.


マスター:牛男爵
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
参加人数:13人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/01/23


みんなの思い出



オープニング


「さぁーて、成人式の連休があけたら2016年も本格的に始動よ。でもそのまえに、去年のことを振り返ってみない?」
 唐突に言い出したのは、毎度おさわがせクノイチ矢吹亜矢。
 それに答えるのは、地獄のメタラー・チョッパー卍。
「ああ。バレンタイン祭とか、修学旅行とか、ハロウィンとかあったよな」
「そう、色々あったのよ! ただし文化祭はなかったけどね! どういうわけか、去年の文化祭は、よくわからないけど、なぜか開催されなかったのよ!」
「え? ああ……、言われてみりゃそうかもな」
「『そうかもな』じゃなくて! 去年の文化祭はなかったわよね!? あと運動会も! 意味わからないでしょ!」
「たしかに俺の記憶じゃ実行されなかったと思うが……この学園のことだ、どこか俺らの知らねぇところで開催されてた可能性はあるぜ?」
 亜矢の言うことも相当だが、卍の発言もだいぶおかしかった。文化祭とか体育祭とか、開催に気付かない生徒がいるだろうか。

「あのさぁ……冷静に考えてよ。おかしいでしょ! 文化祭やらない学校ってある!?」
 これは亜矢の言うとおりだった。
 文化祭や学園祭をやらない学校は珍しい。
「俺たちの知らない亜空間でやってた可能性はあるだろ」
「なんで!? どうして、そんな隠れキリシタンみたいなことしなけりゃいけないのよ! あと亜空間ってなに!?」
「ここじゃないどこかの空間だ。たとえば『初夢』とか」
「はァ!? 意味わからない! ちょっとは考えてモノを言いなさいよ!」
「おまえこそ少しは考えて発言しろ。まさか今から去年の文化祭をやろうってのか?」
「そのとおりよ!」
 やけくそみたいに言い放つ亜矢。

「あたしだって、べつに今さら2015年の文化祭をやりたいわけじゃないのよ! でも『文化祭』って、学園行事で一番のイベントだよね!? それをガン無視して何もなかったみたいにするなんて……絶対ゆるせない! そう、これは正義の義憤! いまこそ学生たちによる学生たちのための学生文化祭を学生立ち上げるべきよ!」
「まぁ好きにしろよ。告知すればヒマな連中が集まるだろ」
「そう……そうよね! ヒマな人たち集めて文化祭やればいいのよね!」
 という次第で、たった一人のアタマおかしい生徒の発案によって2016年1月にもなって2015年の文化祭が開催されることになったのであった。
 いつものことだが、これぞ久遠ヶ原!




リプレイ本文




 その日。唐突に文化祭を開催すると聞いて、ヒマな生徒20人あまりが集まった。
 だが、亜矢の話によれば2015年の文化祭をやるのだという。集まった誰もが、一瞬耳を疑った。

「はあ……? またあんた? 文化祭去年やったじゃん。馬鹿なの?」
 あきれたように溜め息をついたのは、雪室チルル(ja0220)
 当然のごとく亜矢が怒鳴り返す。
「やってないわよ! すくなくともアタシは見てない!」
「あんたが気付かなかっただけでしょ。だいたい常識で考えなさいよ、文化祭やらない学校なんてあるわけないでしょ。馬鹿じゃないの?」
「だれが馬鹿よ! さてはアンタら、隠れて文化祭やったわね!?」
「そんなことするわけないでしょ。あんたホントに馬鹿ァ?」
「ぐぬぬぬ……」
『馬鹿に馬鹿って言われてNDK?NDK?(ねぇどんな気持ち?)』みたいな感じで、亜矢を挑発するチルル。
 もちろん馬鹿にされて黙ってるほど亜矢は大人ではないので、「タヒね!」とか叫びながら光纏して殴りかかる。
 すかさずチルルも光纏して応戦。たちまち馬鹿同士のキャットファイトが始まった。
 ではここで名言をひとつ。
『争いは、同じレベルの者同士でしか発生しない!』


 さておき。ほかの参加者全員の『馬鹿はほうっておこう』という無言のコンセンサスのもと、皆それぞれ出しものの準備に取りかかった。
 文化祭といったらやっぱり屋台! ということで模擬店を開く者が多い。
 結果、並んだのは以下のような店だった。

 愛情たっぷり焼肉屋台──焼肉教・陽波透次(ja0280)
 季節感漂う七草がゆ屋台──下妻笹緒(ja0544)
 ツインテール喫茶──お菓子部・水無月沙羅(ja0670)
 コズミックホラー闇鍋──鷺谷明(ja0776)
 ラーメン王のラーメン屋──佐藤としお(ja2489)
 メイド休憩所──月乃宮恋音(jb1221)
 ロシア風スイーツ店──如月千織(jb1803)
 ブリザードかき氷屋──雪室チルル(負傷中)


 あきらかにヤバい店が1軒含まれてるが、和洋中バランスのとれたラインナップだ。あきらかにヤバい店が1軒あるけどな! だいじなことなので二度(ry
 しかし店より重要なのは『宣伝』である。なにしろ急な文化祭。生徒にも一般客にもロクに知られてない。
 というわけで、鳳静矢(ja3856)は前日からの突貫作業で各種店舗の看板を作って来ていた。
「手作り看板……これがなければ文化祭とは言えないだろう」
 おお、これはグッジョブ!
 でも全ての看板にラッコのイラストが描かれてるのは何故だろう。
 さらには、『久遠ヶ原2015文化祭』と書かれた巨大な看板を吊り下げる静矢。
「……うむ、これでよし」
 吊り下げた看板を見下ろすと、静矢は一仕事終えた顔でうなずいた。
 実際だれも看板とか作って来なかったので、これは名案。
 でも『久遠ヶ原2015文化祭』より大きな文字で『ラッコーランド本日開園』と書いてあるのは何故だろう。さらに看板の全面にラッコが描かれてるのは何故だろう。
『何故だろう』っていうか……完全に文化祭を私物化しようとしてる!

 ともあれこうして準備は進み、とくに開会宣言もないまま祭りは始まった。
 なにしろ告知がなかったため客が来るのか不安だったが、静矢の看板で興味を引かれた生徒たちがゾロゾロやってくる。ただし誰もが、これを文化祭ではなくラッコ祭だと誤解していたが。そもそもこの時期に文化祭ってのが異常だしね!
 まぁそれを言うなら、ラッコ祭って何なんだよって話ではあるが。


「ラッコーランドですか……。よくわかりませんが、せっかくなので遊んでいきましょう」
 いつもの奇術師スタイル(シルクハット・タキシード&カボチャマスク)で会場へやってきたのは、エイルズレトラ マステリオ(ja2224)
 まずはスマホで会場入口を撮影。画像をUPしつつ、『祭りなう』と自分のアカウントで呟く。
 ささやかながらもこれがネット上で広まり、多少の宣伝効果を得ることができた。
 が、べつにエイルズは宣伝しようと思って呟いたわけではない。ただ賑やかしに来ただけだ。
 そういうわけなので、あえて危険そうな場所へ突撃するエイルズ。そう、無難な『呟き』など面白くない!
「行きますよ! まずはそこの女子プロに乱入させてもらいます!」
 エイルズが真っ先に目をつけた『アトラクション』は、チルルと亜矢のバトルだった。
 そして自慢の超絶回避力で二人の攻撃を避けながら、『プロレスなう』などと呟いてみせる。
「「邪魔よ!」」
 チルルの手から氷の雨が降りそそぎ、亜矢の手から炎の雨が撃ち出された。
 こんなときだけ妙に呼吸が合っている。
「ぐわーっ!」
 吹っ飛ぶエイルズ。
 無念。忍軍だったら空蝉できたのに!



「文化祭というからには、やはり文化的に行わなければならない。文化的に行うということは、季節感を無視することはできないということだ。ゆえに1月に開催される文化祭は、日本の一月感を存分に味わえなくては意味がない。よって私が開く屋台は……これだ!」
 いつもの調子で独自のロジックを述べ立てると、下妻笹緒は物凄い勢いで屋台を引いてきた。
 現れたのは、『七草がゆ』と書かれた屋台。
「鉄のトゲが無数についた巨大独楽を解き放つ『地獄ゴマ超乱舞』アトラクションとどちらにするか悩んだが、やはりここは手堅く飲食店にすべきと判断した。行事食とはいえ、こういう機会でなければ食べぬ者も多いだろう。寒くなってきたことだし、風邪を引かないためにも一杯いかがか」
 などと口上を述べている間に、客が寄ってきた。
 たしかに七草がゆの屋台というのは珍しい。体も暖まるし、なによりヘルシーだ。
 ただ『七草ってなんだっけ?』という会話があちこちから聞こえるあたり、我が国の文化は廃れてきている。
「そうか、いまどきの若者は七草を知らないのか。……ならばこそ、私はこの祭りで『文化』を伝えよう。いいかね諸君。七草とは……『セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロ! リピートアフターミー!」
「「セリ! ナズナ!(ry」」
「もういちど!」
「「セリ! ナズナ!(ry」」
 なにやら文化系ではなく体育会系なノリで、七草がゆの文化を伝える笹緒であった。
 そこへ、一般客の子供たちが駆け寄ってきた。
「あっ、パンダだー!」
「パンダさんだー!」
 あっというまに取り囲まれてしまう笹緒。
 だが彼の言動はブレない。
「未来ある子供たちにこそ、日本の文化を伝えねばなるまい! リピートアフターミー! セリ、ナズナ!」
「「セリ! ナズナ!」」
 まるで何かの宗教だ。七草教か。
 粥は普通に売れた。



 会場となった校舎の片隅にそっと店をかまえているのは、水無月沙羅のツインテール喫茶。
 エビの味がする怪獣の料理を出すカフェ……ではなく、スタッフ全員の髪型がツインテールなのだ。希望があれば客にもウィッグを貸し出し、店全体でツインテ祭り。
 スタッフは『お菓子部』の部員一同で、皆一様に張り切っている。去年の文化祭がなかったせいだ!
 急な開催のため新メニューはないが、過去に製作したお菓子のレシピがいくつもある。そう、お菓子は文化!
 今回の厳選お菓子は──
・苺餅の冷製汁粉
・特製胡麻あん汁粉
・パンケーキ 〜 季節のフルーツと一緒に
 の3点。
 もちろん『お菓子部』名物のどら焼きは外せない。
 さらには、伝説クラスのメイド直伝の美味しい紅茶セット付き。
(心温まる優しい料理で、皆様を笑顔にしていきたい……)
 そんな沙羅の慈愛に満ちた、心くつろぐカフェである。
 これがウケないはずはなく、お菓子部の面目躍如と言えよう。



「みなさん、どうか焼肉を……焼肉を……」
 陽波透次は、人生最大級の真剣さで焼肉を売っていた。
 目の前に並ぶのは、炭火焼きの七輪。その網の上で、肉を一枚一枚ていねいに焼いている。
『ていねい』なんてものではない。なんと透次は肉の一枚一枚に名前をつけているのだ。それもすべて女性の名前。さながら自分の愛娘のように愛情を注いで育てて(焼いて)いるのだ。その愛にあふれる姿はキチg……聖人のごとし! 聖人のごとし!
 はっきり言ってキモイが、値段は安いし肉は上質なので、客足は悪くない。
 ただし肉一枚一枚に全力投球なので、客の回転はメッチャ悪い。完全に赤字だ。
 おまけに無料サービスのライス付きなので、赤字にますます拍車がかかる。
 そこへやってきたのは、焼肉部部長・カルーア。
「焼肉!? 焼肉の屋台なのです!?」
「はい。僕のリスペクトするカルーアさんには、秘蔵のドラゴンステーキを用意しておきました。名前はキャサリン。ぜひ食べてみてください」
「この世にドラゴンなんているのです!?」
「もちろんですよ!」
 無茶苦茶なことを言い張る透次。
 そのドラゴンって天魔じゃないのか。それとも伝説のカンフースター?
「なんだかわからないけど、おいしいのです」
 正体不明の肉を喰ってしまうカルーア。
 まぁきっとコモドドラゴンとかの肉だったんだろう、うん。
「カルーアさんに喜んでもらえて僕も嬉しいです。……みんな、もっと焼き肉を食べよう! 焼肉とは飢える者への施し! 慈悲あふれる救世主であり、それを信じる焼肉教は史上もっとも偉大な宗教なのです!」
「なのです!」
 透次の演説に、カルーアが同意した。
 そう、透次は忘れない。かつて雑草と塩を食べて暮らしていたあの日々にもたらされた、一筋の光を。一枚の焼肉を──。たとえ己の財布が軽くなろうと、それもまた焼肉が与えた神聖なる試練。喜んで受けて立つ構えだ。
 こうして透次とカルーアは焼肉愛を通じて絆を深め、仲良く財布がスッカラカンになったという。



 そんな感じでにぎわう会場の中を、秋姫・フローズン(jb1390)は一人で歩いていた。
 今日の彼女は警備担当。淡々と会場を巡回しつつ、仕事に専念している。
 が──せっかくの祭りだ。警備しながらも、文化祭の雰囲気をたのしむのは忘れない。身につけているのも、いつものメイド服だ。おかげで警備員と悟られることもなく、一般客に威圧感を与えることもない。
「やはり……祭りは……良いものです……」
 廊下を歩きながら、だれにともなく話しかける秋姫。
 それに答えるのは、彼女の二番目の人格・修羅姫だ。
「たしかに……な……だが……トラブルがなければ……な」
「……変なフラグ……立てないでください……」
 ふぅ、と秋姫は溜め息をついた。
 この学園では、立てたフラグは必ず回収される。そのことを秋姫はよく知っているのだ。
 案の定、廊下の先で騒ぎを起こしている者たちがいた。
 どちらも撃退士だと見るや、すかさず光纏して駆け寄る秋姫。
 そして取っ組み合う二人の隙を突いて、華麗に跳び蹴り一閃。
「「にゃーーッ!?」」
 キャットファイトしてたチルルと亜矢は、仲良く廊下を転がっていった。
 静けさを取りもどした廊下で、秋姫は呟く。
「誰であろうと……喧嘩は……厳禁です……!」
「まったくもって……そのとおりだ……な」
 修羅姫が答えた。
 彼女らがいるかぎり、会場の平和と秩序は守られることだろう。──多分。



「文化祭やってるよー!」
 佐藤としおは久遠ヶ原商店街に来ていた。
 彼もまた静矢と同じく『突然の文化祭に気付いてない人が多いのでは』と考え、宣伝用のチラシを配りに来たのだ。ここへ来る前には校内でも大量のチラシを配布しており、宣伝効果は確実に出ていた。
 さらには前日からの根回しで商店街の広告もチラシに掲載し、広告料や協賛金も少額ながら手にしている。この金で究極のラーメンを作成……というわけではなく、祭りの支援金として寄付してある。
 こうした地道な努力によって、透次の焼肉屋台などの赤字店舗は維持されているのだ。
「時間のある人もない人も、文化祭に来てみてねー! たのしいお店がいっぱいあるよー! いまなら僕の屋台で、ラーメン一杯無料進呈中! ぜひ食べて行ってねー!」
 ラーメン無料というのは強力な宣伝効果を発揮した。
 しかもラーメン王としおの作るラーメンだ。味は保証つきである。
「あ、あれは……ラーメン王!」
「知っているのか雷電!」
 みたいな会話が、通行人の間で交わされている。
 いままで何度となくラーメン屋台をやってきたとしおだ。ラーメンフリークの間で顔が知られていても不思議はない。
 せんでんこうかはばつぐんだ!



 そんなわけで、『久遠ヶ原文化(ラッコ)祭2015』は大いに盛り上がっていた。
 予想以上の来場者数に、あちこちの屋台で嬉しい悲鳴が上がっている。
 とりわけ忙しそうなのが、月乃宮恋音の休憩所だった。
 無論ただの休憩所ではない。スタッフ全員メイド服着用の、メイド休憩所だ。
 さらに休憩用として、日本茶、紅茶、珈琲などのフリードリンクを用意。
 文化祭らしく、お好み焼き、たこ焼き、焼きそばなどの料理も提供している。
 ぶっちゃけそこらの屋台より充実してるのだが、これは飽くまで休憩所。
 さらにはV家電研究所と提携して、新作V家電のモニタリングもおこなっている。お好み焼きと焼きそばはVホットプレートで。たこ焼きはVたこぽん君で作っているのだ。(注:V家電は市販されてません。貸出のみです)
 というわけで何だか色々やってるが、飽くまでも休憩所だ!
「うぅん……これは、とてつもなく忙しいですねぇ……」
 両手にトレーを持って、せわしなく行き来する恋音。
「料金をいただくべきだったと思いますぅ……」
 恋音と色違いのメイド服を着た由利百合華が答えた。
「この衣装も、なんというか……」
 同じくメイド服の三条絵夢が、自分の体を見下ろす。
 というのも、このメイド服。やたらと胸を強調するデザインなのだ。おまけにスカートの丈は短く、気をつけて行動しないとすぐパンツが見えてしまう。
「でも……ほかにサイズの合う衣装が、なかったのですよぉ……」
「それじゃ仕方ありませんね」
 恋音の言葉に即うなずく絵夢。
 彼女は重度のマゾ体質なのだ。

 そこへ顔を出したのは、佐渡乃明日羽。
「なにこれ? V家電のモニタリング?」
「は、はい……色々ありますよぉ……」
 イヤな予感にとらわれつつも、恋音は答えた。
「ふぅん? じゃあコレを試してもいい?」
「それは……超強力Vアイロン、ですねぇ……」
「これって、服を着たままアイロンがけできるんだよね?」
「そ、そんな機能は、ありませんよぉぉ……!?」
「あるかないか、実演してみないとね? もちろん恋音は協力するでしょ?」
「え、えとぉ……そのぉ……」
「床で仰向けになるだけでいいよ? アイロンの温度は『強』でいい? 最高250度だって」
「あのぉ……確実に火傷しますよねぇ……?」
「でも服のシワはとれるよ?」
「それどころではない気がしますぅ……」
「いいから、そこに寝て?」
 明日羽のアイロンがスチームを噴き上げ、恋音は後ずさりながら首を横へ振った。
 するとそこへ、絵夢の助け船が。
「先輩、その実験台は私がやります!」
「ん? あなたがアイロンがけするの? じゃあ代わってあげるね?」
 そう言うと、明日羽は絵夢にアイロンを手渡した。
 予想外の成り行きに狼狽する絵夢。
 ──数分後、人肉の焼ける匂いが休憩所を満たし、絶叫が響きわたるのであった。

「ひぃいいいいいい……!」

 ちょうど同じタイミングで、悲鳴をあげる少女がいた。
 如月千織のスイーツショップである。
 原因は明らかだ。少女はロシアンクッキーの超激辛を引いてしまったのである。
 そう、『ロシア風スイーツ店』というのはロシアンルーレットのこと。決してロシアンティーが出てくるとかの、こじゃれた店ではない。
「当ててしまいましたか……。まぁこれもゲームですから仕方ありませんね」
 床にうずくまる少女を見下ろして、サディスティックに微笑む千織。
 この学園には基本的にサドとかマゾが多い。
 だが、それ以上に祭り好きが多い。
 いまの悲鳴を聞きつけて、なにごとかと駆け集まってくる撃退士たち。
「どうした!? まさか天魔か!?」
「もしやスイーツ型天魔!」
「それだ! 俺はピーナッツ型天魔を見たことがある!」
「俺は牛丼型天魔と戦ったことがある!」
 牛丼がスイーツか否かは審議の余地があろう。
 状況を見かねて、千織が説明する。
「ただのロシアンスイーツですよ。みなさんもどうですか?」
「「いいね!」」
 というわけで、店内ではロシアン祭りが始まった。
 殺人激辛ケーキや殺人激苦マカロンを食べて、次々倒れてゆく撃退士たち。
 なんのメリットもないのに何故そんなことをするのかといえば、それが祭りというものだからだ。
 もっとも、大半の生徒は普通にスイーツをたのしんでいるのだが。



「いらっしゃい、いらっしゃーい! おいしいかき氷よー!」
 いまにも雪が降りそうな気温の中、チルルはかき氷の屋台を営んでいた。
 このクソ寒い時期に良い度胸である。
 もちろん売れるはずもなく、閑古鳥が鳴いている。──否、閑古鳥も凍りつく寒さだ。
「あはははは、ぶざまね! ひとつも売れてないじゃない!」
 ここぞとばかりに、亜矢が指差して嘲笑った。
「ぐぬぬぬ……」
「大体この季節にかき氷なんて売れるわけないでしょ。バッカじゃないの〜?」
「売れるわよ! いまは波が来てないだけ!」
「へー。いつになったら売れるの?」
「いつになったら……じゃない! いま売ってやるわよ!」
 言い放つと、チルルはそこらへんの生徒をかたっぱしから捕まえて押し売りしはじめた。
「ちょっとあんた! かき氷買いなさい! おいしいから! 暖まるわよ!」
「ええ……っ!?」
「はい、1杯500久遠ね! 毎度あり!」
 捕まえた相手の財布を奪い取って、かき氷を押しつけるチルル。
 えらく強引な商売だが、ともかく商品は売れた。
「あんた、それ犯罪じゃないの……?」
 さすがの亜矢も呆れ顔だ。
「ちゃんと商品と引き替えたでしょ! 物々交換、等価交換よ!」
「訴えられるのはアンタだから別にいいけどさ」
「他人事みたいに言ってるけど、あんたも買うのよ!」
 光纏して、かき氷片手に亜矢へ跳びかかるチルル。
 馬鹿頂上決戦・第2ラウンド開始!



 多くの飲食店が並ぶ中。染井桜花(ja4386)は、屋外の特設ステージに立っていた。
 身につけているのは黒のドレス。手にしたマイクが不思議と似合う。
 ステージの左右には、巨大なスピーカーとアンプ。
 桜花はステージ中央に立つと、いつもどおりの淡々とした口調でしゃべりだした。
「……みなさま……久遠ヶ原文化祭2015へ……ようこそ」
 なにが始まるのかと、客が集まってくる。
 中には桜花の顔見知りも数名。
 パトロール中の秋姫が、めずらしいものを見つけたような顔でステージへ近寄った。
「……何曲か、歌う。……ヒマなら、聞いて行くと……良い」
 背景に柔らかいメロディが流れはじめた。
 ポロポロと、哀愁ただようピアノの音色。
 曲名は『永眠る貴方への子守唄(オルゴール)』
 そして歌声が紡ぎ出される。

 ♪薄い月明かりが 横顔を照らす
 永久(とわ)に眠る 貴方に
 私の 子守唄(オルゴール)
 聴かせてあげる……

 水晶(クオーツ)の 紅い輝きが
 貴方を 優しく 見つめる
 刻(とき)の止まった 静かな貴方を……

 月明かり 銀の絹糸(けんし)が
 貴方をふわり そっと 包み込む
 おやすみ 誰よりも愛おしい
 私だけの永遠(エターナル)……♪

 さざめくピアノ。揺れるガットギター。
 スローなバラードが、聴衆の耳を奪う。
 歌に関しては文句のつけようもない。歌姫と呼んで良いほどだ。
 小曲のバラードはすぐに終わり、次にはガラリと曲調の異なるロックナンバーが流れだした。
 たちまちオーディエンスが沸き返り、歓声や口笛が飛ぶ。

「桜花ちゃーーん!」
 アイドルオタクの男がステージに駆け寄り、超ローアングル視点でカメラをかまえた。
 あきらかにスカートの中を激写する狙いである。
 直後、男の後頭部に秋姫の蹴りがブチこまれた。
「ごふぅぅぅぅッッ!?」
 悶絶しながら地面を転がるカメラ小僧。小僧っつっても大の大人だけど。
「撮影は……節度を守りましょうね……?」
 にっこり微笑む秋姫。
 その迅速な働きぶりに桜花は視線で応え、ライヴを続けるのだった。



 盛り上がるライヴステージからやや離れたところでは、また別の意味で盛り上がるライヴ(?)がおこなわれていた。
 グラウンド中央に置かれているのは、禍々しいオーラを発する巨大な鍋。
 激しい炎が轟々と鍋を煮立て、黒い泡がボコボコ沸き上がる。
 煮込まれているのは、そこらの屋台の残り物。あるいはそこらへんに落ちてたもの。雑草とかミミズの死骸とか雑巾とか。
 その鍋を囲んでマイムマイムしてるのは、どこかの原住民みたいな衣装に身を包んだ学生たちだ。
 太鼓のリズムが空気を震わせ、土俗的な笛の音色が響きわたる。
「イア、ヤミナ=ヴェ! イア、ヤミナ=ヴェ!」
 鍋の前に立って怪しげな杖を振りまわすのは、闇(鍋)の支配者・鷺谷明。
 その杖の動きに従って、学生たちは輪を描いて踊る。
 完全に何かの宗教だ。──否、『何か』ではない。これは紛うかたなき闇鍋教! 参加者全員SAN値崩壊してるのは間違いない!
「ちょっと! なんなのよコレ! あたしの文化祭で怪しい儀式しないでよね!」
 亜矢がスッ飛んできて抗議の声を上げた。
 しかし明は言葉で応じず、パチンと指を鳴らす。
 そのとたん、マイムマイムしてた連中が「うーあー」言いながら亜矢に襲いかかった。
「なんなの、こいつら!」
 刀と手裏剣で応戦するも多勢に無勢。たちまち捕まり、簀巻きにされてしまう亜矢。
 そのまま明の指示で、鍋の上へ逆さ吊りにされてしまう。
「熱ッ! 熱ゥゥゥッ!」
 猛烈な炎と蒸気に炙られて、死にそうになる亜矢。
 このまま行くとカニバリズム(食人)的な、ある意味すごく正しい『祭り』になってしまう! 蔵倫待ったなし!

「いくらなんでも、それはNGです! いま助けますよ!」
 颯爽と現れたのはエイルズ。
 だがその前に、スマホで闇鍋を撮影するのは忘れない。もちろんネットで呟いておくのも忘れない。『闇鍋なう』
「さっさと助けなさいよ、このカボチャ!」
 逆さ吊りのまま亜矢が怒鳴った。
「まかせてください」
 エイルズの手から、1枚のトランプが飛んだ。
 それはみごとに、亜矢を吊していたロープを切断し──
 どぼーーん!
 煮えたぎる鍋の中へ、真っ逆さまに亜矢は転落。
「ぎゃあああああ!」
「あ……そうですよね、ロープを切ったら落ちてしまいますよね。僕としたことがウッカリしてました」
 とぼけたことを言って、うなずくエイルズ。
 ちなみに闇鍋教徒たちは、ずっとマイムマイムしてる。
 やがて鍋の中から、得体の知れない何かがゴボゴボあふれだし──すべての者たちは恐ろしい幻視を見るのだった。

 いあ やぅみなぁ=べー いあ やぅみなぁ=べー

 ふんぐるい むぐるうなふ やぅみなぁ=べー

 くおんがあら うがふなぐる ふたぐん

 いあ やぅみなぁ=べー いあ やぅみなぁ=べー



「なにやら外から不気味な呪文が……?」
 薄暗い教室で、袋井雅人(jb1469)は一風変わったことをしていた。
 教室に何台かパソコンを持ちこみ、自作のゲームを公開しているのだ。
 その名も『ブレイカーパーティー!』
 天魔の罠によって呪われた廃校に閉じこめられた雅人と恋音が脱出を目指して探索する、ソリッドホラーゲームだ。もともとは理不尽な即死ゲーだったのだが、バランス調整の結果ラブコメ要素が大幅に加わり、なんだかよくわからないゲームになってしまったという問題作。
 同人誌のときもそうだったけど問題作しか作らないのかな、この人。
 しかし雅人は笑顔で客を呼び込んでいる。
「さあさあ、暇つぶしに遊んでいってくださいなー」
 ゲームの出しものというのは珍しいので、ヒマな客がそこそこ訪れる。
 だがゲームの難易度は凶悪で、1人もクリア達成者が出ない。

 そこへやってきたのは千織。ゲームが趣味の彼女は、珍しい同人ゲームがプレイできると聞きつけて様子を見に来たのだ。
「脱出系ラブコメホラーADV? あまり聞いたことないジャンルですね」
「私の好きなホラーゲームをパク……オマージュしてみました! 難易度は折り紙つきですよ! さぁどうぞ!」
 雅人に促されて、千織はパソコンの前に腰を下ろした。
 そしてゲーム開始。『最初から』をクリック。
 すると主人公『袋井雅人』は、見慣れぬ廃校の教室で目をさます。
「ここは一体……!? は……っ、恋音! 恋音はどこですか!?」
 周囲を見回すも、恋人の姿は見当たらない。
 ここでいきなり選択肢。

A 教室を出て恋音を探す
B 教室を調べる

「ここは慎重にBですね」
 深く考えず、千織は後者を選んだ。
 そのとたん、教室の床が崩れ落ちて雅人は転落死! 暗転する画面に飛び散る鮮血! GAME OVER!
「なんという初見殺し……典型的な死にゲーですね。いいでしょう、腕が鳴ります」
 千織はポキポキと指を鳴らし、ゲームを再スタートさせた。
 そして当然、いま間違えた選択肢でAをクリック。
 すると廊下へ出たとたん、『酷命館』みたいな巨大ギロチンが天井から落ちてきた。
「ぎゃああああ!」とか叫びながら、雅人は真っ二つになって死亡! 飛び散る鮮血! GAME OVER!
「なにこれ! ふざけてるの!?」
 おもわず立ち上がる千織。
 じつはどちらも選ばず待っていると選択肢Cが出てくるという、鬼畜仕様なのだ。
「プレイヤーを舐めてますね……。いいでしょう、僕のゲーマー魂に賭けて必ずやクリアしてみせます!」
 すっかり本気になる千織だが、店は良いのだろうか。そして今日中にエンディングを見られるのか?



「よし、この調子なら祭りは大成功だな」
 盛り上がる会場の中を、静矢はラッコの着ぐるみ姿で歩いていた。
 遊んでいるのではない。会場を警備しているのだ。
 宣伝係に警備員と、今日の静矢は裏方に徹している。祭りを私物化してしまったのは、この際大目に見よう。
「あっ、ラッコだー!」
「ラッコさんだー!」
 などと、子供らが集まってくる。
 たちまち取り囲まれ、身動きできなくなる静矢。警備どころじゃない。
 彼といい笹緒といい、もうすこし己の外見を自覚すべきでなかろうか。


 だが静矢の言うとおり、この祭りは全体的に見て盛況だった。
 開催前は『客など1人も来ないのでは……』と危ぶまれていたが、ふたを開ければこのとおり。
 静矢の作った『ラッコーランド本日開園!』なる大看板の集客効果は大きかった。
 としおが商店街で配ったチラシの宣伝効果もある。
 エイルズの『つぶやき』も、ネットで拡散されていた。
 やはり宣伝は重要だということが証明されたのだ。
 もちろん宣伝だけではダメだ。来場者をたのしませる店やイベントがなければ、ガッカリさせることになるだろう。だが種類豊富な飲食店に加えて、歌ありゲームあり闇鍋ありと、数は少ないながらも幅広い出しものが来場者を退屈させず──結果、文化祭改めラッコ祭は終始盛況のまま閉会となったのであった。



「みんなおつかれさま! さぁ打ち上げパーティーよ!」
 恋音のメイド休憩所に参加者全員が集まり、亜矢が教壇に立った。
 まばらな拍手が湧き、「おつかれー」という声が返る。
「なによみんな、元気ないわね! 祭りはこれからよ!?」
「そうですよ、みなさん! 盛り上がっていきましょう! 夜はこれからですよ!」
 雅人は無駄に元気だった。
 なにしろ彼はゲームを公開しただけで、まったく体を動かしてない。気力体力100%だ。
「ところで、あのゲーム誰かクリアできたんですか?」
 千織が訊ねた。
「いえ、ひとりも! ああ今日だけで何人の『袋井雅人』が散っていったことか……」
「バランス考えなおしたほうがいいですよ、あれ」
「そうですね。テストプレイありがとうございました!」

「そんなゲーム話どうでもいいから! 乾杯よ!」
 亜矢が壇上で声を張り上げた。
「そうね! かき氷で乾杯よ! 1杯500久遠!」
 机の上に氷掻き器をセットするチルル。
「それはもういいから! あんた出番多すぎ!」
「あんたこそ、NPCのくせに出番多すぎよ!」
 醜い口論をはじめる二人。

「待て。文化祭の打ち上げというからには、これもまた文化的に行わねばなるまい。すなわち、この七草がゆで!」
 笹緒が寸胴鍋を机に置いた。
「打ち上げの〆にはラーメンをどうぞ!」
 ひとまわり大きい寸胴鍋を机に乗せる、としお。
「焼肉は文化……焼肉は愛……焼肉は神……」
 ぶつぶつ言いながら、透次はカルーアと一緒にカルビを焼いている。
「いあ やぅみなぁ=べー いあ やぅみなぁ=べー」
 暗黒オーラをまとわせて闇(鍋)の呪文を唱えているのは、明。
 いつものことながら、みんなフリーダムである。

 そして乾杯の音頭もないまま、ぐだぐだな感じで打ち上げパーティーが始まった。
 参加者それぞれの店で出していた残り物が集められ、バイキングな風景が広がる。
 そこへ、ツインテールの沙羅が豪華おせちを持ってきた。
 打ち上げのために、わざわざ手をかけてきたのだ。
「お粗末なものですが……皆様、よろしければどうぞ」
 謙虚な沙羅だが、おせちの中身は相当だ。
 一見地味な重箱の中に、豚の角煮カツや地鶏の唐揚げが忍ばせてある。いずれも絶品だ。
 このサプライズ料理に、「おおっ!」という歓声が湧いた。
 そのおせち画像をUPして『打ち上げなう』と呟くエイルズ。なんという飯テロ。

 こうして賑やかな空気の中、打ち上げも盛況に終わった。
 今年は学園主導で文化祭が行われることを祈りつつ──

「だから去年、文化祭やったでしょ!」
 最後まで出ずっぱりのチルルちゃんでした。




依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:10人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
未来へ・
陽波 透次(ja0280)

卒業 男 鬼道忍軍
パンダヶ原学園長・
下妻笹緒(ja0544)

卒業 男 ダアト
料理は心〜学園最強料理人・
水無月沙羅(ja0670)

卒業 女 阿修羅
紫水晶に魅入り魅入られし・
鷺谷 明(ja0776)

大学部5年116組 男 鬼道忍軍
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
撃退士・
鳳 静矢(ja3856)

卒業 男 ルインズブレイド
花々に勝る華やかさ・
染井 桜花(ja4386)

大学部4年6組 女 ルインズブレイド
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
微笑みに幸せ咲かせて・
秋姫・フローズン(jb1390)

大学部6年88組 女 インフィルトレイター
ラブコメ仮面・
袋井 雅人(jb1469)

大学部4年2組 男 ナイトウォーカー
海の悪魔(迫真)・
如月 千織(jb1803)

大学部3年156組 女 ダアト