「なにこれ。僕の知ってるプール開きと違う……詐欺だ、こんなのプールじゃない……」陽波透次(
ja0280)
「ワインプールぅ? 物質透過で無問題よねェ♪」黒百合(
ja0422)
「確かにワイン風呂には美容効果があるが、温まらずして効果あるか疑問だな」鴉乃宮歌音(
ja0427)
「普通にプールをたのしむつもりで来てみれば……まぁ俺は救護班にまわろう」龍崎海(
ja0565)
「ワイン風呂と言うより血の池地獄のような光景ですね」雫(
ja1894)
「ああ、浴びるほど酒が飲みたい……。いまの俺に、このイベントは渡りに船……」浪風悠人(
ja3452)
『キュゥ!』鳳静矢(
ja3856)
「……ふう……良い天気」染井桜花(
ja4386)
「おー、真っ赤なプールって凄いのだ♪ たのしそうなのだ♪」焔・楓(
ja7214)
「なんか凄いプール開きにゃ。水着、赤色にして良かったにゃん」ユリア・スズノミヤ(
ja9826)
「おぉ……これは大変イヤな予感がしますよぉ……」月乃宮恋音(
jb1221)
「安心してください! なにがあろうと恋音は私が守ります!」袋井雅人(
jb1469)
「すこし……もったいない……気もしますが……贅沢な……プールです……」秋姫・フローズン(
jb1390)
「毎年2月に海水浴する先生のせいで、6月にプール開きとかピンと来ないなぁ(洗脳済」蓮城真緋呂(
jb6120)
「ふむ……美容に良いとなると、俺の女子力うなぎ登りですね(ぐっ」樒和紗(
jb6970)
「うう……常識的な範囲で楽しみたかった……」神谷春樹(
jb7335)
「は、はぅぅ……! 半裸の男子が、イッパイですぅ!」アルティミシア(
jc1611)
「さすが久遠ヶ原っすね……けど、これも一種の勉強だ、泳げるようになってみせるぞ!」高野信実(
jc2271)
「ふーん、プールのお水がワインだなんて斬新ですねえ」高坂椎菜(
jc2321)
「今日は、おにいちゃんとプール行けるのが嬉しくて楽しみにしてました。なにか水が赤いけど……」桜庭ひなみ(
jb2471)
「いや確かに変なプールだけど、ひなみちゃんの泳ぎの練習にはつきあうよ」獅堂武(
jb0906)
「たとえ火の中、水の中〜、出張『赤猫』開店だよ〜♪」アメリア・カーラシア(
jb1391)
「……これは……ひどい」ユキメ・フローズン(
jb1388)
「てわけで今日の監視員は俺だ。みんな行儀よくしねーとデストロイドモードが火を噴くぜ」ラファル A ユーティライネン(
jb4620)
血の池地獄みたいなプールを見た参加者たちの、第一声だ。
このとき誰も(ラファル以外)予想してなかった。
とてもプール開きとは思えない、地獄の結末を──
「早速だが、もう一度言うぜ。みんな静かにしとかねーと大変なことになるからな? あとはわかるな?」
剣呑なことを言いつつ監視台に陣取るのは、監視員のおねーさんラファル。
全身メカの彼女にとって、水は天敵なのだ。
食べ物を粗末にするのも嫌いなので、今日は最初から機嫌が悪い。
万が一プールに落ちても大丈夫なよう、水陸両用義体ラッガイモードである。ただし見た目が最悪にダサいため、変化の術でピチピチ美少女に見せかけている。爆破魔として名高いラファルだが、乙女らしいところもあるのだ! プール監視員としてガソリンも持ってきたし、美少女ラファルに隙はない!
もちろん引火して大爆発とか考えてませんとも!(力説
ガソリンは安全だしね! いつものTNTよりは!
「はぁ……今日は思いっきり泳いで日頃のストレスを解消しようと思ってたのに……この量のワインの値段でどれほどの焼肉が食べられるだろう……」
赤いプールを見て、透次は呆然と呟いた。
最近の彼は、なにごとも焼肉基準でしか考えられない。
「ビニールプールじゃ、せますぎて泳げないぢゃないか……屋内だから焼肉もできないぢゃないか……人間よ、もうよせ、こんなことは」
「まずは休憩所が必要よねェ♪」
黒百合は私物のデッキチェアとテーブルを出して、邪魔にならない場所に置いた。
そこにスポーツ飲料を並べ、酔っ払いや負傷者の収容所とする。
一見まっとうに見えるが、彼女の狙いは別のところにあった。
じつは大量のエタノールを持ち込んで、プールの循環ポンプに仕込んでいるのだ。
さらに水温を上限に設定し、空調を切ってある。気化したアルコールは屋内に広がる一方だ。
「うん、さすがに安っぽい味だ。酒としてはぬるめだし」
だれもプールに入らないうちに、歌音はワインを一口すくって飲んでみた。
そして泳ぐ必要はないと判断し、水着の上に白衣を羽織る。
黒百合の休憩所と併設して、救護センターを設置。
ブルーシートと毛布を敷き、イスやテーブル、ドリンク類を用意する。ライフセーバー兼衛生兵としての参戦だ。ビニールボートまで準備して、万全の救護体制である。
「それにしてもこれはひどい……アルコールも毒だからクリアランスや聖なる刻印も効果あるかな?」
龍崎海もあまり泳ぐ気はなかった。
始まる前から負傷者が出るのは明白なので、監視員役を務める構えだ。
本人の自覚はないが、すでに多少酔っている。
「しかし主催者は何もわかってない……こんな色つき水じゃ女性の水着姿が見れないじゃないか」
良識派の海らしくもないことを言いだしたのは、やはり酔っているせいか。
そんな感じで、当然といえば当然のことながらワインプールで泳ごうという者は少なかった。プール開きなのに!
雫は泳ぐ気ゼロで上着を羽織り、ビーチチェアに寝そべってるし。
桜花も同じくチェアを並べて、黒のビキニ姿で優雅にノンアルコールカクテルを飲んでいる。
静矢に至っては、ラッコ着ぐるみの『ラッコック仕様』で、ワインに合う料理を作っている始末だ。サンドイッチやウインナー、ハムエッグなど、いずれもおいしそう……じゃなくて! 泳げよおまえら!
だが静矢以上に本格的なのが、ユキメとアメリアだった。
なんと二人はプールサイドにチャイナカフェ赤猫の出店をオープン。ポータブルキッチンとワゴンを並べて、本格的に営業を始めたのである。
もちろん(?)二人ともチャイナ風の水着だ。
ユキメは白、アメリアは真紅の水着に身をつつみ、足下はハイヒール。誰が見てもプール開きの格好じゃない。
「……毎度のことながら……短いわね」
チャイナ水着の裾を気にしつつ、ユキメは呟いた。
「にゃはは〜、似合うんだから、恥ずかしがることないのにねえ〜♪」
「……いいから、さっさと料理の用意をしなさい、アメリア」
かすかに頬を染めつつ、応じるユキメ。
「みんな〜、出張『赤猫』開店だよ〜♪ ユキメちゃん、注文よろしくね〜」
アメリアは無闇に楽しそうだ。
「そいえば、おつまみ持ってきたのです。柿ぴーとチーズだけど」
ユリアがどこからともなくツマミを取り出した。
水着はホルターネックの花柄ビキニ。
「ワインにチーズ。王道だね♪」
ノヴェラが微笑んだ。
「いやー、さすがにプールのワインはちょっとアレにゃ。先生はボトルのワイン持ってきてないの?」
「もちろん持ってきてあるよ。では……このワインと同じ色をした、キミの瞳に乾杯♪」
「にゃっ!?」
キザなセリフを吐くノヴェラだが、つまみはコンビニの柿ピーとチーズだ。
そこへユキメが注文をとりにきた。
「中華喫茶赤猫よ。なにかご注文は?」
「じゃあ紹興酒ゼリーを作ってもらおうかな」
「注文、承ったわ。アメリア、注文よ」
ユキメのセリフを受けて、「はいよ〜、ちょっと待ってね〜」と応じるアメリア。
その様子を見ていた生徒たちから、次々と注文が寄せられる。
出張『赤猫』は本日も大忙しだ。
「ふぅ〜、とっても気持ちいいですぅ〜♪」
椎菜はビニールプールに足だけ入れて、足湯みたいにくつろいでいた。
ただの足湯ではない。プールの中にピラニアを泳がせているのだ。これで角質を食べさせるという、いま流行りのフィッシュセラピーである。アウルが覚醒してからというもの異様に皮膚が硬くなり、普通の魚では満足できなくなってしまっため、自宅で飼育しているピラちゃんたちの出番と相成った次第。久遠ヶ原のドクターフィッシュは一味ちがう!
「そこのあなたも一足どうですか〜? くぅ〜、堅気の魚じゃ得られない、この感覚。もう病みつきですぅ!」
手当たり次第に声をかける椎菜だが、ピラニアに足を食わせる勇者はいなかった。
「ふむ……ワインプールですか。一介のバーテンダーとしては少々興味を引かれますね」
和紗は真面目な顔でプールを見下ろしていた。
水着は地味な藍色のワンピース。露出は控えめだが、むしろそのほうが女子力は高い。
「その水着たしかに似合ってるけど……もう少し可愛いのどう?」
真緋呂の水着はレースのビスチェビキニだ。今年のトレンドらしい。
しかし和紗は真剣な顔でプールを見つめるばかり。真緋呂の声など聞こえてないかのようだ。
(なにか考えこんでるわね……また女子力にこだわってるのかな?)
そう思う真緋呂だが、和紗の考えてることは違った。
「小筆先生、今回のプール開きは美容と健康が目的ですよね? ならば提案があります。さらなる美容のためにレモンと炭酸水を足してみてはどうでしょう」
「面白いけど、お金がかかるなぁ」
「美の追究のためですよ。炭酸は血行促進に良いですし、レモンはビタミン豊富で美と健康の両面に効果的です。そもそも『美容と健康のため』なのでしょう? 出費など気にせず、やってくれますよね?」
素敵なアルカイックスマイルを浮かべて、せまる和紗。
こうしてワインプールには大量のレモンスライスと炭酸水が投入され、見た目の混迷度は更に増すのであった。
「これぞ名付けて、スプリッツァー・ルージュプール。バーテンダー的に良い仕事をしました」
満足げに頷く和紗。
普通のバーテンが見たら腰抜かすぞ。
「ああ……これだけ大量の酒を飲んだら、すべて忘れられるだろうなぁ……」
レモンと炭酸とエタノールが混じったワインプールを眺めつつ、悠人は呟いた。
このところ連続で依頼の相談が荒れたり、おかげで嫁との関係までギクシャクしたりと、持ち前の不幸体質が許容範囲を越える勢いで襲ってきてるため、今日は現実逃避でプール開きに参加したのだ。心身とも疲れ果て不眠で疲労も取れず、肌の調子も悪くなってきたので『美容と健康に良い』というフレーズにも引かれている。
「酒は苦手だけど、これで体調が良くなるなら……」
悠人は競泳用ゴーグルを着用すると、プールサイドに立った。
このまま飛び込めば、彼が最初の犠牲者……もとい挑戦者だ。
アザラシの待ち構える海に飛び込むペンギンみたいな空気が流れる。
そこへ走ってきたのは、旧型スク水姿の楓。
ゼッケンには『6−1 かえで』と書かれている。
「真っ赤なプールおもしろそうなのだ〜! 一番乗りなのだ〜♪」
どかーーん!
ばしゃーーん!
お約束通り背中から楓に激突された悠人は、もんどりうってプールに転落。
否応なく大量のワインカクテルを飲むハメになった。
悠人君ってば不幸!
「あや? なにかぶつかったのだ? でも気にせず泳ぐのだ〜♪」
ズドバババッと泳ぎ去る楓の背後には、意識を失ってプッカリ浮かぶ悠人の背中があった。
彼は即座に歌音たちの救護センターに運びこまれ、適切な処置(チョコを口に詰めこむ)を受けて一命を取り留めた。
「運動のあとには甘いもの。酒のあとにも糖分だ」
もっともらしいことを述べる歌音。
悠人はまったく運動してないのだが、酒を大量に飲んだのは事実だから大体あってる。
「これは生命の芽をかけてやるべきかな……?」
動かない悠人を見下ろして、龍崎海は首をひねった。
なにしろ奥義だ。使用回数はわずかである。できれば女性や子供を優先したい。
「そうだな……ここは温存しよう。どうせ大量の負傷者が出るのは目に見えている。この場はマインドケアで我慢してもらおう」
真剣な面持ちで、発言内容を実行する海。
まちがいなく酔っぱらってるが、抗議する者はいない。
ともあれ最初の犠牲者を出しつつも、どうやら泳げそうだということで撃退士たちは次々とプールへ。
まず浮き輪を浮かべてお尻から乗っかったのは、残念美女のユリア。
「中華料理おいしそうだけどにゃ〜」などと呟きつつも、今日はプールで遊びに来たのだ。
が、その直後。バランスを崩して浮き輪ごとひっくりかえるユリア。
「アッーーー!?」
ばしゃーん!
どうやら既に酔っぱらっていたようだ。
「すこし…もったいない…気もしますが…贅沢な…プールです……」
秋姫も同じように、慎重な手つきで浮き輪を浮かべた。
彼女の水着は、乙女桔梗の柄があしらわれた紫色のセパレートタイプだ。
「間違っても飲むなよ……?」
応じたのは修羅姫。
秋姫の裏側の人格だ。
「飲むなら…あとで…です……」
秋姫は浮き輪の上にそっと乗っかった。
「冷たいな……」
「プール…ですからね…お肌にも…良いみたい…ですし……」
「悪くはないが……妾は……飲むほうがよい……」
「……それは同感……です……」
とくにハプニングもなく、レモンと炭酸で美容効果の高まったワインプールを堪能する秋姫&修羅姫であった。
「は、はぅぅ……! 半裸の男子……半裸のですぅ……!」(注:半裸でなく水着です
同じく浮き輪に乗ってプカプカしてるのは、純情サキュバスのアルティミシア。
破廉恥はデストロイなはずの彼女が妙な視線で男の子たちを見つめているのは、アルコールのせいだろうか。それとも単なる本性か。
「うぅ……それにしても……飲まなければ、良いと言っても……酒精だけで、酔ってしまい、そうです……。まぁ、仮に飲んでしまっても、悪魔の外見と、年齢は、イコールではないと、いうことで……」
なにかブツブツ言いながら、半裸の男子を物色するアルティミシア。
「これは……なにか不吉な妖気を感じるっす」
背中にムズ痒い視線を感じつつ、信実はビート板を持ってプールサイドに立った。
身につけているのは学園指定の水着と水泳帽。そしてゴーグル。
今日はカナヅチを克服するためにやってきたのだ。最初はビニールプールで……と思っていた信実だが、なぜかピラニアが放流されてるのを見て断念。ワインプールに挑むことになった次第である。
「それにしても、これは……ハッキリ言って異常っすね。……でもこれも勉強の一環、撃退士として恥をかかないよう泳げるようになってみせるっす!」
ババーンとビート板を掲げる信実。
入学して最初に受けた依頼がコレとは悲惨すぎるが、どうか強く生きてほしい! 学園にはマトモな依頼も沢山あるよ!(希望
ストーーン!
石化の呪文みたいな効果音とともに現れたのは、桜庭ひなみ。
最初のセリフどおり、今日は泳ぎの練習に来たのだ。
謎の効果音は、寸胴幼女体型お察しください!
でも水着はかわいいよ! ふりふりだよ!(ナイスフォロー
「おにいちゃん、これが胸囲の格差社会……かくしゃサカイです……!」
引越業者の宣伝みたいなことを呟きつつ、ひなみは震えながら獅堂武にしがみついた。
というのも、彼女らの前には恋音がいるのだ。
その牛柄ビキニに隠された(隠しきれてない)バストは、まさに核兵器級! 核兵器不拡散条約を守ろうぜ!
「大丈夫だよ、ひなみちゃん。大丈夫!」
なにもフォローになってないことを言う武。
「えとぉ……とりあえず、練習をはじめましょうかぁ……?」
恥ずかしそうに胸を隠しつつ、恋音が言った。
「ええ、そうですね。訓練を始めましょう。撃退士たる者が泳げないようではいけません」
キリッと眼鏡を輝かせたのは雅人。
今日は最初から酔っぱらいクソ真面目モードだ。
こうして水泳特訓開始……と思いきや、恋音がアルティミシアと信実に話しかけた。
「あのぉ……そちらの浮き輪の、お二人様も……よろしければ、一緒に練習しませんかぁ……?」
恋音にしては珍しい積極性だが、すでに酔っぱらってるのだ。
「は……!? ボクは、泳げますよ!? この浮き輪は念のため、です! 嘘じゃない、ですよ!」
浮き輪にしがみついて言い返すアルティミシア。
だが、ちょっと楽しそうだ。このプールなら体が見られないため、視線を気にせず泳げるのである。ちなみに少々酔っぱらい済み。気のせいか甘いフェロモンの香りが漂う。
「お、俺は……お願いするっす!」
信実は真っ赤になって顔を伏せながら、恋音おねーさんの打診を受け入れた。大人の女性には抵抗力ゼロなのだ。これは念願のおねショタ展開くるか!?
「僕も入れてもらえると嬉しいな」
たのしそうな集団を見て、春樹が話しかけた。
彼自身は暗示で忘れているが、もともと天魔とのハーフのため酒には強い。この程度のプールで酔うことはない!(フラグ
というわけで、泳げない人たちの水泳特訓が始まった。
念のため救助用の浮き輪(恋音の胸)も用意済み。ぬかりはない!
早速練習開始。カナヅチーズ(ひなみ、信実、アルティミシア)は、プールのへりにつかまってバタ足を始めた。
一見フツーに泳ぎの練習をしているかに見えるが、何度も言うようにワインプールである。
練習生の3人はもちろん、指導側も徐々に酔っぱらってくる。
そんな中、雅人はワインの有効性や問題点について滔々と語っていた。
「いいですか皆さん、赤ワインは葡萄に含まれる成分をほぼそのまま残しているため、多くのビタミン、ミネラル、ポリフェノール等が含まれており……
「袋井せんぱぁぁい……♪」
「ごぶ……ッ!?」
いきなり背中から恋音に抱きつかれて、溺れかける雅人。
「水泳なんかやめてぇ……もっとイイことしませんかぁ……? 具体的に言うとぉ……水中でセッk
「それ以上いけません! 正気に戻ってくだガバゴボ……ッ!?」
わりと本気で抵抗する雅人だが、性技の力を解放させた恋音の前には無力!
しかも酔っぱらって体質制御を放棄した恋音の乳が、超質量となって雅人を押しつぶす!
「これは……恋人同士のじゃれあいだからと見守ってる場合ではなさそうですね! 大丈夫ですか!」
春樹は冷静に水上歩行を発動して、雅人に手をのばした。
が、本人は冷静なつもりでも既に大量のアルコールで足下がフラフラだ。
「でしたらぁ……神谷先輩も一緒にどうぞぉ……」
恋音が春樹の腕をつかんで、ワインの海へ引きずりこんだ。
「がぼぼ……っ!?」
「神谷先輩も脱いでくださいねぇ……♪」
爽やかな笑顔で、堂々と春樹の水着を脱がしにかかる恋音。
ちなみに彼女自身はとっくに全裸だが、ワインのおかげで誰にも見えてないよ!
「うわ……うわあああ……!?」
あまりの展開に、信実は赤面しつつ両手で顔を覆った。鼻からは大量の血が出ているが、ワインのおかげで誰にも気付かれない。
そこへ、ワインの海からザバッと顔を出す恋音。
「そちらさまも、是非ご一緒にぃぃ……」
「ひィィ……ッ、サダコ!? ガボッ!?」
酔っぱらった恋音を止められる者はいなかった。
ワインの底へ引きずりこまれた男たちがどんなコトになってるかは一切わからない! 大丈夫、健全なコトしかしてないから! 水着の男女が酔っぱらってすることなんて、ひとつしかないから! 健全だから!
「こ、これはマズイな……責任をとって俺が止めるべきか……? それとも、ひなちゃんをつれて逃げるべきか……?」
武はひなみをかばいつつ、とりあえず最悪の場合に備えて光纏しておくことにした。
目の前では水中で激しい乱……乱闘が繰り広げられ、真っ赤な水しぶきが飛び散る。なにやら凶暴な人食い鮫が暴れてるかのようだ。
そのしぶきが、たまたまプールサイドでくつろいでいた桜花の顔面へ。
「……!?」
突然の不意討ちに、思わずワインを飲んでしまう桜花。
と同時に、裏モードへ突入!
説明しよう! ふだん無口でクールな染井桜花だが、アルコールを摂取すると幼女みたいな甘えん坊に変化してしまうのだ!
「……おにいちゃん、……だぁれ〜? ……遊ぼうよ〜♪」
ニコニコと無邪気な笑顔を見せながら、桜花は武の首元にしがみついた。
完全にチョークスリーパーが極まってる。
「ぐぇ……っ!? は、入ってる! 桜花先輩、ギブ! ギブアーーップ!」
「おにいちゃん、あそぼ〜♪(ギリギリ)」
「がふ……っ!」
必死のタップもむなしく、締め落とされた武はプカーンとワインの水面に浮かぶのだった。
「はわ……っ!? おにいちゃんを助けるんですの!」
ひなみは大慌てで武を引き揚げると、プールサイドへ仰向けにさせた。
男性恐怖症のひなみだが、武おにいちゃんは別枠なのだ。しかも酔っぱらって理性ゼロ!
「おにいちゃん、私が人工呼吸で助けてあげます〜。ちゅーですよ、ちゅー♪」
すっかり恋する乙女の顔になり、頬を染めてうっとり微笑むひなみ。
武はといえば、アルコールで真っ赤になった顔がチアノーゼで真っ青になり、紫色に変色している。失敗した2Pカラーみたいな状態だ。
「ではいきますね! ちゅぅぅ〜〜!」
遠慮なく武の唇を奪うひなみ。
しかも人工呼吸と称して唇を吸っているので、まったく呼吸の助けになってないどころか容態を悪化させている。
武はそのまま歌音の救護センターに担ぎ込まれ、延々とひなみの介護(人工呼吸)を受けつづけるのであった。
そんな楽しい雰囲気のワインプールを眺めながら、透次は死んだ魚の目でビニールプールに浸かっていた。
もちろん泳げるスペースなどないので、体育座りしたままアヒルの玩具で遊んでいる。
「キミは泳がないの?」
ノヴェラが話しかけた。
「アルコール臭で気分が悪くて……換気しませんか先生……コロッケパンあげますから」
「コロッケパンが好きなのは矢吹君だよ。それにしても暗いなぁ」
「ほっといてください、これが僕の青春なんです……」
「もっと盛り上がろうよ! よし僕が景気づけに爆発を……
「待ってください! 引火したら一大事ですよ!」
「常温のワインには引火しないよ」
「なんにせよ爆発は自粛しましょう! なにかガソリンめいた匂いもしますし!」
透次の説得で、どうにかノヴェラの暴走は止められた。
まぁどうせ他の人が爆破するんだけど。
「はぁ……ピラニアセラピー最高です〜♪」
椎菜は透次と違って、ひとりビニールプールを笑顔で堪能していた。
が、しかし──
「それにしてもワインの匂いすごいですね……頭クラクラしてきちゃいました……って、あれは!」
ポーッと上気した顔で、ふと椎菜は飛び込み台の存在に気が付いた。
高所平気症ならぬ高所愛好症(アクロフィリア)の彼女は、高い所を見ると登らずにいられないのだ。
「よーし、行きますよー♪」
プールを飛び出すと、椎菜はスキップしながら飛び込み台へ走っていった。
──その数分後。目測を誤って脳天からプールサイドに落下する椎菜の姿が。
不幸なことに、その落下地点にはひなみの人工呼吸を受ける武の下腹部があったという……。
「このプールは名案ですが、惜しむらくはアルコール度が足りないことですね」
などと真顔で言いながら、雫は淡々とウォッカを注いでいた。
言動は完全に酔っ払いだが、見た目はシラフだ。
「テメー、なにやってんだコラー!」
監視台からラファルが怒鳴りつけた。
「は……? 私がプールにウォッカを混ぜていたとでも言うのですか?」
「自白してんじゃねーか!」
「あの……いくらなんでもそんな意味不明なことをするわけがないと思うのですが? 因縁をつけるのでしたら、物理でOHANASHIしましょうか?」
「い、いや、なんでもねー! 俺の勘違いだったぜ!」
ポキポキと指を鳴らす雫を前に、やむなく引き下がるラファル。
強さのあまり新聞記事組まれるような武神と会話(物理)するほど酔狂じゃない! どっちも酔っぱらってるけど!
そんな具合で、本日のプール開きは加速度的にカタストロフへの道を突き進んでいった。
黒百合が空調を止めたおかげで、気化するアルコールは充満する一方。
ポンプからは純度100%のエタノールが注ぎこまれ、ワインプールの濃度と温度を上げてゆく。
そんな殺人プールで普通に泳ぎながら「ワインは美肌にいいわねェ♪」などと笑顔でのたまう黒百合。
強力な酔い止めを飲み、アルコール濃度計を持ち込んだ彼女は、いざとなれば物質透過で全てを切り抜ける算段だ。
アルコールそのものを透過することもできるし、通常の爆破オチなど怖くも何ともない。
ただし阻霊符を使われた場合は別だぜ!
「ふ……ワインプールよ、俺は帰ってきた!」
悠人はゴーグルをキラリとさせながら、ふたたびプールサイドに立った。
美容と健康と飲酒のために参加したのに、このままおめおめと帰ることはできない。
「では……俺の華麗な泳ぎを見るがいい!」
みごとなフォームで飛び込むと、悠人はフリースタイルで泳ぎだした。
水泳は得意なのだ。撃退士の身体能力なら、50mプールなど簡単に縦断してしまう。
「もちろん泳ぐだけではない……美肌を取りもどし、ストレスを発散させ、酒も味わう……これぞ一石三鳥!」
「……む、泳ぐの早い人がいる? 勝負なのだ! 負けないよー!」
悠人の後ろから、ふたたび楓が迫ってきた。
「不意討ちでなければ負けはしません!」
気合を入れなおして泳ぐ悠人。
言うだけあって、かなりの速さだ。
『キュ……キュゥ!』
料理を作っていたラッコック静矢は、プールが盛り上がっているのを見て我慢しきれなくなってしまった。
もともとラッコは泳ぎが得意! うまく魚が獲れなくて仕方なく貝とか食べてるけど、人間には負けないぜ! ただし撃退士は勘弁な!
『カニコロッケ食ってる場合じゃねえ!』
殴り書きしたホワイトボードを見せつつ、どこぞのパンダAAを彷彿とさせる動きで調理台を跳び越えるラッコ。
そしてそのままプールへダイブ!
貝をおなかでカンカンしながら、背泳ぎで水泳競争に参加!
『キュゥ!』
「う……っ、物凄いアルコール臭だ。たしかに赤ワインが体にいいのは知ってるが……未成年もいる場所でこれは駄目だろ?」
ここで満を持して遅刻してきたのは、月詠神削(
ja5265)
彼自身は問題なく飲酒できる年齢だが、周囲には未成年もいっぱいだ。
「どうやら皆そろって判断力を失っているようだな。ここは俺がどうにかしないと……お、そうだ。料理のフランベと同じで、火をつければアルコール飛ぶんじゃね?」
小難しい顔で、これは名案とばかりに頷く神削。
だが、そのころ──
「はぁ〜……炭酸ワインのプールって、シュワシュワして気持ちいいかも」
浮き輪でプカプカしながら、真緋呂は両手にサンドイッチを持ってかじっていた。
「イタリアワインの芳香とパストラミサンドの味わいが、絶妙なマリアージュを醸し出してるわね……でもやっぱりアルコール濃度が……あ、そうだわ! 燃やしてアルコールを飛ばせばいいのよ! 真緋呂知ってる! フランベって言うのよね?」
神削とまったく同じタイミングで、自殺しようとする真緋呂がいた。
その真顔っぷりを見た和紗は瞬時に『これは説得不可能!』と判断して、いざというときのために盗……用意しておいた水上バイクにまたがった。
そしてエンジン始動。爆音とともにプールを駆け抜ける!
『盗んだ水上バイクで走り出す、行き先もわからぬまま。赤いプールの帳の中へ♪』
某利権団体Jが怖いので、声には出さず心の中で歌いながら水上バイクを走らせる和紗。
途中で悠人や雅人など5人ぐらい撥ね飛ばしてるが、些細なことは気にしない。『轢き逃げ姫』の称号は伊達じゃないぜ!
「ふむ……これだけウォッカを混ぜれば十分ですね。……では、皆さんのためにアルコールを飛ばしてあげましょう。ええと、フランベでしたっけ? 血の池地獄あらため焦熱地獄にご案内です」
まったく同じタイミングで、雫も同じことを思いついていた。
決して偶然ではない。こういう現象を一般に『シンクロニシティ(共時性)』と呼ぶ。ユングの解釈によれば、じつは個人の意識は集合的無意識によって(略
ガシャーーーン!
和紗の水上バイクが、窓ガラスをブチ破って外へ飛び出した。
このままプールにいたら必ずドリフのコントみたいなオチになる。和紗は回避に必死だった。
「コラー! 安全運転しやがれー! おとなしくしねー輩は、俺様のミサイルで物理ツッコミ……もとい制裁だー!」
ここでとうとうラファルの怒りがデスロードに!
続いて破れた窓から吹き込んできた風の前で、恋音(全裸)が「寒いですねぇ……火をつけましょうかぁ……」と言った。
「きゃはァ♪ こんな状況で火を放ったら、私以外みんなアフロよォ……?」
素敵な笑顔で、計画どおり物質透過を使う黒百合。
だがそれを見越していたラッコック静矢は、無慈悲にも阻霊符を発動させた。
「あらァ……? そういうことしちゃうのォ?」
「ふ……戦いとは二手三手先を読むもの」
黒百合も静矢も、ニヤリと微笑んだ。
次の瞬間──
ちゅどおおおおおおおんん!
神削のマッチがプールに投げ込まれ、真緋呂と恋音の『炎焼』が発動し……完璧なタイミングの一致とともに惨事は起きた。
崩れ落ちる天井。
プールが砕けて、ワインの津波が押し寄せる。
参加者たちは皆そろって酔っ払いのアフロと化し、津波とともに流されてゆく。
……だ、大丈夫! 皆まがりなりにも撃退士! 魔具もスキルも使ってない普通の爆発に巻かれたくらいで、死なない死なない!
……と神削は書いてたが、彼自身死にそうだ。
「悲惨な事故でしたね……。唯一の生き残りである俺は、この悲劇を忘れないよう言い伝えていかなければ……」
水上バイクにまたがったまま、なぜか校舎の屋上から瓦礫の山を見下ろす和紗。
こうして彼女は今日もバーテンダーの腕を磨くのであった。