舞台は大神聖紅茶帝国・首都アリンドリア。
紅茶神の異名を持つ女帝・斉凛(
ja6571)の支配する、広大な帝国の中心だ。
この国においては彼女が法律。それを如実に示すのが、国内への珈琲持ち込みを禁じる『珈琲類取締法』の存在だ。凜が一滴でも珈琲を口にすると酔い潰れてしまうためという、独善きわまる悪法である。この法を犯した者には女帝みずからの釘バット百叩きが行われ、生きて刑場を出た者はいない。
国教には紅茶教が指定され、布教という名の洗脳が昼夜を問わず国内各所で強行されている。これによって国民は1日10杯以上の紅茶を飲むことが定められ、菓子類はもちろんパンにもライスにも牛丼にも天ぷらにも紅茶を合わせなければならない。
史上にも稀な非人道的国家だが、特筆すべきは珈琲教への弾圧だ。『全世界の人類を紅茶好きに! 紅茶による世界征服! 紅茶万歳! 珈琲滅ぶべし!』というスローガンのもと、女帝による珈琲党への虐殺は熾烈を極め、これに対抗する珈琲パルチザンとの抗争は泥沼の様相を呈している。この珈琲紅茶戦争はやがて全世界を巻き込む大戦争にまで激化するのだが、最初の一石を投じたのが女帝凜であることは疑いようもない。
この日も独裁者凛は王宮の一室にて、ラーメン王・佐藤としお(
ja2489)との接見に臨んでいた。
紅茶神とラーメン王の間に共通点はないように見えるが、さにあらず。紅茶ラーメンすなわち『紅ラー』は、アリンドリアの誇る名物料理なのだ。
「聞きましたわ。新作ラーメンを完成させたそうですわね」
「ええ、こいつは完璧ですよ女帝。一杯いかがです?」
としおは恭しい手つきで、岡持からドンブリを出した。
ふわりと漂う紅茶の香り。濃厚な豚骨鶏ガラの匂い。トロトロに煮込まれたチャーシューと煮玉子が食欲をそそる。
凜はドンブリを受け取ると、レンゲでスープを一口。
「これはみごとですわ。紅茶の甘味と渋味が豚骨背脂スープと絡みあって、じつに鮮やかなハーモニーを……。さすがラーメン王」
「ありがとうございます。では早速新作キャンペーンを」
「お待ちなさい。せっかくですわ、全国民にこの紅ラーをふるまってさしあげましょう。……そう、わたくしのおごりで!」
「なんと! 女帝のおごりで!」
「わたくしの目標は全世界を紅茶教に染めること。そのためなら、ラーメンだろうとパスタだろうと味噌煮込みうどんだろうと、すべて利用してやりますわ。ほぉーーほほほほ!」
「さすが女帝! 出前はまかせてください! ラーメンはいつでもどこでも誰とでも! うおおおおおっ!」
そんな二人を円柱の陰から見守る女がいた。
華子=マーヴェリック(
jc0898)である。
彼女の目的は、としおを見守り添い続けること。そのためなら厳戒態勢の王宮に忍び込むのも厭わない。
いつもハナハナ、としおの背後に這い寄る混沌、華子です♪
「んふふ〜♪ 今日もとしおさんは素敵ですわ〜♪」
よだれをたらしながら陶然と呟く姿は、完全に犯罪者。
だが彼女にも多少の自覚はある。ここまでつきまとうのは、もしやストーカー行為にあたるのでは……と。
だが、そんな疑問は「うん大丈夫♪」という何の根拠もない一言で打ち消されてしまう。
「ああ……自分を抑えて想い人にひっそり寄り添う……私って大和撫子っ♪」
ウフフ、と微笑む華子。
そんな妖しい視線に肌寒いものを感じながらも、としおと凜は紅茶ラーメンによる大陸打通作戦を実行するのだった。
こうして大神聖紅茶帝国を舞台に、物語は始まる──
夜/アリンドリア郊外。路上を走る一人の男=ローニア レグルス(
jc1480)
手にはギターケース=彼の魂/手放すわけにいかない。
追われている──誰に? 帝国の犬=紅茶教徒に。女帝の飼い犬ども。洗脳済みの猟犬たち。
背後から銃声。無数のマズルフラッシュ。
闇を纏い/ローニアは走る。
女帝の猟犬──捕まれば死は免れない。恐るべき地獄の犬たち。
ローニアは思い出す──研究所/その破壊/破滅と最期/ろくでもない記憶。
打ち合いを避け/光を避けて/闇へ/闇へ──
じきに犬どもの姿が消える。
壁に背を預け/ローニアは取り出す。緑色のボトル=オリーブオイル。その一口が彼の渇きを癒す。
「ふ……この一時のみが、俺に残された平穏……」
ローニア=重篤なオリーブオイル中毒/紅茶は飲まない。女帝の怒りを買うのは必然。
グシャン!
オイルの瓶が砕けた。闇の向こう/鉛の銃弾。
「まだ追ってくるというのか……? しつこい犬どもめ……」
舌打ち。この国にローニアの平穏はない。
ギターケースを眺める。もはや安穏は望めない。ならば──
「こいつが風を切り裂く音を響かせることもないと思っていたが……どうやら、そうもいかないようだ」
ギターケースが開かれる。
ローニアはネック=エレキギターの──を握る/轟くディストーション/そのまま振りかぶる──鈍器。
「こいつは俺の金属バットだ……どの角度からでもかかってこい」
ギターを掲げる──その姿/予告ホームラン。
戦いが始まる/勝ち目のない戦い。
ここは大神聖紅茶帝国=女帝の庭。
背後から忍び寄る刺客=佐藤としお──その凶器/紅ラー。
一杯で十分だった。ローニアは紅茶教の手に落ちた。
「さすがとしおさん……」
華子の呟き。
夜に静寂が戻る。
ここは暗黒街アリンドリア──
ペルル・ロゼ・グラス(
jc0873)は貴腐人である。
キャンパスでイケメンやイケマッチョを見かければ軽くストーキングする程度の、撃退士にはよくいる軽犯罪者だ。
その日もペルルはイケメンを物色しつつ学園を散策していた。
そして見てしまったのだ……放課後、校舎裏に立つ伝説の桜の木の下で。一陣のイタズラな風が吹き、特に理由もなく男子の制服がバリーン!と裂けるのを!
ペルルの目に飛び込んできたのは、みなぎるマッスル! ほとばしる男気!
「ウホッ……いい益荒男……♪」
鼻血を噴きつつ、クロッキー帳を出して目に焼きついた光景を写し取るペルル。
「ああ……高鳴るこの胸、熱くなるこの気持ちは一体……? おっと、すまないが男子以外は帰ってくれないかなの!」
集まってきた腐女子を追い払い、桃源郷を独占するペルル。
だがそこへ、女帝の密命を帯びてラーメン王参上!
「おまちどお! 紅ラー1丁!」
「なかなかのイケメンなのなの!」
「ではさらばだ!」
なにか凄まじい腐敗臭を察して、素早く逃走するとしお。
「さすがとしおさん……あんな変態には近付かないのが正解ですわ」
校舎の陰から見守る華子。自分の行為は棚上げ!
放課後、一川七海(
jb9532)は野球部の更衣室でベンチに腰かけ、うなだれていた。
というのも、新学期を迎えた春にもかかわらず新入部員が1人もいないのだ。新入部員どころか部員そのものが七海だけである。このままでは廃部だ。
「はあ……どうすればいいの……?」
ボールを握りしめて七海は呟いた。
現状では野球どころかキャッチボールもできない。お粗末にもほどがある。
「なんとかして部員を集めないと……」
部活として成立しない名ばかりの野球部だが、七海には甲子園出場という夢があった。
彼女はまだ高校1年。時間はたっぷり残されている。
「部員を集めるには、とにかく野球の良さを知ってもらうことよね。そのためには、まず野球のことを知ってもらわないと」
ユニフォームに着替え、七海は気合を入れ直した。
そして、まだ見ぬ未来の部員を探すべく廊下へ駆け出した……直後!
「紅ラーおまたせ!」
岡持をひっさげて、華麗にとしおが登場!
「紅ラー……!?」
「事情は聞いた! これを食べれば部員は見つかる!」
「本当に!?」
「ああ、ラーメンは嘘をつかない!」
「じゃあ食べないと!」
両者とも発言がおかしいが、七海にとっては藁にもすがる思いだった。としおのほうは通常運転である。
そして数分後。野球部には新作紅ラーを求める熱心な紅茶教徒が押し寄せ、大量の部員を獲得することに成功したのであった。
日曜日の朝早く。
五十鈴響(
ja6602)は近くの野山へ遊びに来ていた。
いつも通っている教会の日曜学校のために、木イチゴを獲りに来たのだ。お菓子作りの材料にするのである。
身につけているのは、ふんわりしたワンピース。さらさらの髪が風に揺れる。
「わぁ……いっぱい実がついてる」
そこには一面の木イチゴ畑が広がっていた。赤や黄色、オレンジ色など、形も様々だ。
響は鼻歌まじりに歩きながら、熟したものを選んでバスケットの中へ詰めていく。彩り用に、露草などの花も少し。
「これぐらい集めれば足りるかしら……あら? あれは……」
ふと足を止める響。
見ると、丘の向こうに一頭のカモシカが。
「かわいい……」
響は軽い足どりでカモシカを追いかけた。
するとその先には、昼寝している白髪の老人が。
「あ……っ!」
うっかり足を引っかけて転んでしまう響。
「大丈夫かね、お嬢さん」
「すみません。気持ちよく寝てらしたところを。おわびに、これをどうぞ」
響は手作りビスケットと紅茶を手渡した。
「これは良い紅茶だ。お礼にとっておきの場所を教えてあげよう。ついておいで」
そう言って老人が案内した先は、見たこともない草花や果実でいっぱいの草原。
ためしに果実をかじってみると、どれも甘くておいしい。
そして気付けば老人の姿はなく──不思議な気持ちになりながらも、響は籠いっぱいに果実を集めて帰るのだった。
が──家に帰ってみると何故か月曜日になっていて学校に遅刻。不思議な老人に会うことも二度となかった。
「くっ、出ていくタイミングが……!」
あまりのメルヘンぶりに、出前王としおも空気を読んでしまった。
「そんなとしおさんもかわいい……♪」
華子はどこまでもついてゆく。
ここは自然ゆたかな緑の草原。
その中で、深森木葉(
jb1711)は動物たちと戯れていた。
彼女を取り囲むのは、さらさらもふもふのワンちゃんニャンちゃんたち。
ウサギさんやペンギンさんもいるし、ライオンさんとかグリズリーちゃんとかの猛獣もいる。
パンダちゃんや無口なラッコ、乳の大きい牛もだ。中に人なんて入ってませんよ?
「動物さんがいっぱいですよぉ〜。もふもふ放題ですぅ〜♪」
思う存分もふもふ欲を満たす木葉。
「もこもふ〜。みんないい子ばかりなのですぅ〜」
そこへオオカミさんが登場。
「やあ、かわいい幼女ちゃん。おいしそうだねぇ」
「おいしくないですよぉ〜。食べたらダメですぅ〜」
「ふふふ……赤ずきんを食べに行く前のオードブルに丁度いい」
「だ、だめですぅ〜!」
あわてて逃げだす木葉。
そのあとをオオカミが追いかける。
そこへ颯爽と駆けつけるラーメン王!
「必殺・紅天空落とし!」
「ぎにゃー!?」
謎の殺人湯切り技が炸裂し、オオカミは血だるまで逃げていった。
「お嬢さん、ケガは?」
「大丈夫ですぅ〜、ありがとうございますぅ〜」
「礼を言うのは、この紅ラーを食べてからさ」
「紅ラーですかぁ〜? おいしいですぅ〜♪」
草原の動物たちが集まってきて、ラーメンパーティーが始まった。
その中心に立つのはラーメン王としお!
「ああ、としおさん素敵……♪」
草原の中、双眼鏡を手に匍匐前進でとしおを見つめる華子の姿は、じつに乙女だった。
むかしむかし。帝国の田舎町に、赤ずきんという女の子が暮らしていました。
ある日、赤ずきんはおつかいをたのまれて、森の向こうのおばあさんの家へ行くことに。
じつはおばあさんは紅茶栽培の達人。今日はそのファーストフラッシュをわけてもらうのです。
「ふふ……とてもたのしみィ♪」
にやりと微笑む赤ずきんちゃん。
森の中は鬱蒼として、いまにも何か出てきそうです。
「やあこんにちは。かわいい女の子」
声をかけてきたのは一匹の狼でした。
「こんにちわァ、オオカミさん」
「こんな森の中を、どこへ行くんだい?」
「森の向こうのおばあさんの家よォ」
「ほう……そういえばさっき、きれいな花を見つけたよ。摘んで行ったら、おばあさんが喜ぶんじゃないかな」
「それは名案ねェ……じゃァそうさせてもらうわァ♪」
こうして赤ずきんは道草をしてしまい、その間に狼はおばあさんの家へ先回り。赤ずきんのふりをして扉を開けてもらい、おばあさんをぺろりと食べてしまうのでした。
でも狼は満腹になりません。ついでに赤ずきんも食べてしまおうと、おばあさんの寝間着を身につけてベッドの中へ。
そこへ赤ずきんが訪ねてきました。
「ねェ、おばあさんのお口はどうしてそんなに大きいのォ……?」
「いきなりかい! それはおまえを食ってしまうためさ!」
「きゃあーー!」
ぱくりと飲みこまれてしまう赤ずきん。
「いやあ食った食った。満腹だ」
狼はすっかり満足すると、そのままいびきをかいて寝てしまいました。
そこへ通りかかったのは、猟師(インフィルトレイター)としお!
「いま助けるぞ! バレットストーム!」
としおはガトリング砲を取り出すと、狼もろとも全てを蜂の巣に!
「ふゥ……危ないところだったわァ」
ずだ袋みたいになった狼の死体の中から、赤ずきんが出てきました。
「ケガをしてるね赤ずきんちゃん。この紅ラーを食べて元気を出すといい」
「あらァ、おいしそうォ♪」
こうして赤ずきんは紅茶ラーメンの虜になり、『元祖紅ラー・森の中支店』を開店。行列のできる人気店にまで成長するのでした。
「ああ……さすがとしおさん……♪」
家の裏からひっそり見守る華子さん。
え、おばあさんはどうしたって? どうでもいいじゃありませんか、そんな脇役。
天使、悪魔、人類の三勢力の衝突による決戦が収束して早2年……
長い平穏により、クオンガハラ学園は更に規模が拡大して混沌度が増し、もはや『学園』なのかさえも怪しくなりつつあった。
そんな学園で、創立以来まったく変わることのない唯一の存在が学園長!
一見ダンディな紳士だが、じつは積年の野望があるのだった。
「平和になった今こそ……クオンガハラブランドの商品を全国展開させるのだ! しかも人界だけでなく魔界や天界にまで!」
彼には、いままで『裏』で培ってきた無数のツテやコネがあった。全国ネットの放送局を丸ごと動員し、依頼と称して生徒たちにカメラの前でブランドの商品をプレゼンさせたり実演販売させたり、やりたい放題。配送にはディメンションゲートを利用して、流通も完璧だ。
その主力商品はといえば……もちろん紅茶!
そう、ここは大神聖紅茶帝国の首都アリンドリア。
女帝凜にとっては、学園長も手下の一人に過ぎない。
すべては紅茶のために……そして珈琲を滅ぼすために……。
クオンガハラ学園の学生食堂では、個数限定の絶品プリンをめぐって壮絶なバトルが繰り広げられていた。
飛び交う銃弾と攻撃魔法。刀剣や鈍器がうなり、怒号と悲鳴、血しぶきが舞い散る。
天井から床まで一面血まみれ。惨殺された死体があちこちに転がっている。
食い逃げ少女セセリはとっくに敗れ、頭部と胴体がお別れした状態で死んでいた。
「プリンのためにあそこまでやるって、馬鹿だと思わない?」
「みんなイカれてやがるです。焼肉不足でストレスが溜まってるのです」
他人事みたいに言いながら焼き肉定食を食べる、亜矢とカルーア。
そこへ新たな一団が、血相を変えて乗りこんできた。
「なに? またプリンマニア?」と、亜矢。
「ちがいますわ! ここに盗撮野郎が隠れてるでしょう? 出しなさい!」
リーダーらしき女子が応じた。
話を聞けば、女子更衣室に忍び込んだ男が学食方面に逃げたのだという。
「ここにはプリン争奪戦してる連中しかいないわよ」
「盗撮してからプリンを買いに来たのですわ!」
勝手に決めつけて刃物を抜く女子生徒。
そして号令を合図に、手当たり次第男子生徒を切り刻むアマゾネス軍団!
「みんな落ち着け! 紅ラーを食べて落ち着くんだ! ……と思ったがムリそうなので、この場は逃げる! 再見!」
出てきたとたん、としおは岡持を置いて去って行った。
「命を大事にするとしおさんも素敵……」(華子
帝国歴2564年、核の炎がゲリラ豪雨のごとく降り注いだ。
地表に穿たれたのは、半径500kmに及ぶ巨大なクレーター。
その中心から32kmほど離れた地点に、一人の男が降り立った。
彼の名はプロ=ティン(36)
「おお、今日は何と良き日か! 世の中筋肉があれば生きていける!」
そう豪語するのにはわけがある。
彼は熱心な筋肉教の信者なのだ! 地位はヒラである! ヒーラーって意味じゃなく平社員とかのヒラ!
「筋肉神の加護と神格を身に宿し、我こそが現人神と成らんがために……」
どこからともなく(パンツの中から)プロテインドリンクを取り出し、人体構造上不可能なポーズをとりながら、ハイライトの消えた虚ろな眼差しで天を仰ぐプロ=ティン。そして──
「マッスルハッスル! マッスルハッスル!」
プロテインのボトルを振りかざしながら、謎のコール!
「ウホッ、いい筋肉!」
そこには、ガレキの中から双眼鏡で出歯亀するペルルの姿が!
だがしかし!
「紅茶教以外の宗教は認めませんわ」
女帝凜のセリフとともに16t釘バットが落ちてきて、プロ=ティンの脳天に直撃した。
核爆発にも耐えた筋肉を、釘バットの一撃が無惨に打ち砕く。
宗教を名乗らなければ生き残れたのに……。
「そんな! あたしのマッスルがなの! 女帝ゆるすまじなのぜ!」
怒りに震えるペルル。
次の瞬間、やはり16t釘バットが彼女の脳天をブチ抜いて黙らせた。
陽波透次(
ja0280)は修学旅行に来ていた。
場所はもちろん修学旅行の定番、紅茶帝国の古都キョート。
「なんか金ピカのお寺なのです! 透次も見ろです!」
指差したのは焼肉部長カルーア。
よく日焼けした、活発系少女だ。
「ああ、うん。見てますよ」
ふたりは焼肉弁当を食べていた。
飲み物はもちろん紅茶だ。
そこへ突如襲いかかる鹿型ディアボロ! みんなのトラウマFOEだ!
「部長は僕の後ろへ。ここは任せてください。うおおおおっ、焼肉フィールド全開!」
スタイリッシュ焼肉アクションで、華麗に天魔を葬る透次。しかも得物は、おみやげに買った木刀だ。
「さすが透次なのです!」
カルーアは大喜びだ。
周囲の女子も、うっとり顔で透次を見つめている。
そんな風に自由時間を過ごして、透次たちは昔ながらの温泉旅館へ。
ここでやることは決まっている。温泉と言ったら覗きイベントだ!
「行くぞ、みんな!」
それぞれ遁甲の術や蜃気楼で姿を隠し、女湯の裏へ忍び込む男子たち。撃退士の覗きテクは一味ちがう!
だが女子のほうも撃退士だ。あっさり見つかり袋叩きにされる透次たち。ここまでがお約束と言えよう。
そして夜は枕投げ大会。
消灯後は懐中電灯を持って布団にもぐり、仲の良いクラスメイトたちと「おまえ誰が好きなんだよ」「おまえこそ」みたいな恋バナを。教師が見回りに来れば、素早く寝たフリ。
帰りのバスではカルーアと隣の席だ。
そしてうとうとしたカルーアが透次の肩に持たれかかり、寝息が頬にかかる。
まるで絵に描いたような、THE修学旅行だ。
そこで透次は目を覚ます。
コンビニ焼肉弁当の空き箱やペットボトルが散乱した、ひとりきりの汚部屋で──
大神聖紅茶帝国・ミト地方家庭裁判所。
蓮城真緋呂(
jb6120)は、自己破産の申請手続きをしていた。
あまりに食べ放題ブレイカーしすぎて出入り禁止の店ばかりになり、食費が青天井になった結果のなりゆきだ。
「では判決を言い渡す。主文、原告の請求を棄却。紅茶畑での懲役5年を課す」
「ええっ、なんで!?」
無慈悲な判決に、食ってかかる真緋呂。
「判決理由を述べる。原告は底なしの胃袋を利用して、これまで無数の飲食店を廃業に追い込んできた。多くの店から出入り禁止処分を受けるのも当然。その結果食費がかさみ借金生活になったのも自業自得。食べ物の有り難みを知るため、紅茶畑での強制労働を申しつける」
「紅茶は食べ物じゃないでしょ!」
「紅茶は食べ物じゃない? ならば……これを食べてみろ!」
裁判長が黒い法服を脱ぎ捨てた。
すると現れたのは、ラーメン王としお!
「これは……紅茶ラーメンね!」
「そう、紅茶ラーメンだ! さぁ一杯……ってもう食べてる!?」
「この紅茶と豚骨スープのもぎゅもぎゅ絶妙なバランス、中太ストレート麺のずるずる心地良い喉越し……おかわりよ!」
「気に入ったようだな。紅茶畑で働けば毎日食べ放題だ」
「懲役5年やります! いっそ50年でも!」
こうして紅茶帝国に新たな兵士が加わった。それも飛びきりハングリーな兵士が。
「さすがとしおさん……」
傍聴席から見守る華子は、いつもどおりの華子だった。
「はぁーーーははははははははははははは! ……ふぅ。『は』の連続って結構難しいし疲れるんだねん。平等院ちゃんはスゴイにゃー」
だれにともなく呟くのは、ユリア・スズノミヤ(
ja9826)
周囲は『あっぱれのほほんお天気な日和の草原』だ。
日差しの下、ユリアは銀色の髪を輝かせて草原を歩く。
そして見つけたのは、親友夏雄(
ja0559)の後ろ姿。
「みゅ! なにか体育座りで日向ぼっこしてる子がいるにゃ。おーい、なつえもーん!」
エレガントな外見とギャグ漫画みたいなセリフのギャップがひどいが、ともあれユリアは夏雄に駆け寄った。
そのとたん、ヒールの踵がグキッとな♪
「あいえええ……っ!?」
どーーーん!
夏雄の背中に脳天から激突するユリア。
そのまま、おむすびころりんのごとく斜面を転げ落ちてゆく夏雄。
「こ、これは……やばいにゃん……すっっっごくたのしそうにゃーー!」
親友を突き落としたことなどカケラも反省せず、最高の笑顔を見せるユリア。
そして夏雄の後を追うように斜面へダイブ!
かるい傾斜みたいに言ってるが、80度ぐらいある急斜面だ。というか絶壁である。
ずどぉおおおおん!
ふたりは仲良くもつれあって崖下に転落した。
立ちこめる土埃の中から、夏雄がムクッと起き上がる。
「あいたたた……なにごとだ? 死ぬかと思ったぞ」
「にゃははは。ちょっとした事故事故。気にしないにゃん♪」
「気にするわ! どこだよ、ここ!」
キョロキョロと左右を見まわす夏雄。
その横では、いつのまにかユリアがおにぎりを頬張っている。
「なにを食べてるのかなユリア君……人をこんな崖下に突き落としておいて……」
「見ればわかるでしょ。おにぎりだよ」
「そ・う・い・う・こ・と・を、訊いてるんじゃないんだよー? んー?」
氷のような表情で、夏雄が鉄パイプを突きつけた。
「わ、わかったから落ち着こう? ね? おにぎり半分あげるから!」
「半分?」
「1個丸ごとあげるから!」
という会話のすえ、ふたりは仲良く(?)歩きだした。
なにしろ現在地がわからないため、とりあえず見知った場所をめざして。ところどころに米粒を落として目印にしつつ……。
夕刻。辺り一面が暁色に染まる時間。
静寂に包まれた公園のベンチで、月乃宮恋音(
jb1221)と袋井雅人(
jb1469)は強く抱きあっていた。
それは互いの愛を確かめあうため──だが、いまさら二人の間に疑うものなど何もない。
「恋音、私たちの将来について真剣に話しあいましょう」
「わかりましたぁ……でも、その前にひとつだけ……解決しておきたいことが、あるのですよぉ……」
「おお、なんですか?」
「えとぉ……この特異体質のことですぅ……」
「体質など私は気にしませんよ! さて子供は何人作りましょうか!」
「は、話が早すぎますよぉ……! とりあえず、この体質について『入力』してみましたのでぇ……もしかすると『解決法』が提示されるかも、しれません……」
「でも、これは『小説』ですよ?」
「そうですねぇ……これは失敗でしょうかぁ……? 体型変化を促す薬品の情報についても、知りたかったのですけれどぉ……」
「しょせん人工知能ですよ? 平等院さんが知らないことを答えてくれるはずがありません」
「うぅん……それもそうですねぇ……」
「そんなことより恋音! おっぱいですよ!」
「はい……!?」
「おっぱいです!」
「繰り返さなくても、わかりますよぉぉ……!?」
「そうですか! では今すぐ恋音のおっぱっぴィいいい……っ!?」
両手を突き出した雅人の後頭部を、金属製の鈍器(岡持!)がクリティカルヒットした。
現れたのは、もちろん出前王としお!
「変態死すべし! ラーメン食うべし!」
としおが紅ラーを差し出した。
「え、えとぉ……いただきますぅ……」
撃退士が死ぬ勢いで殴ったのに、岡持から出てきた紅ラーはスープの一滴さえこぼれてなかった。
「さすがとしおさん……♪」
滑り台の陰から見つめる華子。
その足下には、脳挫傷で即死した雅人が!
これは500年ほど昔の話。
現在の大神聖紅茶帝国・ドートンボリ。
その一画に、樒和紗(
jb6970)は暮らしていた。
あるとき、隣家の住人まつさんは、なんとなく思いついて枯れ枝を集めてきて近所の家に放火。近隣一帯を焼きつくす大火災を引き起こした。
まつさんは女帝凜の超高潔紅茶裁判により、戎橋から突き落とされて刑死。
その墓前には、巨大なカニのレプリカが供えられた。
明日羽「うん、このアプリは失敗だね?」
平等院「なにを言うのだ!?」
明日羽「だって全然おもしろくないよ?」
平等院「話はここからだ。いまのは『混ぜ具合1』の出力。次は『混ぜ具合MAX』で行く」
明日羽「最初からそうしておけばよかったんじゃない?」
平等院「このモードで12000字やると、AIが壊れる恐れがあるのだ」
明日羽「いいから早くやってみて?」
平等院「うむ……では行くぞ」
天魔との戦いが収束して、2564年……。天魔の技術応用によってあらゆる環境問題が解決され、地球は核の炎に包まれた。紅茶珈琲戦争の悲しい末路である。女帝凜の築いた帝国も、いまや歴史に名を残すのみ。諸行無常、盛者必衰。
ここは京都の道頓堀。修学旅行の定番として知られる放火の街だ。
降り続ける放射性雨によって奇形化した深海生物めいた何かが蠢く街の中に、一軒のラーメン屋があった。
「へいらっしゃい!」
店の扉を開けると、出迎えるのはラーメン王としお。背後の壁に隠れてひっそり見守るのは、大和撫子・マーベラス華子だ。
「女子野球部の更衣室を盗撮してたヤツが、ここへ逃げこんだと聞いたんだけど」
訊ねる七海はユニフォーム姿で、釘バットを肩に担いでいた。
「見つかっては仕方ありません! 盗撮犯は私ですよ! フオオオオオッ!」
カウンター席でプロテインラーメンを食べていた雅人が、恋音のパンツを顔面にかぶりながらラブコメ仮面へチェンジした。
「ウホッ、いい男!」
テーブルでBLラーメンを啜っていたペルルが、鼻血をたらしながらデジカメを構える。
「いい筋肉ね。盗撮の件は黙っててあげるから野球部に入らない?」
七海は部員集めに必死だった。
相手が犯罪者級の変態だろうと何だろうと贅沢言ってられないのだ。
「待ってください! 野球部ならぜひ僕を! 青春させてください!」
焼肉ラーメンを食べていた透次が手をあげた。
思わぬ新入部員に七海は大喜びだ。
「野球か……いいだろう。俺も多少は覚えがある」
ハードボイルド・ローニアが、ギターをひっさげて店に入ってきた。
「野球なら、おいらもルールぐらいは知ってる。こいつでボールを打てばいいんだろ?」
つづいて夏雄が店にやってきて、鉄パイプを振ってみせた。
「野球ゥ……? おもしろそうじゃないのォ……私もまぜてくれるゥ?」
大鎌を持って現れたのは、レッドシャドー赤ずきん!
「待って、あなたたち。ギターや鉄パイプやデビルブリンガーで打席に入るのは反則よ」
七海が冷静に止めた。
なお彼女が持ってるのは釘バットである。
「こまかいこと気にしたら負けだにゃーん☆」
ユリアが乱入してきて、七海の背中をドーーンと突き飛ばした。
「アバーーッ!?」
カウンターに激突した七海は、ひっくりかえった寸胴鍋のトンコツスープを全身にかぶって重度の火傷により死亡。甲子園の夢は断たれた。
「な、七海ちゃーーん! 一体だれがこんなことを! こうなったら……七海ちゃんのためにも、みんなで甲子園だよ!」
七海を突き飛ばした手を握りしめて、ユリアは誓った。
「「おう!」」
仲間の死によって団結を強めるナインたち。
1番・ラーメン王としお
2番・ストーカー華子
3番・ラブコメ仮面雅人
4番・焼肉教透次
5番・貴腐人ペルル
6番・ギターの達人ローニア
7番・鉄パイプ夏雄
8番・学園最強赤ずきん
9番・殺人犯ユリア
「あのぉ……マネージャーが必要では、ありませんかぁ……?」
どこからともなく恋音が現れた。
「そうね、野球部に美少女マネージャーは欠かせないわよね! 私にまかせて! 部費を横領して食費にあてたりしないから!」
真緋呂は家裁からの帰り道だった。
食べすぎで自己破産した彼女だが、ラーメン屋通いはやめられない。
こうして新生野球部に、ふたりの敏腕マネージャーが加わった。
彼らは更に、響と木葉というマスコットガールを部員として迎え、本格的な活動を開始する。
そんな野球部員たちが(核戦争後の世界で)血と汗と涙を流して甲子園に立つまでの……これは青春スポ根ラノベなのだ!
なおここまで全てが妄想です(便利な言葉)
最後にMSより一言。
みんな、普通に自分が活躍するプレイングを書いてくれえええ!
なお以下4名は本文中で名前を出す機会がありませんでした。
なんだか晒し首みたいだけど、多分こんな体験二度とできませんよ。
黒百合(
ja0422)
雫(
ja1894)
浪風悠人(
ja3452)
アルティミシア(
jc1611)