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マスター:牛男爵
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:4人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/10/23


みんなの思い出



オープニング



 三条絵夢という撃退士がいる。
 久遠ヶ原学園中等部で風紀委員を務める、成績優秀な生徒だ。
 外見は清楚なお嬢様風。学園ではいつも制服姿。ひそかに想いを寄せる男子生徒も少なくない。
 だがその正体は、超絶ドM! 風紀委員は表の顔を取り繕う仮の姿であり、依頼を率先してこなすのも天魔に殴ってもらうためなのだ。
 そんな彼女が最近ハマっているのは『殴られ屋』だった。
 その名のとおり、金をもらって他人に殴らせるというアウトローな商売(?)である。
 一般的な殴られ屋は、その名に反して滅多に殴られたりしない。ボクシングなどの華麗なディフェンステクニックで、ほぼ全てのパンチをかわしてしまうのだ。鍛えられたボクサーにとって一般人の攻撃をよけるなど造作もない。
 だが絵夢は違う。ちゃんと客に殴らせる。それも1発いくらとかではない。時間内なら何発殴ってもOKという殴り放題システムだ。もちろん鍛えられた撃退士にとって一般人の攻撃を耐えるなど造作もない……と言いたいが、絵夢の場合オプション料金で金属バットや鞭など凶器類の使用も認めているのだ。いくら相手が一般人でも無事では済まない。
 だがそうやって路上で野次馬に囲まれつつ血まみれになるのが堪らないという、筋金入りの変態が絵夢なのだ。たまに警察を呼ばれても『これは久遠ヶ原流の特殊な訓練なんです!』と言い張る始末。そんな訓練あるわけないのだが、なにしろ外見だけは真面目そうなため警察もつい信じてしまうのだ。
 しかもそうやって得た金で、毎日のようにSMクラブに入り浸るという……常軌を逸した生活を送っている。
 もちろん家族には内緒だ。久遠ヶ原でも彼女の正体を知る者は……まぁそこそこいるが、この学園には変態が多いため絵夢の存在感も薄まっている次第。


 そんなある日。
 絵夢の母親が血相を変えて学園窓口に駆け込んできた。
「ちょっと! うちの子に会わせてください! 今どこにいるんですか!?」
「ええと、三条絵夢さんですね……。彼女は現在、天魔退治の依頼に出てます。難しい依頼ではないので、じきに戻ると思いますが」
 窓口担当が答えている間に、タイミングよく絵夢が戻ってきた。
 顔は痣だらけで、制服はあちこち破れている。まるで何かの事件に巻き込まれた被害者だ。もちろんわざとやられてきたのである。
「どうしたの、絵夢! ケガだらけじゃない!」
「え、お母さん!? なんでここにいるの!?」
「あなた最近、『現役女子中学生を殴り放題』とかいう商売やってるでしょう! 殴られてる動画がインターネットに公開されてたわよ!」
「え、えーーと……他人の空似じゃない?」
「我が子の顔を見間違える親がいますか! おまけにそんなにやつれて! ごはん食べてるの!?」
「あー、うん……最近いろいろ出費がかさんでて……」
 言うまでもないが、SMクラブの利用料である。
「ああ……あの真面目で優しい子だった絵夢はどこに行っちゃったの? 久遠ヶ原で、よくないお友達でもできたんじゃないの?」
「そんなことないから。私の周囲は素敵なお友達でいっぱいよ。お母さん心配しすぎ」
 絵夢の周囲には、常識から見て『よくないお友達』しかいない。
 とくにマゾ仲間は豊富だ。サドのご主人様もいる。ある意味とても『素敵なお友達』と言えよう。
「とにかく今日は、あなたを連れて帰ります! こんな学園に入学させたのが間違いのもとよ! 明日からはしっかりした普通の学校に通ってもらうから!」
「そんな急に! 横暴すぎるわ、お母さん!」
「黙りなさい! これ以上、三条家の名を汚させるわけには行きません!」
 実際のところ、絵夢は正真正銘『お嬢様』なのだった。
 そんな娘が街の路上で殴られ屋などやってると知れた日には、母親が激昂するのも無理はない。

「まぁまぁ、お母さん。落ち着いてください」
 窓口の女性が声をかけた。
「これが落ち着いてなどいられますかっ!」
「気持ちはわかりますが、娘さんにも事情があるでしょう。無理やり退学させるのもかわいそうです。ここは冷静に話しあいを……」
「話しあいでどうにかなるレベルを超えてます!」
「まぁまぁ。とにかくいったん、こちらの応接室へどうぞ。今お茶を出しますので」
「そんなもの飲んでるヒマはありません!」
「それでは、ええと……こうしましょう。娘さんに『殴られ屋』をやめさせればいいんですよね?」
「やめさせたところで、凝りもせず妙なことを始めるに決まってます!」
「そこは娘さんを信じましょうよ……。そうだ、この学園に来て悪い友達ができたのではと疑ってましたね? そんなことはないと娘さんに証明してもらいましょう」
「どうやるんですか、そんなこと」
「簡単ですよ。娘さんの友達に集まってもらえば、けっして『悪いお友達』などではないことがわかると思います。こちらの資料によると、絵夢さんは大変優秀な生徒と記録されてますし。……ですよね?」
 最後の問いかけは、絵夢に向けられたものだった。
 予想外のなりゆきに、絵夢は「そ、そうですね。私には良いお友達が大勢いますし……」などと、しどろもどろに答えるのがやっとだ。
 そこで絵夢の母は一言。
「わかりました。絵夢、あなたが久遠ヶ原でどんなお友達と付き合ってるのか、よーく吟味してあげます。いますぐ呼び出すなり何なりしなさい」
「う、うん、わかった。でもみんな忙しいから……来てくれるかな……」
「そういうときに駆けつけてこそ親友でしょう! 言っておきますけど私の眼鏡にかなわないお友達ばかりだったら、あなたは今日をもって退学ですからね!」
「わ、わかりましたぁぁ……」
 自業自得とはいえ、あまりの無茶振りに全身の冷や汗が止まらない絵夢。
 だが、この『追い込まれる感』もまた彼女のドM快楽中枢を刺激してやまないのだった。マジ終わってる。




リプレイ本文




 絵夢の呼びかけに応じて集まったのは、4人の撃退士だった。
 彼女のアドレス帳にある『友人』たちに片っ端からメールを送信した結果だ。
「ウソ……私の友達って4人だけだったの……? みんなのこと信じてたのに……」
 残酷な現実を前に、紅潮しつつ半泣きで震える絵夢。
 のっけから被虐趣味全開である。
「うぅん……メールの内容が、少々問題だったのではないかとぉ……いきなり『殴られ屋』の体験談ですからねぇ……。だれでも驚きますよぉ……」
 月乃宮恋音(jb1221)が冷静に応じた。
「来てくれてありがとうございます、月乃宮先輩! どうか先輩の力で母を説得してください!」
「わ、わかりましたぁ……できるかぎりのことは、させていただきますぅ……」
 恋音と絵夢は、一緒にファラリスの雄牛に入ったこともあるドM仲間! その絆は深い! てか、よく生きてたよ!

「それで? どう説得するというのです?」
 絵夢の母が挑発するように言った。
「えとぉ……私は高等部3年の、月乃宮と申しますぅ……。絵夢さんとは、いつも仲良くさせていただいておりますぅ……。ともあれ、まずお茶をいかがですかぁ……? 気分が落ち着きますよぉ……?」
「安物のお茶など飲む気はありません」
 きっぱり撥ねつける絵夢母。
 そこへ袋井雅人(jb1469)が加勢した。
『マインドケア』を使いつつ、持参した茶菓子を見せて彼は後押しする。
「恋人の私が言うのも何ですが、恋音のお茶は最高ですよ。久遠ヶ原に来た記念に、ぜひ一杯!」
 一般人へのマインドケアは非常に効く。
 絵夢の母が少し怒りを解いたところへ、次に高野信実(jc2271)が『紳士的対応』を発動させた。
「そのとおりっす。恋音先パイのお茶会、体験しないと損っすよ!」
「もう一度言いますが、私は忙しいんです」
 取り付く島もなかった。
 このままでは、せっかく用意したお茶の席も無駄に終わる。
「みなさん、ありがとうございます。でも御覧のとおり、うちの母はとても頑固で……」
 絵夢が溜め息をついた。
 しかし信実は引き下がらない。
「安心して絵夢さん。俺、親御さんを説得するよ! 俺、趣味とかないからさ、どんなヘンタイなことでも打ち込める物がある絵夢さんを尊敬するよ。だってそれも絵夢さんの個性だから。……あっ、でも飯はちゃんと食ってよ?」
「そ、そうですね。ごはんは食べないと……」
「そのとおりだよ。体には気をつけて。絵夢さんには、勉強教わったりノート見せてもらったり、いろいろ助けてもらったし……絶対に退学なんかさせないよ! たとえヘンタイでも! どんなにヘンタイでも! 絵夢さんは、大切なクラスメイトだから!」
「あ、ありがとう……」
 ヘンタイ呼ばわりされて少し……いや、だいぶ嬉しそうな絵夢。
 ちなみに信実は、優等生として知られるクラスメイトの絵夢がド変態だったことを初めて知り少々ショックを受けているのだが、顔には出さない。
「どうやらあなたは多少まともなお友達のようですね」
 絵夢の母は若干態度を軟化させた。
 いかにも真面目で純朴そうな信実の姿に、心を動かされたのか。
「はい! ひとりの友人として、絵夢さんを守ってみせるっすよ!」
「……わかりました。その熱意に免じて少しだけお茶に付き合いましょう」
 この場は信実の誠意が勝ったようだ。
 とはいえ、ただお茶会への誘いに成功しただけ。退学の危機は何ら変わりない。
「しかしマァ殴られ屋ネェ……マゾ娘にはピッタリだ」
 長田・E・勇太(jb9116)が、ぼそりと呟いた。
 彼は以前にも絵夢と接点があり、そのマゾっぷりは承知済みである。


 ともあれ一同は応接室に移動して、軽いお茶会の場が催された。
 上等の煎茶と茶菓子がテーブルに並び、それを囲む形で会話が始まる。
「ではまず、私から行きましょう!」
 妙に張り切る雅人が、斬り込み隊長を買って出た。
 その勢いに、絵夢の母も目を丸くさせる。
「話によると絵夢さんの趣味が問題視されているようですね。しかしお母さん、どうか理解してください。私たち撃退士は、人知を越えた強さの天魔と命懸けで戦わないといけないんです。さらに周辺住民の安全やら人質にされた人の身柄の確保やらで、ストレスが半端ないんですよ。なので人によっては、特殊な趣味に目覚めてしまうのも無理はないかと」
「特殊な趣味は別に構いません。公衆の場で行うのが問題なんです」
「見られることで悦びを感じる人もいるんですよ!」
「親として、そんな行為を認めるわけにいきません」
「そう言わずに! お母さん! マインドケア発動!」
「あなたの話はもう結構です」
 雅人の説得は完全な空振りに終わった。
 というか『説得』になってないぞコレ。

「では……私からも、少々お話をさせていただきますねぇ……」
 そう言うと、恋音は書類の束をテーブルに置いた。
 表紙には『アウル覚醒者における特殊体質の発現とアウルの関連性について』と書かれている。見るからに本格的なレポートだ。
「えとぉ……まずは、こちらのデータをごらんください……」
 恋音に促されて、絵夢の母はレポート用紙を手に取った。
 めくってみれば、タイトルどおりのデータや文章がズラリと並んでいる。
「こんなものをすべて読めと言うのですか」
「いえ、それは飽くまでも『必要なデータ』として、そろえただけですのでぇ……。簡単にまとめますと、さきほど袋井先輩が説明しましたように、撃退士には変わった趣味の方が多いのですよぉ……。この事実に関して、現在のところアウルとの関連は未確定ですけれども、おそらく関連があると見られておりまして……しかるべき機関で研究が進められておりますぅ……」
「娘の趣味もアウルのせいだと?」
「その可能性が高い、ということですねぇ……。ちなみに私も、アウルの影響でこのような体型になっておりますぅ……」
 恥ずかしそうに胸を手で隠す恋音。
 久遠ヶ原では見慣れた代物だが、一般人からすれば異様なサイズだ。
「でしたら余計、この学園にいさせることはできませんね」
「それは早計ですぅ……。学園できちんとアウルの制御法を学べば、特殊な趣味や体質をコントロールできるようにもなりますし……他校に移っても、事態が解決するどころかアウルの制御不能に陥って、趣味や体質が悪化する恐れもありますぅ……。実際に、撃退士として経験の豊富な方は、アウルの影響とうまく付き合う方法を身につけている場合が、多いのですよぉ……」
「話はわかりました。けれど、そもそもアウルとやらを使わなければ良いのでしょう? うちの娘には、二度と撃退士の仕事などさせません。ライセンスも返上させます」
 きっぱり言い切る絵夢母。
 これにはさすがの絵夢も「そんな! ひどい! 勝手に決めないで!」と声を荒げた。
「うぅん……そこまで考えていましたかぁ……」
 まるで説得が通じず、恋音も困り顔だ。

「hey……いいかげんにしろヨ? ファッキンジャップ」
 ここまで無言で成り行きを見守っていた勇太が、ふいに口を開いた。
 その口調も表情も、いつになく険しい。
「黙って話を聞いてれバ、なにさまのつもりだ? 子供は親の所有物じゃナイんだぞ。話も聞かず一方的に退学させるトカ、撃退士をやめさせるトカ、好き勝手なコト言ってるんじゃねェ」
「なんですか、あなた。口の悪いお友達ですね。こんな人たちと付き合ってるから、うちの娘がおかしくなってしまったんですね。よーくわかりました」
「ミーの口が悪いのと、ユーの娘がヘンタイなのは無関係ダロ。だいたい娘が殴られ屋をやってたら、なにがマズイんだ? ようするに世間体を気にしてるだけじゃねぇのカ?」
「世間の目もありますが、私は娘の体を心配してるんです! 親として当たり前のことでしょう?」
「娘の体より、自分の立場を心配してるように見えるがネェ……? いいか、よく聞け。殴られ屋ってのはな? 確固たる防御スキルを身につけていることが前提の仕事サ。おかげでユーの娘はかすり傷は受けちゃあいるが『致命傷』は負っちゃいナイ。コイツは自分の特性がわかっていて、可能性を伸ばそうとしてるんだと思うがネ? 親のクセにそんなこともわっかんねぇのか?」
「そんなことを続けていたら、いつか大怪我するに決まってます!」
「撃退士にケガはつきものサ。それに世間の目なんか気にするナ。たとえどエムだとしてもイイじゃねえか。極めれば『イージスの盾』になれるかも?ダ。ユーも母親なら、娘の成長を暖かい目で見守ってやれヨ」
「天魔と戦っての怪我なら、私もうるさいことは言いませんよ。でも一般人にお金をもらって殴られて怪我をするなんて……末代までの恥です!」
 絵夢の母は一歩も退かなかった。
 勇太の説得も通じなかったようだ。

「あのぉ……その点については、私から提案がありますぅ……」
 恋音がそっと手をあげた。
 母親のほうでなく、絵夢に向かって彼女は言う。
「えとぉ……実際問題、殴られ屋というのは危険ですし……世間体はもちろん、撃退士そのものの評判にもかかわりますぅ……。そこで、ですけれどぉ……VBSを利用した仮想空間で趣味を満たすというのは、いかがでしょうかぁ……? これでしたら危険はありませんし、周囲の目も気にする必要はありませんよぉ……? それに設定次第では、現実よりバリエーション豊富かつ酷いプレイが、たのしめますぅ……」
「もちろん知ってます。平等院先輩のVRBSは何度も利用してますし。でも……あれじゃ満足できないんです! 怪我をしないプレイなんて、プレイじゃありません!」
「お、おぉ……御存知でしたかぁ……。それはまぁ、そうですよねぇ……。そして怪我をしないのが利点だと思っていましたが、そうでない方もいるんですねぇ……失礼しましたぁ……」
 今日の恋音はキレが悪い。
 絵夢ほどの超絶ドMが、仮想プレイをしないわけがないだろ!

「はぁ……こんなことを言う娘を、私の目の届かない所に置いておくわけにいきませんね。さあ絵夢、いますぐ退学の手続きに行きますよ」
 話は終わりとばかりに、絵夢の母は湯飲み茶碗を置いた。
「ま、まって、お母さん! みんな私を助けて!」
 おろおろと周囲を見回す絵夢。
 ここで信実が『紳士的対応』による助け船を出した。
「お母さん、待ってくださいっす! 退学は考えなおしてほしいっすよ!」
「あなたは娘と同じクラスだと言いましたね。いままで娘がお世話になりました。では」
「俺の話も聞いてほしいっす! たしかに絵夢さんはドMのヘンタイかもしれないっすけど、ふだんは優しくて、頭が良くて、先生からも頼りにされてて、クラスの喧嘩を仲裁したりもして……立派な生徒なんすよ! もし絵夢さんが退学したら、俺はもちろんクラスの全員が悲しむっす!」
「そんな感傷は一時のものです。すぐに忘れますよ」
「そんなことはないっす! 超優等生と見せかけておいて実は超ヘンタイだった絵夢さんのことは、ずっと忘れないっすよ!」
 無自覚に絵夢をヘンタイ扱いするあたり、信実は天然Sなのかもしれない。
 その容赦ない口撃に、絵夢はキュンキュンするばかりだ。

「どうやら通常の説得は通じないようですね。しかし一人の友人として、絵夢さんが学園を去るのを見過ごすわけにはいきません。そこで……」
 眼鏡を輝かせつつ、雅人は一升瓶をテーブルに置いた。
 しかも二本。片方は普段から愛飲している撃退酒。もう片方は普通の日本酒だ。ただし超高級な純米大吟醸。
「絵夢さん、お母さん、一緒に飲みましょう! そして親子同士、腹を割って本気でぶつかりあうのです! そうでもしなければ互いのことをわかりあえません!」
「あきれましたね、昼間から飲酒ですか。やはりこんな場所に娘を置いておくのは……」
「逃げてはいけません、お母さん! これが久遠ヶ原流のお茶会なのです! 絵夢さんと杯を交わしたことはありますか? ありませんよね? ならば今こそ絶好の機会! 酒を飲み交わすことで、お互いの心を通わせることができるはずです!」
「中学生に飲酒をすすめるのですか、あなたは」
「心肺ゴム用! この『撃退酒』はノンアルコールながら、お酒を飲んだときの気分を味わうことができるのです! もちろんあなたには通常のお酒を用意しましたよ! ぜひ一杯!」
 雅人は絵夢母に杯を押しつけると、ことわる隙も与えず日本酒を注いだ。
 あまりの勢いに、「では一杯だけですよ?」と杯を口に運ぶ絵夢母。
「あっ、その人にお酒を飲ませては……!」
 絵夢が止めようとしたが、すでに時遅し。
 たった一杯の日本酒を飲んだ、その瞬間。絵夢の母は豹変した。
「ああ……暑いわぁ……」とか言い出して、いきなり服を脱ぎ始めたのである。
 この予想外すぎる展開に、絵夢以外全員の頭上に『!?』が浮かび上がった。
「お母さん! 服を着て!」と、絵夢が叫ぶ。
「あなたがいけないのよ、私を困らせるから……もう溜まって溜まって……どなたでもいいので、お相手してくれません……?」
 絵夢の母は、まだ三十代前半。余裕で現役である。
 大人の色香が漂い、室内はピンクの空気で満たされた。
「ひとまず落ち着いてください、マインドケア! ……って、打ち止めでしたよ!」
 スキルを発動させようとした雅人の手から、スカッという音が出た。
「いいわねぇ……撃退士の若い男……そそるわぁ……」
 下着姿で雅人にすり寄る絵夢母。
 こうなっては雅人も黙ってはいられない。
「そういうことならわかりました! 現役AV男優の名にかけて、あなたを昇天させてあげましょう!」
「あらあ……たのしみぃ……」
 止める者もおらず、なにやらおっぱじめる変態2名。

「う、うわぁ……! これはまずいでしょ! 蔵倫! 蔵倫だよ!」
 信実は赤面して顔を覆った。
 こういうことに免疫がないのだ。
「あのぉ……袋井先輩、どうかそのあたりでぇ……」
 恋音も激しく赤面しつつ、雅人を止めようとする。が……
「なにを言うんですか! ここでやめたら男優袋井雅人の名がすたるというものですよ!」
 当然のように止まらない雅人。
「ヘンタイの親もまたヘンタイだったというわけネ。蛙の子は蛙とは、よく言ったものダヨ」
 勇太は欧米人っぽく肩をすくめてみせた。
 そんな皆の反応を見ながら、絵夢はビクンビクンしている。
「ああ……お母さんの恥ずかしい姿を見られてる……自分が見られるより恥ずかしい……♪」
 倒錯しきった悦びに打ち震える絵夢。
 もはや救いようナシ!


 こうしてお茶会の席は、とんでもない形で終わりを迎えた。
 コトが終わってシラフに戻った絵夢母は逃げるように学園を立ち去り、二度と撃退士の前に姿を見せないことを誓ったという。
 絵夢の退学騒ぎも立ち消えになり、これからも充実したドM学園生活をつづけるだろう。
 いや……なんていうか、うん……ひどいオチだな! 正直スマンカッタ!




依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:7人

大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
ラブコメ仮面・
袋井 雅人(jb1469)

大学部4年2組 男 ナイトウォーカー
BBA恐怖症・
長田・E・勇太(jb9116)

大学部2年247組 男 阿修羅
かわいい後輩・
高野信実(jc2271)

高等部1年1組 男 ディバインナイト