巨大な食虫植物が暴れる花園。
その騒ぎを敏感に察知して真っ先に駆けつけたのは、焔・楓(
ja7214)だった。
「あややっ? なにか新しいアトラクションみたいで面白そうなのだ♪ あたしも参加するのだー♪」
ウズボカズラの中で溺れる百合華の姿を見て、楓はスキップしながら走りだした。どうやら何か新しい遊具だと思い込んでいるらしい。
そんな楓を、頭上から襲いかかる巨大ハエトリグサが素早くバックリ。
だが、ぎりぎりのところで楓は左右からのギザギザな葉っぱを両腕で押さえている。
「むむむっ。植物さんだけど力強いのだ。でも簡単には負けないよ! 力比べなのだ♪」
獲物をサンドイッチしようとするハエトリグサと、それを阻止する楓の間で、熾烈なパワー合戦が始まった。
そこへ到着したのは、月乃宮恋音(
jb1221)
彼女は明日羽の使っている『養純水』に関して素人ではない。そもそもは彼女の特異体質の研究から生み出された副産物なのだから。逆に言えば『元凶』でさえある。
「こんなときのために……中和剤は常備してますよぉ……」
ハエトリグサに捕まった楓も危ないが、それ以上に百合華の身が危険と判断して、迷わずウツボカズラに突撃する恋音。その手に握られた銀色の十字架から光の爪が──と見えた直後、恋音の足下に這い寄ったモウセンゴケの先端が足首を捉えてパチンコ玉みたいに弾き飛ばした。
「えええええ……っ!?」
ウツボカズラへの突入コースに乗せられた恋音は、空中で回転しながらも中和剤を取り出した。
そして百合華と同じ消化液の中へ落下した瞬間、薬品をぶちまける。
たちまち消化液は変質し、衣服を溶かすと同時に何か怪しげな効果が発生。
「あぁ……百合華さん……」
「恋音さん……」
とか囁きあいながら、粘液まみれで絡みあう巨乳少女ふたり。
その激しさには、ウツボカズラも赤面するほどだ。
そんな状況をビデオカメラで撮影するのは、袋井雅人(
jb1469)
今日は『明日羽の協力者』として、最初からラブコメ仮面での登場だ。
「今回は明日羽さんからのお仕事なので、冷静に自分の役目をこなしますよ」
「そんな仕事たのんでないけど?」
「おっと、そうでした。私が自発的にやってるだけでした……おおっ、これはなかなか! 明日羽さん、いい感じで撮れてますよ!」
「あなたは撃退士よりAV監督になるべきじゃない?」
「AV監督の仕事を甘く見てはいけませんよ!」
本気で反論する雅人。
いやもう名前からして天職なんだけどな。
「悪い子はここかー!」
まじめな顔で大剣を担ぎながら、恵夢・S・インファネス(
ja8446)がやってきた。
この状況! かつて幾度となく食虫植物との戦いを演じてきた彼女にだけ、わかることがある! 『食虫植物は危ないよ!』という事実だ!
「こんな危ない実験を見過ごすわけにいかない! 月にかわっておしおきよ!」
ビシッとポーズを決めて、明日羽を指差す恵夢。
「ふーん? やれるものならどうぞ?」
「ふ……、食虫植物との戦いなら何度も経験してる。楽勝よ!……まぁ半分くらい覚えてないけど!」
恵夢の『対食虫植物戦』は、過去3戦して全敗だった。しかも戦闘後はだいたい記憶がなくなってる始末。
そんなあまり役に立たない経験をもとに、とりあえず手近のモウセンゴケから倒してやろうと恵夢は大剣を振りまわして接近した。
重い胸部が良い感じのカウンターウェイトになって、ぶんまわされた剣の切っ先がモウセンゴケをバッサリ──やったと思った瞬間、ネバネバする蔓が恵夢の腕ごと剣を絡め取った。
と同時に足首を蔓に捕まれて、逆さ吊りにされてしまう恵夢。
「あひゃああああっ!?」
とっさにスカートの裾をおさえてパンモロを防ぐ恵夢だが、雅人はキッチリ撮影している。
「いいですねー。今日は良い絵が撮れそうですよ、明日羽さん!」
この男は一体なにしに来たんだろう。
……あ、AVの撮影か。
「ふむ……体長5mといったところか。見た目はそれぞれの品種を相似拡大したようだけど、力はどう見てもそれ以上……」
などと呟きながら、咲魔聡一(
jb9491)は巨大植物をスケッチしていた。
どうやら戦う気はないらしい。
「そもそも、あの形を拡大させただけでは自重で潰れてしまうはずだ。自意識を持っているようだが、視力も聴力もないはずなのに一体どうやって獲物の居場所を……? うぅむ、謎は尽きないな……」
学者みたいな顔つきで、真剣にスケッチを続ける総一。
ちなみに恵夢はモウセンゴケで両脚を縛られ粘液まみれの逆さ吊りに
百合華と恋音はウツボカズラの中で粘液プールに
楓はハエトリグサとのパワー勝負に敗れて上半身をパックリされて痙攣なう
「ちっ、食われてる連中が邪魔だな……素の状態を記録したいのに」
救出に向かうどころか、舌打ちして鉛筆を走らせる聡一。
マッドサイエンティストの素質があるかもしれない。
その横でビデオカメラまわしてる雅人も雅人だし……まともな撃退士がいない!
だがここで、久遠ヶ原きっての良識派・ユウ(
jb5639)が華麗に参上。
この混沌を収拾すべく、いそいそとお茶の用意をはじめるのだった。……え? お茶!?
「重体の身では皆さんの足を引っ張ってしまいますし、今回はサポートに回らせてもらいますね。よろしければ皆さん、温かい紅茶とコーヒーをどうぞ。お菓子もありますので遠慮なく」
手際よくテーブルセットをととのえ、カップやポットを並べるユウ。
でも状況は前述どおりなので、お茶の余裕があるのは明日羽だけだ。
「へぇ、なかなか良いお茶だね?」
「ありがとうございます。……ところで、植物を操るなんて凄いですね。どうやって命令を遵守させているんですか?」
「アウルで操作してるだけだよ?」
「そんなことできるんですか……。でも危険じゃありませんか?」
ユウの言うとおりだった。
恵夢と楓は食虫植物に捕まってビクンビクンしてるし、百合華と恋音は言わずもがな。
「じゃあ助けに行けば?」
「最終的には物質透過でと思ってますけど……戦闘(?)をたのしんでいる(?)人もいるようなので、今しばらく様子を見るべきかと」
そう言うと、ユウは自ら紅茶をいれて椅子に腰かけた。
その隣に、雅人が腰を下ろす。
「ところで明日羽さん、ちょっと聞きたいことがあるのですがいいですか?」
「ん? なに?」
「明日羽さんが男嫌いなのは知ってますが、美少年や美青年でもまったく興味ないのでしょうか? それと女子ならデブでもマッチョでもオールOKなのですか?」
「両方イエスかな? デブだろうと何だろうと、たのしみかたはあるでしょ?」
「おおっ、さすが真性サディスティックレズの明日羽さんですね! 今後も協力を惜しみませんよ!」
なにやら一人で納得する雅人。
それはともかく、戦闘要員が一人もいないのだが……
と思った矢先、聡一がスケッチブックを置いて飛び出した。
「天魔でもないただの植物が一体どうやって獲物の場所を判断してるのか……くらえッ! 半径10メートル木の葉隠れをーッ!」
無数の木の葉が舞い散り、楓と恵夢を巻きこみながらハエトリグサとモウセンゴケを攻撃した。
「ひああ……っ!?」
認識障害に陥る、楓と恵夢。
肝腎の食虫植物はといえば、ノーダメージで聡一に襲いかかる。
「なに……!?」
鞭のようなモウセンゴケの一撃を回避して、聡一は身構えた。
「どういうことだ……? ハエトリグサの補虫網なんかは従来通り感覚毛に触れることでジャスモン酸グルコシドが(以下数百字略)だろう。しかし何故、本来は動く獲物を待ち構えるだけの植物たちが本体ごと追ってくる? オジギソウのような膨圧運動か? それとも太陽を向くヒマワリのように成長によるものだろうか? それとも(以下数千字略)」
ともあれどうやって動いてるのか確かめようと、聡一は麻酔毒の注射器を取り出した。
その瞬間、背後から忍び寄ったハエトリグサが聡一を頭からバックリ。透過することも忘れて、聡一は消化液を浴びてしまうのであった。
これはいよいよ全滅かと思われた、そのとき。
満を持して登場したのは、染井桜花(
ja4386)
「……待たせたな……さあ、遊ぼうか?」
駆けつけるなり、桜花は光纏して『心技・獣心一体』を発動させた。
そのまま風のごとく走り寄り、手にした大剣で無造作にモウセンゴケを斬り飛ばす。
宙吊りにされていた恵夢が地面に落ちて、「ふにゃっ!?」という声を上げた。
それを一瞥もせず、次々と襲いかかる蔓を片っ端から斬り落とす桜花。
背後に忍び寄るハエトリグサも回転斬りで退け、ついでとばかりにウツボカズラの茎も滅多斬りに。
捕まっていた百合華と恋音、楓の3人が解放されて地面に転がった。
「うぅぅ……ひどい目にあいましたぁ……大丈夫ですか、百合華さん」
服を溶かされてドロドロ状態の恋音は、消化液に含まれていた薬品やら体質やらの影響で、巨大な風船状の肉球と化していた。
「し、しぬかと思いましたぁぁ……」
百合華も同じく肉団子みたいになって地面をコロコロしている。
このふたりはもう駄目だ。完全に戦力外である。
でも桜花が一人で獣みたいに暴れまわってるので、ほかの戦力は必要ないほどだ。敵に囲まれれば斧槍に持ち替えて『円舞・輪切』で竜巻のように薙ぎ倒し、さらに斧槍を使って棒高跳びの要領で跳び上がり空中からの散弾銃乱れ撃ち。
そもそも相手はただデカいだけの植物なので、撃退士が本気だしたら秒殺だ。
むしろ鍛錬代わりに丁度良いというか……桜花のレベルでは鍛錬にもならない。
いじめよくない! まじめに戦ったら即終了って言ったのにいいい!
その後の桜花は、まさに鬼だった。
動きの鈍い植物相手に『神速』からのスマッシュ。
斧槍で相手を突き刺して地面にガンガン叩きつけたあと他の敵に投げ飛ばしたりと、やりたい放題。
だが──
「それ以上やらせませんよ!」
ラブコメ仮面雅人が桜花の前に立ちふさがり、食虫植物たちにヒールをかけた。
予想外のことに、思わず桜花は立ち止まる。
「……どういう、つもり?」
「今日の私は全面的に明日羽さんの協力者です。ふおおおおっ!」
「……ならば……まとめて倒すまで」
相手に不足なしとばかりに、斧槍をかまえる桜花。
そこへ、いきなりの封砲がぶちこまれた。
なんと恵夢の攻撃である。
「はぁはぁ……こんなに(きもち)いいこたちをたおすなんて……とんでもない」
粘液まみれで全身を火照らせつつ、恵夢は大剣を担いでいた。
どうやら過去の戦績と同じく闇落ちパターンだが、今回は味方が多いのでタチが悪い。
「……正気を……取りもどさせて、あげる」
剣を杖がわりにして、桜花が立ち上がった。
「どうやら彼らには治療(物理)が必要なようだ」
消化液まみれのまま、半裸で巨大注射器を装備する聡一。
「うー、なにかベトベトするー。……って、遊びの時間はもう終わり? 終わり? それじゃあ刈り取りの時間なのだー♪」
楓も同じく着衣を溶かされて半裸……というかほぼすっぽんぽんの状態だが、いっさい気にせずカッターナイフをブンブンさせている。
というわけで、陣営はこうなった。
雅人、恵夢、明日羽、食虫植物群 VS 桜花、聡一、楓、(恋音、百合華)
「お、おぉ……? あきらかに私たちが不利ですよぉぉ……!?」
巨大な肉塊となって身動きできないまま、恋音が訴えた。
今回なにもしてないな、この魔王。
「あ、支援が必要な場合は言ってください。皆さんの邪魔にならない範囲でお手伝いしますので」
のんびり言いながら、ユウはティーカップをかたむけている。
が、その隙をついて足下に迫るモウセンゴケ。
「はっ!?」
ユウは立ち上がり、間一髪で回避──と思ったが、重体の身では無理だった。っていうかファンブルした。
たちまち全身を絡め取られ、粘つく蔓で簀巻きにされてしまうユウ。
「え……えええ……!?」
なにか諦めの表情でされるがままになってるけど、物質透過を忘れてやしませんか。
ともあれ、最終決戦が始まった。
明日羽がパキッと指を鳴らしたとたん、植物園のあちこちから巨大な植物や昆虫が押し寄せてくる。
いずれも天魔ではないが、相当な数だ。
「……おいで……まとめて遊んであげる」
嬉しそうな口調で、桜花が氷の微笑を浮かべた。
「いきますよ! ふおおおおおっ!」
顔面のパンツ(女子用)をかぶりなおし、気合とともに突撃する雅人。
その背中に恵夢の封砲が撃ち込まれ、雅人と桜花は一緒になって吹っ飛んだ。
「ふォおおおおッ!?」
「男は無用!」
堂々と言い放ち、半裸で仁王立ちになる恵夢。
味方殺しは重罪だが、いまの彼女は正気を失ってるので仕方ない。いつものことなので仕方ない!
「こういうのって、葉っぱを切るより根本から引き抜いちゃうほうがいいのかな? かな?」
楓は元気よく走りまわりながら、食虫植物の根っこをつかんで引き抜こうとしていた。
しかし普通にモウセンゴケにつかまり、巨大な蟻地獄の巣へシュート!
「なになにこれー! こんなのまでいたのー!?」
なすすべもなく砂の中へ埋もれてしまう楓。
対植物陣営は、あっというまに聡一ひとりだ。
「こうなれば……勝負だ、食虫植物め! 僕の植物とどちらが強いか確かめてやる!」
聡一が発動させたのは、『食虫植物の祭典』だった。
文字どおり、アウルの力を食虫植物の器官と化して攻撃する束縛技である。
その一撃はみごとにハエトリグサをとらえ、動きを封じることに成功した。
「よし、僕の勝ちだ!」
そう言った直後、全身に食虫植物をまとった恵夢が走り寄り、普通に聡一をブン殴ってKOしたのであった。
「くりかえす! 男は無用!」
パチパチと明日羽が拍手した。
気がつけば、動けるのは彼女と恵夢だけである。
「みんな片付けた? じゃあごほうびあげるね?」
明日羽が恵夢の肩に手を置いた。
そのとたん、ハッと我に返る恵夢。
「え……!? まさか、これ私が……!?」
「覚えてないの? 全部あなたがやったんだよ?」
「そ、そんな……!」
あわてて周囲を見回す恵夢。
だが、そのとき既に巨大植物や昆虫の群れは跡形もなく撤収しているのであった。
残されたのは、血まみれ粘液まみれで倒れた撃退士たちと、荒れ果てた植物園だけである。
「だまされてはいけませんよぉぉ……やったのは明日羽先輩ですぅぅ……」
地面をコロコロしながら、恋音が声を張り上げた。
「ん? 証拠があるの?」
「こんなことする人、ほかにいませんん……!」
「この学園になら、ほかにもいるでしょ?」
「うぅ……言われてみると、否定が……」
「うんうん、じゃあ後片付けよろしくね? 私は恵夢ちゃんとおうちで遊ぶから、ね?」
そう言うと、明日羽は恵夢のほうに甘い視線を向けた。
その後のなりゆきは一切不明である。