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マスター:牛男爵
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:4人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/01/31


みんなの思い出



オープニング


 とある地方の山中に、古めかしい神社があった。
 否、『古めかしい』などという言葉では生ぬるい。
 それはもう誰が見ても廃棄された神社としか思えないレベルで朽ち果て、夜になれば近寄るのも恐ろしいほどの暗黒オーラを漂わせているのだ。べつに天魔が住みついているとかいうわけではない。ただ単に、あまりに薄汚れているためそういう空気が漂っているだけだ。
 神社までは、最寄りのバス停から徒歩30分。
 そのバスも1日2本しか走っておらず、神社までの道のりは延々と続く獣道みたいな上り坂。立地は最悪である。

 いま、その坂を上ってゆく女性がいた。
 彼女の名は薄木幸子。民間の撃退士派遣会社に勤める、ベテラン撃退士だ。
 中年太り気味の体で、ハァハァ言いながら坂を上る幸子。だが特に、寺社仏閣めぐりが趣味だとか、廃墟マニアだとかいうわけではない。神社の宮司から依頼を受けて、こうして訪ねてきたのだ。

 やがて幸子は目的地に辿りつき、溜め息をついた。
 その景観は、話に聞いた以上にひどい。
 なにしろ前後左右は深い雑木林。鳥居は今にも崩れ落ちてきそうだし、社屋など完全に廃屋状態だ。『俎板神社』と彫られた石碑はボロボロに砕けて、ほとんど判読できない。無駄に広い境内は雑草に覆われ、いたるところに獣や鳥の糞が散らばっているありさま。
 もはや人が住む場所ではないというか、人が足を踏み入れる場所ではない。人外魔境だ。

「おお、よく来てくれた! 待ってたぞ!」
 社屋のほうから、白髪の男が駆け寄ってきた。
 彼の名は薄木金作。幸子の実父だ。
「来たくなかったわよ、こんなところ! 来てくれなきゃ死ぬとか言うから仕方なく来たんでしょうが! いいかげんにしてよね!」
「すまんすまん。でも本当にピンチなんだ。助けてくれ」
「手紙で読んだわよ。参拝客が来ないってんでしょ?」
「そう。正月だってのに、初詣客が10人ぐらいしか来てない」
「10人来たってのが信じがたいわね……」
「去年は50人ぐらい来たんだ。一昨年はもっと来た」
「来年はゼロね」
「そう言わないでくれ。なんとか客を取りもどしたいんだ」
「賽銭を取りもどしたいんだって、正直に言いなさいよ」
「そんなの当たり前だろう? 賽銭がほしくない宮司なんているか?」
「そういう態度だから客が来なくなったんじゃないの?」
「う……っ」
 言葉をつまらせる金作。
 ここぞとばかりに、幸子が畳みかける。

「大体なんでこんな薄汚れてるのよ。まるで廃墟じゃない」
「ああ。でも一部の廃墟マニアに人気が……」
「ここ神社でしょ!? 廃墟じゃないでしょ!? すこしは掃除しなさいよ!」
「半年ぐらい前までは、お手伝いの人が来てくれてたんだが……。脳梗塞で倒れてしまってな。それからは俺ひとりなんだ」
「理由になってないわね」
「俺も歳だからな。腰が弱くてなぁ」
「はぁ……。そもそもどうして、あんたが神主なんかになってるのよ」
「それには事情があってな。聞いてくれるか」
「聞かなきゃ何もわからないでしょうが。さっさと話してよ」

 話をまとめると、こうだ。
 薄木金作は3年前に妻と離婚し、家を追い出された。
 同時に会社もクビ。家も仕事も家族も失った彼は、自殺するつもりでこの神社にやってきた。そこで先代の宮司に諭され、自殺を断念。しばらくして宮司が隠居するのを契機に、金作が跡を継いだのである。

「なんで、こんなボロ神社を継いだのよ。馬鹿じゃないの?」
「一応、先代には恩があるからな。まぁ2年前に亡くなってしまったが」
「その恩返しで神社を繁盛させたいってわけ?」
「それも少しはあるが……一番は賽銭だ。どうにかしないと飢え死にする」
「生活保護でも申請したら?」
「とっくにしたよ。でも通らなかったんだ。このままだと俺は刑務所暮らしだよ……」
「ふつうに働きなさいよ」
「俺はもう会社勤めはイヤなんだ。長年会社に尽くした俺をあっさりとリストラしやがって……。長年つれそった女房だって俺を捨てるし……。もう他人と関わりたくないんだ。この神社に引きこもって日々のんびり過ごしたいんだ……!」

 涙ながらに訴える金作。
 一見まともなことを言ってるように見えるが、さにあらず。
「あのねぇ……母さんが離婚届け突きつけたのは、あんたのキャバクラ通いと借金が原因でしょうが! それにリストラじゃなく、会社の金を使いこんだのがバレて解雇されたんでしょ!」
「す、すまん。反省してる」
「反省してるなら働きなさいよ、このろくでなし!」
「だからこうして神社で働いてるじゃないか」
「賽銭目的でね。でも賽銭箱を置いとくだけで金儲けできるほど、世の中は甘くないのよ」
「そう、そう思ったから幸子に助けを求めたんだ」
「あたし撃退士なんだけど? 経営コンサルタントじゃないわよ?」
「職業は関係ない。おまえ以外たよれる相手がいないんだ」
「はぁ……まったく。餓死されるのも刑務所行きになるのも寝覚めが悪いから、最低限の力は貸すけどさぁ……」
「助かるよ。持つべきものは娘だな」
「こんな父親、いまからでもクーリングオフしたい……」
 幸子は大きく溜め息をついた。

「……で、予算は? って、あるわけないわね」
「うん。予算なしでどうにかしてくれ」
「じゃあ地道に宣伝して、最低限の外観を整えるのが先決ね」
「よし、まかせた」
「あんたも手伝うのよ!」
「うん、まぁ、腰に負担がかからない程度でだな」
「はぁ……。ところで、ここ『俎板神社』っていうの? なにこのトンチキな名前」
「よく聞いてくれた。この神社は約500年前、平安時代に建てられたんだが……」
「室町時代でしょ。本当に適当な人間ね」
「まぁどっちでもいいじゃないか。とにかく当時、このあたりでは質の良い木材が採れたらしい。それを利用して作られた俎板は特に評判がよかったらしくてな。寿命が来た俎板は、この神社で供養していたそうなんだ。ご神体も俎板だしな」
「いまどき俎板供養じゃ売りにならないわね」
「供養なんて面倒なこと、俺もやりたくないしな」
「……あんたが飢え死にしても、当然な気がしてきた」
「そう言わないでくれ、働く気はあるんだ。ただ、できれば1日1時間ぐらいで……」
「どこの名人!? 仕事はテレビゲームじゃないのよ!」

 ここに来てからというもの、幸子はほぼ怒鳴りっぱなしだった。
 が、無理もない。実の娘の目から見ても、この金作という男は最悪だ。本来なら横領の時点で刑務所行きだったところを運良く執行猶予がついただけで、立派な犯罪者なのである。
 ただ、金作の女房(幸子の実母)が恐ろしい鬼嫁だったことを知っている幸子には、わずかながら同情の気持ちもある。だからこうして相談に乗っているわけだ。

「……よしわかったわ。神社の建て直しは、あたしの後輩たちに委ねることにするから」
「会社の後輩か?」
「久遠ヶ原学園の後輩よ。娘のあたしが何を言ったって、あんたはマトモに聞かないでしょ。若い子たちに罵倒されて目をさますといいわ」
「俺はマゾだから、そういうのも悪くないな」
「はぁ……早く死なないかしら、こいつ」




リプレイ本文



 内容が内容であるためか、その依頼にはなかなか有志が集まらなかった。
 無理もない。薄木金作という男の現状を聞けば、だれだって『死んでよし!』と思うだろう。
 だが、どうにかこうにか4人の奇特な撃退士が集まった。
 彼らは今、俎板神社へ続く階段を上っているところだ。


「しかし聞くにつけひどい話ですね……。見習ってはいけないお父さんの見本……でしょうか」
 だれにともなく、浪風悠人(ja3452)が呟いた。
 妻帯者である彼は本件について色々と思うところがあり、ぜひ金作に改心してほしいと願って依頼を引き受けた次第だ。

「ていうか、そのおじさん。本気で神社を立てなおす気があるのかな」
 疑うように言うのは、猪川來鬼(ja7445)
 彼女の実家は鬼を信仰する家系であり、寺や神社をないがしろにする者には良い感情を抱けない。『抱けない』どころか、金作に対しては内心かなり怒っている。
 いまのところ感情を見せずにはいるが、金作を前にしても平常心を保てるだろうか。

「うぅん……娘さんに相談したぐらいですから、それなりに意欲はあると……信じたいですねぇ……」
 弱気な発言をしたのは、月乃宮恋音(jb1221)
 彼女は幸子と顔見知りであり、その関係から本件を引き受けた。神社再建については、かなり詳細に考えている。

「まぁどんな結果を目指すにせよ、金作さんに勤労意欲を取り戻させないとね」
 それが一番重要とばかりに、藍星露(ja5127)は告げた。
 たしかに彼女の言うとおりだ。どれだけ手を尽くして神社を立てなおそうと、金作が『労働は1日1時間』とか言ってるようでは話にならない。意識改革が必要だ。
 もっとも、それが簡単にできるなら幸子も苦労はないのだが。


 ともあれ、4人は俎板神社に到着した。
 一般人なら息切れ確実の階段だが、さすが撃退士。苦しそうな顔をしている者はいない。
「話に聞いた以上に荒れてるねぇ」
 境内を眺めて、來鬼は溜め息をついた。
「ある意味、予想の範疇と言いますか……。まるでお化け屋敷ですね」
 悠人も若干あきれ気味だ。
 そこへ、悪びれる様子もなく金作が近付いてきた。
「おお、よく来てくれた。キミらが幸子の後輩か。じゃああとは頼んだ」
 それだけ言って社務所へ引っ込もうとする金作。
 その首根っこを、來鬼がひっつかまえた。
「うちら、この神社を立てなおしに来たんだけど? すこしぐらい協力してくれるよね?」
「ああ、うん。でも俺は腰を痛めててさ。重労働は無理なんだ」
「いまから境内を掃除するから。ゴミかそうでないかぐらいは教えてくれるよね?」
 引きつった笑顔で詰め寄る來鬼。
『ゴゴゴゴゴ……』というSEが聞こえそうな笑顔を見て、金作は「あっハイ」と答えるのがやっとだった。


 こうして、ひとまず挨拶は済んだ。
 なにはなくとも、まずは境内の掃除である。
「しかしまぁ……ここまで荒れてると、いっそ清々しいよねぇ」
 嫌味とも感心とも取れる口調で言う來鬼。
 だが金作に嫌味は通じない。
「だろ? 中途半端に掃除するからダメなんだ。こうして自然のままにしておくのが一番さ」
 などと笑ってる始末だ。
 これには來鬼にも返す言葉がない。
「ここまでさせるのって、ある意味才能だよなぁ……」
 と、もはや感心するありさま。

 ともあれ、來鬼と悠人は手分けして掃除に取りかかった。
 來鬼は境内のゴミ拾い。
 明らかにゴミと判別できるものはゴミ袋に、判別できないものは金作に訊いて……と思っていたが、判別の必要もなくゴミだらけだ!
「よくまぁここまで……」
 怒りを通りこして、げんなりしてくる來鬼。

 一方、悠人は雑草の始末にかかった。
 大鎌ウォフ・マナフを使っての、豪快な草刈りだ。凄い勢いで雑草が刈り取られ、ヒリュウがそれを一箇所に積み上げてゆく。そのほかにも、燃えるゴミはひとまとめに。
 ある程度集めたら『炎焼』で焼却。
 來鬼とのタッグで、見る見るうちに境内は綺麗になってゆく。


「おお、さすが撃退士。掃除もうまいね」
 金作は何か手伝うでもなく、縁側で茶をすすっていた。
 ちなみに、撃退士が特に掃除上手という設定はない。
「あのぉ……ところで……」
 恋音が慎重に話しかけた。
「なにかな、お嬢さん。まぁ隣に座りなさい」
「は、はぁ……」
 ごく自然に女の子を隣に座らせるあたり、さすがキャバクラ通いで破滅しただけある。
 恋音は少々赤面しながら、話を切り出した。
「ええとですねぇ……まず、確認しますけど……薄木さんは、宮司の資格をお持ちですかぁ……?」
「そんなの必要なの? 勝手に名乗っていいんじゃないの?」
「いえ、必要ですねぇ……。このままですと、犯罪者になってしまう可能性が……」
「それはまずい。ただでさえ前科があるのに」
「まぁ、現状ではあまり心配なさそうですが……この先、参拝者が増えた場合、資格がないことが知られると……まずいですねぇ……。無資格で一部の神社業務をおこなうと、罪に問われる可能性もありますよぉ……?」
「そりゃまずいな。俺は賽銭だけで遊んで暮らしたいんだ。どうすればいい?」
「それについて、ですけれどぉ……こういった小規模の神社の場合、賽銭収入はごくわずかで……祭祀や祈祷による収入が、中心のようですよぉ……?」
「そうなのか? でも祈祷とか面倒だな……」
「それに、多くの神職の方は副業を持っているケースが多いようですねぇ……」
「いやだ! 俺はもう働きたくないんだ! 働いたら負けだ!」
 どこかのニートみたいなことを言い出す金作。
 これは重傷だと思いつつも、恋音は提案してみる。
「あのぉ……とりあえず、食べていけるように……家庭農園など、やってみませんかぁ……? 最初の準備は、手伝いますよぉ……?」
「そんな面倒なこと絶対にやりたくない!」
「ですよねぇ……うぅん……」
 これには恋音もお手上げだった。
 ここまで頑なに労働を拒否する人間を働かせるのは、並大抵のことではない。


「この場は、あたしにまかせてもらってもいいかしら?」
 黙って会話を眺めていた星露が、話に割って入った。
「いいとも、いいとも! さぁここに座って!」
 恋音と反対側の場所を手で叩く金作。
 左右に美女をはべらせて、完全なキャバクラ体勢にするつもりだ。
「それもいいけど……気分転換に外を歩きません? あたしと一緒に」
「いいねえ。ただ、あの長い階段が面倒でなぁ……」
「あたしが背負いますよ。こう見えても撃退士ですから、人を背負って階段を上り下りするぐらい簡単です」
「ぜひ! ぜひおねがいする!」
「では行きましょう」
 星露が手をのばして、金作の手を取った。

「それにしても大きい神社ですね。管理するのも大変でしょう」
 金作の手を引いて歩きながら、星露が訊ねた。
「本当だよ。今日はきみたちが来てくれて助かる」
「人助けも撃退士の仕事ですから。……あ、階段ですね。あたしの背中にどうぞ」
 長い階段にさしかかると、星露は身を屈めた。
 長い髪が流れて、白いうなじが露わになる。
「おおっ!」
 鼻息を荒くさせながら、金作は遠慮なく星露の背中にしがみついた。
 しばらく遠ざかっていた女の匂いと感触に、金作は我を忘れて興奮する。
「あら、お元気ですね」
 大人の対応をする星露。
 こう見えて彼女は二児の母だ。男のあしらいには慣れている。

 星露は、そのまま金作を背負って階段を下りていった。
 歩きながら、星露は優しく問いかける。
「幸子さんから話は聞きました。たいへん苦労したそうですね」
「ああ。俺の人生は失敗続きだった……。あの嫁と結婚したのが全ての敗因だ」
「相当な鬼嫁だったそうで」
「鬼なんてもんじゃない。あれは悪鬼羅刹だ」
「それで、女の子のいるお店に通うようになったんですか?」
「ああ。俺みたいな男はいっぱいいたよ。どこにも行く場所のない、哀れな男たちがね」
「それは、つらかったですね」
「会社ではロクな仕事ももらえず、家では妻に罵倒され、ときには殴られ……娘には無視されて……キャバクラだけが俺の救いだったんだ」
「わかります。よくわかりますよ」
 金作の言うことを一切否定せず、星露は全て容認した。
 まるで聖母のごとき慈愛の心。
 いつのまにか金作は星露の背中で泣いている。
 まるで祖父を背負う孫娘のように感動的な絵だが……星露は子持ちの人妻、金作は無職同然の横領犯であることを忘れてはいけない。



 そんな二人をよそに、俎板神社では清掃と修繕の作業が進められていた。
 來鬼は本堂の掃除。はたきで天井や棚の埃を落とし、箒でゴミや埃を掃き出し、濡れ雑巾で床を拭く。
 言うのは簡単だが、半年以上も掃除されてなかったので撃退士といえど一苦労だ。
「まったく、よくここまで汚くできたものだよ……。寺や神社をなんだと思ってるんだ?」
 だれに聞かせるでもなく、來鬼は呟いた。
 が、呟きながらも手は止まらない。怒りの力を原動力に、すさまじい早さで本堂を綺麗にしてゆく。
 本堂があらかた綺麗になれば、次は社務所へ。これも圧倒的な速度で、掃き、拭き、洗い浄めてゆく。部屋の清掃はもちろん、什器や小物もしっかりと。神具はとりわけ丁重に扱い、もとの輝きが蘇るまで磨き上げる。


 悠人は、とくに目立つ場所を選んで修繕作業を進めていた。
 もともと日曜大工は得意なので、それを生かしての作業だ。
 最低限の工具は持ってきたし、木材や釘なども予算内で可能な限り揃えてきた。安物の木材だが、どう修繕しようとも現状よりはマシだろう。
「とても全てには手が回りませんが……できるかぎりは綺麗にしておきましょう」
 実際、悠人の言うとおりだった。これだけ荒れ果てた神社を、一日で修復できるわけがない。とにかく人目のつくところを優先して修復だ。人手や時間の足りなかった箇所は、あとで金作に伝えておけば良い。──という考えだが、金作が自分で修繕とかするだろうか。すくなくとも現状では無理だ。
「あと目立つところは……うん、あの石碑はどうにかしたほうがいいですね」
 悠人は境内の入口に置かれた『俎板神社』の石碑に目をつけた。
 完全に崩れ落ち、何が彫ってあるのかわからない代物だ。
 その石くれは目立たないところへ隠し、かわりに持ってきた板きれに『俎板』と彫ってニスで防腐処理して入口へ設置する。
「これでよし……と」


 そんな現場組とは別に、恋音は持参したノートPCで作業をつづけていた。
 なにはなくとも金作に資格を取らせなければならない。俎板神社を適切に管理する者も必要だ。
 そう考えて、恋音は俎板神社の近くにある大きな神社に連絡をとった。俎板神社の現状をしらせ、兼務社として組み入れてくれるよう要請したのだ。一応歴史のある社であり、最低限管理人はいるので、どうにか……と考えたのだが、そう甘くはなかった。金作が横領事件を起こしたことは斯界で広く知られている。そんな男に関わろうとする者は滅多にいない。
 ならばと神道系の新興宗教団体に連絡してみるも、これまた良い返事は返ってこなかった。前科者に対して世間は冷たい。神社など世間体を気にする業界はなおさらだ。

「うぅん……こうなれば、情報操作しかありませんねぇ……」
 なにか危ないことを言いだして、恋音は方針を改めた。
 そして、ネット上の匿名掲示板や呟きサイトに手当たり次第書き込み開始。
『みなさん俎板神社って知ってますか? 知る人ぞ知る、豊乳の御利益がある神社なんです!』
 みたいなことを宣伝し、さらには自らの体験談(捏造)を作って胸部の画像をUP。
『そんなことで巨乳になれるなら誰も苦労しない』という批判を浴びつつも、炎上商法みたいな感じで俎板神社は少しだけ話題になった。



 そのころ。星露と金作は公園に来ていた。
 ベンチに並んで座る二人の姿は祖父と孫娘のようだが、片方は横領犯、片方は人妻。どこか背徳的な空気が漂う。
「いままでの話を聞いてわかりました。金作さんは何も悪くありません。悪いのはすべて、別れた奥様ですよ」
「だろう? 俺がキャバクラ狂いになったのも、会社の金に手をつけたのも、全部あいつのせいだ」
「わかります。だれにも認めてもらえないのは苦しいですものね。でも、あたしなら金作さんのことを理解してあげられると思うんです」
 優しく告げると、星露は金作の手を取って胸に押し当てた。
 さらに吐息がかかるほど顔を近付けて、「内緒だけど、あたし年上の男性が好みなの……」と妖艶な声で囁く。全身から匂い立つフェロモンの香りは『友達汁』によるものだが、そこまでする必要もなく金作は思考能力を失っていた。
「ふぉおおおおお……!」
 押しつけられる胸の感触とフェロモン臭の前に、すっかり骨抜きにされてしまう金作。
 ここまでストレートに女の武器を使うとは、星露おそるべし!
「ただ……いまの金作さんも素敵だけど、立派な神主さんになればもっと素敵♪ だって格好良いじゃない?」
「そ、そうか? カッコイイか?」
「ええ。なんだか神秘的でしょう? あたし、金作さんの凛々しい神主姿が見てみたいわ♪」
「お、おお」
「もし金作さんが立派な神主さんになれたら……」
「なれたら……?」
 金作はゴクリと生唾を飲みこんだ。
 その頬にそっと口づけして星露は微笑む。
「そのときは、あたしを一晩好きにしていいわ♪」
「お……おおおおおおおお雄雄雄雄ォォッ!!」
 立ち上がり、雄叫びをあげる金作。
 毎晩キャバクラ通いを続けていた当時の『男』を取りもどした瞬間だった。



 じきに日が暮れて、俎板神社に夕闇が迫ってきた。
 來鬼と悠人はあらかた作業を終え、集めたゴミを焼却している。
 恋音は社務所に篭もって、地道な宣伝を続けていた。
 そこへ──
「うおおおおおおっ!」
 心臓破りの階段を駆け上がり、金作が突入してきた。
 さきほどまでの老いぼれぶりはどこへやら。外見は20歳ほども若返り、腰もピンと伸びている。まるきり別人だ。
「な、なにごと……!?」
 あまりの変貌ぶりに、目を丸くさせる來鬼。
「これは一体……」
 悠人も戸惑うばかりだ。
「お、おぉ……? これは、まさか……」
 社務所から出てきた恋音は金作の変わりようを見て、ひとつの可能性に思い至った。
「まさか……アウルに目覚めた、のでは……?」
 それが正解だった。
 なんと星露の色仕掛けで回春した金作はアウルが覚醒し、瞬時に若返ったのだ!
「さぁどうした、みんな! まだ仕事は残ってるぞ! 俎板神社を日本一の神社にするんだ! そして俺は日本一の宮司になり星露さんを嫁に迎える! これが俺の新たな人生プラン! はははははは!」

 予想外すぎる結末に、撃退士たちは顔を見合わせるばかり。
 あとから戻ってきた星露は「すこしやりすぎたかしら……」と首をかしげるのであった。
 ともあれこうして金作は必要以上に勤労意欲を取りもどし、俎板神社はみごと再建されたという。




依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: あたしのカラダで悦んでえ・藍 星露(ja5127)
重体: −
面白かった!:3人

おかん・
浪風 悠人(ja3452)

卒業 男 ルインズブレイド
あたしのカラダで悦んでえ・
藍 星露(ja5127)

大学部2年254組 女 阿修羅
肉を切らせて骨を断つ・
猪川 來鬼(ja7445)

大学部9年4組 女 アストラルヴァンガード
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト