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マスター:牛男爵
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/03/08


みんなの思い出



オープニング


 久遠ヶ原は、茨城県の沖合いに浮かぶ人工島である。
 もともと自然に存在した小島を埋め立てて造成したものだが、その歴史は地形学の観点から見て浅く短い。
 にもかかわらず、この島には信じがたいほどの自然環境に覆われている。
 たとえば、とても人工島とは思えない規模の山や川。渓谷や湿地帯もあり、島内の至るところに温泉が湧いている。
 島の南部にはアマゾンを彷彿とさせる密林が生い茂り、鳥取県のアイデンティティーをブチ壊す勢いの砂漠(砂糖漠)が広がっているほど。
 真夏になればアスファルトが溶け出すほどの灼熱地獄に襲われ、真冬にはシベリア並みのブリザードに見舞われる。
 四季の移り変わりは劇的で、春は一面の桜、秋は紅葉と、島内すべてが観光地と化している。
 とても茨城の一部とは思えない環境だが、だいたいは『コメディ』のせいである。……とも言い切れないのが恐ろしいところだ。


「てぇコトで……本日おまえらには、久遠ヶ原島奥地に存在すると噂される前人未踏の隠れ湯を見つけてくるという崇高な任務を与える!」
 ここはブリーフィングルーム。
 あつまった生徒の前で、教師兼オペレーターの牛熊は『依頼』の内容を告げた。
 その耳慣れぬ内容に、おもわず顔を見合わせる生徒たち。
「あのー、『隠れ湯』って何ですか?」
 ひとりの生徒が手をあげた。
「そんなことも知らんのか。他人に見つからないように作られた温泉のことだ」
「だれが作ったんです?」
「わからん」
「だれか見つけた人はいるんですか?」
「俺の話を聞いてなかったのか? 『前人未踏』だと言っただろうが」
「それって……存在するかどうか不明ってことですよね?」
「イエス! そのとおりだ!」
 なぜか親指を立てて白い歯を輝かせる牛熊。ちなみに名前どおりの、獣みたいなオッサンである。
 このリアクションに、別の生徒が手をあげた。
「あの……もし温泉が存在しなかった場合どうするんです? 『ない』ものを『ない』って証明するのは不可能ですよね? いわゆる悪魔の証明という……」
「小難しい理屈は無用だ。おまえたちは隠れ湯を見つけるまで帰還してはならない」
「「ええ……っ!?」」
 生徒たちが一斉に声をあげた。
 久遠ヶ原にはたまに(というか頻繁に)無茶な依頼が舞い込むが、これはわりと無茶レベルが高い。
「大丈夫! 隠れ湯は存在する! 俺は信じてるぞ!」
「でも先生は行かないんですよね……?」
「当たり前だろ! 俺がこれ以上経験積んでどうするんだ!」
「そういうの、高みの見物って言うんですよ?」
「いい言葉じゃないか! だが勘違いするな。俺はおまえらが苦しむのを見て喜ぶサディストじゃないぞ。かわいい生徒たちの成長を願えばこそでだな……」
 そこから延々と、約10分にわたって牛熊は生徒愛を説いた。
 実際、彼には生徒をいじめて楽しむ趣味はない。ただ脳筋バカなだけなのだ。

「あの……先生のお考えはわかりましたので。そろそろ詳細を聞かせてもらえませんか」
 うんざりしたように、女生徒が言った。
「おお、やる気があるな! まぁ詳細といっても大したことはない。おまえたち、この島の南部に巨大な鍾乳洞が存在していることは知ってるな?」
 牛熊の問いに、大半の生徒は首を横へ振った。
 何人かはうなずいているが、知ったかぶりかもしれない。
「そうか。知らない者が多くても不思議はない。なにしろこの鍾乳洞は密林地帯の奥深くにあって、発見されたのはつい最近のことだからな」
「その鍾乳洞のどこかに温泉があるから見つけてこいってことですか?」
「そのとおりだ! 念のため言っておくが、これは久遠ヶ原観光事業部からの正式な依頼だぞ。もちろん報酬も出る。しかも危険手当付きだ。ことわる理由はないよな!」
「ということは危険な依頼ってことですよね……?」
「なにを言ってるんだ? 前人未踏の鍾乳洞の奥へ踏みこもうというんだぞ。危険は承知だろう?」
「ええ、まあ……」
 なにか割り切れない顔をする生徒たち。
 そこへ追い討ちをかけるように牛熊が言う。
「じつはつい最近も、観光事業部の主導で洞内の探索がおこなわれている。だが帰ってきた者はいない。ひとりもだ」
 衝撃的な言葉に、生徒らは騒然となった。
「まぁ落ち着け。たしかに道に迷って遭難死したとか、隠れ湯への侵入者を防ぐトラップに引っかかったとか、野生の天魔に襲われたとか、そういう可能性もあるかもしれん。……が、こう考えることもできる。もしかすると彼らは、見つけた隠れ湯のあまりの心地よさに身も心も奪われて帰る気をなくしてしまったのではないかと!」
 しんと静まりかえる生徒たち。
『そうですよね! そうに違いありません!』みたいなことを言う者はいない。
「おいおい、どうした? かるいジョークだろうが。そんなことで大丈夫か?」
 どこまでもおちゃらけた調子で言う牛熊。
 おまえこそ大丈夫かよ……と、生徒の誰もが言いたかったに違いない。
「ともかく話は以上だ。さぁ我こそはという者は名乗り出てくれ! なぁに、ちょっとしたアトラクションつきの温泉旅行だと思えばいい! カネをもらって温泉旅行ができるなんて、夢みたいな依頼だよな! おまえらがうらやましいぞ!」




リプレイ本文




 久遠ヶ原島南部・密林地帯。
 とても3月とは思えない──というより日本とは思えないジャングルを、8人の撃退士が歩いていた。

「それにしても、さすが牛熊先生。温泉に入れて報酬まで出るなんて、外見に似合わず粋な任務を出しますのね」
 笑顔で言いながら、先頭を行くのはシェリア・ロウ・ド・ロンド(jb3671)
 例によって日本かぶれのお転婆さんが『温泉旅行』なる単語に反応し、危機感ゼロでの参加だ。
 でも一応は探検用の装備一式を身につけてるあたり、さすが経験豊富な撃退士。もちろん入浴用の水着も忘れてはいない。

「そのとおりなのだ。温泉と聞いたら参加せざるおえないのだ♪ きっと気持ちいい温泉が見つかるのだ♪」
 焔・楓(ja7214)は、シェリア以上に危機感皆無だった。
 なにしろ服装は真っ白なワンピース一枚。とても密林や鍾乳洞を歩く格好ではない。

「あはァ……なんだか川口ヒロシ探検隊みたいで楽しいわねェ♪」
 背後の年齢がバレるようなことを言って微笑む黒百合(ja0422)は、楓と対照的な重装備だった。
 未開地探索用の全身装甲スーツに身を固め、背中には軍用の背嚢、足下は山岳用スパイク。さらにナイトビジョンとスナイパーヘッドセットを装備し、酸素ボンベや防毒マスク、ガス濃度測定器まで持ちこんでいる。通信手段も完璧だ。すべての装備は黒を基調とした迷彩色を施され、防水加工済み。その姿はまるでプレデターだ。
 背嚢には非常食や燃料、ロープ、爆薬、サバイバルキットが入っており、もはや単独で異星を攻め落とさん勢い。本気すぎる。

「しかし、だれも見たことない温泉って……そんなもんホントにあんのか?」
 誰にともなく、獅堂武(jb0906)が言った。
 黒百合ほどではないが、彼もかなりの重装備だ。道中なにがあってもいいようにと、巨大なリュックにロープや懐中電灯などの道具を詰めこんでいる。

「えとぉ……事前に調査したところ、温泉がいくつかあるのは確かなようですぅ……。中には、体内のアウルを安定させる効能の湯もあるとか……」
 武の問いに、月乃宮恋音(jb1221)が答えた。
 彼女も本格的な装備だ。動きやすいよう長袖長ズボンのケイビング服を身につけて、ヘルメットや軍手を装着している。

「なにそれ、そんな温泉があるの? 絶対見つけないと!」
 驚いたように満月美華(jb6831)が言った。
 先日の新薬試験で重体になって以来、いまだに全身が肥大化したままなのだ。
 210cm199kgの巨体は、もはや撃退士でなく力士。なんと焔楓10人分以上の質量である。

「そうこうしてる間に到着しましたよ。みなさん、ここが秘湯の眠る鍾乳洞です」
 袋井雅人(jb1469)の言うとおり、彼らの前には断崖にポッカリと穴をあける洞窟が待ちかまえていた。
 当然だが中は真っ暗で、外からでは様子をうかがえない。
「この暗闇の彼方に、伝説の秘湯が……。そう、秘湯……湯煙……混浴……ああ、このスケベな言葉の響きがたまりません! もう温泉まで待てませんよ! ふおおおおっ、クロスアウッ、ラブコメ仮面参上!」
 意味不明なことを口走ると、雅人はパンツ2丁で光纏した。
 1丁は普通に履き、もう1丁は頭にかぶっている。もちろん女性用のだ。
 どこから見ても完全な変態だが、みんな見慣れてるのでツッコミすら入らない。

『ここがあの主のハウスか……』
 いつものラッコ着ぐるみで、鳳静矢(ja3856)はMyホワイトボードに独り言を書いていた。
 彼の目的は、洞窟に棲む『主』を倒して自らが新たな主になることだ。
『いざ往かん、ラッコ探検隊!』
 右手に刀、左手に白板をかかげて見得を切る静矢だが、その横をシェリアが鼻歌まじりにスキップしていった。
「お先に失礼いたしますね♪」
 懐中電灯をかざし、我先に洞窟へ突入するシェリア。
 彼女にとってこれはただの温泉旅行なので、警戒も何もしてない。
 が、洞窟に入って3歩ほど進んだところで姿が消えた。罠を踏んだのだ。
「おとシャあニャァああ……っ!?」
 変な悲鳴を上げてフェイドアウトするシェリア。

「うぅん……これは思った以上に、危険な場所ですねぇ……。慎重に進みましょうかぁ……」
 最初の犠牲者を前に、恋音は冷静な判断を下した。
 まず救助に行こうと考えないあたり、彼女もだいぶコメディ脳に冒されてる。
「そのとおりねェ……任務に失敗は許されないわァ♪」
 プレデター黒百合が同意した。
 手には4連装ショットガンM901。腰の左右にタクティカルナイフ。
 もう一度言うが、どこの異星人を狩るつもりだ。

 しかし、そんな慎重論を唱えるのは黒百合と恋音だけだった。
 静矢は『進め! ラッコ探検隊!』なる白板を振りまわして洞窟に駆け込み
 楓は避暑地の令嬢みたいな服装で「罠があっても無理やり突破すればいいのだ♪」と静矢を追い越し
 雅人は「伝説のクリスタルバストはどこですか? えっ、そんなオーパーツは存在しない? いいえ、きっと見つけます!」とか言いながらパンツ2丁で走って行く。
 そのあとを美華が巨体を揺らしてドスドス走って行き
 ギャグ要員として遅れてなるかと、武が突撃する。
 これぞチームワーク! 自由すぎるぞおまえら!


 ともかく探検が始まった。
 慎重に罠を解除しつつ、安全にコトを進めようとする恋音と黒百合。
 それに対して、『罠は踏んで解除♪』と楓が突っ込み、美華は巨体を活かして物理的に(体当たりで)罠を解除してゆく。
 武と雅人は『目の前に罠が! 押すなよ? 絶対押すなよ?』みたいな芸人スタイルだし、静矢も『主』を探してがむしゃらに突き進むのみだ。
 必然的に、四方八方から毒矢が乱れ飛び、
 いたるところで毒ガスが噴き出し、
 落盤が発生して、床や壁が崩れ落ちる。
 その合間を縫って襲いかかる、吸血蝙蝠や毒蛇の群れ。
 こんな状態で『慎重に探検』なんて、できるわけない!

「あはァ……思った以上にカオスねェ♪」
 手当たり次第に散弾銃を乱射しつつ、洞窟を進む黒百合。
『空気感染性シゾウィルス』や『ナイトアンセム』などの範囲攻撃も織り交ぜ、すべてを暴力で解決する姿勢だ。
 そもそも相手は普通の動物だし、落盤も毒矢もただの物理だから、透過でOK。天魔以外に対して『物質透過』はほぼ無敵だ。
 汚い、さすが黒百合汚い。
 とはいえ、全員が透過を使えるわけではない。
 というより、使えるのは黒百合だけだ。あとのメンバーは純粋な『人間』である。
 洞窟を進むごとにトラップを踏み、ズタボロになってゆく撃退士たち。一般人ならとっくに死んで灰になってロストしてる。

「いやー、ここはベリーハードなダンジョンですねー。これをかぶってなかったら危ないところでした」
 煤まみれで笑いながら、頭のパンツを指差す雅人。
 これぞ最強の魔装だ。
「キュゥ♪」
 静矢も全身キズだらけだった。
 頭には蝙蝠が噛みついて黒いリボンみたいになってるし、尻には毒蛇がかじりついて尻尾みたいになっている。
 でも着ぐるみ越しなので静矢自身は無傷。むしろ斬新なアクセサリーみたいで気分も上々だ。

 などと言ってる間に、楓が勢いよく走りだした。
「温泉発見なのだ! あったかそうな湯煙が漂ってるのだ〜♪」
 服を脱ぎちらしながら彼女の走る先には、たしかに湯気の立ち上る泉があった。
「おお、これで任務達成ですね。ひとっ風呂浴びて帰りましょう」
 負けじとパンツを脱いで走る雅人。
 でも頭のパンツは脱いでない。
「待て、これは熱湯風呂に違いない! おいしい役は俺がもらう!」
 武が二人の後に続いた。
 そして3人同時にどぼーーん!

「「ヒィィイイイッ!?」」

 3人は凍えて温泉から飛び出した。
 そう、これは熱湯と見せかけて超冷たい氷水。湯気に見えたのはドライアイスの煙だったのだ。
「なにかTVで見たことある罠なのだ(汗) 仕掛け人はTV好きー?」
 あまりの寒さに、ガタガタ震える楓。
 そんな彼女に、武が「こんなこともあろうかと!」とカイロを差し出した。
「ありがとうなのだ。あったかいのだ〜♪」
 気配りのできる男ってモテるよね!
 それはともかく服を着ようぜ、おまえら。


 そこへ、どこからともなくシェリアが転げ出てきた。
 彼女の落ちた穴は、ここまでつながっていたのだ。
「痛たたた……! もう、誰ですか! あんな場所に穴を掘ったのは! 掘っていいのは男の尻……もとい、温泉だけよ!」
 貴腐人らしく怒鳴るシェリア。
 そしてハッと気付いたように彼女は言う。
「まさかこれは……伝説の熱湯風呂トラップ! そして皆さんの様子を見ると、ここに来るまで無数の障害を乗り越えてきたようですわね。でも私が合流したからには安心ですわ。どんな罠でも(ネタ的においしいから)かかってきなさい!」

 こうして、芸人多めのパーティーは探検を再開した。
 が、なぜか急に蛇も蝙蝠も姿を消し、罠もナリをひそめてしまう。
「なぜですの!? こういう洞窟では天井から毒蛇が降ってきたり、巨大な岩が転がってきたりするものではなくて!?」
 これぞ芸人殺しの徹子のダンジョン。
 だが、そんなシェリアを助けるかのように何か巨大な物体が転がってきた。
「ようやく来ましたわね、レイダース的なアレが!」
 押しつぶされて紙切れみたいになるオチを狙い、嬉々として立ち向かうシェリア。
 しかし襲ってきたのは岩ではなかった。
 それは岩と言うには大きすぎた。大きく、分厚く、重く、そして大雑把すぎた。それはまさに肉塊だった。っていうか美華だった。

「だれかとめてえええええ!」

 どうやら足を滑らせて自らがローリングストーンになってしまったらしい。英国のロックバンドのことではない。
「まさか、そんな役が……。おいしいところを持っていかれてしまいましたわ」
 芸人として敗れたことに気付き、シェリアは意気消沈した。
 かわりに立ちふさがるのは黒百合だ。
「任務の邪魔をする者は、すべて排除よォ♪」
 散弾銃が火を噴き、血しぶきが飛び散った。
「アバーッ!」
 美華は蜂の巣になり、壁に激突して爆発四散!
 黒百合に慈悲はない!
 サヨナラ!


 そんな悲劇を乗り越えつつ、一行は洞窟の奥へ進んだ。
 道中では色々なことがあった。
 摩擦係数ゼロの空間では、武が浮き輪で滑ってクレバスに落ちたり
「救助は俺にまかせろ!」とか言って雅人が一緒にクレバスに落ちたり
 武と雅人が穴の中で絡みあって「獅堂君……」「袋井先輩……」みたいなBL展開になるのをシェリアが妄想して鼻血を出したり
 やさしい微風の罠が楓のワンピースを揺らして『いや〜ん♪』なパンチラさせたり
 せまい通路で恋音の胸がつかえて、謎の罠で蔵倫18禁事件が起きたり
 封印の石門を静矢がラッコキックで破壊して、崩れた門の下敷きになったり
 美華がうっかり撃退酒を飲んで激太りし、全員まとめて殺人ズワイガニの群れがひしめく奈落に落ちたり
 その衝撃で黒百合の持ってきた酸素ボンベが爆発して蟹も撃退士も吹っ飛ばしたり
 本当に色々あったけど、キリがないから省略!
 なお黒百合だけは物質透過で完全無傷であることを報告する。
 汚い、さすが黒百合汚い。


 こうして主に汚い黒百合の活躍によって、彼らは洞窟最深部に到達した。
 黒百合以外のメンバーはボロ雑巾みたいになってるけど、最初から黒百合1人で解決できる依頼なので何も問題ない。
 そして一行を待ち受ける最後の関門は、巨大な地底湖だった。
 でもこれだって、黒百合だけは『陰陽の翼』でひとっ飛びなんだ。汚い、さすが黒百合(略

『ここが主の棲む湖……さあ姿を見せるがいい!』
 静矢がホワイトボードをふりかざした。
 うん、どう考えても『主』に通じてるワケない。
「よし俺の出番だな。こんなこともあろうかと……こいつを用意してきたぜ!」
 猫型ロボットの秘密道具みたいな効果音とともに、武がゴムボートを取り出した。
 さらに持参したロープを体に巻きつけて、鵜飼いの鵜みたいな要領でボートを引っ張ることに。
「私も一緒に引っ張りますよ! そんなおいしい……いえ危険な役を獅堂君だけに任せられません!」
「袋井先輩……」
「獅堂君……」

 というわけで、武と雅人の二頭立てでゴムボートは出航した。
 言うまでもないが、ボート上はギュウ詰めだ。美華ひとりでボートの大半を占有してる。黒百合だけが低空飛行で高みの見物だ。
 周囲は暗くて広く、対岸は見えない。
 冷たい水の中で、武と雅人は必死に泳ぎながらボートを引っ張る。
 そんなふたりを、突如として巨大なタコが襲った。
 青暗い湖底から忍び寄る触手。吸いつく吸盤。
「まさか、こんな所にまで海産物天魔が!?」
 色々あって海の生物とは戦い慣れてる雅人だが、今日は『湖』なので油断していた。
 たちまち触手に捕らわれて、ヌメヌメにされてしまう雅人と武。
「いや、こいつは天魔じゃない。ただのタコだ。このまま俺たちを疑似餌にして釣り上げてしまえ!」
 水着姿で触手に絡みつかれたまま、気丈に指示する武。
 でもタコは全長10m以上ある。ゴムボートに釣り上げるのは無理だ。
『出たな、主よ。私と勝負だ!』
 静矢はホワイトボードを振りまわした。
 でも相手はただのタコなんで……。まぁそれを言えば静矢もただのラッコなんだが……。
『よく聞け。一本目はオセロ、二本目は徒競走、三本目は実力勝負。知力・体力・時の運で勝負
 そこまで書いたところで、巨大な触手が静矢を宙吊りにした。
「これよ、これ! これですわ!」
 触手に捕まった男性陣を見て、大興奮するシェリア。
「遊びはそこまでよォ♪」
 黒百合がタコめがけてガスボンベを投げつけ、散弾銃で撃ち抜いた。

 ちゅどおおおおおん!

 核爆発みたいなキノコ雲が上がった。
 タコも撃退士もゴムボートも木っ端微塵だけど、透過すれば問題ない! 黒百合以外問題ない!
 まぁ何はともあれ、こうして『主』は死んだのであった。
 べつに主を倒す依頼じゃないんだけどな、これ。



「あー、死ぬかと思ったヨ!?」
 対岸に泳ぎついたとき、武はアフロになっていた。
「ふー、死ぬかと思ったぜー」
 雅人も完全なアフロ芸人になっている。
「そんなことより、あれが秘湯じゃないのォ?」
 くすくす笑うプレデター黒百合。
 その指差す先には、湯煙ただよう泉が。
「お、温泉ですわ! やりました、私が一番乗りよ!」
 今度こそ熱湯風呂トラップにかかろうと、猛ダッシュするシェリア。
「お・ん・せ・ん〜♪ 一番風呂はもらっちゃうのだ♪」
 負けじと楓が走る。
「うぅん……噂どおり、アウルを安定させる泉質だと良いのですけれどぉ……」
 いそいそと牛柄ビキニに着替え、湯を持ち帰るためペットボトルを持つ恋音。

 こうして一行は無事に(?)隠れ湯を発見し、幸せなひとときを過ごしたのであった。
 だが彼らは忘れていた。このあと再びトラップ地獄を抜けて、学園に帰らなければならないことを──




依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:4人

赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
撃退士・
鳳 静矢(ja3856)

卒業 男 ルインズブレイド
パンツ売りの少女・
焔・楓(ja7214)

中等部1年2組 女 ルインズブレイド
桜花絢爛・
獅堂 武(jb0906)

大学部2年159組 男 陰陽師
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
ラブコメ仮面・
袋井 雅人(jb1469)

大学部4年2組 男 ナイトウォーカー
絆は距離を超えて・
シェリア・ロウ・ド・ロンド(jb3671)

大学部2年6組 女 ダアト
チチデカスクジラ・
満月 美華(jb6831)

卒業 女 ルインズブレイド