青い海。
白い砂浜。
水平線には入道雲が立ち上り、強い日射しが照りつけている。
絵に描いたような『夏の海』の風景だ。
──が、その景色の至るところに無数のフナムシが蠢いているため、景観は最悪。
「はわぁあああ……! 虫だらけですぅぅ……! 絶対に近付きたくありませんんん……!」
あまりの気色悪さに、桜庭ひなみ(
jb2471)は全身鳥肌で震えていた。
服装はいつものロリっぽいファッション。黒のベレー帽がチャームポイントだ。
彼女は以前、触手系の天魔にメチャクチャにされてからというもの海が大嫌いになっていたのだが、今回は義兄に『ふだんの海は良いところだから』と諭されて、一応前向きな気分で参加した次第。だが、まさかこんなキモい虫が相手とは思ってなかった。
「きゃはァ、素敵な砂浜ァ……この雑魚連中を処理したら、海水浴でも楽しみましょうかァ♪」
かたや黒百合(
ja0422)は、いつもの調子だった。
フナムシごときに怯えるような乙女ではない。むしろフナムシのほうが黒百合に怯えるぐらいだ。
「……ゾロゾロと……鬱陶しい」
染井桜花(
ja4386)も、一切の動揺を見せず吐き捨てるように呟いた。
海岸での戦闘ということで、本日の衣装は黒のビキニである。
普通に戦ってるだけでもポロリしそうなのに、はたして(蔵倫的に)大丈夫なのか?
「しかし、よぉわからん依頼やな。あれ作った天魔は一体なに考えとったんやろ」
豚みたいな鼻をほじりつつ小首を傾げたのは、Md.瑞姫・イェーガー(
jb1529)
口元には牙が覗き、耳は尖り、臀部には尻尾が生えて、手も足も蹄になっている。なにより、でっぷり突き出た腹のインパクトが凄い。見た目は完全にオークだ。棒キャンディを舐めてるのはカワイイが、その飴も芋虫が数匹入ったゲテな代物。
「あのぉ……マダム、いつからそのような姿に……!?」
いつもの牛柄ビキニで、月乃宮恋音(
jb1221)が問いかけた。
たしかにマダム瑞姫は以前から『女オーク』の称号を持ってはいたが、ルックスは一応人間だった。あまりの変貌ぶりに恋音が驚くのも無理はない。
「いつからも何も、これが本来のうちの姿や。恋音にも飴ちゃんあげよか?」
マダムが「ほれ」と差し出したのは、ゴキ入り飴。
「お、おぉ……!? いえ、それは全力で遠慮いたしますぅ……!」
「見た目はアレやけど、うまいで? 食費のために始めた昆虫食やちうのに、意外とハマってもうてなあ」
「そ、そうですかぁ……うぅん……」
さすがの恋音も、G入りの飴を食べる気にはならなかった。
ひなみはといえば、顔面蒼白になって死んだ魚の目でマダムを見つめている。
「ということでー、さっそく退治しちゃうのだー♪」
そんな仲間たちをよそに、焔・楓(
ja7214)は躊躇なく光纏した。
身につけているのは、極小白ビキニ。スク水の日焼け跡が目に眩しい。
戦闘で動きやすいからと、だれかにもらったものである。(誰に?
「あ……少々お待ちを。敵を逃がさないよう、周囲一帯を網で囲ったほうが確実ですよぉ……」
突撃しようとする楓を、恋音が止めた。
「そんなの面倒なのだー。逃げるのを追いかけて倒すだけだよね? すごく簡単な依頼なのだー♪ 追いかけっこなら任せろなのだ♪」
聞く耳持たず、鉤爪をブンブン振りまわしながら走りだす楓。
「せやな、あんな虫ケラども一匹残らず飴ちゃんの材料にしたるわ」
マダムも同じく大口を叩いて突進した。
「……ゴミ処理を……開始する」
刀を抜いて二人に続く桜花。
「さてェ、かるく皆殺しよォ♪」
たかがフナムシ相手にデビルブリンガーLV15を持ち出す黒百合も、ちょっとおかしい。
「あのぉ……みなさん、もうすこし慎重になったほうが……。おそらく何かの罠ですよぉ……」
引き止める恋音だが、トラップ上等とばかりに突撃する仲間たち。
そんな中、ひなみだけが恋音の隣で待機していた。
「そうですよね、師匠。慎重にやりましょう。けっして虫が苦手だからというわけではなく……」
なぜ『師匠』なのかというと、胸を大きくするために手伝ってくれる『おっぱいの師匠』なのだ。
恋音のは特異体質によるものだから、教わることは何もないはずだが……。
ともあれ戦闘が始まった。
しかし相手はカサコソ逃げるだけの、体長5cmに満たない虫ケラ。
そこへ熟練撃退士の魔具やスキルがブチこまれるのだから、一方的な殺戮である。
「近いのから1匹ずつ倒すのだ♪ 逃げるだけみたいだし、楽勝なのだー♪」
無邪気に笑いながら、鉤爪でフナムシをプチプチしてゆく楓。
「あはァ、これ普通のフナムシと大差ないじゃなァい♪」
黒百合は時速70kmほどで走りながら、逃げまどう敵を容赦なく狩り取っていた。
数匹かたまっているところには、アンタレスやコメット発動。『獅子は兎を狩るにも全力を……』というが、これは無慈悲すぎる。ただ、依頼書の要求どおり飛行や透過を使ってない点だけは立派だ。
「うぅん……いまのところ罠の気配はありませんねぇ……考えすぎだったでしょうかぁ……?」
恋音は距離をとりつつ、敵の集まっている場所を狙ってファイアワークスなどの範囲攻撃を的確に撃ち込んでゆく。
「このまま、なにごともなく終わってほしいです……」
粉々に吹っ飛ぶフナムシを極力見ないようにしつつ、スナイパーライフルを撃ちつづけるひなみ。
実際ここまでは何も異変はない。ただの清掃作業みたいなものだ。が──
「そろそろ時限装置が発動する頃やな」
砂浜を見下ろす灯台の上。
双眼鏡で戦いを眺めつつ、カナロアが呟いた。
「ずいぶん趣味の悪いトラップを仕掛けていたようだが?」
と、名無しの悪魔。
「新型ウニボロの実験やら、触手シリーズの改良も兼ねとるねん。たのしいことになるさかい、よぉ見とき」
「正直、あの小娘どもに同情を禁じえない」
そんな悪魔同士の会話の直後。
激しい爆発とともに、砂浜全体が煙に包まれた。
仕掛けられていた地雷は、すべて時限式。踏んだときに爆発するタイプではない。しかもこの地雷、殺傷が目的ではなかった。
爆発とともに飛び散ったのは、溶解液。しかも服だけを溶かす、謎のお約束液だ!
「あやや、水着が溶けてしまったのだ? でも大丈夫! 替えの水着を持ってきてあるのだ♪ こうして着替えて、突撃どっかーん、なのだー♪」
だれかにもらった紐ビキニに着替えて、再び突撃する楓。
その瞬間、これまた時限式の落とし穴に落下!
「あいたたたー、うーー、一体だれが掘ったのだ? こんなの。 ……む、フナムシ発見! つかまえるのだー♪ って、みゃあああーー!?」
落とし穴の底にいたのは、山のような数のフナムシだった。
ひなみが落ちてたら失神確実な光景だ。
「のぞむところなのだー、1匹残らず退治してやるのだー!」
無謀にも突き進む楓。
だが津波のように押し寄せるフナムシの大群に飲みこまれて、彼女の姿は見えなくなってしまった。楓脱落!
「はうぁぁぁ……! あんなところに落ちたら死んでしまいますぅ……! 助けてください師匠……!」
フナムシに覆いつくされる楓を見て、ひなみは戦慄した。
「うぅん……私も、あの中には落ちたくないですねぇ……まずは範囲攻撃で地雷を取り除きつつ、落とし穴の場所を炙り出しましょうかぁ……」
いたって常識的な判断をする恋音。
ちなみに二人とも、着衣(というか恋音はビキニ)が溶けかかっている。
「トラップ除去ねェ。手伝うわァ♪」
黒百合がスナイパーライフルに持ち替えて、辺り一面を範囲攻撃で薙ぎ払った。
恋音もダアトの範囲スキルを連射しまくり、地雷を誘爆させようと試みる。
だがしかし、一帯に仕掛けられた地雷はすべて時限式。多少の衝撃で爆発することはない。
「なんだか、あんまりうまくいってない感じィ……?」
黒百合が首をかしげた。
「そのようですねぇ……うぅん……」
そもそもこのディアボロやトラップを作ったのは誰なのかと考えつつ、地雷除去を続ける恋音。
「これはどうやら、撤去不可能みたいねェ……。いっそ諦めて、どんなトラップを仕掛けてくれたのか見学させてもらおうかしらァ♪ ただの落とし穴とか、服を溶かすとか、つまらないトラップじゃないといいけどォ♪」
「それはもしや、わざと罠を踏んで解除しようということですかぁ……?」
「そのとおりィ♪ 『10個の地雷があっても、11人の兵士がいれば突破できる』って言うでしょォ?」
「私たちは6人しかいませんよぉぉ……!?」
震えながら恋音が応じた。
その腕につかまりながら、ひなみは真っ青になっている。
「よっしゃ、作戦は決まったな。うちにまかせとき!」
言うや否や、マダムは罠のありそうな場所に向かって闇雲に走りだした。
彼女の担当は『お笑い』である。ここでおいしいトラップを引かなければ芸人の名がすたる。
そして狙いどおり、落とし穴にIN!
「うわぁ〜、落とし穴や〜♪」
ものすごい棒読みで穴に落ちるマダム。
楓と同じく、大量のフナムシが彼女を出迎える。
そのままフナムシの海に飲みこまれ──と思いきや、逆にフナムシを飲みこむマダム!
「え……っ!? まさか食べてしまったのですかぁぁ……!?」
あまりのことに、恋音は目を疑った。
ディアボロを食べるのは、コメディといえども許されない。エリュシオン最大級の禁忌である。
「背に腹は代えられんやろ? なぁに、こいつらホンマモンのフナムシや。問題あらへん」
「そ、そうでしたかぁ……それはそれで、また別の問題がありますけどぉ……」
「ちうか、ここから引っ張り上げてほしいんやけど」
「おぉ……そうでしたぁ……いま助けますぅ……」
恋音が落とし穴の縁に立って、手を差し伸べた。
けど、マダムメッチャ重い! 引っ張り上げるのは無理だ!
「師匠、私も手伝います」
ひなみが駆けつけて、恋音の横から手をのばした。
「おおきに。そんなら『1、2の3』で引っ張り上げてーや。いくでぇ、1、3!」
マダムが思いきり腕を引っ張り、恋音とひなみを穴に引きずり落とした。
「ええええ……っ!?」
バランスを失い、頭から落っこちる恋音。
「………!?」
フナムシの大群の中に叩きこまれて、声にならない悲鳴を絞り出すひなみ。
半分溶けた服の上をフナムシが這いまわり、中へ入り込む。
「っっっ……!?」
必死の形相で服の中からフナムシを追い払おうとするひなみだが、とても追いつくものではない。
しかもフナムシの群れはひなみの全身を這いまわって、あんなところやこんなところにまでえええ!
「ひぃ……ふぇぇぇぇーーん!」
彼氏にもさわられたことのない箇所を虫に蹂躙されて、号泣するひなみ。
「あ、こりゃスマン。オバチャンやりすぎたかもしれへん。堪忍な?」
反省するマダムだが、次の瞬間ひなみの懐から出てきた爆弾が盛大に炸裂。
ひなみもろとも、マダムも恋音もフナムシも綺麗サッパリ吹き飛んだのであった。
「……残っているのは……私たちだけか?」
落とし穴から立ち上るキノコ雲を見て、桜花が問いかけた。
「そうみたいねェ……。もうォ、こんな状況だと割り切ってやるしかないわねェ……さてェ、次はどんなトラップが発動するのかしらァ、たのしみだわァ♪」
諦め口調で応える黒百合。
その直後、足下に潜んでいたトラップが発動!
ビヨ〜〜ン♪とかいう効果音とともにスプリング状の床が飛び出し、黒百合を海の向こうへ吹っ飛ばしたのであった。
「あははァ……あとは頑張ってねェェ……♪」
潔く言い残して、水平線の彼方へ消える黒百合。
おお、飛行を使えば普通に戻れたのに! 依頼人の要求どおり飛行を封印して散った黒百合は撃退士の鑑と言えよう!
「……これで……私ひとりか?」
桜花は呆然と呟いた。
もともと6人だったのに、うち3人がひなみの自爆攻撃で死んだのだから計算外にもほどがある。
「……まぁ、罠にさえ注意すれば……敵はただのフナムシ、だ」
覚悟を固めると、桜花は虫ケラの群れを睨みつけた。
そのとき、足下から噴き出したのはガスの罠!
「……なに……動けない?」
全身から力が抜けて、桜花は砂浜に崩れ落ちた。
なんとか這いずって、安全な所へ退避しようとする桜花。だが──続けざまに落とし穴の罠がオープン!
しかも穴の中に待ち構えていたのは、イソギンチャク型の天魔だった。
ただのイソギンではない。その触手はウニボロの毒針を応用したもので、刺した相手のアウルを乱して酩酊状態にする作用があるのだ。
「……くっ……離せ……」
ウゾウゾと絡みついてくる触手から逃げようとする桜花だが、ガスの効果でマトモに体が動かせない。
あれよあれよという間に、全身ぐちょぐちょのドロドロにされてしまう桜花。
だが、半分溶けた黒ビキニはかろうじて放映禁止な箇所を守り抜いている!
「……あっ、どこさわって……ん……ひゃあ!」
ぬるぬるの触手にあちこちまさぐられて、桜花の喉から嬌声が漏れた。
これ以上は蔵倫突入確定だが、桜花は指一本動かせない状態!
しかも仲間は全員戦闘不能! どーすんだ!?
が、ここで都合よく楓が復活!(ほかに案がなかった!)
「あたしも触手と遊ぶのだー♪」と言いながら穴に飛び降りてきた。
一見なんの助けにもなってないが、ここでイソギンチャクの触手が一斉に楓のほうへ集中した。
「……やってくれたな……天魔め」
触手から解放された桜花は、めずらしくガチ切れモードに。
ふだん怒らない人ほど、キレると怖い。
「……行くぞ……心技・獣心一体!」
暴力と殺意の衝動とともに、桜花が獣のごとく暴れ狂った。
イソギンはバラバラのブツ切りにされて爆発四散!
楓も巻き込まれて落とし穴で生き埋めに!
そんなことは知らぬとばかりに、桜花は落とし穴から飛び出してフナムシの群れへ斬りかかる。
「……1匹残らず……狩り取る!」
『神速』で一気に距離をつめ、辱めを受けた怒りのままに刀を──
と思った瞬間、ビヨヨ〜ン♪とスプリング罠が作動!
黒百合と同じコースをたどって、海の向こうへ消えてゆく桜花であった。
「お、おぉ……このままでは任務失敗にぃぃ……」
全身血まみれ砂まみれのフナムシまみれ、おまけに頭はアフロという悲惨な状態のまま、恋音が落とし穴から這い出てきた。
だがもはや体力は限界。範囲攻撃スキルも使い果たし、敵の群れを駆逐する術はない。
「こうなれば……最後の手段ですぅ……」
その手段とは、OP薬ν・新茶仕立て!
それを一気飲みした瞬間、彼女の胸が爆発的に肥大化した。
あちこちの罠を押しつぶし、フナムシを下敷きにすると同時に、ひなみ、マダム、楓の3人もグチャッと押しつぶす。
くりかえすけど地雷は誘爆しないよ!
ちなみにフナムシは大量に残ってたけど、カナロアが触手プレイで満足したので撤退!
体を張ってくれた桜花に感謝しよう!