ストレス解消! エコ発電!
あなたの撃退力が電力に!
発電パンチングマシン・ソニックブレイクマン登場!
というポップとともに、謎の機械が学園随所に設置されていた。
が、唐突に出現したその機械に、ヒマな……もとい地球環境に関心のある学生たちは興味を引かれてしまうのだった。
「お? なんじゃこりゃ」
佐藤としお(
ja2489)は学食の前で足を止めた。
ラーメン職人である彼にとって、麺を練る際の打撃力は重要な要素。
これは己のラーメン力を計る機会と、まよわず50久遠を投入する。
スタートボタンを押すと、対戦相手の選択画面が表示された。
「え、なにを打つかって? そりゃ麺に決まってます。最近じゃ家庭用の麺打ち機なんて便利グッズも売られていて、誰でも簡単においしい麺が打てる時代になりました。だけどね、やっぱり麺は手打ちでしょ? どうしたら良い食感になるのか? どうしたらスープに一番あうのか? どうしたら全ての人に満足してもらって、ほんのちょっとでも良いから幸せになってもらえるか? 心の底から想って考えて、魂込めて打つんだから……」
ラーメン職人らしくワケわからんことを言うとしお。
でも対戦相手に『麺』とかないし!
仕方なく『一般人(ラーメンマニア)』を選択して素手でミットを殴るとしお。
「俺の……魂の一杯(一撃)を喰らえっー!」
としおの右腕がうなり、一般人はドンブリを顔面に受けて倒れた。
物理攻撃+魔法攻撃×ラーメン力=70kw!
「僕のラーメン力もまだまだだ……。さてっと、腹減ったからラーメン食べて帰るか」
そんなラーメン王を後ろで眺めていたのは、Rehni Nam(
ja5283)
(ほむほむ、パンチングマシンですか。存在は知っていましたが、やったことはないですね。ここは、ぜひ全力でチャレンジしてみましょう!)
というわけでコイン投入。
相手に選ぶのは、過去に因縁のある上級悪魔だ。
「どの程度いけるかわかりませんが……いま出せる限りの全力をつくしましょう」
Rehniは光纏すると、大きく助走距離をとってアウルをメタトr……ではなく包丁に注入した。
そしてオリジナル技・包丁一閃を活性化!
「いい加減、貴女の顔は見飽きたのです。そろそろくたばりなさい。私が引導を渡してあげます……! でえぇぇぇいっっ!」
自慢の移動力で駆け寄ると、Rehniはスピードすべてを包丁という名の日本刀に叩きつけた。
純粋な攻撃力と移動力に、因縁深い悪魔への憎悪が加算。さらにCR修正が加えられる。
結果は154kw
「なかなかだけど……まだ足りないわね」と、悪魔の一言。
残念。上級悪魔を殴り倒すには今ひとつパワーが足りなかった!
「防御には自信あるのですが……攻撃面ではまだまだですね」
次こそ倒してみせると、意気込むRehni。
このマシンには、撃退士の成長を促す効果もある。
「……なにか妙な機械が……置いてあるな」
食堂の前を通りかかった染井桜花(
ja4386)は、パンチングマシンに目をとめた。
まよわず50久遠を投入し、スタートボタンを押す。
対戦相手(被害者)にこだわりはないので、ランダムを選択。
「……相手はおまかせで」
結果、選ばれたのは仔猫型ディアボロだった。
「……ニャ?」
愛くるしい姿で毛繕いを始める仔猫。
だが、桜花は躊躇なく光纏して助走距離をとる。
そしてグローブは使わず、大剣セプテントリオを装備。
さらに『心技・獣心一体』を発動して、戦闘依頼並みの『本気の一撃』を叩きこむ構えだ。
「……獣の一撃……見せてあげる」
「……にゃ!?」
あまりの殺気に、画面内の仔猫が振り向いた。
すかさず神速で走り寄り、速度を乗せた『鋭く深く突き刺す雀蜂』のような打撃を叩き込む桜花。
「……円舞・雀蜂」
決めゼリフと同時に、桜花はカチッと大剣を鞘に納めた。
仔猫ちゃんディアボロは「にゃぁぁ〜!」とか言いながら地平線の彼方へ。
『ただいまの発電量:68kw』
結果が今ひとつだったのは、相手が猫だったせいかも。
「これが噂のパンチングマシン……。では私もちょっと力試しをしてみましょう♪」
そう言うと、木嶋香里(
jb7748)は普通にグローブをはめた。
殴る相手は巨大隕石。
「いい結果を出したいところです♪」
とくに何か工作するでもなく、香里は真正面からミットに立ち向かった。
深呼吸をひとつ。
拳が当たった一瞬のインパクトに衝撃を集中させるため、体をリラックスさせて完璧なコントロールを掌握する。
そして、ごく自然な踏み込みからの右拳一閃。
ドンッ、という音がして、ミットが倒れた。
『ただいまの発電量:61kw』
ちゅどおおおん!
隕石は地表に落下し、すべてを焼きつくした。
「簡単には行かないようですね……」
CRが乗らないぶんだけ、隕石とかは厳しい。
次に、山里赤薔薇(
jb4090)がやってきた。
いつもどおりクマのぬいぐるみをくくりつけた杖を肩に担ぎ、最初から光纏している。やる気は十分だ。
「よし、がんばるぞ!」
意気込みつつ、コインを投入する赤薔薇。
殴る相手は当然のように天魔だ。
そして当然のようにグローブは使わず、当然のようにフレイヤLV20を手にする。
さらに地味なスキルを活性化させて魔法攻撃力を底上げし──豪快に振りかぶって大鎌一閃!
ゴガシャアアアアン!!
大きな衝撃音が響いた。
結果はジャスト100kw!
プレイング2行での単純な『物理攻撃+魔法攻撃』による値だが、これぞ力こそ正義!
あわれな猫型天魔が木っ端微塵になったのは言うまでもない。(またか
「おお、パンチングマシンじゃねェか。なつかしいな。いっちょ遊んでくか」
その機械を見て、赭々燈戴(
jc0703)は足を止めた。
「ま、力にゃ自信はねえんだけどナ。決して歳だからじゃねェ。歳だからじゃねェんだぜ?」
やる前から言いわけする燈戴。
ともあれコインを入れ、対戦相手選択。
「巨大隕石か。こう、選びたくなるものがあるな。砕けるとか打ち返せるとかじゃなく、挑戦心をくすぐるっつーの?」
子供みたいなことを言う燈戴だが、実年齢80過ぎの後期高齢者である。世が世なら年金生活してる歳だ。
そんな彼だが、いまはパンチングマシンに夢中。
「こういうのにゃコツがあるんだよな。単純な打撃力じゃねぇ、テクニックだ。最大限の力が乗る位置を見極め、着実に倒せるポイントに全力を叩きこむ。ええと、足は肩幅……脇をぐっと固めて……敵を打ち貫くように……精密殺撃!」
燈戴の拳が、スパーンとミットを打ち抜いた。
発電量は46kw
隕石は地表に落下してゲームオーバー。
「やー、やっぱダメか。手が壊れるかと思ったわ。かはは!」
かるく笑うと、燈戴は食堂を去っていった。
「あれが自分の『こぶし』を確かめるマシンかぁ……」
藍那湊(
jc0170)は、物陰からマシンの様子をうかがっていた。
一体どこで聞いたのか騙されたのか、彼はそのマシンを『歌のこぶし』を計測する装置と勘違いしていた。そこで歌に自信のない彼は、なるべく人のいないときを見計らって歌うつもりなのだ。歌の練習は続けているが、成果は果たして。
「よし、いまだ!」
人影が途絶えたところで、湊はマシンの前に陣取った。
どう見てもカラオケマシンには見えないけどなぁと首をひねる湊。しかしここまで来たら一度は試さねばと思い、マイク型V兵器Recital M1を活性化させる。
対戦相手は一般人ヤンキー。
「聴け、僕の歌を!」
小指を立ててマイクを握りしめると、湊は情感たっぷりに歌いだした。
声質は悪くない。こぶしもまわっている。
歌ってるのは何故か軍歌。
鍛へ鍛へし この声を
示すはこの日ぞ今日の日ぞ
響き渡れる歌声こそ
届けて一閃 曇り無し
挙げよ勲し 翼の凱歌
歌は衝撃波となってミットを叩き、34kwでヤンキーをぶちのめした。
ついでに、物陰から孫の熱唱を見守っていた燈戴も深刻なダメージを受けて倒れる。アウルの衝撃波によるものではなく湊が音痴すぎたからという説もあるが、はたして──
ところ変わって、ここはレジ子の購買。
「うおおおおおっ!」
忍法高速機動で激走してきたのは、蓮城真緋呂(
jb6120)だった。
「どうしたの?」
あまりの血相にたじろぐレジ子。
「今日は月1限定3個の『超レアなとにかく凄い焼きそばパン』が発売される日じゃない? あの発売日不明のゲリラ焼きそばパン! 今日が発売日だと、私の野生の勘が告げてるの!」
「さっき売り切れたわよ」
「な……馬鹿な…… 売 り 切 れ た だ と ……?」
血の涙を流して崩れ落ちる真緋呂。
たちまち彼女の体力ゲージは削れ、25%どころか5%を切った。
「ちょ、大丈夫?」
「もうダメ……おなかへった……この正義の怒りをどこへぶつければいいの……?」
呟いた直後、真緋呂の視界にパンチングマシンが!
ふらりと立ち上がり、大剣を引き抜く真緋呂。
そして対戦相手に上級悪魔を選択。
「上級悪魔……こいつのせいで、私は家族も故郷も焼きそばパンも失ったのよ……っ!」
火事場の馬鹿力を発動すると、真緋呂は怒りとともに大剣を振りまわした。
激しくミットが揺れて『105kw』と表示されるが、続けざまに大剣がミットを貫く。
「パンを返せ!」(家族や故郷は?
「おなかすいた!」(酢昆布を食え
「私の焼きそばパンンン!」(おまえのじゃないし
怒鳴るたびに大剣がぶちこまれ、100kw前後の打撃が加算されていった。
最終的に5000kwほど発電したところで真緋呂は取り押さえられ、焼きそばパンのかわりに鎮静剤を投与されて医務室へ運ばれたという。
その凄惨な現場を、深川蛍(
jb5400)は唖然として眺めていた。
「焼きそばパンの恨み程度で、あそこまでやるなんて……。それなら私だって、発散したいストレスぐらいあります!」
そう言うと、蛍は野次馬を掻き分けてパンチングマシンの前に立った。
真緋呂の手でボコボコにされたマシンだが、かろうじて動いている。
蛍は50久遠をスロットに入れ、スタートボタンを押すと、ミットに『スケッチ』を描きこんだ。
バイト先の店長の顔だ。
「あなたは本当にひどい人……すぐ怒鳴るし、お金に汚いし……天誅です!」
怒りの言葉を紡ぎながらも、周囲の目を気にして遠慮がちに殴る蛍。
結果は13kw。
だが、ミットに描かれた店長のニヤケ顔を見て、蛍の怒りが徐々に増してくる。
「とりあえず! 残業代を! 払って! ください!」
たてつづけに4発のパンチが撃ち込まれた。
さらに流れるような跳び膝蹴りからの、後ろ回し蹴り。
ガシャーンと音をたてて、マシンが横ざまにブッ倒れた。
が、蛍の怒りはおさまらない。そのまま馬乗りになり、マウントをとって拳を振り下ろす。
「このクソ店長ぉぉ〜! 残業代払えバカやろ〜〜!」
もはや周囲の目など気にもせず、半狂乱で殴りつづける蛍。
これまた最終的に5000kwほど発電したところで彼女は取り押さえられ、残業代のかわりに鎮静剤を投与されて医務室へ(略
そんな騒ぎの中、陽波透次(
ja0280)はホクホク笑顔でやってきた。
というのも、さきほど引いた『閏年くじ』で黒毛和牛霜降り肉が2個も当たったのだ。
「閏年最高! いゃっはあ! いまの僕なら銀河系すら破壊できる!」
横倒しになったマシンをもとに戻すと、透次はコインを入れた。
選ぶ相手は、もちろん巨大隕石。
「いくぞ、焼肉フィールド展開! 全能力値に1.2倍の焼肉補正!」
これによって、透次の回避力は1300に達した。
おお、これはどこかの奇術士を上回る回避力!(インチキだけどね!
そして回避力1000の壁を超えた者の動きは、現象さえも置き去りにして時の流れを止め、世界を灰色に染める。ザ・ワールド!
さらに『閃の領域』『神速に至る才能』を使用して最大加速!
停止した時間の中で放たれるのは、飛燕烈波・冥魔風斬り!
だが、それを認識しているのは透次だけだ。圧縮された時間の中で、無数の斬撃が飛び交い──
時空停止焼肉フィールドが解かれた瞬間、パンチングマシンは全ての打撃を瞬時に浴び、スクラップとなって壁に激突した。
画面は粉砕、発電量は計測不能!
「見たか、我が焼肉力に不可能なし! 僕の牛霜降り肉はレボリューション!」
最近の透次はどうかしてる。もともとか。
さて、ここは学園某所のゲームセンター。
学園内にゲーセンが存在するというのも異様だが、在校生にとっては見慣れた光景だ。
そこへ通りかかったのは、向坂玲治(
ja6214)
「ほー、パンチングマシンとは珍しい。昔はよくやったもんだが……さて今じゃどんなもんかねっと」
玲治は50久遠を財布から取り出し、指を鳴らした。
殴る相手はデビルキャリアーだ。わりと本気らしい。
「魔具を使ってもいいのか……じゃあこいつを使わせてもらうかね」
玲治は光纏してロンゴミニアトを抜き放った。
そして適度な助走距離をとり、ヘルゴートで強化。
「いくぜ!」
マシンとの距離をつめると、玲治は槍の石突を保持して先端を当てるようにフルスイングした。
槍は長さを生かして叩きつける武器。4mの長さ相応の遠心力が発生し、威力が跳ね上がる計算だ。
まわりには野次馬が大勢いるが、みんな撃退士だし大丈夫!
「どっこい……せっ!」
ズドバゴグワシャーーン!
あきらかに機械以外のものをブン殴った音がして、ミットが派手に倒れた。
『ただいまの発電量:117kw』
デビルキャリアーは即死である。
「まぁこんなもんか。穂先が誰かをかすったような気もするが……見なければ問題ないな」
そう言うと、玲治は鼻歌まじりに立ち去るのであった。
「いたたた……なぜかいきなり殴られましたわ」
満月美華(
jb6831)は頭から血を流していた。
たまたまゲーセンの前を通りかかったところ、後頭部をバールのようなものでブン殴られたのだ。
見れば、玲治がパンチングマシンに挑んでいるところである。
「あら、おもしろそう。私もやってみようかしら」
出血など気にもせず、ドスドスと巨体を揺らして駆け寄る美華。
そして玲治のプレイが終わったところでコイン投入。相手には巨大隕石を選ぶ。
とくにスキルは使わず、武器も抜かない。
「さて……いくわよ!」
美華は地面に拳をつくと、『仕切り』の姿勢から一気に前へ出た。
相撲のぶちかましだ。人間離れしたウェイトを活かしての、重い一撃である。
「どすこーい!」
どかーーん!
だが派手な見かけによらず発電量は44kw。
隕石は地球に直撃し、人類は滅亡した。
「まぁこんなものかしらね」
スキルも魔具も使ってないから仕方ない。
いっそ撃退酒飲んで激太りしてから、ぶちかませばよかったのに。
そこへエイルズレトラ マステリオ(
ja2224)がやってきた。
「あー、パンチングマシーンですか。あまり得意分野ではないんですよね……」
やる気なさそうなエイルズだが、じつはかなりのゲームマニア。このゲーセンに立ち寄ったのも偶然ではない。常連なのだ。パンチングマシンだって好きなほうである。
「ともあれ、せっかく見つけたからにはゲームマニアとして試さないわけにはいきませんね」
やる気なさそうにしながらも、右手にグローブをはめるエイルズ。
対戦相手はランダム、出てきた相手は隻腕の使徒だった。
「どこかで見たような相手ですね。……こういうときは何て言うんでしたっけ。『私のパンチを受けてみろ』だったかな?」
エイルズは右の拳を振りかぶった。
が、それはフェイントだ。
次の瞬間、左手から放たれたトランプがミットに突き刺さり、爆発する。
さらにダメ押しとばかりに、かるく跳び上がってローリングソバット。
だが爆発の衝撃でミットが倒れており、ソバットは空振りに。
結果は62kw。
使徒の反撃を受けて、ソニックブレイクマンは倒れた。
「まあ、こんなものでしょうね」
やれやれと肩をすくめて立ち去るエイルズ。
『チョコレートパゥアー!』とか言っておけば勝てたのに!(え
「よく見ておけ。私の拳は何かを守るための拳ではない。敵を殺すためだけの拳だ」
エカテリーナ・コドロワ(
jc0366)は、クールに呟いた。
最初に言っておくが、彼女がここにいるのは明らかに場違いだ。
ここ(ゲーセン)に来た理由は彼女にしかわからない。あるいは彼女にもわかってないかもしれない。
エカテリーナは本来射撃手だが、銃がなくても戦えねばならぬのが軍人だ。少なくとも一般人相手なら素手でノックアウトできて朝飯前。撃退士ならもちろん(お察しください
というわけで(?)彼女が選んだ相手は『テロリスト型ディアボロ』だった。
「さて……行くぞ」
エカテリーナは冷たく微笑むと、無造作な感じでミットをボコスカ殴りだした。
強いパンチの秘訣は『当たる瞬間だけ力を入れる』ことだ。従ってミートの瞬間以外は脱力しているほうが良い。思いきり殴ると力加減が狂いやすいのだ。これは素人の喧嘩ではない。いかに素早く効率良く敵を倒すかという……
『ただいまの発電量:1200kw』
基本的に何発も殴ったほうが発電量は増えるに決まってる。
もちろんディアボロは死んだ。
「ここで満を持しての俺登場だぜ」
自信満々に登場したのは、ラファル A ユーティライネン(
jb4620)
学園一のメカ撃退士、爆破職人、義体特待生etcの悪名を誇る彼女だが、じつはゲームが大好きなのだ。
しかしながら、プレイ中に興奮しすぎて筐体を破壊する事故が多発したため、現在はどこのゲーセンも出禁状態。おかげでフラストレーションがくすぶっていたところだが、パンチングマシンが入荷したと聞いては出入禁止など知ったことではない。
「一丁ぶちかましてやるぜー」
やるきMAXの状態で、最恐技『魔刃エッジオブウルトロン』を全力でぶちこんでやろうと企むラファル。
うまくいけば20点の防御無視ダメージが入るが、いまは体調不良(生命力1)なので、そこまでうまくはいかない。
そう気付いたラファルは、例によって爆破テロを計画することにした。
マシンに細工をほどこして、ハイスコアが出たら爆弾が炸裂するよう仕掛けるのである。もちろん邪魔が入らないよう潜行してこっそりと──
そのとたん店員が飛んできた。
「おい! おまえは出禁だろうが!」
「ちっ、見つかったか。これでも喰らいな!」
普通に爆弾を投げつけるラファル。
どかーーん!
「「ぐわーっ!」」
店員もろとも吹っ飛ぶ客たち。
でもみんな撃退士だから大丈夫!
ラファルは永久出禁処分になったけどね!
場面替わって、ここは第2グラウンド。
その片隅にマシンが3台置かれて、ヒマな学生たちが群がっていた。
「うぅん……これが例の機械ですかぁ……」
感心したようにマシンを見つめる、月乃宮恋音(
jb1221)
「そのとおりだ。さぁ『魔王』の力をぶつけてみるがいい!」
平等院が煽った。
「あのぉ……物理攻撃には、自信がないのでぇ……魔法攻撃力を二倍にする隠しモードなどは、ありませんかぁ……?」
「そんなものはない」
「うぅん……ではせめて、対戦相手として『背後』を呼び出すことは……できませんかぁ……?」
「それは普通にできる」
「そ、そうなのですかぁ……!?」
では……と、コインを入れ、謎の面をかぶった黒子(背後)を選ぶ恋音。
セルフエンチャントで攻撃力をUPさせ、秘伝書『萬川集海』による亡者の腕を叩きつける。
「……大体、いつもあなたが酷い目にあわせるのですぅ……!」
恨みの一撃が炸裂した。
結果はノーダメージ。発電量0kw。
「え……えええ……!?」
「やれやれ、背後に逆らうとは愚かな……」
蔑むように平等院が言った。
「で、でもぉ……」
「今後ますます酷い目にあわされるのは確実だな。ははははは」
「ひぃぃ……」
「心配は無用ですよ、恋音! 私がついてます!」
袋井雅人(
jb1469)が声をかけた。
「お、おぉ……袋井先輩ぃ……たよりにしてますぅ……」
「ここは一発、景気づけに私と合体攻撃をぶちかましましょう!」
「合体攻撃、ですかぁ……?」
「ええ! 合体! 合体です! ぜひ私と合体しましょう!」
「なにか、別の意味に聞こえますよぉ……!?」
「なにを言うんですか! 合体の意味など、ひとつしかありませんよ! さぁ立って! 私と一緒に踊りましょう!」
「あ、はい……」
何が何だかわからず、勢いのまま社交ダンスをはじめる恋音。
雅人はダンスを続けながら、器用にコインを投入して『巨大隕石』を選択する。
「さぁ恋音いきますよ! はああああっ、ラーブラブッ、天魔覆滅掌!」
「て、天魔覆滅掌ですぅ……!」
ずどばごーん!
ただいまの発電量:182kw
隕石は粉々になり宇宙の塵と化した。
地球の平和は保たれたのだ! ありがとうラブコメ仮面!
「いやー、合体攻撃って本当にいいものですねー」
「そ、そうですねぇ……」
みごと巨大隕石をクリアした、恋音と雅人。
だが恋音は背後への恐怖を隠しきれないままだった。
「ふむ……これはストレス発散に丁度良いですね」
状況を眺めていた雫(
ja1894)が、マシンに近寄ってきた。
学園死天王とも称される撃退士の登場に、周囲がざわめく。
そこへ、なにを思ったのか玉置雪子(
jb8344)が出てきた。
光纏でもしなければサンドバッグ殴っただけで『テクビヲクジキマシター』してしまう、かよわい美少女(自称)が、何故こんな場所に出てきたのか。もちろん理由はある。こんな攻撃力至上主義みたいな廃人PC媚び媚びシナリオに雪子が参加した理由──それは、強い人たちに媚び媚びするために決まってるジャマイカ!
というわけで……
「フヒヒ……雫さま、ぜひ雪子の強化スキル『defragmentation.exe』をお受け取りくだせぇまし」
悪代官にすりよる悪徳商人みたいなゲス顔で、揉み手しながら雫に近付く雪子。
雫には断る理由もないので、「お好きにどうぞ」と鷹揚なところを見せる。
そして『怪力』『覚醒』を得たところで、雫のチャレンジ開始。
相手はバッタ型の改造ヒーローだ!
雫は『神威』を発動させると、左右にウィービングしながら体重の乗ったフックを連続してミットに叩きつけた。
お手本のようなデンプシーロール。100kw超えのパンチが、次々と繰り出される。
その間に、なぜかパンチを食らって吹っ飛ぶ雪子。
「ちょ……っ、なんで雪子殴られてるんです!?」
「なにか人間のようなものを巻きこんだ気もしますが……気のせいですね」
そう決めつけて、攻撃を続ける雫。
だが20発ほど殴ったところで、マシンが砕けて散らばった。
「おや……女子中等部1年生が素手で軽く殴った程度で壊れるなんて、設計の段階で問題があるのでは?」
あきれたように雫が言った。
「『軽く』はないな。横から殴るのも禁止だ」と、平等院。
「こまかい人ですね。ところで注文なんですが、殴ったときの感触をもっとリアルに再現できませんか? 映像が凝っているだけに残念です」
「人間を殴っても気付かないようなヤツの注文とは思えん」
「は? なにを言ってるのかわかりませんが……? そうそう、発電するのでしたら『サンダーブレイド』を利用したほうが効率良いのでは?」
「回数制限があるだろうが」
「ああ、それもそうですね」
などという会話が交わされる背景には、死んだマグロみたいになった雪子が地面に転がっているのだった。
「この学園にはエンターテイナーが多いようですねぇ」
雅人や雫たちのプレイを見て、小宮雅春(
jc2177)は眼鏡をキラリと光らせた。
おなじエンターテイナーとして、同類の行動に興味があるのだ。
「というわけで私の出番でしょうか。なにか凄いパフォーマンスを見せつけられてしまった気もしますが……私のような新入りのペーペーがどんな数値を叩き出すのか、逆に見ものではありませんか?」
実際彼は先日入学したばかりの新人だが、動作は余裕に満ちている。奇術士なので人の目には慣れているのだ。
「さて……良い結果にはならないことを承知の上で、あえて私は『これ』を選びましょう」
雅春が選んだのは巨大隕石だった。
どう考えても無謀だが、しょせんゲーム。たのしめれば良いという考えだ。
おまけにスキルも魔具も使わず、素手での挑戦。
「では……いきます!」
なんの小細工もなく、雅春は正面からミットを叩いた。
結果は12kw
隕石は地球を滅亡させた。
「これが今の私の実力というわけですね。わかりました、私の学園生活はここから始まるのです。皆様よろしくお見知りおきを」
誰にともなく一礼すると、雅春は人垣の中に戻っていった。
「なにかたのしそー。ミィも遊ぶー♪」
人だかりが出来ているのを見て、狗猫魅依(
jb6919)が走ってきた。
彼女が殴る相手は下級天使。
くわえて攻撃前に拒天のヒールをマシンにおそにゃえにゃむにゃむして、マシン自体のCRをプラス側に傾かせる。
そして『ヘルゴート』+『属性攻撃』で能力値を底上げ。
用意万端整ったところで、いざ発動。
偽神器──邪槍イルエンレヴィアス!
発動と同時に魅依を縛りつけている拘束具が砕けて、別人格の仙狸が表に現れる。
立派な大人の姿に転じた彼女の手から、闇黒の槍が投げ放たれた。
CRは-15!
一撃で270kwという大ダメージを叩き出して下級天使を粉砕すると、仙狸は溜め息をついた。
「あんまりこういうことに邪槍を使わせないでほしいんですけど……」
と言いつつも全力で攻撃を撃ち込むあたり、魅依には甘い。
そしてすぐさま拘束具をもどし、魅依と交代する仙狸さん。
「みぃ♪」
発電量に満足すると、魅依はスキップして去っていった。
いまのところ単発の発電量ではトップだが、はたしてこれを抜くことのできる黒百合はいるのか!?
「キュゥ♪」
ここでトップの座を奪うべく、一頭のラッコ(鳳静矢(
ja3856))が参上した。
相手は隕石だ。CR差を利用しないと魅依には勝てないと思うが……静矢なら、ラッコならやってくれる!
『このアラスカの聖闘士である私にかかれば、指先ひとつでダウンさ』
自信満々でホワイトボードに書き記すラッコ。
いや……ラッコの指って、こう……。
ともあれゲーム開始。
『ラッコパーンチ!』
と書かれたホワイトボードでミットをブン殴る静矢。
だがさすがは地球を滅ぼす巨大隕石。まるで歯が立たない。
「キュゥ〜!?」
なぜか反動で後ろへ吹っ飛び、血みどろになるラッコ。
だが、まだ終わりではない。コインを投入して再ゲームだ!
『ふっ……やるな、ならば私も本気を! 燃えろ、私の小宇宙(コスモ)!』
チャリーン♪
再び落下してくる隕石!
聖闘士ラッコ静矢の背中に小宇宙の炎が燃え上がり、火事場の馬鹿力による必殺の一撃が繰り出される!
『喰らえ! アラスカ流氷拳!』
派手な見開きページとともに無数の氷塊が飛び散り、隕石は砕け散った。
発電量は290kw!
トップ逆転! 滅茶苦茶だな!
だが、ここでラスボス登場。
黒百合様(
ja0422)のおでましである。
しかも今回はナナシ様(
jb3008)とタッグを組んでいる。ひでえ。
「きゃはァ、たのしそうな機械は友情パワーで処理しちゃいましょうねェ、ナナちゃんゥ♪」
「電力会社から調査を依頼されて来たわ。新規発電事業なら安全性が大切よね。私と黒百合さんで発電機の強度を確かめてあげる」
仲良く微笑む、人外2名。
「というわけでェ……早速、機械を改造させてもらうわァ♪」
当然のようにマシンをいじりはじめる黒百合&ナナシ。
まずは衝撃で吹き飛ばないよう、マシン底部を鉄板とボルトで地面に固定。
ミットは大きめに作りなおし、下向きの攻撃ができるようにセットする。
さらにテラーマスクと月白布槍、拒天の足鎧をマシンに組み込み、CRをプラス修正。
「これで下準備は完了ね。私たちは移動するから、スマホで合図したらゲーム開始してシュトラッサーを選んで」
ナナシは平等院に指示すると、黒百合ともども校舎に入っていった。
じき屋上に出てきた黒百合は、その地点に狙撃拠点を設置。そこへ俯せになり、改造済み多連装ロケット砲G3を構える。
一方ナナシは、闇の翼でパンチングマシンの上空30mに移動。物質透過と禁断の実の欠片(属性攻撃)を発動して攻撃準備を整える。
「さァて……いくわよ、ナナちゃん♪」
黒百合が『我が歌を聞け』をナナシにかけた。
続いて『悪魔顕現』で自らのCRを-5にした上で『眷属殲滅掌』
「いくわよ! これが私たちの友情ぱわー!」
すべての準備が整った瞬間、ナナシは全速力でダイブした。
さらに大車輪のような縦回転を加えて、最後に放つのは『闇影陣』
デストラクトハンマーLV18がミットを叩くと同時に、黒百合の放った『デスペラード』によるロケット弾の1発目がミットに命中した。
つづけて2発目のロケット弾が炸裂し、ナナシのハンマーが再びミットを叩く。
とどめに3発目のロケットが着弾して、あたり一面を爆煙で覆いつくした。
そこまでやるかという攻撃だ。しかもナナシは地面を透過して衝突を防ぐという入念さ。こいつら悪魔か!(悪魔です
ちなみに闇影陣はダイスで5か6が出ないと不発なのだが、今回はイカサマダイス使用なので100%成功である。ひでえ。
で、発電量はというと……
ナナシ:覚醒攻撃力(1127)×CR差(120%)×落下速度×回転数+属性攻撃×闇影陣2回攻撃
黒百合:攻撃力(849)×CR差(100%)×眷属殲滅掌(1.2倍)×デスペラ3回攻撃
おっと、友情パワーを加算するのを忘れてた。
というわけで、最終的な発電量は2525kw!
滅茶苦茶だな!
「うまくいったわねェ、ナナちゃん♪」
「さすが黒百合さん♪」
素敵な笑顔でハイタッチする二人。
彼女らの友情は、神をも殺すに違いない。
こうして、平等院のパンチングマシンは無事に(?)稼働テストを終えた。
さらなる筐体の強化を求めて、彼は明日も開発を続ける。