その日、最強のスイカ割り戦士を決めるために13人の撃退士が集まった。
場所は告知どおり学園第2グラウンド。
ただし天候は最悪で、『観測史上まれに見る規模の台風』直撃まっただなかである。
だれも予想だにしない悪状況下での戦いになってしまったが、条件は皆一緒。公平な戦いだ!
え、亜矢だけ後出しジャンケンできるだろって?
そんなことできるほどアタマよくないから安心して!
「あのぉ……この猛烈な豪雨の中で、本当にスイカ割りをするのですかぁ……?」
月乃宮恋音(
jb1221)が不安げに問いかけた。
雨と風で髪はグチャグチャ。全身ずぶ濡れである。
もちろん(?)制服の下には、いつもの牛柄ビキニを着用している。
「当然よ! 雨天決行って書いたでしょ!」と、亜矢。
「えとぉ……そのような表記は、どこにも見当たりませんでしたよぉ……?」
「あたしのイベントは例外なく雨天決行なの! あんた何年あたしと付き合ってんのよ! わかるでしょ、それぐらい! アタマ悪いんじゃないの!?」
亜矢から『アタマ悪い』とか言われるとは、恋音もヤキが回ったものだ。全部アドリブなのに!
「そのとおりですよ恋音! 撃退士は、いつどのような状況で天魔と戦うかわかりません! これはそのための訓練でもあるのです!」
袋井雅人(
jb1469)が真剣な顔で応じた。
濡れても良いよう、最初から海パン姿である。
「よくわかってるわね。この世にはスイカ型の天魔だっているのよ」
亜矢が頷いた。
「当然です。戦闘狂の一員として、今回は納豆も焼肉もAVも脇に置いて頑張りますよ!」
意気込みを見せる雅人だが、納豆も焼肉もAVもスイカ割りに使いようがないぞ。
「いまさらですけど、私の知っているスイカ割りと激しく異なる気が……」
大雨の中で、雫(
ja1894)は溜め息をついた。
「これでいいのよ! あんたもタダのスイカ割りなんか楽しくないでしょ?」と、亜矢。
「私はただのスイカ割りで構いませんが……まぁやるからには真剣にやりましょう。ようするに全てのスイカを叩き割れば良いのですよね?」
「そのとおりよ」
「では誤って人の頭を叩き割ってしまったとしても、不慮の事故ということで。とくにポニーテールの頭部が個人的に叩き割りやすいのですけれど……」
物騒なことを言い放つ雫。
だが参加者の誰もがその程度のことは覚悟している! はずだ!
ちなみに雫は『パサランにスイカを飲みこませて守る』という策を立ててきたが、これはパサランにとって非常な苦行だった。なにしろ飲みこんだものを1ターンで吐き出してしまう性質のため、数秒おきにスイカを吐いてはベチョベチョになったのをまた食べるという繰り返しなのだ。どう見ても虐待である。さもなければSMプレイだ。まさか知らずにやらせたということはないと思うが……。まさか雫ともあろう者がパサランの性能を知らなかったなんてことはないと思うが……。
うん、意図的にやったと判断しよう!
「これってスイカ以外もカチ割られるんじゃ……?」
参加メンバーの顔ぶれを見て、浪風悠人(
ja3452)は呟いた。
なにをいまさらな発言だが、実際命の危険も少なくない。病院送りの条件は十分すぎるほど整っている。ヘタすれば霊園送りだ。
「言っておくけど、これはれっきとしたスイカ割りよ。わざと人間を攻撃するのはNGだから!」
亜矢が釘を刺した。
「NGだろうと何だろうと、やったもの勝ちな気がしますけど……」
悠人も久遠ヶ原生活は長い。参加した時点で覚悟はできている……はずだ!
「いいね〜、ラーメン食べたあとのスイカもこれまたおいしいんだよね〜」
佐藤としお(
ja2489)は、豪雨の中で腕まくりした。
今日は(今日も)昼食にラーメンを食べたばかり。麺類ゲージは溜めてあるぜ!
「そのためにも全力でスイカを割るぜ! 負けてもともと全員ぶっ殺s……胸を借りるつもりで行くぜー!」
無駄にテンションを上げるとしお。
その背後からは「としおさんステキ……」というストーカーの声が聞こえる。
「ふ……本日は(乳を)持たざる者が(乳を)持てる者に勝てると、証明して差し上げますわ」
恋音のほうを見ながら、斉凛(
ja6571)が暗い瞳で呟いた。
「あ、あのぉ……なにか私に対して、お気に召さないことでも……?」
視線に気付いて訊ねる恋音。
「いいえ、なにも。ただ(乳の)豊かな者が常に勝利するわけではないということを、世に知らしめたいだけですわ」
「えとぉ……お手柔らかに、おねがいしますぅ……」
「ところで矢吹さん(もぐもぐ)ルールには『スイカを割られたら退場』って書いてあるけど(しゃくしゃく)『スイカを食べて胃の中で守る』場合はどうなの?」
まじめな顔で質問しながら、蓮城真緋呂(
jb6120)はスイカを食べていた。
しかもえらい勢いである。周囲はスイカの皮と種でいっぱいだ。どこぞのお笑い芸人の特技みたいなことになってるぞ。
「あんた! なに勝手に食べてんの!?」
「『馬には乗ってみよ、人には添うてみよ、スイカは食べてみよ』って言うでしょ?」
「勝手にことわざ作らないで! あとスイカは各自1個ずつ必ず持ってもらうから!」
「だから、それを胃袋に収納しようと……」
「却下よ! 却下!」
亜矢のほうがマトモに見える会話って……。
「最初は実況とかやる予定だったのです、けど……どうしてこうなった……」
周囲を見回して、ザジテン・カロナール(
jc0759)は頭を抱えた。
参加者は全員彼以上のベテラン。スイカ割りという名の殺しあいでは、とても勝ち目がない。
とくに雫と恋音は規格外のバケモノだし、釘バットを封印した紅茶神とか、日常作業みたいにミサイルを並べてるペンギンもやばい。
「たしかに周りは強い人ばかり……でも、やるからには天辺取るですっ! どれだけ歴戦の猛者が相手でも! どうあがいても絶望的でも!」
グッと『霊符』を握りしめるザジテン。
彼がこの武器を選んだ理由は『攻撃時に黒い棒が射出されるから』だった。
そう、スイカ割りとは棒でやるもの。人界知らずの彼だが、今回の判断は正しい。
しかし『黒い棒』って……雅人が喜んで使いそうな武器だな!
「それにしても、人間界のスイカ割りにはバトルVerが存在するですね。またひとつ賢くなりました」
亜矢のおかげで、まちがった知識を吸収してしまうザジテン。
確実にひとつ馬鹿になってる。
「ねぇ亜矢ちゃん、一緒に戦おうよ」
流れを無視して、白野小梅(
jb4012)は亜矢に共闘を持ちかけた。
「はぁ? これバトロワなのよ? 最後の一人になるまで戦うルールだから」
「でもバトロワは仲間が一緒だと強いんだよぉ。これ見て、これ」
小梅が広げたのは、古いプロレス雑誌だった。
そこには、十数人のレスラーによるバトルロイヤルの記事が掲載されている。
「あんたと一緒に戦うとロクなことにならない予感するけど……まぁいいわよ」
「やったぁ! 優勝めざしてガンバロー♪」
「つーか、さっさと始めようぜ。全身機械の俺様ちゃんは水に弱いんだよ。知ってんだろ」
ラファル A ユーティライネン(
jb4620)が急かした。
自分で言ったとおり、彼女は機械なので水濡れ禁物。にもかかわらず参加したのは、この手のイベントが大好きだからだ。いくら無法地帯の久遠ヶ原といえど、合法的にすべてを爆破できる依頼は少ない。あと台風が来るとか聞いてなかったし。人数が少ないと(字数が余るから)予想外のアクシデントが起こるのだ。『合法的にすべてを爆破』って凄い言葉だな、しかし。
「言っておくけど、そう簡単に爆破オチにはさせないわよ?」
亜矢が言った。
「上等だぜ。どうせ俺の爆破か、魔王の乳かの二択なんだ」
「そうはさせない!」
反論する亜矢だが、実際ラファルと恋音のオチ担当率は目を見張るものがある。いつもありがとうございます。
「さて、じゃあ始めるわよ! みんな準備はいいわね?」
荒れ狂う暴風雨の中、亜矢のホイッスルでスイカ割り大会が……と思いきや、みんなの『準備』はここからだった。
まずは小梅が「重くて持てないもん」と言いつつ、スイカをガムテープでグルグル巻きにしてプチプチ(緩衝材)入りのキャリーバッグに詰めこむ。非力であることを利用して、スイカの耐久力を上げる作戦だ。
「亜矢ちゃん、これは反則じゃないよね? だって重いんだもん」
「まぁいいわよ、それぐらい」
緩衝材ごときで撃退士の攻撃を防げるわけないので、この程度はOKだ。全然ぬるい。ぬるいぞ小梅!
かたや、凜は『創造』でニセモノのスイカを作っていた。
これを背中にくくりつけ、本物のスイカは胸にぶらさげる。
「ごらんなさい。ない乳だからこそ、胸にくくりつけられるのですわ!」
なぜか得意げに言いつつ、恋音のほうを睨む凜。
今回の彼女は恋音に対して敵意満々だ。スイカという単語が巨乳を連想させるためか。
その恋音はといえば、建造物破壊に使う鉄球みたいなサイズのスイカを地面に埋めていた。
しかもウネウネした蔓が蛇のように動いており、異様な光景を呈している。完全にクトゥルフ的な何かだ。イアイア。
「なんなのよ、それ!」
これには亜矢も何か言わずにいられなかった。
「えとぉ……ただの大きなスイカですが、なにか問題でしょうかぁ……?」
「大問題よ! ていうか天魔じゃないでしょうね、それ!」
「そんなことをしたら、確実に懲罰ものですよぉ……。正真正銘、これはただのスイカですぅ……」
「でも動いてるじゃない!」
「食虫植物やオジギソウなど、動く植物は多く存在しますよぉ……?」
「ぐぬぬ……口だけは達者ね」
そんな乳魔王をよそに、真緋呂は小さめのスイカを選んで胸に詰めこんでいた。
さらに『創造』でダミーのスイカを作成。
行動が完全に凜と一致してるけど、乳のサイズは比較にならない。恋音ほどではないにせよ、真緋呂もかなりのものだ。
それを見て、やけに闘志をみなぎらせる凜。平和なスイカ割り大会が、胸囲の格差で血みどろの惨劇へと変容する雰囲気だ。今回の凜は一体どうしたのかというほど殺る気満々である。いや本当にどうしたんだ!?
しかし、スイカを埋めたりダミーを創造したりするのはマシなほうだった。
咲魔聡一(
jb9491)の作戦は、こうだ。
ずばり、スイカを緩衝材で包みスケボーにくくりつけてグラウンドの外へ蹴り飛ばす!
「なにやってんの、あんた!」
これまた亜矢が怒鳴りつけた。
「え? 選手がグラウンドから出たら失格だけど、スイカをグラウンドから出したら失格という条項はないよね? なにか問題でも?」
「やりたい放題ね、アンタら……」
「ルールは守ってるよ? テイマーになれたらスイカを物陰に隠すとか万全を期せたんだけど、まあ今回はこれでいいや」
「召喚獣の使いかた間違ってるわよアンタ」
ちなみに聡一の行動も反則ではない。
ただ本人が殺られたら終わりなので、ぶっちゃけスイカとかどうでもいい。
とはいえ撃退士本体よりもスイカのほうが柔らかいのは確かなので、聡一の作戦は十分有効だ。
だが一番ひどいのは、染井桜花(
ja4386)だった。
彼女が持ち込んだのは、自律人形『おかにゃん』30体。すべてに超強力なスイカ型爆弾を持たせている。
『おかにゃん』というのは、桜花自身をモデルに作成されたジャンクV兵器で、外見は5歳児ほどの猫耳幼女ロボである。全員がスイカ爆弾をかかえているので、完全にカミカゼ精神の特攻兵器だ。
「……ここまであえて見ないことにしてたけど、それ反則よ?」
亜矢が冷静に指摘した。
そりゃそうだ。これがアリなら『自作ロボ1000000体持ってきたぜ!』とかもOKになってしまう。
「……使ってはいけないと……言われてない」
「だれがスイカ割りにロボットとか爆弾とか持ってくると思うのよ!」
「……そういうことは……先に言ってほしい」
「わかったわよ! じゃあ今回だけはそれアリでいいから!」
認めてしまう亜矢。
もはやマトモなスイカ割りは望めない。
最初から誰も望んでなかったと思うが。
こうして波乱の予感が満ちる中、スイカ割りBRが始まった。
その瞬間、いくつかのハプニングが同時発生。
まずは開始寸前、雫による『邪毒の結界』が発動。グラウンドが毒の霧に覆われる。
「これで一気に数が減るでしょう」などと呟く雫だが、その程度で倒れる貧弱な者はいない。
つづいてラファルの高火力ミサイルが四方八方に乱射される。
ただし、これで戦いを終わらせることができるとは彼女も思ってない。本当の狙いは別だ。
そう、これだけミサイルをぶっぱなせばグラウンド近くの獣舎に流れ弾が当たり、飼育されている闘牛が怒濤の勢いで押し寄せても不思議はない。
この時点で会場は大混乱だが、無論ただの暴れ牛ごときに負ける撃退士はいない。
だが更に、桜花の持ち込んだ自律型(自爆)人形30体がワラワラと走りだす。
あちこちでスイカ型爆弾が炸裂し、混乱に拍車をかけた。
だがスイカサイズの爆弾ごときにやられる撃退士などいないぜ!
もっとも、だれもやられはしないが会場は滅茶苦茶だ。
吹き荒れる雨と風。
蔓延する毒の霧。
飛び交うミサイル。
走りまわる暴れ牛の群れ。
自爆しまくる桜花ロボ。
とてもスイカ割りの現場とは思えない。
「やってくれるわねアンタら。まずはラファルから血祭りよ! 爆破オチにはさせない!」
亜矢が全身血まみれで突撃した。
「上等だー! 新兵器のヒナちゃん人形で返り討ちにしてやるぜー!」
改造したアンティークドールで、二人羽織のかんかんのうを踊りだすラファル。
一見すると意味不明な行動だが、そういう魔具なので仕方ない。
「亜矢ちゃん、待ってーー! 作戦どおりやろうよーー!」
小梅が大声で呼び止めた。
本当は『グラウンドの外周を背にして互いをフォローしつつ迎撃する』という作戦を立てていたのだが、そんな消極的な作戦に従う亜矢ではない。亜矢の知能に合わせて考えた簡単な作戦だったが、『突撃する』以外の作戦など彼女にはない。
「死ねーーー!」
当然のようにスイカを無視してラファルの首へ斬りかかる亜矢。
応じるラファルも、普通に亜矢本体を狙って火炎球を発射。
はたして勝つのはどちらか!
その直後、雫の放った弾丸が亜矢のスイカを粉々にした。
同時に、凜の空中からの狙撃がラファルのスイカを撃ち砕く。
これでルール上ふたりは退場だが、無視して戦闘を続ける両者。
そのとたん四方八方から銃弾や魔法が飛んできて、最後に悠人の封砲が地面ごと亜矢とラファルを吹き飛ばした。
「「アバーーッ!」」
スイカを砕かれ、生命力ゼロになり、おまけにグラウンドの外へ吹っ飛ばされて、みごと三重殺をくらった亜矢とラファル、仲良く撃沈! 爆破オチは免れた!
「これは……目立つと真っ先にやられるです? とりあえず様子をうかがいつつ逃げに徹するですよ」
ザジテンはヒリュウのクラウディルを召喚すると、視覚共有で戦況を見極める方針をとった。
いつもの斥候任務で偵察には慣れている。
まわりが自分より強い生徒ばかりでも、回避と偵察に専念すればすぐに負けることはないだろう。『とにかく暴れまわって潔く散る!』ってタイプの人も多いからね!
だが問題は、ザジテンと同じく『逃げ』に徹する者が他にもいることだった。
雫は狙撃を終えた瞬間から『遁甲の術』で移動潜伏してるし、真緋呂にいたっては『蜃気楼』で姿を消して全員が潰しあうのをずーっと眺めてるつもりだ。蜃気楼の効果は最大3分。3回使えるので108ターンもの間隠れていられる。試合終了まで隠れ続けるのも不可能ではない。ていうか恐らく余裕だ。
おまけに『薔薇の城塞』『収束電磁バリア』とどめに『霊気万象』と、防御システムは完璧。『歩くイージス艦』という称号を与えても良いぐらいだ……けど付与しそこねたので、また今度!
だがもちろん、逃げに回る者ばかりではなかった。
「ヨーシ、ガンバルゾー! まずはライフルを逆さに持って、と……」
としおは何故かライフルをさかさまに持ち、シャキーン!と肩に担いだ。
そしてそのまま「うおおおおおおお!」とか叫びながら突撃開始!
彼の目的はスイカ割りではなく、インフィルトレイターでも近接戦ができると証明すること。インフィが飛び道具だけという概念を崩すことだった。
それでもライフルで殴りかかるのはどうかと思うが、彼の脳味噌はラーメンで出来ているので仕方ない。まさに味噌ラーメン。
「いいでしょう、私が受けて立ちますよ! かかってきなさい!」
立ちふさがったのは雅人だ。
納豆も焼き肉もAVも封印した今日の彼は、実際かなり強い! と思う!
でも、この男……回復スキルしか積んでないぞ!? そんなスキルで大丈夫か!?
「行くぞおおお! インフィでも近接できるんじゃーい!」
としおのライフル(の台尻)が、雅人の脳天に振り下ろされた。
最初からスイカを狙う気まるでナシ!
「私のスイカは、この身をもって死守しますよ!」
としおの狙いになど気付かず、必死になってスイカをかばう雅人。
その背中や頭部を、としおが一方的に殴りつける。
雅人は暴力に耐えるだけ。だって『攻撃』って一言も書いてないんだもん! いくらアドリブ大好きな俺でも、書いてないことは行動させられないよ! おかげで物凄いバイオレンスな光景になってるけど大丈夫! これはライフル本来の使いかたじゃないから! 魔具の性能発揮できないから! 回復すれば無傷で済むから!
「なぜだ!? 殴っても殴っても倒れない! まさか不死身だというのかーー!?」
「愛の力がなせることです! このスイカの種が、やがて不毛の大地に沢山のスイカを実らせ人々に笑顔をもたらすときがくる……そう信じて私はスイカを守り抜きますよ!」
わけのわからないことを(アドリブで)言いながら、無抵抗を貫く雅人。
その背中に雫と凜の狙撃が浴びせられ、自爆人形おかにゃんが突っ込んでくる。
それでも大量の回復スキルで耐える雅人。
としおもガンガン巻き込まれてるけど、急所外しやラーメン力で耐えていた。
そこへ悠人の封砲がブチこまれて、ふたりは地面ごと吹っ飛ばされる。
「グワーーッ!」
としおはスイカを割られてリングアウト。
雅人はどうにか耐え抜き、全身血まみれで踏みとどまった。
「あはははははー、まだだー、まだやれるぞー!」
その直後、暴れ牛が突進してきて雅人はグラウンドの外へ撥ね飛ばされてしまうのであった。
それでも最後までスイカを抱きしめて守り抜いた彼は、まさにスイカ農家の鑑と言えよう!
勝手にスイカ農家にしてしまったが、そうでもなければここまでスイカを守る理由がわからん!
(よし、いまだ!)
そんな混乱の隙を突いて、聡一が動いた。
彼のスイカは前もってスケボーごとグラウンドの外に蹴り飛ばしてある。つまり遠距離攻撃さえ阻止すれば、割られることはない。ならば遠距離攻撃を持つ相手から先に倒してしまえば、あとは安泰というわけだ。……まぁ自分自身がやられたらおしまいだけどね!
ともあれ聡一は、まず凜を攻撃することにした。なんせ上空からの狙撃は厄介だ。
翼で飛翔し、魔具のサックスによる衝撃波を見舞う聡一。
みごと命中し、凜の背中にあるスイカが割れた。
だが、これは創造で作られたニセモノだ。
「あら、油断してましたわ」
胸にぶらさげた本物のスイカを腕でガードしつつ、ライフルで反撃する凜。
空中での撃ちあいが始まった。
そこへ、雫の狙撃が横槍を入れる。
彼女は最初から徹底して気配を断ちつつ、交戦中の撃退士だけを狙う漁夫の利作戦を立てていた。もとから強いくせに、ガチすぎるぞ!
だが聡一は『アーカシャアイズ』で、凜は『回避射撃』で、狙撃を回避。
次の狙撃が来る前に、すかさず凜が提案する。
「お待ちください。わたくしの真の目的は、打倒魔王恋音ですわ。ここはいったん手を組んで、一致団結して魔王を倒しませんこと? とくに雫様とは乳のない者同士、仲良くしたいですわ」
「打倒魔王ですか……それはそれで面白そうですね。では一時休戦しましょう」
雫が合意した。
かたや聡一は、恋音に対して恨みも何もない。
だが植物使いの一人として、彼女の持ち込んできた巨大スイカには興味があった。
「わかった、手を組もう。花屋の端くれとして、その動くスイカは無視できないっ!」
こうして、凜、雫、聡一の3人チームが結成。
あの不気味なスイカが破壊できるなら(ついでに魔王も倒せるなら)この場は協力しようという感じで、ほぼ全メンバーによる恋音包囲網が築かれた。
「お、おおお……!? な、なぜですかぁぁ……!?」
唐突な成り行きに、フルフルと震える恋音。
理由は言うまでもない。持ってきたスイカがあからさまにヤバそうだからだ。逆にヤバすぎて今まで誰も手を出してなかったのだが、いつかは割らねばならぬ相手である。いまが好機というわけだ。
「ここは是非とも僕に一番槍を!」
聡一が上空から巨大スイカに接近した。
彼はこの手の植物に見覚えがある。素人ではない。
「うぅ……むざむざ割られるわけには、いきませんねぇ……。おいでなさい」
恋音がリードを引くと、巨大スイカが地面を割って転がりだした。
そして触手のように蠢く蔓が、すばやく聡一の足首を絡め取る。
「しまっ……! 物質透過を活性化させないとぉぉおおおお……ッ!?」
なにもできないまま、グラウンドの外に放り投げられてしまう聡一。
無念! どうやら少々油断していたようだ。最初から『動く巨大スイカ』の対策を立てておかないから、こんなことに!(無理言うな
「えとぉ……このスイカは少々特殊ですのでぇ……気をつけてくださいねぇ……?」
見ればわかることをわざわざ警告する恋音。
「大いに結構ですわ。その胸のスイカごと木っ端微塵にして差し上げます。お受けなさい、これが女帝の裁きですわ」
凜の手から『女帝神罰』が放たれた。
狙いは恋音の『さらし』である。これが溶ければ急激に胸が膨張して大爆発するはず! ……って、そんな設定どこにもないよ! 初耳だよ! 勝手に他人のおっぱい爆発させないで! それは雅人と明日羽の所有物だから!
というわけで、作戦失敗した凜は聡一と同じくグラウンドの外にポイ♪
無惨な女帝の最期であった。
「……では……参る」
ここで、ずっと『おかにゃん』まかせだった桜花が動きだした。
残っていたロボットを集結させて恋音の正面から突撃させ、自身は『神速』で恋音の背後から接近。
ロボを次々と爆発させて陽動を誘い、布槍で恋音を縛り上げる。
「お、おぉ……!? いつのまにぃ……!?」
「……もらった」
公平に見てインチキすぎる行動だが、恋音のやってることも大差ないので無問題。
さらに桜花は縛り上げた恋音を布槍に括り付けたままハンマーのように振りまわし……たところで、またしても雫の狙撃が割って入った。徹底した漁夫の利狙いである。あとパサランいじめないで。
「やるなら今しかありませんね」
戦況をうかがっていた悠人が、ためらわずコメットを撃ち込んだ。
そして、最後に小梅がおいしいところを持って行く。
「くらえーー! ニャンコ・ザ・ズームパーンチ♪」
巨大な猫が現れて、「オラオラオラオラオラオラ!」と雄叫びを上げながら猛烈な肉球ラッシュをぶちかました。
この連携攻撃によって、桜花と恋音は沈没。
ラファルの爆破オチに続いて、恋音のおっぱいオチも回避された! ヤッター! みんなが力を合わせたり合わせなかったりしたおかげだ!
こうして血で血を洗う激戦のすえ、戦場に5人が残った。
雫、悠人、小梅、真緋呂、ザジテンだ。
ここで悠人は冷静になって考えた。
いままでの流れを見れば、ほかの誰を攻撃してもすかさず雫からの横殴りが入って苦戦必至だろう。ならばもう雫を狙うしかない。幸い、彼女のスイカは哀れなパサランが飲んだり吐いたりしている。割るチャンスは十分だ。
しかし行動に移すには、他メンバーのコンセンサスを取る必要がある。やみくもに突っ込んでも返り討ちに会うだけだ。
さてどうやって説得しようか……と、残った顔ぶれを見まわす悠人。
といっても真緋呂の姿は見えないので、説得できるのは小梅とザジテンだけなのだが。
そもそもこの混乱の中で、真緋呂が生き残っていることを把握してる者がいるのかさえ怪しい。
ちなみにこのとき、真緋呂の『蜃気楼』使用回数は余裕で残っていた。
このまま行くと本当に蜃気楼だけで優勝してしまいそうだ。
「ふふ……だれも私に気付かないわね。目論見どおりだけど、すこし寂しい気もするような……。せっかく数々の対抗スキルで一人残らず返り討ちにしてあげようと思ったのに。とくにアカレコ奥義『霊気万象』は、あらゆる攻撃を完全に無効化するのよ。これこそ『無敵』の称号を持つ私にふさわしい……私の、私による、私のための奥義! これを身につけるまでの道のりは長かったわ……いつまで経っても増えないアカレコスキルを、どれほど待ちつづけたか……。どれほど待ちつづけたか!」
姿を隠したまま、静かに独り言を続ける真緋呂。
はたして彼女の奥義に出番はあるのか!
しかし、ここで事態は急転した。
恋音の残していった巨大スイカが、コントロールを失って暴れ始めたのだ。
しかも超高速でグラウンド内を転げまわり、蔓から大量の液体をまきちらしている。
浴びた者の服を溶かしたり、体の一部を肥大化させたり、酩酊状態にさせて正常な判断力を奪ったり……という無茶苦茶な複合効果を持つ液体だ。
おまけに桜花ロボットは相変わらず自爆攻撃を仕掛けてくるし、興奮しきった暴れ牛の群れも手がつけられない。
それでも何とかスイカを守りきろうと装備やスキルを使いまくる悠人だったが、最後はぬかるみで転倒したところを巨大スイカに轢かれてゲームオーバー。まさかスイカ割りに来て逆にスイカに轢き殺されるとは、夢にも思わなかっただろう。俺も思ってなかったよ。ぜんぶ恋音が悪い。
「こうなればもう、一刻も早く終わらせるしかありませんね」
服が溶けて半裸ズブ濡れ状態の雫は、妙にグラマーな体格になっていた。
そのまま服を手で押さえつつ、玉砕覚悟で巨大スイカに……ではなくザジテンめがけて突進!
「な、なぜ僕を狙うですか!?」
「あの化け物スイカを叩き割るより、ほかの参加者を皆殺しにするほうが早そうです。妙な液体で服が溶けるのも願いさげですし」
「な、なるほど……じゃなくて! そう簡単にはやられないです!」
ザジテンはスレイプニルのストーニルに騎乗すると、一目散に逃げだした。
しかし余裕で雫に回りこまれてしまう。
ここまで堂々と正面切って挑まれては、死角に回ったりなどできっこない。ずっと逃げまわってきたツケである。
「こうなれば……ストーニル、爪研ぎからのチャージラッシュです!」
「気の毒ですが、ここまでです」
雫は太陽剣片手に高く跳躍した。
『兜割り』のモーションだ。一発当たれば、ほぼ終わる。もちろんスイカを狙う気などない。普通にザジテンの脳天をカチ割るつもりだ。
が、そのとき。
雫のスイカが、パサランごと粉砕された。
戦闘の隙を突いて、小梅がニャンコパンチをぶっこんだのである。
試合中ずっと動物虐待みたいな目に遭ってきたパサラン、涙目で退場。
同時に雫も退場なのだが、見なかったことにしてザジテンに太陽剣を叩きこむ。
「反則ですううう……っ!」
抗議しながら倒れるザジテン。
雫は続いて小梅にも斬りかかろうと身構えるが、どこからともなく現れた黒服の男たちが彼女をひきずっていった。
その様子を眺めながら、小梅はパッと笑顔を浮かべる。
「あれ? もしかしてボクが優勝? 優勝しちゃったの? やったーー! やったよ、亜矢ちゃーーん!」
無邪気に飛び跳ねて喜ぶ小梅。
その直後、姿を隠したままの真緋呂が小梅の後頭部をツヴァイハンダーでブン殴り、一撃でゲームを終わらせたのであった。
「うん……私は勝ったのよね。優勝したのよ……でも何かむなしい……。最初から最後まで隠れてたから? それもあるけれど、みんな不注意すぎるのよ。蜃気楼で隠れてる人がいるかもって、すこしは考えない? ……いえ、もしかするといたかもしれないわね。でもこの状況で姿の見えない相手に気付けというのは酷な注文かしら……ね」
ぽつりと呟くと、真緋呂はダミーのスイカを地面に落とした。
そして胸に入れておいたスイカを取り出し、撃退士パワーでミカンみたいに割って食べはじめる。
彼女の前にあるのは、暴れまわる狂牛の群れと、敵を見失ってウロウロする自爆人形数体。巨大な殺人スイカが泥水を跳ね上げて転がり、ミサイルやら何やらで至るところが陥没している。吹き荒れる嵐は強さを増す一方だ。
「うん、ひどい事件だったわね。……さぁ帰ってシャワーを浴びましょう。今日の晩御飯は何にしようかしら」
そう言うと、真緋呂はスイカをかじりながら校庭を後にするのだった。