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マスター:牛男爵
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2016/05/20


みんなの思い出



オープニング


 ここに、ひとりの撃退士がいる。
 名前は秋田小町。その名のとおり、黒い髪に雪のような肌の可愛らしい少女だ。先日久遠ヶ原に入学したばかりの中学生である。
 この日、小町は学園の片隅にたたずむ植物園を、ひとり訪れていた。
 春も深まり、もう初夏と言っていい季節。植物園は色とりどりの花でいっぱいだ。中にはアウルの力で品種改良されたものもあり、久遠ヶ原でしか見られない植物も多い。
 そんな花々をスマホで撮影したりしながら、小町は気ままに園内を散策する。ときおり人の姿を見かけるが、基本的に人影は少ない。静かで落ち着く場所だ。つい先日まで東北の片田舎で暮らしていた小町にとっては、どこか懐かしい空間でもある。

「こんにちは。あなた、新入生?」
「え、そうっすけど」
 ふいに後ろから声をかけられて、小町は振り返った。
 そこに立っていたのは、高等部の制服を着た少女。これといって特徴のない、ごく普通の高校生だ。見た目からして奇人変人の多い久遠ヶ原には珍しいほど、平凡な容姿である。
「ひとりでこんな所に来るなんて、よほど花が好きなの?」
「んですね。ここは色んな花があって面白ぇです」
「ふーん? じゃあもっと面白いの見せてあげようか?」
「あ、見てみたいっす」
「じゃあ、こっち来てくれる? そうそう、あなたの名前は? 私は佐渡乃明日羽」
「秋田小町っす」
「かわいい名前だねぇ?」

 そんな会話をしつつ、小町は明日羽に導かれるまま植物園の奥へ進んでいった。
 鬱蒼とした木々の間を抜けて行くと、じきに現れたのは真っ白なコテージ。
 周囲にはユリの花が咲き乱れ、やわらかな日差しの下で揺れている。

「うわあ……なんだか映画みてぇな眺めっすよ」
 見たこともない光景に、小町はポカーンと口を開けていた。
「これは観賞用だけじゃなくて、球根をお茶にするとおいしいんだけど……飲んでみる?」
「いわゆる百合根っすね。ぜひいただきたいっす」
「じゃあコテージの中へどうぞ?」
「はい。おじゃましまっす!」
 こうして小町は何の警戒心もないまま、やすやすと明日羽の策に落ちたのであった。

 ──数分後。
 そこには完全に酔っ払った小町の姿が。
 明日羽の特製ハーブティーを一口飲んだだけなのだが、効果は抜群だ。
 改良に改良をかさねて開発されたこのハーブは、わずかな量でもアウルの流れを狂わせて判断力や思考力を奪い去り、廃人のようにしてしまう。あらゆる毒物に耐性を持つ撃退士といえども……というよりアウルを保有する撃退士にしか効き目のない特殊なハーブである。

「あ、明日羽さん……なにか、体が……」
「ん? どうしたの?」
「体が……頭が……フラフラして……」
「あら大変。二階にベッドがあるけど、すこし横になる?」
「そ……そうっすね……」
「大丈夫? 歩ける?」
「ムリっす……立てないっす……」
「じゃあ私が運んであげるね?」

 明日羽は軽々と小町をお姫様だっこすると、階段を上っていった。
 その後のことは彼女たちにしかわからない。
 ただ、この日から小町が授業に出てこなくなったのは事実だ。



 数日後。
 ひとりの風紀委員が明日羽のコテージを訪れた。
 黒縁眼鏡に学生服という、いかにも真面目な男子生徒だ。
「えー、佐渡乃さん。単刀直入に訊きますが、秋田小町さんという女生徒を監禁してはいませんか?」
「え? してないよ?」
「このコテージに秋田さんが入っていくのを見たという証言があるんですよ。それ以降、彼女の姿を見た者はいません。まさか監禁でなく殺害したとは言わないでしょうね?」
「監禁とか殺害とか……人聞き悪いよ? ねえ小町?」
 明日羽が呼びかけると、小町が階段を下りてきた。
 すかさず風紀委員が言う。
「秋田さん、無事だったんですね。ご家族や友人が心配してます。寮に帰りましょう」
「帰らねぇっす。オラ、明日羽さんに身も心も捧げるって誓ったっすから」
「な……! まさか佐渡乃さん、彼女を洗脳したんじゃないじゃないでしょうね!?」
「『監禁』『殺害』の次は『洗脳』ねぇ……? ドラマの見過ぎじゃない? 私は何もしてないよ? 小町がここにいたいって言うから置いてるだけなんだけど?」
 しれっと言い返す明日羽。
 無論そんな言葉を信じる者はいない。
「いいでしょう。あなたへの追及は後日として……今日のところは秋田さんを連れ帰らせてもらいます」
「本人が帰りたくないって言ってるんだよ? 無理やり連れて帰るの?」
「そのとおりです。ご家族から頼まれてますので。さぁ帰りましょう、秋田さん」
 風紀委員が小町の手をつかもうとした、そのとき。
 即座に小町が光纏して、闇色の鎖を放った。
「ぬあ……っ!?」
 鎖で雁字搦めにされて、床に転がる風紀委員。
「オラはもう、明日羽さんに一生つかえるって決めたっすから。両親には『小町は死んだ』と伝えてほしいっす」
「なにを馬鹿な……! 考えなおしてください! そこの女は今までに何人もの女生徒を食いものにしてきた悪党ですよ!」
「明日羽さんのことを悪く言うヤツは許さねっす」
 小町が包丁を逆手に持って握りしめた。
 瞳は虚ろで、完全に殺す気である。
「秋田さん、包丁を捨てて! 正気にもどってください!」
「オラは正気っす」
 小町がにじりよった。
 そのまま包丁が振り下ろされようかという瞬間。明日羽が小町の肩をつかんで止めた。
「小町、人を殺したら駄目だよ? ……ほら、そこのあなた? 命が惜しければさっさと逃げてね? 次は止めないよ?」
 明日羽が微笑むと、風紀委員を縛りつけていた鎖が解けた。
「く……っ。わかった、今日のところは引き下がるとしましょう。秋田さんが生きていることを確認できただけでも十分です。……が、ここは久遠ヶ原。本件は『依頼』として処理させてもらいますよ。覚悟するんですね」
 そう言い残すと、風紀委員は足早に去っていった。
 その後ろ姿を見送りながら、明日羽はニッコリ微笑む。
「ねぇ小町? あの人、生徒に依頼するらしいよ? それでもここにいる?」
「もちろんっす。絶対に明日羽さんのそばから離れねぇっす」
「いい子だね? じゃあごほうびあげようか?」
 明日羽は笑顔で小町の肩を抱くと、仲良く二階へ上がっていった。




リプレイ本文



 結論から言うと、この依頼は問題なく成功した。
 が、色々ひどいので覚悟しろ。



 その日、ユリ畑のコテージを袋井雅人(jb1469)が訪れた。
 彼は依頼を受けた内の1人だが、基本的に明日羽の協力者でもある。一方的に悪者扱いされては気の毒と、ケーキ片手に様子見に来たのだ。
「こんにちは明日羽さん。お茶請けにケーキ持参で、お話をしに来ましたよー」
「ん? 小町に用があるんじゃないの?」
「私は明日羽さんの味方ですから! あ、でも依頼を受けた皆さんの邪魔はしませんよ。さぁケーキをどうぞ。小町さんも遠慮なく。ところで飲み物をいただいても良いですか?」
「飲み物? カレーでいいよね?」
「もちろん大歓迎ですよ!」
 というわけで、雅人の前にカレーうどんが出てきた。
「しかもうどん!?」
「カレーもうどんも飲み物だよね?」
「当然ですよ!」
 やけくそみたいに答える雅人。
 明日羽と小町は普通に紅茶を飲み、ケーキをつつく。

 コンコンとドアがノックされて、次に訪れたのは浪風悠人(ja3452)と浪風威鈴(ja8371)だった。
 相手が相手なので事前に綿密な打ち合わせをしてきた二人だが、いきなりカレーうどんをすすってる雅人を見てズッこける。
「ええと……こんにちは。俺は浪風悠人と言います。こちらは妻の威鈴」
「知ってるよ? 小町を連れ戻しに来たんだよね?」
 明日羽が微笑んだ。
 反射的に小町が身構える。
「待ってください、無理に連れ帰る気はありません。ただ少し話を……」
 悠人が慌てて手を振った。
「オラ、話すことは何もねぇっす」
「話を聞いてくれるだけでいいんです。小町さんは東北の出身ですよね? 俺も岐阜の山間で育ったので親近感を感じてるんです。この学園に来たばかりの頃は何もかもが新しくて毎日が輝いて見えました。でも学園生活は天魔との戦いばかり……疲れたときには決まって故郷を思い出します。故郷が天魔に襲われたときは家族が心配になって大急ぎで駆けつけたものですよ」
「なにが言いてぇすか」
「小町さんの田舎って、どんな所でした? 観光名所とか、おいしい名物料理とか」
「山と畑だけっすよ」
「そうですか……両親には死んだと伝えてくれって言ったという話ですけど、本当に故郷や家族はどうでもいいんですか? 田舎はそんなに嫌いでしたか?」
「オラが好きなのは明日羽さんだけっす」
「ずっとここにいなくても、明日羽さんとは学園で一緒にいられますよ」
「夫婦ならずっと一緒にいるもんだべ?」
「それはまぁ……」
 これには悠人も返す言葉がなかった。現に妻と来てるのだ。否定しようがない。
 そんな夫の様子を見て威鈴が言う。
「なんで…そんなに…帰りたく…ないの? 田舎…嫌い…?」
「嫌いっす。一生帰らねっす」
 こう断言されると、悠人にも威鈴にも説得の術がなかった。

 そこへ訪れたのは、月乃宮恋音(jb1221)と咲魔聡一(jb9491)
 しかも聡一は変化の術で女装している。あわよくば明日羽の態度を軟化させようという作戦だ。そうでなくても小町は同性相手のほうが話しやすかろうという配慮である。ただの女装趣味ではない! 女装マニアの変態ではない!
「はじめまして小町ちゃん。咲魔さとりです、よろしくね」
 女声で優しく話しかける聡一。
「また誰か来たっすか」
「ねぇ私の話を聞いてくれないかな。私は小町ちゃんが佐渡乃さんと暮らしたいなら、それでもいいと思う。けど筋は通さないと。大事に育てた娘がいきなり行方不明になってご両親がどれだけ心配したか、わかってあげてほしいな」
「わかりたくもねぇっす」
「でもこうして、小町ちゃんを心配して依頼を出してるわけだし。ノートPCもってきたから、ご両親とビデオ通話してみない? それだけでも安心してもらえると思う」
「よけいなお世話っす」
「じゃあせめて健康診断だけでもさせてくれないかな?」
「オラの体は明日羽さん以外さわらせねぇっす!」
 これは失策だ。明日羽に心酔しきってる小町が、他人の接触など受け入れるわけがない。

「あのぉ……佐渡乃先輩、ちょっといいですかぁ……?」
 小町の説得は難しいと見て、恋音は明日羽に話しかけた。
「ん? 私にも恋音のハマグリ味見させてくれる? あの溢れる潮の味が……」
「え……それはそのぉぉ……!?」
「何の想像してるの? で、今回はどういう作戦?」
「えとぉ……今回の依頼は飽くまでも『小町さんを一度連れ戻す』ことなのですよぉ……。これについては、依頼人の言質も得ておりますぅ……。そこで一度だけ学園に戻るよう、小町さんに言ってくれませんかぁ……?」
「私はタダじゃ動かないよ?」
「ですので、こちらを……」
 恋音はメモ帳を手渡した。
 見るとそこには、『小町を友釣りの餌にして他の新入生を釣る』という作戦が書かれている。これなら風紀委員の警戒をかいくぐれることと、さらに友釣り作戦について恋音が全面協力する旨も記されていた。
「これ無理だよ? 小町がそんな器用なことできると思う?」
「それは、佐渡乃先輩の調教……いえ指導で……」
「うん、これは却下ね? カレー飲んで帰る?」
「うぅ……」
 ガクリと肩を落とす恋音。
「ドンマイですよ恋音!」
 カレーうどんを食べながら、雅人がサムズアップした。
 こうして、恋音と聡一、浪風夫妻にカレーうどんが振る舞われた。
 最初は混入物を警戒したものの、雅人が平気で食べてるのを見て恐る恐る手を出す4人。
 そしてそれは、完全無害なただのカレーうどんなのであった!

「これはまた予想外の情景だねぇ」
 カレーハウスみたいな現場を前に、狩野峰雪(ja0345)は「目の錯覚かな」と呟いて眼鏡をかけた。
 踏みこむ寸前までは『無垢な田舎娘を不法な手段でたらしこむなんて極悪非道だなあ』と思っていた彼も、この光景を見てはテンションダウン甚だしい。
「ん? あなたもカレーうどん飲む?」
 明日羽が問いかけた。
「せっかくだし一杯いただこうか。ところで秋田さんと少し話をしてもいいかな?」
「お好きにどうぞ?」
 明日羽は鷹揚に頷いた。
 峰雪は小町の前に座り、少々困惑しながら話しかける。
「はじめまして秋田さん。もうわかってると思うけど、僕らはきみをここから連れ出すために来たんだ」
「ほっといてくれっす」
「お節介かもしれないけど、助言と思って聞いてほしい。いまのきみみたいに誰かと付き合ってすぐのときは、ずっと一緒にいたい、離れたくないって燃え上がるものだけれど……人間っていうのは面倒でね。必ず飽きる生き物なんだ。はじめは一緒にいるだけで嬉しくても、四六時中一緒にいると、段々ありがたみがなくなっちゃうんだな」
「オラは飽きねぇっす!」
「きみが飽きなくても、佐渡乃さんのほうが飽きて捨てられちゃうかもしれない。大好きで離れたくない気持ちもわかるけど……ここはグッと我慢して、少し距離をおいたりして小出しにしないと。会えない時間に自分磨きをして、次に会うときはまた新鮮な気持ちでね。そうしたら、きみたちの関係も長続きするんじゃないかな」
「長続きしなくてもいいっす。オラは、いま一緒にいたいだけっす」
「刹那的だねぇ」
 これは恋愛なのか崇拝なのか洗脳なのか……と峰雪は無言で呟いた。
 いかに弁舌巧みな峰雪といえど、恋する暴走乙女を説得するのは難しい。

 そして最後に、黒百合(ja0422)と雫(ja1894)が乗りこんできた。
 どちらも最初から殺気満々。話しあう気なのか殺しあう気なのかわからない。
「こんにちはァ、明日羽ちゃん。また愉快なことしてるじゃないのォ……でも面倒ごとは駄目よォ♪」
 にっこり微笑む黒百合。
「本当に面倒ですね。さっさと終わらせて帰りましょう」
 雫のほうは、いつもどおりの無表情。
 そんな二人を前にしても、明日羽は余裕だ。
「ふたりとも、よく来たね? カレーうどん飲む? それともベッドに行く?」
「どちらも結構です。私たちが来た理由はわかってますね?」
 雫は最初から喧嘩腰だった。
 が……
「カレーが目的でしょ? ねぇ袋井君?」と、すっとぼける明日羽。
「もちろんですよ! せっかくだから飲みましょう、雫さん! 黒百合さんも!」
 湯気で白くなった眼鏡をきらめかせ、雅人は拳を振り上げた。
「…………」
 こいつはもう駄目だ……みたいな目を向ける雫。
 その隙に、黒百合は『月下香』を使いつつ小町に近付いた。
 うまく行けば一発で籠絡できる気楽な賭けだが、これは失敗。
 もっとも、失敗は黒百合の仕掛けた策の内だ。これを明日羽が指摘したら、それを利用して反撃する狙いである。
 が、そんなことを明日羽は指摘しない。どうでもいいことだからだ。
 黒百合もそれを悟り、方針を切り替える。
「それにしても明日羽ちゃんはヘタクソねェ……やるならもっとスマートにやりなさいよォ。風紀委員に依頼とか出されて、馬鹿じゃないのォ?」
 明日羽の耳元で、黒百合が囁いた。
「わざとだよ? そうでもしないと黒百合ちゃんたちと会えないでしょ?」
「こっちは特に会いたくないけれどォ?」

「とにかく依頼を遂行します。明日羽さんに訊ねますが、あなたは今までに何件もの事件に関与してますね? ここに証拠があります」
 雫が見せたのは、膨大な『依頼の記録』から抜粋した明日羽の言動だった。
「私は違法なことしてないよ? そんなこと言ったら恋音は校舎を丸ごと押しつぶしてるし、黒百合ちゃんは丘を焼き払ったりしてるよね? 雫ちゃんも凶器で人を殴ってるでしょ?」
「ああ言えばこう言う人ですね……。今後、回答は『はい』か『いいえ』でお願いします」
「うん、雫ちゃんはかわいいよ?」
「わかりました、もう結構です。小町さんに訊きましょう。聞いたところあなたは明日羽さんの悪口を叩いた者に対して危害をくわえようとしたらしいですが……仮に彼女が違法行為を働き警察が敵にまわったとしても同じ行動をとりますか? そして明日羽さんの制止があれば攻撃をやめますか?」
「明日羽さんの敵は皆殺しっすけど、明日羽さんが止めるなら……」
「どうやら完全に洗脳されてますね。明日羽さんには未成年者略取の疑いがありますので司法機関に訴えましょう。いまの応答で、客観的にも小町さんが事実的支配下に置かれていると判断できました」
「雫ちゃんは小町を不幸にしたいの?」
 明日羽が訊ねた。
「不幸にしてるのはあなたです。小町さんが時折でも家族や友人に会うよう説得したらどうです?」
「本人が拒否してるんだよ?」
「家族を棄てるような考えは理解できませんね。そしてあなたは、いいかげんにしませんか? いままでのあなたの行動は問題があっても笑える範囲でしたが、今回は笑えませんよ。本気で心配してる人がいるのですから」
「雫ちゃん怖いよ? ケーキ食べる?」
 説得は空回り気味だった。
 今回の明日羽は少々手強い。

 そんな具合に説得が続く中、威鈴はひっそり潜行しつつ不審なものはないか探していた。
 が……探すまでもない。なにしろ室内には、鞭、蝋燭、手錠、荒縄、注射器から怪しいドラッグ、アダルトな玩具まで、ずらりと揃ってるのだ。むしろ不審でない物のほうが少ない。雅人の自宅よりひどい。
「これは…回収…無理…」
 見慣れぬ道具を前に、赤面する威鈴。
「うん、これは仕方ない。予想を超えてた。危険な飲み物を警戒してたらカレーうどんが出てくるし……」
 悠人の発言にもキレがない。

「香川県民にとって、うどんは合法ドラッグですよ!」
 馴染み深いSMグッズに囲まれて、雅人は無駄に元気だ。
 カレーうどんをおかわりしながら、思いついたように彼は言う。
「そうだ、明日羽さん。小町さんと一緒に小町さんの御家族に会いに行かれてはどうでしょう」
「私が? なんで?」
「小町さんが明日羽さんの琴線に触れたのなら、遺伝子的に小町さんの家族も気に入るかもしれません。小町さん、あなたに姉妹はいませんか? またはお母さんが美人とか」
「高校生の姉がいるっすけど」
「ほら、どうですか明日羽さん。小町さんの家族に会ってみたくありませんか?」
 ここぞとばかりにプッシュする雅人。
 だが明日羽は冷たく笑って応じる。
「あなたたち誰も、小町の家族について調べなかったの? 死んだことにしてでも帰りたくないなんて不自然と思わなかった? どうせ私を悪役にすれば解決だと思った? コメディじゃないんだよ?」

 これはまさか大失敗か……? という空気が流れた。
 が、雫は動じない。
「どうやら話しあいは無駄ですね。あなたが何を言おうと、これは依頼ですので。任務は果たさせてもらいます」
 縮地で間合いをつめると、雫は小町に当て身をくらわせて気絶させた。
 それと同時に、黒百合の弾丸蟲が明日羽を襲う。
 みごとな連携だった。黒百合は最初から、いつでも戦闘準備OKだったのだ。
「このほうが手っ取り早いです」
 ぼそりと呟いて、小町をかっさらう雫。
 明日羽が体勢を立てなおしたとき既に雫と黒百合の姿はなく、小町は奪い去られた後だった。

「ふぅん、結局暴力? 恋音、こういうのどう思う?」
「うぅん……とりあえず一度でも、ご家族に顔を見せれば……」
「そう? まぁ依頼が成功してよかったね?」
 明日羽は紅茶を飲んで微笑んだ。
 その表情に、恋音はイヤな予感を覚える。
「うーん、やっぱり強引に引き離すことになっちゃったねぇ……。かわいそうだし、自主的に離れてくれたら良かったんだけど。秋田さんの心に傷が残らないことを祈るよ」
 峰雪が残念そうに頭を掻いた。
「少々不本意な結末ですが、一度離れて冷静になれば小町ちゃんも元に戻るでしょう」
 もう必要ないのに、女声で言う聡一。
 なかなか徹底した女装ぶりだ。
「ボク…ほとんど…なにも…できなかった…の…」
 威鈴がぽつりと言った。
 もっとも、こんな妖しいSMの館みたいな空間で普通の言動をできるほうがおかしい。
「今回は雫さんと黒百合さんに全部もっていかれちゃったね。いろいろ考えてたのに、ほとんど裏目だよ」
 悠人が威鈴の頭を撫でた。
 そう、この世に話しあいで解決できることなどない。なにごとも暴力で解決するのが一番だ! 雫と黒百合の行動は正しい!
「とにかく一件落着ですね。恋音、せっかくですから明日羽さんのコレクションで遊びませんか?」
 電動マッサージ器を両手に持って、無駄にポーズを決める雅人。
 恋音はフルフルしながら「いまは遠慮しておきますぅ……」と答える。
「『いまは』? ということは、あとで遊ぶんですね?」
「そ、それはそのぉ……」
 依頼が無事解決したこともあり、空気は緩みきっていた。
 ただ恋音だけは不安げな表情を隠せない。



 ともあれこうして小町は無事に救出され、家族のもとに送られた。
 明日羽の言ったとおり、依頼は文句なしに成功だ。
 その翌朝、小町が自室で首を吊って死んでいるのが発見されたが、知ろうとしなければ知らぬままで済むことだ。





依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 赫華Noir・黒百合(ja0422)
 歴戦の戦姫・不破 雫(ja1894)
重体: −
面白かった!:3人

Mr.Goombah・
狩野 峰雪(ja0345)

大学部7年5組 男 インフィルトレイター
赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
おかん・
浪風 悠人(ja3452)

卒業 男 ルインズブレイド
白銀のそよ風・
浪風 威鈴(ja8371)

卒業 女 ナイトウォーカー
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
ラブコメ仮面・
袋井 雅人(jb1469)

大学部4年2組 男 ナイトウォーカー
そして時は動き出す・
咲魔 聡一(jb9491)

大学部2年4組 男 アカシックレコーダー:タイプB