その日、ヨットハーバーに九人の撃退士が集まった。
なぜか全員女性なのは、依頼人である佐渡乃明日羽が『女性優遇』と求人したためだ。
「こんにちは、みなさん。今日はつまらないディアボロ退治に手を貸してくださって、ありがとうございます」
案外礼儀正しくあいさつする明日羽。一応上流階級の人間なので、最低限のマナーは心得ているのだ。
真っ白なワンピースに身をつつんだ彼女は一見お嬢様風だが、その中身はといえば──
「あら? あなた、ケガしてるんじゃない? ちょっとこっちに来て?」
明日羽が手招きした相手は、姫路明日奈(
jb2281)
「にゃ、このまえ任務で失敗しちゃったんですよ〜」
「じゃあ無理しないで? 見てるだけでいいからね?」
そう言って、明日羽は明日奈の頭を撫でた。
「は、はいっ」
「なんだか名前も似てるじゃない? 仲良くしようね?」
髪を撫でた指がツツッと首筋をなぞり、明日奈はビクッと体を震わせた。
よりによって重体の身で明日羽の依頼に参加してしまうとは、不幸きわまる。彼女は、弱っている女の子をいじめるのが趣味なのだ。
「じゃあ行こうか?」
当然のように明日奈の手をにぎり、クルーザーへ乗りこむ明日羽。
それを見つめる七人の女性たちは、自分も重体で来れば良かったと思ったり思わなかったりした。
「これが『海』……。なんと広大なんでしょう……」
指定水着を身につけて、デッキから水平線を見つめているのは、ステラ シアフィールド(
jb3278)
「海は初めてですか?」
明日羽が問いかけた。
その横には、明日奈がくっついている。
「ええ、初めてですね。人間界のことは、よく知らないもので」
「では、存分に楽しんでくださいね?」
「……なにか、言外の意味があるように聞こえますが」
「そうですか?」
くすっと明日羽が笑い、おなじようにステラも笑った。
「『初めて』と言えば、私はこれが初の任務なんですよ」
そう言ったのは、パトリシア・キャリントン(
jb5454)
彼女も指定水着を着用しているが、あきらかにサイズが合ってない。胸はパツンパツンだし、尻は半分ぐらい露出している。
「サイズ合ってないよね?」と、明日羽。
「え。そうですか? 変ですか? ちょっと見てください」
言いながら、パトリシアは尻を突き出した。
その豊満なヒップを前にして、明日奈が顔を赤らめる。
明日羽は顔色ひとつ変えず、「どう思う?」と明日奈に意見を求めた。
「にゅっ!? あの、その……似合ってると思います……」
見当ちがいの答えを返して、明日奈は顔を真っ赤にさせた。
「でも、ほら? すこしめくれてるじゃない? なおしてあげて。ね?」
「にゃぇっ!?」
「できるよね?」
「で、できます、けど……」
「じゃあやってあげて?」
「にゅぅ〜」
おずおずとパトリシアの水着に手をのばす明日奈。
その表情を見て、明日羽は彼女の性癖を完全に把握したのだった。
水着といえば、シャーロット・ルブラン(
jb5683)は凄かった。
なにしろ、ほとんどヒモみたいなスリングショットなのである。
「その格好で戦うんですか?」
と、明日羽が訊ねた。
「ええ。水中での戦闘を考慮しまして」
「そんなので戦ったら、こぼれちゃいますよ?」
明日羽が言うのも無理はない。なにしろ、その胸にはメロンみたいなものが二つ付いているのだ。歩いているだけでも危ないほどである。
「そうなったところで、なにか問題ありまして?」
サファイアブルーの瞳で艶然と微笑むシャーロットは、まるで誘っているかのようだ。
芸術品のような肢体と匂い立つフェロモンは、異性はもちろん同性をも惹きつけてやまない。
「ふふ……。なにも問題ありませんよ? たのしみですねぇ……?」
明日羽もまた誘うように答えて、ゆっくりと唇を舐めた。
「それにしても、イヤな予感しかしないね……」
だれにともなく呟いたのは、アニエス・ブランネージュ(
ja8264)
じつは彼女、触手やスライムなどの特殊な天魔と戦った経験が多く、ろくでもない記憶をいっぱい抱えているのである。ワンピース水着の上に白衣を羽織ったその姿は、どことなく怯えているようにも見える。
「……まったく、厄介な天魔もいたものですね」
紅アリカ(
jb1398)が相槌を打った。
彼女の服装はTシャツにGパン。濡れてもいいように、下にはビキニを着けている。
だが彼女は間違っていた。そこは『濡れてもいいように普通の下着をつける』のが正解だ。あるいは何も着けなくてもいい。これは重要なことなので覚えておいてほしい。
そういう点で言うと、桜庭ひなみ(
jb2471)も間違っていた。
彼女は長袖にロングスカートをまとっているが、やはり下には水着。
なんと残念な。みんな固定観念にとらわれすぎである。
海だから水着? ちがうだろ。水着で濡れて、なにが楽しい? スーツとかセーラー服とか、そういうのを着てくるべきじゃないか? 次の機会のために、よく覚えておいてくれ。貴族との約束だぞ? べつに服フェチとか、そういうわけじゃないからな?
「あっ、クラゲ見つけた! あっちあっち!」
いきなり騒ぎだしたのは、恵夢・S・インファネス(
ja8446)
指差す先には、ぷっかり浮かんだ巨大クラゲの姿が。
「では、早々に始末してしまいましょう」
ステラが光纏し、霊符を取り出した。いきなり殺る気である。
その背後から、当然のように『審判の鎖』がぶちこまれた。
「な……っ!?」
がんじがらめになって、甲板に倒れるステラ。
悪魔である彼女にとって、この攻撃は痛い。しかもこの『鎖』、滅茶苦茶レベルが高いのだ。
「あら……? ちょっと狙いが外れちゃったみたい?」
明日羽がクスッと笑った。
その瞬間、全員が理解した。
絶対に、狙って当てたのだと。
「え? え……? 攻撃していいんだよね?」
うろたえるように、恵夢は周囲を見回した。
「攻撃? してもいいよ?」
答える明日羽の手には、妖しく光るヴァルキリーナイフ。
それを見て、だれもが攻撃をためらってしまった。
そうこうしている間に、透過した触手がデッキの下から突き抜けてくる。
「ひあッ!?」
恵夢の脚に、触手が絡みついた。
とっさにアイマスクを取り出し、装着する恵夢。
意味不明な行動だが、これにはわけがある。
「殺傷能力のない敵なら、新しい戦法試すのにもってこいじゃん。ついでに感覚強化もしてきな」
と、義姉たちに言われてきたのだ。
だから、けっして何かのプレイとかではない! 素手で戦う技術を磨くための特訓なのだ! 特訓なのだよ!
「必殺! るゅーにあずふぃすとー!」
フィストと言いながら跳び蹴りを放とうとする恵夢。
しかし足首をつかまれていたため、ずてんと転んでしまう。
たちまち触手が彼女の四肢を絡め取り、粘液まみれに。
「ひゃあああんん!」
そして恵夢は甲板に張り付けにされたまま、あんなことやこんなことに!
「うわっ! 来るな! こっち来るな!」
襲いかかる触手に対して、アニエスは散弾銃を撃ちまくっていた。
所詮ただの触手なので、弾が当たれば簡単に消し飛ぶ。
が、いかんせん数が多い。ふと見回せば、デッキはもちろん船の周囲も触手だらけだ。
「ちょ……っ! 嘘でしょ……!?」
その背後から、ぬるっと触手がまとわりついてきた。
「キャアアアアッ!」
恥も外聞もなく悲鳴をあげるアニエス。
その首に巻きついた触手が、するっと白衣の内側へ入り込む。
と同時に、足下から伸びてきた触手が足首に絡みつき、ナメクジのような粘液を引きながら、ふくらはぎ、ひざ、ふとももへと這い上がっていった。
「や、やめ……!」
逃げようにも、脚が動かなかった。
過去の記憶がフラッシュバックして、羞恥と恐怖でパニックに陥る。
心臓が早鐘のように打ち、めまいが襲ってきて、視界が暗くなり──
あとはご想像におまかせします!
「ひああああっ!」
ひなみは触手を殲滅しようと、躍起になって拳銃を撃ちまくっていた。
しかし、衆寡敵せず。この数は手の打ちようがない。
「わうっ!?」
粘液で足をすべらせたひなみは、勢いよく海へ転落。
服を着ているため、まともに泳げない。
が、泳ぐどころの騒ぎではなかった。なにしろ、海面までもが触手で埋めつくされているのだ。
獲物を見つけた触手が、ひなみに殺到する。
すさまじい数である。まるで、アリにたかられた飴玉みたいだ。
「た、たすけ……わぷっ!」
全身を覆いつくされてしまったひなみは、もう身動きもできず声も出せなかった。
ついでに、描写もできなかった!
「にゃ、クラゲさぁーん! 遊ぼー♪」
制服姿で走りだそうとした明日奈の腕を、明日羽がつかんだ。
「あなたはケガしてるんだから、無理しちゃ駄目だよ? 遊びたいなら私が遊んであげるから。ね?」
そう言って、明日羽はつかんだ腕を引き寄せた。
「にゃっ!?」
明日奈が倒れこみ、抱きとめられる。
「いい匂いだね? それに、きれいな髪……」
地面に触れそうなほど長い髪を、明日羽が撫でた。
髪と一緒に、うなじや耳も撫でている。
「ひぅ……っ」
耳に触れるたび、明日奈の体がピクッと震えた。
「ふふっ。かわいい。……ねぇ、そのケガなおしてあげようか?」
「え? でも……」
「私、治すの得意なんだよ?」
明日羽は、じっくりと明日奈の首筋を舐め上げた。
「ひゃぅ……っ」
「どう? 気持ちいいでしょ?」
「んんん……っ!」
「声出していいんだよ……?」
「んぅ……っ」
「……なにをしてるの?」
粘液まみれの刀を手に提げて、アリカが問いかけた。
「見てわかりません? ケガの治療ですよ?」
「……わからないから訊いたのよ。それより佐渡乃さん、戦う気はないの? 貴女一人では難しいから、私たちを呼んだのでしょう? 全員が捕えられてしまったら、二の舞になるわよ?」
言いながら、襲いかかってきた触手を斬り伏せるアリカ。
明日羽たちが戯れていられたのは、彼女が盾になっていたからである。
「二の舞? 全然かまいませんよ? その場合もういちど依頼を出すだけですから」
「……それじゃ困るのよ。私たちが任務失敗したことになるじゃない」
「依頼主の私が成功って報告すれば、問題ありませんよね?」
「……たしかに、そうかもしれないけど」
「まぁせっかくなんですから、もうすこし堪能しません? 明日奈だって、まだ満足してないよねぇ……?」
問いかける明日羽の手は、しきりに明日奈の太腿を撫でている。
「んん……」
明日奈は斜めに首をうなずかせた。
否定とも肯定とも取れるような答えだ。
無論、明日羽は肯定と解釈した。
「ほら、見て? なんて素敵な光景なの……?」
くるりと明日奈の後ろに回って、明日羽は囁くように言った。
彼女たちの眼前では、無数の触手と六人の美女たちによる嬌宴が繰り広げられている。
恵夢とステラは甲板に拘束されて、以下略!
アニエスとパトリシアは宙吊りにされ以下略!
ひなみは海に落ちたまま以下略!
そしてシャーロットは、何かに目覚めたかのように自ら以下略!
なにひとつ書けないが、とにかく凄まじい状況だった。
「……これはこれで、いろんな意味で凄惨な光景ね。見ているこっちが逆に興奮するわ……」
陶然とした表情で呟くアリカは、完全に息を乱していた。
「ふふ……。いい趣味ですね?」
明日羽の手が伸びて、アリカの肩に触れた。
いつのまに背後へ回ったのか、その指は肩から鎖骨をなぞって、胸のふくらみへ降りていく。
「……見境なしね」
「見境? ありますよ?」
「……あいにくだけど、私はやられっぱなしでいられるタチじゃないの」
背中を向けたまま、アリカは明日羽の腰を撫で上げた。
明日羽が満足げに微笑む。
「話が早いですね? そういうのは嫌いじゃありませんよ……?」
明日羽の手がゆっくりと下へ降りてゆき、おかえしとばかりにアリカの手が──
「にゅ、にゅぁぁ……!」
なだれこむように始まった行為を目の前にして、明日奈はうろたえるしかなかった。
三十分後、すべてを終えた撃退士たちはキャビンでグッタリしていた。
「みなさん、おつかれですね? イチゴのスムージーを用意したので、どうぞ」
ひとり明日羽だけは、出発前のテンションのままだ。
「ああ……。最初からイヤな予感がしてたんだよ……」
グラスを受け取りながら、アニエスが溜め息をついた。
「また騙された……」と嘆息するのは、恵夢。いったい彼女は何回義姉たちに騙されれば目が醒めるのだろう。敵を目の前にしてアイマスクを装着したらどうなるか、考えるまでもなかろうに。ビジュアル的にはGJですけどね。
「一番ひどい目に遭ったのはわたくしですわ。まさか味方に撃たれるなんて……」
ステラも負けじと溜め息をついた。
明日羽はニッコリ笑って、「わざとじゃありませんよ?」などと言ってのける。
無論、だれも信じてない。
「私は満喫しましたわ。退治してしまったのがもったいないぐらい」
記憶を反芻しているのか、シャーロットの目はトロンと潤んでいた。あるいは、まだ物足りないのかもしれない。
そしてひなみは、頭をかかえながら「ぁううう……」と震えていた。よほどショックだったのだろう。
「海に落ちたのは災難だったね?」
カケラも災難だったとは思ってないような笑顔で、明日羽はひなみの頭を撫でた。
「あの、明日羽さん……」
パトリシアは急に立ち上がり、明日羽の腕をギュッとつかんだ。
「どうしたの?」
「なにか変なんです、私……。体が熱くて……どうしたらいいでしょうか」
「あら? じゃあ鎮めかたを教えてあげるね?」
明日羽はトレーに乗っていた細長いスプーンを手に取ると、それを使って──
「え……!? こんなところで……!? ああ……ッ!?」
「もう何も隠すことなんかないでしょ?」
「そっ、そんな……! ぅくう……っ!」
一分たらずでパトリシアは意識を失った。
「さすがねぇ、明日羽さん」
アリカが艶っぽい声で言った。
いつのまにか、呼びかたが変わっている。
「ご希望なら、もう一戦やってもいいんですよ? お姉様?」
濡れたスプーンを舐めながら、明日羽が問いかけた。
「ここで? それとも場所を変える?」
「ここで何か問題あります?」
「ないわね」
周囲を置き去りして話を進める痴女ふたり。
しかし、そこへ飛び入り参戦が。
「よかったら、私も仲間に入れてくれません?」
言いだしたのはシャーロットだ。
「あら……。ではわたくしもご奉仕させていただきますわ」
ステラも乗り気だった。
そうしてキャビンでは、キャッキャウフフなアレコレが繰り広げられるのであった。