このバイオレンス・アトラクションのオープニングは、意外にも平穏に始まる。
商業区に軒をかまえる、一軒のおしゃれなカフェ。
その一角で、ロココ調のテーブルについているのは、エルザ・キルステン(
jb3790)。彼女は優雅にアフタヌーンティーをたのしみながら、フルーツタルトをつついていた。そのクールかつエレガントな雰囲気は、映画のワンシーンのようだ。
やがて紅茶を飲み終えたエルザは、スッと席を立った。
そしてカウンターへ行き、伝票を置いてから、ためらいなく店員の頭を拳銃で撃ち抜いた。
血を噴いて倒れる店員(注:演出です)
その背中へ、さらに五発ほど撃ちこむエルザ。
動かなくなった店員を見下ろして、彼女は少し首をかしげた。
「少々払いすぎたか……? まぁいい。釣りはとっておけ」
そのとたん、サイレンが鳴った。
エルザが店を出ると、警官が二人走ってくるところだ。
手近の車へ乗り込み、後部席から運転手に銃を突きつけるエルザ。
「出せ」
「は、はいッ!」
ものすごい勢いで、キャデラックが走りだした。
その間に、エルザは窓から銃を突き出して警官二名を撃ち倒している。
しかし、その後ろからはパトカーが迫っていた。
キャデラックの前には赤信号。道路には歩行者があふれている。
「止まるな。轢け」
「は、はいいッ!」
どこかの吸血鬼のような悪党ぶりを見せつけて、容赦なく通行人を轢きまくり、撥ねまくるエルザ。
あまりに異常な光景だが、すべて演出なので問題ない。轢かれた人も、この運転手も、警官も、全員撃退士だ。命に別状はない。
「あ、あの、道路が渋滞してますが……」
運転手が、震えながら前方を指差した。
たしかに、車がつかえている。
無論、エルザの指示はこうだ。
「なにを言っている? 歩道があいているではないか」
「えぇえええっ! そ、そんなことをしたら……!」
「さっさと行け。止まれば殺す」
「はいぃいいっ!」
運転手がハンドルを切り、キャデラックは歩道に乗り上げて爆走しはじめた。
次から次へと撥ね飛ばされる歩行者たち。
悲鳴が湧き上がり、サイレンがけたたましく鳴り響く。
しかし、その直後。
たまたま通りかかったガソリンスタンドが爆発し、キャデラックもパトカーもまとめて吹っ飛んだ。
自殺志願者のユーサネイジア(
jb5545)が、スタンドに火をつけたのである。
「ああ……。死にたい……」
火の海の中で、ひとり呟くユーサネイジア。その表情は虚ろだ。
彼を逮捕しようと、命知らずな警官たちが突撃してゆく。
そして、次から次へと火だるまに。変態筋肉ダルマに火だるまにされるとは、なんとシュールな。
「ああ。我と、一緒に……死んでくれ……」
はた迷惑な自殺志願者もいたものだが、彼は真剣だ。だれよりも真剣に、死を願っている。
だが、いくら願っても死ねない。そういう星の下に生まれてしまったのだ。
彼は盗んだガソリンを辺りにまきちらしながら、「死にたい……死にたい……」と繰り返しつつ、次のガソリンスタンドへと向かうのだった。
「ふははは! 今日に限って俺は悪逆非道の悪魔に戻るぜぇ!」
そう言って高笑いするのは、宗方露姫(
jb3641)
だが、その直後に血を吐いてしまう。
なんと彼女は重体にも関わらず、このバイオレンス・アトラクションに参加してしまったのだ。しかも、おそろしいことにボンタン狩りなど企んでいる。なんという昭和な発想! いまどきボンタンって!
だが、ひとつ問題があった。ありとあらゆるニーズに応えるCTAだが、さすがにボンタンをはいてる不良は用意されてなかったのだ。そりゃそうだろ! ここの設定はアメリカですよ!?
「ち……っ。ボンタン履いてるヤンキーはいねぇか……」
やむなく、Gパン履いてる男に向かって無差別に突撃する露姫。
しかし、重体の身では誰にも追いつけない。クモの子を散らすように逃げる市民たち。
「うおおお! PNTをよこせぇぇ!」
雄叫びを上げながら歩行者へ向かっていく露姫は、どこから見ても完璧な変態だ。血を吐き、足をふらつかせながらもPNTを求めて走る露姫。だが収穫はゼロだ。おお、なぜ重体になってしまった!?
そこへ走ってきたのは、石上心(
jb3926)
後ろには十人ぐらいの警官を引きつれている。
なんと心は今日のために大量の薬品を製造し、街中でバラまいたのだ。
それらの薬品の効果は、製作者本人にもわかってない。ロシアンルーレットみたいなものだ。ほとんどの薬品は無害だったが、中には硫酸っぽいようなヤバいブツも含まれていたため、当然パニックに。みごと犯罪認定され、こうして逃走中なのである。
「げ……っ!? 心が来やがったじゃねーか!」
「見つけたぜぇぇえ! 鱗よこせやオラァアアア!」
心の目的は、露姫の体に生えている龍鱗だった。薬物製造の材料にしようというのである。おお、なんというモンスターハンター。いまはそれどころではないはずなのだが。
「剥ぎ取られてたまるかコラァ!」
逃げだす露姫だったが、重体の身では逃げ切れるはずがない。
そこへ運良く通りかかったのは、超大型トレーラー。
これ幸いとばかりに露姫は透過で乗りこみ、運転手をポイっとな。
「おい、俺も乗せろ! ついでに鱗をよこせ!」
心が助手席に飛びこんできた。
「乗せてもいいが、鱗はやらねー!」
「ケチくさいこと言うんじゃねぇー! 科学の発展に協力しろや!」
「冗談じゃねぇ! 科学なんぞ知ったことか!」
ギャアギャアわめきながら、トレーラーで逃げだす二人。
車を蹴散らし、街灯をへし折って、彼女たちはみごと警官を振り切ることに成功した。
さて、ここにいるのはアイリス・レイバルド(
jb1510)
彼女は街に乗りこむや否や、迷いなく『コメット』を発動していた。それも、自分を中心にして。
まわりには誰もいないので、ダメージを受けているのは彼女ひとりだ。
そしてコメットが降り終わったあとは、すずしい顔でヒール。
はたから見ると何をやっているのかサッパリわからないが、これがアイリスなりのコメット使用法なのだ。──そう、彼女は心からコメットを愛しているのである。よって、コメットは常に自分がターゲット! 愛ゆえに人は苦しまねばならぬのだ……!
なぜそこまでコメットを愛しているのかは、彼女以外だれにもわからない。もしかすると彼女自身にもわかってないのかもしれないが、その愛が真実であることは疑いようもなかった。
そんなわけでソロコメット祭りをたのしんだアイリスは、そのままペイントショップに向かい、塗料を拝借。駐車されている車に手当たり次第SAN値直葬アートを施し、いつ爆発してもいいように爆弾を設置してゆく。
完全なる無差別テロだ。
作業中、アイリスはずっと無表情のまま。
その手さばきは、ひどく器用だ。機械のように淡々と、正確に、精密に、疲れることも、飽きることもなく──
彼女の目的は、このアトラクションをできるかぎり混沌の渦に突き落とすことだった。それ以外の目的は、一切ない。悪意も邪念もなく、ただただ純粋に混沌を望んでいるのだ。
「……巻き起こる混沌の行き着く先を観察する、淑女的に」
ぽつりと呟く声も、まったくの無感動。
はてさて、独自の行動原理にもとづく彼女の無差別カオス化計画の行方やいかに。
一方こちらは、沙夜(
jb4635)と三島奏(
jb5830)のペア。
彼女らは、なんと現金輸送車を襲う予定だ。
なかなかに大胆な犯罪だが、計画は非常に杜撰だった。
ふたりの犯罪プランは、こうだ。
まず、輸送車の前で沙夜が病気を装って倒れ、降りてきた警備員を捕縛! 残りの警備員は適当にボコる! そしてジャック!
こんな穴だらけの計画で現金輸送車が奪えるはずはないが、ここは遊園地のアトラクション。なんの問題もなく強奪に成功! 奪った金をまきちらしつつ、銃砲店へ!
マシンガンやショットガン、ミニガン(!)などを強奪し、輸送車から4tトラックに乗り換えて更に逃走! 追いすがるパトカーを蜂の巣に!
「あはは! 楽勝だね!」
奏が高笑いした、次の瞬間。
路上に仕掛けられていたワイヤーをトラックが引きちぎり、設置されていた一ダースほどの手榴弾が一斉に炸裂! トラックは五メートルぐらい吹っ飛んで、路上へ逆さまに墜落した。
「んふ。汚い金は奪われても文句言えんじゃろ?」
姿を見せたのは、犯罪者狙いの犯罪者、ファタ・オルガナ(
jb5699)だ。
さて収穫物を回収しようかのうとばかりに輸送車へ近付いた彼女を、銃弾の嵐が出迎えた。
「ぉおおおう!?」
あわてて車の影に隠れるファタ。
そのまま、1対2の銃撃戦が始まる。
だが、そんなことをしているヒマはない。すぐそこまでパトカーが迫っているのだ。
「待って! 待ってください! このままでは捕まってしまいます!」
沙夜が大声をあげた。
「んなこと言ったって、どうしようもねぇだろ! トラックもスクラップになっちまったし!」
負けじと奏も声を張り上げる。
「まだ手はあります。……あの、そちらのかた! 戦いはやめて一緒に逃げませんか? 私たちが撃ちあっても不毛なだけです!」
「ほう。わしを仲間にしようと?」
「そうです! もう猶予がありません! すぐにお返事を!」
「ふむ……。まぁよかろ。予定と違うが、それも面白そうじゃ。わしはファタ・オルガナ。よろしくの」
こうして三人組となった彼女たちは、パトカーを撃退しつつジャックしたBMWで逃げるのであった。
「ああ、気持ちのいい風ですねぇ」
さわやかな風に髪をなびかせながら、駿河紗雪(
ja7147)は上機嫌で車を走らせていた。
サンルーフ付きのミニクーパーだ。当然、左ハンドルである。
慣れない操作に戸惑いながらも、紗雪は和服に下駄履きという格好で器用にハンドルを操っていた。
しかし、走っているのは左車線。この街はアメリカを模したものなので、当然反対車線を走っていることになる。
幸か不幸か交通量の少ない道路であるため、紗雪は逆走していることに気付いてなかった。たまにすれちがう車があると、「堂々と逆走するなんて、本当に無法な街ですね」などと呟く始末だ。
もちろんパトカーが追尾しているのだが、自分が追われていることにも気付いてない。あくまでも、たのしいドライブ気分なのである。
そんな紗雪の前へ、いきなり飛び出してきたのは地堂光(
jb4992)
なぜか、大量の手榴弾をかかえての登場だ。
「きゃあっ!?」
紗雪はハンドルを切りながらブレーキを踏んだ。
が、まにあわなかった。車体が大きくスピンして、光を撥ね飛ばす。
「グワー!」
「ひ、光君!? 大丈夫ですか!?」
車を飛び降り、駆け寄る紗雪。
「いってぇー。なにすんだよ、駿河」
「あ、大丈夫そうですね。いまヒールを……」
そのとき、紗雪の足下に何かがゴロッと転がってきた。
見ると、手榴弾だ。しかもピンが外れている。
「え……っ!?」
「あ、それ、俺の……」
ちゅどーーん!!
爆煙とともに吹っ飛ぶ二人。
ふつうなら死んでいるところだ。
煤だらけの顔で、紗雪と光はお互いの顔を見つめた。
「……よく生きてますね、私たち」
「撃退士だからな!」
「というか、なぜそんなに手榴弾を……」
「撃退士だからな!」
理由になってなかった。いまの爆発で頭をぶつけたのかもしれない。
そんな光たちのもとへ、警官とパトカーが押し寄せてくる。
「やべえ! 逃げよう!」
「はい! 助手席に乗ってください!」
ギャギャッとアスファルトにタイヤ痕を刻みつけて、ミニクーパーは走りだした。
その横へ、ゴゴゴゴゴッと爆音エンジンを引きずって登場したのは、宗方露姫と石上心が乗るトレーラー。
「なんだぁ? 光と紗雪じゃねェか。チンケな車に乗ってンなあ」
助手席の窓から、心が笑顔を見せた。
「すごい車をジャックしましたね……」
唖然とする紗雪。
その正面には、パトカーが壁を作っている。
とてもではないが、ミニクーパーでは切り抜けられない。
「安心しろ。俺たちが道を切り開いてやる。行け! 強行突破だ!」
心が拳を突き上げ、運転席の露姫は躊躇なくアクセルを踏みこんだ。
ドグシャアアアアッ!!
ボウリングのピンみたいに蹴散らされるパトカーの群れ。
あちこちで火の手が上がり、パトカーに引火して爆発する。
「あはははは! すげぇな、このアトラクション!」
パトカーの壁をやりすごし、後方の大惨事を見ながら光は大笑いした。
「皆さん張り切っているようですね……」
ここはオープンカフェ。
無数に立ちのぼる黒煙を眺めながら、セシル・ジャンティ(
ja3229)は静かにティーカップを置いた。
「しかし、このぶんだと、わたくしたちも巻き込まれてしまいそうです」
言うや否や、電光石火の素早さでナイフを抜き放つセシル。
光纏した体には、紫色の電流に似たオーラが纏われている。
そしてナイフの切っ先は、ぴたりとルドルフ・ストゥルルソン(
ja0051)の喉元へ。
「なっ、なにするんですかジャンティさあああんっ!?」
手にしていたカップが落ち、ルドルフは猫のような反射速度で跳びのいた。
「わたくしは、貴方を傷付ける全ての物が憎くて堪らないのです。ならばいっそのこと、自らの手で壊してしまいたい」
愛おしそうに目を細めながら、胸の内を明かすセシル。
ルドルフの頬に、冷や汗が流れる。
「それは……勘弁してほしいですね……」
「わたくしは貴方が望むのならば、この命を差し出すことすら厭わない。貴方もそうでしょう?」
微笑みながら、セシルはスッと洋弓を取り出した。
放たれた矢はルドルフの頬をかすめて、後ろの客に命中。
そのとたんにサイレンが鳴り響くが、セシルはまったく動揺せず二本目の矢をつがえた。
瞬間、彼女の背中をテーブルが直撃。
ルドルフが鋼の糸を仕込んで引き寄せたのだ。
「よそ見してちゃあ駄目じゃないか?」
「ご冗談を。わたくしは貴方しか見ていません」
セシルの手からひょいっと放り投げられたのは、ピンの抜かれた手榴弾。
ルドルフは咄嗟にテーブルを引っぱり、盾にして手榴弾を弾き返した。
爆発に巻きこまれて吹っ飛ぶ客たち。
サイレンの音量が上がり、警官がダース単位で押し寄せてくる。
そこへセシルの投げた手榴弾が炸裂。
ばたばた倒れてゆく警官たち。
だが、倒しても倒してもキリがない。
「そろそろ遊びは終わりのようですね」
「ゲームオーバーにはまだ早い、か……」
二人は軽く口づけをかわし、警官たちを尻目に走りだした。
そして大型トラックをジャック──しようとした直後、二人そろって吹っ飛ばされていた。
桝本侑吾(
ja8758)が、背後からウェポンバッシュを放ったのだ。
「この世界は非情だ……」
独り言のように言い放ち、セシルたちの盗もうとしていたトラックを横取りジャック!
「まぁ、見た目はカージャック犯をやっつけた感じだな。合法合法」
どう見ても違法だが、この際だから合法ということにしておこう。
そしてトラックで走りだした侑吾は、ゆうゆうと道路を逆走。
「ここは日本だからな。左側を走るのが正しい。合法合法」
あきらかに違法だが、そこまで言うなら合法にしておこう。
侑吾はそのままハンドルを操り、高級そうなカフェにトラックごと突入!
「トラックで入店してはいけませんとは書いてないもんな。合法合法」
うん、まちがいなく合法だ。
「あの……ご注文は……?」
警官が押し寄せてこないのを疑問に思いながらも、オーダーを取りにくる店員。
「ビールと焼き鳥」
「焼き鳥はありませんが……」
「じゃあ、メニューに載ってるの全部」
「か、かしこまりました」
そこへ、ほかの客から声がかかった。
「おい、ねーちゃん。俺のほうが先に来てるんだぜ。こっちへ注文聞きにこいよ」
「す、すみません」
あわてて駆けだそうとする店員を、侑吾は手で制して歩きだした。
そして容赦なく叩きこまれるウェポンバッシュ!
「アバーッ!」
ガラの悪い客は血みどろになって倒れた。
「いまのは正当防衛だ。目には目を、歯には歯を。合法合法」
たしかに、一分の疑いもなく、完全に合法だ。
そうして侑吾はなにごともなかったかのようにテーブルへ戻ると、ビールジョッキ片手にフルーツパフェを食べはじめるのであった。
そのころ。
小田切翠蓮(
jb2728)は市役所をジャックしていた。
なかなかスケールのでかい犯罪である。
彼は五十人あまりの市民を人質にとり、立てこもりを決行。
どう考えても一人で可能な犯罪ではないが、ここは万人の夢をかなえる遊園地。どんな犯罪でも、おおよそ成功するように調整されている。
なんで遊園地の中に市役所があるのかという疑問は、『ぜんぶ演出だから』の一言で解決だ。
そして翠蓮は、なんと政府に対して五千億円の身代金および逃走用のジェット機を要求。リミットは24時間!
いや……あの……小田切さん? これテストプレイなんで……。24時間滞在できないんですけども……。
「要求が呑めぬと言うなら、人質たちの命は風前の灯火よ」
理不尽きわまる要求だが、政府側(遊園地スタッフ)は、どう対応するのだろうか。
強行策に出る以外なかろうが、人質が犠牲になるのは確定的に明らかである。
まぁなにもかも演出なので、何人犠牲になろうと問題はないのだが。
はてさて、翠蓮の運命やいかに。
場所は変わって、デパートのレストラン街。
「……ん。カレーは。飲み物。飲む物。飲料」
最上憐(
jb1522)は、いつもどおりのマイペースぶりでカレーを飲みまくっていた。
無論、金など払ってない。
特技の『擬態』と『隠走』を利用してレストランの厨房に忍び込んだ憐は、思うがままにカレーを満喫中だ。
しかも、これで四軒めである。いったい何が、彼女をそこまでカレーに走らせるのか。
「……ん。まぁまぁ。おいしかった」
けぷっと息を吐いて、おなかをなでる憐。
ここまでに彼女が飲み干したカレーの量は膨大なものだが、もちろん満足などしていない。
カレーを! 一心不乱のカレーを!
そんなカレー欲に身をまかせたまま次のレストランに突撃した憐だが、もう『擬態』は使えなかった。
そこで憐は、ついに実力行使を敢行!
ダークハンドで店員を拘束し、力ずくで厨房に突入!
「……ん。命が。惜しければ。カレーを。出すと。良い」
サイレンが鳴り響く中、寸胴鍋を逆さまにしてブラックホールのような勢いでカレーを飲みこむ憐。
そこへ警官隊が乗りこんできた。
「止まれ! カレーを食うのをやめろ!」
「……ん。カレーは。飲み物」
「わけのわからないことを言うな! おとなしく手をあげろ!」
「……ん。手は。あげない。これなら。あげる」
警官の顔面を、寸胴鍋が直撃した。
さらに『発破』と『影鎌』が警官隊にぶちこまれ、たちまち大恐慌に。
そんな警官たちには目もくれず、『ナイトミスト』をまとった憐は意気揚々と次の店へ向かうのだった。
「さぁ〜て、お宝いただいてくぜ〜」
真っ赤なジャケットに身をつつみ、ジタンと書かれたシガーチョコをくわえつつアルファロメオを駆るのは、ルナジョーカー(
jb2309)
助手席にはダークスーツにソフト帽をかぶった鷹神秋鳴(
jb5997)が座り、後部席には小袖に袴姿の蓮城真緋呂(
jb6120)が陣取っている。その手に握られているのは、白鞘の日本刀。
まるきりどこかの怪盗三人組だが、ファンとしてひとつ言いたい。
ふざけんなあああ!
ガシャーーーン(ちゃぶ台返し)
こんな可愛い五●門がいるかあああ!
確実にDカップ以上ありそうな五●門がおるかあああ!
ていうか、なんで不●子じゃないんだあああ!
色々おかしいだろおおお!
もう一回OP出しなおすから、ちゃんと配役してくれえええ!
うがあああああああ!
──MS錯乱中につき、少々おまちください──
ともあれ、ルパ……じゃなくルナンたち三人は、ダンシャークなる宝石を狙っているのだ。
その名前からして、高貴かつエレガントな逸品であることは保証つき。時価にして一兆億万円はくだらない代物なのだ。
「しかし、一体どこで手に入れた。そんな情報」
渋い声で問いかけたのは、秋鳴大介。
「なぁ〜に。俺様の手にかかりゃ、情報なんざ盗み放題だぜ」
「とはいえ、それほどの逸品ともなれば警備も厳重であろうな」
精一杯低い声でしゃべろうとする、真緋呂ェ門。ちょっとかわいい。
「厳重だからこそ、盗み甲斐があるってもんじゃねぇの」
ルナンはどこまでも自信満々だ。
「無論、策はあるのだろうな?」と、真緋呂ェ門。
「策か……。いろいろ考えたんだけどなぁ。とくに名案はねぇから、ぶっつけ本番でやるしかねぇなぁ」
「……この馬鹿者に何か言ってやってくれんか?」
真緋呂ェ門が言い、秋鳴大介は口元だけで笑った。
「ま、いつものことだろ。いざとなりゃ、この馬鹿を置いて逃げればいい」
「おいおい、そりゃひでぇんじゃねぇの〜?」
そんなやりとりをしている間に、現場へ到着。
それは、絵に描いたように厳重警備が敷かれた美術館だった。
ここからどうやって盗むのかと思うところだが、方法は一切プレイングに書かれてなかった。
まぁたしかにイベシナでそんなこと書いてる字数はないけども……。
やむなく彼らは、つまらぬ物を斬ったり、つまらぬ物を撃ったり、つまらぬ物を盗んだり、美女の警備員に捕まりそうになったり、実際にルナンと秋鳴大介が捕まって監禁されたり、捕まらなかった真緋呂ェ門が危機一髪で助けにきたりというお約束を展開しつつ、からくも宝石ダンシャークを強奪。大量のパトカーとカーチェイスしながら、街を駆け抜けるのであった。
「ふぅ……」
そんな騒ぎとは無縁とばかりに、矢野古代(
jb1679)は一人ぽつねんとストリート中央に立っていた。
まわりには、笑顔で歩くカップルたち。
このストリートは、おしゃれなカフェやショッピングモールの並んだデートスポットなのだ。
そんなカップルたちを眺める古代に、いつものシリアスさはカケラもない。
いや、釘バットを手に微笑を浮かべる古代は、ある意味いつも以上にシリアスだ。
彼はひとつ深呼吸すると、突然なにかが吹っ切れたようにカップルたちへ殴りかかった。
「おらぁぁぁ! くたばれ、リア充ゥゥゥ!」
血まみれになって吹っ飛ぶ男女。
悲鳴が上がり、サイレンが鳴り響く。
それを無視して、さらにカップルを襲う古代。
「ハッハー! ○けやヴァルハラァ!」
カキーン!
みごとホームラン!
たちまち、五人あまりの警察官が駆けつけてくる。
しかし古代は慌てず騒がず、冷静に彼らの脚をショット。
「アイエエエエエ!」
「威嚇射撃が必要なんだってな? その間に俺は撃つぜ?」
愛銃FS80を眼前にかざし、スタイリッシュにポーズを決める古代。
その直後、彼の眉間を弾丸が撃ち抜いていた。
「グワー!」
宙を舞い、スタイリッシュに路上へ倒れる古代。
「な、なんだと!? 最初は威嚇射撃じゃないのかよ!?」
あいにく、この街の警官は甘くなかった。威嚇射撃などない。最初からフルバーストの実効射撃である。
「ちっ。ここは三十六計なんとやらってやつだな」
撃たれた箇所を拳でガンガン殴りながら走る古代。
知らない人が見れば頭がおかしくなったのかと思う光景だが、これは『鉄拳治療』という彼独自の回復術なのだ。どうしてこれでケガが治るのかと不思議に思うが、おそらく古代本人も今まさにそう思っているに違いない。
そして彼は自らの頭を殴りつづけながら手近の車をジャック!
ズガアアアアアン!
「グワー!」
なんの前触れもなく、車が爆発した。
アイリスが仕掛けた爆弾である。
「な……っ、なんだ!? なんか俺だけ不幸な目にあってねぇか!?」
それは気のせいだが、少々アンラッキーだったのは事実かもしれない。
「くそ……っ!」
自身の腹や脚を必死で殴打しながら、次の車をジャックする古代。
ズガアアアアアン!
たしかに不幸かもしれない。
というか、このあたりの車は全て爆弾設置済みなのである。
「ぐは……っ。だれだよ、こういうことするヤツは……!」
ようやく事情を悟った古代は、やむなく走って逃げることに。
全身血まみれのうえに足がふらついているが、逃げ切れるのだろうか。
「いや……俺なら逃げ切れる。逃げ切れるはずだ……!」
涙目になりつつ、左右の拳で自らの頭をブン殴りながら走る古代。
それを追う警官たちは、なにか気の毒なものを見るような目をしていたという。
「おらおら! 新興ヤクザ緋打組だ! ビルの倒壊作業に来たぜ!」
緋打石(
jb5225)は、桜庭ひなみ(
jb2471)と環結城(
jb5219)、日下部司(
jb5638)の三人を引きつれて、レッカー車をジャックしていた。
駐車中の車を見つけては、かたっぱしからレッカーで吊り上げ──豪快に投げ飛ばす!
投げ飛ばす!
投げ飛ばしまくる!
当然、あたり一面火の海だ。
運転しているのは結城。
ちなみに彼女はこれが初めての依頼である。いろいろな意味で将来が不安だ。
しかしながら、銃を撃ちまくり、クレーンで車を薙ぎ倒しまくる彼女は、まるで遊園地でキャッキャしている子供のようだ。……あ、一応ここも遊園地でしたね。忘れそうになるけど遊園地の一部でした。
「抵抗する人には容赦しないのですよー♪」
助手席にはひなみがちょこんと座り、ひまわりのような笑顔でマシンガンを撃ちまくってヒャッハーしていた。かわいい顔して、なんということを。
言うまでもないことだが、抵抗しない人にもビシバシ流れ弾が当たっている。
これでも最初のうちは気をつけて撃っていたのだが、騒ぎが大きくなるにつれ収拾がつかない状況になってきたため、もうなんでもいいやという感覚になってきて滅茶苦茶に撃ちまくっているのだ。
「おらぁ! 派手に吹っ飛べやぁ!」
車内に座るスペースがないため、緋打石と司は運転席の屋根に陣取って手榴弾を投げまくっていた。
その暴れぶりは凄まじく、周囲の地形が変わってしまうほど。
一応一般人は巻きこまないようにしているのだが、もうそういう次元ではない。
次から次へと炎上するパトカー。
マネキン人形みたいに薙ぎ倒される警官。
振りまわされるクレーンが対向車を薙ぎ飛ばし、吹っ飛ばされた車がビルに突き刺さる。
壮絶な眺めだ。
「オラオラ! 緋打組のお通りだ! 死にたくないやつはさっさと逃げな!」
そう言いながら、逃げまどう人々に向かって発砲する司。真っ赤なシャツに黒スーツ、そしてサングラスでビシッと決めたその姿は、まるきり別人のようだ。おお、こんなに変わり果てた姿になっちまって。
そんなこんなで、緋打組の四人は『ヒャッハーして日頃のストレスを発散する』という、このアトラクションの目的をとても正しく実行しているのだった。
しかしこれはもう、ヤクザと言うよりテロ集団と言ったほうが良いかもしれない。
──と、そこへ通りかかったのは、ルナン率いる怪盗三人組のアルファロメオ。
「「まぁ〜てぇ〜、ルナーン!」」
緋打石と結城のセリフがハモった。
「ぉわあっ!?」
まさかこんな大型レッカー車に追いかけられるとは思いもしなかったルナン、あろうことかお約束のセリフを返し忘れるという痛恨のミス!
「おいおい……、そこは『あばよ、とっつぁ〜ん』と言うべきところだろうよ」
ソフト帽を手で押さえながら、秋鳴大介が苦い顔で指摘した。
「し、しまった! やりなおし! やりなおしを要求させてくれぇ〜!」
残念ながら、いくらフリーダムなアトラクションでも、そんなことができるはずはなかった。
ともあれ、緋打組とルナン組はここで合流。七人体制となって、より盛大にテロ行為をつづけるのであった。
そんな次第で、いずれもみごとな犯罪者たちだが、だれよりも恐ろしい犯罪を犯しているのは水無月ヒロ(
jb5185)だった。
なんと彼は、もう午後だというのにコンビニで『ニャンダモーニングショット』を購入!
しかも小銭があるのに万札で会計するという悪逆無道ぶり!
さらには、コーヒーと一緒に買ったカップアイスのフタを舐めずに捨てるという背徳的な行為をおこない、食べ終えたカップを『燃えないゴミ』に投棄するという暴挙!
だが、彼の行った犯罪はこれだけにとどまらない。
じつはヒロ、コンビニを利用した際にも数々の犯罪をおこなっていたのだ。
まずは、18才以下閲覧禁止のエロ雑誌を少年雑誌のコーナーに置くという倫理破壊を披露。
次には『菓子パン』コーナーのメロンパンを『総菜パン』コーナーに移動させるという悪辣ぶり。
それだけではない。
買うつもりもないポテチを手に取って床に落とし、中身を何枚か破損。ガリガリくんのニューテイストも、買う気などないのに手に持って、ちょっとだけ溶かしてしまった。
トイレを借りれば洗面台の水を流しっぱなしにしたうえ、そもそも借りるとき店員に声もかけてなかった。店の受けた被害は甚大だ。
さらには、駆けっこしていて転んだ幼女を○○○し、重い荷物をかかえた老女には○○を○○という非人道ぶりを発揮!
そして何より恐ろしいことに、彼は牛男爵を午男爵と間違えていた!
な、なんと……。女の子みたいな可愛らしい顔をして、由緒ある貴族の名に泥を塗るとは……。この一件だけで、彼が『超一級犯罪者』の称号を得たことは間違いない。
しかし、これほどに悪質きわまる犯罪にもかかわらず、サイレンは一度も鳴らなかった。
おお、なんと恐るべき男か! 水無月ヒロよ、おまえはいかなる犯罪をも無罪にしてしまうスキルの持ち主なのか!?
だが、缶コーヒーを飲み終えた彼は、ついに究極の犯罪に手を出してしまう。
それは、自転車泥棒!!
ある意味もっとも身近な犯罪であり、もっとも凶悪な犯罪だ。
「これ、借りてもいいのかなぁ」
ヒロは周囲をきょろきょろしたあと、コンビニの横に置かれていたママチャリを容赦なく窃盗!
その瞬間、サイレンが──
──鳴らなかった。
というのも、そのママチャリは捨てられていたのである。
前輪後輪ともパンクし、ブレーキも利かず、サビだらけのママチャリ。
盗んだバイシクルで走りだすヒロは、じつに楽しそうであった。
このように、C!T!A!のテストプレイは非常な混沌状態に陥っていた。
まさに無法の限りをつくす、二十四人の悪党たち。
だがここに、そんな犯罪者どもを成敗すべく敢然と立ち向かう、ひとりの男がいた!
その名は烏田仁(
ja4104)!
悪を憎み、罪を断ずる私刑執行人と化した鬼が、いま立ち上がる!
そんな仁の前にいるのは、超一級犯罪者・水無月ヒロ!
だがしかし、盗んだ……ではなく拾ったボロチャリで走るヒロは、とても仁の狩るべき対象ではなかった。
やむなく他の犯罪者を探しに行く、クライムファイター仁。
すると、火災現場に遭遇。しかも、ただの火災ではない。燃えているのはガソリンスタンドだ。
燃えさかる業火の中、ユーサネイジアは「死にたい……死にたい……」と繰り返している。
これは確実に、狩るべき犯罪者だ。こんなにわかりやすい放火魔は滅多にいるものではない。
しかし、相手は火の海のまっただなか。突入すれば、無事では済まないだろう。
「ど、どうする……? 行くべきか……?」
ごくりと唾を飲みこむ仁。
だが、どう考えても、ここへ飛びこむのは自殺行為だ。というより、自殺そのものだ。
「……いや、やめよう。俺の狩るべき犯罪者は他にいる……!」
うんうんと自分に言い聞かせて、仁は火災現場を離れるのであった。
次に彼が遭遇したのは、市役所を占拠中の小田切翠蓮。
彼は大量の銃火器を並べ、所員や市民を人質にとって政府(遊園地スタッフ)と身代金の交渉中だった。
「こ、これは……。行くべきか……?」
仁は頭をかかえた。
とうてい見過ごすことのできる犯罪ではないが、なにしろ人質をとられている。無理をすれば、犠牲者が出るのは避けられまい。
「く……っ。駄目だ。無用な血を流すわけにはいかない……」
仁はギリッと歯を噛んだ。
なんということだろう。犯罪者狩りの犯罪者となるはずが、まるでうまくいかない。
「いや、気を落とすな……。たまたま巡り合わせが悪かっただけ。この街には大量の犯罪者がいる。そいつらを狩るんだ……!」
市役所を出た仁は、ストリートの先から喧噪が近付いてくるのに気付いた。
パトカーのサイレン。
逃げまどう人々。
黒煙があちこちから噴き上がる。
まちがいない。悪党がこちらへ向かっているのだ。それも、かなりの大悪党が。
「いまこそ、執行のとき!」
拳銃を抜いて走りだす仁。
そんな彼を出迎えたのは、緋打組&ルナン組のテロ集団だった。
1対7!
しかも相手は巨大なレッカー車!
おまけに山ほどの銃器類を装備!
「な……んだ、と……」
どんなに良いダイスが出ようと、百パーセント勝ち目のない勝負だった。
あまりに無謀な戦いだ。たとえ逃げても、誰ひとり彼を責めやしないだろう。
「いや……もう俺は逃げん! 正義のクライムファイターとして、悪を討つ!」
仁は道路の真ん中に立ちふさがり、昂然と告げた。
「止まれ! ノンストップ! 武器を捨てろ!」
おお、なんたる勇気!
それに今回はちゃんと銃を持っている! 指鉄砲ではない!
勝ち目はある! あるはずだ!
三秒後、レッカー車から投げ飛ばされた救急車の下敷きになって、仁はリタイアしていた。
……うん、毎度ひどい扱いでスミマセン。でもMVPです。
そのころ、沙夜、奏&ファタの三人は、ショッピングモールで大暴れしていた。
車ごと入店した彼女らは、問答無用の無差別攻撃を実行。爆薬と銃弾の雨を降らせ、平和な日常空間を阿鼻叫喚の地獄へ叩きこんでいた。
「フフッ……天使のお迎えですよ」
しとやかな笑顔で手榴弾を投げる沙夜は、心からこのアトラクションをたのしんでいるようだ。
「んふ。なんとも過激なアトラクションじゃの」
ファタは飄々とした態度を貫きながらも、『より派手に、より過激に』をモットーとして、破壊活動に余念がない。
そのときだ。
「黒子だよ! 黒子出たよー!」
そんな声が聞こえて三人が窓の外を見ると、ヒロがママチャリで黒子&キング黒子を追いかけているところだった。
「お、きやがったな。よっしゃ、ぶちころがしてやろうぜ! ヒャッハー!」
奏を先頭に、猛ダッシュで外へ飛び出してゆく三人組。その手にあるのは銃火器の山だ。黒子の命がマッハでヤバイ!
三人が現場にたどりつくと、ヒロがスリコギで黒子のひとりをペチペチしていた。
「うわー。やられたー」
などと、いかにも遊園地らしいリアクションで楽しませようとする黒子たち。
そこへ、奏のM134ガトリングガンが猛然と火を噴いた。
毎分4000発の7.62mmNATO弾を吐き出す、芸術的な殺人機械である。
「qあwせdrftgyふじこlp;!!」
言葉にならない悲鳴をあげて逃げだす黒子たち。
幸いなことに、弾は一発も当たってない。
しかし、逃げた先に待ちかまえていたのは、紗雪、光、露姫、心の四人組。
彼らは道路を封鎖するようにトレーラーを配置し、黒子めがけて一斉に発砲した。さながらマフィアのように統率された動きだ。
「アイエエエエエ!」
降りそそぐ弾雨の中、絶叫しながら反対方向へ逃げだす黒子。さすがのキング黒子も、死にそうな顔になっている。
ちなみに、この一斉射撃も黒子たちには当たってない。
なんという幸運!
だって、キング以外の黒子は一般人ですからね! 当たったらシャレになりませんよ!
というか、なぜ黒子たちはこのアトラクションを巡回しようなどと考えてしまった!?
きっと、なにも考えずにこんなアトラクション作ってしまった企画部長のせいだ!
しかも参加者たちは、黒子が一般人だと気付いてない始末。ここにいるのは全員撃退士だと思い込んでいるのだ。まぁ冷静に考えれば撃退士だってガトリング砲で撃たれたら死ぬと思いますけどね。
訓練された撃退士であるキング黒子にしても、もう大分ヤバイ状態だ。なにしろ彼はここへ来るまでに三つのアトラクションを通過しており、いろいろとひどい目に遭っているのだ。どんな目に遭ったかはそれぞれのリプレイを読んでもらうとして、もう肉体的にも精神的にもズタボロなのである。一般人なら十回ぐらい死んでるところだ。
そこへもってきて、この狂気の沙汰としか思えないアトラクションである。いったいどれほどのギャラをもらったか知らないが、この仕事を引き受けたことを心の底から後悔しているに違いない。
「なかなか当たりませんねぇ。回避特化型なんでしょうか」
小首をかしげながら、マシンガンを連射する沙夜。
その間に、ヒロの投げたスリコギがキングに命中し、憐の投げつけた寸胴鍋が黒子の頭に。
さらにアイリスがコメットを撃ちながら走ってきて、ユーサネイジアがガソリンをまきながら空を飛んでくる。黒子大ピンチ! この二人はヤバイぞ!
その二人の後ろから走ってくるのは、あまりやる気のなさそうな顔の侑吾。しかしながら、ルーンブレイドを手にした彼はウェポンバッシュする気満々だ。そうだ。今回こそ使いきるのだ!
そして再び、黒子めがけて発射されるガトリングガン。
奏ではなく、エルザが撃ったのだ。このときのために、しっかり確保していたのである。
だがもちろん、その攻撃は当たらない。
当たると死んじゃうからね!
「ふむ……。銃は当たらんな……。手段を変えてみるか」
エルザはキャデラックに乗りこむと、キングめがけて冷静に、かつ全力でアクセルを踏んだ。慈悲はない!
そこへトラックごと突っ込んできたのは、ルドルフ&セシル。
キャデラックは側面を激突され、十回ぐらい横転して爆発炎上。エルザはリタイアとなった。
「ひぃぃぃぃ……!」
すさまじい光景を目の当たりにして、青ざめる黒子たち。
そんな彼らをよそに、ルドルフは更なる混沌を招くべく四方八方へ手榴弾をバラまいた。
「せっかくのパーティーだ。より最悪の方向へ持っていこうじゃないか」
「え……? なんだこれ……!?」
なんと、タイミングよくやってきた古代が不運にも爆発に巻きこまれ、ここでリタイア。一日に三回も爆発するなんて、よほどのリア充に違いない。
「ああっ! 矢野さんは俺の獲物だったのに! 許さん!」
露姫が発砲し、ルドルフとセシルが応戦した。
弾丸の雨を受けて、血を吐きながら倒れる露姫。無念のリタイア。
「馬鹿野郎。重体のクセに無茶しやがって……。だが仇は取るぜ! 撃て!」
心の号令で光と紗雪がマシンガンの引き金を引き、ルドルフ&セシルは仲良く退場。
「やったぜ!」
ハイタッチをかわす心と光。そして紗雪。
直後、彼らの頭上からガソリンが浴びせられた。
「皆……我とともに……死んでくれ……」
手榴弾を両手に持ち、真っ逆さまに落ちてくるユーサネイジア。
ドオオオオオン!
ハイタッチしたまま吹っ飛ぶ三人+ユーサネイジア、まとめてリタイア。
そんな風に血で血を洗う戦いが繰り広げられる中、ヒロだけが冷静に黒子を追いかけていた。
「みんな、あっちだよ! あっち!」
「いやぁああああ! 来ないでぇぇえええ!」
恥も外聞もなく、泣きながら逃げまどうキング黒子。
ノーマル黒子のメンバーなど、何人か失禁している。
無理もない。撃退士でさえ倒れるほどの死闘が目の前で繰り広げられているのだ。ライオンとゾウの戦いに巻きこまれたイワトビペンギンみたいなものである。いま生きていることが奇跡と言ってもいいぐらいだ。
しかし、そんな哀れな黒子たちの前に立ちはだかったのは、緋打組&ルナン組!
万事休すか!?
「怪盗ルナン、ただいま参上! さぁ、派手にいくぜぇ〜?」
クレーンから放り投げられた車は、黒子たちの頭上を飛び越えてヒロの目の前へ。
「うわああああ!」
だが、間一髪というところで侑吾が立ちはだかり、ウェポンバッシュを発動!
真っ二つになった車は綺麗に侑吾とヒロを避けて、後方で爆発!
「おいおい、なにするんだよ」
ぽりぽりと頭を掻きながら、侑吾が言った。
「なぁ〜に言ってくれちゃってんの。俺たちは義賊だぜぇ〜? 仲間以外の犯罪者は、こらしめちゃうよぉ〜?」
「そういうことか……」
「見れば、ちょうど7対7。なんだか面白いコトになりそうじゃねぇの。祭りは派手にやらねぇとなぁ〜?」
「選択の余地なし、か……。この世界は非情だな」
意を決するや、躊躇なく突撃する侑吾。
待て待て。ウェポンバッシュはもうないぞ!? ほかのスキル使えるのか!? 使ってるところ見たことないぞ!?
「みんな、援護して!」
奏が言い、ファタと沙夜が発砲した。
憐は寸胴鍋をヘルメット代わりにして突撃し、ヒロはスリコギ片手にママチャリで突入! アイリスはコメットが切れたので、『インパクト』を叩きこむべくペンを片手に突貫!
三秒後、侑吾を主軸とした突撃班は蜂の巣になって全滅!
装備に差がありすぎた! ていうかスリコギって!
ちなみに黒子たちは、とっくに次のアトラクションへ逃げこんでいる。こんなところにいられるわけがない。
「あはははは……。これは……逃げるしかない感じ?」
あまりに一方的な結果を前に、さすがの奏も声が引きつっていた。
「そうですね……。ちょっと分が悪すぎます」
「では逃げるとしようかの。せっかくのアトラクションじゃ。最後まで遊びたいからのう」
沙夜とファタが同意し、三人はまたしても逃走劇を演じることとなった。
うなりをあげて走りだすBMW。
「「まぁ〜てぇ〜、ブレイカァ〜!」」
ノリノリで追いかける、ルナン一行七人。
追われている奏たちは、ネタで切り返す余裕もない。
ふつうならあっというまに捕捉されて決着だが、ここで奏が優れた運転技術を見せる。息詰まるカーチェイスを披露。
しかし、逃げきれるはずもなかった。
後方から乱射される弾丸がBMWのタイヤを撃ち抜き、大きく減速。
「ちぃ……っ!」
スピンしないよう絶妙にカウンターをあてながら操縦する奏だったが、後輪が二つともパンクしてしまうと、もう速度は出せなかった。
「ざぁ〜んねん。さぁ観念してもらおうかぁ?」
アルファロメオが横に張りつき、ルナンが顔を出した。
反対側には結城の運転するレッカー車が並び、完全に挟まれた状態だ。
これはもう、どうしようもない。
「わかった。負けを認め……」
奏が言いかけたとき、プツッという音がした。
次の瞬間。彼女たちのBMWも、ルナン組のアルファロメオも、緋打組のレッカー車も、全部まとめて吹っ飛んでいた。
「そういえば、ここにも山ほど仕掛けておいたのう。爆弾……」
ファタが言い、『Orz』のポーズを作りながらガクリと崩れ落ちた。
ここで一気に十人がリタイアし、ゲーム終了!
──とは、ならなかった。
まだ、翠蓮が生き残っている。
市役所をジャックした彼は、黒子退治などそっちのけで身代金の交渉中なのだ。
なんという、Mrマイペースぶり!
「……なに? 馬鹿を申せ。一人あたま百億円が最低ラインよ。これ以上は譲歩できんのう。それに、要求した寿司もまだ届いておらぬぞ。あまり、わしを甘く見ぬほうが良い。人質の一人や二人、見せしめに殺してしまっても良いのだぞ? まかり間違ってスーパーのパック寿司など送ってこようものなら、人質全員の命はないものと知るが良い」
結局その要求が果たされることはなかったが、時間いっぱいまでテストプレイをたのしんだのは彼ひとりだけであった。
──後日、サバイバル・クライム・アトラクション『C!T!A!』は、あまりに危険すぎるという理由で計画中止になったそうな。最初からわかってただろというツッコミは受け付けない。