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マスター:牛男爵
シナリオ形態:ショート
難易度:易しい
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/03/13


みんなの思い出



オープニング

 むかしむかし、あるところに。
 体長4メートルのハムスターがおったそうな。

「「えぇぇぇぇ!!」」

 4メートルのハムスターは体重1.5トン。
 毎日100キロのヒマワリのタネを食べ、同じぐらいの重さの糞をまきちらして村人たちを苦しめたという。

「「やめてくれぇぇぇ!!」」

 村人たちはこのハムスターをたいそう恐れ、救いを求めて祈ったそうな。
 その祈りに呼ばれて現れたのが、ひとりの勇敢な撃退士じゃった。

「「おお!!」」

 撃退士とハムスターの戦いは、二日二晩に及んだという。
 しかし、撃退士はハムスターの前にとうとう力尽き、帰らぬ人に……。

「「なんだってーーーー!!」」

 というのは冗談で、撃退士はわりとあっさりハムスターを討ち取ったそうな。
 おかげで、いまの平和は保たれておる。
 このことは、久遠ヶ原ふにゃらら史にもはっきり記されておるのじゃ。

「「ふにゃらら史ってなんだよ、おい」」

 しかし、いま! 長き平和を破って再びハムスターの脅威が訪れようとしておる!
 かの敵は、体長1メートルの巨大ハムスター!

「「かなりスケールダウンしてね?」」

 さぁ今こそ立ち上がれい、若き撃退士たちよ!
 その手で、恐るべき天魔ハムスターを討ち取るのじゃ!

「「1メートルって、そこらの犬ぐらいだよなぁ……」」

 やかましい! さっさと行けい!


リプレイ本文

 鳴海鏡花(jb2683)は天使である。
 身長183cm。いつも男物の服を着ているせいで、女には見えない。唯一女性らしいのは腰まである長い髪だが、いわゆる貧しい胸しか持っていないので、やはり女には見られない。
 本人はそれをまったく気にしてなどいない。──が、しかし。今回ばかりはもう少し女性らしい服装で──せめてもう少し若く見える服装で来るべきだったと後悔することになった。
 というのは、集合場所に顔を出したとき、そこに集まっていたのが以下のようなメンバーだったからだ。

 礼野真夢紀(jb1438)(12)
 Sadik Adnan(jb4005)(12)
 四条和國(ja5072)(13)
 ソーニャ(jb2649)(13)
 地領院 夢(jb0762)(14)
 鈴・S・ナハト(ja6041)(15)

 そう。鏡花以外、全員ローティーンなのである!(注:外見年齢です)
 かたや鏡花は28。いわゆるアラサー!(注:あくまで外見年齢です!)
 イヤな予感を感じながらも「これで全員でござるか……?」と訊ねる鏡花。
「そうですよー」と、鈴が明るい声で答える。
「さようでござるか……」
 もういちどメンバーの顔を見回して、複雑な気分になる鏡花。ものすごいアウェイ感である。大人が一人だけ子供の群れに混じってしまったような。というか、実際そのとおりなのだが。
 とはいえ、中身と外見が一致するとは限らない。見た目は子供でも頭脳は大人、ということが、ここ久遠ヶ原では日常事なのだ。もしかしたら、この中にだって年金生活者がいるかもしれない。いや、それはなさそうだが。
「じゃあ全員そろったし、行きましょうか」
 鈴がそう言ったのを合図に、七人の撃退士たちは歩きだした。
 背が高いため、歩いていると自然に先頭になってしまう鏡花。それは、はたから見れば遠足の小中学生を連れて歩く引率の先生にしか見えなかった。



『ご迷惑おかけしまんもす。天魔出没中のため休業なう』
 そんなヤケクソじみた張り紙の前で、スーパーの店長は遠足気分の撃退士たちを出迎えた。
「こっちです」と案内されたのは、青果コーナー。
 その、まっただなか。散乱するキャベツや大根、ゴーヤに囲まれて、「すぴー、すぴー」と寝息をたてているハムスターがいた。
「おおきい……」
 感動したように呟いたのは、天使のソーニャ。
 たしかに大きい。なにしろ体長一メートル。そして、なにより──
「「かわいい……っ!」」
 何人かが一斉に声を上げ、ふらふらと近寄っていった。
 まるで『魅了』だが、そうではない。単なる『もふもふ欲を刺激するなにか』だ。ある意味、『魅了』より恐ろしい。なにしろMSが判定しないのだから。
「く……っ! もどってくるでござる!」
 鏡花は、この場で唯一の大人として、どうにか自制することができていた。
 その横で、和國も必死に踏みとどまっている。
 冷静に武器の準備を整えているのは、Sadikだけだ。
「きゃーー。かわいいーー!」
「もっふもふー!」
「見て、見てください! 肉球、肉球! ぷにぷにですよっ!」
「もふもふ……はぁはぁ……」
 たちまち欲望の渦に呑まれてしまう、四人の撃退士たち。
「ま、まずいでござる! 四条殿、皆を助け……!?」
 言いかけた鏡花の前で、「僕もまぜてくださーい!」と、吹っ切れた笑顔をふりまきながら突撃してゆく和國。なんとあっけない耐久力か。
 それにしても、げに恐ろしいのは眠っているだけで五人もの撃退士を手玉に取ってしまうハムスター!(注:戦闘シナリオでこのようなことは有り得ません)
 すっかり我を忘れた和國が巨大ハムハムをなではじめると、その目がパッチリひらいた。起こしてしまったのだ。
 ハッと我に返る撃退士たち。いくらかわいくても、これは間違いなく天魔。ディアボロである。油断はできない。
 とっさに身構えた和國の前で、ハムスターは鼻をひくひくさせた。匂いをかいでいるらしい。その動作が、またえらくかわいい。かわいすぎて見ていられないが、目を離せない。
「く、くそっ! 二度と暗黒面(ダークサイド)には堕ちないぞ!」
 首を振って、もふもふ欲に抵抗(レジスト)する和國。
 そんな彼を嘲笑うかのように、すりすりと頬をこすりつけてくるハムスター。
「……っ! 卑劣なぁぁぁ……っ!」
 和國の抵抗値は、もはや1面体ダイスの状態だ。すりすり。
 かたや、『もふもふ欲刺激』の判定ダイスは100面×10! すりすりすり!
「ぐぅぅぅっ!」
 和國は死にものぐるいで立ち向かった。男のプライドを賭けて。全身全霊で欲望を打ち払おうとした。
 でも無理でした。ダイス1だし。
 あっけなく己の欲望に屈し、「もふもふもふぅぅぅ……」と言い残して死んだ和國の表情は、じつにおだやかだった。享年13。
 しかし、次に繰り広げられた光景は信じがたいものだった。巨大ハムスターは倒れた和國の上にのしかかると、牙をむいて貪り喰いはじめたのだ。和國の──金平糖を。
 金平糖? なぜ彼はそんなものを持っていたのか。罠を仕掛けるためである。だが、結果は正反対となってしまった。策士策に溺れるとは、まさにこのこと! いやちょっと違うかも!
「この子、金平糖なんか食べるの……!?」
 夢はあせった。持ってきたのはハムスター用のエサだけだ。甘いものなど持ってない。そして気付いた。ハムスターが目をさましたのは、金平糖の匂いに誘われたせいではないかと。
「私、お菓子買ってきます!」
 言うが早いか、百メートル陸上の選手みたいなガチフォームで走りだす夢。
 その後ろ姿を見送りながら、真夢紀はポテチを取り出してハムの前に差し出してみた。
 しかしハムは見向きもせず、一心不乱に金平糖をポリポリするだけ。極楽浄土に旅立った和國はもはや完全に成仏し、ハム専用座布団と成り果てている。これほど幸せな死にかたが、ほかにあろうか。いや、ない(反語)
「うう……っ。四条さんばっかり、ずるい。私たちも金平糖買いに行きましょうよ」
 がばっと顔を上げた真夢紀だが、その場にいるはずの鈴とソーニャは既に消えている。
「嘘ぉぉ! 抜け駆け禁止ですぅぅっ!」
 置き去りにされたことにようやく気付き、音速で走りだす真夢紀。
 そして、ハムスターの前には鏡花とSadikが残された。あと座布団が一枚(和國仕様)
 ごくっ、と鏡花が唾を飲んだ。だれもいなくなった今こそ、千載一遇のチャンスだ。いまなら誰にも見られず、大人の威厳を保ったままモフモフできる。ただひとりの目撃者、Sadikは始末してしまえばいい。じゃなくて、口止めしておけばいい。
「おほん。あー、Sadik殿? 拙者はこれから敵の防御力をこの手で調べようと……って、Sadik殿ォォォッ!?」
 鏡花の目の前で、いつのまにやらSadikがハムの頭をなでていた。
 これで、もふもふ未経験者は鏡花だけである。
「……ん? さわんねぇのか? いい毛皮だぞ?」
「さわるに決まっているでござそうろうなり!」
 語尾がだいぶおかしなことになっていた。が、無理もない。本来なら真っ先にもふりたかったのだ。もふってもふってもふりまくりたかったのだ。それを、大人の責任感と自制心と忍耐力で、耐えに耐え、忍びに忍んできたのである。いまこそ、この欲望を解き放つとき!
 我 欲 解 放 (Unleash The Fire)!
 獣のように背中から抱きつく鏡花。もふっと埋もれた毛皮の感触は、想像以上である。生まれて以来、これほどまでにモフッとした経験があるだろうか。いや、ない(反語)
「もっふもっふでごっざるぅぅぅっ」
 ふっかふかの背中に顔をうずめ、陶酔しきった声を上げる鏡花。とても他人には見せられない顔である。見せてるけど。
「鳴海さん、よだれ出てますよ」
 どこかでポッキィを買ってきた夢が、いつのまにか鏡花の背後に立っていた。
 ふだんの鏡花なら慌てて取り繕うところだが、いまの彼女にそんな余裕はない。
「よだれを出して、なにが悪いでござるか! むしろ、出て当然でござる!」
「……キャラ崩壊してませんか?」
「してるでござる! 明日からまた精神修行でござるよ! しかし、今日は、今日だけは、もふもふ欲に溺れたいのでござるぅぅぅ!」
 よだれをぬぐいながらも、ハムの背中から離れない鏡花。
「じゃあ私はポッキィ食べさせてあげようかなー」
 夢はCMソングを口ずさみながら箱を開け──そして、禁断のゲームに手をつけた。なんと彼女はポッキィの片側を自分でくわえ、反対側をハムの口元に近付けたのである!
「なっ、なんという、けしからうらやましいことを企むでござるかぁぁっ!」
 血相を変える鏡花。
 夢はまったく動じず、ハムといっしょにポッキィをサクサク食べてゆく。
 そして触れあう唇。(注:ハムスターに唇はありません)
「あはは。くすぐったーい」
 笑いながら口元をこする夢。ヒゲがくすぐったかったのである。
 鏡花がフラリと立ち上がり、頭を下げて両手を前に出した。
「拙者にも一本! 一本めぐんでほしいでござる!」
「えー? どうしようかなー」
「じらしプレイでござるか! なんと大人げない! さっさとよこせでござる!」
 だれが見ても鏡花のほうが大人げなかった。もはやアラサーの威厳などどこにもない。わりと最初からなかった気もするが。
 そんな二人を眺めながら、Sadikはマイペースにハムスターの頭をなでまくっている。
 和國はとっくに人としての形を失い、魂までも座布団になっていた。
 そこへ、真夢紀、鈴、ソーニャの三人が大量のお菓子を買って戻ってくる。彼女たちの目に飛び込んできたのは、あまりと言えばあんまりな光景。一瞬足を止めたあと、三人は互いに顔を見合わせ──
 そして、狂瀾の宴がはじまった。



「ふぅ……満足……」
 すっかりもふもふ欲を満たした鈴は、ばたんと仰向けに倒れた。
 すでに何人かは体力と精神力を使い果たし、マグロのように寝転がっている。見ようによっては、ひどく卑猥な光景だ。
 元気なのはSadikとソーニャだけ。いちばん錯乱していた鏡花はとっくに意識を失い、よだれを流しながらハムスターの背中に埋もれている。
「……んじゃ、そろそろ片付けるか」
 宴が終わろうとしているのを察して、Sadikが小刀を手に取った。
 ソーニャは「そうですね」と応じるが、言葉に力がない。
「だれもやりたくねぇだろうから、あたしがやってやるよ」
「まって」
 呼び止めたのは夢。
 むくりと起き上がり、乱れた髪をととのえながら彼女は言う。
「できれば、眠らせてからのほうがいいと思うの。私、そういう術が得意だから」
「そんなことしなくても、とっくに寝てる」
 Sadikの言うとおり、お菓子をたらふく食べたハムスターは「すぴー、すぴー」と幸せそうに寝ていた。敷き布団と化した和國は、じつに寝心地良さそうである。
「結局、食べて寝ただけだね、この子」
「動物ってのはそういうもんだ。人間だって似たようなもんだろ」
 妙に含蓄のあることを言うSadik。そして、もう止めるなとばかりに武器を逆手に握りなおす。
 そのとき、ふいにソーニャが語りだした。
「ハムスターって、狭義にはゴールデンハムスターのことなんだよね。いま世界中にいるゴールデンハムスターは全て1930年に捕獲された1匹の雌と12匹の雄の子孫なの。当時は幻の動物って言われてたんだよ」
 だれかに語りかけるというより、独り言のような口調。
 Sadikの手が止まり、だれもなにも言えなくなってソーニャのほうを振り向く。
「一匹しかいない雌がいなくなったとき、雄はどうしたんだろうね。草原にひとりぼっち。……キミも同じだね」
 ふいに空気が重くなり、しんとした静けさが彼女たちを包んだ。
 ソーニャの言ったことは事実だが、もちろん目の前で寝ているのはハムスターではない。外見が似ているだけの、ディアボロである。愛玩動物ではなく、人類の敵だ。
 ただし、『ひとりぼっち』という点では何も違いがない。──否。このディアボロは『ひとりぼっち』より、もっと悪い。彼の置かれている環境は、単なる『孤独』ではないからだ。まわりは全て敵であり、主たる悪魔が手を差し伸べにでも来ないかぎり、人間によって滅ぼされる。そして、その結末はもう眼前に迫っているのだ。
「なんだよ。かわいそうだから殺さねぇってのか? そういうわけにはいかねーだろ?」
 よけいなことを言うなと、Sadikが舌打ちした。
 ソーニャは首を横に振る。
「ボクはこの子をかわいそうだとは思いません。ただ、想像するだけです。この子が死んだとき、魂はどこに行くんでしょう。そこに救いはあるんでしょうか」
「知らねーよ、そんなこと。だいたい、こいつはもともと死んでんだろ? 魂なんてどこにもねぇよ」
「生きてないモノにだって、魂は宿ります」
 ソーニャはいつのまにか小さなぬいぐるみを手にして、ギュッと抱きしめていた。まるで、そのぬいぐるみにも魂は存在するのだと言わんばかりに。
 その一言は、若い撃退士たちの胸をえぐった。いまソーニャの言葉を聞いているのは、十五歳にもならない少女たち。だれでも、お気に入りのぬいぐるいを一つや二つは持っている。そこに魂が宿っているとは思わないものの、魂などないと断言されれば愉快な気分ではない。だから、ソーニャの言葉を無意識のうちに肯定してしまうのだ。
「でも……倒さないと……」
 真夢紀の声は小さく、かすかに震えていた。
「うん。この子はここにいても救われません。ちゃんと送ってあげましょう」
 硬い声で言いながら、ソーニャは全身の力をこめてぬいぐるみを抱きしめている。
「私、今日のことは忘れないと思う……」
 夢はうつむき、涙ぐんでいた。
「覚悟できたか? じゃあ、やるぞ」
 Sadikは一度だけ全員の顔を見回すと、深呼吸をひとつ。そして──



「僕が気を失ってる間に、そんなことがあったんですか……」
 かろうじて人間の姿を取りもどした和國は、経緯を聞いて声を落とした。
「その小さな手でとどめを刺したとは、つらかったでござろうな、Sadik殿。拙者が起きてさえいれば、この手で引導を渡したものを……」
 ぐっ、と拳をにぎりしめる鏡花。
 いやアンタは寝てて良かったよ、という冷ややかな視線がいくつか向けられる。
「まぁとりあえず後片付けですね」
 鈴が言い、一同は青果コーナーを見渡した。
 宴が終わったその場所は、もはや青果売り場というより菓子売り場。
 撃退士たちは、それぞれ掃除用具を手に取った。その手の中には、まだハムスターの感触が残っている。当分は消えないことだろう。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: モフモフ王国建国予定・鳴海 鏡花(jb2683)
重体: −
面白かった!:9人

真冬の怪談・
四条 和國(ja5072)

大学部1年89組 男 鬼道忍軍
撃退士・
鈴・S・ナハト(ja6041)

大学部4年115組 女 ルインズブレイド
猟奇的な色気・
江見 兎和子(jb0123)

大学部8年313組 女 阿修羅
絶望に舞うは夢の欠片・
地領院 夢(jb0762)

大学部1年281組 女 ナイトウォーカー
芽衣のお友達・
礼野 真夢紀(jb1438)

高等部3年1組 女 陰陽師
カリスマ猫・
ソーニャ(jb2649)

大学部3年129組 女 インフィルトレイター
モフモフ王国建国予定・
鳴海 鏡花(jb2683)

大学部8年310組 女 陰陽師
開拓者・
Sadik Adnan(jb4005)

高等部2年6組 女 バハムートテイマー