「ふおおおっ!? ノヴェラ先生の誕生会が、いつのまにかカニ退治依頼に!?」
巨大蟹登場に、袋井雅人(
jb1469)は驚愕の声を上げた。
「おぉ……これは、養潤水の効果でしょうかぁ……?」
月乃宮恋音(
jb1221)も慌てて光纏。
続いて咲魔聡一(
jb9491)が、眼鏡を光らせつつ戦闘態勢をとった。
「ふ……、ただの誕生会にならないことなど想定済み! 食レポ乙種資格者として……このズワイガニ、味見させてもらう!」
以上3名はノヴェラの知人で、最初から現場にいた。
「じゃあ任せるよ♪」
箸を持って鍋の前に座るノヴェラ。戦う気ゼロだ。
「まかせてください! ただの大きい蟹でも油断しませんよ!」
雅人のダークハンドが敵を捕らえた。
「鍋にする以上、熱を持たない攻撃のほうがいいな。蟹からダシが出るし。というわけで!」
聡一は蟹の背後にまわると、食虫植物攻撃で束縛を続けつつ二丁斧で脚関節を斬りつけた。
たちまち全ての脚を切断されてしまう巨大蟹。
「こうなれば、あとは解体するのみ!」
胴体だけになった蟹をひっくりかえすと、聡一は槍に持ち替えテコの要領でフンドシを剥がし、ドリルで甲殻を粉砕!
以上! 討伐終了!
「お、おぉ……? あっさり終わりましたねぇ……。では、私は爪の甲羅を鍋にして蟹グラタンを作りましょうかぁ……」
恋音が蟹爪を確保して調理に入った。
「料理はおまかせですよ! では改めてノヴェラ先生、お誕生日おめでとうございます!」
雅人が手渡したのは、リアルな木彫りのおっぱいだった。
「うん、これはアートだね♪」とノヴェラ。
「どうせなら、もっと実用的なものを作れば? 潮職人でしょ?」
明日羽が駄目出しした。
「おお、これはウッカリでした! 今度は立派なモノを作ってきますね!」
これぞ変態同士の以心伝心!
「次は私ですね。ノヴェラ先生、お誕生日おめでとうございます! 先生には特に恋人がいつもお世話になって、ありがとうございます。これをどうぞ。先生の誕生花です」
聡一が渡したのはピンク色の花束だ。
「これはダマスクローズだね」
ノヴェラは素直に微笑んだ。
「おっと油断は禁物ですね。まだ巨大食材が控えてる可能性があります。念には念を入れて生命探知を使っておきましょう」
そう言うと、雅人は周囲の生命反応を探った。
だが周りは生徒や小動物の反応でいっぱいだ。意味ねえ!
そこへ颯爽と駆けつけたのは、鳳静矢(
ja3856)
いつものラッコ着ぐるみに、真っ白なコック服だ。彼も誕生会に呼ばれていたのである。
『海のシェフ・ラッコックただいま参上! 待たせたな!』
と書かれたホワイトボードを見せる静矢。
手には大量の鮭と調理道具を抱えている。鮭は勿論アラスカ産だ。
「いいサーモンだね」と、ノヴェラ。
『当然! 獲ってすぐ氷漬けにしたのを輸送したから、新鮮そのものだ!』
「でもラッコって料理できるの?」
『もちろん! ラッコック印の包丁で捌けぬものはない!』
無駄スタイリッシュに包丁をかまえる静矢。
そして、鮭と蟹を使っての料理が始まった。
『まずは定番! 蟹鍋&石狩鍋!』
ぐつぐつ煮える鍋が出てきて、ノヴェラたちの味覚を満喫させた。
肥大化の可能性があるため躊躇していた恋音も、つい手を出してしまうおいしさ。大丈夫、薬の効果は熱で分解されている。
『続いて、焼き蟹と鮭の身を砕いてまぶしたアラスカ炒飯!』
『さらに、鮭の切り身を蟹味噌スープで煮込んだアラスカスープ!』
『とどめに、なぜか七色に輝くアラスカ鍋!』
どれもアラスカ要素ゼロだが、普通においしい。
恋音の蟹グラタンも出てきて、皆の舌をうならせる。
あまりのおいしさに、眼鏡をカッと輝かせて立ち上がる聡一。
「おおおおっ! 僕の胃袋が、全身の細胞が! スタンディングオベーションで! 蟹を、鮭を、迎え入れる! うおおおお! うぅぅまぁぁいぃぃぞぉぉーー!」
どぐしゃああッ!
「アバーーッ!?」
聡一の背後から2匹目の巨大蟹が出てきて、彼を轢き殺した。
幸せの頂点での事故である、きっと本望だろう。
「やはり二杯目が出ましたね!」
雅人は油断してなかった。
『キュゥ!』
静矢も四川風アラスカパフェを食べて身構える。
「おぉ……食材の心配は、無用だったようですねぇ……」
用意していた薬をそっとしまう恋音。
いざ第2ラウンド開始!
エネルギー充填120%! 蟹光線発射!
チュドォォォン!
「「アバーーッ!?」」
油断とか関係なく雅人たちは死んだ。
ああノヴェラの知人だったというだけで、こんな仕打ちを受けるなんて!(笑
ぼきっ!
轟音に驚いて、深森木葉(
jb1711)はクレヨンを折ってしまった。
ここは美術室の隣の部屋。美術の授業中に居眠りしてしまった彼女は、罰としてデッサンの居残りをさせられていたのだ。
「ああぁ〜! お気に入りのクレヨンがぁ! もうプンプンですよぉ〜。抗議に行くのですぅ!」
頬をふくらませながら、木葉は美術室のドアを開けた。
「お絵かき中なのですぅ! すこし静かに……って、え!?」
思考停止した木葉に、蟹のミドルキックが炸裂した。
「蟹のくせにですぅ〜!?」
ぽよん♪
木葉の着地点には百合華の胸が!
「やわらかあったかですぅ〜」
心地良い感触に、木葉の意識は薄れていった。
「じゃあ私が治してあげるね?」
妖しく微笑む明日羽。
彼女のヒールは患部を舐めることで発動するのだ! 木葉南無!
そのころ。ユリア・スズノミヤ(
ja9826)は廊下で足を止めた。
「この気配……この匂い……まちがいない! これは……THE カ ニ !」
犬みたいに鼻をくんくんさせて、ユリアは猛然と走りだした。
ブラックホール胃袋の名にかけて!
カニを成仏させるため!
カニを喰らうため!
カニをおいしく頂くため!
「カニすき、カニかま、カニ玉……カーニカニカニカニー☆」
スパーンと美術室の扉を開ければ、そこには殺人ズワイガニ(改)の姿が!
「なんて大きなハサミ! あれを味噌汁にしたら……(じゅるり」
もぎとろうと迷わず走り寄るユリア。
そこへカニ鋏が一閃!
ザシュウウッ!
「うみゃーー!?」
ユリア死亡確認!
なにも考えず突撃するから……。
「はっ、これはカニ……おいしいカニの気配!(じゅるり」
ユリアと同じころ、蓮城真緋呂(
jb6120)も廊下で立ち止まっていた。
さすが四次元胃袋仲間。反応がそっくりだ。同背後か。
が、ここからの戦いぶりは大きく異なる。
「ドーモ、蟹サン。蓮城です。食べ物の気配を察知して参上しました!」
美術室に駆け込むや、『不動』と『シールドリポスト』で蟹を吹き飛ばす真緋呂。
だが『改』付きの殺人蟹は容易には倒せない。巨大な鋏が盾ごと真緋呂を撥ね飛ばす。
「イキがいいわね。でも食料にやられるわけにはいかない……ごはんがかかった私は無敵!」
真顔で無敵宣言し、なぜか反復横跳びしながら突撃する真緋呂。
だが孤軍奮戦するも状況は厳しい。主催者たちは普通に蟹鍋してるし。
「蟹パと聞いて、あたい参上! 本当にでかいカニね! 今すぐ開きにしてあげるわ!」
たよれる脳筋・雪室チルル(
ja0220)が駆けつけた。
武器はいつもの大剣だ。
「蟹は硬いから物理が効かない? それがなに!? どんな敵でも物理で殺す! 絶対に殺す!」
関節を狙って、「えいっ!」と突き刺すチルル。
だが相手もジッとしてるわけじゃない。まず動きを止めないと狙った所に当たらない。
「かたっ! 硬いわね! でも偉い人は言ったわ、レベルを上げて物理で殴れと! あたいはそれを信じる!」
こりずに斬りかかるチルルだが、鋏で襟首を挟まれて窓の外にポイされてしまうのだった。ちなみにここは3階である。
「雪室さんがやられるとは、なかなかの強敵ですね。まぁ試してみましょうか」
雫(
ja1894)は焼肉部のセセリとともにやってきた。
蟹食べ放題と丸めこんで、盾にするためにつれてきたのだ。
「ちょっと! アレ倒せるの!?」
「ええ。あなたが囮になってる間に私が仕留めます」
「やだよ! あのハサミやばい!」
「安心してください。胴体が千切れたら、ごはんつぶでくっつけますから」
「くっつかないから!」
「あなたも日本人なら、お米の力を信じてください」
などと不毛な会話をしてる間に、ふたりとも鋏でポイ♪
「ぅるっせーな! ナニ騒いでやがるっ! おかげでラーメンひっくり返しちまったじゃねぇか!」
佐藤としお(
ja2489)がドンブリ片手に乗りこんできた。
調理場でラーメンを作っていたところ、蟹光線の衝撃波でこぼしてしまったのだ。
「ったく、どうしてくれんだ……って、蟹!? うまそうだな! よし頑張れ!」
他人事みたいに言うと、としおは観客席に移動した。戦う気はない!
そのまま鍋をつついて「がんばれー、やっちまえー」などと棒読みで応援してるが、戦ってるの真緋呂だけ!
「先生の御誕生日と聞いたので、部の代表でお祝いの花束を持ってきたのですが……なんですか、この騒ぎ」
美術室の状況を見て、礼野智美(
ja3600)は一瞬あっけにとられた。
部屋の中央では、巨大蟹と真緋呂の一騎打ち。
部屋の片隅では、観戦しながら鍋を食べる人たち。
そして、ラッコや魔王が消し炭みたいになって転がっている。
「状況が飲み込めませんが……とりあえず、先生の作品が壊されるのはまずいですよね?」
冷静に判断すると、智美は花束をノヴェラに手渡し闘気解放で蟹に駆け寄った。
そして蟹の背後から『徹し』一撃!
硬い敵には効果的な選択だ! 真面目か!
「まずは脚を狙って動きを鈍らせよう。攻撃は徹底回避だ。行動不能になったら、あとが怖い……っ」
「そのとおりね」
真緋呂が同意した。
明日羽に全身ペロペロされてる木葉を見たら、とてもじゃないが負けられない。
「蟹さんですっ!」
騒ぎを聞いて、ザジテン・カロナール(
jc0759)が飛び込んできた。
スレイプニルの『ストーニル』に乗っての登場だ。
後ろにはグレン(
jc2277)も騎乗している。
本当は『クライム』がないと乗れないけど、ザジテンにしがみつけば大丈夫!
「でっかい蟹って聞いて飛んで来ちゃった! 人間さんの技術力って凄いんだねー!」
グレンは赤いマフラーをなびかせて大鎌を振りかざし、ストーニルが爪を研いで音波攻撃を放った。物理より遥かに効果的だ。
蟹が泡を吹いて暴れだす。
「おとなしくするです、蟹しゃぶ!(じゅるり♪」
ザジテンが口元をぬぐった。
じつは別の依頼を済ませて帰還したばかりで、寝不足ハイテンションモードなのだ。
「これだけ大きい蟹なら食べごたえあるよね! 僕も手伝う! あーしにく! あーしにく!」
嬉々として脚肉コールを始めるグレン。
えらく楽しそうだけど戦力になってないぞ!
「カニ〜カニですぅ〜♪ アミィは蟹大好きです〜。ジャンジャン食うですよ〜! ぶっころですよ〜♪」
おいしそうな匂いを嗅ぎつけて、アルフィミア(
jc2349)が闇の翼で窓から飛び込んできた。
ひんぬー幼女のアルフィミアだが、食欲と好奇心は人一倍。こんな蟹パは見逃せない。
「アミィ、気をつけて、ください!」
アルティミシア(
jc1611)が、同じく闇の翼を羽ばたかせて追いかけてきた。
彼女の仕事は妹の歯止め役。だが普通に攻撃してる分には問題ない。姉妹そろって蟹の頭上を飛びながら、意気揚々と遠距離攻撃乱射。
だが敵は硬いぞ!
「海の幸と、薄い本のネタがあると聞いて来たのな!」
ペルル・ロゼ・グラス(
jc0873)が、ネタ帳を手に現れた。
目の前には、巨大蟹と戦う撃退士たちの姿。
「なんだ触手じゃないなのな〜。すこしガッカリのな〜。でも、この構図でも大丈夫、問題ないのな。次の新刊制作に向けてスケッチなのな!」
戦うことも忘れて(というか最初から考えもせず)目に映る情景を描きだすペルル。
彼女の視点だと、ザジテンとグレンはBLだし、アルティミシアたち姉妹はGLだ。
「これは良い絵なのな〜♪。 腐に心を捧げたあたしは、同性同士がキャッキャウフフしてるのが何より好物なの〜♪ これが禁欲的乙女力なのな〜♪」
ハァハァしながら観察するペルル。
治療不可の変態である。
「な……なに、あれ。近付きたくない」
駆けつけた藍那湊(
jc0170)は、状況を見て一歩たじろいだ。
蟹が暴れてるのは良いとして(良くないが)なぜか(ペルルの乙女力で)美術室全体がBL&GLのオーラに包まれてるのだ。ただごとではない。
「シャチ(に乗った恋人)に殺られかけたことがあるから海産物にはいい思い出がないし……どーせい愛も良くないと思うけど……このままじゃ美術室が壊れちゃう!」
撃退士はたぶん大丈夫! と呟きつつ湊は戦場に飛び込んだ。
相手が何だろうと、当たらなければどうということはない! 敵がこっち来たら瞬間移動で逃げればいいんだ!
などと弱気なことを考えながらも、ガンガン遠隔攻撃を撃ち込む湊。しかも甲羅の隙間や関節を的確に狙っている。
「僕は支援するから、皆さん頑張って〜」
「ふむ……若い連中は元気だな」
不知火藤忠(
jc2194)は、ごく自然に蟹鍋組に入ろうとしていた。
「藤忠君ひさしぶり。ここおいでよ」
隣へ座れと手招きするノヴェラ。
「では呼ばれるとしよう。なにやら蟹と戦ってる若者たちがいるが……まぁ揉め事は任せておけば良いか」
隠居老人みたいな口調で、酒宴に混じる藤忠(22)
だが実際は依頼を終えた帰りだ。
「ふぅ……染みるな」
蟹鍋をつまみつつ、藤忠は杯を口に運んだ。
大の酒好きの彼だが、依頼中は飲まないことにしている。おかげで依頼を終えたあとは酒がほしくなるのだ。
「ああ、血液が酒を欲している……今日はもう働きたくない……」
「なにこれ……昔水族館で見たタカアシガニが小さく思えるよ……」
殺人蟹を前に、ポカーンとする浪風悠人(
ja3452)
だが、ハッと我に返って戦闘モードに入る。
皆が攻撃する合間を突いて、蟹の下に潜りこむように突撃。そしてアート爆発!
バランスを崩して倒れた蟹の四方から、BLカプやGLカプのラブラブ十字砲火が浴びせられる。
そこへ孤独な追撃をぶちこむ悠人と真緋呂。
さすがの蟹も、これだけ集中攻撃されたら堪らない。もはやボロボロだ。
「みんな少し手加減しろ。そんな派手に攻撃したら、食えるところが減るじゃないか」
龍崎海(
ja0565)がやってきて、本気で蟹をヒールした。
おまけにアウルの鎧まで追加。ただでさえ硬い敵が、より硬くなる。なにしろカニ食べ放題と聞いて参加したのだ。むやみに可食部を減らす行為は許せない。
「もしかすると……切り取った身の部分にヒールをかけたら、その箇所が回復して結果的に蟹肉の量が増えたりしないか?」
おお、この発想はなかった!
実際、海の考えたとおり蟹の身が回復して食べられる量が増えている。
そんな戦いを眺めながら、華宵(
jc2265)は考えていた。
「あんな大きな蟹、お鍋に入れるの難しくないかしら」と。
そこで彼は思いついた。
蟹が鍋に入らないなら、鍋を蟹にぶっかければ良いのではと。
「天魔じゃないなら加熱調理できるでしょ。料理の手間も省けるし名案よね。さっそく実行よ。Yes! I can fly!」
ぐつぐつ煮えた土鍋をつかんで、微笑しながら舞い上がる華宵。
蟹の周囲には撃退士たちがいるのだが、おかまいなしに頭上から鍋の中身どばー!
「「あちちちち!」」
あまりの不意討ちに、だれもが転げまわった。
「あら、熱かった? ごめんなさいね」
良い笑顔で二杯目の土鍋を取りに行く華宵。
本人はいたって真面目だ。
ともあれ、色々あったが巨大蟹は皆の力で撃退された。
所詮でかいだけの蟹。撃退士がよってたかって殴ったら、ひとたまりもない。
だが、そんな様子を黒百合(
ja0422)は不満げに見つめていた。
「蟹だけじゃ物足りないわねェ……というわけでェ……食材追加よォ♪」
黒百合がパキッと指を鳴らしたとたん、窓をブチ破って巨大生物が乱入してきた。
なんとそれは──品種改良で陸上行動可能になった、牡蠣と鮑! そしてトラフグ! 戦闘力は黒百合10人分に匹敵するぞ!
そんなの誰も勝てねぇよと思うだろうが、相手は攻撃手段のない貝類。フグもピチピチするばかりで、まったく無害! 食べなければ何も問題ない!
あっというまに捌かれてしまう海産物たち。
「あらァ……食材選びをまちがえたかしらァ……? じゃあ、これはどうォ?」
今度は巨大な伊勢海老が飛び込んできた。
そして発射される『みずのはどう』!
どばしゃーーん!
「「ぐわーっ!?」」
謎の攻撃で吹っ飛ばされる撃退士たち。
なんだ、この水タイプボケモンみたいな攻撃。
「ここは、ボクにまかせて、ください。物質透過で攻撃、です」
無言で遠距離攻撃を続けていたアルティミシアが、前に出た。
「僕も行きます! 物質透過発動! 海老しゃぶ追加ですっ!」
ザジテンが並んで突撃した。
相手はただのでかい海老。透過で余裕だ。
が──
どばしゃーーん!
「「あばーっ!?」」
なぜか透過を無効化されてしまう二人。
これまた巨大海老の特殊能力!
と思いきや、龍崎海が間違って阻霊符を使ってただけだった。
「すまん。ついいつものクセで」
気がつけば、残った戦闘要員は真緋呂だけ。
ほかの連中はちりぢりに吹っ飛ばされたり、諦めて蟹鍋組に合流したり。
海老を持ってきた黒百合本人は、新しい鍋を用意して「エビはまだかしらァ♪」などと挑発している。
「騒ぎは聞いた。蟹を焼くのは僕にまかせ……って、なぜ海老!?」
現場到着した陽波透次(
ja0280)は、聞いてた話と違う状況に驚愕した。
だが彼も初心者ではない。予想外のハプニングなど日常だ。
「まぁいい。僕のやることは変わらない。まずは焼肉だ!」
透次は携帯七輪を床に置くと、敵の目の前でソロ焼肉を始めた。
不可解な行動だが、焼肉力で士気を高めるのが彼の作戦だ。
「そ、そんな凄い作戦が……!」
戦闘を忘れて見とれる真緋呂。
「こうして焼肉を食べれば……行くぞ、固有結界焼肉フィールド展開!」
その瞬間、透次を中心とした焼肉時空が形成された。
響きわたるのは、神々しい焼肉讃歌ヒプノララバイ!
その歌は焼肉時空を支配して、物理法則もエビの生態機能もねじまげる。
おお、見よ! 焼肉の力で宇宙の法則が乱れる!
しかもこれだけやって、結果は敵を眠らせただけ! なんと平和主義な攻撃か!
「あとはまかせて! ここまで食事をおあずけされた私の食欲を受け止めてみなさい! くらえ、我が一撃(食欲)は無敵なり!」
ドグシャアアアッ!
伊勢エビをやっつけた!
真緋呂の食欲力が9あがった!
透次の焼肉力が5あがった!
というわけで敵は全滅。
ようやく落ち着いて宴会できるようになった。
「仕事は終わったな。俺は早々に帰る。部員たち用に脚を一本もらっていくぞ」
智美は鍋に参加せず、蟹の脚をもぎとった。
「待って。ケガしてるじゃないか、礼野君」と、ノヴェラ。
「これぐらい平気です。うちの部にはアスヴァン5人いますし」
「そう? ああ花束ありがとうね」
「いえ。ではこれで失礼します」
智美は明日羽のほうを見て(あの人に回復してもらうのは絶対にイヤ!)と内心呟きながら美術室を出て行った。
「ほかのメンツ見ても色々怖いし……」
それは実に賢明な判断だった。
「ふうっ、何気に手強かったですね」
一仕事終えた顔で、としおが吐息をついた。
彼は鍋を食べながら「がんばれ〜」とか言ってただけなのだが。
「さて、せっかく新鮮な食材があることだ。蟹味噌ラーメンでも作ろう」
当然のようにラーメンを作るとしお。
魚介スープ仕立ての一杯に、蟹の身と味噌をあえたジュレをトッピングしたものだ。食べ進むうちに味が変化するという工夫の一品である。
「やっと食事にありつけるわね。鍋はあるから、とりあえず私は……焼こう」
キリッと言い放つや、真緋呂は海産物に向けて炎焼をブチこんだ。
「もし部屋に燃え移ったらごめんね☆」
てへぺろしながら微笑む真緋呂。
大丈夫。この炎は燃え移らないから! 決して燃え移らないから!(震え声
「さてカニぱーちぃ……じゃなくて、ノヴェラ先生おめでとうぱーちぃの時間です」
死亡確認されたはずのユリアが、両手をワキワキさせて戻ってきた。
「カニといったら……天ぷら、リゾット、味噌汁。どれもおいしいけど……黄金は焼き蟹だよねん☆ 甘さが際立つし♪」
おしゃべりしながら、カニを焼いては食い。エビを焼いては食い。カキを焼いては食い。
そして、ふと思いついたようにノヴェラへ駆け寄る。
「そうそう、先生お目出鯛鯛☆ ということで、鯛の酒蒸しと日本酒ふぉーゆー」
「グラッツィエ。これはお礼ね♪」
ごく自然にユリアの唇へキスするノヴェラ。
「みゅっ!?」
「挨拶にキスなんて〜、素晴らしいですぅ♪ ママとおんなじなのですぅ! アミィもするですぅ〜。せんせ〜、はじめまして〜♪」
アルフィミアが突撃した。
「アミィ、ストップです。むやみに、キスしては、いけません」
アルティミシアの手から西部劇みたいなロープが飛んで、妹を捕獲した。
「う゛ぎゅ! なにするですか、お姉ちゃん〜。初めましてのちゅ〜は〜ダメなのですか〜? ママはーしてましたよ〜?」
「ダメです、この国では、非常識です」
「でも、せんせ〜はしてましたよ〜?」
「あの先生は、すこし特殊な人、なんです」
「そうなのですぅ? だったら、お姉ちゃんとキスするです〜♪」
「きゃあ! アミィ、むやみにキスしないで、ください。姉妹だから、まだ、良いですが」
あわてて逃げだすアルティミシア。
アルフィミアが「待ってください〜」と言いながら追いかける。
「え、今日はノヴェラ先生のお誕生日だったの?」
湊は今ごろ気付いて驚いた。
蟹騒ぎで駆けつけた者が多いため、誕生日と知らなかった人のほうが多数派である。
「ええと……じゃあこれをどうぞ」
湊はカニの身をほぐしてフワッと広げると、たまたま持っていた花と一緒に束にした。
「おめでとうございます。カニしゃぶにどうぞ」
「ありがと、藍那君」
ノヴェラは湊の頭を撫でた。
誰彼かまわずキスするわけではない。
「はじめまして小筆先生! 僕はグレンっていうよ! お誕生日おめでとう!」
続いてグレンが挨拶にやってきた。
「ありがとう。よろしくね♪」
「うーん……なんだか落ち着かないや、ノヴェラ姉ちゃんって呼んでもいい?」
「もちろん」
「やった! よろしくねノヴェラ姉ちゃん。プレゼントは用意できなかったけど、かわりにパサランをもふもふさせてあげる!」
グレンの隣に、ぽふんと毛玉が出てきた。
ノヴェラはパサランをモフモフしつつ、グレンの頭をナデナデ。
「次は僕の番です! 誕生日おめでとうです、先生!」
グレンの後ろからザジテンが顔を出した。
手には鍋を持っている。
「なにか食べさせてくれるの?」
「はいです。蟹しゃぶなのです」
「じゃあ食べさせてもらうね。あーん」
「熱いからフーしてあげますね。ふー♪」
バカップルみたいなことをする二人。
ノヴェラはもちろん、ザジテンもグレンも楽しそうだ。
「誕生日おめでとうございます。一杯いかがですか?」
悠人が持ってきたのは、蟹の甲羅だった。
甲羅焼きに使ったものなので、蟹味噌の香ばしい匂いがする。注がれているのは大吟醸酒だ。
「甲羅酒だね。これはいい♪」
「うむ、これは酒が進むな」
藤忠は甲羅酒を肴に酒を飲んでいた。
炒飯をオカズに米を食うようなものか。
あるいは珍しく酔ってるのかもしれない。
依頼帰りの疲労もあって、少々酔いが回っているようだ。
「あ、ノヴェラちゃん誕生日おめでとう」
彼女の頭上から、熱々の蟹しゃぶが落ちてきた。
「熱っ! あっつ!」
奇襲を受けて慌てるノヴェラ。
見ると、華宵が壁に腰かけて鍋を食べている。
「何故そんな所で?」
「だって、落ち着いて食べたいもの。大食漢多そうだし、自分の分は確保しなきゃ」
華宵が言ってるのは、おもに真緋呂とユリアのことだった。
「まぁたしかに」
ノヴェラも同意せざるを得ない。
「ノヴェりんせんせー誕生日なの? 仕方ないにゃあ、ノヴェりんモデルのイケナイ絵を描いてあげるのな〜」
ペルルがスケッチブック片手に近付いてきた。
「どんな絵を描いてくれるの?」
「もちろん女の子とイケナイことをしてる絵なのな!」
「じゃあモデルが必要だね。由利君おいで」
「ほかにも女の子いますよぉ……?」
「教師が生徒に手を出すのは、ちょっとね」
「私も生徒ですけどぉ……!?」
などと言ってる間に押し倒されてしまう百合華。
その様子を、ペルルは一心不乱にスケッチするのだった。
そんな光景を横目に、透次はソロ焼き蟹を満喫していた。
焼肉部で鍛えた芸術的焼きテクで先生にごちそう……と考えてたのだが、とても声をかけられる状況じゃない。
というかナニをおっぱじめてるんですかという。
それでも周囲の生徒たちは平然と料理を食べてるあたり、さすが久遠ヶ原。
「僕はまだ修行が足りない……焼肉で己を鍛えなければ……」
透次の焼肉道は長く険しい。
「ズワイですか。どちらかといえば毛ガニのほうが好みなのですが……ていうか、蟹の旬は冬だった気が」
雫は無傷で戻ってきて鍋を作り始めた。
脚の殻を焼いてダシをとり、白飯、玉子、ネギを投入。
隠し味として蟹味噌を入れるため、乱れ雪月花で蟹の胴体をブッた斬って味噌を掻き出す。
鍋に蟹肉を並べて生姜汁を絞れば、特製蟹雑炊のできあがり。
「今日はセセリさんも頑張ったので、おなかいっぱい食べて良いですよ」
「うう……足の骨が折れてるよぉ……救急車呼んで……」
校舎の3階から投げ捨てられた二人だが、動けないセセリを雫が引きずってきたのだ。
「蟹を食べてカルシウム補給すれば、骨折なんて治ります。さぁどうぞ」
「死んじゃうぅ……」
「こんにちは。初めまして先生! 保安官の、キアラ・アリギエーリ(
jc1131)です!」
ぴょんこぴょんこ跳ねながら、西部劇の保安官みたいな子が現れた。
みごとなコスプレっぷりに、ノヴェラも感心だ。
「ところで先生。ここで不審な蟹の取り引きがあると通報が入りました! 家宅捜索させていただきます!」
じゅるりとか言いながら、返事も聞かず美術室へ押し入るキアラ。
本当に通報があったのか定かでないが、目的は明らかだ。カニを食べるためである。
「こ、これは……海産物の惨殺死体が山ほど……なんてむごい!」
口元をスカーフで押さえながら、キアラは殺害現場を見まわした。
「この蟹味噌は、まさか臓器売買の闇ルートに……なんておいしい!」
なんか普通に蟹味噌を食べてるキアラ。
「かわいい上に面白いね、キミ」
ノヴェラが微笑んだ。
「……はっ、あたしは何を……!?」
ふと木葉は目を覚ました。
見ると服ははだけて全身キスマークだらけだが、なにをされたか記憶がない。
「ま、まぁ……きっとヘンなことはされてないのです!」
いそいそと襟を合わせる木葉。
「そんなことより、いま小筆ちゃん先生のお誕生日とか聞こえたのです。なにかプレゼントするのですぅ〜」
でも手元に何もないので、木葉は折り紙で花を作ってみた。
ちなみに凄くヘタ。
「お誕生日、おめでと〜ございますぅ〜」
「おはよう深森君。プレゼントは寝てる間にもらったよ♪」
「え……?」
「佐渡乃君にシェアしてもらってね」
「シェア!?」
一体ナニが木葉の身に!
「蟹鍋よ、あたいは帰ってきたわ!」
蟹に敗れたチルルが戻ってきた。
でも大体の食材は調理済みなので、あとは食べるしかない。
「あたいの料理の腕を見せるはずだったのに! でもおいしいわね、この料理」
そこで、よせばいいのに「明日羽に食べさせてあげよう」などと閃いてしまうチルル。彼女にちょっかい出すとロクなことにならないのは身をもって知ってるはずだが、忘れっぽいのとよくわからないのとで懲りてないらしい。
「ほら明日羽、おいしいカニクリームスパゲッティよ!」
「ん? 食べさせてくれるの?」
「そうよ。なんなら『あーん』ぐらいしてあげてもいいわ」
「じゃあ、そこで横になってね?」
「はぇ……?」
「女体盛りで『あーん』って言うんでしょ?」
「しないわよ! しなぐぇ!?」
鎖が飛んできて、チルルを簀巻きにした。
その後のコトは想像にまかせます!
チルルちゃん、なんで明日羽に近付いてしまうん……?
「よーし、ここらで俺様手作りバースデーケーキの登場だぜー」
ラファル A ユーティライネン(
jb4620)が、高さ2mぐらいのケーキを運んできた。
こういうイベントで彼女が最後に登場するとき。それは爆破オチを意味している。
ケーキの中身は無数に練り込まれた三尺玉。歳の数の蝋燭に見えるのは信管だ。
「ノヴェラちゃんって言えば爆発。ここは盛大に爆破して祝ってやらねーとな」
堂々と爆破宣言するラファル。
でもノヴェラ本人が拍手してるので問題ない。
しかも今回のラファルは本気だった。蟹のことなど完全スルー。ケーキだけでなく美術室の床下から天井裏までビッシリと火薬を仕掛け、酒と称してガソリンも並べてある。完璧な爆破計画だ。が──
爆破宣言が出たとたん、まだ宴会を終わらせたくない参加者たちからラファルめがけて一斉に攻撃が飛んできた。
「アバーッ!?」
当然のように吹き飛ぶラファル。
その意識が途切れた瞬間。仕掛けられていた火薬が連動して起爆!
ち ゅ ど お お お お ん !
キノコ雲が上がり、美術室は消え失せた。
しかし! その爆心地で黙々と蟹鍋を続ける蓮城真緋呂!
ついに爆破オチをも克服してしまった彼女の食欲は、もはや無敵!
あと女子の負傷者は全員明日羽が舐めて治しました。以上!