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マスター:牛男爵
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
参加人数:24人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2016/09/04


みんなの思い出



オープニング

「キミたち、『称号』はほしいかー?」
「おおーーー!」
「でも称号は貴重なものなんだよー? わかってるー?」
「おおおーーー!」
「称号のためなら何でもする覚悟はあるかー?」
「おおおおーーーー!」

 なにか意味不明に盛り上がってる集団が校庭にいた。
 マイク片手に生徒たちを煽ってるのは、時代錯誤な蝶の形のマスクをかぶった金髪の女。
 その正体は不明だが、わかる人には一発でわかる程度の変装だ。
 しかし今回の目的は彼女の正体をあばくことではないので、それは置いといて話を進めよう。

「じつは僕には、キミたちに称号を付与する『力』がある!」
「おおーーー!?」
「でもこの力は、おいそれとは使えない。称号はふさわしい者にこそ与えられるべきだ!」
「おおーーー!」
「というわけで、称号がほしい子は思いの丈を訴えてほしい! この場に集まったみんなの反響と、僕の独断で称号を与えよう!」
「えええーーー!?」

 もっともらしいこと言っておいて、結局は独断なのであった。
 しかし彼女の『力』は紛れもない本物。
 心に訴えることさえできれば、望みの称号が手に入るのだ!




リプレイ本文




 称号争奪戦が始まる、約1時間前。
 水無月葵(ja0968)は誰より早く会場に姿を見せた。
 そして自前の掃除用具で丹念に周囲を掃き清め、打ち水をして涼風を呼び込む。
 さらに仮設ステージの随所に活け花を飾ったり、風鈴を吊したり。
 マスクの少女がやってきたとき、辺り一帯は見違えるほど爽やかな風景になり、残暑の中にも仄かな涼しさが漂うほどになっていた。
「これはみごとだね。キミが整えたの?」
「はい。まことに僭越ながら」
「いいねぇ、キミにはアートの心がある。名前を聞いてもいいかな?」
「水無月葵と申しますわ」
「もしかして料理の上手な妹がいる?」
「沙羅さんのことですわね。今日は皆さんにお弁当をお配りすると、張り切っておりましたわ」
「それは楽しみだね♪」


 そうこうするうち、次々と参戦者が集まってきた。
 称号がもらえると聞いて駆けつけた者、お祭り気分でやってきた者、ただの野次馬……色々だ。
「これはカオスな光景ぢゃな。まとまりのないイベントになること確実なのぢゃ」
 浴衣姿のBeatrice(jb3348)が、参加者を眺めて呟いた。
「久遠ヶ原のイベントって、そういうものだよ」
 主催者のクセしてまとめる気のないノヴェラ。
「ならば、この場は急遽妾が仕切るのぢゃ。MCは任せておくが良い」
 というわけで、Beatriceが司会進行を務めることに。


「では開幕ぢゃ! 発行数限定の称号をめぐって、熱い戦いの火蓋が切られるのぢゃ! トップバッターはステージへ!」
「待ってました! 私がほしい称号はこれ! 『サムライガール』だよ!」
 壇上に現れるや、不知火あけび(jc1857)はニンジャヒーローぶっぱで皆の注目を集めることに成功した。
「おや、忍者ガールのあけび君か」と、ノヴェラ。
「その声……ノヴェラ先生!?」
「うん、ワケあって正体を隠してたけど、面倒だから普通にやることにした」
「そうでしたか。まぁとにかく私のパフォーマンスを見てください! 撃退士になって以来、この刀で斬り伏せてきた敵は数知れず!」
 等身大の藁人形を取り出すと、あけびは隼突きで吹っ飛ばした。
 心なしか藁人形の顔が叔父に似てるのは気のせいか。
「幼い頃から剣術の修行に明け暮れてきた私こそ、まさにTHEサムライ!」
 藁人形を追いかけて、空中で真っ二つにするあけび。
 さらに返す刀で辻風を発動。木の枝に止まっていた鴉が慌てて飛び立つ。
 ひらりと舞い落ちる、一枚の羽。
 そこへ精妙な剣撃が走り、羽はバラバラになって地面へ散った。
「どうですか、この剣術。まさにサムライでしょう!」
「やっぱり忍者だよね。風太郎の忍法帖に出てくる系の」
「な、なにを言うでござるか! 拙者は由緒ただしきサムライガールでござる! 若い時にしか使えない称号でござるよ! 命短し称号名乗れ乙女でござるよ!」
 口調を変えてまでサムライ認定をほしがる、くノ一あけび。
「でも忍者ヒーローで登場しちゃったしねぇ」
「がーーん!」
 あけびは頭を抱えた。
「どうやら駄目ぢゃな。では次の挑戦者、出てくるのぢゃ!」



『星の輝き』が周囲をペカーッ☆と照らし、ステージの天井から特大スクリーンが下りてきた。
 そこに映し出されたのは、『種子島のきれいなカマキリ』なるタイトル。
 私市琥珀(jb5268)のパフォーマンスが始まる。
「むかしむかし……3年ぐらい前、種子島にカマキリ型のサーバントがいたんだよ」
 ナレーションとともに、アニメ調の紙芝居が流れだした。
 異様に作画が高品質なのは、アニメ制作会社に外注したからである。
「サーバントは色々と悪いことをして、種子島を恐怖と混乱に陥れたんだよ。そこへ現れたのが、白と緑の正義のカマキリだったんだよ!」
 ここから長い紙芝居が始まった。
 手に汗にぎる、カマバトル!
 戦いのすえ、心を通わせあうカマ仲間たち!
 ついにはサーバントの主である天使とも心を通わせ、種子島には平和が取りもどされる!
 ダイジェストしまくりの、みごとな大団円!
 最後には『原作・脚本:きさカマと勇者カマキリ制作委員会』とスタッフロール(?)が流れ、パチパチとまばらな拍手が寄せられた。
「アニメ紙芝居か、これはアートだね。カマキリへの愛も感じられる。称号候補かな」
 ノヴェラは酒瓶片手にウンウンと頷いた。



 つづいて壇上に立ったのは、ユーラン・ソエ(jb5567)と御剣正宗(jc1380)のカップル。
 なぜかユーランが騎士の姿で男装し、正宗はお姫様風に女装している。
 そして巨大スクリーンに映し出されたのは、いかにもな感じのファンタジーアニメだ。
 ユーランと正宗が二人で自主制作したものである。
 これを壇上の二人が生アフレコするというパフォーマンスだ。
 内容は、魔王にさらわれたお姫様を勇者が助け出すという王道ファンタジー物。
 だがしかし──
「おお勇者よ、なんとしても我が娘を救出してくれ」
「御意にございます。この剣にかけて必ずや」
 というセリフは、ユーランの一人芝居……というか一人二役。
 侍女や町娘など女性の声はすべて正宗の担当。
 途中でミュージカル風のダンスや歌が入ったり、アニメとしては非常に斬新である。
 もちろんクライマックスは魔王と勇者の一騎打ちなのだが、魔王の声もユーランなので
「待っておったぞ勇者よ。我が黒魔術の実験台にしてやろう」
「極悪非道の魔王め、貴様こそ剣の錆にしてくれる!」
 という掛け合いも、完全に一人芝居。
 そこへ現れた姫が「勇者様!」と声をかけるのだから、コメディ劇としか言いようがない。いや最初からコメディなのだが。
 そして激しいバトルミュージカルのすえ、勇者は魔王を討ち果たす。
 姫が勇者のもとへ駆け寄り、熱い抱擁。
 そこから何故か始まる、優雅なワルツ。
 スクリーン上の二人だけでなく、ステージ上のユーランと正宗も踊っている。
 その踊りに重なるようにして、唐突に流れだすエンドロール。
 滅茶苦茶なパフォーマンスだが、ともかく二人はやりとげた。
「これは……ある意味前衛アートだね」
 ノヴェラが拍手した。
「一応訊くけど、どういう称号がほしいの?」
「……『ラブラブボイスアクター』だ」
 ユーランが答えた。
「相方さんも、それでいいの?」
「ああ、そのために来たんだ」
 クールに応じる正宗。
 だが称号が付与されるか否かは、このあとの出演者次第である。



 ふと、会場にソースの匂いが漂いだした。
 だれもが一斉に、匂いの方向へ目を向ける。
 するとそこには、鴉乃宮歌音(ja0427)の焼きそば屋台が!
 そんな観客の視線を受け流しつつ、淡々と焼きそばを作る歌音。
 高温の鉄板で麺と豚肉を炒め、
 千切りキャベツと天かす投入、
 その上に麺をかぶせて蒸らし、
 ある程度火が通ったら混ぜ合わせ、
 とどめにソースをたっぷりかけて炒めれば、シンプルな鉄板焼きそばの完成!
「歌音君? 今回はKCBじゃないよ?」
 ノヴェラが言った。
「や、みんな自分の番が来るまで暇だろうし腹が減るかと思いまして。待ってる間いかがです?」
「それは歓迎だけど、すでに大行列できてるよ?」
「おお、これはやりがいがありますね。そう、これが私のパフォーマンス。別名飯テロ。この何人たりとも抗えぬソースの匂いに、膝を屈するが良い……」
「ふむ、これはみごとな焼きそばなのぢゃ。こういう単純な料理ほど難しい。やるのう、おぬし。おかわりぢゃ」
 司会を忘れて、焼きそばに舌鼓を打つBeatrice。
 そんな彼女をほっといて、ステージ上ではラブロマンスが始まる。



「華子、この場を借りて聞いてほしいことがある」
 ソースの香り漂う中、佐藤としお(ja2489)は恋人に呼びかけた。
 彼女の名は華子=マーヴェリック(jc0898)
「なんですか、としおさん。言ってみてください」
「ああ、最近華子は僕のことを心配してくれて同じ依頼に入ろうと努力してくれてるけど……」
「『けど』? なんですか? 私なんかとは一緒に行動したくないとでも!?」
「ちがう、そうじゃない」
「じゃあ何なんですか!? 本当は私のこと好きじゃないんでしょ!」
「待ってくれ、それは誤解だ。おちついて話を……」
「なにが誤解なの!? やっぱり昔ラーメンの話で盛り上がってた女の子のことが好きなんでしょ!」
「誤解だ。彼女は本当にただのラーメン仲間で……」
「私には内緒でラーメン屋に行くクセに!」
「何故それを……!? いや別に内緒にしてたわけでは……」
「としおさんのことは全てストーキング……お見通しです! 私なんか、としおさんにとってはカップ麺ほどの価値もないんだわ!」
「そんなことはない! カップ麺以上の価値はある!」
「し、信じられない……私をカップ麺と比較するなんて!」
「華子さんが言ったんだよ!?」
「知りません! としおさんなんか、あのラーメン女と屋台めぐりでもしてればいいのよ! こんの……馬鹿ーっ!」
『翼』を広げると、華子は一直線にとしおへ殴りかかった。
 それをあえて正面から受け止めるラーメン王!
「ぐわーっ!」
「この私の一途な気持ちを! わかって、としおさん!」
 倒れたとしおの上へ馬乗りになって、左右の拳を振り下ろす華子さん。
 みごとなパウンドだ。希望は『格闘王』の称号か?
 だが、さすがはラーメン王。豚骨スープや煮干しダシで日々摂取してきたカルシウムが、彼の頭蓋骨を守り抜く!
「わかるとも華子さん。その熱い想いを受け止められるのは、俺しかいない!」
「嘘よ! このまえだって簡単に爆死したじゃない!」
「次は耐えてみせる! 華子さん、たとえ何を言われようともされようとも……俺の気持ち、言いたいことは、ただひとつ……君が好きだ! いつまでも俺の隣にいてほしい!」
「え……!? そ、それって、まさかプロ……プロポ……!?」
 拳を止めて顔を赤くさせる華子。
「ああ、どう受け取ってもらっても構わない」
「そんな……今回私は二人だけの称号をもらおうと思って参加したのに……。まさか、こんな展開なんて!」
「承諾した、ということでいいのかな」
「ま、待って! すこし落ち着いて考えさせて! これは夢……? 幻……?」
 話が長いよ! 称号あげるから、そのあたりで勘弁してください!
 てか、としおがマゾすぎて怖い!



「はじめまして、営業課の不二越と申します。よろしくお願い致します」
 そう言って、不二越武志(jb7228)はノヴェラに名刺を手渡した。
 服装はビシッと着こなしたスーツ。外見は完全にエリートビジネスマンだ。
「キミはどういう称号がほしいの?」
「いきなり商談ですね。私がほしい称号……それは、仕事ができるビジネスマン的なものです。これまでに獲得した称号はコメディ系なものばかりでして。私とてカッコイイ称号がほしいのです!(切実)」
「それを口にした時点で、称号は無理じゃないかな」
「な、なんと……!? あっ、ちょっと失礼。取引先から電話が入りました」
 スマホを取り出し、「営業の不二越です。……はい、その件に関しましては……」などと、かかってきてもない電話に向かって小芝居をはじめる武志。
 これが彼なりの『デキる営業マンパフォーマンス』なのだ。
「う〜ん、これはちょっと。はい次の人どうぞ〜」
「く……っ駄目か。……いや、ありがとうございました」
 一礼して立ち去る武志。
 その後、人目のない所で胃痛に苦しむ彼の姿があったという。



「私がほしい……というか、もらって当然の称号は『後期高齢者』よぉ」
 このイベントの参加者は大概妙なことを言い出すが、華宵(jc2265)も相当だった。
「そんな称号、本当にほしいの?」と、ノヴェラ。
「もらえるものはもらっておいて損ないでしょう? とりあえず実績は……『渚のヒトカラ人魚を倒せ!』の報告書ね。ここで『ナリは若いが、こう見えても実年齢700歳ほどの後期高齢者なのだ』と断言されてるの。報告官の牛男爵さんって、あなたも覚えのある名前よね? こうして公然と認められているからには、称号もらって当然だと思うの。そう思わない? ノヴェラちゃん」
 華宵は微笑した。
「そうは思わないなぁ。その報告書を書いたのはボクじゃないもの」
「あらぁ……ところで、お昼ごはんはまだかしら。よし子さん」
「今日のお昼は、ジローで全マシ大ラーメンを食べたじゃないか」
「そうだったかしら? ……はっ、私の通帳がないわ! ここにしまっておいたはずなのに! どこへやったの!?」
 必死の形相でノヴェラに詰め寄る華宵。
「ジローの会計で全部使ったはずだよ」
「そんな……! ところで称号はまだかしら。のり子さん」
「うん、わかった。キミには『末期高齢者』の称号をあげよう」
 こんな称号もらってどうするのかと、観客の誰もが思ったという。



「私は、この右手に宿る異能の力……『妄想実現(イマジンインカネート)』を披露しますよ!」
 袋井雅人(jb1469)は唐突に語りだした。
「『妄想実現』とは、その名のとおり私の妄想を現実にする能力! いままで自分という存在をゲームにアニメにノベルにコミックに……と登場させてきたこの力を使って、私はまた新たな妄想を実現させました! 内容が内容なので、堂々と言っていいのかためらわれますが言ってしまいます! 袋井雅人はとうとうAVに出演しました!!」
 ざわつくギャラリー。
「え、いまさら……?」みたいな声も聞こえる。
「タイトルは何ていうの?」
 ノヴェラが訊ねた。
「『現役女子高生調教・納豆ぶっかけプレイ』です! ただ私の顔と裸はバッチリ出てますが名前は出てこないかも……。あと恋音からは多大な支援をいただきましたが、恋音はAVに出演してませんので、ご注意を!」
「なんだ、月乃宮君が出てるなら買ったのに」
「なんと! ではもう一度、この右手の力で……!」
「うん、期待してるよ。じゃあ次の人」



「えとぉ……私は『非戦闘要員』の称号を、希望しますぅ……」
 ステージ上で、月乃宮恋音(jb1221)はおずおずと語りだした。
 彼女のことを知る学生たちの間から「え、持ってないの?」みたいな声が上がる。
「そうですぅ……じつは持ってないのですよぉ……。もう3年以上も戦闘依頼には参加してませんし、大規模作戦でも1年以上は交戦してないのですけれどぉ……」
「それは異常事態ですね、断固抗議しましょう!」
 雅人が煽った。
「ですが……じつはもうひとつ、言いたいことがありますぅ……」
 やおら撃退酒を取り出すと、恋音はそれをラッパ飲みした。
 たちまち酔っぱらって真っ赤になる恋音。
「この場を借りて、報告官の方に物申したいのですけれどぉ……いままでさんざん私のことを『魔王』呼ばわりしてきたくせに、魔王関連の称号を一度もいただいたことがないのですけれどぉ……これは一体どういうことなのでしょうかぁ……? 実績に関しては、報告官が誰よりも良く知っているはずですよねぇ……? 納得の行く説明を、聞きたいのですけれどぉ……?」
 あ、あれ? そうだったっけ? とっくにあげたつもりでいたよ。
 では、これをお納めください。
 つ『乳牛魔王』



 次のパフォーマーは、ザジテン・カロナール(jc0759)
 彼はヒリュウのクラウディルとともに壇上へ上がると、観客に向かって一礼した。
「ええと……僕は初陣である『死天・双』から8割ほど、大規模戦闘で斥候を務めています。蛇女にびびりながら霧の中突っ切ったり、市街地で潜行したり、蛸頭に睨まれたり、迷子保護したり……」
 作戦時のことを思い出すようにしながら、ゆっくりと語るザジテン。
「……こんな僕でも少しは誰かの役に立っている、と思いたいです。インフィさんのスキルには色々と斥候スキルがあるみたいですが、僕は今後もこの子と斥候するです!」
 そう言い切ると、ザジテンは再びクラウディルと一緒にお辞儀した。
 その真摯な態度に、観客からは拍手が返る。
「で、ザジ君はどういう称号がほしいの?」
 ノヴェラが訊ねた。
「ええと……『ヒリュウと斥候できるもん』みたいな感じのを希望するです」
「そうかあ。よし覚えておくよ」
「よろしくです!」
 残念ながら今回の称号は逃したザジテンだが、『覚えておく』という言質を取ったからにはいずれ付与される見込みは高い。



「私の番ですね。毎度おなじみ美少女レスラー・桜庭愛(jc1977)です!」
 彼女が出てきたとたん、ステージには瞬時にリングが設置されていた。
 いつものリンコス姿で、マイク片手に愛が言う。
「私の希望する称号は、ずばり『美少女レスラー』! なので美少女プロレスを実行します! 対戦相手募集! ただし相手には、このハイレグ水着を着けてもらいます! あ、武器は禁止で!」
 だが対戦相手はなかなか名乗り出なかった。
 観客の中に都合よく女子レスラーがいれば良かったのだが。
「仕方ない。ボクが相手するよ」
 そう言うと、ノヴェラは指定の水着に着替えた。
「え、先生が相手ですか!? のぞむところです!」
「じゃあ行くよ♪」
 ゴングが鳴った。
 と同時に、パイプ椅子で殴りかかるノヴェラ。
「ちょっと! 凶器は反則ですよ!」
「ボクはヒールだから♪」
 愛の頭をパイプ椅子が叩いた。
 派手に吹っ飛ぶ愛。だが当たったのは椅子の座面なので、あまり痛くない。
「卑劣な……! でも『美少女レスラー』は観客の声援があれば、どんな絶望的な状況でも立ち上がるのです。さぁ声援を送ってください。絶対に立ち上がってみせます!」
「おー、適当にがんばれー」
 ラファルが応援した。
 ほかの観客からも声援が湧き、愛を支援する。
「ファンの支持があるかぎり……私は負けない!」
 立ち上がり、ノヴェラと組み合う愛。
 このあと両者は熱い戦いを繰り広げるのだが、時間(字数)がないのでカット。
 結果はドロー。



「皆様、お弁当を用意しました。よろしければどうぞ」
 ここで水無月沙羅(ja0670)が登場。
 今回『御料理姫』が作ってきたのは、『曲げわっぱ二段弁当』だ。
 一段目には、海鮮出汁で炊いた飯に刻み茗荷を入れた茗荷ごはん。上には焼き穴子が乗っている。
 二段目には、鰻巻き玉子焼き、車海老の沢煮、牛肉しぐれ煮、松茸の佃煮、鮑の柔らか煮、水菜浸しの養老和え、鱸の山椒焼きなど、旬の素材をおかずにしたものがギッシリ。
 食後のデザートに水菓子も用意するという、抜け目のなさである。
「あいかわらず凝ってるねぇ」
 これにはノヴェラも文句のつけようがなかった。
 たちまち行列ができるが、弁当を渡すだけなので手間はかからない。
「冷たいおしぼりをどうぞ。麦茶と煎茶もございます」
 やさしい物腰で、妹を手伝う葵。
 その姿は、まさに『立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花』という言葉がふさわしい。
「うーん、キミたちのような姉妹を『大和撫子』と呼ぶんだろうね。その称号でよければ、いつでも上げるよ?」
 ノヴェラの言葉に、沙羅と葵は顔を見合わせた。
 どうやら希望の称号ではなかったらしい。



「さてェ……腹ごしらえも済んだところでェ、だれか戦闘称号狙いの模擬戦でもしてみなァい?」
 黒百合(ja0422)が物騒なことを言い出した。
「いいですね。私が持ってる戦闘系の称号ってダーク系ばかりなので、神聖系のがほしいんです」
 すかさず名乗りを上げる雫(ja1894)
「黒百合さん、俺も立候補していいですか?」
 逢見仙也(jc1616)が手をあげた。
「ちょっと待ったー! あたいも模擬戦やるわよ! もぎせん!」
 雪室チルル(ja0220)は、手の代わりに大剣をぶちあげた。
「ではせっかくなので、僕も席に加えてもらいましょう」
 臆することなく出てくるのは、エイルズレトラ マステリオ(ja2224)
「称号、好きに得れる……? 好きに、名乗れる……? なら、やってみる……」
 Spica=Virgia=Azlight(ja8786)も、おずおずと参戦の意を表した。
「あらァ、なにか希望者が多いけれどォ……ルールはどうしましょうかァ? 私は1対1でクジ引きの組み合わせがいいと思うけどォ♪」
 黒百合が問いかけた。
「あたいは誰の挑戦でも受けるわよ! 大乱闘でも何でもカモン!」
 迷わず応じるチルル。
「私は皆さんの決定に従うだけです」
 淡々と雫が言う。
「やはりまとまりのない連中なのぢゃ。ここは妾が仕切ろうかのう。……うむ、やはり言い出しっぺの黒百合の意思を尊重して、クジ引きでの1対1がよかろう」
 沙羅の弁当を食べながら、Beatriceが話をまとめた。
 結果、組み合わせは以下のとおりに。

・仙也 vs Spica
・黒百合 vs エイルズ
・チルル vs 雫



 さて、ここからの模擬戦はガチ戦闘判定で行われる。
 まずは組み合わせどおり、仙也とSpicaが舞台に立った。
 両者とも天魔とのハーフで、レベルも近い。
 防御特化の仙也に対して、攻撃特化のSpicaという構図だ。実力は伯仲している。
 懸念はspicaの『装備影響50%』による生命力の大幅減だが、どうせ阿修羅は殴られたら死ぬ職業。先に薙ぎ払いを入れてそのままボコれば良いのだ。
「というわけで、試合開始ぢゃ!」
 Beatriceがゴングを鳴らした。
「行くよ……!」
 Spicaの全身を銀のヴェールが覆い、結晶のような光翼が背中に広がった。
 そのままフワリと浮き上がった彼女の周囲に、剣状のビットが展開される。
 神々しいエフェクトを背景に、スナイパーライフルをかまえるSpica。
 仙也の斜め頭上から、アウルの銃弾が放たれる。
 その銃撃を黒鎖片手に受ける仙也だが、さしてダメージにはならない。
「俺の希望する称号は『ウォーロック』だ。色々やってみせてやろう」
 とはいうものの、まず接近しなければ狙撃銃相手に何もできない。
 その間にも、Spicaの銃弾が仙也の生命力を削り取る。
 幸いなことに彼は『翼』を持っていたので、距離をつめるのは容易だった。
 が、ここぞとばかりSpicaは三叉槍に持ち替えて空中で迎撃する。
「具現化……ミョルニル!」
 雷を纏う巨大な槌が、仙也を打ち抜いた。
 薙ぎ払いを改造したこの技が数発クリーンヒットすれば、何もできずに仙也は終わる。
 が、ここは彼の特殊抵抗値が勝利した。
 逆に仙也のスタンエッジが、Spicaをスタンさせてしまう。
 墜落してゆくSpicaに向けて、仙也の冥槍オフィウクスが繰り出された。
 この一撃で勝負は決着。あっというまの内容だ。
「終わりか。もっと色々やりたかったんだけどな」
 挑発とも取られかねないことを口走る仙也。
 だが仕方ない。ガチのタイマンバトルをリアルに判定すると大体こうなるんだよ! でもこんなのマシなほうだ! 黒百合とエイルズのガチ戦闘判定なんてやりたくないよ! 能力値おかしいから、あの人たち!
「……で、称号の付与はどうなんぢゃ?」
 と、Beatrice。
「戦闘系の称号って難しいんだよね。ほら、ボクってコメディ担当だからさ。ていうことで、また今度ね♪」
 さらっと流すノヴェラであった。



「次は忍軍同士の試合ぢゃな。どちらも人間離れしておるのう」
 Beatriceの言うとおりだった。
 なんせエイルズの回避力は物理/魔法とも1000オーバー。実質クリティカル以外は当たらない。
 かたや黒百合は、もう単騎で大天使と渡りあえるんじゃ……というパラメータ。
 こいつらどうかしてる!
「なんだか空耳が聞こえるけどォ……さて、戦りましょうかァ♪」
 黒百合が不気味に微笑んだ。
「まさか黒百合さんと組まされるとは、僕も運が悪い……それともいいのかな。ハートはどう思う?」
 エイルズは肩に乗せたヒリュウに笑顔で話しかけた。
 もちろんヒリュウは人語をしゃべれないが、意思の疎通はできる。
「仲がいいわねェ……まァよろしくゥ♪」
 無防備に近寄り、握手を求める黒百合。
 だが何もしてないように見せかけて、エイルズの足下にフレキシブルワイヤーを仕掛けている。
「お手柔らかに願いますよ。僕は召喚獣系の称号がほしいだけですから」
 エイルズは警戒しつつも握手に応じた。
「では試合開始ぢゃ!」
 Beatriceの合図で、死闘が始まった。
 まずは開始と同時に、黒百合のワイヤーがエイルズの足へ絡みつく。
 が、エイルズは軽くステップしてこれを回避。
 つづいて黒百合の口から『弾丸蟲』が放たれる。
 これも悠々とかわすエイルズ。
「あぶないあぶない。不意討ちは当然警戒してますよ」
 その間に、ハートが黒百合の背後へ回りこんだ。
 単純な挟撃だが、超絶回避力による連携は強烈だ。
 さらに影分身を用いれば、エイルズ単独での3体包囲攻撃が決まる。
 しかし黒百合は意に介さず、ロンゴミニアトでエイルズ本体に殴りかかった。その一撃すべてが必殺の威力だ。
 おまけに黒百合は回避力も並みではない。仮に攻撃を食らっても『空蝉』がある。『防壁陣』まで併用して防御は万全。エイルズの攻撃力で打ち崩すのは難しい。分身を敵にしがみつかせて必殺の奇襲攻撃……などという手が通じる相手でもない。もちろん黒百合の攻撃を100%回避しつづければ、いずれは体力を削りきれるが──黒百合本体と影分身の連携攻撃をさばくのは至難の業だ。一発受けたら即戦闘不能なので、かわせない攻撃は空蝉でしのぐしかない。
 めまぐるしい攻防の末、エイルズのスクールジャケットが尽きた。
 その動揺をついて、黒百合の手がエイルズの頭をつかむ。
 そして顔面にぶちこまれる『破軍砲』
「クリティカル出すぎじゃないですかねぇ……」
 呟きつつ、エイルズは倒れた。
 空気を読まず真面目に戦闘プレイングした彼だが、黒百合のほうが遥かに空気読んでなかったので仕方ない。なんせ希望の称号すら書いてなかったほどだし。



「えらい激戦ぢゃったのう。では第3試合の選手入場ぢゃ!」
 Beatriceの指示に従って、雫とチルルがステージ上で向きあった。
 どちらも武器は太陽剣ガラティン。
「相手によっては手加減も考えていましたが、雪室さんが相手なら全力で構いませんね」
「もちろん! あたいも全力でやるから! 死んだらゴメンね!」
 模擬戦だということをすっかり忘れてる二人。
「ところで先生、あたいがほしい称号わかるよね?」
「なんだろう。『筋肉少女脳』かな」
「ちがうから! ほら雫の称号を見てよ! 『歴戦の戦姫』とか超カッコいい! あたいも、あんな感じの称号がほしいわ!」
「具体的な希望がないなら、また今度だね」
「そんな!」
「まぁ一応覚えておくよ」
 うん、一応は覚えておこう。
「話は終わりましたか? では心行くまで殺りあいましょう」
 雫が光纏した。
「のぞむところよ! あたいのターン! ブリザードキャノン!」
 不意討ちの氷砲が、雫を直撃した。
 コメディなら一撃で終了だが、これはガチ判定バトル! 簡単には終わらない!
「ゴングの前に攻撃とはマナーがなってませんね。おしおきが必要です」
 雫の瞳が赤く輝き、亡者のごときオーラが背後に出現した。
「マナー? なにそれ? トドメをくらえー!」
 毎度ながらの脳筋スタイルで、真正面から斬りかかるチルル。
 雫は冷静にそれをさばき、チルルの体勢が崩れたところへ必殺の『萬打羅』発動!
 ゴバベキグシャッ、とかいう音をたてて床を転がるチルルちゃん。
「いったぁぁぁ! いたいじゃない! やったわね!」
 並みの撃退士なら一撃で戦闘不能だが、チルルは涙目で耐えた。
 そして相変わらず正面からの斬りあい……というか殴りあいを挑む。
「なかなか頑丈ですね。ならば……もう一発です!」
 チルルの攻撃の隙を縫って、2発目の萬打羅が打ちこまれた。
 しかしこれはチルルの策である。
「きたわね! フロストディフェンダー! ……からのー、ルーラー・オブ・アイスストォーム!」
 鋭利な氷の突剣が、雫の心臓に叩きこまれた。
「まさか……脳筋戦法は『誘い』だったと?」
「そのとおりよ! これぞ頭脳の勝利ね!」
「迂闊でした……」
 ガクリと崩れる雫。
 実際のところ勝敗は僅差だったのだが、阿修羅は打たれ弱すぎる! 死活使え、死活!



「ということで模擬戦終了ぢゃ。本日のイベントはこれでおひらきかのう」
 医務室へ運ばれてゆく雫を見ながら、Beatriceは言った。
「待て待て、俺様の出番が残ってるぜ」
 いつものように爆破オチでしめくくるべく、登場したのはラファル A ユーティライネン(jb4620)
「ここまでパフォーマンスを見させてもらったけどよー、牛もとうとうネタ切れかっつー感想だな。いっそのこと経験値ほしい人集まれ―とかやればいんじゃね?」
 それも考えたが、イベントに参加すれば経験値も入るんだよ。
「まぁいい。俺がここに来た理由はひとつ。ふだん世話になってる技術屋どもから『義体特待生』って称号をもらってこいとか言われてな。それ公式の資格じゃねーのかよって感じで二度ビックリだが、気を取りなおしてアピールさせてもらうぜー」
「うん、どうやってアピールするの?」と、ノヴェラ。
「その前にだ。発行できる称号に人数制限があるのは周知の事実。ならば、まずは分母を減らすのが賢いぜ。つーことで、てめーら全員くたばりやがれーー! 俺だけが生き残れば、称号は確実に俺様のもんだー!」
 ラファルの全身から、おびただしい銃火器が展開された。
 それらが一斉に火を噴いて……と思った直後、ブリザードキャノンがぶちこまれてラファルはどこかへ吹っ飛んでいった。
「爆破オチはお見通しよ! みんなのお祭りを邪魔する者は、あたいが許さない!」
 おお、今日のチルルは冴えてるな! アドリブだけど!



「うん、今回は無事に終わったね。称号をあげたのは5人だけど、ほかのみんなの希望も『一応』覚えておくから。機会があれば上げるよ♪」
 焼きそばでビールを飲みながら、ノヴェラがまとめた。
「そうぢゃのう。今回称号を得た生徒には、その称号に負けない活躍を期待しておる! これからも頑張るのぢゃ!」
 しっかり最後まで司会を務めるBeatrice。
 こうして数人の被害者を出しつつ、称号獲得イベントは終了したのであった。




依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 傾国の美女・水無月 葵(ja0968)
 ラーメン王・佐藤 としお(ja2489)
 大祭神乳神様・月乃宮 恋音(jb1221)
 その愛は確かなもの・華子=マーヴェリック(jc0898)
 来し方抱き、行く末見つめ・華宵(jc2265)
重体: −
面白かった!:8人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
『三界』討伐紫・
高瀬 里桜(ja0394)

大学部4年1組 女 アストラルヴァンガード
赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
ドクタークロウ・
鴉乃宮 歌音(ja0427)

卒業 男 インフィルトレイター
料理は心〜学園最強料理人・
水無月沙羅(ja0670)

卒業 女 阿修羅
傾国の美女・
水無月 葵(ja0968)

卒業 女 ルインズブレイド
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
さよなら、またいつか・
Spica=Virgia=Azlight(ja8786)

大学部3年5組 女 阿修羅
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
ラブコメ仮面・
袋井 雅人(jb1469)

大学部4年2組 男 ナイトウォーカー
暗黒女王☆パンドラ・
Beatrice (jb3348)

大学部6年105組 女 ナイトウォーカー
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
種子島・伝説のカマ(緑)・
私市 琥珀(jb5268)

卒業 男 アストラルヴァンガード
頭がうさうさ・
御剣 ソエ(jb5567)

大学部1年3組 女 アーティスト
胃が痛い・
不二越 武志(jb7228)

大学部6年266組 男 アカシックレコーダー:タイプB
海に惹かれて人界へ・
ザジテン・カロナール(jc0759)

高等部1年1組 男 バハムートテイマー
その愛は確かなもの・
華子=マーヴェリック(jc0898)

卒業 女 アストラルヴァンガード
『AT序章』MVP・
御剣 正宗(jc1380)

卒業 男 ルインズブレイド
童の一種・
逢見仙也(jc1616)

卒業 男 ディバインナイト
明ける陽の花・
不知火あけび(jc1857)

大学部1年1組 女 鬼道忍軍
天真爛漫!美少女レスラー・
桜庭愛(jc1977)

卒業 女 阿修羅
来し方抱き、行く末見つめ・
華宵(jc2265)

大学部2年4組 男 鬼道忍軍