KCB第1回戦当日。
調理実習室に8人の料理自慢が集まった。
審査員席には、小筆ノヴェラと矢吹亜矢。
「チャオ♪ 大体の人は面識あるけど、一応みんな自己紹介してね」
いつもの笑顔でノヴェラが言った。
「あたいからね! 学園さいきょー撃退士の雪室チルル(
ja0220)よ! 今日は夏っぽく冷たいデザートを作るから!」
「あはァ、黒百合(
ja0422)よォ……。私もデザート風の冷たいものを作る予定ィ。みなさん、よろしくゥ♪」
「やはり夏向きの一品ということで冷たい料理が多いのかな? かく言う私も冷たいものを出すけれど、審査員は大丈夫かね。おなか冷やしそうだね。……ああ、私の名は鴉乃宮歌音(
ja0427)。よろしく」
「私は水無月沙羅(
ja0670)と言います。本日は薬膳による夏バテ解消の料理を用意して参りました。どうぞ見知りおきを」
「浪風悠人(
ja3452)です。料理に関しては、学園に来てから飛躍的に上達した感がありますね。今回は全力で挑みます」
「……染井桜花(
ja4386)だ……よろしく」
「えとぉ……月乃宮恋音(
jb1221)ですぅ……。今日はカレーを作るつもりですよぉ……」
「私で最後だね。彩咲陽花(
jb1871)だよ。今日こそ、毎日練習してる料理の腕を見せるとき♪ だって最近、学校だと誰も味見してくれないんだよ、なぜか知らないけど……」
「なにか最後に物騒な自己紹介が聞こえたよ? まぁとりあえず始めよう。アレ・キュイジーヌ♪」
ノヴェラの合図で、料理人たちは一斉に作業へ取りかかった。
まずはチルルの調理風景。
彼女が最初に手をつけたのは、卵に砂糖を加えて混ぜることだった。
そこへバニラエッセンスと生クリームを入れて、さらにホイップする。
すべて手作業だが、撃退士パワーで見る見るうちにアイスクリームの元が完成。
顔や胸元に生クリームが飛び散ってるのは、お約束である。
「手慣れてるね。料理は得意なの?」
ノヴェラが訊ねた。
「得意じゃないけど、冷たいものを作るのは得意よ。アイスクリームは前にも依頼で作ったことがあるの」
「僕はイタリア人だからジェラートにはうるさいよ?」
「ふ……あたいのデザートはさいきょーよ!」
その隣では、黒百合が米を煮込んでいた。
しかも砂糖と牛乳で、だ。
「ん? デザートを作るって言わなかった?」
ノヴェラが首をかしげた。
「これはフランスのデザート『リオレ』よォ。でもそのままじゃ面白くないから、一工夫させてもらうわァ♪」
「その大量の果物を使うんだね」
「まァ仕上げをご覧じろ、ってねェ♪」
「腹が減っては戦ができぬ。おいしい料理で士気も上がる。戦に最も必要なのは、兵の胃袋を掌握するシェフである……ってね」
などと呟きながら、歌音は肉をさばいていた。
鶏の胸肉を切って塩と酒で揉み、片栗粉少々。
豚肉も薄く切って酒を振る。
次にタマネギをスライスして、キュウリを細切りに。
ポニテにエプロン、三角巾という服装もあいまって、料理好きな女の子にしか見えない。
「イケメンの料理姿は萌えるわね」と、亜矢。
「それはいいけど贔屓は無用だよ? 私にとって勝敗はどうでもいいんだ」
歌音はストイックに答えた。
これでは亜矢が贔屓するのも無理はない。
その横では、悠人も鶏肉をさばいていた。
胸肉に塩をすりこみ、なじむまで10分少々。
その間にショウガをスライスして、長ネギの緑色の部分をカット。
鶏肉の皮の面を下にしてフライパンに置き、ネギとショウガを隙間に詰める。
そこへ水1カップ、酒大匙2。
蓋をして中火で煮立て、さらに弱火で10分蒸す。
鶏肉の色が変わったら火を止め、余熱で芯まで火を通す。
その間に、白米を圧力鍋で炊いておく。
さらに同時進行で、特製のタレ作り。
白胡麻を炒って、香ばしい匂いが立ったら粘り気が出るまで擂り鉢で擂る。
油を少しずつ混ぜて滑らかに仕立て、おろしニンニクを少々。このタレは小皿に分けておく。
料理以外なにもする気はない意気込みだが、結果やいかに。
そんな中、桜花も淡々と調理を進めていた。
まずはジャガイモを適当に切り、柔らかくなるまでレンジで加熱。
すぐさま重曹と塩を加え、麺棒で『つく』ようにこねながら、隠し味にカボチャを足す。
熱いうちに重曹を加えることで、コシの強い伸びにくい麺になる寸法だ。
ここへ強力粉を少しずつ混ぜ、油を加えて更にこねる。
生地になったら丸めて濡れ布巾をかけ、室温で少し放置。
打ち粉をしたあと、麺棒で伸ばし屏風たたみにして切る。
これをゆでて氷水で締めれば、ジャガイモの麺すなわちカムジャ麺の出来上がりだ。
スープは3日かけて仕込んだものを用意してあるので、あとは味を調えるだけ。
「夏のお料理ってことで、私はお刺身にしてみたよ♪」
陽花の料理は一目瞭然。『カツオのたたき』だ。
今回の選手中、一番カンタンな料理である。
なんせ魚を切って火で炙るだけ。
「でも単純なものほど難しいとも言うよね」と、ノヴェラ。
「そう、そうなの! でも安心して! 今日は自信あるから! もう誰も死なせない!」
「え?」
どう見ても殺人フラグです。本当にありがとうございました。
「で、月乃宮君は宣言どおりカレーだね」
ノヴェラが恋音の手元を覗きこんだ。
「はい……学園に伝わる『秘伝の流星カレー』を、アレンジしようと思いますぅ……」
「いいね、夏カレー」
そこへ亜矢が口をはさんだ。
「あんた、うちの野菜あげたんだから負けたら許さないわよ?」
「は、はい……頑張りますよぉ……」
「負けたら罰ゲームね」
「お、おお……それは逆に興味が……いえ、本気で挑みますよぉ……?」
という感じで、庶民的な食材が並ぶ中。
沙羅が用意したのはスッポンとハモだった。しかも生きている。
それを難なく処理する手際は、流石の一言。
「見とれるほどの手つきだね」
ノヴェラが嘆息した。
「ありがとうございます。お口にあえば良いのですが」
応じながら、沙羅は粛々と工程を進めてゆく。
さばいたスッポンとハモのアラで出汁をとり
ハモの身は骨切りして湯引きに
スッポンのゼラチン質はジュレにする
ハモとスッポンの出汁に上等の和風出汁を加えて冷製スープにしたら
焼きナス、炒めたオクラ、ズッキーニでスープに味を含ませる
ジュレとスープに漢方の手法を施し、薬膳風に
器には中身をくりぬいた冬瓜を使用。表面には花柄の模様が彫り込んである。
抜き取った冬瓜の実も無駄にせず、葛粉を使って葛切りに。
「ひとりだけ別次元の料理だね」
ノヴェラも苦笑するしかなかった。
「さて……ほかの人はまだ調理中だけど、私はもう完成したので審査してもらって良いですかね。特製冷しゃぶサラダです」
一番手で料理を出したのは歌音だった。
ガラスの器には、同心円状に敷きつめられたレタス、タマネギ、キュウリ。その上に、しゃぶしゃぶにされた鶏肉と豚肉が花のように並んでいる。中心に置かれたプチトマトが良いアクセントだ。
「味だけでなく見た目にもこだわりました。見目麗しければ食欲も湧くということで。ポン酢か醤油でどうぞ。薬味に、大根おろしと紅葉おろしもあります」
すすめられるまま、ノヴェラと亜矢は箸をつけた。
「うん、普通によく出来た冷しゃぶだね」
「やっぱり肉が一番よね!」
わりと好評だ。
採点は──
†ノヴェラ: テーマ:6 芸術:5 味:7 計18
「一番手だし様子見ね。芸術点は辛めで行くよ」
†亜矢: テーマ:7 芸術:8 味:8 計23
「芸術って作者も重要よね!」
「……完成した……試食たのむ」
続いて桜花が料理を提出した。
カットが施されたクリスタルガラスの器に、透明なスープと真っ白な麺が収まっている。
麺の上には自家製焼豚と、彩りのキュウリ。
「冷麺って、また地味ね」
亜矢の第一印象は良くなかった。
が──
「なにコレ! おいしいんだけど!?」
一口食べたとたん、意見を一変させる亜矢。
「目の覚めるほど冷たいスープに、唐辛子が調和してるね。ジャガイモ麺の冷麺というのも珍しい」
ノヴェラにも好評だ。
その点数は──
†ノヴェラ: テーマ:7 芸術:7 味:8 計22
「これいいね。プールいっぱいに作って泳ぎたい」
†亜矢: テーマ:8 芸術:8 味:8 計24
「この夏は冷麺ブーム来るかも?」
「俺の番ですね。どうぞ、野菜と蒸し鶏の胡麻ダレ丼です」
悠人がドンブリを持ってきた。
ノヴェラと亜矢が同時に蓋をあける。
現れたのは、炊きたてごはんに乗っかった、トマト、キュウリ、ネギ、そして鶏肉。
きっちり『絵』になるよう配色も考えられている。
「『いまの季節に食べたい料理』ということで、夏野菜で彩りつつ夏バテ予防を兼ねて、鶏肉での疲労回復効果を狙いました。好みで胡麻ダレをかけてください」
悠人が説明した。
審査員ふたりが実食する。
「いいじゃない。丼物って本能を刺激されるわよね」と、亜矢。
一方ノヴェラは反応が悪い。
その理由は──
†ノヴェラ: テーマ:5 芸術:4 味:7 計16
「これ普通の鶏丼だね。もっとアートしようよ!」
†亜矢: テーマ:7 芸術:6 味:7 計20
「おいしいけど芸術は感じないわね」
「このあたりで甘い物はいかがァ?」
黒百合が運んできたのは、握り寿司のようなものだった。
だが何故か異様にトロピカルな装飾が施されている。南国の花とか、カクテル用のパラソルピックとか。
「妙なの出てきたわね。殺人狙い?」
「失礼ねェ、亜矢ちゃん。これはリオレで作ったフルーツ寿司よォ♪」
リオレを寿司のように整形したものに、ネタとしてスイカやパイナップルなどが乗っている。ご丁寧に巻き寿司や軍艦寿司まで揃っており、注目度は抜群。これをベリー系のソースやチョコソースにつけて食べる仕組みだ。
「なんにせよゲテモノでしょ」
「あらァ、フランスじゃ寿司屋のメニューに載ってるわよォ? それにフルーツは私の実験……温室で合法的に育てた物だから、安心して食べてねェ♪」
「1ミリも安心できないわよ」
そんな亜矢の隣では、ノヴェラが普通に寿司を食べていた。
点数は──
†ノヴェラ: テーマ:6 芸術:8 味:5 計19
「芸術性は認めるけど味は問題」
†亜矢: テーマ:5 芸術:1 味:3 計9
「こんな寿司、日本人として認めない!」
「では、私の番ですねぇ……」
恋音の作品は『秘伝の流星カレー』だった。
ルーを海、ライスを砂浜に見立てた作りで、野菜などの具材は星や魚の形に飾り切りされている。
ライスには、カレーと相性の良いインディカ米を使用。日本の米より水分が少ないため、やや多めの水で炊いてある。
「料理のコンセプトを説明しますねぇ……。今回の勝負はタイトルに『久遠ヶ原』と銘打たれていることから、『久遠ヶ原らしさ』の重要性が高いと想定しましたぁ……。そして最も『夏の久遠ヶ原らしい料理』といえば……かつて学園全体を挙げてイベントが行われた、カレーに他ならないと思うのですよぉ……。学園長も『夏といえばカレー』『これ以上夏にふさわしい食べ物はそうあるまい』と、言い切っておりましたねぇ……」
説明が長いので、亜矢たちはとっくに食べはじめていた。
採点!
†ノヴェラ: テーマ:6 芸術:6 味:7 計19
「色々考えすぎだよ月乃宮君」
†亜矢: テーマ:9 芸術:7 味:7 計23
「あのイベントは熱かったわね!」
「ではどうぞ。『スッポンとハモの冷製薬膳スープ』です」
沙羅の料理には、クロッシュがかぶせられていた。
ノヴェラがそれを開けたとたん、ドライアイスの煙が流れ出す。
彫刻の施された冬瓜の器は見るからに涼しげで、ホオズキに見立てたあしらいは完全に職人芸だ。
「こちらは卵黄とプチトマトを西京味噌に漬けた物ですので、ご自由にお召し上がりを」
などと言われる前に、ノヴェラも亜矢もスープを貪り喰っていた。
その姿を見たら、もはや勝敗を云々するのも阿呆らしい。
「今回は、薬膳の解熱作用による涼しさ爽やかさを呼ぶ料理をめざしました。食欲増進効果で、ほかの皆様の料理も引き立てることができれば幸いです」
†ノヴェラ: テーマ:8 芸術:8 味:10 計26
「戦国時代にガトリング砲持ってきたレベル」
†亜矢: テーマ:8 芸術:9 味:10 計27
「前にも同じスープ食べたけど、食材が反則でしょ」
「すごい点数! でもここで私が華麗に大逆転だよ♪」
ついに陽花のターン!
殺人フラグ回収なるか!?(なります
「自信ありそうだけど、その黒い物体は何なのよ!」
亜矢が指差した。
「これはカツオのたたきだよ。見た目が少しヘンだけど、ちゃんと料理本どおりに作ったから大丈夫。見て見て、紫蘇と大葉でさっぱり風味にしたんだ♪」
「シソでどうにかなる相手じゃないわよ、それ」
「外見で判断しないで! きっとおいしいから! 大丈夫、だまされたと思って♪」(だまされます
「まぁ一口だけ食べるけど……正直帰りたい」
愚痴りつつも、意を決して食べる審査員2名。
その直後、ふたりは全身真っ青になってブッ倒れたのであった。
†ノヴェラ: テーマ:3 芸術:9 味:1 計13
「アートを爆発と考えれば、これは一種のアートだね」
†亜矢: テーマ:1 芸術:1 味:-10 計-8
「歴代殺人料理の中でも久々の逸材ね」
「体力回復の口直しに、あたいのデザートを食べるといいわ!」
最後の料理はチルルのアイスケーキ。
それもバニラアイスとストロベリーアイスで作った、ショートケーキみたいなアイスだ。
バースデーケーキさながらの蝋燭は、棒形チョコ。
「お誕生日な気分でしょ? 全部あたいの手作りよ」
「発想がバカっぽい……」
と、亜矢が言った。
「バカって言うほうがバカなのよ! これは本物のケーキをホールごと買ってきて、それを参考に作ったんだから! あのケーキおいしかった!」
今回のチルルはテンション高いな。
ともあれ試食&採点!
†ノヴェラ: テーマ:6 芸術:5 味:6 計17
「こういうアイス普通に売ってるしね」
†亜矢: テーマ:8 芸術:7 味:7 計22
「夏だからアイス! 直球よね!」
† 最終結果
1 水無月沙羅:53(獲得点5)
2 染井桜花:46(獲得点3)
3 月乃宮恋音:42(獲得点1)
4 鴉乃宮歌音:41
5 雪室チルル:39
6 浪風悠人:36
7 黒百合:28
8 彩咲陽花:5(獲得点-3)
「というわけで、水無月君おめでとう」
ノヴェラが言うと、拍手が湧いた。
「皆おつかれ。残った食材で鶏雑炊を作ってみた。よければどうぞ」
ここで歌音の配慮が地味に光る! けど採点には無関係!
「やった! おなかペコペコだったのよ!」
すかさず飛びつくチルル。
「カツオの叩きも残ってるよ♪」
陽花が無邪気に笑った。
その後、彼女の料理以外みんなで楽しく食べて、無事に解散となったのであった。