ここは視聴覚室。
照明の落とされた室内に、教員や撃退庁の職員がそろっている。
緊張感の漂う中、プロジェクターの画面にテロップが流れだした。
『突撃・学生インタビュー! 学園に活気を取りもどすには?』
† 雪室チルル(
ja0220)
「やっぱりそう思う? あたいも今の学園には活気がないと思ってたのよ」
廊下を背景に、マイクを突きつけられた物理系少女は賛同した。
「そうね……活気がないってことは元気がないってことでしょ? なら何か元気になることをやればいいのよ! ということで……学園さいきょーを決める『なんとか天下一武闘会』みたいなのを開催すればいいと思うわ!」
「単純だけど盛り上がりそうだね」
相槌を打つのは、撮影者の小筆ノヴェラ。
「でも、ただ殴りあうだけじゃつまらないわ。たとえば学園一大食いのさいきょーとか、学園一カラオケがうまいとか、いろんな形の『さいきょー』を決めればいいと思うの。これなら誰でも自分がさいきょーになれるチャンスがあるってことで……結果的に学園全体の活気が出てくるはず! たぶん! めいびー!」
「学園最強決定戦か。それは一案だね」
「でしょ? あたいってば天才!」
まぁ真のさいきょーはあたいだけどね、と呟くチルル。
その呟きはみんなに聞こえてるけど、まるで気付いてないチルルちゃんなのでした。
†高瀬里桜(
ja0394)
「う〜ん、活気ねぇ……。やっぱり学生らしくバカ騒ぎ!かな。撃退士同士のガチスポーツバトルとか! きつい戦闘ばっかりだと、正直凹むんだよね」
と答える里桜は、校庭にいた。
なにか甘そうなお菓子をかじりながら、彼女は続ける。
「私も封都のときよりは強くなった気がしてたけど、結局あの天使にはかなわなかったー!とか。もっと上手に動けたんじゃないかとか、私ちゃんと役立ってたのかとか……! でも凹んでる姿は仲間に見せられないし……! それに私が凹んでたら仲間を不安にさせるだけだし……やっぱり私は『回復は任せて思いっきり行ってきて!』って皆をささえたいし……!」
「うん、気持ちはわかるよ」
ノヴェラが応じた。
「……とまぁこんな感じで……戦闘後の暇な時間は、うじうじしちゃうんだよー! うじうじしたら、やっぱりスポーツで思いっきり騒いで切り替えたいっ。先生、もっとバカ騒ぎできるようにしてー!」
爆発するような勢いで主張する里桜。
「なるほど、スポーツイベントか……」
画面を見ながら、教師の誰かが呟いた。
† 黒百合(
ja0422)
「活気ねェ……なにか楽しいことでもしてみたらァ♪」
画面の中で、黒百合はニヤリと微笑んだ。
「たとえば?」
と、ノヴェラが訊ねる。
「たとえばァ……学園長の座をかけたバトロワとか、どうかしらァ……。優勝者には『ブレイカー・ザ・ブレイカー』の称号と、学園運営権が4年間あたえられる……とかァ♪」
「ルールはどうするの?」
「そんなの簡単よォ……。『1、撃退士は己の学生証を守り抜かなくてはならない』『2、戦いは1対1が原則』『3、頭部を破壊されたら失格』」
「それ、きみが優勝するためのルールだよね?」
「そんなことないわよォ……『急所攻撃禁止』とか、ルールを決めればいいでしょォ?」
「ルールを守らない生徒もいるよ?」
「『撃退士たるもの威信と名誉を汚してはならない』ってルールを足せばァ?」
「面倒だからルール無用でいいんじゃない? それでこそ久遠ヶ原だよね?」
「あなた教師じゃないのォ? まァルール無用は大歓迎だけどォ……。こんな感じのイベント開催したら、活気が出るんじゃないのォ?」
黒百合の提案は、しばらくのあいだ視聴覚室を騒がせた。
† 下妻笹緒(
ja0544)
「なるほど……学園に活気を取り戻す策、か。それにはまず『なぜ現在活気がなくなっているのか』を考えねばなるまい。そしてその答えはひとつ……『学園がひとつしかないから』に他ならない!」
無駄にポーズを決めて、パンダが言い放った。
「良いかね、いつだって停滞の原因はライバルの不在だ。魅力的な悪役がいるからこそ主人公は成長するし、目の前にハンバーガーショップができたればこそラーメン屋も割引をする。久遠ヶ原学園がマンモス校であるがゆえの弊害が、ついに顕在化してきたということだ」
もっともらしいことを言う笹緒。
だが、次のセリフは説得力皆無だった。
「……であればこそ、いまここにパンダヶ原学園を創立しなければならない! 久遠ヶ原の宿命のライバルとしてのパンダヶ原を! オンリーワンだという油断と傲慢に、いまこそ立ち向かう時がきたのだ!」
「それ生徒1人しかいないんじゃない?」
冷静にノヴェラがツッこんだ。
しかし笹緒は動じない。
「生徒が1人……? よろしい、ならばまずはプランAだ。これによって確実にパンダヶ原生を増やし、ひいては久遠ヶ原の好敵手として……(フェイドアウト
† 龍崎海(
ja0565)
「そうですねぇ……アウルの成長を魔具・魔装の許容量の拡張に重点を置き、購買の通常購入装備の品揃えを多くするとかどうでしょう」
「んん……?」
「現在の学園の方針だと魔具魔装の許容量がほとんど増えないから、強くなっても強力なスキルや装備が使いにくい。これでは基礎能力だけでは天魔にまったく及ばないから、成長してる実感が得にくいと思うんです」
「魔具魔装の許容量は学園の方針ってわけじゃないよ。それが撃退士の限界なんだ」
「なるほど……でも装備品に関しては間違ってませんよね? これが改善されれば、装備が固定化して購買での需要がなくなり経済活動が停滞しがちなのが打破される可能性もありますし。神器や祭器などが研究されているのですから、通常購入装備は更新されてもいいと思うのですけどねぇ」
「つまり購買で買える魔具魔装を増やせってことだね?」
「そのとおりです」
† 雫(
ja1894)
「なにかインタビューをしていると聞いたので亜矢さんたちかと思ったら、派手な酔っ払いが現れたわけですが」
マイクを向けられた雫は、露骨に胡散臭そうな顔になった。
「そうですね……たしかに全体的な活気は薄れてきたと思います。私が学園に来た当初は、依頼が張り出されれば争奪戦が起きるほどでしたから。いまはよほどでないかぎり、依頼を受けるのも悠々です」
「うん、それでどうすればいいと思う?」
ノヴェラが訊いた。
「とりあえず、依頼の報酬と経験を沢山積めば良いと思いますよ。日常を過ごすのにもお金が必要ですし、強くなりたい人は大勢いるわけですから」
「報酬か……それが出来れば苦労しないよねぇ……」
「それはともかく、酔っ払いながらインタビューというのは少々問題だと思いますよ? 取材と称して生徒を自宅に連れ込もうとするのも未成年者略取の疑いがあります。警察を呼んでもいいですか?」
「ははは、なにを言うんだい? 久遠ヶ原に警察は不介入。むしろ僕が警察さ」
「では実際に110番してみましょう」
雫がスマホを取り出した直後、画面は切り替わっていた。
† エイルズレトラ マステリオ(
ja2224)
「今の学園がかつてより活気がない……ですか。そのとおりかもしれませんが、そこまで心配する必要はないと思いますよ」
いつも飄々としているエイルズだが、今回は珍しく真顔だった。
「ようするにこれまでの活気はコミュニティとしての成長期で、今はそれが円熟期に入って安定しているということでしょう。かつての成長期にはたくさんの部活や集団や撃退士が雨後のタケノコみたいに生まれましたが、結果的には活動を止めたり、消えてしまったものも多いでしょう。いま残ってるのは、安定して活動を維持している撃退士や集団ばかりで、新規に増えることが少ないけれど消えるものも少ない」
「達観してるねぇ」
「ええ。天魔との力関係だって、かつての人間界は天界と冥界の間で奪い合いをされるだけの資源に過ぎなかったのに、最近では両陣営も無視できないほどの勢力にまで成長したわけで……つまりは安定軌道に乗ってると……まぁそんな風に思います」
「なるほど。でも安定軌道じゃダメなんだよねぇ」
ノヴェラの言うとおりだった。
活気というものは『安定』からは生まれない。
† 佐藤としお(
ja2489)
「おや? 今日はやけにお客さんが多いね」
調理室を背景に、としおは今日もラーメンの研究に余念がなかった。
画面からでも伝わってくる旨そうな匂いに釣られた客が、次々と調理室を訪れる。
「活気があるね。学園にもこれぐらいの活気がほしいな」と、ノヴェラ。
「活気、ね……あいにくだが、そんなもの知らん」
「え?」
「ちょっと考えればわかるはず。店が良ければ客は来るし、自然と活気も出てくるものだ。活気がないのは客が少ないのか、客が来ても何かに満足がいってないのかのどっちかでしょ? 意見を真摯に受け止め、芯をぶらさず、客の求める期待を上回る営業を心がければ……おのずと道は開ける!」
「学園は飲食店じゃないんだよ?」
「おなじようなものさ。それとて商売は水物。迷ったら原点を見つめなおして再出発……諦めずにコツコツやっていけば良いんじゃないかな?」
取材に応じながらも、としおは淡々とラーメンを作っている。
彼にとって、すべての基準値はラーメンなのだ。
† 九鬼龍磨(
jb8028)
「話は聞いてたよ。そうだよね、なんか最近さみしいよね」
としおのラーメンをすすっていた龍磨が、画面のほうを振り向いた。
コップの水を飲んで、彼は続ける。
「このところ大事件や大作戦が頻発してるのも一因かな。新人さんにしてみたら、重要そうな依頼で足引っ張ると悪いな、って二の足踏むかもでしょ? 天魔との絡みも含めて、できあがってる人間関係には横から首をつっこみにくいし。経験や知人を増やすにしても、最近いわゆる『普通の天魔事件』はあまり学園に来ないし……」
「つまり依頼の敷居が高いってことだね?」
「そう。ここが回らないと部活も参加しにくいでしょ? 学園生活もいいけどそれだけじゃ……って人もいるはずだし、シンプルに戦うことだけを考える機会が必要だよね。撃退庁とかプロ組織との競合もあるだろうけど、斡旋所はもっと小さい事件でも積極的に掲示していいと思う」
「それは良い意見だね。上の人たちに伝えておこう」
視聴覚室の全員に訴えるように、ノヴェラは強く告げた。
† 浪風悠人(
ja3452)&浪風威鈴(
ja8371)
「チャオ、仲良しカップルさん。ちょっとインタビューいいかな?」
廊下を歩いている浪風夫妻を、ノヴェラが呼び止めた。
「ぇと……インタビュー……?」
驚きながら、足を止める威鈴。
そんな彼女を守るように、悠人は一歩前に出る。
「インタビューって、どういう内容ですか?」
「昔のような活気を学園に取りもどす方法さ」
その言葉を聞いて、悠人と威鈴は顔を見合わせた。
すこし考えて、威鈴が答える。
「ボクは……もっとたくさんの一般の人と、交流できたら……と思う」
「お、それは珍しい意見だね」
ノヴェラの声が高くなった。
「久遠ヶ原の生徒も、一般の人と変わらない……っていうことを……広く知ってもらいたいな。……そのためには……農業とか、色々なことを……手伝ったり……? 学園にも一般の人を呼んで……学園生がもてなしたりとかすれば……いいんじゃないかな……」
「うん、一般人との歩み寄りは大切ですよね」
威鈴のセリフを引き継いで、悠人が続けた。
「最近は日本全国で戦闘ばかりが白熱し、人類同士での戦いも起きているのが現状です。一般人が不安や妬みから天魔側につくケースも珍しくありません。俺たち撃退士も学生が主ですし、こんな状況は黙って見てられません」
「たしかに最近もあったよね、怪しい宗教みたいなの」
ノヴェラが同意した。
「ええ。そこで一般人からの理解を得て、かつ僕らも羽を伸ばせる方法として……社会見学や課外授業の名目で林業・農業・漁業などの体験研修に行くというのはどうですか? また逆に、一般の方に久遠ヶ原へ来てもらうという双方向の交流も良いと思います。そういった授業は一般の学校では普通に行われてますし……生徒の気分転換も兼ねつつ、人の出入りが大きくなることで活性化にもつながるのでないかと」
「だよね……。もっと、一般の人たちと……戦う以外での交流が、たくさん欲しい」
悠人が熱弁を振るい、威鈴がうなずいた。
ここまで出てこなかった『一般人との交流』という提案に、視聴覚室が少々ざわめく。
それを代弁するように、ノヴェラが言った。
「僕は支持するけど、一般人を事故に巻きこむ可能性が高いし……上の人たちは簡単に承認しないだろうなぁ」
「やっぱり……難しい、のかな……」
威鈴が声を落とした。
問題提起を残したまま、画面は切り替わる。
† 礼野智美(
ja3600)
「……たしかに、依頼参加に新入生の敷居が高くなってる面は否めないよな。参加者を見てみると、見知った顔ばかりってことも多くなってきたし。大規模にかかわる依頼は難しいのが多いし。新入生歓迎で動く依頼も以前はあったけど……」
剣術部を背景に、マイクを向けられて智美は語りだした。
「あと、大きい事件が起こると関連依頼が多くなって、ほかの依頼を見かける比率が下がることが多いような……ほかの場所でも天魔事件は起きてるんだから、俺自身はできるだけそういった依頼受けるようにしてるけど」
「その行動は評価に値するね。でも関連依頼が増えるのは必然だから、どうしようもないなぁ」
「もちろん理屈はわかってる。だから、昔あったみたいに新人限定の依頼を張り出すとか……あ、でも今だと専攻替えて新人偽装しての参加もありえるから、入学順のほうがいいのかな?」
「参加者を限定するのは両刃の剣なんだよねぇ……新人限定なんて、きみも参加できないだろ?」
「それはまぁ……」
「そういう理由で、新人限定の依頼は淘汰されたわけさ……多分ね」
† 鳳静矢(
ja3856)
『らっこ部』なる部室を舞台に、ラッコの着ぐるみを干している男が映し出された。
ノヴェラが近付いてきたのに気付いて、彼はハッと振り返る。
「おや、小筆教諭。奇遇ですね」
「らっこ部でキミに会うのが『奇遇』?」
「おっと、これは言葉をまちがえましたね。今日は何の用ですか?」
素顔で正面を向く静矢。
ノヴェラが取材の主旨を説明する。
「なるほど、学園に活気を……ですか。言われてみれば去年は運動会も文化祭もなかったし……それらのイベントがあると活気づくかもしれませんね。皆が皆、戦い好きなわけではないですし。私たちはあくまで学生ですから、人類の危機と同じぐらい学園生活を重視している人も多いと思います」
「じゃあ具体的に何をやればいいと思う? この時期に文化祭や運動会はないよね?」
「それはたしかに……。では例えば、教諭陣参加の軽いイベントとかどうですか?」
「どんなイベント?」
「たとえば……学園長を奪いあい確保してゴールをめざす借り物競走とか……学園長を転がして対抗する学長転がしとか……学園長を片手でどこまで飛ばせるか競う学園長投げとか……」
「いいね! それ採用!」
全力で相槌を打つノヴェラ。
視聴覚室は霊園のごとくシンとした空気に包まれた。
† 染井桜花(
ja4386)
学食で、彼女は何かの書類を書いていた。
それを書き上げ、「ふぅ……」と息をついて緑茶に手をのばした瞬間
「チャオ、小筆先生の突撃インタビュー♪」
と、マイクが差し出された。
「……なに?」
「『なに?』じゃなくて! いまの学園を盛り上げるにはどうしたらいいと思う? さぁ答えて!」
「……また突然な……。まぁ思いつかないこともないが……」
「いいね! じゃあ教えて!」
「……そうだな……とある依頼で、思うところがあった」
前置きして桜花が語りだしたのは、『撃退士になりたいと切望しながらも撃退士になれない女』の話だった。
「……力がないがゆえに……彼女は、悔しがっていた」
「うんうん、それで?」
「……望むならば……彼女のような一般人に、術を得る機会を与えても……良いと思う。……そのために、学園を一般解放する日なども……あってもいい気がする」
「ふーん、一般人との交流っていうのは需要が高いのかな」
「……需要は、知らない……ただ思っただけ」
短く告げると、桜花は視線をそらして茶をすすった。
† 月乃宮恋音(
jb1221)&袋井雅人(
jb1469)
背景は学園事務局。
誰も彼もが忙しそうに立ち働く中、恋音も書類が山積みされた事務机の前に座ってインタビューを受けている。
「学園に活気を……ですかぁ……? うぅん……」
「難しく考えなくていいよ。意見を聞きたいだけなんだ」
「そうですねぇ……昨年半ばごろから、文化祭や修学旅行などの学生らしいイベントが多数中止……もしくは無期延期になっていることが、気になるといえば気になりますぅ……。あくまでも、ここは『学園』ですのでぇ……学生らしいことができなければ『学園として』盛り上がらないと思うのですよぉ……」
「それは言えるね。久遠ヶ原は軍隊じゃないんだ。僕も戦争は好きじゃない」
「もちろん、天魔との戦いが避けられないのは、わかってますけれど……。そういったシビアな依頼の場で、一部の方々が無闇にマナーを要求して、新入生さんが定着しにくい状態になっているというのも、問題ではないかとぉ……」
「マナーか、それは難しいね」
「ですのでぇ……学園側から何か、告知があればと思うのですよぉ……」
「それは無理だよ。ほかならぬ学園長が『依頼に参加したら挨拶ぐらいはしてほしい』みたいなこと言ってるわけだし」
「ですよねぇ……うぅん……」
「そこで私の出番ですよ! ふおおおおっ!」
なんの前触れもなく、恋音のおっぱいを揉みながら雅人が登場した。
顔面には女子用パンツ。股間には男子用ブリーフ。ほかには何も身につけてない!
こんな変態が一般社会に出現したら事件だが、久遠ヶ原ではいつものことだ。事務局の人たちも、『あぁまたか……』みたいな顔である。
「で? なにが袋井君の出番なの?」
ノヴェラが訊ねた。
「ここは私にまかせてください! いますぐ学園を元気にするには……『ラブコメイベント』と『ちょっとHなイベント』をやればいいんじゃないでしょうか!」
「具体的にどうするの?」
「ええとですね、簡単に言うならば……お見合いとお花見と温泉とマジックミラーと修学旅行と体育祭と文化祭をごちゃ混ぜにして、ひとつの巨大イベントにしちゃえばいいと思います! 学園生なのだから健全に全力で性春……じゃなくて青春をすればいいんじゃないでしょうか!」
「一見メチャクチャな提案だけど、色々なイベントを混ぜるのは面白いね」
「そのとおりですよ! とくにマジックミラー号が重要です!」
「うん、その話はまた今度ね」
† エルディン(
jb2504)
「道に迷える子羊さん、いらっしゃいませ」
画面に映ったのは、こぢんまりとした教会とイケメン神父だった。
その『いかにも』な素敵スマイルに、画面を見つめる女性陣から熱い吐息が漏れる。
「学園に活気がなくなった、意欲がなくなった……わかります。なにごとにおいても、モチベーションを保ち続けるのは難しいものです。やりたいことをやりつくした、友達と仲違いした、ここ最近のハードさについていけない、友達ができない……等々、引退する理由は無数にあるでしょう」
「うんうん。だから、その対策があれば教えてほしいんだ」と、ノヴェラ。
「そうですね……すべてのニーズに応えるのは無理ですが、心の内を吐露できる場所を設置してはいかがでしょう」
「この教会みたいな?」
「ええ。それから新入生にも配慮があると良いかもしれません。自分が依頼で役に立ったのか、足を引っ張ってないかなど、新人であれば特に気になるものでしょう? 人間だれでも自己顕示欲はあります。これは一案ですが……たとえば学園新聞などで、初依頼を受けた学生の特集を組んでみてはどうですか?」
「はじめてのおつかい、みたいで面白いかもね」
そんな生やさしいものじゃないだろ……と、視聴覚室の誰かが呟いた。
† 黄昏ひりょ(
jb3452)
「各地での戦いが激化してきて、大きな戦いもかなりの頻度で発生している。現地の人々の命がかかっているから、無視できない戦いではあるけど……」
画面の中で、ひりょは少し疲れたように顔を伏せた。
その姿勢のまま彼は言葉をつなげる。
「……本来、戦いが好きではない撃退士もいる。そんな中、学園が戦い一色に染まってしまうのは正直ちょっとな……と思うんだ。最近は学園行事も戦いを優先した感じになってきてるし。たとえば去年なんかは進級試験のあとダンスパーティーとかもあったのに、今年は何もなしだった」
「そういう意見はわりと多いね」
ノヴェラが同意した。
「戦いばかりじゃ、心が荒んで疲れ果ててしまうんじゃないかな。ときには息抜きも大事だと思う。こうも戦いが続くと、何のために戦うのかってことを忘れそうになるよ。本来俺たちは平和と平穏のために戦ってるはずなのに……。こんな状況だからこそ、もっと息抜きできることがほしいと思う。馬鹿騒ぎだって時には必要だよ。なにごともメリハリじゃないかな?」
「いいね。馬鹿騒ぎは僕も好きだし、上にかけあってみよう」
† ラファル A ユーティライネン(
jb4620)
「俺に用があるってのはノヴェラちゃんかい」
学園最凶メカ撃退士ラファルちゃんは、医療施設みたいな場所で分娩台みたいなものに乗せられていた。
「なにやってるの?」
ビデオカメラをまわしながら、ラファルの下半身を覗きこむノヴェラ。
「見ればわかるだろ! 義体の耐久試験だよ!」
「出産の耐久試験?」
「ちがうっての! なにしに来たんだよおまえ!」
「生徒のみんなに、学園を盛り上げる名案を聞いてまわってるんだ。なにかない?」
「学園を盛り上げるだと? だったら、いますぐ学園を爆破すればいい」
そう言って、ラファルはゲラゲラ笑った。
どうやらかなりご機嫌ななめらしい。
「爆破? それは僕も得意だけど……理由は?」
「簡単さ。世界唯一の学園が爆破されれば、世界中から復興支援が届いて復興特需が起こる。ボランティアどもも大勢やってきて、出会いも増える。くそつまんねぇ訓練から解放されて俺が嬉しいと、良いことづくめじゃねーか」
「名案だけど、学園全体を破壊するには核兵器が必要だね」
「学園の科学力なら楽勝で作れるだろ」
「自分で作って自分で爆破するの? それ何てアート?」
「つべこべうるせー! 全部爆破しちまえばいいんだよ!」
それ以上は取材にならなかった。
† 蓮城真緋呂(
jb6120)
「え? 『若者の依頼離れ』? 『学園の依頼離れ』の間違いでしょ。教室の掲示板スッカスカのとき多いし」
いきなりメタなことを言いだす真緋呂。
画面を見つめる学園経営陣の間に、緊張感が張りつめる。
「まぁそれはさておき……活気がない理由はズバリ、『おなかがへってるから』よ!」
そのセリフには、経営陣たちもズッこけた。
「いい? 人間に限らず天魔だってエネルギーがなきゃ動けないわ。だからこそ、しりあすな陣取り合戦しちゃうんだし。天魔の人間界侵攻も突き詰めればごはん獲得のためでしょ? 生物は糧を得るために活動し、糧を得て活発になるのよ」
「つまり蓮城君は何が言いたいのかな」
「ようするに『おなかすいたからごはん奢って』って言いたいの。朝から3人前しか食べてなくて……もう餓死寸前」
「じゃあ僕とデートする? いくらでも奢るよ?」
「そういう趣味はないから! ……でも『いくらでも奢ってくれる』なら……ちょっと考えさせて。……そうそう、食べ物に限らず私たちは学生なんだし、最近の久遠ヶ原には『学生らしさ』が枯渇してると思う。端的に言えば文化祭とかバレンタインとか、学園側露骨に手抜きしたし。ほかにも運動会とか修学旅行とか進級試験とか……」
ノヴェラは逃げだした!
† 川澄文歌(
jb7507)
「学園に活気を取り戻す、ですか? 色々なニーズに答えようとした結果,学園の連帯感が減ってしまったのが一因かも……」
文歌は真剣な表情で答えた。
「うん、それで何か名案はない?」と、ノヴェラ。
「そうですね……これを機に新しい校歌を作るのはどうでしょう。歌はみんなの心をひとつにしてくれると思うんです」
「歌はいいね。心を潤してくれる。リリンの(ry」
「ではさっそく、歌詞集めとHPにアップする際のPV作成に取りかかりましょう。こう見えてもアイドルですから、音楽や映像関連の機材はそろってますよ。完成したら入学案内のパンフレットに掲載です」
「あー、それは上の人たちに相談してみないと」
「そんな悠長なことをしてるヒマはありません。学園に活気を取りもどすため、思い立ったら即行動です」
「キミみたいな子ばかりなら、学園も活気に満ちるんだろうなぁ」
ノヴェラの言うとおりだが、校歌を差し替えるのはさすがに無理だった。
† 咲魔聡一(
jb9491)
「やはり現状では32倍が限界か……スキルの強化に使うには、もっと効果を高めなければ……。試薬の濃度を濃くしてみようか? しかしそれでは浸透圧が……」
演劇部の片隅で、聡一は何かぶつぶつ言っていた。
そこへ唐突にノヴェラがマイクをつきつける。
「……あ、取材ですか? いいですよ。……学園に活気を取りもどす方法、ですか? ふむ、そうですね……」
急に真面目な顔になって、聡一は考えこんだ。
そしてふと思いついたように言う。
「そういえば、友人たちの間で『そろそろこの戦争も終わるんじゃないか』って噂が起きたことがあったな。それで士気が下がってるのも原因の一つなんじゃないですかね。……正直、戦争が終わるのは恐ろしいです。天魔である僕に安寧の地などありませんから」
「そういう人もいるんだね。じゃあどうすればいいと思う?」
「解決策ですか……まあ色々あるだろうけど、個人的には風の便りに聞くアカレコの新たなスキルを早く解禁してほしいですね。新しいジョブやスキルの解禁は、そのたびに学園を賑わしてくれましたし」
「アーティストのスキルもね」
「まったくですよ」
† 不知火あけび(
jc1857)&不知火藤忠(
jc2194)
藤忠は、一升瓶片手に学園の中庭を歩いていた。
隣でイチゴのムースを食べているのは、妹分のあけび。
そこへノヴェラが突撃した。
「チャオ。昼間から日本酒かい? いいねえ♪」
「ああ。昼から飲む酒は格別だ。そう言うおまえも飲んでるようだが、なんだそれは」
藤忠がノヴェラの手元を指差した。
「これは撃退酒。僕たちが手軽に酔っぱらうための発明品さ」
「ほう、この酒と一杯交換しないか?」
「うん、しようしよう」
「ふむ……撃退酒とやらもうまいな。今度、秘蔵の日本酒を持ってきてやろう」
などと、昼間っから酒盛りをはじめる二人。
インタビューはどうしたと、視聴覚室の面々がざわつきだす。
が、それより先にあけびのツッコミが入った。
「えーと、先生? なにか話を聞きに来たんじゃないんですか??」
「あ、そうだったね」
ノヴェラが経緯を説明した。
あけびは真面目な顔で答える。
「若者の依頼離れ、ですか? 私もこの秋に入ったばかりの新参なんですけど、難しそうな依頼ってどのぐらいのレベルから行っていいんですか? 友達は『レベルより協力が大事』って言ってたけど、他人の足を引っ張るのはイヤだし……」
「そんなこと気にしなくていいんだよ?」
「そう言われても……。あと、学園の施設って複雑で迷いやすいですよね。あとから適当に施設を付け足していったのかな。姫叔父に学園を案内するだけでも一苦労です」
ちら、とあけびは叔父のほうへ視線を向けた。
藤忠は酒をあおりながら答える。
「学園に活気が……と言われても、俺は入学したばかりなんだが……(ごくごく)そうだな、たとえば教師が依頼を企画したらどうだ? 戦闘依頼ばかりだと尻込みする奴もいるだろ。費用が学園持ちなら教師陣も思う存分欲望を解放できるんじゃないのか(ぐびぐび)あるいはインパクトのある非日常系のイベント……中身が入れ替わるとか皆動物になるとか、若者は飛びつくんじゃ……(ごきゅごきゅ)……え、もうやってる? どんな学園なんだ、ここは! もう面倒だ、カジノでも作って金を巻き上げリゾートにしろ!」
「姫叔父! 一升瓶二本目は駄目ですってばー!」
† 小宮雅春(
jc2177)
「忌憚のない意見を、とのことですから正直に申し上げましょう」
カメラの前で芝居がかったポーズを決めると、雅春は演説口調で語りだした。
「いいですか、教室に張り出されている依頼を見てもごらんなさい、『難しい』『非常に難しい』の山ではないですか! 我々には絶対的に経験が足りないのです。『難しい』が半分あるだけで選択肢が半分消えるのですよ。これではハナから素人おことわりではないですか。先生がたは、新人の我々にそんな依頼がこなせるとお思いですか? それともスクールソードで突撃を敢行して死ねと仰せですか?」
「新人でも『難しい』依頼に参加していいんだよ?」
「私が言いたいのは、そういうことではありません!」
「どういうことが言いたいの?」
「つまり……私が言いたいのは、新人への裾野を広げるべきだということです。まして、若葉マークのついた依頼など私はただの一度も(略」
無駄に熱烈な雅春の演説は、学園のおえらい方々の心に深く訴えるものがあった……か否かは定かでない。
──視聴覚室に照明が灯った。
さまざまなインタビュー映像を見て、学園運営陣の誰もが口々に語りだす。
もっと新入生に配慮すべきとか、学園主導のイベントを増やすべきとか、百家争鳴。
だが結局、解決案は出てこない。
だれもがわかっているとおり、それは生徒が導き出すほかないのだ!