「すげー、まるで盆と正月がいっぺんに来たようだぜ」
場面描写もなく登場したのは、爆破魔ラファル A ユーティライネン(
jb4620)
これまで数々のイベントを爆破で〆てきた芸風には定評がある。
「アンタの出番はまだよ!」
亜矢が怒鳴った。
「出番とか知らねーな。今回もコメディだから爆発していいんだろ?」
「やめなさい!」
「冗談だっての。ちゃんと浴衣も着てきたし」
「それだけじゃダメよ! ポニテにしなさい!」
無理やりラファルの髪をたばねようとする亜矢。
だが──
「あつっ! なにコレ!」
髪に触れたとたん、亜矢の手から白煙が上がった。
ラファルの髪は義体の設計上、放熱板になっているのだ。
「あーあー、火傷してんじゃねーか。だからやめとけって言ったのに」
「聞いてない!」
「亜矢さんは暑さで頭がやられてしまったのですか?」
雫(
ja1894)が真顔で訊ねた。
服装は紺色菖蒲柄の浴衣だ。髪もポニー。
「熱でアタマやられてるのはラファルよ!」
「では二人とも熱中症ということで。まぁいずれにせよ夏場はこの髪型なので良いですが……亜矢さんがポニーフェチだったとは知りませんでした」
「フェチとかじゃなくて! 実用性よ!」
「僕にはわかります。ポニテいいですよね」
なにやら同意したのは、陽波透次(
ja0280)
皆がポニテになりやすいようにと、変化の術で浴衣姿のポニテ少女に化けている。
さらに『焼肉フィールド』で物理法則を捻じ曲げ、声まで女の子に。
どこから見ても、花も恥じらう可憐なポニテ少女である。ただし小脇に抱えてるのは焼肉用の七輪。
「なんで女装してんのアンタ」
亜矢がツッこんだ。
「女装? いいえ、僕の名前は焼肉子。ポニテと焼肉を愛する、おにゃのこ
「キモい!」
次に、深森木葉(
jb1711)がやってきた。
髪はポニテ。浴衣は白地に薄紫の蝶柄だ。
「亜矢ちゃん、雫ちゃん、おそろいですぅ〜」
「さすが、よくお似合いですね」と、雫。
「ところで、なぜ焼肉なのですぅ……?」
木葉の質問どおり、亜矢たちは何故か河原で焼肉してるのだった。
「冷やし中華より焼肉のほうがおいしいからよ!」
身も蓋もないことを言う亜矢。
透次が全力で頷いた。念のため冷やし中華も用意してきたのだが、焼肉を始めたらどうでもよくなってしまったのだ。
「それなら仕方ないですぅ」
ごく自然に、木葉も焼肉の会へ加わった。
……え、冷やし中華? 知らん!
「あらァ……なんで焼肉なのォ? 冷やし中華祭りって聞いたけどォ……?」
黒百合(
ja0422)が、大量の瓶ラムネを持ってやってきた。
衣装は正装(ポニー+浴衣)である。
「これは仕方ないのです。焼肉フィールドに焼肉は不可欠。したがって……」
透次(女装)が真剣に説明した。
「まァいいけどォ……ラムネ置いていくから、みんなで飲んでねェ♪」
「今度は何を企んでるのよ」と、亜矢。
「失礼ねェ……どれか一本選んでみてよォ。私が飲んでみせるからァ♪」
そう言うと、黒百合は言葉どおりのことを実行してみせた。
「ほらァ、安全でしょォ?」
「だから何を企んでるのよ」
「疑り深いわねェ……。まァ私は上流のほうを見てくるわァ……じゃあまたねェ♪」
うすく微笑むと、黒百合は去っていった。
「黒百合ちゃんを疑うわけじゃないですけどぉ……このラムネは飲んでも大丈夫なのですぅ……?」
木葉が不安げにラムネ瓶を取った。
「前科を考えると、Gが混入されてても不思議はねーな」
真剣な顔で答えるラファル。
「ひぃッ!?」
木葉の手から瓶が落ちた。
「飲み物なら沢山あるわよ」
亜矢が川から網を引き揚げると、中には烏龍茶やジュースの缶が何本も入っていた。
「亜矢さんにしては珍しく気が利きますね。珍しく。やはり熱で頭が……」と、雫。
「恋音が置いてったのよ!」
「それなら安心して飲めるですぅ♪」
木葉はホッと息をついて缶ジュースを手にした。
「いや待て。ヤツの前科を考えると、その缶には胸を肥大化させる薬が混じってる可能性が……」
真顔で止めるラファルだが、彼女も凶状持ちの前科者なので久遠ヶ原ってマジ無法地帯!
「というわけで、あたい参上! なんか色々言ってるけどマイナーな記念日集めただけよね。どうせネタがないから調べたんでしょ? ん?」
雪室チルル(
ja0220)がやってきて、笑顔で亜矢を挑発した。
「そのとおりよ! 文句ある!?」
「文句はないけど、ポニテの日とかマイナーすぎでしょ」
「でも見なさい。ラファル以外みんなポニテよ。っていうかアンタもポニテ浴衣じゃない」
「あたいは別に記念日とか関係ないから。こういうのは季節感が大事なのよ」
と言いながら、さりげなく焼肉に加わるチルル。
「たしかに指摘通りですね。ポニテの日とは無名すぎます」
樒和紗(
jb6970)は、黒髪ロングに十二単という格好で現れた。
これは凄い。河原に裾を引きずって、めっちゃ歩きにくそうだ。
「いいですか、7月7日といえば『ソロモン諸島の独立記念日』および『竹の日』……ついでに『カル○スの販売開始日』ですよ? 日本人なら、まずこれらを祝うべきです」
「え、ソロモン諸島?」
予想外な単語に、亜矢のツッコミも精彩を欠いていた。
「ええ。そこで俺はソロモン諸島の民族楽器アウ……パンパイプを作ります。ちょうど竹製ですし、『竹の日』も祝えて一石二鳥。なんでも竹の日の理由というのが『かぐや姫が竹から生まれたのって7月7日なんじゃね?』という根拠不明なざっくり過ぎるものでしたが……ならば十二単を着ておけば良いのではと思いまして」
「ああ、うん、よくわからないけど」
「では失礼して……」
懐からノコギリを取り出すと、和紗は河原に立ててある竹に足をかけてギコギコ切り始めた。
なにしろ衣装が十二単なので、見た目が凄い。
「話は聞いたわ。でも7月7日は『乾麺の日』よ」
蓮城真緋呂(
jb6120)が浴衣姿で現れた。
ただし髪型はサイドテール。
「なんで微妙に外すのよ! 仲間になりたくないの!?」
亜矢が怒鳴った。
「そもそも私とあなたは、属性的に『仲間』じゃないから」
胸を強調するように腕組みしつつ、冷笑を浴びせる真緋呂。
「ぐぬぬぬ……!」
「そんなことより『乾麺の日』よ。保存に優れた乾麺は消費期限に切迫されることもなく、食糧として優秀。まぁ私は期限前に食べつくすから関係ないけど……。さらに言うなら生麺より遥かに強力な武器にもなると思うの。がっつり束にして殴ったら痛くない?」
業務用パスタ(20kg入り)を取り出して、ぶんぶん振りまわす真緋呂。これは完全に鈍器だ。
「あと今日は『ギフトの日』と『香りの日』でもあるのよね。この『化粧品を買ってプレゼントしよう』っていう、あからさまな便乗感が潔いと思わない? そんなわけで……だれか化粧品買って♪」
素敵な笑顔で、真緋呂はパスタという名の凶器をきらめかせた。
だが、この場の全員がわかってる。正しい真緋呂対処法を。
「化粧品などよりも……あなたにはこれが似合います。僕が焼肉の香りを贈りましょう!」
透次が極上カルビを差し出した。
結果は言うまでもない。
そんな中、鴉乃宮歌音(
ja0427)はクーラーボックスをいくつも抱えて登場した。
ついに冷やし中華要員か!? と思えば、そうではない。
彼が大鍋で作り始めたのは素麺。何種類もの薬味やツユを用意しての本格派だ。
女装しての浴衣&ポニテもレベルが高い。
「久遠ヶ原の男子って、女装癖多すぎよね」
亜矢の言葉に、女子全員が頷いた。
「まぁ人の趣味には色々ある。とりあえず私は怪しい者ではない。このそうめんを食べて行くといい」
歌音は秘密結社フリーソーメンの構成員なのだ。
組織の詳細は不明だが、夏の街角でソーメンを配って道行く人々に一服の涼を提供するのが主な活動とされている。
「七夕に素麺を食べる文化は平安時代からあるんだよ。熱病を流行らせる鬼を鎮めるために供えられたとか言われてるね。白い糸のように見えることから、織物が上達するようにとの願掛けにも使われる。織姫は名前の通り、織物の達人だったそうだね。……ま、どう見てもこじつけだけど」
淡々と説明しながら、フリーソーメンの仕事を続ける歌音。
真緋呂は早くも、わんこ素麺状態だ。
「わはーい♪ 七夕七夕〜です〜。短冊に〜お願いごと書く〜ですよぉ〜♪ むふー♪ アミィは〜子供じゃないからぁ〜かなわないお願いごとはぁ〜書きませんよぉ〜」
大きな短冊を持って、アルフィミア(
jc2349)がやってきた。
スーパーのレジ袋には大量のお菓子が入っている。
「そうですね。地元では、あまりお祭り、できませんでしたので、たくさん、たのしみたいですね」
妹の横顔を確かめつつ、アルティミシア(
jc1611)が同意した。
彼女はいつでも、妹アルフィミアのお目付役。サキュバスである母親のマネをしたがる妹のブレーキ役なのだ。
「お願いごと〜ごはんおなかいっぱい〜食べたいですぅ〜♪」
迷いなく河原へ向かうアルフィミア。
そこには、まぎれもない焼肉とソーメンの饗宴が繰り広げられていた。
「なんか〜聞いてた話と違うですぅ〜。……あっ、でも〜これなら〜おいしい精気探しができるような気が〜するのですぅ〜♪」
「にゃー! 駄目ーー! アミィ、精気は駄目ですーー!」
大慌てで止めるアルティミシア。
そんなアル姉妹を迎えて、焼肉素麺おやつパーティーはますます盛り上がる。
ここまで冷やし中華の出番なし!
そこへ登場したのは、水無月沙羅(
ja0670)
いつも着物にポニーだが、今日は浴衣で参加だ。
これまで数々の料理を披露してきた『御料理姫』の腕がうなる!
「待ってたわよ。おいしい冷やし中華を作ってね」
亜矢が期待をこめて言った。
「あの……皆さん冷やし中華を作ると思って、ラーメンを作って来てしまったのですが……」
やや困惑気味の沙羅。
出てきたのは、見た目にも涼しげなガラスのドンブリに冷たいコンソメベースの冷製ラーメンだ。具は焼豚の代わりにローストビーフ。翡翠色の焼きナスをはじめ、色彩ゆたかな夏野菜が目を引く。さらには自家製の薔薇ジャムを使った赤い氷を織姫に、ローストビーフを彦星に見立てて、両者の間に天の川の麺を配置するという凝りよう。
「この、そうめんのような……わんこそばのような、さわやかな喉越し! おかわりよ!」
誰の発言かわかるよね。
なにやらみんなで真緋呂を接待するみたいな催しになってきたぞ。
「気のせいか、だれも冷やし中華を食べてないように見えますが……」
不可解そうな顔で、神谷春樹(
jb7335)が話しかけた。
藍色の甚平が、夏の夜にピッタリだ。
彼が持ってきたのは──THE冷やし中華!
「おー、ついに主役の登場だぜ。ここに座れよハル。ラーメンも素麺もパスタもあるぜ」
ラファルが手招きした。
「これだけ麺類があって、なぜ冷やし中華がないんですか」
「ラ王が冷やし流し中華をやるとか言ってたからじゃねーか?」
「僕も張り合う気はありませんが……とりあえずオーソドックスなものを作って来ました」
春樹が出したのは、トマト、キュウリ、キクラゲ、ゆで玉子、チャーシューといった具材の冷やし中華だった。オーソドックスながらも豪勢だ。
ここでようやく『冷やし中華はじめました』の看板が立てられ、告知どおりの祭りが始まったのであった。
「ところで〜七夕飾りは〜どこですか〜? アミィは〜短冊を書きに来たのです〜♪」
うめえ棒をかじりながら、アルフィミアが訊ねた。
「あれよアレ」
亜矢が指差す先には、無惨に切り刻まれた竹の姿が!
その隣では、和紗がパンパイプを調律している。
「どうしました? まさか、この竹に短冊を吊す予定でしたか?」
「その予定だったのよ一応」と、亜矢。
「それは失礼しました。では残った竹を、このように……」
50cmほどになってしまった竹を、和紗が河原へ突き立てた。
子供が見たら泣きそうなほど貧相な七夕飾りだが、竹は竹だ。
「七夕って〜こんな感じでしたっけ〜?」
「外れてはいませんね。さぁ短冊に願いごとを書きましょう」
妹を言いくるめるように話を進めるアルティミシア。
「あたいの願いはコレよ!」
最速で短冊を書いたのはチルルだった。
内容は『さいきょーになれますように!』
あれ? すでに自称最強じゃなかったっけ、チルルちゃん。
「私の願いは当然ひとつね」
真緋呂の願いも迷いがなかった。
短冊には『美味しい物をお腹いっぱい食べられますように』と書かれている。
「おいしいものさえ食べられれば、人はそれなりに幸せに生きていけるのよ!」
『おなかいっぱい』ってのは無理じゃね?
「アミィのお願いは〜ごはんと〜お肉と〜ケーキと〜チョコと〜おいしい精気と〜……あれ、書ききれなくなっちゃいました〜」
「短くまとめましょう。そちらの大食いのお姉さんみたいに」
お目付役アルティミシアには気苦労が絶えない。
そんな彼女の願いは──
「(友達たくさん出来ますように。アミィが真っ当に成長してくれますように)……こんなところ、でしょうか」
遠い目で夜空を見上げつつ、そっと溜め息をつくアルティミシアだった。
「みんな早いですねぇ」
透次は最初『世界平和』と書こうとしたが、それは人類が自らの力で達成すべき目標……と思いなおし、『お金欲しいです』と書いていた。
なぜだ、とーじ! 世界一のヤキニクストになるのが夢じゃなかったのか!?
「キュゥ!」
鳳静矢(
ja3856)は、いつものラッコ着ぐるみで河原にやってきた。
クーラーボックスには大量の冷やし中華。
今日は、川の日に冷やし中華に浴衣にポニテと聞いて、『これぞまさしくラッコのためのイベント!』と勢い込んで参加したのだ。
ラッコ要素ひとつもないけど、ラッコにしかわからない何かがあるのだろう。
「キュッ!」
着ぐるみの上から浴衣模様のスウェットスーツを着込み、ポニテのウィッグをかぶる静矢。
この時点で相当の不審者だが、本番はここから!
左手に冷やし中華の皿を持ち、右手に箸をかまえて川へ突入!
仰向けで川を流れながら、器用に冷やし中華を実食!
『これぞラッコの川流れ!』
いつものホワイトボードに謎の文言を記す静矢。
ある程度流れて風情を満喫したら陸に上がり、川をさかのぼって再び流れるという行動を黙々とキュッキュッと繰り返す。
『これぞ日本の正しい七夕の楽しみかた!』
たぶん『アラスカの正しい七夕』の間違いだと思う。
そんなラッコを眺めつつ、黒井明斗(
jb0525)は紺の浴衣にポニテ姿で、釣り堀を設置していた。
川の一角を石と網でぐるりと囲って半円状の生け簀を確保し、養魚場で買ってきたニジマスを放流。
安物の釣具と焚き火の用意をして、調理用の串、包丁、塩などをセットする。
そして、おもむろに看板を掲げた。
『ニジマスの塩焼きあります(セルフサービス)』
ようするに自分で釣って焼いて食べてねということだ。
「さて……あとは店番ですね」
と、生け簀の畔に陣取る明斗。
無料なので店番は不要なのだが、初心者や困ってる人を助けるための店番だ。
が──
「釣りと聞いては黙ってられないな。……七夕? 冷やし中華? 知ったことか。浴衣? ポニー? 興味ないね」
自前の釣竿をかついで現れたのは、釣りキチ月詠神削(
ja5265)
そこに海や川があるならば……彼の行動は釣り一択!
「まわりが騒がしくて魚が逃げそうだと思ってたが……これなら釣れる!」
ギラリと瞳を輝かせて、神削は川岸に立った。
そりゃまぁ釣れるに決まってる。釣り堀だし。
というわけで。おなじみダイスロールの時間。1D6をコロコロ♪
結果──
1:大物(ニジマス)GET!
ピチピチはねる獲物を見て、「ふ……自分の才能が怖い」と呟く神削であった。
あとはゴジ●を釣り上げて全員吹き飛ばすまでが、あなたの仕事です。
「というわけで……いざ、流し冷やし中華を実行する!」
佐藤としお(
ja2489)が、謎イベントの開幕を宣言した。
「どこまでもついていきます! 手がまわらない所は私に任せてください〜♪」
ポニテ&浴衣で賛成するのは、華子=マーヴェリック(
jc0898)
「ありがとう華子さん。是非このイベントを盛り上げて、冷やし中華文化を世界に広めよう! 新しい文化の始まりだ!」
「はい。おいしいの作りましょうね〜♪」
ラーメン王としおとストーカー華子が、並んで中華麺をゆではじめる。
「話は聞かせてもらいました」
ジャリッと河原の小石を踏みつつ、Rehni Nam(
ja5283)が二人の前に立った。
銀色のポニテと浴衣姿が目に眩しい。
「そう、私といえばロング、ロングといえば私。……ですが、お料理となれば別! ポニテな私は完全臨戦態勢! つまり今回の私はお料理担当なのです!」
なにやら自己紹介しつつ、サラッと立ちポーズを決めるRehni。
なにしろ『新・中華の達人』なる称号の持ち主だ。ラーメン王とのシナジーは計り知れない。
「……というわけでサトウさん。私も調理にまわらせていただきますね」
「たよりにしてますよ!」
「では私も手伝いましょう」
袋井雅人(
jb1469)が大荷物を抱えて駆けつけた。
冷やし中華だけでは物足りないと考えた彼は、中華麺、そうめん、うどん、蕎麦、パスタ、マカロニ、春雨、白滝……と、あらゆる麺類を持ってきたのだ。
「あと、これを忘れてはいけません。フォォォォッ!」
ベトナム料理のフォーである。
掛け声と同時に衣装(?)もパンツ2丁のラブコメ仮面に。
としおたちと並んで、屋外用キッチンで大量の麺をゆでる。
「いろんな麺をじゃんじゃん流しちゃいますよー」
「みんな集まれー! 冷やし流し中華、はっじまるよー♪」
ノリノリで呼びかけるとしお。
彼が流すのは、まず基本の麺。ハムと錦糸卵とキュウリ。
さらに、スイカ、トマト、牛たたき、オクラ、紅生姜、蒸し鶏、納豆、アボカド、ゴーヤ等々。
これらを灯篭流しの要領で皿に乗せて上流からドンブラコさせ、客は下流でゲットしてオリジナル冷やし中華を作るというシステムだ。
さすがラーメン王。変なものは流さない。
「いや待てよ。これもあったほうが良いよね?」
激辛調味料『死のソース』で作ったタレを流すとしお。
さすがラーメン王! 変なものは流さない!
「私も普通の食材を流しますね」
Rehniも、としおと同じく灯籠流しみたいに麺や具材を流していった。
まずはキンキンに冷やした中華麺。
具材は、千切りのハムとキュウリ、錦糸玉子に蒸し鶏。
としおとかぶってるが、ミカンとサクランボあたりが女性らしい選択だ。
カラシを溶いたゴマダレと、酢を利かせた醤油ダレも一工夫されている。
さらに、調味用としてカラシとマヨネーズも流す。こまかい気配りだ。
「まぁこんなところですね。おいしく食べてもらえると良いのですよー♪」
ゆらゆらと川面を流れてゆく皿を見送るRehni。
「私は、お皿や箸など食器類を流しますね〜」
今日の華子は、としおのサポートに徹底するようだった。
料理は彼らに任せての雑用係だ。
「でもせっかくなので……としおさんの冷やし中華を味見しておきましょう」
と言いつつ、たっぷり一人前を作って実食する華子。
流す前なので、どの具材も取り放題だ。
「この赤いタレ、異様に目立ちますね。何で出来てるんだろう……?」
まぁせっかくなので……と『死のソース中華だれ』をかけてしまう華子。
「ンごふッ!?」
「どうしたんです、華子さん!」
異音を発する乙女のもとに、としおが駆けつけた。
「な、なんでもありません……これは愛の試練……私は最後までお手伝いします……」
死のソースも、愛を打ち砕くことはできない!
「流し冷やし中華始めました? ました? と、いうわけでたくさん食べるのだ♪」
食いものの匂いを嗅ぎつけて、焔・楓(
ja7214)が走ってきた。
いつも『暑いから』とかの理由で脱ぎたがる楓だが、今日は普通に浴衣を着ている。
そして110cm19kgの小柄な体格ながら、流れてくる皿を取っては喰い、取っては喰い──フードファイターさながらの勢いで食べ進む。
「ふー、おなかいっぱいなのだー。食べたら運動ー♪」
皿を山積みにすると、楓は豪快に浴衣を脱ぎ捨てた。
もちろん浴衣の下は裸……ではなく、いつものスク水を着ていた。
「ふふー、ここで裸になると思った? 思った? 残念、水着着てたのだー♪」
やたら勝ち誇りつつ、川に飛び込む楓。
普通に麺とか食材とか流れてるけど、いっさい気にしない。
「うーん、気持ちいいのだ♪ ずっと暑かったから川の冷たさがとってもいい感じなのだー♪」
大はしゃぎでクロールしながら、川の中を行ったり来たり。
「流し冷やし中華……そんなの、食べずにいられないっ!」
これまた食いものの匂いを嗅ぎつけて、ユリア・スズノミヤ(
ja9826)が以下略!
髪は緩いポニテ。浴衣は黒地に金雪と舞い桜という、豪奢な柄だ。
おまけに舞踊で培った身ごなしで、華麗に皿を拾ってカスタマイズ冷やし中華を作り上げる。
冷やし中華と聞いて自家製のタレまで数種類持ってきたユリアに、隙はない!
「うまー♪ やっぱり夏の正義は冷やし中華。あとスイカがあれば……」
と言ってるそばから、スイカが流れてきた。
すかさず捕獲して、夏の味覚を堪能するユリア。
「さすがラーメン王。期待どおり♪ ごめんね、食べる専門で☆」
「流し冷やし中華って、たのしそうー! ついでに七夕もね!」
高瀬里桜(
ja0394)も、お手本のようなポニーテールで浴衣姿だった。
としおの腕前は知ってるので、胸(小)も期待に高鳴る。
「こうやって色々と流れてくるんだね。闇鍋みたいなドキドキ感があっていいかも♪ よーし、取ったものは全部食べるよ。主催としお君だし重体レベルのは入ってない……はず!」
主催が誰だろうと、流す人は他にもいるのだが……運良く殺人料理を流す者は(今のところ)いなかった。
「大丈夫。念のため防御も上げたし、ヒールも用意した。もちろん火炎瓶もね! もしものためにね! だってここは久遠ヶ原だから! なにごとも燃やして隠滅が一番っ! 魚焼くのとかにも使えるしね!」
発言がアレだが、この学園には残念美人しかいないのか。
「流し冷やし中華……? もしかしたら食費が浮くかもしれませんね」
本業(奇術興行)の帰路、─宮雅春(
jc2177)は河原の賑わいを見て足を止めた。
タイミングの良いことに、服は浴衣で髪はポニテ。ステージ衣装そのままである。
しかも主催者は顔見知りなので話しやすい。
「こんばんは、佐藤さん。私も流していいですか?」
「もちろん。食材は持ってます?」
「ああ、いえ……いまイベントを見かけて、ふと素朴な疑問が湧いたので試してみようかと」
「疑問?」
「アウルは食べられるのか、という疑問です。考えてみれば私はアウルというものを何も知りません。もし『創造』でおいしい料理を食べられるなら……コトによると月々の食費をゼロにすることも可能ですよね?」
「おお、それは盲点でした。僕はインフィルがメインですし」
「では早速ためしてみましょう。『創造』で冷やし中華を作成!」
雅春の手元に、みごとな冷やし中華ができた。
「外見は問題なし……では川に流して……と」
「待った、小宮さん。流す必要ありませんよ!」
「あ、そうでした。では、この場で試食を」
だが残念なことに、食べることはできなかった。
創造で作れるのは飽くまで外見のみ。中身は再現できない。スカスカの食品サンプルみたいなものだ。
「名案だと思ったのに……」
「気を落とさず、冷やし中華を堪能していってください」
元気づけるとしお。
そんな彼らの尽力で、川には無数の麺と食材が流れていった。
殺人的なブツを流す者はいない。いつになく平和なパーティーだ。
「たまにはこういうフツーの食事会もいいわね♪」
満足げに冷やし中華を食べるチルル。
「あんまりフツーには見えねーけどなー」
ツッコミを入れつつ、ラファルは特製冷やしカレースープで美味辛くしてご満悦だ。
「ところで、口直しに〆のラーメンはないの?」
だれにともなくユリアが問いかけた。
すると、待っていたかのように沙羅が出てくる。
「冷製ラーメンですが、これでよければ」
「うみゅっ! これは☆3つだね! おかわり!」
どこが〆なのかと、周囲の誰もが思った。
流し冷やし中華の間にも、七夕飾りには一枚また一枚と短冊が下げられていった。
『大切な人達とこれからも美味しいものが食べられますように』と書いたのはユリア。
稚拙ながらもイラストが入っている。百合と蓮、桜と紫陽花、てるてる坊主の絵だ。
沙羅は冷製ラーメンを作る合間を縫って、五色の短冊を吊っていた。願いは、『何時までもみんなと仲良く楽しく、健やかに過ごせますように。皆が天の川の星の如く輝いて』
明斗の願いごとは、『皆の願いが叶います様に』というもので、短冊はあえて目立たないところに吊られている。
そんな仲間たちの様子を大岩の上から見下ろしつつ、春樹は太公望よろしく釣り糸をたれていた。
大漁を求めているわけではないので、星空を眺めたりしながらゆったりと。
「いろいろ流れてくるのですぅ。次は何が流れてくるですかぁ〜?」
最近ロクな目に遭ってない木葉も、今日は平穏に冷やし中華できていた。
「あの変態女がいないと落ち着いてイベントできるわね」と、亜矢。
「そうですねぇ〜。なにか見慣れない食材が流れてきたのですぅ〜。ためしに食べてみましょう〜♪」
木葉が手に取ったのは、雫の流した臭豆腐だった。
「こ、これは……臭いですぅ〜! ドブの匂いがするのですぅ〜!」
「川にもどせば?」
「いえ……取ったものは責任持って食すのが、マナーなのですぅ……」
「あたし手伝わないからね?」
「うぐぅ……」
涙目で臭豆腐をかじろうとする木葉。
そこへラブコメ仮面参上!
「ふおおおおっ! 状況はわかりました! 私が協力しましょう!」
「変態は他にもいたわね」
亜矢が溜め息をついた。
「本当に手伝ってくれるのですぅ……?」
「もちろんですとも! ここに私の大好物のジャガイモをふかしたのがあるので、バターみたいに塗って食べれば………げぼォぉぉぉッ!」
耐えきれず『リバース』を発動する雅人。
「うんこれはなんというか……完全にウンコの味ですね!」
「食事中にウンコとか連呼しないで!」
亜矢が怒鳴った。
「あのぉ……いま、なにか非常に不穏当な単語が聞こえたような……」
月乃宮恋音(
jb1221)が、だいぶ遅れてやってきた。
亜矢が訊ねる。
「どこ行ってたのアンタ、飲み物だけ置いて」
「えとぉ……天魔退治の緊急依頼で、出撃してましたぁ……」
「なんと! まさか戦闘依頼ですか、恋音!」
血相を変える雅人。
どさくさに紛れて臭豆腐はポイ♪
「いえ……冷やし中華型天魔の、捕獲依頼ですねぇ……」
「おお! 成功でしたか?」
「はい……ここに保管してありますぅ……。いまから、依頼主の研究所へ届けるところですよぉ……」
恋音がケースを取り出した。
ところが、見るとフタが開いて中身の天魔が消えているではないか。
「お、おお……? まさか……!?」
「ひぁぁぁッ!?」
木葉の悲鳴が響いた。
なんと! 冷やし中華に擬態していた天魔が! 中華麺のような触手で! 木葉の胸元ををを!
「今回は、こんな目に遭わないはずだったですぅ……!」
「これは危険ですね! いますぐ私が引っぺがしましょう!」
雅人が素早く接近して、触手と一緒に木葉の胸を揉んだ。
ぶっちゃけ揉むほどないけど、そこは工夫次第!
「おおっ! これはじつに控えめかつ清楚な……」
「死ね、変態!」
亜矢の刀が雅人を背中から両断した。
「アバーーッ!?」
「ちょっと恋音! どうすんのよコレ!」
亜矢が言ってるのは雅人のことではなかった。
というのも、いつのまにやら脱走した冷やし中華天魔が、河原のあちこちで触手プレイしてるのだ。
「えとぉ……それほど強い敵では、ないのでぇ……」
「そういう問題じゃないでしょ! 見なさいよ!」
会場はたちまち修羅場と化していた。
なにしろ、ラファルは敵味方問わずミサイル乱射してるし、里桜は火炎瓶投げまくってるし、食事の邪魔された真緋呂は暴れ狂ってるし、和紗は完成した民族楽器で無駄にハイテンションな曲を演奏してる。……うん、あきらかに和紗が一番おかしい。
そんな狂乱の中、ひとり必死の救急作業を続ける明斗けなげすぎる。
しかも間の悪いことに、雫の流した手作り菓子の影響で川の魚がダゴンみたいに奇形化。謎の言語を発しながらワラワラ上陸してくる始末。
「そうですか、駄目ですか。短冊に『まともなお菓子が作れるように』と書いたので、大丈夫と思ったのですが」
雫が真剣に首をひねった。
ちなみに静矢と楓は、川の中にいたのが災いして土左衛門みたいになってるよ。
おまけに、この騒ぎにつられて野生の天魔がゾロゾロ集まってくる展開。
「あーもう! ラファル! 面倒だから全部爆破よ!」
「悪いな亜矢。今日は何も仕掛けてねーぜ」
「役立たずね! 神削、あんたは何か釣れないの!?」
「冷やし中華が大漁だ。たくさん流れてるからなぁ」
「他人事みたいに!」
だが次の瞬間。
ゴゴゴゴゴ……という地鳴りとともに辺り一面が揺れた。
そして押し寄せてくる、津波のような鉄砲水!
膨大な量の水が全てを押し流し、洗い流す。
黒百合が上流のダムに潜入して水門を全開にしたのだ。
やがてダムの水が流れきったとき、河原に残る人影はなかった。
その惨状を上空から見下ろしつつ、黒百合はラムネを一口。
こうして彼女の前科が、またひとつ増えたのである。
本人はバレないようにやりたかったみたいだけど、こんなことバレずにやるの不可能だよ!