† 雪ノ下・正太郎(
ja0343)の秋
その日、正太郎は自宅のキッチンで鯖とプロレスしていた。
意味不明かもしれないが、ヒーロー・リュウセイガーが鯖とプロレスで戦っているのだ。
相手は体長3mの巨大鯖。天魔ではない。特殊な薬品で巨大化しただけの普通の鯖だ。
しかし相手は跳ねまわるだけなので、試合の組み立てが難しい。エルボードロップやサッカーボールキックでダメージを与え、流し台からのムーンサルトプレス。そして掟破りの鯖への逆エビから、とどめのベアハッグ(鯖折り)
「ふぅ……なかなかの強敵だった」
動かなくなった鯖を前に、正太郎は額の汗を拭った。
今日は『鯖寿司の秋』ということで、鯖寿司に挑戦するのだ。
まずは衛生と安全第一で、念入りな手洗いとうがい。
そしてエプロン、三角巾、マスク、ビニール手袋を着用し、完全調理体勢で出刃包丁を手に取り……鯖を捌く!(駄洒落!
作るのは、締め鯖と焼き鯖の寿司だ。ネット検索でレシピも用意した。
しかしこれほど大量の鯖寿司を作ると、しばらくは鯖だけでサバイバルしないといけないだろうな!
† 黒百合(
ja0422)の秋
その日、黒百合は学園周辺を猛スピードで走りまわっていた。
彼女にとって秋は『運動の秋』……ということで、片っ端から天魔をブチ殺しまくってるのだ。しかも30分で何匹の天魔を処理できるかという、ゲーム感覚のタイムアタック。
しかし、いくら久遠ヶ原の天魔出没率が高いとはいえ、やみくもに走りまわってもなかなか遭遇しない。たまに野良天魔と出会っても、文字どおり瞬殺だ。立ち止まる必要もない。あまりの素早さに、天魔自身も自分が殺されたと気付くのに数秒かかるほどである。
「まるで歯ごたえないわねェ……? 天魔連中って、ゴキブリみたいにワラワラいるものじゃないのォ……?」
疾走しながら小首をかしげる黒百合。
そんな大量に天魔がひしめいてたらベテランはともかく新入生は即死する。一般人の教師もいるし。
結局、30分間で黒百合が始末できたのは4匹だけだった。
これでも相当な戦果なのだが、黒百合は不満げだ。
「データとか分析する予定だったけどォ……これじゃ駄目よねェ。いっそ24時間耐久天魔狩りとかァ……♪」
血染めの大鎌を舐めつつ、不気味に微笑む黒百合。
この日以降、久遠ヶ原島の天魔出現率は明らかに減ったとか。
† 雫(
ja1894)の秋
「秋と言ったら食欲の秋ですね」
この日、雫は紅葉深まる山の中に来ていた。
同行するのはカルーアとセセリ。
「食欲の秋! なのです!」
「なんでこんな所に……」
カルーアは嬉しそうだが、セセリは暗い顔だ。
無理もない。簀巻きにされたり強制労働させられたり、セセリにとって雫は天敵なのだ。
「さて本日は善意のもと集まってもらいましたが……やってもらうことはひとつ、肉の確保です」
カフェLily Gardenで囚人生活を送るセセリを無理やり連行してきた雫だが、遠慮は一切ない。
「ノルマは1人10kg以上の肉。狩ろうが買ってこようが自由ですが規定量に達しなかった場合、私が食べるのを見ているだけになるので注意してください」
「わかった! 鹿とか捕まえてくる!」
すぐさま走りだすセセリ。
続いてカルーアも山奥へ。
そんな二人の背中を見送りながら、雫はふと呟いた。
「そういえば……昔の大金持ちが、山に火を放って壮大な焼肉をしたと言いますね。焼け死んだ動物の中から、一番良い火加減で死んだ動物の肉が絶品だとか……実行するべきでしょうか?」
だが、さすがに犯罪かと考えて断念する雫。
このあとカルーアは山鳥や鹿を獲って戻ってきたが、セセリは帰ってこなかった。脱走したのだ。
「まさか逃げるとは……。世界の果てまでも追いつめて、必ずケジメをつけさせます」
猪の丸焼きをかじりながら、ぼそりと呟く雫であった。
† 龍崎海(
ja0565)の秋
その日の朝、海は徹夜での依頼を終えて帰宅するところだった。
連日の依頼続きで疲れており、歩きながら寝そうになるほど眠い。
風呂は銭湯で、朝食は牛丼で済ませたものの、それがかえって猛烈な睡魔を招く。
「駄目だ……このままだと帰り着くまでに倒れる……」
帰宅を断念すると、海は公園のベンチに寝転がった。
そして彼は夢を見る。
先日つくばで繰り広げられた、大規模戦闘の夢だ。ただし『夢』とはいえ、現実に起きたことの反芻……リプレイである。突入口付近での攻防……蛍蜂の群れを面積の大きい浮遊盾で押しつぶしたり……回復スキルで負傷者を治療したり……水や食料を配ったり……
「……はっ!?」
激しい夢の衝撃に、海はガバッと跳ね起きた。
30分も寝てないが、多少は睡魔が薄れたようだ。
「こんな所で寝ている場合じゃなかったな……。なにやら爆発行為を推奨する話が出ていたような気もする。見回りに行かないと……」
立ち上がると、海は大きく伸びをして歩きだした。
行く先はもちろん久遠ヶ原学園。爆発行為の予防と鎮火の見回りに行くのだ。
「これから乾燥しはじめる時期だから、火の元には気をつけないと……」
真面目な海にとって、この日は『睡眠の秋』と『防火の秋』になりそうだった。
† 佐藤としお(
ja2489)の秋
「秋といえば、当然ラーメンの秋!」
ほかに何がある? という勢いで、としおはラーメンを作り始めた。
学園の片隅に借りたラーメン専用キッチン(自主改造)で、新作の開発である。
スープは薄口醤油でやんわり仕上げ、赤みを帯びた感じで紅葉をイメージ。カボチャを塩ゆでして、ネギを細切りに。さっぱり風味にするため豚の代わりに鶏肉チャーシューを使う。最後にコーンを散らして完成!
「これは我ながら良い出来じゃないか? スポーツした後にラーメン、読書しながらラーメン、紅葉を楽しみながらラーメン、芸術作品を鑑賞した後にラーメン……やっぱ、僕の人生にはラーメンしかないよなぁ」
などと言いながら、箸を手に取るとしお。
「うーん、良い香りだ」
だが次の瞬間、彼の顔色が曇った。
スープの香りの中に、なにか異臭が混じっているのだ。
「……? なんだろう、この匂い? ……いや、これはどこかで……? あっ、まさか!?」
\ちゅどーん!/
キッチンが爆発炎上した。
異臭の正体はプロパンガス。
ラーメンに没頭するあまり、ガス漏れに気付かなかったのだ。
皆様これからの季節は空気が乾燥してきます。火の元には十分お気をつけください。
† 礼野智美(
ja3600)の秋
この日、智美は猪型天魔の退治に来ていた。
人を襲うのではなく、農作物を食い荒らしているのだという。
「天魔でなくても猪は農家の敵なのに……許すまじ」
智美は第1次産業主体の出身者。田畑を荒らす動物型の退治は通常以上に気合が入るというもの。
もともと智美は学園でもかなり熱心に天魔退治に取り組んでいるほうだ。月月火水木金金。彼女に休日はない。春夏秋冬いつでも依頼に参加している。天魔は四季など考慮しないのだから秋だの春だの関係ない。
夜の畑で猪天魔が現れるのを待ちながら、ふと智美は考えた。
「ん……無事終わったら収穫手伝うのもありだよな。天魔のせいで外に出られなくて収穫作業が滞っているそうだし……」
よしそうしようと決めて、張り込みを続ける智美。
なにしろ敵が出てくるのを待つしかないので、わりとヒマなのだ。
「そういえば、秋に何をする?って調査があったような……俺が答えるとすれば、今回は食欲すなわち収穫の秋といったところか……。妹は秋に限らず一年中読書だし、親友は一年中新婚さんの春状態だし。恋人は受験勉強佳境だし……俺の知り合いは季節関係ないの多いよな」
などと苦笑しつつ、油断なく見張りを続ける智美であった。
† 藍星露(
ja5127)の秋
ここは久遠ヶ原島外の産婦人科医院。
その待合室で、星露は浮かない表情を見せていた。
手に握られているのは、真新しい『母子手帳』
彼女にとって3人目となる子供ができたのである。
星露は若くして双子の子供を産んでいるが、いくら愛情があっても手間がかかるのは仕方ない。もうひとり増えることに不安もある。ただ子供を授かったこと自体は素直に嬉しい。それは確かだ。
問題は……誰の子かわからない、という事実。
「ああ困ったわね……妊娠2〜3ヶ月らしいし、できたのは夏の間よね? 海でナンパされた筋骨たくましい彼? 別荘地で誘った爽やかなあの人? ……そういえば薄木金作さんの可能性も、あるのよね。もちろん旦那の子であるのが一番だけど……。ああ神様。どうか生まれてくる子はあたしに似ててください……!」
心の中で呟きつつ、母子手帳を握りしめる星露。
だがいずれにせよ、星露は子供を産むつもりだ。
彼女に言わせれば、これは『実りの秋』
順調に行けば、来年の初夏には家族が増えるだろう。
† Rehni Nam(
ja5283)の秋
秋といえば『芸術の秋』……とりわけ『音楽の秋』とばかりに、Rehniはヴァイオリンの練習に打ちこんでいた。
といっても、別に秋だからというわけでもない。365日を通じたことだ。
腕前はなかなかのもの。ただ彼女の今の気分としては、ヴァイオリンよりピアノを弾きたいところだった。
「最近ピアノの練習できてないなぁ……寮には持ち込みのキーボードぐらいしかないし……」
呟きつつ、スタンダードな練習曲や最近流行りの曲のヴァイオリンアレンジを練習するRehni。
ある程度やったところで休憩に入る。
楽器の演奏には体力を消耗するため、カロリー補給が不可欠なのだ。
行きつけの甘味処でRehniが注文したのは、まず緑茶。と……栗羊羹とハロウィン練り切り。わりと『食欲の秋』である。
「さて……では行きましょうか」
十分に甘味を堪能したあと、Rehniは散歩がてら学園へ向かった。
もしかすると音楽室のピアノを借りられるかもしれない。もとよりピアノ練習曲の楽譜は持ってきてある。それが無理でも、声楽部室の電子オルガンがある。キーボードよりはピアノに近い。
「うーん、空が高いなぁ……」
なんにせよ楽器に触れたくなる日だった。
† 袋井雅人(
jb1469)の秋
彼は自室でAVを鑑賞していた。自分が出演した作品である。
隣に座っている妙齢の女性は、三条絵夢の母・藍子。
「お酒を飲みながらAV鑑賞会をしませんか」という雅人の誘いに乗って、久遠ヶ原まで来たのだ。もちろん彼女はAVになど興味ない。撃退士との激しい行為が忘れられず、ついフラフラやってきてしまったのだ。
「どうですか、本当に出演しているでしょう? 嘘や冗談じゃありませんよ」
得意げに画面を指差す雅人。
だが藍子は見てもいない。
「ねぇ、まさかそんなものを見せるために呼んだわけじゃないでしょう?」
ワイングラス片手に、藍子は雅人の太腿を撫でた。
「私としては、男優としての反省会を兼ねつつ、お母様と親睦を深めようと……」
「反省会? なら私が実地で教えてあげる。そもそも女性を呼び出しておいて何もしないということ自体、反省すべきよ」
「これは失礼しました! 段階を踏んでいこうと思って様子を見ていたのですよ!」
「AVならそういう演出が必要かもしれないけれど、現実にそんなものは不要なの。……さぁ始めましょう」
そう言うと、藍子はワインを飲み干して雅人のベルトに手をかけた。
続きは書けるわけないので、ご想像にまかせます!
† ラファル A ユーティライネン(
jb4620)の秋
「さあて、爆発の秋だぜ。爆発するぞぉ!」
唐突に、脈絡もなくラファルは言い出した。
ここは学園から少し離れたキャンプ場。平和な午後を過ごす学園生たちから、『迷惑だから他でやれ!』と言わんばかりの視線が集まる。
「お、おう、仕方ねーな。さすがにこの場は空気を読んでおくぜ」
とりあえず爆発は自重するラファル。
だが、ただで帰るほど彼女は甘くない。
そこらの学生をつかまえて、スマホの画像を見せながら彼女は言う。
「ところでよ、さっきウニボロを見かけたぜ。あいつすげー強いからな、気をつけろよ?」
画像には、たしかに全身トゲだらけのウニみたいなシルエットが写っていた。
だが、ここは山の中。ウニボロは海にしか現れない。
「はいはい、こんな所に海産物は出ねーって言いたいんだろ。狼少年扱いは慣れっこだぜ」
とラファルが言った直後。
森の木々を薙ぎ倒して、登場したのはイガグリ型のディアボロ! 通称栗ボロだ! どこかの駄菓子みたいだな!
しかも無駄に数が多い。たちまち周囲は戦場だ。
「この大群には、やっぱ爆発しかねーよな。よーし全武装解除! かーらーのー、大・爆・アバーッ!?」
撃退士たちの集中砲火をくらって吹っ飛ぶラファル。
残念! そう簡単に爆発させてはくれないぞ!
† 樒和紗(
jb6970)の秋
「秋といえば……やはり芸術の秋でしょうか」
和紗はスケッチブック片手に外へ出ていた。
絵のモチーフは、豊かに彩られた秋の風景や、日常の光景。
気の向くままペンを走らせ、一枚また一枚とスケッチを描いてゆく。
作品は批評をもらうべく、矢文にして小筆ノヴェラのもとへ。
『腐っても芸術教師ですから批評をお願いします、小筆先生』という一筆を添え、ついでに酒の肴としてお好み焼きをくくりつける。そして遥か彼方の美術室へ発射!
そもそも届くのかとか、なんでお好み焼きなんだとか、飛ぶわけねーだろとか言ってはいけない。願えば想いは通じる。撃退士に不可能はないのだ! これコメディだしね!
「……しかし返事が来ませんね。届かなかったのでしょうか」
小首をかしげる和紗。
冷静に考えて、和紗のほうからは届くかもしれんが返信は無理だろ! 所在がわからないんだぞ!
「まぁ酔っぱらって寝ているのかもしれませんね。気にせず芸術の秋を続けましょう」
こうして和紗は時にスケッチブックに、時に壁や床に『スケッチ』で、通りすがりの俎板クノイチの胸にと、次々作品を仕上げて行くのだった。
その日の夜、お好み焼きが散乱する美術室で、全身に無数の矢が突き刺さった状態のノヴェラが発見された。
† 水無瀬文歌(
jb7507)の秋
「秋といえば『文化祭の秋』です! アイドルが沢山イベントにお呼ばれする文化祭の秋ですよ!」
張り切る文歌の意に反して、今年の久遠ヶ原では文化祭が開かれる気配がなかった。
おまけに、なぜか卒業したはずの陰陽師に戻っている。
「えっ,おまえは何で陰陽師なんだ? 陰陽師は卒業したんじゃなかったのかって? 古いことは忘れました。もしくはあのときのジョブは阿修羅だったので『阿修羅を卒業した』の聞き間違いです。アイドルは未来を明るくする存在。過去は振り返りません!」
自分で言わなければ誰も気付かなかったが、正直者なので仕方ない。
アイドルは清純さが命!
「『ヘッドフォンの秋』でもあるので,皆さんヘッドフォンを常時着用ですよ。学園で使っている無線の周波数に私の歌を流しているので堪能してくださいね。私の歌を聴けば小筆先生の爆発的インスピレーションが湧いたり、卍さんが突然ギターをかき鳴らしたり、亜矢さんの胸が大きくなったり……あぅ、さすがにそんな奇跡は起こりませんね」
文歌がそう言った直後、美術室は爆発し、クラブ棟からは爆音メタルが炸裂し、謎の影手裏剣が文歌の後頭部に突き刺さるのであった。
† 不知火あけび(
jc1857)の秋
「ねーちゃん、茶ぁしばこうぜー!」
ナンパのごとく、あけびはラファルの背後から声をかけた。
「そいつは俺のセリフじゃねーか」と、振り返るラファル。
「なんかケガだらけじゃない! どうしたの!?」
「いやー、このまえ凶悪な撃退士集団に襲われたうえ栗ボロに轢かれてな。まぁ気にすんな」
「状況が不明だけど……今日は誕生日プレゼントのお礼に、お菓子めぐり案内しようと思うんだ。もちろん奢るよ」
「ほー、そいつはいいな。どこ行くんだ?」
「おいしい店があるんだ。ついてきて」
というわけで二人がやってきたのは、和洋折衷な雰囲気のカフェだった。
注文は栗のタルトやカボチャのモンブランなど。見るからに秋のスイーツだ。
ふだんは『大正浪漫っぽいから』という理由で無糖珈琲を頼むあけびだが、今日は気分を変えてミルクティー。
「ラル、私たち今すごく女の子らしいことしてる!」
自らの行動に驚愕しながら、ラファルと向かいあってスイーツをつつくあけび。
「なに言ってんだ、あけびちゃんはいつでも女の子らしいぜ」
「そ、そう? 面と向かって言われると恥ずかしいな。……あ、そうそう『雷電改』本当にありがとー!」
あけびは立ち上がりつつ、いきなり刀を抜き放った。
乙女空間台無しである。
まぁいつものことだが。
† 小宮雅春(
jc2177)の秋
奇術師の彼は公民館に来ていた。
彼にとって季節はあまり関係ない。365日いつもどおり過ごすだけだ。
公民館では、小規模なマジックショーが行われていた。
突発的なため観客はさほど多くない。が、雅春はそれでも良いと思っている。
「では、そこのあなた。ちょっといいですか?」
そう言って、雅春は軽いマジックを始めた。
まずはタロットの小アルカナ『杯』のエースから10を、テーブルへバラバラに置く。
そして呼び出した客に、「1から10まで好きな数を思い浮かべてください」と言い、さらに続ける。
「思い浮かべたら、次の順に計算してください。そこの画面の前のあなたもご一緒に!」(メタ!
・その数に1を足す
・2をかける
・4を足す
・2で割る
・最初に思い浮かべた数を引く
「答えはいくつになりました? 当ててみましょう。『3』ですね?」
言いつつ、雅春は『杯の3』のカードを取った。
「杯の3が示すものは……友愛・成熟・周囲との調和、と言われてます。どうか皆様に良きご縁がありますよう」
雅春が笑顔でしめくくると、パチパチと拍手が湧いた。
† 浪風悠人(
ja3452)と鳴上公子(
jc1031)の秋
『結局、大概のことって年中やってるか、商戦に乗せられてるだけですよねぇ……』
そんな身も蓋もないことを考えつつ、悠人は海岸でトレーニングに励んでいた。
彼にとっての秋は『運動の秋』
特に最近は筋トレ方面に集中していた。今年は格闘技デビューしたうえタイトルを獲得したり、大きな作戦も多く体を酷使したため、ここ一番でダメにならないようにという考えだ。
もちろん季節を問わず年中鍛えてはいるが、この季節が一番気候が良く、運動すれば食事もおいしくなって『食欲の秋』も満たされ一石二鳥。おまけに学園には変人が多く、悠人自身の不幸体質上、いつ何があっても良いように備えなくてはいけないのも大きい。
そんなわけで、まずは柔軟運動。
走り込みのあと、砂浜にシートを広げて『腕立て・腹筋・背筋』をセットで。
ほどよく汗をかいたら海で泳ぎ、全身運動。
たいへん理にかなったトレーニングだ。
「しかし、なんだろう……妙な視線を感じるな」
そう言って周囲を見回す悠人だが、怪しいものは見当たらない。
気のせいかなと考えて、再びトレーニングに戻る悠人。
そんな彼を遠くから見つめる女性がいた。
壁に身を隠しつつ、手にしているのは双眼鏡。ときおりデジカメを出してシャッターを切る姿は、どう見ても盗撮魔かストーカーだ。
彼女の名は鳴上公子。女子高生みたいな外見だが、こう見えても悠人の実母である。
色々あって息子とは離れていたが、その後また色々あって息子ストーカーに成り果ててしまったのだ。
そんな公子にとって、秋といえば……『観察の秋!』
こう言うと秋にしか観察してないかのようだが、もちろん季節を問わず観察している。
だが、これは保護者として当然のこと。悠人は既に家庭を持つ立派な大人だが、親から見れば子供はいつまで経っても子供なのだ。隠れて盗撮……否、息子の姿を写真に収めるのも親心。
「ああ悠人……立派に育って……」
などと母親らしいことを呟きつつも、シャッターチャンスは逃がさず激写。
知らない人に見られたら警察を呼ばれるが、これでもれっきとした血の繋がった親なので説明すれば問題ない。合法だ。たぶん。
ともあれ、愛しい息子のアルバムコレクションが増えたことに喜びを隠せない公子なのであった。
† 斉凛(
ja6571)とユリア・スズノミヤ(
ja9826)の秋
「ふぅ……秋薔薇が美しい季節ですわね」
学園の片隅で、凜は薔薇の花畑を眺めつつ紅茶をたのしんでいた。
卓上には、いつものティーセット。
今日の紅茶はローズティーだ。お茶請けにはローズアイスと、薔薇尽くしである。
「秋といえば……ファイヤーな秋!」
なにか物騒なことを言いつつ、ユリアは焚き火の用意をしていた。
焚き火をするなら、まずは落ち葉を集めなければ始まらない。
「わたくしも手伝いますわ。秋といえばファイヤーですものね」
謎の方向で賛同しつつ、落ち葉集めを手伝う凜。
適当に集まったところで、ユリアがマッチで点火した。
そこへ、さつまいも、栗、林檎、キノコ類などを投入。
だが──
「さぶっ。火力弱っ」
貧弱な火力に文句を言い、ユリアは肩を抱えて震えた。
「こんなときはアレの出番ですわ」と、凜。
「そうか、ついに来たか……ヤツの出番が!」
ユリアがニュッと取り出したのは、火炎放射器。
これなら火力も文句なし!(火力だけ!
「というわけで……いざファイヤー!」
「わたくしもファイヤーいたしますわ」
汚物は消毒だー! みたいな勢いで火炎放射する美女ふたり。バイオレンス!
ともあれ火力は確保できた。あとは食材を焼くだけだ。
まずは焼き林檎が完成。
「はい凛ちゃん、焼き林檎。アイスに添えてどぞー☆」
「ありがとう。とてもおいしいですわ。お友達と薔薇を眺めつつお茶するのは幸せな秋ね」
などと優雅なことを言いつつ、凜はラーメンをゆでていた。
ただのラーメンではない。博多風豚骨スープにローズティーをブレンドした、薔薇ラーメンだ。トッピングは通常のチャーシューと、砂糖漬けの薔薇。まさに薔薇の女帝と名乗るにふさわしいラーメンと言えよう。
「おー、ドンブリの中で豚骨と薔薇が戦ってるね! 香りとか香りで! 私もトッピングお手伝いするー☆」
そう言うと、ユリアは焚き火ファイヤーで炭のようになった何かを薔薇ラーメンにドサッとのっけた。
通りすがりのチョッパー卍に、凜がすすめる。
「絶品薔薇ラーメン、どうぞ一杯滅しあがれ」
「だれが食うか、んなもん!」
卍がドンブリを蹴り飛ばした。
凜はすかさずドンブリを回避。
そのまま宙を飛んだドンブリは、ユリアの頭にバシャン!
「なっ、なにをするだあーっ!?」
ドンブリをかぶったまま叫ぶユリア。
「食べ物を粗末にするとは許せませんわ」と、凜。
「粗末にしてるのはおまえらだろうが!」
卍のほうが正論だった。
「あっ……でもこのラーメン、すごくおいしいかも?」
薔薇と豚骨の香りに包まれつつ、麺をすするユリアであった。
† 月乃宮恋音(
jb1221)と満月美華(
jb6831)とティファーニア ネルスラーダ(
jc0681)の秋
「えとぉ……今日は集まっていただいて、ありがとうございますぅ……」
知人らを前に、恋音は軽く頭を下げた。
ここは彼女が管理する畑。私有地ではないが、事情があって一時預かっている状態だ。
「それはいいけど、今日は何をするの?」
美華が訊ねた。
「今日は『収獲の秋』ということで……こちらの畑で採れた作物を皆さんでいただこうと、思いますぅ……」
「野菜と果物が食べ放題ね。大歓迎よ」と、美華。
だがティファーニアは微かに震えている。
「この畑は、たしか……うっ、頭が……」
「だ、大丈夫ですかぁ……? 無理はしないでくださいねぇ……?」
「大丈夫、心配しないで。今日は仲間も大勢いるし……みんなと一緒に逝く……行くわ!」
仲間が何人いようと結果は変わらないのだが、そう言って自分を奮い立たせるティファーニア。今日は肥満化対策として、伸縮性の高いぴっちりスーツを着てきた。服が破れる心配はない! ちなみにどう見ても対魔忍です。
その様子を見て、三条絵夢が問いかけた。
「あの……この畑に何かあるんです?」
「それは……食べてみれば、わかりますぅ……。三条さんには、気に入ってもらえるかと……」
恋音が複雑な笑顔で微笑んだ。最近の彼女は少々サドい。
というわけで、実食が始まった。
用意されたのは、ティファーニアが持参した苺ドライフルーツ。恋音が栽培した落花生とブルーベリーだ。
「見た目は普通ですね」と、絵夢。
「そう、見た目は普通なの。でも……とりあえず食べてみて。三条さんならきっと喜ぶと思う! せっかくだから、みんな『いっせーの』で!」
ティファーニアの提案に従って、それぞれ作物を手に取った。
そして合図で一斉に口の中へ。
まず苺を口にした美華と絵夢が、急激に肥満化してひっくりかえった。
「これ平等院先輩の成長薬じゃないですかああ!」
絵夢が叫んだ。
「これは危険ね」と言いながら、美華はお構いなしに次の苺を食べている。
一方、落花生を食べた恋音とティファーニアはさほど変化がない。すこし胸が大きくなったぐらいだ。
「おぉ……この落花生は、比較的安全そうですねぇ……」
「これなら完食余裕ね!」
などと調子をこく二人だが、この落花生には恐ろしい副作用を招く成分が含まれている。
「無理です! 苺ひとつでコレですよ!?」
力士並みの体型になった絵夢が全力で抗議した。
「そこで、この胃腸薬ですぅ……」
そっと薬を差し出す恋音。
だが、この薬品にも副作用があるのでタチ悪い。
「じゃあ次は、この新作ブルーベリーよ」
ティファーニアは躊躇なくブルーベリーを口に放りこんだ。
そのとたん風船みたいに膨れあがり、ふわりと宙に浮くティファーニア。
「はわわっ!?」
「これを食べるのよ!」
美華が苺を投げた。
ティファーニアがそれをキャッチして食べると、急激に体重が増えて地面に落下。人間気球として空をさまようのは免れた。
「はっ! もしかして苺とブルーベリーを交互に食べれば、破裂したり宙に浮かんだりするのを避けられるんじゃ!? それに今日は4人がかりだし……爆発はしないはず!」
突拍子もないことを、名案かのように言うティファーニア。早くも錯乱してる。
「それは名案ね。残さず食べるわよ!」
本能のまま手当たり次第に食材を食べ続ける美華は、もはや正体不明の肉塊と化していた。
「わ、私は落花生を……」
比較的影響が少なそうなのを選んで食べる絵夢。
だが何粒か食べたところで急激に胸が膨張、白い液体が噴き出した。
「ふえええっ!?」
つまり、そういう副作用だったのだ。
その事実に気付いた瞬間、恋音からも母乳が噴出した。絵夢と比較にならない量だ。
その膨大なミルクはたちまち畑を覆いつくし、足を滑らせた美華はティファーニアと一緒になってミルクの川を流され……巨大な肉爆弾となって大爆発。
恋音と絵夢は母乳の海に溺れ、後日溺死体のような姿で発見された。
† 不知火藤忠(
jc2194)と華宵(
jc2265)の秋
和服の二人は、小筆ノヴェラとともにキャンプ場に来ていた。
レジャーシートに陣取った3人の間には、大量の酒と肴。
周囲は紅葉で覆われ、みごとな景色である。
「良い眺めだ。紅葉酒にピッタリだな」
そう言って、藤忠は日本酒をあおった。
「日本の秋はいいね。アート魂を刺激されるよ」
と言いながら、ワインばかり飲むノヴェラ。
すでに二人のあけた酒瓶の数は相当だ。
「よく飲むわねぇ、ふたりとも」
呆れ半分驚き半分で、華宵は苦笑した。
「おまえはあまり飲んでないな。いかにも飲みそうな顔をしているが」と、藤忠。
「外見で決めないでよぉ。私はお供えされた御神酒とか、バーのお客のお付き合いとか……嗜む程度にしか飲まないの」
「お供え? 神だったのか、おまえ」
「私って無駄に長く生きてる末期高齢者だから、里の人たちに特別な目で見られるのよねぇ……。まぁそれは置いといて今日はとことん飲む気よ。『初挑戦の秋』とでも言おうかしら」
「無理はするなよ?」
「藤忠君のサポート(別名介護)があれば安心よ」
そんな会話を交わしつつ、3人は杯を重ねていった。
秋の日暮れは早い。空が薄暗くなったと思えば、すぐ夜だ。
すると真円の月が山の端に昇り、紅葉酒から月見酒に移行する。
「まぁ綺麗なお月様。たのしく飲むお酒は最高においしいわね。ふふふ」
華宵が笑った。
「よし、ここらで腹に溜まるものを出そう。じつは寮を出るとき、あけびからカボチャ料理を渡されたんだ」
妙に嬉しそうな顔で、重箱を取り出す藤忠。カボチャが好物なのだ。
重箱を開けると、煮物や天ぷら、カボチャコロッケなどが詰められている。
「うん、どれもおいしい。トレビアン♪」
煮物をかじりつつ、ワインをガブ飲みするノヴェラ。
「そういえば、おまえは料理はしないのか? 俺も感覚でやってるが、わりと上達するものだぞ」
「僕は他人と同じことをするのが嫌いなんだ。つまりレシピどおり作りたくないのさ。するとどうなるか、わかるよね?」
「なるほどな。しかし、」
「ぷっ、ははは! あっははははは! ノヴェラちゃんってば、ひねくれモノねぇ〜♪」
藤忠が何か言いかけた瞬間、華宵が大笑いした。
山の向こうまで聞こえるほどの笑い声だ。
「どうした急に。もしや笑い上戸か、おまえ。そろそろ水を飲め」
などと世話焼き気質を発揮する藤忠。
だが華宵は「大丈夫よぉ〜。本当に世話好きなんだから〜、あはははは!」という具合だ。
絡み酒より遥かにマシだが、これはこれで疲れる。
しかも華宵は潰れる気配もなく、このまま朝まで飲み続け、笑い続けたのであった。
「次からあいつと飲むときは耳栓持参!」というのが、藤忠とノヴェラの共通見解となるのは自明だった。