逢見仙也(
jc1616)はスレイプニルに騎乗してラウンジにやってきた。
ちょうど卍のグラサンにギター弦が突き刺さった場面だ。
そして乱闘が始まり、罵声や魔法スキルが飛び交う。
「なんだこれは……好きな武器の話で乱闘? やれやれ、くだらないな。銃はレンジが長い、楽器は日常依頼でも使える、ワイヤーは使いやすいと、それぞれ売りがあるのに」
とくに好みの武器がない仙也にとって、この乱闘は理解不能だった。
「まぁともかく負傷者の治療だな」
仙也はスレイプニルに乗ったまま、ヒールや治癒膏で怪我人の手当てを始めた。
だが当然、一人で対処できる人数ではない。
生徒たちの無軌道ぶりに、さすがの仙也も少々イラついてきて……ついに禁断の鈍器(ヒリュウ)を呼び出してしまった。
「みなさん、どの武器が最強とか寝言を言ってますが……少なくともかわいさなら、この鈍器が最強でしょう。見てください、この威力」
仙也はヒリュウの尻尾をつかむと、亜矢めがけて放り投げた。
ばこーーーん!
「なにすんの! 召喚獣は鈍器じゃないのよ!」
まともなツッコミを入れる亜矢。
「なにを言うんですか、ヒリュウは鈍器。これは過去に証明された事実です。まぁダメージが帰ってきて少々痛いですけど。……それはいいんですけどね」
仙也は無造作に亜矢のほうへ歩いて行った。
そして微笑みながら言う。
「さきほど聞こえましたが……何が世界最強ですって?」
いきなりファイアワークスをぶちこむ仙也。
個人的に優秀な刀が手に入らないため、少し(?)ムカついているのだ。
「それと、何が完璧ですって?」
唯一手に入った刀が包丁になった恨みで、八つ当たり攻撃をぶちかます仙也。
「何があったら他の武器いらない(意訳)って? ……く・た・ば・れ」
黒鎖を振りまわしながら、仙也は亜矢を起点に無差別爆撃(コメット)を撃ち込んだ。
「上等だコメディ補正なめんな、重体になろうが死にかけようが焼却処理してくれる」
「上等よ。コメディでアタシに勝てると思ってんの?」
亜矢の影手裏剣が辺り構わず放たれる。
乱闘は激化する一方だ。
シエル・ウェスト(
jb6351)は、山盛りチーズのチーズドッグをかじりながらラウンジへやってきた。
そこに飛んできたのは、血まみれの卍。
「うぅわ、ズタボロだ。汚ねえ」
思わずシエルは呟いた。
卍の顔面には、かじりかけのチーズドッグが。
「仕方ありません、介抱してあげましょう」
イヤそうに言うと、シエルはダークフィリアを連打した。
「隠密効果で影が薄くなれ……薄くなれ……」と念じつつ。
そして最後の一発を自らに付与して潜行状態になり、阻霊符片手にいざ乱闘へ突撃!
なるべく目立たないようにしゃがみつつ、フットホイールで滑走する。
手にしているのは双剣オルトロスリッパーだ。
そのまま交戦中の生徒の背後から忍び寄り、闇討ちアタック!
「アバーーッ!?」
名もない生徒は死んだ!
シエルは更に気配をひそめ、次の獲物を狙う。
コメディ担当の彼女にしては珍しく殺る気満々だが、これには理由があった。というのも、オルトロスリッパーは去年のクリスマスの某武器採用卓にて採用され籤に加えられた品。フットホイールは一昨年の某卓で採用された物。つまり手足の装備はシエルの妄想が具現化したものなのだ!
「両手に武器で火力は2倍! 採用武器で更に2倍! 採用防具で更に2倍! そしていつもの半分の優しさで更に倍ィィ!!」
などと意味不明な主張をしながら、次々と獲物を仕留めてゆくシエル。
主張は無茶苦茶だが、気持ちの問題だ。
「最良の武器は双剣! 双銃! とにかく『双』と付く武器こそ一番! いや、ほらGUN型で暴れたりスタミナ常時消費で乱舞……あ、ゲームが違うかそうですか( 」
とにかく『手数の多さイコール強いの理論』で、無双するシエル。
今日は絶好調だ! ただし黒百合だけは勘弁な!
「たまにはとラウンジに来てみたら、この騒ぎか……やはり帰りに寄り道してはいけないな」
なにか悟ったような顔で、ジョン・ドゥ(
jb9083)は目の前の光景を見つめていた。
実際ひどい状況だ。というか、事態の経緯がジョンにはわからない。
「何なんだ、この騒動は。だれか説明してくれ」
「見てのとおり武器自慢大会だ! おまえも武器について語れ!」
モブAが答えた。
「見てのとおり……? まぁいいか、武器自慢ねぇ……そうだな、自慢ってほどじゃないけど……大事なものなら『夕星』かな。義弟からもらったんだけど。名のある敵を素手でとっ捕まえてジャーマン決められるのは格闘装備だけだぜ! たぶん!」
タイヤ状のバングルが、紅蓮のアウルを噴き上げた。
「良い武器だ! それで語りあおうぜ!」
「いや物理でOHANASHIは勘弁な。突けば倒れる(期間限定)と言う名の重体は嫌だからな! ほかの武器はといえば……この札かなぁ。恋人からもらった大切な物だし」
ジョンが紫色の呪符を出して見せた。
「貴様リア充か! 爆発しろ!」
「いや、爆発するのはおまえのほうだよ」
恋人持ちの余裕でニッコリ微笑むと、ジョンは亜空砲を発動させた。
チュドドドド……!
「「アバーーッ!」」
巻き込まれた非リアたちが、次々と吹っ飛ぶ。
恋人もいない上に、この仕打ち! 無惨!
「……え、この時点でOHANASHI? いやいやこれは所謂ツッコミ的なアレだよ嫌だなぁ」
しれっとした顔で言うジョン。
目の前には、モテない男どもの屍の山が!
「そういえば武器って話題で思うが……いわゆる玩具、たとえばケンダマとかで戦う人ってあんまり見ないな。どうやって戦うんだろう。いたら見てみたいもんだ」
どうでもいいことを呟きながら、自販機で買った缶ジュース片手にソファでくつろぐジョンであった。
「話は聞こえたわァ。最強の武器自慢ねェ……やっぱりこれかしらァ♪」
黒百合(
ja0422)が取り出したのは、スナイパーライフルSR45だった。
「あんたはロンゴミニアトLV20持ってんでしょ!」
乱闘しつつも、的確な指摘をする亜矢。
「まァたしかにィ……私の所持品だとロンゴが自慢だけどォ、攻撃力や生命力が大きく上昇するかわりに装備変更次第で生命力が変動しちゃうのが欠点なのよねェ。……というわけでェ、やっぱり一番は狙撃銃だわァ。どんな敵も安全安心に処理できるしィ♪ 実際やってみせるわねェ♪」
言うや否や、黒百合は自慢の移動力で乱闘現場から距離をとり、SR45をかまえた。
そして射程距離と移動力を生かしながらの遠距離狙撃開始!
しかも負傷中の相手を狙ったり、敵のジョブにあわせてスターショットとダークショットを使い分ける徹底ぶりだ。これはもう乱闘ではなく一方的な狩りである。
「ちょっとアンタら! あの化け物どうにかしなさいよ! あたしはゴメンだから!」
イヤな仕事は他人まかせにする亜矢。
もちろん黒百合と一対一で戦いたがる者などいないが、何人かが犠牲になれば勝てるだろう。というか放置しておくと黒百合1人に50人ぐらい殺られそうである。
「よし俺が先陣を切る! ゆくぞおまえら!」
「「おう!」」
無駄に張り切るモブ軍団。
だが──
黒百合のほうへ走りだしたとたん、彼らは一斉に吹き飛んだ。
なんと前もって地雷などのトラップを仕掛けてあったのだ。
しかも少しでも近付かれれば『幻惑蟲』で潜行しつつ撤退し、再び遠距離狙撃を始める黒百合。鬼畜すぎる。
これはひどい。戦闘依頼じゃないんだぞ。
というか武器の自慢じゃなくて黒百合自身の自慢だコレ!
「うぅん……なにか段々と、騒ぎが大きくなってきましたねぇ……」
他人事みたいに言うのは、月乃宮恋音(
jb1221)
友人たちと会話しながら、袋井雅人(
jb1469)を待っているところだ。
「恋音は何が最強の武器だと思う?」
明日羽が問いかけた。
「そうですねぇ……やはり『お金』でしょうかぁ……。なにしろ武器開発には資金が必要で、量産にも資金がかかりますし……。量産済みの武器を買うにも、資金は必要ですぅ……。それらの武器を扱う技術の習得にも、訓練費用が必要ですし……入手した武具を強化するにも費用が必要ですのでぇ……お金がなければ、これらのことが何ひとつ行えず、武器の強弱を論じる以前の問題ですからねぇ……」
「ふーん?」
「ただし……なぜか『優秀な品を得る(籤&変異)』ことや『強化の保証を得る(保証書)』ことには、お金以上に『お☆様』と呼ばれるものが必要ですし……『経験を積む場所に行く(依頼参加費)』ことと、『お☆様に祈ると資金が入手できる(換金アイテム)』ことなども考えると……お☆様こそが最強かもしれませんねぇ……」
「それ本気で言ってるの?」
「ほ、本気ですよぉ……?」
「違うでしょ? 最強の武器はコレだよね?」
明日羽はポケットから謎の薬瓶を取り出して、恋音の口にねじこんだ。
「んぐ……っ!? な、なにを飲ませたんですかぁ……!?」
「これ? 特製カクテルだよ? さぁ好きなだけ暴れてね?」
明日羽が微笑むのと同時に、恋音の瞳から光が消えていった。
そして……戦闘破壊兵器と化した魔王チチノミヤの殺戮ショーが始まる。
「なんだ、この騒ぎは……」
自販機で飲み物を買おうと思ってラウンジにやってきた礼野智美(
ja3600)は、絶句して足を止めた。
見れば50人あまりの生徒がいて、くだらないことを言い争っている。
中には血まみれで倒れた者までいるし、シャレにならない状況だ。
「ここは関わらないことにして撤退だな……。ほかのメンツも色々ひどいが、月乃宮さんとあの百合女がいる時点でロクな結末にならないのは今まで数々の報告書が証明している。というか既に十分ロクでもない状況だ。こんなところで重体なんて冗談じゃない」
冷静に判断すると、智美は自販機で目的の飲料を買って静かに立ち去った。
喧騒を背に、聞こえてきた論争の内容から無言で自問自答してみる。
(最強の武器か……まぁ俺の場合一番なじんでるのは日本刀だよな。守り刀もあるし奉納の剣舞も御神刀使うし……刀剣女子は妹だけど。なんかゲームやってたり絵描いたり『おじいちゃんはやっぱり右よねー』とか意味不明なこと呟きながらキーボード叩いてたりするし。……でも武器は一長一短だよな、状況次第とか、向き不向きとかあるし。一般的な武器なら銃や弓は遠距離攻撃には最適だけど、急所撃たなければなぁ。刀剣が基本『線』の攻撃なのに対して銃や弓は『点』だから、接近されると剣のほうが有利だし。かといって剣は近接特化で、槍に対応するには3倍の段が必要っていうし……その槍も狭い所に持ち込むのは不利だし、薙刀のほうが振り回すときは有利。ワイヤー系は命中率最強だけど、もうちょっと攻撃力がほしいな。扇は攻防兼ね備えてて、ある程度遠距離攻撃も可能だけど剣以上に間合いが難しい……蜂の群れみたいに小さい敵に囲まれたときは魔法か、全方位攻撃できる楽器が最強……)
ここまで一気に考えると、智美は「……ま、特化も良いけどほどほどに、だな」と呟いて廊下の向こうへ去っていった。
「ん? んん……!?」
智美と前後して、月詠神削(
ja5265)がラウンジに姿を見せた。
否、正確にはラウンジに足を踏み入れようとした瞬間、即座に回れ右して物陰に隠れたのだ。
その状態で、いま自分が向かおうとしていた空間を観察する。
(な……なんだ、あのカオスかつデンジャラスな状況は!? ヤバい、死んでも関わりたくない! いや、だってさ? 黒百合さんいるし、月乃宮さんも何かやらかしそうだし……っていうか既にやらかしてるし……迂闊に加わるのは命知らず過ぎるだろ?)
神削は冷静かつ賢明だった。
黒百合や恋音とガチバトルとか、自殺志願にもほどがある!
(ならば、ここで俺が取るべき選択肢はひとつしかない! 平穏無事にこの場を去る! それだけだ!)
方針を固めると、神削は『ボディペイント』で自らに潜行を付与した。
そして可能なかぎり気配を消しつつ、その場から離脱する。
神削自身も過去に色々やらかしてるので、あまり他人のことは言えないはずだが……。
(うん、聞こえてくる声から、どの武器が強いかとか主張しあってるようだけど……)
慎重に退避しながらも、撃退士のサガなのか彼も『最強の武器』について考えずにいられなかった。
(俺が考えるに最強の武器とは……。1:状況を客観的に見据える観察眼。2:適切な行動を即座に選び取れる判断力。3:それらを裏打ちする撃退士としての経験。……この三つだろう。そして、その三つの武器が俺に囁いている。さわらぬ神に祟りなし。三十六計逃げるにしかず。君子危うきに近寄らず。……うん。つまりは『逃げるが勝ち』だ! 俺は何も見なかった、聞かなかった! ラウンジの皆あとはごゆっくり!)
「おお、これはまた酷いことになってますね」
雅人がやってきたとき、すでにラウンジは地獄の戦場と化していた。
ジョンの亜空砲が炸裂し、仙也の無差別範囲攻撃がブチかまされ、シエルが二刀流で暴れまわり、恋音の攻撃魔法が四方に放たれ、黒百合の狙撃が廊下の端から飛んでくる。あちこちに負傷者が倒れ、窓ガラスは破れてソファや自販機はひっくりかえり、壁も天井も穴だらけだ。
「みなさん落ち着いてください! 暴れるならまずは外に出ませんか? そのほうが思う存分やれると思いますよ!」
これ以上の施設破壊はマズイと考えて、雅人は真面目に提案した。
が、もう手遅れだ。この状況で説得を聞く者などいない。
「いいでしょう……ならば私がこの争いに決着をつけてみせます! いいですか皆さん、だいじなのは魔具の性能ではなく、どんな気持ちをこめて攻撃するかではないでしょうか。強力な魔具を自慢したい気持ちもわかりますが『大好き』とか『大嫌い』とか、自分の正直な気持ちを乗せて攻撃するのが大切だと思います。そこで私の提案する最強の攻撃は……ずばり『おっぱい』ですよ!」
その主張に一部の生徒がザワめいた。
なんせ久遠ヶ原では、肥大化した乳が人間を押しつぶすのはおろか、校舎を崩壊させるのも日常茶飯事。言うまでもなく最強兵器のひとつである。
「私は何度も経験があるので知ってます。天使や悪魔の攻撃でさえ痛みを感じることができたのに、おっぱいによる攻撃は痛みすら感じないまま意識を刈り取られました。これを最強と断じずして、なにを最強と言うのでしょうか!」
その直後、亜矢をはじめとした貧乳女子たちから雨あられのごとく攻撃が飛んできて、雅人は痛みも感じないまま即死した。
こうして雅人の説得は失敗に終わり、ラウンジの全員が戦闘不能に陥るか逃走することになった。
さすがの黒百合も明日羽の支援を受けた恋音には勝てず、戦線離脱。
最後まで生き残った恋音だけが、ラウンジの後片付けを命じられたのであった。