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マスター:牛男爵
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2016/06/09


みんなの思い出



オープニング


 2016年6月。久遠ヶ原商店街の一角に、新しい店がオープンすることとなった。
 その名は『ヴィンテージショップSENO』
 撃退士の中古装備を売買するリサイクルショップだ。

 店主の瀬野は、久遠ヶ原学園大学部に通う現役撃退士。しかもアカシックレコーダーとしては屈指の実力を持っている。その多彩な『自然現象再現』スキルとエリートビジネスマンめいた交渉術によって、これまでに膨大な数の中古装備を集めてきた。
 あるときは金に困った生徒から衣類を買い取り、あるときは女子寮に忍び込んでゴミ箱を漁り、またあるときは海水浴場で廃棄物を回収し……という具合にだ。その地道な収集作業の成果が、ヴィンテージショップSENOである。まさに趣味と実益を兼ねた商売と言えよう。
 以前はスカートめくりや盗撮などの犯罪行為に手を染めたこともある瀬野だが、この店を開業するにあたっては一切の違法行為を働いてない。完全に合法だ。

「ふふふ……ここまで紆余曲折あったが、ここからが私の人生のスタートだ。そもそも私が撃退士になったのは、この店を開くため……。ある意味、天魔には感謝しなければなるまい」
 オープンを3日後に控えて、新装されたばかりの店内を感慨深げに見渡す瀬野。
 そこには久遠ヶ原学園の女子用制服を筆頭に、ありとあらゆる『使用済み装備』が並んでいる。
「さて……あとは最後の仕上げだ。オープン当日にそなえて、かわいい女の子をバイトとして雇う!」
 眼鏡を輝かせると、瀬野は学園の依頼書を取り出した。
 その『依頼内容』はというと──




リプレイ本文



 この依頼を受けたとき、誰より先に動いたのは月乃宮恋音(jb1221)だった。
 瀬野の素性は承知済み。『スレスレとはいえ合法な商売なら、経営失敗して非合法行為に戻るよりマシ』と考え、協力することに決めたのだ。
 OPEN2日前、恋音は一人でSENOを訪ねた。
「このたびは、開店おめでとうございますぅ……。店の中を拝見しても、よろしいですかぁ……?」
「いいとも」
「では、失礼しますねぇ……」
 許可を得ると、恋音は店内のレイアウトをチェックしはじめた。
「おぉ……心配してましたが、普通の商品とそうでない商品を、きっちり分けてますねぇ……。さすがですぅ……」
「当然だ。合法な古着屋だからな」
「そ、そうですねぇ……では、こちらは良いとして……関係各所には、お話を通しましたかぁ……?」
「というと?」
「いわゆる、地回りの怖い方々ですとか……付近の同業者……それに学園の風紀委員も、ですねぇ……」
「心配無用。久遠ヶ原島は庭のようなものだ。ただし風紀委員に顔が利くなら適当に話をつけてほしい」
「わかりましたぁ……。静観してくれるよう、交渉してみますねぇ……。それと、商品の仕入れについて……提案があるのですけれどぉ……」
「ぜひ聞こう!」
 身を乗り出す瀬野。
 圧倒されつつも恋音は話しだす。
「まず、普通の商品ですが……良ボーナス狙いの余剰品は、購買で大量に売却されますよねぇ……? そこで、購買と交渉して多少なりと意味のある品を仕入れてみては、いかがですかぁ……?」
「わかってないな。キミの言う『普通の商品』は本来の目的の副産物に過ぎない。わざわざ仕入れてどうする」
「そ、そうでしたかぁ……。では、未使用の装備を仕入れて女子に貸し出すというのは、いかがですかぁ……?」
「18歳未満の子にパンツを貸す商売は違法なのだよ!」
「し、失礼しましたぁ……」
 今回の恋音は空振り三振!
 すなおに(?)自分のパンツを出せば本塁打だったのに!



 狩野峰雪(ja0345)も、同じくOPEN前に動きだしていた。
 彼もまた瀬野の性癖は承知済みだ。
「普通のヴィンテージショップなら、経済的に厳しい子には有用だと思うけど……。どこかいかがわしいというか、犯罪臭がするというか……。瀬野くんの目指すところ……お店を開く目的はどこにあるんだろうねえ……」
 以前の騒動を思い出して、しみじみと煙草の煙を吐く峰雪。
 彼には瀬野の考えなど想像もできないが、『合法的にお店が経営できるようにしてあげたいなあ』とは思っている。
 そこで峰雪の思いついた策は、学園長にコラボの話を持ちかけるというものだった。学園長は通販会社を経営してるし、たがいの店の宣伝や、一方の店を利用したらもう一方の店のクーポンがもらえるサービスなど、やってみて損することはない。『学生のチャレンジ精神を応援するため』という名目もある。
 そう考えてまずは学園長にコンタクトを……と思った峰雪だが、ここで驚愕の事実が判明!
 どこに行けば学園長と会えるかわからない!
「考えてみれば彼は神出鬼没。そう都合よくは行かないか……ならば……」
 峰雪は作戦を改めると、生徒会室へ向かった。
 SENOを生徒会に公認してもらえないかと考えたのだ。
 が、回答は無慈悲だった。
「無理ですね。その生徒は過去に何度も問題を起こしてます。盗撮被害に遭った女子も膨大な数に及びますし、とても支持できません」
「そこをあえて、更正の機会を設けるために」
「不可能です。お引き取りを」
「けんもほろろっていうのは、こういうときに使う言葉だねえ……」
 峰雪の策も失敗だった。
 世の中は前科者に厳しい。性犯罪者には特に。




 そしてOPEN当日。
 ユーラン・アキラ(jb0955)は一番乗りで店を訪れた。
「よお店長。おはようさん」
「おや、ずいぶん早いね」
「ああ、念入りに掃除しようと思ってね」
「ふむ。では任せよう」
「任せときな!」
 箒や雑巾を受け取ると、ユーランは店の前から掃除を始めた。
 ひととおり終えたところで、自作のチラシを壁に貼る。子供を喜ばせるためのサプライズ企画を告知する内容だ。
「これでよしと。子供たちたくさん来てくれるかな……」
 やさしげに微笑むユーラン。
 その様子を見て「依頼まちがえてないか?」と首をひねる瀬野がいた。


 次にやってきたのは、香奈沢風禰(jb2286)と私市琥珀(jb5268)
 学園でも有名な(というか唯一の)カマキリペアだ。
 二人とも最初からカマキリ着ぐるみ装備。店まで歩いてくるときもカマキリだった。
「おはようなの! まずは掃除からなの! カマキリは綺麗好きなの! お客さんも綺麗なほうが良いなの!」
 風禰が元気よくカマを振り上げた。
「掃除なら、もう終わらせたぜ?」と、ユーラン。
「がーーん! それなら早速カマキリコーナーを設置するなの!」
 風禰がヒヒイロカネから取り出したのは、大量のカマキリグッズだった。
「そのとおり! カマキリの良さをみんなに伝えるために、この機会を利用するんだよ!」
 負けじと琥珀がカマグッズを積み上げる。
 メルヘンチックでファンシーなカマキリぬいぐるみから、やたらリアルで怖いぐらいのぬいぐるみまで、驚愕の品揃え。さらにカマキリステッカー、カマキリバッジ、カマキリ印のナイフやフォーク……と雑貨類の充実ぶりが凄い。
「ファンシーなぬいぐるみとかステッカーは、きっと女の子にも大うけ! リアルでシックなカマキリの絵が入った食器とかは大人な客層にも受けるんだよ! なんと言っても目玉は着ぐるみ! これであなたも今日からカマァ!?」
 熱弁をふるう琥珀は、心の底から本気だった。

「それ売れると思う?」
 瀬野が問いかけた。
「もちろんなの! カマキリの中古装備だって人気があっていいじゃないなの!」
 答えたのは風禰だ。
「まぁキミの古着なら売れるだろう。顔写真つけてもいい?」
「オッケーなの! きっと売れるなの! カマふぃときさカマが装備してた中古装備いろいろ売るなの! 目玉は何といってもカマキリの着ぐるみなのなの!」
「売れなかったら私が買い取ろう。天然少女の使用済み着ぐるみ……悪くない」
「なにか邪悪な空気を感じるなの!?」
「気のせいだよ。さぁ遠慮なくカマコーナーを作ると良い」
「じゃあ遠慮なくなの! 特設コーナー『マンティスの虜』オープンなの!」
「ポップも作って大々的に宣伝するんだよ!」
 琥珀が応じて、ふたりは仲良く作業に取りかかった。


 そこへ、指定時刻どおりに残りのメンバーが現れた。
 雫(ja1894)、焔・楓(ja7214)、ラファル A ユーティライネン(jb4620)の3名だ。
「おおっ、キミはあのときの!」
 雫の姿を見て瀬野が立ち上がった。
「いつぞやは世話になりました……いえ、世話をしてあげましたね。どうでも良いですが、中古装備を『使用済み装備』と呼ぶのは大変いかがわしく聞こえるのでやめなさい」
「なぜだ? おなじ意味だろう?」
「いいからやめなさい」
「わかった。従おう」
 今日の瀬野は無抵抗だった。
 開店初日に店を壊されてはたまらない。

「今日はアルバイトに来たのだ♪ お店が繁盛するよう頑張るのだ♪ 元気に行くのだー♪」
 楓はいつものテンションで声を張り上げた。
 そこでふと、琥珀たちの姿に気付く。
「あや、着ぐるみ面白いのだ♪ あたしも持ってきてるし着てやるのだ♪ がおー♪」
 楓が着替えたのは、恐竜の着ぐるみだった。
 その格好のまま着ぐるみ仲間のカマキリペアの所へ行き、陳列を手伝う楓。

 一方、ラファルは超不機嫌だった。
 というのも、今日ここへ来たのは『義体特待生のお仕事』だからだ。強制である。
(こんなクソな店を手伝うのは俺様の仕事じゃねー!)と内心毒づきつつも、逆らうこともできず諦めムードなラファル。
 まぁテキトーに流して帰ろうと自分を納得させつつ、開店時刻を迎えるのだった。


 まずレジ担当になったのは、カマふぃ風禰。
 手はカマキリのカマだが、慣れた手つきでレジを打ち清算する。
「いらっしゃいなの! 全部で175000久遠なの!」
 いきなり大口の客だが、なにを買ったかはお察し。違法な商品じゃないよ!
「次のお客様いらっしゃいなの! カマキリ装備お買い上げありがとうなの! 抽選1名様にカマぽす(カマふぃ満面の笑みのポスター)進呈なの! カマぽすだって装備品なの! 携帯品で持ち運びできるなの!」
 風禰の使用済み装備が売れてるが、どう使うかは購入者の自由だ。変な意味はない。

「あの店長のせいで客層を疑っていたのですが……意外に普通のお客さんが多いですね」
 客が戻した服を畳み直したりしながら、雫は店内を巡回していた。
 その言葉どおり、純粋に中古装備を買いに来る客も多い。
「まぁほしい装備品が安く手に入るのは事実ですから需要があるのはわかるのですが……あの店長の前科を考えると犯罪の匂いが……」
 くんくんと匂いを嗅ぐ雫。
 実際この店は相当怪しい。

「ほら、みんな! 寄って行ってくれ!」
 そんな怪しさを気にもせず、ユーランは道行く子供に声をかけていた。
 彼が用意した『サプライズ』は三つだ。
 まずは、商品を2点以上買った子供(あるいは子供連れ)に手作りクッキーのプレゼント。
「2種類のクッキーだ。持って行ってくれ!」
 客が男の子なら、レンジャースーツに着替えてヒーローショーのノリで握手。
「やっぱ、着ぐるみは子供の好きなものだよな!」
 そして三つめは、得意のバルーンアートとマジックだ。
「これで少しは客寄せになるだろ!」
 そんなユーランだが、自分自身も楽しんでいた。
 マジックのタネがばれたりしても、適当にモノマネなどでごまかす。
 ただ見世物には人が集まるが、売り上げには今ひとつ響かないようだ。
 この店の性質上、無理もない。中古なのに何故か新品より高い装備が多いし。

「ヴィンテージショップSENO、本日開店なんだよ!」
 琥珀は大通りでビラを配っていた。
 そのカマキリ姿は、通行人の注目を集めるのに十分だ。
「いらっしゃーい! リアルなのやファンシーなカマキリグッズ、たくさんあるよ!」
 爽やかな笑顔で客引きする琥珀だが、いかんせんカマキリ。犬や猫より需要が少ない。

 同じころ、楓は恐竜姿で『SENO』の看板を掲げていた。
 が、姿が姿なので何の宣伝かわかってもらえない。
「お兄さん、お兄さん。ちょっと寄ってってなのだ♪」
「それ何の店?」
「服のお店なのだ。パンツとかも売ってるのだ♪」
「いや、いらないんで」
「中古のパンツとか売ってるのだ。いらないのだ?」
「くわしく聞こう!」
 久遠ヶ原には変態が多い!


 そんなこんなで、違法スレスレの商売ながらもSENOは大盛況だった。
 バイトは大忙しだが、ラファルはボケーッとほっつき歩いてる。仕事する気ゼロだ。
 が、彼女は見つけてしまった。そこにあるはずのない代物を。
「な……っ!? 誰だよ、この義足持ち込んだの!」
 それは何本もの義足だった。しかもラファルには見覚えがある。
 商品説明を見て二度びっくり。
『女子高生の使用済み義足:現品限り』
 そこで完全に理解した。これは俺の使ってた足じゃねーかと。
 全身義体のラファルは、定期的に体のパーツを交換している。ここに並んだ義足は、以前彼女が使っていたものばかりだ。
 さらに『付属品』を見て三度びっくり。
 そこには『使用者近影』としてキャピキャピしたJK生写真が添付され、使用済みの靴下やパンツが並んでいたのだ。
「いや待て、おい。これは俺のじゃねーし、写真は別人28号だぞ」
 ラファルは一瞬、義体研究者の横流しも疑った。
 が、さすがにそんなはずはねーと信じる程度の信頼関係はある。
「そういえば、この依頼に参加するとき妙な噂を聞いたな。装備品の盗難とかなんとか……。って犯罪じゃねーかコレ!」
 この時点で、ラファルは潜入捜査官と化した。
 なんとしても商品の仕入れルートを探り出し、法のもとに瀬野を裁く!
「なぁに、この依頼の目的は『開店初日を成功させること』だけだ。あとは知ったことじゃねー。犯罪者は死ね!」


 そんなラファルの決心と裏腹に、店は繁盛していた。
 もともと瀬野は一部界隈で有名人。その秘蔵品が店頭に並ぶとあって、日本中から変態が集まってきたのだ。
「ところで楓くん。キミを見込んで頼みがある」
「なんなのだ? がおー♪」
「なにか身につけてるものを提供してくれないか?」
 直球を投げる瀬野。
 相手が雫やラファルなら病院送りにされてるところだ。
「商品が足りないのだ? あたしの服でいいなら協力するのだ♪」
 恐竜着ぐるみを脱ぐと、楓はその場でシャツと下着を脱ぎだした。

「「おおおおおおっ!」」

 突然の生着替え(ていうかストリップ?)に、周囲の変態どもが歓声をあげた。
 スマホを出して激写する者までいる。むしろ瀬野が真っ先に撮ってる。
「そのパンツ売ってくれ! 30000久遠!」
「俺は40000出す!」
「45000!」
「50000!」
 競売が始まった。
 物凄い盛り上がりようだ。
「待て! 18歳未満の子から下着を買うのは違法だ!」
 瀬野が止めた。
 思いがけぬ良識ぶりに周囲がどよめく。
「従って、これらは私が預かろう」
 楓のパンツをクンカクンカする瀬野。
 その後パンツをめぐって客との死闘が繰り広げられるも、彼に勝てる者はいなかった。



 こうして開店初日は無事に終了。
 売り上げは瀬野の予想以上だが、大半は楓のパフォーマンスによるものだった。
「とりあえず、お疲れ様なんだよ!」
 事務所に集まった仲間たちに、琥珀がカマキリラベルのサイダーをふるまった。
「おつかれなの! 成功を祝して、れっつぱーりぃ!」
 風禰がカマキリ印の梅ジュースを配る。
「ありがとう。みんなのおかげだ」
 瀬野は満面の笑顔だった。
 が──こんな犯罪者を野放しにしてはおけないと、雫が問いかける。
「ひとつ訊きますが、なぜ私の捨てた服が商品棚に並んでいるのでしょうか」
「私はリサイクル業者から買い取っただけだ」
「女子寮に忍び込んだという噂ですが?」
「証拠があるのかね?」
「あったらとっくに警察へ突き出してます」
 実際、趣味のためにスキルを磨き抜いた瀬野を立件するのは困難だ。
 そこへラファルが参戦した。
「俺の義足まで売ってるじゃねーか! これは盗品だろ!」
「くりかえすが私は業者から買っただけだ。盗品とは知らなかった」
「あくまでシラ切るのか。じゃあ警察(サツ)に密告(チク)っても問題ねぇな?」
「好きにしたまえ。そんなことよりキミのパンツを売ってくれたほうが互いにハッピーだと思うんだが?」
「変態は死ね!」
 ラファルの拳が瀬野の顔面にブチこまれた。

「アバーッ!?」
 ガシャーン!

 窓ガラスを破って道路へ叩き落とされる瀬野。
 そこへ16tトラックが走ってきて、彼は夜空の星になったのであった。
 なにごとも暴力で解決するのが一番だ!
 SENOは翌日も普通に営業した。





依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: パンツ売りの少女・焔・楓(ja7214)
重体: −
面白かった!:3人

Mr.Goombah・
狩野 峰雪(ja0345)

大学部7年5組 男 インフィルトレイター
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
パンツ売りの少女・
焔・楓(ja7214)

中等部1年2組 女 ルインズブレイド
『久遠ヶ原卒業試験』参加撃退士・
ユーラン・アキラ(jb0955)

卒業 男 バハムートテイマー
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
種子島・伝説のカマ(白)・
香奈沢 風禰(jb2286)

卒業 女 陰陽師
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
種子島・伝説のカマ(緑)・
私市 琥珀(jb5268)

卒業 男 アストラルヴァンガード