「時間(字数)がないから、すぐ始めよう。第1レースの選手は位置について」
ノヴェラの指示で登場したのは、下妻笹緒(
ja0544)と満月美華(
jb6831)
どちらも100kg超の、パンダvsクジラ重量対決だ!
両者とも火薬は『メガ盛りつゆだく』
地雷を踏んだら一発で死ぬ!
「レースの前にひとつ言わせてもらいたい」
観客を前に、笹緒が演説を始めた。
「この競技のルールを見たとき私は感動した。ただ壁を壊すだけの競技なら理解できる。ただ地雷原を走るだけの競技も理解できる。だが地雷原を走りつつ壁を破壊するとなれば話は違う。これは間違いなくキングオブブレイカーの名にふさわしい競技だ! 人としての極限に挑戦する絶好の機会、参加しないという選択はない!」
観衆から拍手が湧いた。
そんな笹緒の熱意に感化されたか、美華も「やるからには一位をめざします。おたがいケガしないように頑張りましょう」と礼儀正しく握手する。
そしてレースが始まった。
号砲と同時。美華は撃退酒を一気飲み。瞬時に激太りしつつ、巨大肉団子と化して転がりだした! その姿は、さながら秋道チョ●ジのごとし!
いつも不慮の事故で転がってる美華だが今回は本気だ。最初のベニヤ板を軽くブチ抜き、氷の壁めがけて突進する。
隣のレーンでは、奇しくも笹緒が同じ作戦をとっていた。なんとラブリーパンダちゃん前転からの高速でんぐりがえし突撃だ。地雷のありそうな場所は『瞬間移動』でクリア。前転とテレポートによる『静と動』の生み出す幻想的ムーブで、まずベニヤ板を破壊。しかも激突する際に自らの肉体で『K』の文字を作りつつ、「ケー!」と叫んでいる。頭がおかしくなったわけではない。これは彼なりの、KOBに対する敬意と感謝の表現なのだ!
「撃退士の真価が試される、このKOBという素晴らしき祭典……私は全身で謝意を捧げよう」
というわけで、図らずも肉弾ローリングという全く同じ作戦をとった巨漢ふたり。
ノンストップのキャノンボールとなったパンダとクジラが、氷の壁へ立ち向かう!
「オー!」と雄叫びをあげながら、『O』のポーズで氷山に体当たりする笹緒。
美華は特に何も考えず、己の質量をたよりに正面突破を狙う。
だが、そう簡単に破れるほど第二の壁は甘くない。……っていうか『氷の山』だからねコレ!
しかも壁の前に控えるメガ盛り地雷が容赦なく炸裂!
笹緒の生命力は一瞬でゼロになり、ズタボロになって転がった。
一方、最初から地雷を踏むことを計算に入れていた美華は爆発の衝撃力を利用して更に加速!
E=(1/2)MV^2
というわけで氷山を半分ぐらいブチ壊したところで、美華は全身血まみれの凍結状態で活動停止に。
笹緒は『起死回生』からの復活で再挑戦するも、2発目の地雷を踏んで行動不能に陥ったのであった。
「これが無謀な挑戦だったとは思わない……芸術とは『自身の信条、信念を真正面から表現すること』なのだ……嗚呼すばらしきかなKOB。永遠なれKOB……」
そう言い残すと、笹緒は事切れた。
結果、両者とも二つめの『壁』を破れずリタイア!
「うーん……地雷原を転がるのは無謀すぎたね」
残念な結果に首をひねるノヴェラ。
こんなコトする選手が2人も出るとは想定外すぎた!
第2レースの走者は、黒百合(
ja0422)と袋井雅人(
jb1469)
優勝候補ナンバーワンの登場に、観客も沸き返る。
「おもしろい障害物競走だわァ、おたがい楽しく走りましょうねェ♪」
「もちろんです! たまにはカッコイイところを見せないと、みんなから愛想をつかされてしまいますからねー」
黒百合も雅人も士気は高い。
ちなみに雅人の火薬量は『メガ盛り』
黒百合は限界突破の『テラ盛り』というか、もはや地雷ですらなく航空機搭載爆弾を埋設してある。
「うふふふゥ……きゃははははァ……♪ このハードコースをクリアできるか、すごく楽しみィ♪ 苦労して入手したMOAB、破壊力はお墨付きよォ♪」
「さすが黒百合さん! 私も今日は珍しく気合を入れて、観客のみんなにカッコイイところを見せちゃいますよ!」
競技前から盛り上がる二人だが、時間がないので始めよう。
「じゃあ位置について。レディー、GO!」
ノヴェラが号砲を鳴らした瞬間、黒百合は影分身を発動させた。
そのまま分身を地雷原に突入させ、自分は後方に掘った穴(塹壕)に飛び込む。
ズドオオオオオンン!!
限界突破しすぎた爆薬が誘爆しまくって、コース上の全てを吹き飛ばした。
おまけに塹壕の中まで爆弾が仕掛けられていたので、黒百合といえどひとたまりもない。
「あらァ……? スタート地点にまで地雷って、ひどくなァい……?」
血まみれの笑顔で抗議する黒百合。
だがノヴェラは当然のように答える。
「黒百合君が注文したんだよ? コースに隙間なく爆弾を敷きつめるって」
「たしかに言ったけどォ……」
「大丈夫。いまの爆破パフォーマンスだけで芸術点をあげるよ」
ノヴェラが親指を立てた。
そのまま黒百合は塹壕の中でリタイア。KOB総合優勝候補とも噂される黒百合だが、スタートラインさえ切れずに敗退することとなったのであった。『物質透過で地面に潜行、又は……』などと言わず普通に透過しておけば……っていうか火薬量増やしすぎだよ!
だが黒百合は自業自得なので仕方ない。悲惨なのは、この大爆発に巻き込まれた雅人のほうだ。しかも彼は、どういうわけか胸元に『火薬メガ盛り地雷』を抱えていた。これを使って何か芸を披露するようだったが残念。黒百合の爆破パフォーマンスのおかげで、すべてパーになってしまった。まぁそもそも地雷対策が何もない時点でリタイア確定だったが。スイカは爆発しないけど地雷は爆発するんだぞ! だいたい地雷かかえて走る時点で、どうかしてる! 死ぬ気か!
「まさか、こんな結果になろうとは……今回はカッコイイ私を見せる日だと思ったのに……」
全身真っ黒焦げのアフロになって、雅人は力尽きた。
こうして黒百合も雅人もベニヤ板すら破壊できず……というかスタートすらできずリタイアという悲劇に至ったわけだが……俺はちゃんと解説したよね!?『普通』の地雷で生命力30減るって言ったよね!? 考えなしに火薬を増やすのが悪い!
よし次のレースに行こう!
「さて第3レース。今度は誰かゴールできるかな」
担架で運ばれる雅人と黒百合を見ながら、ノヴェラは気楽に言った。
次の走者は、斉凛(
ja6571)と月乃宮恋音(
jb1221)
両者とも相当な悪知恵……もとい策士だ。
「先生おつかれさまですわ。ブランデーのおともに甘い物などいかがでしょう」
凜が手渡したのは、手作り高級チョコケーキ。
一輪の薔薇が添えられたラッピングも美しい。
「堂々と点数を取りにきたね。大歓迎だよ♪」
観客からはブーイングだが、賄賂を非難するよりケーキを食わせろという声が大きい。
今回の凜は本気で優勝を狙っていた。衣装はいつものメイド服だが……ドロワーズをはいてない! 理由は不明だ! もしや脱げば脱ぐほど身軽になるという脱衣戦闘的なアレか!? まさかノーパンなのか!? スカート一丁なのか!? はいてないのか!? そのあたり明記してくれませんか凜さん! 重要な点ですよ!(おちけつ
「うぅん……賄賂で点数稼ぎですかぁ……単純ながら、効果的ですねぇ……」
ライバルの『本気』を見て、恋音は震えた。
「賄賂? なんのことかしら? メイドとしてお茶やお菓子をふるまうのは当然ですわ」
女帝らしく高慢に微笑む凜。この時点で一歩リードだ。
が──
両者がスタート位置についたとき、あきらかに異様な点があった。恋音の横に三条絵夢がいるのだ。
「あの……まさか、その人も一緒に走るとは言いませんわね?」
さすがに凜も指摘せざるを得なかった。
「一緒に走りますけどぉ……ルール上、問題ありませんよねぇ……?」
しれっと答える恋音。
ノヴェラは「うん問題ないよ」と応じる。
「それはもう、ルールどころの話では……いえ、いいでしょう。ドロワーズへのこだわりを捨てたわたくしに、敵はいません!」
2対1の戦いに陥った凜だが、もとより生徒全員が敵なのだから大差はない。……って、かなり大差あるわ! いくらルールで禁止されてないからって無法すぎるぞ!
ともあれ競技が始まった。
恋音の火薬量は『メガ盛り』
凜は『普通』だ。
まずは凜のターン!
地雷を踏まないようスタート位置から弓でベニヤ板を貫く。さらにベニヤを盾代わりに氷壁を狙撃。手堅い戦術だ。
一方、恋音は絵夢に首輪とリードをつけて地雷探知犬にしていた。『神の兵士』や『アウルの鎧』で防御も完璧。ひどすぎる。
「では、いきますよぉ……?」
ライトニングがベニヤ板を粉微塵にして、炎焼が氷の壁を溶かした。
その破壊力は圧巻だ。凜も弓で氷を砕くが、もとの攻撃力が違いすぎる。
なにしろ魔法攻撃力902! 絵夢の支援で攻防隙なし! これはアカン!
しかも地雷を踏んだと思ったら、なぜか着衣だけにダメージという謎仕様! やりたい放題だな!
「さすが教授ですわね……しかし負けませんわ!」
凜が華麗に宙を舞い、ヒールの底でベニヤ板を蹴り破った。
狙撃で脆くした氷壁も一気に突破。
どう考えてもスカートの中が見える猛アクションだが、なぜか見えない! メイドのスカートの内側は聖域なのだ! 地面に足がついてるかという超々低空飛行で地雷も回避。普通に空を飛んで地雷をよけたら芸術点マイナスだが、これならOKだ。
凜の進撃は止まらない。
ゴムの壁は、反動を利用して空中から弓攻撃。
ガラスの壁も弓で破壊し、破片の舞い散る中を盾で防ぎつつ突破。
最後の爆発反応装甲板も……というところで、恋音が先に絵夢とゴールイン!
ちゅどーーん!
爆発とともに、恋音と絵夢は何故か肥大化しつつ地平線まで吹っ飛んでいった。
「タイムでは負けましたが、芸術点では負けませんわ」
凜は最後の『壁』に弓を放った。
衝撃に反応して壁が爆発する。
その爆風をものともせず凜は突き進む。
メイド服が破れ、肌が露わになる……が、それでもスカートの中は見えない!
そのまま凜は優雅にゴールイン! この競技最初の生還者となった。
「メイドは不滅ですわ」
「さて最終レースだね♪」
相次ぐ爆発に、ノヴェラは笑顔満面だった。
走者は陽波透次(
ja0280)と咲村氷雅(
jb0731)
どちらも火薬はメガ盛りMAXだ。
「ふたりとも大丈夫? 少なめにもできるよ?」
ノヴェラが訊ねた。
「これでいい。どうせ踏んだら即終了。おなじ散るなら盛大に、だ」
クールに答える氷雅。
たしかに生命力26では、並盛り地雷でも死ぬ。
「僕は優勝しに来たんです。KOBは進級試験の実技。遊びではありません。火薬の量で点数が増えるなら、いくらでも増やします」
透次は真剣だった。
彼の夢は学園を主席で卒業し、この国を動かすエリートとなることなのだ。『天魔と人が共存できる未来』をめざす透次にとって、KOBごとき優勝して当然。
「俺も遊びに来たわけではない。参加した以上は優勝を狙う。なぁに、どんな地雷だろうと当たらなければどうという事はない」
氷雅も本気だった。
実際まわりが異常なだけで、彼も撃退士としては優秀だ。移動力16は凄い。
「じゃあ位置について」
ノヴェラの指示で、ふたりはレーンに入った。
そして透次はおもむろに七輪を出し、ソロ焼肉を開始!
「焼肉部で鍛えた焼きテクが……夢への想いが僕を強くする! うおおおおっ!」
雄叫びとともに焼肉を貪る透次。
説明しよう! 彼は焼肉を食べることで士気を奮い立たせ、全能力を1.2倍にできるのだ!
「それはアリなのか?」
冷静にツッこむ氷雅。
公平に見てひどいが、恋音の『第三者に支援してもらう』よりは良心的だ。
「とくに問題ないから競技開始♪」
ノヴェラが号砲を鳴らした。
と同時に、勢いよく走りだす氷雅。
「この学園で何があろうと想定内……俺は俺の策で勝つ!」
最大加速で走りながらも、氷雅は慎重に地面を観察していた。
怪しい場所は確実に避け、陰影の翼も併用してギリギリ地面に足がつかないようにする。
その勢いのままベニヤ板を跳び蹴りで撃破。
一気に氷の壁へ迫り、『赤炎蝶』で溶かしにかかる。続けて『魔剣黒竜』を発動。もろくなった氷を掘削。
快調な滑り出しだ。が──透次は更に早かった。
彼は開始と同時にスレイプニルを召喚。騎乗&全力移動の突撃でベニヤ板を粉砕し、さらに空中からの体重を乗せたランスチャージとソニックブームで、氷の壁を一気に崩壊させた。
地味に飛行してるので地雷も踏まない。なにより『全力移動』と『追加移動』で凄まじい速度を得ている。
地雷を踏めばスレイプニルと自分のWダメージで即死だが、踏まなければ問題はない。
ゴムの壁は刀に持ち替え、上空からの垂直落下斬り。
ガラスの壁も銃撃で楽勝だ。
まさに人馬一体。武器の使い分けも完璧。
だが氷雅も負けてない。
ゴムの壁は『妖刀紅桜』で微塵切り。ガラスの壁も粉微塵に砕き割る。
しかし最後の爆発反応装甲板は鬼門だった。氷雅は爆発にそなえて『赤炎蝶』で遠距離破壊を試みたのだが……予想を遥かに上回る爆発が彼を打ちのめした。
透次も同じく最後の壁を攻撃して反撃の爆風を受けたが、最大射程からのソニックブームと『閃の領域』による超反応でギリセーフ。しかもダメージを受ける寸前スレイプニルを消している。騎乗したままならWダメージで終わりだったが、これはうまい!
「焼肉が僕に力を与えてくれる! 焼肉部万歳!」
吹き荒れる爆風の中、透次は再召喚したスレイプニルとともに最後の直線を駆け抜けた。
そして鮮やかに宙返りを決め、空中から黄金銃でゴール地点を射撃!
ずどがーーん!
「アバーーッ!?」
予想以上の爆発力で、無惨に吹っ飛ぶ透次。
生命力16でここまでやれたの奇跡だよ。
こうして全レースが終了した。
生き残ったのは斉凛ただ一人。
「冷静に振り返ると、みなさん火薬を盛りすぎですわ」
硝煙の漂う現場を眺めつつ、凜は優雅に紅茶を注いだ。
「みんな爆発が趣味なんだよ」と、ノヴェラ。
「レアな趣味ですわね。ともあれ先生、お疲れ様ですわ」
凜が紅茶とケーキを差し出した。
「ありがとう。斉くんには銅メダルをあげよう」
「光栄ですわ。銀と金はどちらに?」
「銀は月乃宮君だね。大胆不敵な頭脳作戦と、単純に攻撃力を評価するよ♪ 金は陽波君。スレイプニルの乗りこなしが抜群だったね。芸術点で文句なしに一位だよ」
「結局、爆発すれば良いというものではありませんのね」
「みんな爆発に工夫が足りなかったね。ただ火薬を増やせばいいわけじゃない。いかに美しく爆発するかが重要なんだよ」
「爆発芸も奥が深いですわね」
火薬と黒煙の匂いの中、凜は仲間たちの安否を思いつつ紅茶を口に運ぶのであった。