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マスター:牛男爵
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
参加人数:13人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2017/01/18


みんなの思い出



オープニング


 ここは学園某所の会議室。
 10名ほどの学園関係者に混じって、小筆ノヴェラ(jz0377)は今日も飲酒に余念がなかった。
 見た目は中学生ぐらいの少女だが、天魔の血が半分流れているため実年齢は外見どおりではない。実際いくつなのかは定かでないが。
「……というわけで小筆先生。今回の調査はあなたに頼みます」
 学園上層部のお偉い人が、決定事項のごとく告げた。
 突然の指名に、ノヴェラは驚いて振り向く。
「え? 僕がやるの? なんの調査だっけ?」
「会議を聞いてなかったんですか。依頼で支給される久遠の使い道についての聞き取り調査をするという方向で、話がまとまったところでしょう」
「冗談冗談。ちゃんと聞いてたよ。でも何でそんな調査するの?」
「まったく聞いてませんでしたね。一般的な依頼では、経費として3000久遠まで支給されることは小筆先生も御存知と思いますが……」
「そりゃもちろん。僕も学園の卒業生だからね」
「あなたのような人を卒業させるべきではなかったとも思いますが……それはさておき、このところ『久遠の支給額を増やしてほしい』という要望が多く寄せられてましてね。もちろん簡単に応じるわけにはいきませんが、まずは検討するための資料として『実際に生徒たちがどのように久遠を使っているか』を把握しようということです」
「うんうん、わかった。僕にまかせて。当然、この調査にも報酬と経費は支給されるよね?」
「それはまぁ……一応は生徒の協力をあおぐわけですし」
「オッケー。あとは僕がまとめるよ。ひとり3000久遠だから、全額あつめたら派手に忘年会が……いやなんでもない。まじめに調査するって」
 などと言いつつ、会議室を出て行くノヴェラ。
 室内の誰もが、この人選は間違いだったのでは……と反省するのであった。
 その翌日、『3000久遠の正しい使いかたをみんなで考えよう!』という告知がアナウンスされた。




リプレイ本文



 まず陽波透次(ja0280)が登場する。
 彼は頭がイカれていた。3000久遠の使い道として、焼肉以外の選択肢など思いつきもしなかった。だが彼はそれを正しい久遠の使いかただと信じこんでいた。
 透次は自他ともに認める熱心な焼肉部員だ。焼肉補正能力によって『キングオブブレイカー』の称号を獲得したのも記録に新しい。
 そんな彼にとって、今回の依頼は絶好の焼肉チャンスだった。
 焼肉部長カルーアと同居人セセリを依頼に誘い、用意したのは9000久遠。
 美術室を舞台に、2016年最後の焼肉パーティーが始まろうとしていた。


 次に月乃宮恋音(jb1221)が登場する。
 彼女は非戦闘要員だった。いつの頃からか、彼女は自分が天魔との戦闘ではなく事務作業に向いていることを自覚していた。最後の『戦闘』依頼に参加したのがいつだったか、もう彼女自身も忘れそうなほどだった。
 彼女は滅多に雄叫びをあげて戦うことなどなかったが、学園生の何人かは彼女が気狂いじみた戦闘を繰り広げるところを目撃している。
 この日、恋音は3000久遠を使ってコンビニで食材を購入してきた。
 鯖の水煮缶、玉ねぎ、セロリ、クリームチーズ……等々。
 これらを塩胡椒やタイムパウダーで調味し、おつまみに仕上げるのだ。
 焼肉パーティーに海鮮料理が加わり、海の幸と山の幸による饗宴が始まる。


 ここで登場するのは白野小梅(jb4012)
 彼女は重度のドーナツ中毒だった。支給された3000久遠でドーナツを買い荒らすことに一切の躊躇はなかった。
 ここ久遠ヶ原島には『出前迅速』の看板を掲げるドーナツ宅配店が存在する。『島内どこでも30分以内にお届け。時間内に届けられなかった場合は切腹しておわびします』という宣伝で知られる、久遠ヶ原ニンジャドーナツだ。まさに小梅のためにある店と言えよう。
 もともと彼女は天界からの侵略者であり、人類の敵だった。一説によれば人間の子供をかばって天界を追放されたとされるが、ドーナツの存在が彼女を人間界につなぎとめた可能性も否定できない。


 ラーメン王・佐藤としお(ja2489)が登場する。
 その二つ名のとおり彼は久遠ヶ原随一のラーメン通であり、病的なラーメン中毒だった。3000久遠の使い道などラーメンを食べる以外にあるはずもなく、依頼を受けるたびに経費をごまかしてラーメン代にあてるのが彼の日常だ。
 この日の昼食も当然ラーメンであり、朝食もラーメンであり、夕食もラーメンになるだろう。
 彼の肉体はラーメンで出来ている。成分としては豚骨由来のものが多く、コラーゲンによって彼の肌はいつもツヤツヤである。


 次に登場するのは逢見仙也(jc1616)
 本名を、ディオハルク・エイギル・アルメルマイヤーという。
 だが、その名で彼を呼ぶ者はほとんどいない。
 久遠ヶ原の住人らしく、彼もまた非常な自由人だった。支給された久遠をちょろまかして食費にするなどは日常茶飯事。なにしろ撃退士の生活には金がかかる。衣食住はもちろん、魔具魔装にはいくら金を注ぎこんでも足りない。強化した装備品が一瞬にして屑鉄化することもある。その理不尽を思えば少々の久遠を頂戴するぐらいは当然というのが、仙也の考えだった。末期的な思想である。


 そして焔・楓(ja7214)が登場する。
 彼女はどこまでも純真無垢であり、気が狂っていると言っても良いほどまでに天真爛漫だった。
 古着屋で働く彼女は毎日のように新品の衣服を着せられ、それらは『現役女子中学生の使用済み着衣』として販売されている。
 100久遠で仕入れたパンツを10000久遠で売りさばくという闇の錬金術によって莫大な利益を得ているのは、古着屋店長の瀬野。
 利用されているなどと考えもせず、楓は瀬野とともに美術室を訪れる。


 ここで砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)が登場する。
 一見すると英国紳士の彼は、じつのところ極度の変人だった。
 3000久遠の使い道として彼が購入してきたのは、エロ本の束。
 貴重な支給金でこんな代物を買ってきたのは彼だけだが、ほかの何よりも『実用性』は高い。
 彼は信じていた、エロ本の有用性を。これが天魔を打ち倒し、人類に平和をもたらすのだと。
 言うまでもなく彼は本気だった。


 次に登場する華宵(jc2265)は、いわゆる『オネエ』だ。
 オカマでもゲイでもない。ただ女っぽいだけの男である。
 白皙の美青年に見える華宵だが、その正体は天魔の血を引く後期高齢者。本来なら現役を退いて悠々自適の年金生活を送っても良い年齢である。ただし何千年何万年と生きる天魔に対して国民年金が支給されるのか、さだかではない。
 そんな彼が3000久遠で購入したのは、『年末でっかい宝くじ』10枚。
 1枚300久遠の宝くじをちょうど10枚買えるという点で、この使いかたは優れていた。当たらなければゴミである。


 鴉乃宮歌音(ja0427)が登場する。
 中性的な容貌を持つ美少年である彼は、学園きってのクールな戦闘員だった。
 いかなる任務も淡々と遂行する歌音は、その白衣姿も相俟って『Drクロウ』とも呼ばれている。
 実利的な思考なので、彼は無駄な物を買わない。依頼に応じて必要な消耗品を準備するのが、彼の考える『正しい3000久遠の使いかた』だった。
 歌音が持ってきたのは、ロープにマッチ、電池、ちり紙。水、酒、調味料、戦闘糧食……等々。遊びは一切ない。酒は消毒用である。


 雪室チルル(ja0220)は、非常に知能指数が高かった。
 彼女に言わせれば、3000久遠は決して高い金額ではない。依頼の報酬金と比較すれば、10分の1にも満たないのが現実だ。
 しかしちょっと待ってほしいとチルルは訴える。たしかに3000久遠は子供の小遣い程度でしかないが、だからといって何もできないわけではない。たとえばソーラーランタンなどは2000久遠で購入可能であり、夜戦では大いに力を発揮する。
 チルルはこのランタンをLV5まで改造しており、自慢の一品として愛用していた。
 暗いところでは目が見えないので照明器具を用いるという、チルル以外には思いつかない頭脳作戦だ。


 次にエイルズレトラ マステリオ(ja2224)が登場する。
 彼は撃退士である以前に奇術士であり、超絶的な回避力を利して天魔を撃滅する優秀な戦闘要員だった。
 彼にとって3000久遠は、天魔との戦闘で疲労した体を癒すための必要経費に他ならない。よって衣食住などの生活費や娯楽費にまわすのが、彼の使いかただ。
 とりわけ年末年始はスマホゲーのイベントラッシュで、いくら課金しても足りやしない。目当てのカードやサーバントを引き当てようと思ったら、それこそ当たるまでガチャるしかないのだ。3000久遠など一瞬で溶けてしまう。
『重課金兵』の称号が彼に付与される日は、そう遠くない。


 雫(ja1894)は学園屈指の戦闘要員であり、一種の戦闘狂だった。
 彼女からすれば支給金は依頼遂行のために使うものであって、それ以外の何物でもない。
 冗談を解さない性格なので、今回の聞き取り調査にもいたって真面目な対応だ。
 そんな雫が購入してきたのは、暗視対策用の懐中電灯。幅広い使いかたのできるベニヤ板。さらに、小麦粉、硫黄、木炭、硝酸ナトリウム、生石灰等々。
 これらの物質から何が作られるか、識者であれば想像に難くない。


 最後に染井桜花(ja4386)が登場する。
 彼女もまた優秀な戦闘要員であり、かなりの戦闘狂だった。
 いままでに桜花が撃退してきた天魔の数は計り知れない。中には『やむをえず撃退した』天魔もいる。ディアボロの基本的な素材は人間の死体であるため、不幸な巡り合わせも少なくはないのだ。
 一家4人が殺害されてディアボロに作り替えられ、それを殲滅する依頼に参加したのは桜花の記憶に生々しく刻み込まれている。
 彼女が今回3000久遠で買ってきたのは、そんな被害者家族の墓前に供えるための物だった。


「さあ、宴会をはじめよう♪」
 集まった生徒を前に、小筆ノヴェラ(jz0377)はパンッと手を叩いた。
 彼女は本件の総監督であり、重度のアルコール中毒だった。聞き取り調査を引き受けたのも、すべて宴会のため。
 会場となる美術室は既に焼肉をメインとしたパーティー料理に占拠され、絵画や彫刻は部屋の隅に追いやられていた。誰が見ても完全な宴会場である。あるいは焼肉屋だ。焼肉屋の宴会場かもしれない。
「始めましょう、今年一年間の総決算となる焼肉パーティーを! いざ焼肉部始動! ビバ焼肉!」
 透次が力強く言い放ち、カルーアとセセリが「おー♪」と応じた。
 学園から依頼された正式な調査依頼が焼肉パーティーに変じてしまったのは、少なからず……というより全面的に透次のせいだった。が、それを咎める者はいない。ノヴェラが出てきた時点でまともな展開にならないことなど誰もが承知だ。
 しかし中には疑義を挟む者もいる。
 買ってきたベニヤ板を背中に担ぎながら、雫が言った。
「支給金の使いかた調査と聞いて来たのですが……なぜか焼肉部の活動になってますね。まぁ別にいいんですけど」
 雫はこれまでに何度も焼肉部と活動をともにしている。密林で焼肉したり、天魔と戦いながら焼肉したりしたこともあった。それに比べれば今回のパーティーは平和そのものだ。ぬるすぎてアクビが出るほどである。
「うぅん……まさか焼肉部が始まるとは、思いもしませんでしたねぇ……。しかし、これはこれで怪我の功名というものでしょうかぁ……」
 コンビニで購入した食材を使いつつ、恋音は酒のつまみになる物を作っていた。
 彼女も焼肉部の一員だが、肉ばかりでは飽きてしまう。栄養バランスも悪い。はからずも恋音の作戦(?)が当たった形だ。
「なんだか知らんが、一回分の食費が浮くのはありがたいな」と言いながら、仙也は遠慮なく焼肉をほおばっていた。
 生活のためなら支給金をちょろまかすのも厭わない彼にとって、タダ飯ほどうまい物はない。
『意味あるのかね、この調査』などと考えつつ参加した仙也だが、こういうことなら大歓迎だった。
「お料理がいっぱいなのだー♪ あたしはおやつを買ってきたのだ。バナナもあるから、みんなで食べるのだ♪」
 楓はいつものように元気だった。
 幼女と言って良いほど華奢な体つきながら、彼女は異常なほどの大食漢である。彼女の突撃したテーブルからは、あっというまに料理が消えてゆく。
 この学園には楓のようなブラックホール胃袋の持ち主が少なくない。異様な女装率や着ぐるみ率と並んで、久遠ヶ原七不思議のひとつと言えよう。
 ともあれ、集まった生徒たちはそれぞれ好きなように焼肉パーティーをたのしんでいた。
 だれもが当初の目的を忘れて、今年最後になるであろう宴会を満喫している。
 そう、これこそ焼肉の力! ほかの料理では、こうは盛り上がらない! 透次大勝利!

「ちょっと待ったぁー!」
 チルルが大声を上げた。
 突然のことに、皆そろって彼女のほうを振り向く。
「たしかに焼肉はおいしいけど(もぐもぐ)みんな本来の目的を見失ってるんじゃない? (むぐむぐ)これは3000久遠の使いかたを調査するっていう、れっきとした学園からの依頼なの。肉欲に負けて依頼を達成できないようでは(ぱくぱく)撃退士失格よ!」
 その指摘で、生徒たちはハッと我に返った。
 そう、これは正式な『依頼』なのである。断じて忘年会ではない。
「じゃあ雪室君はどうやって使うんだい?」
 ワイングラス片手にノヴェラが訊ねた。
「いい質問ね! あたいが買ってきたのはコレ! ソーラーランタンよ! いい? 夜戦で最も気をつけなければならないのは視界の確保! どんなに強い武器も当たらなければ無意味! そういう意味においてソーラーランタンは最強の武器に匹敵するのよ! 充電するだけで使えるエコなところもGoodよね!」
「雪室君って、そんな真面目なキャラだったっけ?」
「あたいはいつでも真面目よ!」
 最近のチルルは確実に知能が発達していた。
 以前の彼女なら『目が見えなくても攻撃を当てればいいのよ!』とか主張してただろう。暗い場所では明かりをつけるということに気付いただけでも大幅な進歩だ。

「うふふふ、真面目な答えねぇ……じゃあ次は私が答えるわ」
 艶然と微笑みつつ、華宵は日本酒の盃をあおった。
「大丈夫かい? 飲みすぎ注意だよ?」と、ノヴェラ。
「平気よぉ〜、まだ全然飲んでないから〜♪ あはははは♪」
 答える華宵の周りには、一升瓶が散乱していた。
 すでに酔っぱらっているのは間違いない。彼は重度の笑い上戸なのだ。
「で、3000久遠の使いかたよね? 私が買ってきたのは宝くじよ。みんな考えてみて? この学園では『難しい/危険』な依頼を成功させてMVPゲットしたとしても、報酬は24770久遠ぽっちしかもらえないのよ。危険手当もないのに命がけで、準備金の10倍ももらえないなんて大変だと思わない?」
 その意見に、大半の生徒がうなずいた。
 我が意を得たりとばかりに、華宵は続ける。
「そこで宝くじの出番よ。1等前後賞あわせて10億当たるかもと思ったら、おちおち死ねないでしょ? 心の支え、御守り代わりにならない? おまけに来年9月2日までチャンスは継続。ハズレ券の再抽選、おたのしみ抽選があるのよ。この結果がまた気になってモチベ継続というわけ。当選発表前に人類が滅んだら結果もわからないし、それを阻止とかで依頼も頑張れるんじゃない? ……まぁ最終的には『夢を買ったんだ』ってオチでしょうけど。あはははは♪」
 宝くじの束でテーブルをパンパンたたく華宵。
 その姿は完全にただの酔っ払いだった。

「夢を見るのも良いが、個人的には現実を重視したいね」
 歌音がクールに意見を述べた。
 彼が持ってきたのは、いわゆるサバイバル用品だ。
「たとえば、このロープ。依頼によっては高い所への上り下りに使ったり、荷物を吊り下げたり、敵を捕縛するのにも使える。酒と調味料があれば、野生動物を獲って食べることもできる。蛇でも蛙でも、なんでも捌いて食べて生き残るのさ」
「たしかにこれは現実的だね」と、ノヴェラ。
「あとは嗜好品かな。飴やガム、紅茶、煙草……つまり自分への御褒美さ。戦場において士気は大事だからね。やる気があれば何でも出来るわけではないが、ないより遙かに良い。ちなみに私は普段からクッキーを持ち歩いてる。先生もいかがかな?」
 歌音がクッキーを差し出した。
 もちろん手作りである。おいしいのは保証つき。

「さて、佐藤君には訊くまでもないと思うけど……当然ラーメン代にするよね?」
 唐突にノヴェラが問いかけた。
 食べかけのラーメンを「ぶほっ!」と噴き出しつつ、としおは答える。
「な、なにを言うんですか!? たかが3000、されど3000久遠ですよ!? ときには命がけの依頼もあって、その報酬の一部として頂くんですから、そりゃ大事に使いますよ! 依頼によっては要救助者も出たりしますから、救助後の簡単な食料や暖を取るブランケットを用意したりね! とにかく支給金は自分のためでなく他人様の為に使うものでしょう! ラーメン王の名にかけて嘘は申しません! ええ、そりゃもう!」
 堂々と嘘をつくラーメン王。
 彼を知る誰もが、『嘘だな……』と心の中で呟くのも当然だった。
「支給金をもらった直後にラーメン屋へ駆け込むあなたの姿を何度か目撃していますが……きっと『節約』したのでしょうね」
 雫が淡々と指摘した。
「ちょっ、シーッ!」
 あわてて人差し指を立てるとしお。
 事実を隠蔽できていると、彼は本気で考えているのだ。

「まぁ支給金をどう使おうと自由です。ちなみに私は、こんなものを買ってきました」
 雫が取り出したのは、懐中電灯、小麦粉、ベニヤ板。
 そして硫黄や木炭をはじめとする爆薬の材料だった。
「以前は今ほど購買が充実してませんでしたからね……暗視対策として懐中電灯やLEDランプは重宝しました」
 その言葉に、すかさずチルルが反応した。
「あたいと同じ発想とは、なかなか頭脳指数が高いわね! でもソーラーランタンのほうが優秀よ! だってエコだし! エコ! ちきゅーにやさしいのよ!」
「地球に優しい人はミサイルを投げたりしないと思いますが……まぁいいでしょう」
「しかたないでしょ! そういう競技だったんだから! ふかこーりょくよ!」
「そうですね。では購入品の説明に戻ります。この板は、罠が仕掛けられたエリアを抜けるのに使いました。小麦粉は調理用ではなくて、蜘蛛の糸が張り巡らされた建物に入るとき粘着力を落とすために使用しました。……懐かしいですね」
 チルルを無視してサラッと説明する雫。
 くだんの競技で雫の『ミサイル連続投法』に敗れたチルルとしては、面白くない話である。
「そっちは爆弾の材料かな?」
 ノヴェラが指差した。
「一目で見抜くとは、さすがですね。でも私は爆弾素人なので、うまく調合できないんですよ。威力がいまいちの上に煙がひどくて……」
「なら僕が協力するよ。アウルの爆破もいいけど、やっぱり実物の爆弾が一番だからね♪ よし早速とりかかろう!」
 などと腕まくりするノヴェラだったが、爆破オチでパーティーをブチ壊されてはたまらないと焼肉部が引き止め、からくも悲劇は避けられたのであった。

「しかし、よくわからない調査ですね。支給金の使い道なんて、その時その時で違うでしょうに」
 楓の持ってきたチョコレートをかじりつつ、エイルズはどうでもよさそうに言った。
 実際のところ彼の言うとおりで、3000久遠をいつも同じように使う者は滅多にいない。そんなのは、としおぐらいだ。
「僕もそう思うけどね。お偉い人たちからすると、『しっかり調査しましたよ』っていう事実がほしいのさ」
 ノヴェラが答えた。
「大人の事情というやつですかね。一応僕の使いかたを答えると、心身維持のためにその時その時に応じて最も有効な運用をさせていただいてます。撃退士は体と心が資本ですからね。自分自身のメンテナンスは欠かせません」
「具体的に言うと?」
「そうですね……普通に外食をしたり、服を買ったり、ゲーセンでリフレッシュしたり……最近ではスマホゲーの課金にも回してます」
「ゲームねぇ。オススメとかある?」
「それはいくらでもありますよ。まずは先日めでたく完結したフェイ
「あ、待って。話が長くなりそうだ。続きは全員のアンケートをとってからにしよう」
 ノヴェラの判断は賢明だった。
 時間はあるといっても、まずは仕事を済まさねばならない。

「個人的には、こんな調査に意味あるのかと思うね」
 エイルズと同じく、仙也も懐疑的だった。
 とはいえ、今までの話は聞いているので事情はわかっている。
「いや、わかってるよ? 調査したっていう事実がほしいんだろ? なんであれ支給額が増えるなら、それはそれでありがたい」
「話が早くて助かるよ。じゃあ逢見君の回答を教えてくれるかな」
 ノヴェラが話を促した。
「この時期は寒いんで、屋外での依頼にはカイロが必需品だな。本当はこたつを持っていきたいが、そういうわけにもいかんしな。待ち伏せをしたりする場合には軽食を買うこともある。カロリーメ●トとか手軽でいいな。個人的にはプレーンが好きだ、依頼の場所によっては地図も欠かせない。人間の土地なんぞ人間よりわからんしな」
「なんだかんだで真面目な回答ありがとう」
「さっさと終わらせて肉を食べたいだけだ。以上」
 言葉づかいは雑だが、依頼には真剣に取り組む。それが仙也という男なのであった。

「この調査に意味があるか否か……それは来たる最終決戦の日になればわかるさ」
 妙にキザっぽい手つきで、ジェンティアンは前髪を掻き上げた。
 黙っていればパーフェクト紳士の彼だが、聞き取り調査という依頼のため口をきかないわけにもいかない。
「じゃあ砂原君の回答を聞かせてもらおうかな」と、ノヴェラ。
「もともと僕は、支給金をそのままもらうことって少ないんだよね。じかに品物で受け取るから。そんなわけで……今日はこれを持ってきたよ♪」
 爽やかな笑顔でジェンティアンが取り出したのは、数冊の成人向け雑誌──いわゆるエロ本!
「砂原君は依頼でこういう本を使う趣味があるの? 天魔フェチ?」
「いやいや、そんな趣味はないよ。そもそも僕は女の子に不自由してないから無用だし。でも噂によると、某冥魔空挺団の居室にもベッドの下にエロ本が隠してあったそうじゃない。部屋主は予想つくけどさ。これってつまり、天魔でも『そういうコト』に興味ないわけじゃないってことだよね? だったら、こういう本で連中の注意を引いたり、逆に『近寄んなスケベ!』とか逃げてくれたりしないかなぁ。……いや僕は本気で言ってるよ? こうして沢山たばねれば、人間相手なら鈍器代わりにも使えるし♪」
 などと言いながら、エロ本の束で素振りを始めるジェンティアン。
 ここだけ見たら、完全にアタマおかしい系の人だ。
「たしかに撃退士の力で一般人を殴ったら、エロ本の束でも撲殺できるね。殺されたほうは成仏できないだろうけど。天魔相手に陽動で使うのも行けるかもしれない」
「でしょ? もしかすると最終決戦ではエロ本が神器になるかもしれない。そのときに備えて、いまから内容を吟味しておかないと。小筆センセも協力してね? たとえば、この子とかどうかなぁ? それともこういうのが好み?」
 ノヴェラの横に座ると、ジェンティアンはエロ雑誌をペラペラめくっていった。
「いや、こういうのは好みがあるからね。天魔相手に使うなら、まずは『シンパシー』で性癖を調べないと」
「シンパシー! その発想はなかった! さすが小筆先生!」
 真顔で驚くジェンティアン。
『シンパシーが通じる相手なら普通に殲滅できるだろ……』と誰もが思ったが、あまりにアホな会話のため誰もツッこまなかったという。

「ここで、あたしの出番なのだー♪」
 バナナをもぐもぐしながら、楓が元気よく手をあげた。
「焔君が買ってきたのは、お菓子だよね?」
 ノヴェラが確認した。
「それだけじゃないのだ。いつもどおり、換えの下着も買ってきたのだー♪」
「焔君はいつも絶叫マシンにでも乗ってるのかな?」
「乗ってないけど、どーゆーわけか不思議と着替えることが多いのだー。最近は洋服屋のアルバイトで脱いだり穿いたり忙しいのだ♪」
 無邪気に答える楓。自分のパンツが高値で売買されていることを彼女は知らない。
 ノヴェラは瀬野の方を振り向くと、やんわり釘を刺した。
「商売熱心なのはいいけど、あんまり目立つと摘発されるから気をつけてね」
「そのへんは心得てます。ところで先生、レアな物件が入荷したんですが……」
「待った瀬野君、そういう話は後にしよう。僕にも一応、立場ってものがあるからさ」
 真剣な顔で瀬野の口を止めるノヴェラだが、『なにをいまさら……』というのが生徒一同の感想だった。
 ただし楓当人が何もわかってない点は問題だ。
「来年は今年以上に部活がんばって強くなるのだ♪ アルバイトもがんばって装備も鍛えるのだー♪ だからぶちょー&てんちょー、これからも指導よろしくなのだ♪」
 指導を仰ぐ相手を完全に間違ってるが、ならば誰に教われば良いのかというと難しい問題であった。

「ところで染井君。今日は普段以上に静かだけど、どうしたの?」
 ふと気付いたように、ノヴェラが桜花のほうを見た。
「……私は……いつもどおりだ」と、無表情で答える桜花。
「そうは見えないよ? とりあえず調査だから、染井君も答えてくれる?」
「……私は普段……支給金は利用しない」
「ん? ケーキとか人形とか、買ってきたの染井君だよね?」
「……一度だけ……支給金を使ったことがある……そのときの品だ」
「くわしく聞いてもいいかな。報告書にまとめないといけないからさ」
「……話せば長くなるが……とある家族の墓前に供えた……今でもたまに『会いに』行くことが……ある」
「墓参りって意味かな」
「……ああ……子供は誕生日に死んだらしい……だから使わせてもらった」
「天魔被害者への供物に当てたわけか。いいね、これは説得力ありそうだ」
 ノヴェラは笑顔で応じた。
 無神経な態度だが、毎日のように天魔が出没する世界情勢では無理もなかった。

「そうだ。陽波君と月乃宮君にも一応訊いておかないとね。ふたりの支給金の使い道は? うん、焼肉と食材だね。では以上」
 ノヴェラは一方的に問いかけると勝手に答えを決めつけて、始まる前に会話を終了させた。
 透次はこれに対して一切反論せず、こう言うのだった。
「僕は今日、この場を借りて焼肉パーティーできただけで満足です。焼肉には人々の絆を深め、健康な心と体を育む力があると、皆に実感してもらえたことでしょう。健全な精神は健全な焼肉に宿る! 我思う、ゆえに焼肉あり!」
 その意味不明だが力強い宣言に、会場から大きな拍手が寄せられた。
 そもそも今回の忘年会は、透次がいなければ成り立たなかったのだ。
「ありがとう! ありがとうございます、みなさん! そして焼肉部の仲間たち! これからも僕は焼肉の力を伝えるべく、身命を賭して邁進する所存です! 部長であるカルーアさんを差し置いて僕ごときがこんなことを言うのも烏滸がましいかもしれませんが、僕は本気です! 天界、魔界、冥界、そして人界……それら全ての生きとし生けるものたちが仲良く七輪を囲んで焼肉をたのしめるような……そんな世界を、いつか僕は実現したい!」
 無駄に暑苦しい演説をぶちかます透次だが、そこには彼の本気が溢れていた。
 もしかするとそんな世界も現実になるかもしれない……そう思わせるだけの力が漲っている。これもまた焼肉の力なのか。

「あのぉ……盛り上がってるところ、もうしわけありません……私にも少し、しゃべらせてもらっていいでしょうかぁ……?」
 すべてを持っていきそうな透次の勢いに押されながらも、恋音はおずおずと手をあげた。
 さすが魔王。この革命組織の党大会みたいな空気の中で発言しようとは。こちらもまた、乳の持つ力なのか。
「どうぞ、同志月乃宮君。発言を許可するよ♪」
 ノヴェラが微笑みを返した。
「ありがとうございますぅ……。えとぉ……みなさん御存知のとおり、もともと支給金で買えるのは、『コンビニで扱っている商品程度』なのですけれどぉ……最近では、多くの店舗で生鮮食品の取り扱いが始まりましてぇ……一部のコンビニでは、かなり豊富な種類のハーブなども購入可能なのですよぉ……。今回私が用意した鯖料理も、すべてコンビニで買いそろえたものですぅ……」
「へぇー、最近はコンビニの食材だけで、こんな料理が作れちゃうのか」
 驚いたようにノヴェラが言った。
 彼女はコンビニ弁当の愛好者だが、料理はしないので食材コーナーを見ないのだ。
「そうなんですよぉ……コンビニ程度と言っても、馬鹿にできませんねぇ……。さらに言うなら、ネット通販で商品を購入し、コンビニで受け取る形にすれば、世間で市販されている商品はおおよそ買えることに……」
「月乃宮君はルールの穴を突くのが好きだねぇ」
「そ、そういうつもりは、まったくありませんよぉ……? ただ『効果的な支給金の使いかた』を突きつめると、こういう結果になっただけですぅ……」
 慌てて釈明する恋音。
 だが彼女の言うとおりで、いまや3000久遠以内の物品なら何でも手に入る時代だ。そのうち『ロシア軍払い下げの原子力空母買ってきた。乗組員付きで』などという生徒さえ出てくるかもしれない。恐ろしい世の中である。

 そんな各自の回答を、小梅はノヴェラの横にちょこんと座って聞いていた。
 先にも言ったとおり、彼女の3000久遠は全てドーナツ代にあてられている。
「そろそろだよ。そろそろドーナツが来る時間だよぉ」
 配送指定した時刻に差し掛かり、そわそわしながら壁時計を見守る小梅。
 そこへ、見計らったように宅配要員の忍者が駆け込んできた。
「忍者ドーナツ一丁おとどけでござる。代金は前払いで戴いておりますゆえ、しからばごめん!」
 風のように現れた忍者は、風のごとく去っていった。
 小梅の手元に届けられたのは、デリバリー用の紙箱に入った3000久遠分のドーナツである。
「やっぱり白野君の使いかたはそれだよね」
 ノヴェラがうなずいた。
「当然だよぉ♪」と応じつつ、小梅はもう1秒も待てないとばかりに箱を裂き開いて個包装をバリバリ。念願のドーナツとご対面である。
「やったー、博多焼きドーナツぅ♪」
 無垢な瞳をキラキラさせながら、小梅は一気にほおばった。
 ふわっとした食感。やさしく香る甘味。『油で揚げないドーナツ』独特のおいしさが小梅を幸福に導いた。
「ほふひー(おいしいー)♪」
 その天使のごとき笑顔は、CMに使えるレベルだった。
 ちなみに小梅は正真正銘の天使である。『天使も降伏する絶品ドーナツ』などと宣伝すればブレイク確実。
「おいしそうに食べるねぇ白野君」
 映画監督ノヴェラも、このシーンには納得だった。
「だって、おいしーんだもぉん。せんせーにも、おすそわけしてあげるぅ♪」
 ノヴェラの口にドーナツが押し込まれた。
「んがんぐっ!?」
 喉にドーナツを詰まらせて悶絶するノヴェラ。
 油を使わない焼きドーナツは喉に詰まりやすいのだ。
「どう? おいしーでしょぉ? みんなにもわけてあげるねぇー♪」
 そう言うと、小梅は幸福(自分基準)を分け与えるべく周囲の生徒たちにドーナツを押し込んでいった。おかげで会場には窒息者が続出する事態に。
「お、おぉ……いま助けますよぉ……」
 喉を詰まらせた者たちめがけて、恋音の炸裂掌が叩きこまれた。

 どっばーーーん!!
「「〜〜〜〜ッッ!?」」

 喉が詰まって悲鳴も出せないまま、窓の外へ吹き飛ばされる犠牲者たち。
 以上が『2016ドーナツテロ』の顛末である。




依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:6人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
未来へ・
陽波 透次(ja0280)

卒業 男 鬼道忍軍
ドクタークロウ・
鴉乃宮 歌音(ja0427)

卒業 男 インフィルトレイター
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
花々に勝る華やかさ・
染井 桜花(ja4386)

大学部4年6組 女 ルインズブレイド
パンツ売りの少女・
焔・楓(ja7214)

中等部1年2組 女 ルインズブレイド
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
Standingにゃんこますたー・
白野 小梅(jb4012)

小等部6年1組 女 ダアト
ついに本気出した・
砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)

卒業 男 アストラルヴァンガード
童の一種・
逢見仙也(jc1616)

卒業 男 ディバインナイト
来し方抱き、行く末見つめ・
華宵(jc2265)

大学部2年4組 男 鬼道忍軍