「灼熱の炎天下で、愛の炎が噴き上がる! さぁ、ここに開幕! 第一回おのろけ大会! 実況は私、ラテン・ロロウス(
jb5646)。現場にはファラ・エルフィリア(
jb3154)が向かっているところ。なお私は重体中のため、サポートとしてファリス・メイヤー(
ja8033)の手を借りている。もしかすると流れ弾が飛んできて死ぬかもしれないが、生きている限りは実況をつづけたい。……さて、一番手に登場は新美新一&矢吹亜矢のペア!」
「さぁ、のろけて。思う存分のろけるのよ、新一君!」
つきあってるわけでもないのに、無理難題を押しつける亜矢。
「む、無理ですよ、そんなの……」
「なにが無理なの。かんたんでしょ? あたしへの愛を語ればいいのよ」
「愛なんてありませんよ……」
「な……っ!? ひ、ひどい。そんなことを言う子だったの、あなた」
「そう言われても……まわりは普通にカップルだらけですよ。勝てるわけありません」
新一の言うとおりだった。
今日カップルで参加したのは、彼らを含めて8組。いずれも真剣に勝利を狙う、リア充ぞろいである。お遊び気分で参加した亜矢たちとは心構えが違う。
「さぁ、二番手に現れたのは、亀山淳紅(
ja2261)とRehni Nam(
ja5283)。学園でも有名なカップルが早々に登場。これは無双することが予想されるぞ。急造カップルの新一&亜矢、これをどう切り抜ける!?」
ノリノリのラテン。今回いちばんおいしい役かもしれない。
その横ではファリスが目を輝かせて、なりゆきを見守っている。
「このカップルたちの情熱エネルギー……。天魔退治に使えれば、さぞ強力な武器となるでしょうに……」
残念そうに呟くファリス。
そんな技術が実用化されたら、エリュシオンはR18指定を食らってしまうぞ。
「レフニーの好きなとこやね、まかせといて!」
淳紅が前に出て、臆面もなくのろけはじめた。
「一番は、自分のこと好きでおってくれとるとこかな。内面も外見もそりゃ好きやけど、やっぱり一番はそこやねん。自分がどんなバカしても、ひどいこと言うても、自分のことずっと好きでおってくれる思うねん。ただそれだけやけど、ずっと難しいことやって知ってるから……」
「あの、ジュンちゃん。もう勝負ついてますから……そのあたりで……」
赤面しながら淳紅の惚気話を止めるRehni。
見れば、新一も亜矢も砂糖漬けになって倒れていた。
なんという一方的な試合! というか、相手が悪すぎた!
「おつかれさまでした。あなたたちの愛に祝福を」
ファリスがやってきて、新一と亜矢をヒールした。
もういちど言うが、彼らの間に愛などない。
そんな様子をワクワク顔で撮影するファラ。
「ラブ叫んでるときの人間って、おいしそうな魂して……おっと危うく退学になるところだった、てへぺろ! でも、ほんとにおいしそー。……ちょろっとペロペロさせてくれないかな、もう。外皮でいいから外皮で!」
ふらふらと淳紅たちのほうへ歩いていこうとするファラ。
「だ、駄目ですよ! 試合の邪魔をしないでください!」
ファリスが必死で引き止めた。
観戦目的で参加した彼女、じつは誰よりも大会の行方をたのしみにしているのである。邪魔させるわけにはいかないのだ。
「わかった! つまり砂糖でやっつければいいのね?」
飛び出してきたのは、雪室チルル(
ja0220)
『勝手にカップリングOK』だったが、残念なことに組める相手がいなかったためソロで参戦。同性OKって書いてくれれば良かったのに! そうすれば下仁田ネギの人と組めたのに! その場合とんでもないことになったけどな!
「学園コラムによると、甘い雰囲気が出れば出るほど砂糖が出てくる。つまり、のろけで倒すには砂糖が必須!」
そう言ってチルルが取り出したのは、砂糖まみれの冷刀マグロ! 物理的に砂糖を使って勝とうという、いつもどおりの脳筋作戦だ!
それだけではない。もちろん『愛』だって語るぞ!
でも相手がいないから、郷土愛で勝負!
「つい最近、田舎の親戚たちから手紙が来たの! あたいの田舎は北国の小さな村なんだけど、親切で優しい人ばっかりだよ! 料理もおいしいし、景色もいいし、最高にくつろげる村なんだから! みんなも一度、遊びに来てね!」
「では、私がジュンちゃんの好きなところを……」
バトンタッチして、今度はRehniがのろけだした。
「こんなところでしゃべるのは少々恥ずかしいのですが……でもそうですね。まず第一に、素敵な歌声でしょうか。それに、とても優しくて良い人で、いっしょにいて楽しいです。笑顔もかわいくて、キリっとした顔が格好良くて、さりげなく気遣ってくれて……」
「レフニー、レフニー、もう勝負ついとるって」
淳紅が顔を真っ赤にして止めた。
そんな二人の前で、チルルはマグロをかかえて砂糖に埋もれているのであった。
「なかなかの強敵ですわね……。でも、わたくしは負けません! 自慢の惚気話を語らせていただきますわ!」
メイド服をひるがえして参上したのは、斉凛(
ja6571)
ドヤ顔で左手を掲げ、薬指のリングを高々と披露だ!
「これこそ、わたくしたちの愛の証! わたくしの誕生日に、星空の下でプロポーズされたのですわ! いまわたくしたちは同棲中。毎日毎日ふたりでイチャついているんですのよ。寝るときはいつもお姫様だっこでベッドにつれていってくださいますし、もちろん毎晩抱きあって眠りにつきますわ。結婚式の予行演習もバッチリ。あなたがたのようなお子様の恋愛ごっことはレベルが違うんですのよ!」
発言は強気だが、凜の顔は真っ赤だった。
それはそうだ。二十人以上の撃退士が見ている前でやってるのだから。
「うぉ……っ! なかなかののろけやな……!」
砂糖まみれになりつつも、踏みとどまる淳紅。
Rehniがハラハラしたように目を向ける。
「ジュンちゃん、だいじょうぶ? こんな戦いで重体になったりしないでね……?」
特攻癖のある淳紅は今までに何度も病院送りになっている。仲間内では、病院が別荘とか、むしろ自宅が別荘とか、自宅を病院に改築しようなどと言われているほどなのだ。
しかし、そんなRehniの心配するさまも、のろけ攻撃となって凜に押し寄せる。
「2対1とは卑怯ですわ……!」
最初からわかっていたのに、そんなことを言いだす凜。なぜ相方をつれてこなかったのかと、小一時間ほど問いつめたい。きっと良い勝負になったのに。
その後も凜は一人で頑張ったが、淳紅&Rehniペアの実力(のろけ値)は高く、たちまち砂糖の嵐に巻かれて凜は倒れた。
「ああっと、ここで凜が脱落! 危なげなく三連勝だ! 淳紅&Rehniペア強し! このまま破竹の勢いで連勝街道まっしぐらか!? というか、みんなオチがないぞ! 話というものには『起承転オチ』が不可欠! のろけ話も例外ではないはずだ!」
ラテンの実況にも熱が入る。というか、のろけ話にオチは必要ないはずだが。
さて、次に登場したのは星杜焔(
ja5378)&雪成藤花(
ja0292)の二人。
「おーっと、ここでライバル出現! こちらもまた学園では名の知れたカップルだ! いきなり決勝戦クラスの、ガチンコのろけバトルが始まる! オチに期待だ!」
「去年までは非モテ騎士友の会だった俺も、いまではリア充。いまだに信じられない。毎日部屋の隅で左手君と右手さんと、これは夢!? 会議。でも毎日毎日、これは現実と藤花ちゃんが教えてくれる。毎日起きたら、横に可愛い寝顔。喪失を恐れる俺に、元気で生きてると示してくれて……」
初手から全力でのろける焔。
なぜか女装しているのは単なる趣味……ではなく、男の娘喫茶でヘルプしてきた帰りだからだ。決して、ただの趣味ではない!
相当なのろけパワーを見せつけた焔だが、その程度で動揺する淳紅&Rehniではない。
そこへ、藤花の援護が入る。
「いつも美味しいご飯を作ってくれる焔さん……。ひとりきりが長かったせいか不安症で、だけどすごく温かい方……。焔さんはカレーが得意料理で、食べると笑顔が浮かぶんです。そのカレー作りの最中の真面目な顔がとても素敵で……いつも何かあるときはカレーを作ってくれて……それがわたしは嬉しいです」
こ、これは甲乙つけがたい……!
どっちかキスぐらい披露してくれればいいのに!
だが仕方ない。カレーには勝てない。カレーは最強のアイテム!
というわけで、淳紅&Rehniペアはカレーまみれ……じゃなく砂糖まみれになって敗れた。
「やったね、藤花ちゃん!」
「ええ。これこそ、愛の勝利ですね」
臆面もなく抱擁しあう焔と藤花。
その姿は、まさにリア充そのものだ。
「なんと、のろけではなくカレーで最大のライバルを制した焔&藤花ペア! このまま一気に優勝か!? でもオチがないぞ!」
ラテンの実況が続く中、次に登場したのは若杉英斗(
ja4230)
当然のようにソロ参加の彼は、熱い口調でのろけはじめた。
「それじゃさっそく、俺ののろけを披露させてもらおうか。先日、授業中に消しゴムを落としたら、近くの席の女子が拾ってくれたんだぜ? すごいだろう? しかも、消しゴムを渡すときニッコリ微笑んでくれたんだ!」
その女子は恐らく微笑んでなどいなかったはずだが、フィルターがかかっているので仕方ない。モテない男子高校生の視点など、そんなもんだ!
「ほかにも、そうだな……。学食で目玉焼きに醤油をかけようとしたら、ちょっと手が届かなかったんだ。そしたら、女子が醤油を取ってくれたんだ! とびっきりの笑顔でなっ! とびっきりのだ!」
その女子は恐らく『目玉焼きに醤油? ふつうは塩胡椒でしょう』などと考えて笑ったのだと思うが、フィルターがかかっているのでどうしようもない。
そんな一連の非モテ主張をする英斗の前で、焔&藤花は何の反論もせずにギュッと抱擁。
「リア充爆発しろぉぉぉ!」
苦悶の叫びをあげながら、英斗は砂糖爆弾で吹っ飛んだ。
そこへ、狂ったように突進してくるのはマキナ(
ja7016)
「俺には彼女なんていないのに……リア充なんて爆破してしまえばいいんだ!」
いま吹っ飛んだばかりの英斗と同じことを叫びながら、斧を振りかざして焔へ襲いかかる!
しかし、のろけ度がすべてを決めるこの戦場では、自慢のエクスキューショナーもハリセン以下の飾り物でしかない。
焔&藤花のイチャラブシールドによって、あっさり撥ね返されるマキナ。
「くそ……っ! 俺だって、俺だって、彼女ほしいのに!」
その言葉を聞いてニッコリ笑ったのは、妹のメリー(
jb3287)
三度の飯より兄が好きな、ヤバイ級のブラコン少女だ。
「お兄ちゃん、なに言ってるの? お兄ちゃんにはメリーがいるよね? 彼女なんか必要ないよね?」
手にした金属バットは、燃え上がる嫉妬の炎で真っ赤に輝いている。
「ま、まて。おちつけ! バットは野球の道具だ! 人を殴るためのものじゃない!」
「メリーは素振りの練習をするだけだよ? 野球選手たるもの、一日たりと練習を欠かしちゃいけないの」
「いつから野球選手になったんだ……!?」
「やだなぁ、お兄ちゃん。メリーはプロ野球選手になるために生まれてきたんだよ?」
じりじりと迫るメリー。
同じ歩調で、マキナが後ろに下がる。
「待て。冷静になれ。いまは野球の練習をする時間じゃない」
「しーらなーい」
カキーンと金属バットが振り抜かれ、マキナは盛大に吹っ飛んで動かなくなった。
メリーはすかさず金属バットをしまい、かわりにマキナを装備!
装備コストは10/0ぐらいですかね。──うん、コスト的には問題なく装備できるようだ。
「さぁいくよ! お兄ちゃん最強!」
兄の足をつかんで振りまわすメリー。
焔&藤花のラブラブシールドが破壊され、砂糖の嵐が渦巻いた。
「藤花ちゃん!」
「焔さん!」
圧倒的な暴力によって引き裂かれ、別れ別れになってしまう焔と藤花。
メリーの一方的なラブパワーが大爆発だ!
「お兄ちゃんは最強に格好良いのです! いままでの依頼でもお兄ちゃんのことを言わなかったことがないのです! それに文句を言いつつも、こうしていつもメリーをかばってくれるのです! 強くて、優しくて、可愛くて、逞しくて、凛々しくて、賢くて、格好よくて……とにかく最高なのです! お兄ちゃん最強ォ!」
滅茶苦茶な勢いでブンまわされ、たたきつけられる、兄という名の魔具『マキナLv22』
この盲目的かつ暴力的な問答無用の愛を前に、焔&藤花ペアもついに陥落。
「やっぱり、お兄ちゃんは最強なのです……!」
白目を剥くマキナを天高く掲げながら、メリーは勝ち誇るのだった。
そんな暴力系妹に挑むのは、水竹水晶(
jb3248)&純生麒麟(
jb6629)の純真カップル。
まずは、水晶ののろけだ。
「キリンちゃんはね、世界一かわいいんだよ! いつもね、大好きって言うと大好きって返してくれるんだけど、そのときに照れながら言うんだよね。それがすっごく可愛いの! 毎日大好きって言いたいくらい! それでね、キリンちゃんは料理も上手なの! いいお嫁さんになれると思うよ! あ、もちろん僕のお嫁さんになってもらいたいけどね。方言が出ちゃうって気にしてるけど、かわいいから気にしなくてもいいのにねー。キリンちゃん大好き! ずーっと一緒にいてね!」
津波のような勢いで、砂糖が襲いかかる。
さらに畳みかけるべく、麒麟ののろけが発動!
「水晶ちゃんに初めて会ったとき、人見知りの私に『大丈夫』と繰り返し言いながら背中をなでてくれました。その後も色々と良くしてくれて、とても優しかったんです。私は一目惚れだったです。それで私が大好きって言って……。いまでも会うたびに大好きって言ってくれて……。私も毎日大好きって言ってます。それで、ついこのまえ、き、き、き……キス、してくれたんです……! 毎日が幸せだに! 水晶ちゃん、大好き!」
押し寄せる砂糖!
「お兄ちゃん、メリーを守って!」
メリーは無理やり兄を盾にして、みごと回避!
ズタボロになったマキナが豪快に薙ぎ払われて、水晶と麒麟は仲良く手をつなぎながら倒れた。
「キリンちゃん、最後まで一緒だよ?」
「うん。大好きだよ、水晶ちゃん」
手を取りあって倒れる二人。
おお、メリーのバイオレンスLOVEを止められる者はいないのか!?
そこへ颯爽と現れたのは、沙月子(
ja1773)
しかし、ペアとなる相手はいない。単独でメリー&マキナの愛(一方通行)に勝てるのか?
「愛しています……ああ、愛しています。学校へ行くのも依頼を受けるのも、あなたと離れている時間は地獄そのものです。その血を、肉を、声を、すべてを愛しています。私のすべてを捧げるのも躊躇わない。この血を啜って肉を捧げてもいい。私の愛しい……猫たち」
なんと、月子の想う相手は猫だった。
たしかに強烈なのろけだが、残念なことに彼女は愛猫をつれてきてなかった。
「猫を装備すれば勝てたかもしれませんねー」
無茶なことを言って殴りかかるメリー。
「なんで私の可愛い子たちを見せものにしなきゃいけないんですか。あの子たちを愛でるのは私だけでいいんですよ。ましてや武器にするなんて……あなたの愛はニセモノです!」
ビシッと指をさす月子。
しかしメリーは聞く耳持たない。
「お兄ちゃん最強ォォォ!」
「待った! おなじ猫派として、私の話も聞いてもらうわよ!」
殴りかかるメリーの前に立ちはだかったのは黒夜(
jb0668)
今回は別人格の白鷺陽子で登場だ。その腕に抱かれているのは、黒猫のチアキ。
「チアキは、冬はふわふわもこもこ。夏は手ざわりがよくて、肉球はぷにぷにで和んじゃうの。足の先は白くて、左前脚だけ黒いまま。でも靴下を履き忘れたみたいな感じが可愛いでしょ? 瞳の色も宝石みたいで綺麗だし、好奇心旺盛で気になるものがあると前足でてしてし叩くの。
「なにこれー?」って感じで、てしてしーって。物に傷付けてもうっかり許しちゃう。そう、こんな風に……猫パーンチッ」
チアキの前脚をつまんで、ぺしぺしっとメリーの胸をたたく陽子。
「そ、その攻撃はぁぁぁ……っ!」
恐ろしい破壊力を秘めた肉球ジャブを浴びて、メリーは倒れた。
「やりましたね! わぁー、かわいい猫ちゃん!」
月子がチアキの頭を撫でた。
なんと愛くるしい姿であろうか。
こうして、急遽タッグを組むことになった猫大好きペア。はたして人類同士の愛はこれを上回ることができるのか? あと、マキナの命が本気で不安なんだが……。
「よくわかんないけど、のろけ? ればいいのか? ……でも俺とすみれは、のろけるような仲じゃないよな……」
やや困惑気味に登場したのは、雨鵜伊月(
jb4335)
となりには菊開すみれ(
ja6392)が立ち、どこか不満げな表情で伊月を見つめている。
「そうだね。私たちは『友達』だもんね。のろけるような関係じゃないよね……」
この二人は、幼馴染み。どちらもおたがいを意識しているが、あと一歩踏み出せずにいるという、甘酸っぱいお年頃なのである。
優柔不断な伊月と、すなおになれないすみれ。
今回すみれは勇気を振り絞って、この関係をちょっとでも前に進めようと思い、エントリーしたのである。
「くらえ。にくきゅうアターック!」
そんな二人へ容赦なく襲いかかる、陽子とチアキ。
「やめろ! すみれには指一本……肉球ひとつさわらせない!」
伊月が飛び出して、盾になった。
間髪入れず、すみれが前に出る。
「ダメ! 私がいっくんを守るの!」
「いや、俺が守る!」
押し問答が始まり、どちらが盾になるかで揉める二人。
その様子を、生暖かく見守る陽子と月子。
「どうして、私の言うことを聞いてくれないの? だから、いっくんは嫌い。私のこと、なにもわかってくれない。私の気持ちに気付いてくれようともしない……!」
「え……っ!? すみれの、気持ち……?」
「そう。わかるでしょう? これだけ長く一緒にいるんだから」
「そ、それは……、もしかして、俺のことが好きとか、そういうやつか?」
伊月の問いに、すみれはコクリとうなずいた。
「え、えーと。その……」
取り乱す伊月。こういうときは、たいてい男のほうが慌てるものである。
「いっくんは私が嫌い?」
「そんなわけないだろ! 好きだよ! 言わなくたってわかるだろ!」
真っ赤になって声を張り上げる伊月。
「言わなくちゃわからないよ、そんなこと!」
「そ、そうか。……悪かったな、すみれ。もう一度ちゃんと言うよ。俺は、すみれが好きだ。わかってくれたな?」
伊月の告白に、すみれは涙ぐみながら「はい」と答えた。
「いっくん……大好きです。あなたのそばにいさせてください」
「すみれ……俺もお前が大好きだよ。いつまでも俺のそばにいてくれな?」
こうして二人は衆人環視の中で結ばれることとなり、祝福の猫パンチが彼らを吹っ飛ばした。
「おつかれさまでした。素敵でしたよ」
ファリスが駆け寄り、伊月とすみれを回復した。
「ありがとう。参加した甲斐があったみたい」
すみれはまだ顔を赤くさせている。
「のろけ話も素敵ですが、すれちがう二人がおたがいの愛に気付く瞬間は絶品ですね。家に帰ったら、いまの告白シーンをもういちど見てみようと思います。……いえ、一度と言わず、何度でも」
目を生き生きさせながら、ファリスは絶賛した。
その言葉で、はっと我に返る伊月&すみれ。
「……そうだった。ぜんぶ撮影されてるんだったな……。あれ、相当恥ずかしい告白シーンじゃなかったか……?」
伊月が頭をかかえた。
すみれも動揺を隠せないが、もう開きなおったようだ。
「私はもう気にしないよ。かえって、いい記念になるかも」
「そ、そうか……。俺はしばらく見れそうにないな……」
ハァと溜め息をつく伊月。
しかし、その顔は笑っていた。
「…………!?」
繰り広げられる壮絶なバトルを前に、ネピカ(
jb0614)は絶句していた。
わけのわからない戦いに何故か巻きこまれてしまったネピカ。当然、のろける相手などいるわけがない。そもそも、彼女は普段ぜったいにしゃべらないのだ。のろけることが戦闘力になるバトルにおいて、勝ち目は100%ない。
(……な、なんじゃここは!? のろけ戦争とな!? ぐむむぅ、どうやら私は何かの手違いで、忌まわしくも生臭いカップル大会の奇妙なイベントに巻き込まれたようじゃな。惚気と言うより、もはや呪気……完全に呪詛の類いじゃ。恐ろしいぃ、正気度が下がる……!)
口を閉ざしたまま、必死で逃げだすネピカ。
こんな戦いになど、つきあってはいられない。
(私が最後まで生き残り、明日のため、人類のため、このおぞましき戦場ごと呪気自体を破壊してみせるのじゃ!)
『超低空飛行』で疾走するネピカ。
しかし、そのとき。目の前にファラが立ちはだかった。
「はい、愛を叫んで叫んでーっ♪」
「……っ!?」
急ブレーキをかけるネピカだったが、まにあわずに両者は正面衝突。
のろけ値ゼロのネピカは一方的にダメージを受け、そのまま崩れ落ちた。
「おお、これは……なんとも熱い戦場で」
ダンディな微笑みを浮かべながらバトルを見守るのは、ヘルマン・S・ウォルター(
jb5517)
今回彼はソロで参戦。
その想いを寄せる相手は──タリーウ嬢だ!
なんと、敵側のNPCである。これが紳士のたしなみというものなのか。
「私の愛は……そう、大規模作戦時に遠目に拝見したタリーウ嬢! あの憂いを含んだ瞳……猫っぽい手つき……美しい下乳……。その魅力たるや(以下1500万字ほど略)……いっそ、そう、踏まれたいほどでございます。……ええ、本望ですとも」
どこまでも爽やかに、かつ穏やかに、ジェントルな笑顔でおっぱいの魅力について語るヘルマン。
なるほど、たしかに彼女の胸は素晴らしい。同意しよう。
「私は心の底から、タリーウ嬢と、タリーウ嬢の下乳に惚れております。あの胸に顔をうずめることができたなら、もう……」
紳士的な口調で欲望を暴露しまくるヘルマン。なんと折り目正しい変態か。
そんな変態紳士のおでこを、チアキの『にくきゅー☆ぱんち』がペシッ。
ヘルマンは、おっぱいへの愛を語りつづけながらリングに沈んだ。
「おもしろい戦いねぇ……。さぁいくわよ」
架空の恋人(小悪魔幼女9才)を引きつれてやってきたのは、雁久良霧依(
jb0827)
黒のマイクロビキニを着用して白衣を羽織り、チェーンつきの首輪をはめている。
右手には鞭。左手には下仁田ネギ。
ヘルマンが折り目正しい変態ならば、こちらは登場しただけで蔵倫違反になりそうな、ルール無用の世紀末変態である。
「愛しい貴女とともに戦場に立てるなんて、うれしくて頭が沸騰しちゃいそう……」
陶然とした口調で言いながら、バッと白衣の襟を開く霧依。
その首筋や鎖骨のあたりには、呪われたような赤い痕が無数に。
「私はこの印なしでは外に出してもらえないのよ……♪ 傍若無人で、残酷で、独占欲が強く、それでいて寂しがり屋さん……。あなたになら何をされてもいい……。全身全霊を捧げて愛し抜くわ♪」
『THE変態』としか言いようのないのろけをかましつつ、鞭を振るう霧依。
MS個人としては応援したい趣味なのだが、あいにく1対2では無理すぎた。
そんなわけでチアキの『しっぽ☆ふるすいんぐ』が炸裂し、霧依はネギをかかえて倒れた。
「あーっと。猫LOVEペアが四連勝! 猫への愛は、人類への愛を凌駕するのか!? あと、オチは? オチは?」
ラテンが大声を張り上げた。
しかし、そのとき。戦場に月乃宮恋音(
jb1221)と袋井雅人(
jb1469)の二人が現れた。
「ここで満を持して登場したのは、学園の内外にその名を知られる恋音&雅人ペア! ふたりの純愛は、猫への愛を超えることができるのか!? 重体の身で参加した雅人の体調が唯一の不安要素だが、はたして!? それと、オチをよろしくおねがいします!」
「私は、恋音の暖かくて柔らかな性格も、微笑みも、大きな胸も……すべてを愛しています! 恋音が夜空を優しく照らす穏やかな月ならば、私は命を燃やして熱く眩しい太陽になりましょう! そして、やがて生まれてくる私たちの子供のため、このキスに全力を尽くします!」
いきなりキス宣言をして、そのまま敢行する雅人。
重体のくせに何やってんだとツッコミたくなるが、この直球きわまるのろけ力はかなりのものだ!
「……うぅぅ……。雅人先輩ぃ……。……だ、大好きなのですよぉ……!」
口づけを交わす二人の間から、ピンク色のオーラが立ちのぼる。
猫LOVEペアを埋めつくすのは、恐ろしいほどの砂糖!
「た、たいへん! チアキが!」
陽子が叫んだ。
撃退士にはまだ耐えられる砂糖の雨だが、ふつうの猫でしかないチアキにはとても耐えられない。このままでは砂糖漬けの猫標本になってしまう。
「チアキを巻きこむことはできない……。残念だけど、降伏するわ」
陽子は泣く泣く敗北宣言。ひとりでは勝負になるはずもないので、月子もあきらめた。
結局、チアキをつれてきたことは正解でもあり失敗でもあったが、戦いを勝ち抜いた二人と一匹の間には友情が生まれた──かもしれない。
さて、圧倒的な砂糖ブリザードによって勝負を決めた、恋音&雅人ペア。
残る挑戦者は、桜井・L・瑞穂(
ja0027)とリネット・マリオン(
ja0184)の二人だけだ。
今回唯一の百合ップルとなった、この二人。贔屓しなくても堂々の実力を誇るカップルだ!
先手を切ってのろけだすのは、瑞穂。
「リネットとの出会いは、もう何年も前のクリスマスになりますわね。路地裏にうずくまっていたところを、わたくしの屋敷に連れて帰りましたのよ。前々から探していた、わたくし専属の従者。それは彼女しかいないと直感しましたの。理由なんてありませんわ。わたくしの直感が、そう告げたのだから。……それ以来、ずっと共に歩んできましたわ。同じ撃退士の才能があったのは僥倖でしたわね。これからも、わたくしが目指す遥か高みまで、ついて来てもらいますわ。いつか天命をまっとうしたとしても。このさき未来永劫、わたくしの可愛い従者でいてもらいますわよ」
「ぐ……っ!」
砂糖に襲われて膝をつく雅人。
やはり重体の身では無理があったか?
とどめを刺さんと、つづけてリネットがのろける。
「お嬢様は、いかなるときも気高く、美しく、自信に満ちあふれ、堂々としておられる方……。一方で優しさや労りも忘れることなく、従者である私の身も常に慮って下さります。毎晩毎晩私を閨にお招き下さり、優しくも激しく……♪ もちろん私も、お嬢様により満足していただくべく、些少ながらに手管を尽くし……その際に見せて下さる快感の表情が、ああ、この上なく美しく、愛らしく……。すべて私のものとしてしまいたいほど……!」
「うわぁぁ……っ!」
砂糖の波に呑まれる雅人。
そこへ、恋音が立ちはだかった。
「うぅ……。先輩は、私が守るのですよぉぉ……! 愛しています……雅人先輩ぃ……!」
重体のハンデを逆に利用して、のろけパワーを発揮する恋音。
「ありがとう、恋音。こうなれば、僕たちの本気を見せつけてやりましょう!」
雅人は背後から恋音を抱きしめると、大きな胸に手をのばし──
「……あぁっ? 先輩ぃぃ……!?」
ビクンと体を震わせる恋音。
しかし抵抗しようとはしない。
「ふふ……。その程度で『見せつけてやる』とは、片腹痛いですわ。わたくしたちの夜の営みを見て、負けてしまいなさい」
瑞穂もリネットを後ろから抱きしめ、一抹の躊躇もなく服の中へ手を入れた。
そのままエスカレートする、二組のカップルたち。
しまいにはこの場で子作りが始まるのではないかと思われた、そのとき。
「ぐは……っ!?」
恋音の胸を揉みながら、雅人が血を吐いた。
重体のくせして子作りしようとか、無茶するからだ!
「せ、先輩……!? 雅人先輩ぃぃぃ……!」
恋音の呼びかけも虚しく、彼は二度と立ち上がれなかった。
「さて……あなたはのろけないんですの?」
瑞穂がファラに問いかけた。
彼女は最初から撮影係に徹しているが、参加者である以上のろける権利はある。
「え?あたしの好きな相手って、ゲイルたんに決まってるじゃないですか、やだー! だって触手壷とか、男も女もまるっと全部おいしくいただいちゃうとか、そばにいるだけでウッハウハじゃない! きっと毎日たのしーわ!」
ああ。ここにもまた、敵NPCへの愛を語る者が一人。その相手はヤバイぞ。
というか、かなりの変態COである。
そして変態値においても遜色のない瑞穂&リネットが、2対1の状況で負けるはずもなく──
「勝負ありっ! 第一回おのろけ大会、優勝ペアは、桜井・L・瑞穂&リネット・マリオンペア! では、僭越ながら私ラテンが優勝メンバーにインタビューを……」
そう言って放送席を駆けだそうとしたラテンだったが、そのとき机の脚に小指をぶつけて引っ繰りかえった。
「ぬぁあああ!?」
「なにをやってるんですか……。もう回復スキルは残ってませんよ……?」
あきれたようにファリスが見下ろした。
そういうわけで病院送りになったラテンは、自分自身がオチになったことで満足げだったという。