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マスター:牛男爵
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
形態:
参加人数:25人
サポート:4人
リプレイ完成日時:2013/07/22


みんなの思い出



オープニング


「パン祭りも終わって、最近ヒマねぇ……」
 放課後のラウンジで、コロッケ忍軍・矢吹亜矢は退屈そうにスマホをいじっていた。
 その前をすたすた歩いていくのは、地獄のメタラー・チョッパー卍。
「なによ、あんた。あたしに挨拶もしないで、どこ行くつもり?」
「なんで俺がおまえに挨拶しなけりゃならないんだ。どこに行くか、見ればわかるだろうが」
 チョッパー卍は釣り竿を肩に担ぎ、クーラーボックスをかかえていた。
「ずいぶん変わった装備で天魔退治に行くのね」
「くだらんボケに付き合ってるほどヒマじゃないんだ。じゃあな」
 言い捨てて、チョッパー卍は歩きだそうとした。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! あたしも行くから!」
「あァ!? なんでだよ。だいいち釣り竿なんか持ってねぇだろ、おまえ」
「あんたのを借りるに決まってるでしょうが」
「勝手に決めてるんじゃねぇよ! だいたいおまえみたいなクソやかましい女が来たら、魚も全部逃げちまうわ!」
「だーいじょうぶだって。ちゃんと静かにしてるから」
「おまえの『だいじょうぶ』ほど不安なものはねぇよ……」
 こうして、チョッパー卍はしぶしぶ亜矢をつれて海へ向かうのだった。



 一時間後、クーラーボックスは獲物でギッシリになっていた。
 ただ、問題がひとつ。
「なんで、おまえばっかり釣ってんだよ……」
 チョッパー卍がボヤいた。
 なんと、彼が釣ったのはハゼ1匹。
 それに対して亜矢は、ハゼ10匹、シロギス8匹、メゴチ1匹。
 投げれば即ヒットの、超入れ食い状態である。
「あはははは。釣りって初めてやったけど、結構おもしろいじゃん」
「ビギナーズラックにもほどがあるっつーか、『水上歩行』は卑怯だぞ……。いいポイント取り放題じゃねぇか……」
「あーあー。負け惜しみ言っちゃって。あんた、何年釣りやってるんだっけ?」
「十年以上だ……」
「それで、このありさまなの? 才能ないんじゃない?」
「ぐぬぬ……」
 わかりやすく悔しがるチョッパー卍。
 一応彼の名誉のために言っておくと、釣りというスポーツは運の要素が非常に大きい。何十年もやってるベテランだって、今日はじめたばかりの素人に負けることさえあるのだ。
「まぁ、そろそろ日も暮れてきたし。今日はあたしの勝ちってことで、そろそろ帰ろうか」
「たしかに、今日は俺の負けだ。……が、次は勝つぞ!」
「へぇ。いつでも受けて立つけど、あんた弱すぎるから他の人も呼んでおいて」
「ぐぬぬぬぬ……!」
 そのような次第で、釣り大会が開かれることになったのであった。



リプレイ本文

 その日は、みごとな青空だった。
 日本全国で熱中症のニュースが相次ぐような天候だが、撃退士にとっては屁でもない。
 まさに絶好の釣り日和。
 そして何組かのカップルにとっては、絶好のイチャラブ日和だった!



【砂浜】

「じゃ、のんびりやるかー」
 お気楽な調子で浜にやってきたのは、麻生遊夜(ja1838)
 最近いそがしかったため、ひさびさの釣行である。
「ん。のんびり、ね……」
 遊夜のまわりをウロチョロしているのは、来崎麻夜(jb0905)
 この炎天下で黒ずくめの衣装だが、暑くないのだろうか。
「ふむ。ここならキスを中心にハゼも狙えそうであるな」
 釣りの経験は豊富な遊夜。手にしているのは自前のカーボン竿である。
 仕掛けは、引き釣り用の三本針。そこにエサのゴカイをつけていく。
「うわ〜。ちょっとかわいそう」
 ふつうの女子なら『気持ち悪い』と言うところだが、麻夜は平気だ。
 しかし、エサをつけるのも仕掛けを整えるのも遊夜まかせ。
「よし、できたのぜ。……んじゃ、手本を見せてやるとするかね」
 初心者の麻夜に教える手前、難しい投法は見せずオーバースローで投げる遊夜。
 かるく投げただけなのに、飛距離は200mを超えている。さすが撃退士。一般人なら、プロでも150mがせいぜいだ。
「うわあ、ずいぶん飛んだね。ボクもあれぐらい飛ばせるかなぁ」
「まぁためしにやってみ? いいか? 左手はここ。右手はここで……」
 文字どおり、手取り足取り教えてもらう麻夜。
 表には出さないが、内心大喜びである。
「よし、とりあえず投げてみるのぜ」
「いくよ? えーと、左脚を前に出して、竿を振りかぶり……面打ちの要領で、一気に……振り下ろす!」
 バスッ!
 オモリが砂浜に突き刺さり、ゴカイは即死した。
 麻夜は『ゴカイスレイヤー』の称号をゲット!(嘘です)
「あー、まぁ何度かやれば慣れるわな」
 ぽんぽんと麻夜の頭を撫でる遊夜。
 麻夜は満面の笑顔で、次も失敗しようと考えるのだった。



 さて、そんなリア充カップルっぽい二人だが、その近くには真性リア充カップルの月乃宮恋音(jb1221)と袋井雅人(jb1469)がいた。
 雅人は釣りの経験があり、竿も持っている。
 一方、恋音は釣りの経験ほとんどなし。
 ということは、どうなるかわかるな?
 そうだ! 遊夜&麻夜ペアと同じく、手取り足取りレッスンだ! リア充爆発しろ!
「いいですか? 僕たちは撃退士ですから、そんなに力を入れなくても遠くへ飛ばせます。もっとリラックスして、ふわっという感じで投げてみてください」
 などと言いながら、恋音の腕や肩に触れる雅人。
「……な、慣れないことをすると……緊張するのですよぉ……」
「だれでも最初はそういうものです。なに、すぐ慣れますよ。さぁ、もう一回やってみましょう」
「は、はいぃ……。えとぉ……竿の持ちかたは、これで正しいでしょうか……?」
「もっと力を抜いてください。剣道と同じです。右手は添えるだけで」
「はいぃ……」
「では、ふりかぶって」
「こ、こんな感じでしょうかぁ……?」
 剣道で言う上段に構えて、姿勢をととのえる恋音。
 それを見て、「もうすこし後ろです」と雅人が言う。
「えぇとぉ……これぐらい……でしょうかぁ……」
 ぐっ、と胸を張って大上段に竿を構える恋音。
 ふだん隠しているバストが、隠しようもなく青空の下に映える。
「いいですね。オモリのブレが止まったら、投げてください」
「は、はい。……と、止まりましたね。……では、いきますよぉ……?」
「ええ。海ではなく、空に向かって投げるイメージで」
「空に……ですか……。それぇ……っ!」
 ビシュッという音を立てて、オモリが45度の角度で飛んでいった。
 みごとなキャスティングだ。青空に突き刺さるような一投。
「おお……。さすが。飲み込みの早さは抜群ですね」
「いいえぇ……。袋井さんの教えかたが上手なんですよぉ……」
「そんな、ご謙遜を」
 ははは、ふふふ、と笑いあう二人。
 爆発しろ!



 そのころ、雪室チルル(ja0220)は一人で仕掛けを作っていた。
 釣りの経験など一度もないにも関わらず、付け焼き刃の知識で大物狙いの仕掛けを作成。天下の名刀・冷刀マグロを疑似餌として、そこに釣り針を仕込むという荒技だ。こんな疑似餌は世界のどこにもないが、釣りの世界は何が起こるかわからない。こんな現代アートみたいなルアーでも、釣れてしまうかもしれないのだ。結構マジで。
「さぁ行くわよ! とりゃぁああ!」
 ド素人にも関わらず、投げた仕掛けは100mほど沖へ。
 あとは疑似餌がうまく行くかだが──
 どうやらチルルは完全に素人らしく、投げたあとルアーを引くこともせず、ただ放置していた。
 数分後にマグロを引き上げたところ、やはり獲物はナシ。
 当たり前の結果にブチ切れたチルルは、いきなり封砲を発射!
「過程や方法など……どうでもいいのだー!」
 ドバババババ!
 波しぶきとともに、海が割れた。
 はた迷惑にもほどがある。すぐ隣ではカップルが釣りをたのしんでいるというのに!
 そして、こんな手段をもってしても一匹の魚さえ獲れなかったチルルちゃん13才。
「なんなのよ! この海、魚いないんじゃないの!?」
 いますよ。ちゃんと。



 さて、最上憐(jb1522)は水着に足ヒレ、シュノーケルを装着して、銛を手に登場。
 はなから釣りをする気はない。獲物は自らの手でつかみとるのが、憐の流儀だ。釣りなどという面倒な手段は放棄!
「なんだか、海女さんみたい」
 そばで見ていたユリア(jb2624)が話しかけた。
「……ん。直接。しとめてくる。マグロとか。クジラとか。サメとか。シャチとか。ネッシーとかを」
 いつものように無茶なことを言いだす憐。
 こんなところにクジラやシャチがいたら恐ろしすぎる。あと、海にネッシーはいない。多分。
「がんばって。たくさん獲ってきてね」
 憐の言葉をいっさい否定しないユリア。
 彼女も、マグロやクジラが獲れると思っているのだろうか。
「あ、そうだ。おなかへってない? カレーパンあげるよ」
「……ん。もらう。暑くて。のどが。渇いた。カレーパンは。飲み物。のどを。潤す」
 たてつづけにカレーパンを五つほど飲みこんだあと、憐は「……ん。行ってくる」と言い残して海へ出撃。
「大丈夫かなぁ……。まぁカレーパン食べたし大丈夫だよね。きっと大漁」
 たしかに、ユリアの言うとおりだった。
 カレーパンは万能アイテムだからな!



「魚! 釣らずにはいられないのだ! がんばるのだー!」
 やる気満々で飛び出してきたのはレナ(ja5022)
 釣りのことなど何ひとつ知らないので、友達から借りてきたのはヘラブナ用の竿。そこに無理やりリールを取りつけ、無理やり糸を通して、無理やり仕掛けを作っている。見かけは形になっているが、肝心の針が付いてない。
「よくわからないけど、たぶんこれでいいのだ! さー、ガンガン釣るのだぞー!」
 リア充カップルたちのマネをして、思いっきりオーバースローで遠投するレナ。
 しかしヘラブナ竿では、仕掛けを投げられない。
 ドボンと目の前に落ちたオモリを見て、まぁ水の中に入ってるからいいだろうと判断するレナ。
 そのままジッと魚が来るのを待つが、当然釣れるわけがない。
「釣れないのだー。でも、なんか楽しいのだ!」
 ひとりではしゃぎまくるレナ。
 そして彼女は名案を思いついた。
「そうだ! もっと沖のほうに行けば釣れるかもなのだ!」
 さっそく『水上歩行』を使い、竿をかついで海の上を走りだすレナ。
 そのまま、どんどん沖のほうへ突き進んで行く。
「おーい! それ以上行くと戻れなくなりますよー!」
 砂浜から雅人が声をかけるが、レナの耳には入ってない。聞こえているはずだが、自分のことだとわかってないのだ。
 やがて水上歩行が切れたレナは、海中へドボン!
「にゅわー! ぎゃー! やばいのだ! やばいのだ!」
 そのままレナは黒潮に乗って流され、数日後サンフランシスコで発見された──かもしれない。



 そんな騒ぎを眺めながら、龍崎海(ja0565)は緊急時の救護隊として備えつつ、のんびり潮干狩りをたのしんでいた。バケツには、アサリやハマグリがドッサリ。
「こいつぁ、えらい大漁だやな」
 やってきたのは遊夜。
 無論、麻夜も隣にいる。
「ああ、生命探知を使えば居場所がわかるからね」
「ははあ。そりゃ名案なのぜ」
「正直、数が多すぎて一人では獲りきれない。手伝ってくれないか?」
「よしきた。何人か呼んでこよう」
 そうして遊夜は、砂浜で遊んでいる連中を集めてきた。
 海が生命探知で辺り一帯の貝を探し、指示を出す。
「うわぁ、すっごい沢山いる!」
 ユリアが驚きの声を上げた。
「しかも……大きいのばかりなのですよぉ……」
 恋音も目を丸くしている。
「五センチ以上のものにしか反応しないからな。こういうときには便利だ」
 海が言うと、皆一様に「なるほど」とうなずいた。
「よーし、掘って掘って掘りまくっちゃうわよー!」
 一匹も釣れなかったチルルも、これなら確実に獲物ゲットだ! よかったね、チルルちゃん!
「マテガイはスコップで穴掘って〜、穴から潮が吹いてたら塩をひとつまみ〜、飛び出てきたら引っこ抜け〜」
 歌うように言いながら、麻夜は次々とマテガイをゲットしていた。この手法を知っているとは、なかなかだ。
 そんなこんなで、約一名の行方不明者を出しながらも、砂浜組は楽しいひとときを過ごしたのであった。




【堤防】

 このエリアもまた、リア充カップルの登場で始まる。
 天ヶ瀬焔(ja0449)&天ヶ瀬紗雪(ja7147)ペアだ。いや、ペアというか夫婦である。
 釣りの経験をそこそこ積んでいる焔は、紗雪の分まで仕掛けを作ってやり、エサをつけてやり、ふたり並んで仲良く──って、もう見飽きたよ、こういう光景! このリア充どもめ!
 しかも、焔は早速クロダイをゲット。40cm級の良形だ。
「さすがですね……」と、紗雪が甘い瞳を向ける。
「よし、早速さばいて味見だな」
 そう言って、持参した包丁とまな板を取り出す焔。
 当然、醤油やワサビも準備済み。食事のしたくは万全だ! が──
「しまった! 箸を忘れた!」
 痛恨のミス!
 だが、しかし!
「大丈夫。ここにありますよ」
 紗雪がみごとにフォロー!
 さすが夫婦! 呼吸はピッタリだ!
「おお、ありがたい」
「ふふ……。それだけではありませんよ。ほら、お酒まで」
「一体どこから……?」
「打ち上げに用意されていたものを、ちょっと拝借して……」
「そ、そうか。でかした」
「日本酒抜きのお刺身なんて、耐えられませんもの」
 くすっと笑う紗雪。
 そして焔のみごとな包丁さばきが披露され、クロダイはたちまち三枚下ろしに。
「さぁ、味を見てくれ」
「では、お先に」
 新鮮そのもののプリプリな刺身を口に入れた途端、紗雪の笑顔がこぼれた。
 さらに、グラスの猪口に注いだ酒をキュッと一口。
「ふぅ……。たまりませんわぁ……」
 極上の笑顔を見せながら、紗雪は次の刺身を箸でつまんだ。
 それを焔の前へ持っていき、「はい、あーんしてください」などと言いだす。
 もう、好きなだけイチャイチャしてくれ!
 非モテMSは場面を変える!



 ──そんなリア充たちをよそに、日下部司(jb5638)はモヒカンカツラをかぶり、学ランを羽織って登場。
 どう見ても釣りに行く格好ではないが、これは変装なのだ。先日の依頼で重体になってしまった司は、他の人に心配させまいとして、このような変装を……って、どう見てもバレバレですよ! しかも、すっげぇ暑そうなんですけど! この炎天下に真っ黒な学ランは地獄だろ!
「ふ……。今日は涼しいな」
 汗をだらだら流しながら、だれにともなく呟く司。ハードボイルドにもほどがある。
 そこへ、逸宮焔寿(ja2900)が話しかけた。
「すごいのです! この温度の中で『涼しい』なんて! よほど鍛えてるのですね!」
「な……、なに? 見世物じゃないぞコラ! さっさと釣りを楽しめよコラ!」
「釣りは初めてなのです。おしえてプリーズですよ〜」
「ち……っ。しかたねぇな。ちょっとだけ教えてやる! いいか? 本当はこんなことしてるヒマはないんだぞ。わかってんのかコラ!」
 口ではそんなことを言いつつも、ていねいに焔寿の仕掛けを作ってあげる司。
 焔寿は無邪気に大喜びだ。
「わかってますよ〜。とても親切な不良さんですね〜」
「ばっ、馬鹿野郎! これは親切なんかじゃねぇ! その、あれだ。バーベキュー用の食材を確保したいだけだ! わかったなコラ!」
「は〜い。では一緒に釣るのですよ〜」
「一緒にだと!? 俺は不良なんだぞ! わかってて誘ってんのかコラ!」
「不良さんも、お友達なのですよ〜」
「く……っ」
 焔寿の無邪気攻撃に、司はたじたじだ。
「あっ、ちょうどよかった。あの子も誘って一緒に釣るのですよ〜」
 そう言って、焔寿は織宮歌乃(jb5789)のところへ走っていった。
「一緒に、ですか……? それは構いませんが、私はのんびりするつもりで来たので、あまり真剣には釣りませんよ……?」
「なんでもいいよ〜。大勢のほうが楽しいし〜。もうついでだから、堤防の人たちみんな一緒に釣ろうよ。次は、あの人たち〜」
 天ヶ瀬夫妻のほうへ走りだそうとする焔寿を、司が止めた。
「あの人たちは夫婦水入らずで楽しんでるから、ほっといてやれ。な?」
「そうなのですか〜。残念なのです〜」
「まぁ俺が一緒に遊んでやるから。な?」
 知らず知らずのうちに口調がいつもどおりになってしまう司。だれとでも仲良くしたい彼と焔寿は、相性抜群なのだ。不良のマネなど続けられるはずがない。
「では、仲良く釣りをたのしむのですよ〜」
 焔寿が天使のように笑い、つられて二人も笑うのだった。



「釣りのやりかたは知ってるのですっ! 大きいのは深い所にいるのですワっ!」
 翼を広げて舞い上がるのは、ミリオール=アステローザ(jb2746)
 彼女は迷いなく沖へ飛んでいくと、『明鏡止水』を発動して糸を垂らした。
 たしかに『潜行』で気配を断つのは良い手だ。
 が、『覚醒』は余計だった。ただでさえ彼女の翼は目立つのに、そのうえ無駄に放出されるアウル。水面下の魚たちは、あわてて逃げてゆく。
 それに気付かないミリオールは、ただジッと待つ。
 アタリが来るまで、ひたすらに、じっと。
 じっと──
 ドボーン!
 翼の効果時間が切れた瞬間、ミリオールは水没していた。
「あわわわわ……! 流れが早い! 早いのですワァァァッ!」
 そうして黒潮に流された彼女は三日後サンフランシスコで──とはならず、ちゃんと戻ってきた。
 ただし、どこに戻ってきたかはわからない。



「どうせ狙うなら大物ですね。マグロとかソデイカとかサメとか」
 トローリング用の巨大な竿を手に登場したのは、楯清十郎(ja2990)
 彼はおもむろに双剣を取り出すと、コストが上限突破するのも構わず装備!
「ぐはっ!」
 盛大に血を吐く清十郎。
 なにをやってるのかと思うが、これは彼なりの意思表明なのだ。
「釣りは魚との真剣勝負。ならば、こちらも命を賭けて挑まなければ……」
 心構えは立派だが、流れ出した血液で海面は真っ赤だ。釣りどころではないような気がする。
 そして清十郎は、流れ出る血にタウントを使用。
 血の匂いに誘われてやってきたのは、印象的な三角形の背びれを持つ魚。
 サメだ。
 しかも、体長7mの巨大ホオジロザメ!
 さぁ皆さん、あのBGMを脳内再生してください。
 わかりますね? あの、馬鹿でかいサメが人を食い殺しまくる映画の曲です。
「海の王者サメ。相手にとって不足なしです!」
 清十郎は『フェンシング』を発動して、釣り針を直接サメの顎にブチこんだ。
 そして、『火事場の馬鹿力』で一気に勝負をかける!
 海面に顔を出して、暴れまくる巨大鮫!
 糸が張りつめ、竿が大きく曲がる。
 清十郎は堤防から落ちないよう歯を食いしばって耐え、一本釣りを狙う。
 撃退士vs巨大鮫の死闘だ!
「うわぁ、すごいのです。がんばれ〜ですよ!」
 豪快なバトルを目にして、焔寿が駆け寄ってきた。
 司と歌乃もやってきて、天ヶ瀬夫妻も観戦席へ。
「これだけデカいと、さばき甲斐がありそうだな……」
 あっけにとられたように呟く焔。
「釣り上げたら、調理はおまかせします! ……行くぞ! 勝負ッ!」
 清十郎が渾身の力で竿を引き上げた、次の瞬間。
 グバッと海面から跳ね上がったサメは、堤防を飛び越えるように大ジャンプ! パクッと清十郎をくわえ、そのまま海中へ去っていった。
「あの人、消えちゃったのです! 手品ですか!?」
 焔寿が言い、ほかの撃退士たちはゆっくりと首を横に振るのだった。




【テトラポッド地帯】

「カンブリア紀の記憶が蘇る……」
 海を目にして、太古の記憶が蘇っちゃったりした歌音テンペスト(jb5186)は、一秒で今日の目的を忘れていた。
 一見15才の少女に見える歌音だが、じつはカンブリア紀の時代から生きている推定五億才以上の超生命体。いまは陸地で二足歩行しているが、かつては海に棲息していたのだ。そう、母なる海こそ彼女の生まれ故郷。いまこそ海へ還るときなのだ。
 なお、地の文で言い切ってしまうとマズイのでことわっておくが、これらは全て歌音の妄想である。
「魚……。あたしは魚……。そう、一匹の魚類!」
 バッと服を脱ぎ捨てるや、スクール水着で海に突入する歌音。
 だが、ちょっと惜しい。真に魚類をめざすなら、全裸で飛びこむべきだった。水着を着た魚などいないからな!
 とはいえ、海に入った歌音はまさに水を得た魚。
 海面を跳びはねたり、小魚を食べたり、ゴカイを食べたりと、魚類そのものだ。
 しかし、そんな彼女を背後から襲うのは、清十郎が釣り逃がした巨大鮫!
「ぶげっ!? ごぼっ!?」
 大慌てで逃げだす歌音。
 それはいいけど、バタフライで泳ぐ魚はいないと思うぞ。



 五億才の超生命体がサメと鬼ごっこしているころ、アダム(jb2614)は金魚鉢をかかえてウロウロしていた。
 その手をにぎっているのは、クリフ・ロジャーズ(jb2560)
「クリフー、フグいないかなー」
「どうかなー。見つかるといいねー」
「つかまえたら、ふぐじろうって名前にするんだ!」
「いい名前だねー」
 笑顔で答えながら、『じろう』ってことは『たろう』もいたのかな、と思うクリフ。
 足場の悪いテトラポッドの上をよちよち歩きながら、アダムはフグのいそうな場所をさがしている。無論、どこにいるかなどわかるはずもない。すべて勘まかせだ。
「クリフー。おさかないたか? いたか?」
 ぴとっ、とクリフの足に抱きつくアダムにゃん。
 なんなの、このかわいい生きもの。
「うーん。わからないから、ためしにこの辺で釣ってみようかー」
「釣れるといいなー」
 なにが釣れるかわからないので、クリフはエビをエサにして落とし込みで。アダムはサビキで挑戦。
 ふたりとも、すぐにフィッシュオン!
 釣り上げてみると、どちらもクサフグ。(実際よく釣れます)
 みるみるうちに、ぷくーっと膨らんでいくフグ二匹。
「やった! クリフ! いきなりフグだぞ!」
「アダムの願いが通じたのかもね」
「よーし、二匹だから、ふぐじろうとふぐざぶろうだ!」
「そ、そうなるのかー」
 本気で『ふぐたろう』の行方が気になるクリフであった。



「……ってか、暑いわ。気温何度だよ。俺を殺す気か……?」
 頑固なアホ毛を潮風に揺らせて、久瀬悠人(jb0684)は団扇をあおいでいた。
 ここまでに何匹か獲物はゲットしているものの、数もサイズもいまひとつ。
「まぁいくら暑くても死にはしない。エサつけて放りこんで待ってるだけの、ラクな仕事だ」
 悠人の独り言に応じたのは、桝本侑吾(ja8758)
 性格的に釣りは向いてそうだが、あまりやる気はない。目的は、夜の飲み会である。
「いや、俺はもう耐えられません。要は魚を集めればいいんでしょう……?」
 ゆらりと立ち上がった悠人は、いきなりストレイシオンを召喚。
「行け、エルダー! この暑さを理解してくれるなら、力を貸せ!」
 悠人の命令に従って、沖へ泳いでいくストレイシオン。
「なるほど。追い込み漁か……」
 すべてを察して、腰を上げる侑吾。
 光纏した彼の手には、大剣が握られている。
 やがて沖のほうからストレイシオンが戻ってくると、何匹もの魚が海面をジャンプしながら逃げこんできた。
 そこへ放たれる、ウェポンバァッシュ!
 ドバァァァン!
 水柱が上がり、ふたりの頭上に海水の雨が降りかかった。
 見れば、海面には無数の魚が浮かんでいる。
「さすが、桝本さんのウェポンバッシュ。天魔によし、魚類によし、ですよ」
「カレーパンには負けるけどな……」
 ふっ、と自嘲しつつ、さりげなく用意していた網で獲物を回収する侑吾。
 悠人も網で魚をすくいまくるが、ひとつ問題があった。
「どれもこれも、原形をとどめてませんね……」
「食べてしまえば同じだ。さぁ、もう一度やろう」
「じゃあ今度は違う方向へ……。行け、エルダー」
 悠人の指示どおりに動くストレイシオン。
 そして再び魚を追い込みながら戻ってくる。
「よし、狙いどおりだな」
 侑吾は剣を振りかぶり、渾身のウェポンバッシュを──
「あ、桝本さんだ」
「ほんとだ! ますもとー!」
 向かい側のテトラポッドに、クリフとアダムがいた。
 このままウェポンをバッシュるとマズい。
 が、発動してしまったスキルは止められない!
 ドバァァァンン!
 海が割れ、テトラポッドが吹き飛び、クリフとアダムは「あーーー!」と声をそろえながら金魚鉢をかかえて空へ舞い上がった。
「なにか、巻きこんではいけないものを巻きこみましたね……」
 わりと冷静な口調で、悠人が指摘した。
「釣りの世界も非情だ……」
「釣りの世界ってか、桝本さんが非情……」
 海面にぷかぷか浮かぶクリフとアダムを見つめながら、ふたりはそんな会話を交わすのだった。



「釣りとか、したことないんですけどね……。一匹くらい釣れるでしょうか」
 そう言いながらテトラポッドの群れを見下ろすのは、イアン・J・アルビス(ja0084)
「なんだ、おまえ。釣りの経験もねぇのに、こんなところ来たのかよ」
 後ろから声をかけたのは、チョッパー卍だ。
 横には矢吹亜矢もいる。
「なんとなく選んだだけなんですが……まずかったですかね?」
「いや、なにもマズくないぜ。ついてこい。今日一日で、おまえを釣り名人にしてやる」
「すごいことを言いますね」
「ああ、ダメダメ。こいつヘタクソだから。あたしが教えてあげるよ」
 真正面からケンカを売る亜矢。
 チョッパーの眉がひきつる。
「あァ? だれがヘタクソだって?」
「このまえ惨敗したじゃん。なんか言いわけしてたけど、結果がすべてだよね?」
「ざけんな! このまえのは単なるビギナーズラック! 今日は負けねぇぞ!」
「まったく、弱い犬ほどよく吠えるって言うよね」
「てめぇぇ……!」
 ギリギリと歯を噛みしめるチョッパー。
 そこへ、イアンが割って入った。
「まぁまぁ、ふたりとも冷静になってください。釣りというのは、そんなふうに争うものではないと思いますよ?」
「釣りは戦争だ!」
「釣りなんかどうでもいいけど、こいつがムカつくのよ!」
 和解する気ゼロのチョッパーと亜矢。
 風紀委員のイアンは、なんとかしてこの二人を取り締まれないかと悩むのであった。



「えーっと。これにエサをつけるんだよね?」
 テトラポッド地帯のすみっこで、レグルス・グラウシード(ja8064)は見慣れない仕掛けを前に悪戦苦闘していた。
 そこへ姿を見せたのはAKIYA(jb0593)
「よぉ。なにやら知ってる背中を見かけたから、来てみたぜ?」
「あ、こんにちは、AKIYAさん。釣りって、やったことありますか? 僕、はじめてなんです!」
「お? まあ基本ぐれーはな」
 答えながら、仕掛けを作り、タコツボまで沈めるAKIYA。
「さすがですね! 教えてください!」
「待て、レグルス。俺が教えてやる」
 タイミングよくやってきたのは、チョッパー卍。
 後ろには、イアンと亜矢もいる。
「わぁ! いいところに! ぜひおねがいします!」
「やめたほうがいいよ。こいつ、ドヘタクソだから」
 ふたたびケンカを売る亜矢。
「てめぇぇ! 一回勝ったぐらいで……!」
「待ってください。僕はチョッパーさんに教えてほしいんです」
 激昂するチョッパーをなだめるように、レグルスが前に出た。
「おお。いくらでも教えてやるぜ。ついてきな!」
 ダッと走りだすチョッパー。
「はいっ」と言いながら、レグルスはついていった。


「なんなの、あいつら。ホモ?」
 亜矢は肩をすくめた。
 そして、AKIYAに向かって言う。
「まぁいいや。こっちは女同士仲良くやろうか?」
「あー。悪ぃけど、僕は男でね。それと、チョッパーには多少の縁がある。僕も、あっちへ行かせてもらうぜ?」
「ぬぁ……っ!? 男なの、あなた! オカマ!?」
「失礼だな。女形に向かって『オカマ』とか言わないだろ? 僕のはパフォーマンスさ」
「女にしか見えない……」
「そうかい。まぁ僕はあっちへ行く。じゃあな」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! あたしも行くから! ほら、あんたもついてきて!」
 イアンの腕をつかんで走りだす亜矢。
「ちょ……。こんな足場の悪いところを走ったら危険ですよ……!」
 そう言いながらも、ひょいひょいとテトラポッドの上を渡っていくイアン。
 さっきから振りまわされっぱなしである。


 そんなわけで、とりあえず五人は横に並んで釣りはじめた。
 最初にヒットしたのはイアン。20cmほどのメゴチだ。
「これがビギナーズラックというやつですかね」
「おお、なかなかやるじゃねぇか。こいつはキスよりうまいぜ」と、チョッパー。
「それはたのしみですね。せっかくの記念なので、自分の手で調理することにしましょう」
「お、料理できるのか、おまえ。そいつぁたのもしい」
 などと言ってる間に、次はレグルスがフィッシュオン!
「なんだか、カニが釣れちゃいました。でも、はじめて釣ったのがカニって……」
「いや、上出来だぜ。イシガニもうまいからな。よし、こいつは鍋だな」
 針をはずしてやりながら、チョッパーが言った。
 次に亜矢がアナゴをゲットし、AKIYAもシロギスを捕獲。
 その後も順調に釣れるが、なぜかチョッパーだけ一匹も釣れない。
「ほんとにヘタクソねぇ、あんた」
 からかうというより、あきれたように言う亜矢。
「ぐぬぬぬぬ……! こうなりゃ手段は選ばん! Sonic Firestrom!」
 チョッパーの手から巨大な火の玉が飛び出し、海面で炸裂した。
 次々と浮かんでくる魚の死体。
「あ、それがアリなら僕も!」
 つづけて、レグルスがコメットを海にぶちこんだ。
 浮かんできた魚は、どれもこれもズタボロである。
「……なぁ、チョッパー。これで勝って嬉しいか……?」
 海面を見つめながら問いかけるAKIYA。
「ははははは! どんな手段を使おうが、最終的に勝てば良かろうなのだぁぁぁ!」
「そういうことするなら、あたしだって!」
 亜矢の火遁が海に叩きこまれた。
 そして大量の魚とともに、ぷかりと浮かんでくるミリオール。どうやら、ここまで流されてきたようだ。
「これは……かなりの大物ね……」
「殺人罪だな。自首しろ、亜矢」
 そう言ったとたん、チョッパーの竿に大きなアタリが。
「よっしゃ! こっちは本物のビッグワンだぜ!」
 一気に引き抜いた糸の先には、ピチピチはねる歌音の姿が!
 存在しないはずのエラまでパクパクさせて、必死の魚類アピールをする歌音。
「……こいつは文字どおりの外道だな。リリースしてやろう」
 プツンと糸を切るチョッパー卍。
 ドボンと海に落ちた歌音は、ふたたび元気に泳ぎだすのだった。






【浜辺】

 日が暮れだして、釣り人たちは砂浜に集まってきた。
 それぞれ色々な獲物を手にしているが、最大の目玉は憐が仕留めてきた4mのカジキマグロ。
「……ん。カレーに。入れると。いい」
「うわあ。やっぱりカレーパンが効いたんだね」と、ユリアは大喜び。
「……ん。カレーパンを。食べていなければ。あぶなかった」
「しかし、これは……どう捌けばいいんだ……?」
 包丁には自信のある焔も、巨大すぎる魚を前に腕組みした。
「焔なら、どうにかできますよぉ。大丈夫大丈夫」
 にっこり笑って、紗雪が焔の背中をバシバシたたく。
 少々テンションが高いのは、すでにかなりの酒を飲んでいるせいだ。
「……あのぉ……私たちも手伝うのですよぉ……」
 恋音が雅人をつれてやってきた。
「これを一人で捌くのは骨が折れますからね。手分けして解体しましょう」
 雅人も包丁を手にしている。
「よーし、魚捌きは任せろー(ばりばり」
 勢いよくやってきたのは、麻夜。
 遊夜もついてきて、「こいつぁたまげたな」と目を丸くしている。
「六人いれば、どうにかなりそうですね。早速とりかかりましょう」
 雅人が言い、リア充カップル三組は仲良く共同作業に入るのだった。
 そのとき、カジキが大爆発! カップルたちは病院送りに……とかならないかなぁ。



「よっしゃー! 大漁にカンパーイ!」
 チョッパー卍が勝手に音頭を取り、いっせいに「かんぱーい!」と声が上がった。
 こちらは、料理など他人に任せて好き放題に飲み食いするチーム。
 すでに刺身や天ぷらが用意され、クリフと侑吾はビールを手に談笑している。
 横に座っているのは、アダムと悠人。こちらはソフトドリンクだ。アダムの手には、もちろんイチゴミルク。
「おさかなおいしいなー。フグもつかまえたし、きてよかったなー、クリフー」
「そうだねー。まぁウェポンバッシュされたのは、ちょっと痛かったけど……」
 三人の視線が侑吾に集まる。
「あれは不幸な事故だったな……。うん、事故事故」
 気にせずビールをグビグビする侑吾。
 うん、たしかに不慮の事故だ。合法合法。
「しょうがないよな。ますもとだもんな……」
 妙に納得したような顔でうなずくアダム。
「桝本さんですからね……」と、悠人。
「桝本さんだからな……」と、クリフ。
「……ん。うまいな、この天ぷら」
 侑吾は何も気に留めず、いつものマイペースぶりで酒を飲み、つまみを口に運ぶのだった。


「さ、できたぞ。俺たちの獲ったアサリだ」
 フリーダムな飲み食い班に遊夜が持ってきたのは、アサリの酒蒸し。
「うわ、おいしそう! あたいの獲ったアサリどれ?」
 ワクワク顔で遊夜の手元を覗きこむチルル。
 狂ったように潮干狩りした彼女のおかげで、アサリやハマグリの漁獲量は凄まじいことになっている。地域一帯の生態系が心配になるレベルだ。
「うーん。さすがにアサリの見分けはつかんなぁ……」
 残念ながら、遊夜もチルルの難問には答えられなかった。
「あっ、たぶんコレ! 貝殻の模様でわかる!」
「本当か……」
「あ、本当だ。ひとつひとつ模様が違うのですね〜」
 ひょいっとやってきたのは焔寿。
「でしょ! あたいの記憶力すごい!」
「すごいのです! この酒蒸しもおいしいのですよ〜」
「あたいが獲ったんだよ、あたい!」
「あ〜。焔寿も、釣りに飽きたら潮干狩り行こうとおもってたのですよ〜。でも、釣りが意外と面白くて〜」
「あたいも釣りは初めてだったけど、おもしろいよね!」
「ですね〜」
 歳も近いせいか、意気投合するチルルと焔寿。
 それを見て、遊夜も満足げだった。


「いっぱいたべてくださいねー」
 盛り上がる飲み食い班に山盛りの刺身を持ってきたのは、イアン。
「お? そこに盛ってあるのはメゴチだな。おまえの釣ったヤツか?」
 たずねたのは、チョッパー卍だ。
「ええ。思いのほか、うまく捌けました」
「もう食ったか?」
「いえ、まだ一口も」
「なんだよ。釣った本人が食わねぇでどうすんだ。とりあえず食っとけ」
「ではまぁ、いただくことにします」
「おまえが釣った魚を、おまえが捌いたんだ。遠慮せずガンガン食えよ」
「……ははぁ、なるほど。これはアッサリしてて良い味ですね」
 一切れ食べて、うんうんと納得するイアン。
「だろ? うまいんだよ、こいつは」
「ではまだ魚が残ってますので、僕は調理に戻ります」
「なんだよ。一口だけか? もっと食えって」
「いえ、僕は料理するほうが好きなので。では」
 そう言い残して立ち去るイアン。
「変わった野郎だ……」
 チョッパーは理解できないというように呟いたが、実際のところ食べるより料理するほうが好きな参加者も少なくないのだ。



 さて、こちらは調理班。
 切れ味抜群のメスでアオリイカをさばくのは、龍崎海。
 その鮮やかな手並みは、かなりのものだ。
「うわあ、よく切れるナイフだねー」
 となりでカレーを煮込んでいるユリアが、驚きの声を上げた。
「これはメスだよ。解剖の練習で、さばくのには自信があるんだ」
 答えながら、スィッ、スィッ、とメスを走らせる海。
 新鮮なイカの身が、どんどん刺身になってゆく。
 そこへ、AKIYAがやってきた。
「ほら、新鮮な魚を大量に持ってきてやったぞ。見るからにうまそうだろ」
 ドンッ、と置かれたバケツの中には、コメットや火遁でズタズタになった魚の死体が山のように!
「どういう獲りかたをしたんだ、これは……」
 頭痛をこらえるように、海はこめかみを押さえながら問いかけた。
「少々残念な……いや斬新な漁法を使ってな。ちょっとばかり形は悪いが、刺身にしちまえば同じだろ?」
「まぁね……。ちょっと捌きにくいけど、もう慣れたよ。こっちにも、おなじようなのがあるからね」
 そう言って海が指差したのは、ウェポンバッシュを食らった魚たち。
「ははは。そいつはテトラ地帯で暴れてたヤツらの収穫だな。まぁちょっと手間取るかもしれないが、うまいこと捌いてくれよ」
 あははと笑いながら、AKIYAはイカの刺身をつまみ食いして去っていった。
「なんだか大変そうだから、あたしも手伝うよ。こう見えても、料理は得意なの」
 腕まくりして包丁を取るユリア。
 海は「よろしくたのむ」と言いながら、メスを操り続けるのだった。


 ユリアの横では、恋音が複数の鍋を煮込んでいた。手間がかかるのも厭わず、参加者個人個人の好みに合わせたカレーを作っているのだ。
 いつもながら、じつにこまやかな気配りのできる恋音。
 しかし、そんな彼女の背後に忍び寄る生命体がいた。
 その名は歌音テンペスト。名前どおりに嵐を呼び起こすべく、彼女はゲテモノ海産物を山のように抱えていた。
 ヒトデ、ゴカイ、イソギンチャク、アメフラシ、サンゴ、グソクムシ、フナムシ、ウミヘビ、スベスベマンジュウガニ……その他もろもろ。海岸に落ちてたゴミまである。
 最後のカニは一般人が食べると確実に毒で死ぬが、撃退士なら大丈夫! たぶん大丈夫だ! 大丈夫だと思うぞ!
「……あのぉ……歌音先輩。……さきほどから、なにをたくらんでいるのですかぁ……?」
「ぎくぅ! な、なにも企んでないよ? カオスカレーを作ろうなんて思ってないよ?」
「えとぉ……一応、フリーダムな方のために……なんでも自由に入れられるカレーも用意してありますのでぇ……そちらへ入れてくださればよろしいかとぉ……」
「あ、そうなの? じゃあ入れちゃうからね♪」
 歌音は爽やかな笑顔でゲテモノ食材をカレー鍋にIN! というか食材じゃない物も混じってるぞ!
 そしてオマケとばかりに、オリジナルスパイスめいた物体Xを投入!
 その直後、あきらかにヤバイ匂いが立ちこめ、事情を知らない撃退士たちの間では異臭騒ぎに。
「そ、それ……本当に食べるのですかぁ……? やめておいたほうがいいと……私の本能が告げているのですよぉ……」
 予想以上の事態を前にして、恋音は顔を青くさせた。
 しかし歌音は動じない。
「大丈夫! ちゃんと責任持って完食するから!」
 どうしてこんな自作自演の罰ゲームみたいなことをするのかまったく理解できないが、彼女の行動を理解することなど人類には不可能だ。そりゃあ五億年も生きてれば脳味噌だっておかしくなるに決まってる。
 ところが、そこへ第二の悪魔がやってきた。
 その名は最上憐。カレーのあるところに彼女の姿あり!
「……ん。カレーは。飲み物。飲む物」
 いつものセリフを口にして、歌音特製の愛情たっぷりカレーを一気飲みする憐。
 しかし、半分ほど飲んだところで彼女はバッタリ倒れてしまった。
 おお。パン戦争で無類の強さを誇った最強戦士を一発で倒すとは! このカレー、ただものではない!
「のこりは、あたしにまかせて!」
 憐のマネをして、豪快にカレーを流し込む歌音。
「げぼっ!? ぐほッッ! もばげェえええええ!」
 飲んだものをすべて吐き出して、歌音は倒れた。
 本当に理解できない行為だが、彼女の笑顔は満足げだ。
 そして残されたカレーは当然だれも手をつけず、後日イアンや司をはじめとした有志の手によって放射性廃棄物並みの厳重さで処分されたという。



「さて、バーベキューの用意ができましたよ。みなさん、どうぞ」
 串刺しになったシーフードをズラリと並べて、歌乃が声をかけた。
 勢いよく集まってくる撃退士たち。
「クリフ、バーベキューだ! バーベキューだぞ!」
「そうだねぇ。アダム、なに食べる?」
「イチゴ焼き! イチゴ焼きはないのか?」
「イチゴは海に生えてないからなぁ」
「じゃあ、なんでもいいぞ! クリフと同じのを食べるぞ!」
「そうかー。……よし、イカ焼き食べてみる?」
「イカか。おいしいのか?」
「おいしいはずだよー」
「じゃあ食べるぞ! とってくれ!」
 そんな感じで、ふたり仲良くイカ焼きをほおばるアダムとクリフ。
 しかし、よく焼けてないので噛み切れない。
「クリフー、これナマじゃないのかー?」
「うーん。本当だ。ナマだねぇ」
「あら……これは失礼しました。すぐに焼きなおしますわね」
 そう言って歌乃が取り出したのは、火炎放射器V−07。
 アダムが、目を丸くした。
「そ、それで焼くのか……? こんがり焼いちゃうのか……?」
「ええ。バーベキューの火力が弱かったようですので、こちらで炙ればよろしいかと……」

「待って待って。そんなの使ったら黒こげになっちゃうでしょ。あたしが焼いてあげる」
 そこへ乱入してきたのは亜矢。
 だがしかし、どう見ても火遁を発動する構えである。
「ちょっと待ったー! 火力が足りないって聞いたわ! あたいが手伝ってあげる!」
 つづけて乱入してきたのはチルル。
 しかし彼女は火炎系のスキルなど持ってない。
 どうする気かと思えば、手にしているのはフランベルジュLv7。
 それでイカを焼こうというのか。なんと大胆な。
「むむっ? なにか困りごとですね!? 焔寿も手を貸すのですよ〜」
 なぜかハリセンを手にして走ってくる元気溌剌少女。
 ちなみに彼女もイカを焼くようなスキルは持ってない。
 というか、イカを焼くためのスキルなど、どこにもない。そもそも天魔と戦うために生みだされた人類の英知の結晶たる技術を、あろうことかイカを炙るために使おうとは!
「イカを焼く任務なのですね? それなら私たち陰陽師の仕事ですワ!」
 自信満々に飛んできたミリオールもまた、あきらかにスキルを使う気だ。
「なんだか随分な騒ぎになってしまいましたけれど、ふつうに火炎放射器で焼けばよろしいのではないでしょうか」
 ごく当然のように主張する歌乃。
「そんなものでイカを焼くなんて、聞いたこともありませんワ!」
「ですが、陰陽術の符で焼くというのも前代未聞です」
「だから、ふつうに火遁でいいでしょ。あたしが一番うまくイカを焼けるのよ」
「あたいのフランベルジュが一番だってば!」
 そして集まった撃退士たちは、だれが一番うまくイカを焼けるかという論争を展開。
 激論のすえ、最終的に恋音がやってきて、ふつうにグリルで焼いたという。
「クリフ……。イカを焼くのにここまで真剣になるなんて、人類は恐ろしいな……」
「俺たち天魔には理解しがたいね……」
 無事に焼けたイカを手に、アダムとクリフは語りあうのであった。


「お……っ。こりゃうまいな。食べたことのない味だ」
 シロギスの蒲焼きを一口かじって、司は思わず賞賛した。
「おほめいただいて、ありがとうございます。それはタレに少々こだわりまして……」
「な、なに!? ほめてなんかいないぞ! ただ、ちょっとおいしかっただけだ! 勘違いするな!」
 歌乃の言葉を遮って、ツンデレしまくる司。
 最初から中身バレバレなのに、なんでそんなコスプレで来たのかと、だれもが思っている。
「あの……もしよければ、焼くのを手伝っていただけませんか……? 予想以上に蒲焼きの人気が高いようで、焼くのが追いつかないものでして……」
「お、俺にそんなことを頼むのか!? 見てのとおり、俺は不良だぞ!? 悪のカリスマだぞ!?」
「おいそがしいようでしたら、あきらめますが……」
「……ちっ。しょうがねぇな。ちょっとだけ手伝ってやる。ちょっとだけだぞ!」
「ありがとうございます。たすかります」
 ぺこりと頭を下げる歌乃。
 あわてて司も頭を下げると、蒲焼き作りを手伝いはじめた。
 そのまま最後まで手伝い続けたのは、言うまでもない。




「みなさーん。カレーが完成しましたよー!」
 雅人が呼びかけると、撃退士たちは民族大移動のようにワッと集まった。
「……熱いので、気をつけてくださいねぇ……」
「こっちのカレーは辛めだから、気をつけてねー」
 恋音とユリアは、大忙しでカレーライスを盛りつける。
 そこへ、あらかた調理を終えた天ヶ瀬夫婦がやってきて、イチャイチャしながら話しはじめた。
「焔、どのカレーにしますか?」
「紗雪と同じのでいい」
「では二人で一皿というのは、どうでしょう。お皿をよけいに汚さなくて済みますし」
「ああ、いいね。そうしよう」
 そして同じ皿からカレーライスをすくい、「あーん」などと始める二人。
 いや全部アドリブだが、これぐらいやるだろ!
 そして、すぐ隣では遊夜と麻夜が仲良く並んでカレーライスを堪能し、恋音と雅人は息をあわせてカレー屋を切り盛りしている。
 リア充爆発しろ!(何度目だ)


「でも、釣りって結構たのしいものですね。またやりたいなぁ」
 カレーを食べながら、レグルスはそう言った。
「よければ、また連れてきてやるよ」と、チョッパー卍。
「本当ですか。たのしみだなぁ」
「おまえはスジがいい。教え甲斐があるぜ」
「なーにをえらそうに。五人の中で、あんたが一番釣れなかったくせに」
 ケンカを売る亜矢。
「なに言ってやがる! 俺はシマアジ釣ったんだぞ! 高級魚だ! 高級魚!」
「見苦しいわねぇ。二連敗のくせに」
「こ、こいつ……!」
「まぁまぁ。仲良くしましょうよ。おなじ釣り仲間じゃないですか」
 レグルスがなだめた。
 いちばん歳が若いはずなのだが、どう見てもチョッパーや亜矢より落ちついている。
 というか、このNPC二人は落ちつきなさすぎである。
 まぁ、そうでないとイベントとか企画する人がいなくなってしまうのだが。



 ともあれ、第一回釣りバカ大会は盛況のうちに幕を閉じた。
 酔っぱらいも何人かいる中、風紀委員イアンの指示のもとに祭りの現場は隅々まで掃除され、来たときよりも綺麗になった。
 その際、いちばん働いたのは自称不良の司だったという。
 おかげで近隣住民からの苦情もなく、近いうちに第二回も開かれるのではないかという噂だ。



依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 歴戦勇士・龍崎海(ja0565)
 道を切り開く者・楯清十郎(ja2990)
 『山』守りに徹せし・レグルス・グラウシード(ja8064)
 我が身不退転・桝本 侑吾(ja8758)
 大祭神乳神様・月乃宮 恋音(jb1221)
 カレーは飲み物・最上 憐(jb1522)
 主食は脱ぎたての生パンツ・歌音 テンペスト(jb5186)
重体: 道を切り開く者・楯清十郎(ja2990)
   <自分で釣った鮫に食われた>という理由により『重体』となる
面白かった!:15人

守護司る魂の解放者・
イアン・J・アルビス(ja0084)

大学部4年4組 男 ディバインナイト
伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
撃退士・
天ヶ瀬 焔(ja0449)

大学部8年30組 男 アストラルヴァンガード
歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
夜闇の眷属・
麻生 遊夜(ja1838)

大学部6年5組 男 インフィルトレイター
W☆らびっと・
逸宮 焔寿(ja2900)

高等部2年24組 女 アストラルヴァンガード
道を切り開く者・
楯清十郎(ja2990)

大学部4年231組 男 ディバインナイト
ゴッド荒石FC会員1号・
レナ(ja5022)

小等部6年3組 女 鬼道忍軍
君との消えない思い出を・
駿河 紗雪(ja7147)

卒業 女 アストラルヴァンガード
『山』守りに徹せし・
レグルス・グラウシード(ja8064)

大学部2年131組 男 アストラルヴァンガード
我が身不退転・
桝本 侑吾(ja8758)

卒業 男 ルインズブレイド
撃退士・
AKIYA(jb0593)

大学部9年279組 男 ダアト
絆紡ぐ召喚騎士・
久瀬 悠人(jb0684)

卒業 男 バハムートテイマー
夜闇の眷属・
来崎 麻夜(jb0905)

大学部2年42組 女 ナイトウォーカー
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
ラブコメ仮面・
袋井 雅人(jb1469)

大学部4年2組 男 ナイトウォーカー
カレーは飲み物・
最上 憐(jb1522)

中等部3年6組 女 ナイトウォーカー
闇を斬り裂く龍牙・
蒼桐 遼布(jb2501)

大学部5年230組 男 阿修羅
天と魔と人を繋ぐ・
クリフ・ロジャーズ(jb2560)

大学部8年6組 男 ナイトウォーカー
くりふ〜くりふ〜・
アダム(jb2614)

大学部3年212組 男 ルインズブレイド
カレーパンマイスター・
ユリア(jb2624)

大学部5年165組 女 ナイトウォーカー
ファズラに新たな道を示す・
ミリオール=アステローザ(jb2746)

大学部3年148組 女 陰陽師
主食は脱ぎたての生パンツ・
歌音 テンペスト(jb5186)

大学部3年1組 女 バハムートテイマー
この命、仲間達のために・
日下部 司(jb5638)

大学部3年259組 男 ルインズブレイド
闇を祓う朱き破魔刀・
織宮 歌乃(jb5789)

大学部3年138組 女 陰陽師