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マスター:牛男爵
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:4人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2016/08/29


みんなの思い出



オープニング


 ここはカフェ『Lily Garden』
 一部では名の知れた、絶品スイーツの店である。
 店長の佐渡乃魔子は世界にも少ない三つ星級パティシエであり、かつては世界を股にかける優秀な撃退士でもあった。
 そんな彼女の美貌と才能に惹かれて、今日も多くの女性客が店を訪れる。
 そう、Lily Gardenは店名どおり男子禁制。女子にのみ開かれた店なのだ。
 利用客には特殊な趣味を持つ者が多い。ここは淑女のための発展場……もとい社交場なのだ。
 もちろん、単にスイーツやコーヒー目当ての客も少なくはない。あまりの評判に、女装して来る男性客さえいる。

 今日も店内は客でいっぱいだった。
 大半は一般人だが、ところどころ撃退士や天魔の姿もある。
 その中に、異様な客がいた。外見は小学生ぐらいの少女だが、食べたスイーツの量が普通ではない。積み上げた皿は50以上。紅茶もおかわりしまくっている。ことわっておくが食べ放題ではない。まっとうに清算すれば50000久遠以上になるだろう。
 この大食い少女の名はセセリ。久遠ヶ原に籍を置く、はぐれ悪魔だ。
 彼女は飲食代を払う気など毛頭なかった。狙いは『変化の術』を利用しての食い逃げだ。もし術を見破られても、飛行や物質透過を使えば容易に逃走できる。事実セセリは、これまで何十件もの食い逃げを成功させてきた。悪質きわまる常習犯である。一度は久遠ヶ原の生徒たちに捕まったものの、まったく懲りてないのだ。

 この日もセセリは満腹になるまでスイーツを食べ漁ると、なにくわぬ顔でトイレに立った。そして個室の中でOL風に変身。物質透過で壁をすり抜けて店の外へ。
 この時点で犯罪成立だが、セセリは悪びれる風もなく鼻歌まじりで歩きだした。
 そこへ立ちふさがったのは、メイド姿のウェイトレス。名前は甘井香織という。Lily Gardenの店員だ。
「逃がしませんよ。食い逃げの現行犯です。ただちに警察へ行きましょう」
「え、なんの話かなー? そんなことしてないよ、あたし」
「とぼけても無駄です。あなたが冥魔であることは見抜いてますので。それとも警察ではなく久遠ヶ原に行きますか? 怖い撃退士たちに制裁してもらいます?」
「えー、やだ。大体あたしは食い逃げとかしてないしー。メンドくさいからバイバーイ♪」
 セセリはOLの姿のまま、バッと空へ舞い上がった。
 同時に透過も使っている。一般人には手出し不可能だ。
 が──

 空高く飛び上がったセセリの後頭部へ、フリスビーみたいに投げられたトレイが思いっきり命中した。
 スカーーンと良い音をたてて、アスファルトへ墜落するセセリ。
 すかさず駆け寄る香織の手には、超高レベル魔具のバスタードフライパンが!
「まって、まって! 暴力はんたい!」
 あわててセセリが止めた。
 彼女はまぎれもない悪魔だが、その中でも最下級の下っ端なのだ。しかも人界に下った現在では、食い逃げ以外なんの取り柄もない。
「では、きっちりと飲食代を支払いますか?」
「あたし、お金持ってないしー。あ、でも通報はヤメてね」
「ふざけてるのですか? いまここで道路のシミになりますか?」
 フライパンを振り上げて追いつめる香織。
「ちょ、ちょっと! まさか本気? いくら悪魔でも、殺したらダメなんだよ!?」
「魔子さんのためなら、私は刑務所でも裁判所でも喜んで参ります」
 香織の表情は本気だった。

「おちついて香織」
 その肩に、そっと手が置かれた。
 香織が振り返るまでもなく、佐渡乃魔子である。
「『食い逃げの罰は皿洗い』って、昔から決まってるでしょう? なにもさせずに殺したら、損するだけよね?」
「すみません、つい怒りにとらわれて……」
「謝らなくていいの。それじゃ、このイタズラな仔猫ちゃんに皿洗いのやりかたを教えてあげてね」
「わかりました。ではついてきてください、食い逃げ悪魔さん」
 当然のように命令する香織。
 だがセセリは往生際が悪かった。
「皿洗いとか、あたしムリだしー。お皿落として割っちゃうかもー♪」
「ほかの仕事もありますよ? フルーツの皮剥きや、生クリームの泡立てなどはいかがです?」
「あ、それはちょっとおもしろそうかも♪」
「では、そういうことで。……先に言っておきますが、泣き言は聞きませんよ」
「え……?」

 そんなやりとりのすえ、セセリはLily Gardenの厨房送りになった。
 そこで彼女が見たのは……まるで機械のように黙々とフルーツをカットしたり、生クリームを手作業でホイップしつづける少女たちの姿!
「コレどこかの収容所!? ケーキ屋さんの眺めじゃないよ!?」
 セセリの言うとおりだった。これはまるで刑務所の作業場だ。
「ここにいる子はみんな天魔よ。それぞれ事情があって働いてもらってるの」と、魔子。
「強制労働じゃなくて?」
「私は何も強制してないわよ。ただ、中には人間を大勢殺しちゃった子もいたりするのよね。久遠ヶ原に送られたら死刑確実。それよりは、ここで働くほうがいいでしょう? スイーツだって毎日食べられるし、衣食住は保証されてるわよ?」
「スイーツ……それはいいかも……」
「さて、あなたはどうするの? 食い逃げしようとした代金分、ここで働く? それとも久遠ヶ原の更正施設で暮らす? 答えは明白よね?」
 魔子の問いに、セセリは迷わず答えるのだった。



 場面替わって、ここは久遠ヶ原学園のブリーフィングルーム。
 学園上層部の数名が、真剣な面持ちで話しあっている。
「……最近、巷に不当な手段で天魔を働かせている飲食店があるという噂ですな」
「『噂』ではなく、ほぼ事実と見られていますが……困ったことに経営者は我が校の卒業生なのですよ」
「実力に訴えた場合、双方に被害が出るということか」
「それもありますが、我が校の卒業生から犯罪者が出るというのは大変よろしくない」
「一概に『犯罪』とは言い切れませんよ。多くの天魔は拉致監禁されているのではなく、自らの意思で働いているという噂です」
「重犯罪を犯した天魔を匿い、あまつさえ私利私欲のために働かせるというのは、確実に犯罪行為でしょう?」
「私利私欲のためか、それとも何か別の目的があるのかはわかりませんが……いずれにせよ調査が必要ですな」
「ここは例によって生徒たちに任せよう。我々が撃退庁と協力して本格調査へ乗り出せば、ただではすまない。できるだけ穏便な解決が望ましい」
「しかし真実を隠蔽するわけには……」
「『厳正な調査の結果そのような事実は見つからなかった』ということにすればいい。万一真相が露見したとしても、担当の生徒らが無能だったというだけで済む」
「それはそれで大問題ですけど」
「この学園で『問題』が起こらない日などありません」
「それはたしかに」
「では……『できるだけ穏便な方向で』という文言を沿えて、依頼に出しましょう」
 満場一致で、この提案は採決された。
 こうして一見あたりさわりのない調査依頼が、斡旋所に貼り出されたのである。




リプレイ本文




 その日、学園からの依頼を受けた4人はミーティングルームに集まった。
 メンバーは、雫(ja1894)、月乃宮恋音(jb1221)、袋井雅人(jb1469)、満月美華(jb6831)の4名。
 いずれも顔見知りの面々である。
「今回はよろしくおねがいしますね。人数は少ないですが、少数精鋭で頑張りましょう!」
 妙に張り切る雅人は、最初から女装済み。
 なにしろ男子禁制のお店に行くわけだからね、仕方ないね。決して趣味では(ry
「そうですねぇ……少々変わった依頼ですが、うまくやりましょう……」
 恋音が不安げに応じた。
 だが、こういう『報告書の作成』みたいなのは彼女の十八番である。
「しかし、この依頼……例のお店より学園上層部のほうが問題だと思うんですけど」
 あきれたように雫が言った。
 実際この依頼は、人道的に問題があると言わざるを得ない。
「まぁ依頼は依頼よね。報告書を書くのは恋音たちにまかせて、私はお店に潜入捜査よ」
 いつものように肥満体を揺らす美華。
 潜入捜査には最も向いてなさそうな人材だが、大丈夫だろうか。こんな目立つ撃退士めったにいないぞ。
「おぉ……でしたら私は、学園所属の天魔の中で、最近行方不明になった方などいないか、調べてみましょうかぁ……とくに、若い女性の方を中心に、ですねぇ……」
 恋音の発言は男女差別ではなく、単に魔子の趣味を考慮してのことである。
「恋音、美華姉さん、それに雫さん。私にお手伝いできることがあれば、なんでも言ってくださいね。みんなで力をあわせて依頼を成功させましょう!」
 今回の雅人は、ずいぶん真面目だ。
 女装してる時点で真面目ではないという意見もあろうが、久遠ヶ原では普通のことである。
 ともあれ、こうして一同はそれぞれ行動に取りかかるのだった。



 まずは美華のターン!
 潜入捜査にそなえて、秘蔵の撃退酒を一気飲み!
 豊満な体をさらに肥大化させて、カフェLily Gardenへと正面から乗りこんで行く。
 そこらの力士を遥かに上回る規格外の肉体となった美華の来店に、店内はどよめいた。
 そのまま着席するや、「メニューの端から端まで、ぜんぶ持ってきてください」と注文する美華。
 店員は唖然としながらも、次から次へとスイーツを運んでくる。
 それをかたっぱしから食べ進む美華の姿は、完全にひとり大食い選手権状態だ。
 やがてメニューを全制覇すると、美華は立ち上がって全力ダッシュ!
 そう、最初から食い逃げで捕まることが目的だったのだ。
 当然ながら即座に捕まり、縛り上げられてしまう美華。
「あなた撃退士よね? どういうつもりなの?」
 魔子が詰問した。
「ぶふーぶふー、許してください〜。お金ないんですよ〜」
「撃退士なら、それなりに収入はあるでしょう?」
「毎月の食費がきつくて〜、皿洗いでも何でもしますから通報は勘弁してください〜」
「あなた10万久遠以上食べてるけど、返済するまで帰らせないわよ?」
「大丈夫です〜。ちゃんと代金分は働きますから〜」
「じゃあ早速働いてくれる? 念のため言うけど逃げられると思わないでね?」
 魔子はニッコリ微笑んだ。
 こうして美華は潜入に成功。
 強制労働させられていると噂の天魔たちから、実際の話を聞き出すことにも成功した。
 だが何の策もなしに脱出できるほど、この店の監禁システムは甘くない。透過や飛行を使える天魔たちでさえ脱獄できないアルカトラズなのだ。
 結局入手した情報を他のメンバーに伝えることもできないまま、美華は延々と皿洗いをするハメになったのであった。



 数日後。
 ひととおり調査を終えた恋音と雫、そして雅人の3名が再び会議室に集まった。
「あのぉ……前回の打ち合わせ以来、満月先輩と連絡がとれないのですけれどぉ……どなたか、状況を御存知ありませんかぁ……?」
 おそるおそる恋音が問いかけた。
 雫が首を横に振り、雅人が言う。
「これは危険かもしれませんね。潜入に失敗して太平洋に沈められてしまった可能性もありますよ!」
「えとぉ……魔子さんは、そのようなことはしないと思いますよぉ……。満月先輩も女性ですのでぇ……」
「おお、そういえばそうですね。ということはやはり、拉致監禁のうえ調教拷問されてしまっているのでしょうか!?」
「そ、それは否定できませんねぇ……うぅん……この場は一刻も早く、お店に乗りこむべきでしょうかぁ……」
 恋音の提案に、雅人と雫は頷いた。

 というわけで、3人はLily Gardenへ。
 見知った面々の登場に、魔子は「バイトを募集した覚えはないけど何か依頼でも受けたの?」と訊ねた。
「はい、じつは私のオリジナルスイーツを魔子さんに評価してほしいと思いまして!」
 真剣な顔で意味不明なことを言い出す雅人。
 依頼とまったく無関係な予想外きわまる発言に、恋音と雫も自分の耳を疑う始末だ。
「オリジナルスイーツ? どんなのかしら」と、魔子。
「はい、ここに現物とレシピを持ってきました! その名も『焼肉納豆クレープ』です!」
 おしゃれな紙箱から、雅人がブツを取り出した。
 外見は普通のクレープだ。が──
「今なんて言ったの? 焼肉納豆クレープ? 正気かしら?」
「もちろんです! 作りかたは、まず牛カルビを鉄板でじっくり焼き上げ、焼肉のタレをからませて冷まします。このカルビを数枚かさねて、無臭の納豆と生クリームをたっぷり乗せたあと、黒蜜を網掛けにかけてクレープ皮で包めば完成ですよ!」
「うん、生クリームいらないわね」
「それじゃスイーツになりません!」
「スイーツにこだわる必要ないでしょ? スイーツ専門店でも開くつもり?」
「おおっ、それはそうでした! じつは久遠ヶ原の新しい観光名物にするために、わりと本気で屋台や学食で販売できないかと考えていたのですが……ズバリこの焼肉納豆クレープ企画、魔子さんから見てどうでしょうか! ぜひ忌憚のない御意見を!」
「私なら生クリームの代わりにキムチを入れるわね。納豆やカルビとの相性は抜群だし、味が強くなりすぎるところをクレープに包むことで穏やかにするのも悪くないわ」
「さすがですね! ではその路線で進めましょう! いやあ今日は来てよかった!」
 もう自分の役目は終わったとばかりに、満足げな表情を浮かべる雅人。
 一体なにをしに来たんだ、この男。

「えとぉ……その話は別として、ですねぇ……今日は学園からの依頼を受けて来たのですよぉ……」
 恋音が強引に話をもどした。
「あら、どういう依頼かしら」
「では、ストレートに行きますねぇ……。じつは魔子さんのお店で、人間界に疎い天魔を強制労働させているという噂があり、学園側の上層部に睨まれているのですよぉ……」
「で、どうしたいの? 無理やり私を連行する?」
「いえいえ、私たちは飽くまで魔子さんの味方ですのでぇ……。依頼主の学園上層部の方々も、できるかぎり穏便に済ませたいとの話ですから、口裏をあわせて都合よく報告書を作ることも可能……というか、そうするように依頼されているのですよぉ……」
「それ文書偽造じゃない?」
「いえ、偽造ではありませんよぉ……『都合の悪いことは書かない』というだけのことですぅ……。それを踏まえて、ひとつ提案があるのですけれどぉ……こちらのお店を、『人間界の事情に疎い堕天使やはぐれ悪魔の更正施設』ということに、しませんかぁ……?」
「そんな面倒なことしたくないわね。私は自分の気に入った子を囲いたいだけだもの」
「もちろん、それは承知しておりますぅ……。あくまでも表向きの、名目上の更正施設という形で、実態は無用ですのでぇ……手続きなども私たちが済ませますから、魔子さんは何もしなくて結構ですぅ……」
「つまり私のやっていることを学園が認めるってことね? でも別に認めてもらう必要ないけど?」
「えとぉ……その場合、私たち以外の……外部機関による調査が入る可能性も、ありますのでぇ……賢い選択とは言えませんよぉ……?」
「それ脅迫のつもり?」
「そ、そんな、滅相もない……。ただ、こうしたほうが良いですよという、私なりの提案に過ぎませんのでぇ……」
「話はわかったけれど却下よ。交渉決裂ね」
「お、おぉ……? なぜですかぁ……?」
「あなたの困ってる顔が見たいから」
「うぅん……それは本当に、困りますねぇぇ……」
 予想外の結果に戸惑う恋音。
 とっくにわかってるはずだが、この姉妹に理屈は通じない。

 ここで雫がバトンタッチ。
 恋音の話を引き継ぐ形で、交渉をはじめた。
「私たちは今回の依頼を受けてから、こちらのお店のことを念入りに調べてきました。たしかに一部よからぬ噂もありますが、正直に言えば学園の更生施設より優秀な面もあると思います」
「うん、それで?」
「こちらに収監……もとい就労している天魔の再犯率も低いようですし、月乃宮さんの提案どおり表向きだけでも民間協力施設に登録しませんか? 魔子さんの得られるメリットとして、学園側による営業の援助、新規開店時における優遇措置、収容者の選別ぐらいは上層部に要請できると思います。決して損はさせません」
「いま『選別』って言った? 学園所属の天魔で不始末をしでかした子の中から、私が好きなように選んで店に連れてこれるってこと?」
「それぐらいは可能だと思います」
「それは素敵な提案ね。悪くない条件よ」
「ただし施設として登録する以上、収容者の脱走防止と、査察の受け入れは義務としてお願いします。まぁ脱走防止は今までどおりで問題ないでしょうし、査察は保健所の立ち入り検査のようなものと考えてもらえれば」
「つまり特に何もしなくていいってことね? 面倒な手続きはあなたたちがやってくれるんでしょう?」
「はい、月乃宮さんにまかせれば全て解決です」
「そういうことなら登録してもいいかしら。もし何か面倒ごとが起きたときは、あなたたちが責任持って片付けるのよ?」
「はい、万一のときは月乃宮さんが全責任を持って事態の解決にあたります」
「わかったわ。交渉成立よ。報告書は適当に作っておいて」
 恋音本人を無視して勝手に話をまとめる、雫と魔子。
 その会話を聞きながら、恋音は「なにか私の知らぬところで話が進んでいるのですけれどぉぉ……!?」と震え声を発するばかりだった。


 これにて依頼は無事解決!
 あとは恋音にまかせて報告書を適当にでっちあげるだけだ!
 と思ったが、まだ未解決事案が残っていた。
「そういえば、袋井先輩のスイーツ企画に呑まれて、すっかり失念していたのですけれどぉ……こちらのお店に、満月先輩が来ませんでしたかぁ……? 身長2mほどの、金髪女性なのですけれどぉ……」
「その子なら無銭飲食の料金分だけ働いてもらってるわ」
 恋音の問いに、魔子は包み隠さず答えた。
「お、おぉ……やはり、そうでしたかぁ……。私も先輩の飲食代返済に、協力しても良いでしょうかぁ……?」
「いいけど、あなたには皿洗いじゃなく夜の接客をしてもらうわ。うまくやれば時給20000久遠ぐらい稼げるわよ」
「そ、それは明らかに、売ってはいけないものを売っているのでは……!?」
「無理にそうしろとは言ってないわよ。そうそう、お友達の様子を見て行く? 心配でしょう?」

 魔子の案内で、恋音たち3人は厨房に向かった。
 するとそこには──通常のスタッフに混じって、身柄を拘束された美華とセセリの姿が!
「恋音ぇ〜助けてぇ〜!」
「雫ぅ〜助けてぇ〜!」
 仲間の顔を見て、すぐさま泣きつく美華とセセリ。
 ちなみに美華は、あまりの重労働で別人みたいに痩せ細っている。
「おぉぉ……!? ただの皿洗いで、このようなことに……!?」
 驚愕の変貌ぶりに、目を見開く恋音。
「なにも食べさせてもらえないのよ〜! あの鬼店長に、素材はいいんだからダイエットしろとか言われて〜!」
「た、たしかに実際、いまの満月先輩はスーパーモデル並みですねぇ……」
「でも、このままじゃ餓死よ! 飢え死にしちゃう!」
「わ、わかりましたぁ……一日も早く飲食代を返済できるよう、私も協力しますよぉ……」
「ありがとう恋音! 持つべきものは優しい妹よね!」
 おお、なんと麗しい姉妹愛!

 一方、雫はというと……
「なんですか、セセリさん。また食い逃げで捕まったんですか。このまえの焼肉店で懲りてないようですね。よほど頭が悪いのでしょうか」
「出来心! ほんの出来心だったの! 雫も皿洗い手伝って!」
「なにをふざけたことを……まったく反省の色が見えませんね。焼肉部の一員として少しは更正したかと思っていましたが、勘違いだったようです。罰として、いままで部費で飲み食いしてきた料金分もここで働いてもらいましょう」
「やめてー! 殺されるー!」
「死んだとしても、魔子さんなら完璧に死体を隠滅できるでしょう。……ああ、魔子さん。このセセリさんは過去にも同じ犯罪を起こしている再犯なので、人権無視で働かせて構いません。あと焼肉部の活動で彼女が使った部費も飲食代に加算して、全額返済するまで不眠不休の飲まず食わずで働かせてください。よろしくお願いします」
 雫の無慈悲な言葉に、セセリは泣きわめく以外なかった。


「ところで、肝腎の報告書ですけれどぉ……基本的に『問題なし』という方向で、良いでしょうかぁ……?」
 話をまとめるように、恋音が打診した。
「ええ、まったく問題ないと思いますよ。この程度の労働環境なら完全にホワイトです。久遠ヶ原の学生のほうが、よほどブラックな環境で働いてますよ。私も今まで何回病院送りになったことか!」
 雅人が全面的に同意した。
 たしかに冷静に考えれば、病院送りにされるような依頼が日常的に寄せられるという環境は一言で言って超絶ブラックである。
「私も特に問題ないと思います。強制労働させているという噂は否定して、『更生教育の一環』という形で報告しましょう。問題を起こした天魔や撃退士の更生施設としても適格ですが、あくまで民間の飲食店でもあるので店主の意向を強く反映すべき……とでも書いておきましょうか」
 まじめな口調で言いながら、雫は今までセセリが部活動で飲み食いした分の金額を計算していた。
 その額たるや、ただごとではない。向こう3年以上は強制労働確定だ。
「そうですね、むしろ他にもこうした天魔が安心?して働けるお店というか……そういった施設が必要ですね。これから先、人間界に下ってくる天魔も増えるでしょうし、そのときのためにも彼らが働ける施設を増やすべきです」
 キリッとした顔で、雅人がまとめた。
 焼肉納豆クレープとかいうのは何だったんだ……?


 こうして報告書は無難な形で仕上げられ、学園上層部のもとへ提出された。
 佐渡乃魔子は、合法的に天魔を強制労働させる立場を得てしまったのである。
 これが吉と出るか凶と出るか、だれにもわからない。




依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:3人

歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
ラブコメ仮面・
袋井 雅人(jb1469)

大学部4年2組 男 ナイトウォーカー
チチデカスクジラ・
満月 美華(jb6831)

卒業 女 ルインズブレイド