KCB第2回戦・海の家で売り上げバトル!
参加選手は8名。うち7名は第1回戦に引き続いての参加だ。シリーズ依頼でもないのに、なかなかの参加率である。
まずは選手の紹介をしよう。
暫定1位。前回2位以下に大差をつけて堂々のトップに立つのは、御料理姫・水無月沙羅(
ja0670)
それを追うのは、現在二番手の染井桜花(
ja4386)と、3位の月乃宮恋音(
jb1221)だ。
黒百合(
ja0422)、鴉乃宮歌音(
ja0427)、浪風悠人(
ja3452)の3名は、ポイント0で横並び。
袋井雅人(
jb1469)は今回からの参戦のため、当然ゼロポイント。
そして前回不本意にも(?)殺人料理を提供してしまった彩咲・陽花(
jb1871)が、マイナス3ポイントからの逆転を狙う!
「皆様よろしくおねがいいたします。勝敗は別として、お客様に喜んでいただけるよう頑張りましょう」
深々とお辞儀する沙羅は、めずらしく和服姿ではなくTシャツを身につけていた。
すこしでも機敏な動きができるようにとの配慮である。
「……異論は……ない」
短く応じる桜花は、黒のビキニにホットパンツという服装。
先日溶解液トラップで溶けてしまったビキニをそのまま着用……などということはなく、きっちり新品だ。
「えとぉ……私は今回、袋井先輩と協力させていただきますぅ……。あ、もちろん不公平にならないよう、売り上げは別々に計算しますのでぇ……」
恋音の牛柄ビキニは、もはや海辺の依頼でのユニフォームと言って良い。
いつものことながら、その豊満な乳は圧巻である。
「皆様よろしくおねがいします! 私は正々堂々、恋音と共闘しますよ! 勝つためには手段を選びません!」
胸を張って卑怯なことを言い放つ雅人。
たしかにKCBはルール無用の料理バトルだが、ちょっと今回の雅人たちは手段選ばなすぎである。
「俺も今日は少し無理させてもらいます」
悠人も今回は良い結果を出そうと真剣だった。
最近着実に料理の腕を上げている彼にとって、この大会は試金石と言える。
「うーんゥ……コンビニレベルで作れる創作料理ねェ……なかなか難しいわねェ?」
海の家の厨房を眺めて、黒百合は首をかしげた。
実際そこに用意されているのは、焼きそばなどに使う野菜や肉を除いて冷凍食品ばかり。どんな食材でも取り寄せられた前回とは、雲泥の差である。
「まぁ生鮮食品はロクになさそうだけど、加工食品ならあるはずだよね」
歌音はポニーテールに水着エプロンという格好で、厨房を見回していた。
たしかに、ある程度の食材はそろっている。ただし『ある程度』だ。彼の必要とする食材は果たして存在するのか?
「前回はちょっと失敗したけど今回は大丈夫! 創作料理なら任せろー!(バリバリ)」
自信満々に言うのは、現在最下位の陽花。
前回彼女の料理で死にかけたノヴェラは、『やめてー!』と心の中で叫んでいる。
『わたし料理大会の主催者だけど参加者の料理が殺人系だった。死にたい、っていうか死ぬ』みたいなスレを立てそうな勢いだ。
ともあれ料理バトルが始まった。
まず注目は、暫定トップの沙羅である。
彼女のメニューは、スパム焼おにぎり、梨のグラニータ、特製トロピカルドリンクの3種類。
スパムとおにぎりを鉄板で焼いてライスバーガーに仕立てたものがメインだ。手間をかけずに『米+肉』というシンプルな破壊力で売り上げを狙う作戦である。価格も200久遠と控えめだが、複数のソースと、目玉焼きや旬の焼き野菜などのトッピングで利益を上げている。香ばしい醤油の香りでカリッと焼けたおにぎり、そして肉々しいスパムの組み合わせが絶妙だ。バーガー状の食べやすさも好評である。
グラニータとトロピカルドリンクも、購買で売っている棒アイスを利用して大幅に手間を省いている。メレンゲや蜂蜜でなめらかにしたシャーベットにマンゴープリンを裏ごしたソースをかけた台湾風かき氷のグラニータなど、焼おにぎりより売れているほどだ。
市販のフルーツジュースをミックスしたトロピカルドリンクも、海の家という場所では飛ぶように売れる。
ただ問題がひとつ。どれも安すぎるのだ。
おかげで沙羅の前には大行列。どれだけ手際よく対応しようと、1人で捌ききれる状況ではない。
『ヒマなときは砂浜の清掃などを……』と考えていた沙羅だが、それどころではなかった。
それでも疲れた表情ひとつ見せずに仕事を続ける姿は、さすがの一言。
「ありがとうございました」という笑顔に癒される客も少なくない。
その点、桜花は一枚上手だった。
混雑するのは最初からわかりきっているため、バイト先のカフェ『赤猫』からスタッフを借りてきたのだ。しかも全員美女ぞろいで、デザインの異なる水着姿。
「にゃはは〜、接客はまかせてねえ〜♪」
真っ赤な水着にエプロンをなびかせつつ、赤猫店長が微笑んだ。
その背後には、モデル体型のスタッフ数名。
「……よろしく……おねがいする」
そう言うと、桜花は調理に専念するのだった。
こ……これはズルい! 沙羅とか1人で頑張ってるのに!
「……この勝負……勝つ」
桜花が作るのは、偶然にも沙羅と同じく『変わり種ハンバーガー』だった。
焼きそばに使うキャベツやモヤシ、おつまみコーナーの缶詰焼鳥などを具材にして、前日から仕込んでおいた特製乾物ダシと調味料などで味を調えた中華餡を小麦粉の生地でくるむ。これを焼きそばの麺でサンドして高温の油で一気に揚げれば、かた焼きそばバーガーの出来上がりだ。
さらに購買で売られている普通のおにぎりを乾物ダシで茶漬けにしたものを平行販売。
どちらも少ない手間で大きな利益を得ることに成功している。
なにより赤猫の店員をタダで使えるのは強力すぎる!
次に注目すべきは、奇しくもバーガー対決となった沙羅と桜花を追う恋音である。
だが彼女は特に忙しそうでもなく、普通に購買で売られてるフライドポテトや冷やし中華を売っていた。追加料金でトッピングを選べる工夫はしているが、それだけだ。
かたや雅人が作っているのは、『焼き納豆ごはん』と『焼肉納豆クレープ』
前者は、醤油とサラダ油をかけた納豆を鉄板で焼き白飯に乗せたもの。
後者は、鉄板で焼いた牛カルビを数枚かさねて無臭納豆やら何やらを乗っけた代物である。
もちろん全然売れてない。
「『焼き納豆ご飯』に『焼肉納豆クレープ』はいかがっすかー!」
大声を張り上げる雅人だが、むなしく響くのみ。
『AVに出演しました。袋井雅人』という謎の貼り紙も、まったく宣伝になってない。
「おかしいですね。納豆はおいしくて栄養満点の完全食品なのに……」
「『真夏の海の家』というシチュエーションに、納豆は似合わない気が……」
「なにを言うんです恋音! 納豆は365日どこで食べてもおいしいですよ!」
「そ、そうですかぁ……とにかく『夜の部』の宣伝を、がんばりましょう……」
おお、『夜の部』とは果たして!?
恋音&雅人の逆転なるのか!?
「うーんゥ、情報操作……じゃなくてェ、集客の宣伝って苦手なのよねェ、薬物とかで強制的にとかァ、陰謀とか関わる分類なら心得あるんだけどォ……」
なにやら物騒なことを言いながら、黒百合は首をひねっていた。
彼女の料理は、冷やしラーメン。
もともと海の家で使っていたインスタント麺を用いての、簡単な一品だ。
スープは市販の粉末スープを湯で溶いて氷水で冷やしたもの。
具には、キムチ、ハム、キャベツ、ゆで玉子……と、非常にオーソドックスな選択だ。あまり変わった食材は扱ってないので仕方ない。サイドメニューとして、塩おにぎりと塩揉みキャベツなど用意してあるが、地味と言えば地味すぎる。
宣伝として日本人形輝夜を操ってビラを配布したりもしているが、あまり効果なし。
『炎細工』によるパフォーマンスも、相手が久遠ヶ原の生徒ばかりでは反響も今ひとつだ。一般人相手なら確実にウケるのだが……。
しいて言うなら、『月下香の幽香』による客引き(誘惑)だけは多少の効果があった。
とはいえ、メニューがあまりに地味すぎてどうにもこうにも。
どうせなら『買わなきゃ殺すわよォ♪』ぐらいの勢いでやればよかったんだ!
一方、悠人は海の家の前で何故か薪割りをしていた。
これに『炎焼』で着火して、調理用に購入してきたスクールクレイモアを鉄板がわりにして豪快に鉄板焼き料理をふるまおうというのである。
今回作る料理は、鉄板焼きナポリタン(700久遠)と、フランクフルトのクレープ巻き(600久遠)
こまかい下ごしらえは既に店内の厨房で済ませてあり、あとは豪快に焼くだけだ。
まずはスパゲティの調理。刻んだタマネギとニンニクを、適当に切ったウインナーと炒める。缶詰のマッシュルームをスライスしたのを追加し、焼きそばの麺をドサッと投入。塩胡椒で味付けしてケチャップを混ぜたら完成。大変わかりやすいナポリタンだ。鉄板スパ風にパックの底に敷かれた薄焼き卵が地味に高得点。焼きそばはどこでも売ってるがスパゲティを売ってる店は少ないため、需要は高い。
そしてもう一品は、ホットケーキミックスで作ったクレープ生地に、鉄板(クレイモア)で焼いたフランクフルトを巻いた手軽なホットスナックだ。やってることは豪快なのに料理はクレープというあたりのギャップが凄い。
「漢の海の家料理を食べてってくださーい」
と客を呼び込む悠人だが、これは漢の料理なのだろうか……。
そんな中、歌音はひとり静かに厨房で包丁をふるっていた。
彼が用意した食材は──ごはん、カニカマ、チャーシュー、玉子、タマネギ、紅生姜、レタス。そして粉末スープの素と塩胡椒。
「さて、はじめるか」
すでに鉄鍋はコンロの上で煙を立てていた。
そこへ油をひき、まずはチャーシューとタマネギを投下。中華おたまで手早く炒める。
タマネギが透き通ってきたら玉子を入れる。
かるく混ぜたところへ、ごはんとスープの素を投入。鍋を振りつつ、おたまで豪快に混ぜ合わせる。
ごはんがパラッとしてきたら、レタスの出番。
シャキシャキ感を残すため、すぐに火を消してあとは余熱で炒める。
塩胡椒で味を調え、香りづけに胡麻油で完成。
これをおたまにすくって皿の上でドーム状に盛りつければ、みごとなカニカマレタス炒飯の姿が!
「まぁ見た目は味に関係ないけど、ある程度は綺麗に見せたいよね。ラーメン出してるなら、チャーハンも食べたいだろうし」
「すごい普通のチャーハンだね」と、ノヴェラ。
「よけいなことして失敗するのも怖いですしね。まぁこれなら無難においしいでしょう?」
たしかにこれは失敗のしようがない。
そもそも勝敗にこだわってない歌音にとっては、これこそ最上のパフォーマンスなのか。
そして真打ち登場!
前回ダンラスの陽花が腕をふるう!
「ん、前回のはなかったことにして……今回は頑張るんだよ♪ おいしい料理をたくさんの人に食べてもらうチャンスだしね♪」
「ボクは食べないからいいけど……救急車呼んでおこうか?」
不安げにノヴェラが訊ねた。
「大丈夫! 今回は慣れてるお菓子作り気分で挑むから。こう見えてもお菓子は得意なの。というわけで作るのは……辛い台湾ラーメンと、かき氷だよ♪」
「本当に大丈夫かな……」
ともかく調理が始まった。
その作業工程は、いたって普通に見える。
完成したのも、一見まともな台湾ラーメンとかき氷だ。
「よーし完成だよー♪ (見た目は)おいしそうに出来たし、たぶんきっと大丈夫だよね♪ これでお客さん呼びこむんだよー♪」
そう言うと、陽花は肌面積多めの白ビキニで飛び出していった。
グラビアの仕事もしてるので体型は良い。肌を晒すのも慣れている……が、胸が残念!
「みんなー、暑いときには熱いラーメンもおいしいよ♪ 冷たいかき氷もセットでどう?」
水着姿に誘われて、ぞろぞろ集まってくる男子生徒(特殊な女子含む)
そして──
「ぐほっ!?」
「甘ッッ!?」
「このラーメンを作ったのは誰だー!」
激甘ラーメンにひっくりかえる客一同。
お菓子作り気分でラーメン作ったら、そりゃそうなるわ。
「あれー? おかしいなー?」
まじめに首をひねる陽花。
売り上げは言うまでもない。
そんなこんなで日も暮れて、おおかたの結果が出そろった。
売り上げトップはダントツで桜花。
以下、沙羅、歌音、悠人、黒百合、恋音、雅人、陽花と続く。
「そんなー! またビリなの!?」
驚いたように叫ぶ陽花。
だが他の誰も驚いてない。ていうか参加した時点で皆わかってた。
「1位と2位が入れ替わって、水無月君と染井君が合計8ポイントの同点トップだね。おめでとう」
と、ノヴェラ。
だが、ここで恋音が手をあげた。
「あのぉ……じつは私と袋井先輩は、夜の部を企画しているのですよぉ……。そちらの売り上げも、合算していただけますかぁ……?」
「夜の部? もちろんいいよ。僕も見させてもらうね♪」
「おぉ……それはどうぞ、ご遠慮なく……」
というわけで、ルール無用のKCB深夜バトルが始まる!
良い子はここで引き返すように!
このあと料理いっさい関係ないから!
さて場面替わって、海辺のストリップ小屋。
知る人ぞ知る、大人の遊戯場だ。
「紳士淑女の皆様、これよりショーの開催です! 司会進行は私、AV男優の袋井雅人!」
鞭を手にして、雅人が舞台へ現れた。
もう一方の手にはリードが握られ、首輪をつけた恋音が四つん這いになっている。
「ルールを説明しましょう! いまから私たちの料理を販売しますので、皆様の購入金額に応じて『責め』を過激にしていきます! 食糧を無駄にしないため、購入いただいた料理をこの子豚に食べさせるのもアリ! さぁふるってどうぞ!」
こういうのを強制給餌プレイと言う。
SMではよくあるプレイだ。吐き戻したものを再び……自粛します!
「じゃあ私が全部買い占めるよ?」
「おお! さすが明日羽さん!」
雅人も恋音も、この結果は予想済みだろう。
もちろん恋音も胃腸薬Lv5で対策してある。
けど残念! それコメディ専用ですから!
「お、おぉぉ……!?」
己の失策に気付いて、ふるふる震える恋音。
だが胃腸薬とかどうでもいい。なぜなら……
「恋音はどうやって食べたい? まず道路整備しておく?」
手術用の手袋をはめながら、明日羽がステージに出てきた。
そして取り出したのは、手錠、極太注射器、ゴム管、電動ドリル……etc
「そ、それは一体ぃぃ……!?」
恋音が本気で震えた。
「開通しておいたほうが食べやすいでしょ?」
「な、なんの話ですかぁぁ……!?」
「すぐわかるよ? さて朝まで頑張ろうね?」
「ひぃぃぃ……!」
このあとの顛末はとても書けない。
ちなみに恋音の売り上げは、桜花を抜いて堂々の1位になったことを追記しておく。
いや……あの……これ料理バトルだったはずなんだけど……!?