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マスター:牛男爵
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:7人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2013/05/20


みんなの思い出



オープニング

 放課後のクラブ棟。
 ある一室で、長い髪をポニーテールにした女がドラムを叩いていた。
 アンプは通していない。それでも部屋全体が地鳴りのように振動しているのは、ストロークが強すぎるせいだ。疾走するツーバスは正確な16ビートを刻み、ずらりと並んだタムがメロディを奏でる。
 ここは、『くノ一けいおん部』
 ポニーテールの女は、部長の矢吹亜矢だ。
 室内には彼女ひとり。ほかの部員はいない。
 この部はもともと『メンバー全員ニンジャだったら水上ライヴとか天井ライヴとかできて面白いんじゃない? しかも全員女子だったら人気出るのは間違いないでしょ!』という亜矢の名案(思いつき)によって創部された。が、選抜基準が厳しすぎたためメンバーが集まらず、名案転じて迷案となってしまったのだ。
 楽器が弾ける、忍軍の、女子。
 クリアできる人間は、なかなかいない。ましてや、亜矢とバンドを組んでもいいと思う者は皆無だろう。
 とはいえ、ドラムを叩く彼女の腕前はかなりのもの。そのワイルドかつアグレッシブなパフォーマンスは、人目を引くに違いない。
 観客がいればの話だが。
 ──と、そのとき。
「うおおおおおお! ドクペが売ってねぇ! ドクペが売ってねぇ! いつものコンビニにドクペが売ってねぇ! 俺の魂! 俺の血肉! 俺のすべて! ファッキンジーザス! ファッキンブッダ!」
 狂ったようなギターの咆哮とともに、狂気そのもののシャウトが壁の向こうから突き抜けてきた。
 あまりの音圧に、のけぞる亜矢。
 しかしすぐに体勢をととのえると、彼女はスタンドマイクのスイッチを入れてアンプのボリュームをぐいっと右に回した。
 そして解き放たれる、打楽器の秘めたるパワー!
 ズドダダダダダダシャンシャンシャンドドドドド!
 クラブ棟が揺れ、同時に耳障りな歌とギターは沈黙した。
 が、しずかになっていたのは少しの間だけだった。
 すぐに、さきほどの数倍の音量でギターが炸裂したのだ。
 負けてたまるかとばかりに、ボリュームをさらに右へ回す亜矢。
 そこからは、おたがい一歩も引かない楽器バトル──というより騒音バトルが展開された。
 迷惑なのは、ほかのクラブの連中である。とくに、ふたつ先の部室を使っている『真・茶道部』にとっては地獄以下の環境。
 しかし、彼女たちが通報するまでもなく、騒音バトルは強制終了された。
「こちらは風紀委員です! ただちに演奏をやめなさい!」
 どかどかと数名の学生が踏みこんできて、亜矢を取り押さえたのだ。
 学園の秩序を守る、風紀委員。彼らのおかげで、生徒たちは今日も平和なキャンパスライフが送れるのである。



「……また、このふたりか」
 亜矢たちを前にして、教師臼井は「はぁ」と溜め息をついた。
 ここは指導室。小さな机と椅子があるだけの、殺風景な部屋だ。
 亜矢の横に立っているのは、チョッパー卍。轟音ギタリストの正体である。
「なぁ、おまえたちは程度というものを知らないのか? あんな大音量で演奏する必要が、どこにある?」
「わかってねぇな、ティーチャー。アンプのボリュームスイッチを左に回すのは、俺が死んだときだけだ」と、チョッパー卍。
「おまえな。死んだらスイッチは回せないだろ」
「だから、永久に右にしか回さないってことだ!」
「それがヘビメタ魂っていうやつなのか?」
「ヘビメタ言うな! ヘヴィーメタルなんだよ! ヘヴィーだ!」
「わかったわかった。ほんとうにおまえの人生はヘヴィーだな。……で、そっちは?」
 教師臼井は、そう言って亜矢のほうへ話を振った。
「反抗と抵抗がロック魂なの。こんなヘビメタ馬鹿に負けるわけにはいかないでしょ」
「中立の立場から見ると、似たような魂に見えるんだが……」
「ぜんぜん違うわよ!」
「まるで違うぜ!」
 同時に言い返す、ミュージシャンふたり。
 薄い前髪をなでつけながら、教師臼井は苦言を呈する。
「……ともかくな、クラブ棟はおまえたちだけのものじゃないんだ。騒音バトルがやりたいなら、シベリアかパタゴニアの奥地にでも行ってやってくれ。それがイヤなら、ボリュームスイッチを左に回してくれないか?」
「このキチガイ野郎が先にやるなら、そうしてもいいわよ」
「この馬鹿女が先に回せば、考えなくもない」
 まったく折れようとしない、頑固なミュージシャンズ。
「それなら仕方ない。どちらの部も解散してもらうことになる」
 冷静な判決をくだす、教師臼井。
「ちょ、ちょっと待てよ、ティーチャー! 俺は何も悪くねぇだろ!」
「悪いとか悪くないとかの問題以前に、おまえたちは風紀を乱しすぎだ」
「ちっ。……よし、わかった。おい、亜矢。どっちが先にボリュームスイッチを左へ回すか、勝負だ」
 チョッパー卍は頑固だが、割り切るのは早い。
「勝負? ライヴバトルでもしようっていうの? メンバーひとりもいないヘビメタ部が?」
「おまえのところだって幽霊部員しかいねぇだろうが! ソロドラマー部のくせしやがって!」
「あんただって、ソロギタリスト部でしょうが!」
「はん。俺様はベースもキーボードも弾けるぜ? もちろんヴォーカルもな」
「あたしだって、シンバルとかスネアとかタムとか叩けるわよ! もちろん銅鑼もね!」
 悲しい主張をする亜矢。
 残念ながら、音楽の才能ではチョッパー卍が上だった。知能の具合は同じぐらいだが。
 教師臼井が溜め息をつく。
「盛り上がってるところ悪いが、音楽バトルはやめてくれ。おまえたちのことだ。どうせ騒音バトルになるに決まってる。もっと平和的な方法でたのむ」
「そうかよ。じゃあ殴りあいで決めるしかねぇな」
「平和的な方法でと言っただろう?」
「平和的に、か……。じゃあスポーツはどうだ? 健康的だろう?」
「いいわよ。ただ、どうせだから派手にやらない? このまえのパン戦争でストレス発散できなかったから、ちょっと暴れたい気分なの」
 その『パン戦争』とは、一時間たらずで彼女が十人近くの撃退士を倒した無茶苦茶な戦いのことである。
「あれだけやっておいて、ストレス発散してなかったのかよ……」
「あなたを殴ってないしね」
 亜矢にとっては、ストレス解消こそが趣味なのだ。


リプレイ本文


 その日。ふたりのミュージシャンによる不毛なケンカを決着させるため、14人の撃退士が集まった。
 こちらは紅組。リーダーは鬼道忍軍の矢吹亜矢だ。

「さー、がんばるぞー!」
 今日の青空よりも明るい笑顔を見せるのは、レイラ・アスカロノフ(ja8389)。
 一見すると脳天気っぽい彼女だが、戦いとなれば真剣そのもの。ロープの状態や足場の確認、玉入れの玉からリレー用のバトンにいたるまで、入念なチェックを忘れない。しまいには、シャドーボクシングならぬシャドー綱引きまでして完璧を期するほど。……なんか、シャドー綱引きって凄い孤独だな。
「重体のオーデンさんが頑張って参加してくれてるんだから! こっちも負けてられないってもんですよ!」
 フンフンと鼻息荒く、士気の高さを見せつけるレイラ。
 すばらしい意欲だ。──そう、勝負ごとは本気でやらなければ面白くない!

「今日は力のかぎり競いあいましょう」
 そう言ってニッコリ手を出したのは、システィーナ・デュクレイア(jb4976)。
 ウェーブのかかった金髪に、サファイア色の瞳。雪のように白い肌。まるで、生きているフランス人形だ。しかし、見かけと裏腹に彼女もまたレイラと同じく戦うのが大好きな戦闘狂。運動会みたいなスポーツ対決といえど、負けるのは気に入らないのだ。
「もちろん。おたがい正々堂々戦いましょう」
 握手に応じたのは、白組のクリフ。
 だが、ふたりとも手が震えている。思いっきり力をこめているのだ。システィーナは『練気』まで使っての、渾身の握手。
 しかし、この策は両者痛み分けに終わった。──うん。それはまぁ、そうなるよね。

 さて、まずは綱引きだ。
「全員! 気合入れていくぞっ!」
 フリフリのワンピース姿でロープの先頭に立つのは、雫石恭弥(jb4929)。なぜか女装しているのは、敵の集中力や士気を削ぐための策略だ。けっして彼の個人的な趣味ではない。くりかえすが趣味ではないぞ!
 しかしながら、この作戦は失敗に終わった。というのも、白組の先頭に立つジョセフィーヌは二メートル近いマッチョボディにチュチュ着用というパーフェクトすぎる変態で、恭弥の女装が霞んでしまうほどなのだ。これはひどい。
「自分非力でござるから、こういう力勝負は苦手でござるよー。……でも、だからといって手は抜かんでござる! 全力で挑むでござるよ!」
 恭弥の後ろでグッと拳をにぎるのは、静馬源一(jb2368)。今大会で一番の機動力を誇る、ワンコ忍者だ。本人はこう言ってるが、じつは物理攻撃値もチームで三番目だったりする。謙虚なのだ。

 さて、両チームさまざまな思惑が飛び交う中、いよいよ競技スタート!
 ──のはずだが、なぜかオーデン・ソル・キャドー(jb2706)の姿がない。
「はっ! しまった!」
 おでん攻撃を警戒しておくつもりだった恭弥。ふと見回せば、そこには綱引きをスルーしておでんを貪るオーデンの姿が!
 完全に白組アダムの策に落ちたオーデンだが、そのアダムもまたオーデンの繰り出した『いちごみるく』で戦線離脱していた。ふつうの依頼なら有り得ない、ピンポイント爆撃!
 まぁオーデンは重体だし相打ちならいいか、と納得する紅組メンバー。
 そんなわけで、両チームとも一人すくない状態で競技開始!

 パーン!
「「アイエエエエ!?」」
 号砲と同時に、なぜか一斉にスッ転ぶ白組。
 なんと、オーデンが相手側のロープにワセリンを塗っていたのである。
 こんな大技がよく通じたなと思うが、白組の誰ひとりとして『ロープをチェックする』というプレイングをしなかったため、クリティカルに成功してしまったのだ。入念なチェックを怠らなかった紅組とは、えらい違いである。
「クククッ……。フェア? スポーツマンシップ? 勝負は勝たなければ意味がないのですよ」
 にやりと笑いながら、熱々の玉子をハフハフするオーデン。こんな奇策でMVPをかっさらうとは、まさに悪魔!

「一気に決めるわよ!」
 亜矢の号令で、紅組は一方的にロープを引っ張った。
 これはもう勝負あっただろうと思われた直後、白組の侑吾が突進してくる。
 そして炸裂するウェポンバッシュ!
「グワーー!」
 恭弥がパンチラしながら吹っ飛び、侑吾は係員に引きずられて退場。
 やられっぱなしでいられるかとばかりに、エレムルス・ステノフィルス(jb5292)は炎陣球を発射。直撃はさせないが、熱でスタミナを奪う作戦だ。
 結局これがとどめを刺す形となり、紅組は圧勝。

「やったあああ!」
「ふふっ。完勝でしたね」
 ハイタッチをかわす、レイラとシスティーナ。
 そのとなりでは、桜花(jb0392)がどさくさにまぎれて源一に抱きついている。この二人は、かつてゴキブリ退治の任務をともにくぐりぬけた戦友同士なのだ。まぁそうじゃなかったとしても抱きついてた可能性は高いが。
 わいわいと緒戦の勝利に沸きかえる紅組メンバーたち。白組と違って、とてもさわやかだ。白組と違って! 重要なことなので二度言いました!
 さぁ次は玉入れだ!



 しかし、この競技。やる前から紅組の不利は明らかだった。
 なぜなら白組には5人もの天魔がいるのだ。なんでもアリなら、空を飛べるほうが有利に決まっている。
 一方、紅組の天魔はオーデンひとり。しかも重体の身というありさま。
 さぁ、この絶望的に不利な状態から、勝利をもぎとることができるのだろうか。
 実際、ちょっと、かなり、だいぶ、100パーセント勝てないと思うが、レディゴー!
 号砲が鳴ったとたん、白組から『ナイトアンセム』と煙花火が飛んできた。それだけではない。全裸にフンドシ一丁の変態筋肉ダルマ、ユーサネイジアが闇の翼で飛来。そのまま紅組のカゴにIN!
「我を排除したくば……屍として引きずり出すがいい……!」
 圧倒的有利にもかかわらず、そこまでやるかという妨害に走る白組。えげつなさすぎる。
 紅組で妨害を考えていたのはエレムルスだけだ。しかも白組のカゴの紐を切るとか、玉をいくつかニセモノとすりかえておくという、ささやかなものでしかない。──いや、これはこれで結構イケてる手だが、いくらなんでも敵のカゴに自ら入り込むというのは悪質すぎる。だって、これを追い出そうとして攻撃したら、その人が退場処分になるんですよ? 悪辣にもほどがある。というか、この手口は盲点だった! よく考えついたな!
「なんなのよ、あのフンドシ野郎! だれか、なんとかしなさい!」
 怒り心頭の亜矢。本当なら自分で攻撃したいところだが、命中値の高い彼女は退場するわけにいかないのだ。
「わかった。私がやろう」
 言うや否や、桜花はストライクショットを連打。みごと、筋肉ダルマをしとめることに成功。そのまま退場となり、係員に引きずられていく桜花。ああ、なんという不条理なルール!
 しかも、死んだ筋肉ダルマをオーデンがカゴから追い出し、さぁ玉入れ再開──。などとやってるうちに、勝負はついていた。理不尽すぎるだろ!
 ええと……。いやもう、なんというか、正直すまんかった。
 天使とか悪魔がいる世界で、玉入れは成立しない! ちぃ覚えた!



 あまり反省の色が見えないMSだが、話を進めよう。
 いよいよ最終競技。ザ・リレー!
 ……なのだが、どういうわけか仲間割れしている二人がいた。
「タケノコは手が汚れるだろうが! キノコ以外俺は認めないぞ!」
「なに言ってるんです雫石さん。どう考えてもタケノコが至高でしょう!」
 恭弥とエレムルスだ。どうやら、キノコ山とタケノコ里の派閥抗争が繰り広げられているようだ。いわゆる、キノタケ戦争である。
「そもそもタケノコのほうが売れてるんですよ! この事実をどう受け止めるつもりですか!」
「この売り上げ厨が! 目をさませ!」
 容赦なくストライクショットを叩きこむ恭弥。
「ぐはっ!」と血を吐いて倒れるエレムルス。
 すべては『大逃走』の発動条件を満たすための芝居だが、なぜキノタケ戦争……。ちなみに私はキノコ派です。ブランデーに合いますよ。

 しかし、ケガをしてまで勝利をめざす姿勢は素晴らしい。
 エレムルスはグイッと血をぬぐいながらスタート位置へ。
 そこには、白組アダムの姿が。
「おまえの苦手なもの……それは、おれだ!」
 両親を天使に殺されたエレムルスは、たしかに天使が苦手だ。しかし、いまはそれどころではない。さっさと終わらせて回復したいのだ。
「はは……」と苦笑しながら、クラウチングスタートの姿勢をとるエレムルス。
 アダムは拍子抜けしたように、となりのコースへ。

「On your mark......set...」
 パーン!
 両者きれいにスタート!
 しかし『大逃走』によって絶大な機動力を手にしたエレムルスは、瞬時にアダムを置き去り。砂煙を巻き上げてトラックを駆け抜け、あっというまにバトンタッチ! 作戦大成功! 紅組応援席から歓声が上がる!
 しかし、第二走者オーデンは参加者中一番の鈍足。彼が走っている間に、白組は侑吾にタッチ。
 とはいえ、侑吾にもこの差を埋める手段はなかった。
 オーデンは自分のペースで走りきり、システィーナにバトンをつなぐ。
「行きますよ……!」
 バトンを受ける寸前に『縮地』を発動したシスティーナ。『大逃走』ほどではないにしても、これまた圧倒的な速さでトラックを走破! リードをさらに大きくして、桜花へバトンを渡す!
 やや遅れて、白組のバトンはクリフに。
 この時点で、紅組が走者一人分のリードを確保。メンバーは勝利の予感に沸きかえる。

紅)エレムルス→オーデン→システィーナ→桜花
白)アダム→侑吾→クリフ

「あはははは。もう勝ちは決まったようなものね」
 亜矢が言うのも当然だった。残り四人のうち、彼女と源一は忍軍なのだ。足には自信がある。
 しかし、楽観的なことを言ってられるのは短い間だった。
 埋められない知略を暴力で打ち破ることにした白組メンバー侑吾は、走行中の桜花に向かって突撃。ためらいなくウェポンバッシュを敢行!
「ちょ……! ま……!」
 とっさに反撃を考えた桜花だが、それを実行すると自分が退場処分を受けることに気付き、「このルール、穴だらけだよぉぉぉ!」と抗議しながらコース外へ転がっていった。──うん、ごめん。わざとこういうルールにしたんだ。まったく、ひどいMSだな! はっはっは!
 とはいえ、ウェポンバッシュ一発で沈むほど桜花も貧弱ではない。むくりと立ち上がり、バトンを拾いなおして再びコースを走りだす。白のバトンは第四走者シエロに渡っているが、まだまだリードは十分だ。そのリードを保ったまま、赤いバトンは恭弥の手に。
 しかし、恭弥の背後から駆け寄ってくるのは、いま走者の役目を終えたばかりのクリフ。もう仕事はないから退場してもいいんじゃね? という犯罪者同然の破滅的思考にもとづく襲撃だ。白組の辞書に『スポーツマンシップ』という言葉はないらしい。というより、辞書さえ持っているか怪しいレベルだ。

「暴力反対! 暴力反対!」
 大声で訴えながら、ワンピースの裾をひるがえして逃げる恭弥。たしかに暴力は良くないが、さっきチームメイトに致命傷を負わせていた人間の言うセリフではないと思う。
「逃がしません!」
 クリフの『ダークハンド』が発動し、影から現れた腕が恭弥を拘束した。
「ぅぁあ……っ!」
 そのまま力ずくで押し倒されてしまう恭弥。クリフは馬乗りになり、抵抗する恭弥のワンピースを引き裂いて無理やり処女を……じゃなくバトンを奪取。
「アダム、よろしく!」
 放り投げられたバトンは宙を飛んでアダムの手に。
「ひきうけた!」
 バサッと光の翼をのばして飛び立つアダム。
 もう、やりたい放題である。相手チームのバトンを強奪して逃げるって、どういうリレーなの。これが21世紀のリレーなのか?
 しかし。逃げようとしたアダムは、背後からの強烈な火柱に貫かれた。
 亜矢が火遁を行使したのだ。
「いいかげんにしなさいよね、あんたたち……!」
 まだランナーの役が残っている亜矢だが、堪忍袋の緒が切れたのだ。火遁の直撃を受けてアフロヘアーになったアダムを、さらに殴ろうとする亜矢。だが、どこからともなく現れた係員が彼女とアダムを連れ去ってしまう。

 そうこうしている間に、白のバトンはチョッパー卍へ。
 あやうく貞操を失いかけた恭弥は、退場した亜矢の分まで走らされるハメに。
 がんばれ恭弥。今日一番ひどい目にあってるのは、たぶんキミだ。
 チョッパー卍は普通に走ってジョセフィーヌとバトン交代。
 やや遅れて、紅組のバトンはレイラに。
 これで紅組は源一を残すのみだ。ちなみに彼は、スキルなしの移動力ならダントツ一位である。いっぽう白組の残りは、清十郎とユーサネイジア。
 あれだけの妨害工作を受けたにもかかわらず、依然リードを保っている紅組。フェアな勝負なら、とっくに勝ちを決めていたに違いない。が、その勝利はもう目の前に──。
 しかし、油断大敵。好事魔多し。
 なんと、白組清十郎も『大逃走』の持ち主だったのだ! エレムルスを上回る速さでレイラを追い抜いた清十郎、アンカーのユーサネイジアに全てをゆだねてバトンタッチ!
 劇的な大逆転を許してしまった紅組だが、こちらのアンカーは俊足の源一。まだまだ挽回できる範囲だ。

 そしてついに、赤いバトンがアンカーの手に。
「自分はいま! 風になるでござる!」
 疾風迅雷! 忍軍の本領を発揮した源一が、すさまじい追い上げを見せる!
 逃げる変態!
 追う豆柴忍者!
 ゴール10メートル前で、ふたりは並んだ。
 その瞬間! ユーサネイジアの瞳がヌラリと輝く!
「我といっしょに……死んでくれ……!」
「イヤでござるー♪」
 抱きつきにきた変態筋肉ダルマをひらりと回避して、源一はゴールイン!
 と思いきや、なぜかゴールテープに撥ね返されてしまう源一!
「わふっ……!?」
 見れば、テープの端をにぎっているのは清十郎。なんと彼はテープに金属製の糸を仕込み、『フォース』を発動させたのだ。
「ふふっ。ゴールするまで油断したらダメですよ?」
 邪悪な笑みを浮かべる清十郎。
 その間に、ユーサネイジアがゴールイン!
 この瞬間、紅組の敗北が決まったのであった。



「負けたのは自分のせいでござるぅぅ……」
 試合のあと、しょんぼり落ち込む源一がいた。
「そんなことないよ。元気出して! ね?」
 むしろ負けて良かったといわんばかりの笑顔で源一の頭をなでまくる桜花は、じつに幸せそうだ。
「正々堂々と戦って負けたんだから、しょうがないよ」と、レイラが元気づける。
「私たちも、もうすこし暴力に訴えれば良かったかもしれませんね」
 さらりと黒いことを言いつつ、システィーナは微笑した。
「では、おたがいの健闘を称えて白組の皆さんと握手しましょうか」
 勝負には負けたものの、白組と違って全員そろった紅組はとても爽やかだった。白組と違って!



依頼結果

依頼成功度:失敗
MVP: おでんの人(ちょっと変)・オーデン・ソル・キャドー(jb2706)
重体: −
面白かった!:6人

和の花は春陽に咲う・
レイラ・アスカロノフ(ja8389)

大学部5年66組 女 阿修羅
肉欲の虜・
桜花(jb0392)

大学部2年129組 女 インフィルトレイター
正義の忍者・
静馬 源一(jb2368)

高等部2年30組 男 鬼道忍軍
おでんの人(ちょっと変)・
オーデン・ソル・キャドー(jb2706)

大学部6年232組 男 ルインズブレイド
災恐パティシエ・
雫石 恭弥(jb4929)

大学部4年129組 男 ディバインナイト
お姉ちゃんの様な・
システィーナ・デュクレイア(jb4976)

大学部8年196組 女 阿修羅
にゃんこのともだち・
舞鶴 希(jb5292)

大学部2年173組 男 陰陽師