巨大なオマール海老が暴れていると聞いて、最初に駆けつけたのは天願寺蒔絵(
jc1646)だった。
これには理由がある。去年の暮れ、蒔絵は船上パーティーでホッケーマスクの天魔に襲われ、オマール海老のパスタを台無しにしてしまったのだ。今回その海老が化けて出たと思い込んでるのである。
「たたりじゃー! 食べ残したオマール海老のたたりじゃー!」
ガクブルしながら光纏する蒔絵。
そして海老様の怒りを鎮めるべく、天界の儀式を実行する。
まずは怪しげな装束に着替え、『匠』で真剣な空気を醸し出しつつ、『歌謡い』で鎮魂歌を歌いあげ──次に御神酒を供え、謎のステップを踏みつつ、杖をぶんぶん振り回す!
「しずまりたまえー、しずまりたまえー。あのホッケは後ほど必ず討ち取ってお供えするから今は怒りをお鎮めくださいー」
ズバシュウウッ!
「あばーーッ!?」
正面から巨大な鋏に切り裂かれ、血まみれで倒れる蒔絵。
「そうだよね……この程度じゃ怒りは収まらないよね……」
力尽きつつも、(ここにオマール海老を祀る神社を建てよう……)と思う蒔絵だった。
次に登場したのは焔・楓(
ja7214)
エビを食べられると聞いて参加した彼女は、なぜか旧型スク水を着ている。
「あや、エビさんと戦うというから水の中だと思ったんだけどー。……あ、でも床が濡れてるし丁度良かったかな? かな?」
ひとりで納得すると、楓は突撃した。
手にしているのはトンファーLV3。
「とりあえず、どれくらい硬いか試してみるのだ♪ トンファーキーック♪」
ガキィィン!
甲殻に弾き返される楓。
「なかなかの硬さなのだ? よしせっかくだし色々試してみるのだ♪ 掌底で2匹まとめてふっとばすー♪」
ガキィィン!
逆に吹っ飛ばされてしまう楓。
だから硬いよって言っただろ!
そこへ、月詠神削(
ja5265)とSpica=Virgia=Azlight(
ja8786)が仲良く参上。
だが、あまりの惨状に神削は戸惑い気味だ。
「オマール海老が腹いっぱい食えると聞いて! ……来てみれば、なんだこの状況!?」
「たしかに、おなかいっぱい食べられそう……。でもそのまえに、やっつけないと……」
神削と比べてスピカは落ち着いていた。
もともと感情の起伏が少ない彼女は、戦闘において殺戮マシンと化す。しかも今日は愛しい彼氏と一緒なので、普段より張り切っていた。装備はもちろん調理器具の用意も完璧だ。
だが一方の神削は何も持ってきてない。手ぶらだ。
「くっ……俺は海老が食えると聞いて来ただけだから、武器なんて持ってきてないぞ。仕方ない……!」
そう言うと神削は、足下に転がっている『平等院』を手にした。
そのとたん、2匹のエビが向かってくる。
「かかってこい! 平等院が相手だ!」
真顔で言いつつ、鋏攻撃を平等院で受け止める神削。
ズドバシュウウッ!
「「グワーーッ!」」
平等院もろとも切り裂かれる神削!
って、こうなるに決まってるだろ!
「そ、そんな……! ミソギ!」
変わり果てた恋人の姿に、スピカは珍しく感情を見せた。
が、まともに攻撃しても通じないと冷静に判断、『成長薬』と書かれたアンプルを服用する。
と同時に、胸がBからDへと成長。
さらに全身が豊満化し、モード・アダルトスピカが爆誕!
「ほんとに、おっきくなってる……これなら……」
妙に張り切って突撃するスピカだが、3サイズ以外なにも変わってないぞ!
「……具現化、レーヴァティン。……まずは鋏を切り落とす」
その直後。慣れない体型のせいでバランスを崩したスピカは、太い尻尾でホームランされてしまうのであった。
そんな戦闘場面を、逢見仙也(
jc1616)は安全な場所から観察していた。
しかも英国風のテーブルでくつろぎながら、優雅に紅茶を飲んでいる。
秋姫・フローズン(
jb1390)がセッティングした、簡易カフェだ。
「よろしければ……お茶菓子も、どうぞ……」
メイド服姿で、淡々と給仕する秋姫。
それを受け取りながら、仙也は『巨大海老攻略法』なるメモを書いている。
「明日羽様も……おひとつ、いかがです……?」
「いただくけど、あなたは戦わないの? みんな苦戦してるよ?」
明日羽はティーカップを傾けながら微笑んだ。
「もちろん……戦いますとも……」
ひととおり給仕を終えたところで、秋姫は光纏した。
その手にあるのは、先に見つけておいた発明品『超発熱ジェル』と『超冷却ジェル』
「では……調理開始です……。手出し無用と……離れててくださいね……?」
言い放つと、秋姫は素早くエビの懐に潜りこんだ。
そして発熱ジェルをぶっかけ、真っ赤になった外殻に冷却ジェルをぶちまける。
急激な温度差によって、ビシッと殻にヒビが入った。
「……行きます」
秋姫の蹴りが炸裂し、巨大エビが宙に舞った。
すかさず陽光の翼で追いかけ、ヒビの入った箇所に足を乗せる秋姫。そしてキリモミ回転しながら落下。
『螺旋運動+落下速度+エビの重量+秋姫の体重』で、致命打を叩きこむ!
グシャアアアッ!
海老味噌をまきちらして粉々になる、巨大エビ。
ようやく1匹撃破だ。
「絶技・螺旋槍……とでも名づけましょうか……」
クールに呟く秋姫。
だが──
「エヴィィィィッ!」
仲間を殺された怒りで、残されたエビが覚醒モードに突入!
超必殺・地中海式エビ固めをくらって、秋姫は倒れたのであった。
「ここで颯爽と、あたい登場! 敵の装甲が硬い? レベルを上げて物理で殴ればいいじゃない!」
やや遅れて到着したのは、雪室チルル(
ja0220)
じつは今まで研究所の中を探索して、強そうな武器をさがしていたのだ。
そんな彼女が持ってきたのは、大型冷蔵庫と洗濯機!
「ふふふ……冷蔵庫や洗濯機に殴られて死なないエビなんて、いるはずないわ。力こそパワー! そこに嘘はないわ! 覚悟しなさい!」
自信満々に意味不明なことを言うと、右手に冷蔵庫、左手に洗濯機を抱えてチルルは突進した。
殻が硬いのは一目瞭然なので、関節を狙って冷蔵庫を叩きつける。
が──関節部も硬いぜ! ていうか冷蔵庫や洗濯機で殴るのは難しい!
「く……っ、扱いにくいわね、この物理兵器!」
とか言いながら、はじかれても気にせずガンガン殴りつづけるチルル。
レベルを上げて物理で殴ればいい! その言葉を信じてただひたすらに!
「硬い! 無駄に硬いわね! 見てないで明日羽も手伝ってよ!」
「手伝ったら何かしてくれる?」
「なんでもするから! このエビおいしそうでしょ?」
「チルルちゃんのほうがおいしそうだよ? じゃあお礼は前払いね?」
明日羽の手から鎖が飛び、チルルを雁字搦めにした。
「ちょっと! 後払い! 後払い!」
「ひさしぶりだねチルルちゃん? すぐ気持ち良くしてあげるよ?」
「ふぁああ……っ!?」
蔵倫発動!
こうなるのわかってたよね……?
「……ん? 残ってるのは俺だけか?」
ふと気付いたように、仙也は周囲を見回した。
見れば、あたり一面死屍累々。モザイク処理が必要だ。一番必要なのはチルルちゃん。
「依頼失敗はごめんなので、普通に片付けてしまおう」
仙也は紅茶を飲み干すと、無造作にエビのほうへ近寄っていった。
「エヴィィィッ!」
反射的に薙ぎ払われる、巨大な鋏。
しかし仙也は冷静に物質透過を発動。
そう、敵は所詮ただのエビ! 透過能力の前には無力だ!
「これで終わりだ」
仙也は透過したままエビの甲羅を通り抜けると、刀を抜いて内側から破壊。
きれいに形を保ったまま、巨大エビは倒れたのであった。
そしてエビの中から出てきた仙也は一言。
「……雪村使ったの、これが最初な気がする。初仕事が包丁代わりか……」
ともあれ一件落着。あとは負傷者を治療してエビパーティー……のはずだったが!
廊下から襲いかかってきたのは、巨大なイカの触手!
さらに川をさかのぼるように巨大な鮭が乱入し、馬鹿でかい牡蠣が転がりこんでくる!
「な、なんだこいつら!」
とっさに身構えると、仙也は雪村で紅鮭を三枚下ろしに。
そこへ廊下から現れたのは、巨大ヤリイカの触手に絡まれた月乃宮恋音(
jb1221)
持参した食材を成長させようとした結果がこれである。
「お、おぉ……思った以上に、大変なことになってしまいましたぁ……」
涙目で紅潮しながら、ビクンビクンする恋音。
だが仙也はエロに興味ないので、冷静に触手をぶった切る。
つづけて牡蠣の貝殻を割り、紅鮭を切り身に。
包丁雪村、大活躍!
そんな予想外の事故がありつつも、巨大海鮮類は全て捌かれ食材になった。
水浸しの研究室から移動して、エビづくしパーティーが始まる。
あ、ちなみに負傷者は全員なおってます。これコメディなんで。
ただし平等院だけは重体判定でブッ倒れたままだよ!
「平等院さん、いったん落ち着くために水でもいかがですか?」
コップを手にして、仙也が近付いた。
中身は気付け薬の水割りだ。一応明日羽に訊いて安全確認はしてある。……って訊く相手まちがってるぅぅ!
その液体を一口飲ませた瞬間。平等院はムクッと立ち上がり、あーうー言いながら外へ出ていった。
「あの薬は……?」
「ゾンビパウダーかな?」
平然と答える明日羽。
仙也は何も聞かなかったことにして、調理に取りかかった。
「エビー♪ 大きいし食べがいがありそうなのだ♪ 料理は……なにか斬るくらいならやるよー?」
スク水姿の楓は、満面の笑顔だった。
調理する気はほとんどない。だって今日はエビを食べに来ただけだもん。うん正しい。
「あのシェフほどの腕前はないし、もしかしたら失敗しちゃうかもだけど、ごめんね……でも、せめて同じ料理で弔ってあげたくて……」
蒔絵はしんみりしながらトマトクリームパスタを作っていた。
まずはヒートアックスでエビの甲羅を割り、中身をソテーして一旦取り出す。そこへニンニクとエシャロットを炒めて濾したトマトを加え、適当に味付け。バジルと生クリームを投入したらソテーしたエビを投入、アルデンテにゆでたパスタに合えれば完成。
「これで弔いになるかわからないけど……いまのあたしにできる全力だよ」
「うぅ……これは色々と大変……」
巨大食材を前に、スピカは手こずっていた。
なんせ、こんなエビは捌いたことがない。おまけに慣れない体型のせいで、歩くのも一苦労だ。それでも神削のためにと頑張る。
料理は、オマール海老の煮込み・ソースアメリケーヌと、エビチリの2品。
「スピカの手料理か……いや、もう、じつに楽しみだ」
けなげに頑張る恋人の背中を見守りながら、神削は笑顔を隠せずにいた。
(……しかし、気になるのはヤツだ)
神削は無言で明日羽のほうを窺った。
その正体がクレイジーサイコレズであることを、神削は知っている。となるとスピカに手を出す恐れも考えられた。そこで──
「おーい、佐渡乃。一杯やらないか? オマール海老にあうワインを持ってきた」
「私、未成年だよ?」
「マジか……!? 俺より年下だと!?」
驚愕する神削。
だが明日羽は自称してるだけなので真相は不明だ。
そうこうするうちに、皆の料理が出そろった。
恋音が作成したのは、海老のチーズ焼きと香草焼き。持参した海鮮山盛りのパエリア。
仙也の料理は、海老の切り身をトマトスープで煮込んだもの。海老の殻を粉末にしたものと海老味噌が加えられており、味わいは濃厚だ。マカロニ、ニンジン、玉ねぎなど具も多い。
そして最後に「お待たせ……しました……」と運ばれてきたのは、秋姫の『絶品エビ尽くし料理』。オマール海老を丸ごと使った、和洋中のフルコースだ。海老だけでフルコースを仕上げてしまうとは、なんという技術!
「うわー、料理がいっぱいなのだー♪」
テーブルを埋めつくす料理を見て、楓は真っ先に突撃した。
その勢いのまま、世界各国のエビ料理を食いまくる。
小さい体のどこに入ってるのかという食べっぷりだが、彼女もまた四次元胃袋の持ち主か。
「うぅん……もともと食材が巨大だとはいえ……壮観ですねぇ……」
では私も一口……と、焼きエビを口に運ぶ恋音。
その瞬間、彼女は思い出した。以前、成長薬で巨大化した野菜を食べたとき胸が肥大化したことを。
しかし時遅し。
思ったとおり、ボフッと膨らむ恋音の胸部。
でも10倍ぐらいなので大したことはなかった。恋音自身が潰されただけだ。
これで大したことないってのが異常だけどな!
「えらい量だが……俺は結構食うぜ?」
山のような料理にも怯むことなく、神削はワイン片手に食べはじめた。
大食い大会の優勝経験を持つ彼にとって、この程度は完食して当然。……と言いたいところだが実際この量は無理だ!
「ミソギ、おいしい……?」
そっと恋人の肩に触れるスピカ。
「ああ、うまいぞ。ワインによく合ってる」
「そうなの……? もっとおいしいの、ほしくない……?」
いつのまにか撃退酒を飲んでいるスピカは、とろんとした瞳で神削にしなだれかかった。
「おい。酔ってるのか?」
いつもと違う豊満ボディに、さすがの神削もうろたえ気味だ。
スピカは「酔ってないよ……」と答えながら撃退酒をあおり、神削にのしかかる。
そのまま唇を押しつけて舌を入れ、神削の手を胸元へ誘導し……
「ん……そこ、さわっちゃ駄目……」
ここで本日2度目の蔵倫発動!
「ねぇチルルちゃん、私たちもアレやる?」
明日羽がスピカを指差した。
「やらないわよ! あたいはエビを食べるの! 食べて体力回復よ!」
「なんでもする約束でしょ? 女に二言はないよね?」
「あとで! あとでね! あんたも食べなさいよ!」
「エビよりチルルちゃんのおかわりを……」
「だからあとでね!」
このあとチルルがどんな目に遭ったかは想像にまかせる。
「うう……食べても食べても減らない……」
いくつも皿を積みかさねて、蒔絵は泣きながらエビを食べていた。
そう、これは亡きオマール海老への供養であり懺悔。食材への贖罪。よし、うまいこと言った!
「どんなに量が多くても……あたしは残さない……。辛いけど、第二第三の悲劇は食い止めなきゃいけないのよ……。あたしは学んだ……食べ物は大切に……!」
ンゴフッ、とか言って鼻からパスタを噴き出す蒔絵。
『セブン』の最初の被害者みたいにならないことを祈る。
ところで、いくら食べても料理が減らないのは秋姫が定期的に新しいのを作ってくるためだ。
もはや蒔絵は、全身の穴からパスタを噴き出して死ぬ寸前。
恋音も「食材が勿体ないから残さないでね?」とか明日羽に無茶言われて、死にそうになっている。成長薬や撃退酒や胃腸薬で全身が肥大化し、もはや人の形をとどめてない。
それでもなお運ばれてくる、新作料理。
ふたりに重体判定が出なかったのはMSの温情だ。
なお神削とスピカがどこまで進展したのかは不明。次に登場したときは子供ができてるかも。