一日好きにしていいわ」
 さらりと凄いことを言いだすアリカ。
「そんなこと、いつでもできますよ?」
 応えるほうも、相当なことを平然と口にしている。
「……なら、その子も好きにしていいわよ」
 さらに凄いことを言って、アリカはソーニャを指差した。
 人権を無視した取り引きだが、ソーニャは特に拒否する様子もない。むしろ喜んでいるようにさえ見える。
 しかし、明日羽は応じなかった。
「この子なら、いつでも好きなようにできますよ?」
 そう言って、ソーニャを抱き寄せる明日羽。
 ソーニャはまったく逃げようとしない。これでは人質をとられたようなものだ。
 アリカは考えこんだ。このままでは交渉失敗だ。
 なにか、あたらしい取り引き材料を──
 ──あった。

「……西行さん。あなた、私の作戦に協力するって言ったわよね?」
「は、はい! 言いました!」
「……明日羽さんと一日遊んでくれる?」
「それで依頼が成功するなら、よろこんで引き受けます!」
「……という了承を得たわけだけれど、これでも足りないかしら?」
 得意げに微笑みながら、アリカは問いかけた。
「ふぅん……? 本当にいいの?」
 明日羽は、品定めするような目を龍希に向けた。
「はい! 大丈夫です!」
「なら、交渉成立ね? もうキャンセルできないよ?」
「はい! よろしくおねがいします、先輩!」
「元気な子だね? たのしめそう」
 明日羽は舌なめずりしそうな顔で言うのだった。



「おい! なにやってんだ、明日羽! とっとと始末して、こっち手伝え!」
 両手にバケツを持って走りながら、チョッパー卍が叫んだ。
 その必死な姿を見て、撃退士たちの間に少しだけ同情するような空気が漂う。
「ごめんね? たった今から、私はあなたの敵になったから。覚悟してね?」
「なんだ? 聞こえねぇよ!」
「あら? 聞こえなかった? これなら届くかな?」
 明日羽の手からヴァルキリージャベリンが投げ放たれ、チョッパー卍は状況を把握しないまま串刺しになって吹っ飛んだ。
「アバーッ!?」
 明日羽が裏切ることなど想定済みだと思ったが、全然そんなことはなかったぜ!
 なにもかも、アリカの思い通り! 世の中甘すぎる!

「……なんだか、ちょっとだけかわいそうな気がしてきちゃった」
 そう言いながらも、里桜は半笑いだった。
「自業自得ですよ」と、雫はそっけない。
「あとは、あの建物ぶっこわすだけだねっ☆」
 ふゆみが言うと、一同は軽くうなずいた。



 こうして『木造建築を守る会』は、あっさり撃退されてしまったのである。
 ──というか、全体的に色々ひどすぎた。
 覚えてないスキルを使おうとしたり、他人のパンツを抜き取ろうとしたり、スクジャなしで空蝉しようとしたり、どこから借りたのかわからない大砲持ってきたり……。
 ひどすぎて大成功です。
 うん。一番ひどいのはMSでした。



依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 佐渡乃明日羽のお友達・紅 アリカ(jb1398)
重体: −
面白かった!:11人

『三界』討伐紫・
高瀬 里桜(ja0394)

大学部4年1組 女 アストラルヴァンガード
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
ひょっとこ仮面参上☆ミ・
新崎 ふゆみ(ja8965)

大学部2年141組 女 阿修羅
佐渡乃明日羽のお友達・
紅 アリカ(jb1398)

大学部7年160組 女 ルインズブレイド
正義の忍者・
静馬 源一(jb2368)

高等部2年30組 男 鬼道忍軍
カリスマ猫・
ソーニャ(jb2649)

大学部3年129組 女 インフィルトレイター
2013ミス部門入賞・
グリーンアイス(jb3053)

大学部6年149組 女 陰陽師
麗しの看板娘(女体化)・
柘榴 今日(jb6210)

大学部4年6組 男 アカシックレコーダー:タイプB
V兵器探究者・
西行 龍希(jb6720)

大学部3年155組 女 インフィルトレイター