『最新鋭クルーザーでたのしく魚獲り♪』という文言に惹かれて、24名の撃退士が港に集まった。
しかし彼らの前に現れたのは、どう見ても昭和時代のボロ漁船。いま海に浮かんでるのが不思議なほどだ。
「だ、だまされたーーー!!」
絶望の声をあげて崩れ落ちたのは、メフィス・ロットハール(
ja7041)
依頼書を見て『豪華クルーザーでフィッシング&バーベキュー♪』などとウキウキ気分で参加した結果がコレである。
でも大丈夫! BBQはできるよ! 前みたいにウン●まみれで中止になったりはしないはず! たぶん!
「よくもまぁ、このボロ船を恥ずかしげもなく豪華クルーザーと言えましたね」
あきれたように、雫(
ja1894)が呟いた。
慣れたこととはいえ、やはり言わずにいられない。
そのとき。雫の前をカルーアが歩いていった。
「おや、あなたも参加ですか」
「なのです! 海鮮BBQと聞いて来たのです!」
「死ななければ良いですね……」
「死……!? やっぱり危ない依頼なのです!?」
「行けばわかりますよ」
クールに答える雫。
そこへメフィスが近付いてきた。
「こんにちは。こないだはひどい目にあったわねぇ……今回は無事に済むといいんだけど」
「そういう発言をした人が無事で済むのを見たことがありません」
「やめてよ雫! 今日は無事で帰りたいんだから!」
なんという死亡フラグ……。
「ええと……クルーザーでおいしいご飯と綺麗な海と聞いたのですが……こう来ましたか……ア、ハイ」
すべてを察して、叶結城(
jb3115)は諦めの表情を浮かべた。
そう、ここは久遠ヶ原。だまされるほうが悪いのだ!
「まぁ、そうそう美味い話はありませんよね。ええ、わかってましたとも……」
「ふ……わかっていたとも。これはアレだろう。しょせん労働なくして報酬は得られぬというKAMISAMAの啓示的な。……滅べ!」
現実を前に、エルミナ・ヴィオーネ(
jb6174)は叫んだ。
おお、ふだん無口で感情を見せない彼女が、ここまで激昂するとは!
とりあえず思うことは一つ!
ダ マ サ レ タ!!
「こうなればヤケだ。いや、マジだ。本気と書いてマジと読ますらしいな、この世界の住人は! いやそんなことはどうでもいい! うまいの獲って食べてやるーっ!」
光纏し、弓矢をひっさげて漁船に駆け込むエルミナ。
たぶん今回の依頼で一番キレてるのは彼女だ。
「なんだか荒れてる人たちがいるな……」
周囲を見回して、霧島イザヤ(
jb5262)は小さく呟いた。
この依頼を受けた瞬間から、のんびりできるとは1ミリも思ってない。
「まぁ現実ってこういうものだよね……。僕は食べれるもの獲って食べれればいいかな……」
遠い目で海を見つめるイザヤ。
その瞳は完全に達観している。まるで仙人だ。まぁ仙人だからって助かるわけでもないが……。
「なにをいまさら騒いでるんだ。そんなラクな依頼に高い報酬が出るわけないだろうに」
礼野智美(
ja3600)はボロ船を前にしても動じなかった。
今回の依頼については全て納得済み。漁獲量は生計が成り立つほどなのか、天魔の危険はないのか……と誰よりも真剣に考えているぐらいだ。命のかかった戦闘依頼ではないが、人の生活がかかっている依頼だ。おろそかには出来ない。
熱中症対策にクーラーボックスと飲料を持参。
麦藁帽子をかぶり、髪は邪魔にならないようお下げにして、タオルを首にかけている。
これは、かなり気合の入った漁師スタイル!
「よし準備は万端だ。ゲートの存在を知らない参加者がいたら危ないからな……」
鳳静矢(
ja3856)も依頼内容を熟知しての参加だった。
彼は調査海域の近くにゲートがあることを知っており、船の護衛も兼ねている。
魔具魔装、スキルも完璧だ。まさにガチ戦闘スタイル! いつものラッコ静矢とは違う! 新手の死亡フラグか!?
「ん。基本は漁網の引き揚げとか鮫退治、天魔がでてきたら戦闘だね。わかった。がんばる」
牛熊の説明を聞いて、Robin redbreast(
jb2203)はうなずいた。
彼女の参加理由は、だまされたのでもないし報酬目当てでもない。ただそこに依頼があったからだ。ある意味とても男らしい。まぁぶっちゃけ趣味など何もないので依頼を受ける以外やることがないだけなのだが。
「でも撃退士をこれだけ雇うってことは、たくさんディアボロが襲ってくるのかな。ゲートの近くみたいだし……」
淡々と呟くRobin。
もちろん予想は的中するぞ!
「恋音、せっかくなので今日は海をめいいっぱい楽しんじゃいましょう! 海といえば水着! 海といえばBBQ!」
袋井雅人(
jb1469)は当然のように水着姿で、なぜか七輪をかかえていた。
彼の所属する焼肉部は、過酷な活動で知られている。今日はその自主練だ。
「そうですねぇ……少々不安もあるのですけれどぉ……うぅん……」
月乃宮恋音(
jb1221)は牛柄ビキニにパーカーを羽織りつつ、歯切れ悪く答えた。
というのも、調査海域に何か聞き覚えがあったのだ。
「不安といいますと?」
「えとぉ……なにごともないかもしれないので、現地で確認してから、お話ししますねぇ……」
こんなフラグを立てておいて、なにもないはずがない。
みんな死亡フラグ立てるの好きだな!
「なんだか皆さん、いつもと違う一面が見えますわね……」
知人たちの普段とは異なる言動に、アイリ・エルヴァスティ(
ja8206)は冷や汗をたらしていた。
あっちこっちで死亡フラグを立ててる人がいるので、とりあえず回復スキルを活性化。
ついでにコメットも活性化。天魔の相手は完璧だ。敵味方識別できないけど、まぁ大丈夫だろう。まちがえて味方に当てるなんてこと、ないない。(フラグ
「一攫千金にはマグロ漁船か佐■急便とかって聞くけれど、都市伝説的なものなのかな……」
あごに指を当てて、狩野峰雪(
ja0345)は海を眺めていた。
人生経験豊富な峰雪だが、今回の依頼には少しばかり興味がある。
なにしろゲート付近まで漁に出るギャンブル性と、撃退士20名以上を雇う資金。こんなリスクを負ってでも船を出すということは、それなりに稼げるということなのか? 一般人のサラリーマン時代には考えもしなかった仕事だ。
「都市伝説じゃない! マグロ漁船は儲かるぞ!」
「おや船長さん。この業界には詳しいのかな?」
「俺は元漁師だからな! はっきり言って撃退士より儲かるぞ! 海に落ちて死ぬヤツもいるけどな!」
「まぁ僕らは撃退士だから大丈夫だろうけど……きつい仕事だねぇ」
「いまからその仕事をやってもらう! 行くぞオッサン!」
「あなたもかなりのオッサンに見えますけどねぇ……」
ともあれ。撃退士たちの不安と期待を乗せて、漁船は港を出た。
日射しは厳しく波は高い。牛熊の操船は荒く、船は激しく揺れる。
一歩まちがえれば甲板から海へ落下しそうな大揺れの中、船の舳先に銀髪のイケメンが立っていた。
手にした銛をきらめかせながら、彼は穏やかな笑みを浮かべている。
「この自然に帰るような心地……たまらんな」
一見クールだが内心wktkが抑えられない男の名は、バルドゥル・エンゲルブレヒト(
jb4599)
見てのとおり、やる気は満々だ。3Kだろうと4Kだろうと労働など所詮そのようなものと割り切り、全力で依頼に取り組むつもりである。こいつは頼りになりそうだ。
じきに船は目的の海域に到着。牛熊の指示で漁獲作業が始まった。
みんなプロの漁師ではないので手際は今ひとつだが、撃退士特有の体力や技術を駆使して順調に作業が進められてゆく。次から次へと甲板に揚げられる魚介類。
だがここに、漁師の血を……もとい海賊の血を引く女がいた。
おっとり系の銀髪巨乳美女、アイリである。
ここまではどうにか海賊の血がたぎるのを抑えていたが、こうして漁が始まると落ち着いてはいられない。
「さァて、久しぶりの庭だ。遊ばせてもらおうじゃないか!」
海賊スイッチON!
ほぼ無意識のうちに手近の銛を装備すると、アイリは光纏して海へ飛び込んだ。
そして始まる、撃退士流アウル漁法!
まぁただ単に銃で撃ちまくるってだけの漁法なのだが……。
撃たれた魚は次々と海面に浮かび、アイリは文字どおり一網打尽にする。
「穴から血抜きもできて一石二鳥ねぇ」
ほっこり顔で微笑むアイリ。さすがは海賊の末裔だ。
さっき活性化させた回復スキルのことは、すっかり忘れてるっぽい。
「ではカルーアさん、さっそく海に潜って魚を獲ってきてください」
ごく当然のように、雫はカルーアを引きずってきた。
「無理なのです! カルーアはカナヅチなのです!」
「泳ぎかたは前に教えましたよね? あのとおりにやれば大丈夫です」
「あれは溺れただけだったです!」
「まぁ泳げるようになったとはいえ、流されたら危険ですからロープをくくりつけてあげましょう。なにかあったときは、ロープを引っ張ってくれれば早急に引き揚げますから」
カルーアの抗議を無視して、淡々とロープを結ぶ雫。
そしてシュノーケルとクーラーボックスを持たせたら、トルネード投法で海へ投げ飛ばす!
「あぶぇぇぇぇ……っ!」
沖へ投げるのではなく、海底めがけて叩きつけるような投げかただ。
しかるのち改造スタンガンを取り出して、電撃漁をはじめる雫。
「海水は電気伝導率が高いですから、より多くの魚を感電できるはずです」
バリバリと海面に電流が走り──大量の魚とカルーアが浮かんできた。
「あ……巻きこんでしまいましたか」
絶対わざとやってる!
「あ、暑い……臭い……」
全身汗だくになりながら、シェリー・アルマス(
jc1667)は船上作業を手伝っていた。
彼女も『豪華クルーザーで楽しくお仕事♪』という言葉に騙されてしまった犠牲者だ。
先日参加した臨海学校と同じノリで参加してみたら、この重労働。
「まぁイヤな予感はしてたんだけどさ……」
報酬が『多い』時点で、色々と察しはつく。シェリーも素人ではないのだ。
獲った魚介類は食べ放題と聞いたので、醤油とレモンは持参してある。
大好物のカキやウニを確保して、あとでBBQにするのだ! でもその前に、作業を済ませなければ──
「まぁこうなることは知っていたがな……」
御剣正宗(
jc1380)は自慢の翼で海上を飛行しながら、漁網の引き上げを手伝っていた。
依頼書の報酬欄を見たときから、危険な重労働になるのは予想済み。完全に報酬目当ての参加である。
もちろん戦闘準備は万全だ。いまのところ危険生物や天魔は出没してないが、どうせ何か出てくるに決まってる。だって、ここは久遠ヶ原なのだから──
「まぁ報酬多いのに、らくな依頼のわけねぇよな。知ってた。こっちも好き勝手にやらせてもらう」
逢見仙也(
jc1616)は、船尾のほうで淡々と釣竿を振るっていた。
濡らしたタオルを首に巻き、こまめに水分補給。
持参した串で獲物を塩焼きにして、塩分も補給。熱中症対策は万全だ!
「考えてみれば、報酬多めで食糧も確保できる……。悪くない話だ」
うなずきながら、型の良い魚を選んでクーラーボックスに詰める仙也。しっかりと食費を浮かす算段だ。
小物はライターで炙り、塩を振って食べる。
やけに手慣れているのは、人生経験が豊富だからだろうか。
そんな中、Unknown(
jb7615)はひたすら地味な作業をつづけていた。
釣り上げた魚の頭部に針金みたいなのを刺し込んで、なにやらグリグリやってるのだ。
そう、これは神経絞め。もっとも魚をおいしく食べるための手法である。
「どうせ喰うならウマイほうがイイ、と聞いたから鮮度を大事にしてみた」
と、素敵な笑顔でワイヤーをぐりぐりするUnknown。
パワー系キャラなのに力仕事を他の皆にまかせるクズっぷりだが、仕事は無駄に早い。しかも絞め方は完璧。これはおいしい魚が食べられそうだ。……って、魚を食べるためにここまで来たわけじゃないんだけどね! なぜかUnknownは食べる気満々だけど! これ、れっきとした調査依頼だからね!? BBQ大会とかじゃないよ!?
「ところで肝腎の漁獲量については、だれがどういった方法で統計とるんですか?」
漁網の引き上げを手伝いながら、ふと気付いて智美は牛熊に訊ねた。
「おう、港に戻った時点で水産庁のおえらい人が数えてくれるぞ。おまえらは心配するな!」
「でも勝手に食べてる連中もいますよ?」
「大丈夫! 誤差だ誤差!」
「誤差ってレベルじゃないのでは……」
実際、Unknownひとりで調査結果が大幅に変わってしまいそうだ。
ほかの撃退士たちも、まるで遠慮というものがない。
「撃退士は大食いだからな」
「念のため、生徒たちが食べた分は記録しておきます」
こんなこともあろうかと持ってきた文具セットを握りしめて、智美は正確に漁獲量をカウントし始めた。
真面目か!
「は、はめられたー!」
周囲の喧騒で目をさましたのは、ラファル A ユーティライネン(
jb4620)
彼女は『依頼』の参加者ではなかった。このボロ船で日光浴していたところウッカリ寝入ってしまい、そのまま沖合いまで拉致されてしまったのだ。
「だがタダじゃ帰らねーぜ! すぐに依頼契約だー!」
さすが転んでもタダでは起きないラファルである。
が、全身機械の彼女にとって海水は天敵。最近は耐水装備で多少マシになったが、水中で活動できる時間は20分程度だ。とうてい陸地まで戻ることなどできず、大ピンチ!
「まーいいか。深く考えるのはヤメだ! こうなりゃ全力で遊んでやる!」
作業する気などカケラもなく、どこからともなく浮き輪を取り出すラファル。
しかし全身機械のくせして日光浴……!?
そのころエルミナは、一人のんびりと釣りをたのしんでいた。
読書が生き甲斐な超インドア派なので釣りのことはよく知らないが、とりあえず本で知識は仕入れてある。知識だけなら完璧だ!
──が、知識で勝てるほど釣りは甘くない。実際ここまでの釣果はゼロだ。
「く……っ……おのれ魚類め……っ」
鬼の形相で歯をギリギリさせるエルミナ。
そのとき、彼女の竿にアタリが!
「やった! なにか掛かった!」
だが引き寄せてみれば、どう見ても魚型の天魔だ。
「やっと釣れたと思えば……死にさらすがよいわぁっ!」
光纏し、洋弓アルテミスで天魔を蜂の巣にするエルミナ。
魚が逃げないよう通常攻撃だけで速やかに始末したのは良いが、『死にさらすがよいわ!』とか怒鳴った時点で辺り一帯の魚はおおかた逃げてる。
『あまり感情を表に出さない』って……なにかの間違いだよね……? めっちゃ感情出てるやん……。
「おさかにゃー♪」
大量の魚を前に、狗猫魅依(
jb6919)はテンションMAXで甲板を駆けまわっていた。
依頼内容など知らないまま、魚を食べるためだけに参加したのである。
天魔? ゲート? そんなの関係にゃい! だが、猫の本能が狩りの衝動を目覚めさせる!
「さぁいくよー?」
狩りの道連れに、瀕死状態のカルーアを引っ張る魅依。
「ど、どこに行くのです?」
「海の中で新鮮な魚を獲るにょ♪」
「無理なのです! 泳げないのです!」
「がんばれば泳げるよ! せーにょ、ばーん♪」
ダークハンドが発動して、カルーアを束縛した。
そのままカルーアを海へ突き落とし、自らもスク水姿になって飛び込む魅依。
だが、そこへ近寄ってきたのは巨大な人食い鮫!
「む……こんな所にも鮫が……! 最近、海水温の上昇で南の連中がやけに北上していると聞いておったが……これでは漁民はたまるまい……!」
舳先で警戒していたバルドゥルは、いち早く鮫に気付いた。
彼の考えはこうだ。
『鮫が出る→漁獲量減る→儲け減る→おなかすく→\絶許/』
「\海の民の恨みを思いしれぇえええっ/(`☆皿☆)ギラーンッ」
手にした銛をきらめかせ、空中から鮫に襲いかかるバルドゥル。
巨大な鮫といえど、撃退士にかかれば即座に血祭りだ。
が──血の匂いに釣られて、無数の鮫がうようよ集まってくるではないか。
「おう、ウマそうなサメちゃんだな。アタシに一口かじらせろ」
鮫の群れを見て目を輝かせたのは、デンジャラスクイーン天王寺千里(
jc0392)
だれよりも危ないことをせずにはいられない性分の彼女にとっては、心躍るシチュエーションだ。
「一匹残らず取っ捕まえて、フカヒレの材料にしてやるぜ!」
光纏して咆哮を上げると、千里は躊躇なく海へ飛び込んだ。
そしてトルネードランスを振りまわし、片っ端から鮫を薙ぎ倒す。
「なんかディアボロが混じってねぇか? さすがに食いたくねぇぞ!?」
「……おもしろい」
状況を見守っていた染井源次郎(
jb7823)は、鬼のような笑みを浮かべつつ豪快にスーツを脱ぎ捨てた。
その下から現れたのは、全身傷だらけの筋肉野郎。海風にそよぐ赤褌が目に眩しい。
「……借りるぞ」
甲板に転がっている巨大な銛をひっつかむと、これまた一抹のためらいもなく源次郎は海へ飛び込んだ。
そして、エラや鼻先など鮫の急所を狙って銛を突きまくる。まさに『鬼』の狩りだ!
「\ヒャッハー!/ 鮫が怖くて海で生きてられっかァ!」
漁獲作業をほったらかして、銛二刀流で参戦するアイリ。
「調査の邪魔はさせんぞ!」
静矢もまじめな顔で阻霊符片手に駆けつけた。
彼らの働きで、寄ってきた鮫は片っ端から吹き飛ばされ、あるいは甲板に引き揚げられてゆく。
それを淡々と解体する、仙也と千里。
どうやらフカヒレを集めて何か作るようだ。
そんな鮫退治班の活躍によって、船上では滞りなく(?)漁獲作業が続けられていた。
「いい天気ですね〜」
鮫退治チームの騒ぎをよそに、反対側の舷でのんびり釣り糸をたらしているのは結城。
そのまったり具合は、漁獲調査の依頼とかでなく完全に『休日に釣りをたのしみにきた学生』といった風情だ。ときおり背中のほうから悲鳴や怒声が聞こえるが、気のせいということにして釣りをつづける結城。
そのとき、一匹の魚が海面を割って甲板に飛び込んできた。
トビウオにしてはでかすぎる。
真ん丸な魚体に、特徴的なヒレの形──まるでマンボウだ。ていうかマンボウそのものだ。
「この魚は食べられるのでしょうか……あとで船主さんに見てもらいましょう。……しかし最近の魚は自ら飛び上がって身を差し出してくれるんですねぇ。気前の良い話です」
大丈夫、マンボウはおいしいよ!
「フィッシュ・オン」
イザヤは結城と同じ場所で、真面目に釣りを続けていた。
やはり背後からは絶叫や怒号が聞こえてくるが、あえて聞かなかったことにしての漁獲三昧。
「あれだな……海系の奴と聞くとアレでソレな海産物くとぅるーちっくなのがわんさか出てくる記憶あるけどきっと記憶違いだアレでソレなディアボロとかきっと見ない見ないとも」
自分に言い聞かせるように、一気に呟くイザヤ。
瞳のハイライトが消えているのは、なにか思い出したくない過去でもあるのだろうか。
「ここはうるさいし別の場所で漁獲しよかー。AIとYUUKIの魔法少女なんていないんだ。そう、いないんだ……!」
『生き残った魔法少女』なる称号は無視して、場所替えするイザヤ。
どうやら、よほど思い出したくない過去が(ry
「俺はっ食えるものをっ獲るんだっ!」
いったい彼の過去に何が……。
「うぅ……うぷっ!」
皆それぞれ作業や趣味に興じる中、咲魔聡一(
jb9491)は舷側にもたれかかってグッタリしていた。
いつのまにか天魔に襲われていた……というわけではない。単なる船酔いだ。
「く……っ、学園に寄せられた依頼だもの、キツいお仕事なのはわかってたさ。天魔が出てくるのも予想はできた。……だが船の上というのがこんなに酔いやすいものとは!」
青白い顔でハァハァ言いながら、ひとり呟く聡一。
胃は痙攣し、胃液が逆流して口の中がすっぱくなる。もはや吐く寸前だ。
「大丈夫ですか? 酔い止めの薬がありますけど、飲みます?」
結城が優しく問いかけた。
「いや、酔い止めはちゃんと飲んできたんですよ。効かないだろうとは思ったけど……くっ、この歳で初めて船に乗るのを楽しみにしていたのに……うぶっ」
どうやら聡一は完全に戦力外だ。
「うぅん……思ったとおりですねぇ……」
獲れた魚を選り分けながら、恋音は呟いた。
「どうしました? なにかありましたか? なんでも相談してください!」
無駄に暑苦しく迫る雅人。
「いえ、あのぉ……出港前に、ちょっと不安があると言いましたよねぇ……? それが的中してしまったようで……」
「なにがどう的中したんです?」
「えとぉ……以前、平等院先輩がこのあたりに危険な薬を投棄したと、聞いたことがあるのですよぉ……。その影響が魚にも……」
「なんと! あぶないHな薬ですか!」
「いえ……そういう薬では……」
「きっと、この魚を食べると薬の影響が出るんですね! では早速BBQにしましょう! カルーアさーん、おたのしみの海鮮BBQですよー!」
「おさかにゃ焼いて食べるにゃー♪」
魅依が闇の翼を広げて、海面から飛び上がってきた。
左手には獲れたてのマグロ。右手には死にかけのカルーアを引きずっている。
「いいマグロね。どっちを先に捌こうかしら?」
物騒なことを言いだしたのは咲魔アコ(
jc1188)
彼女も焼肉部の一員だ。
「そうそう。前回は焼肉部、お休みしてごめんなさいね。どうも星(☆)の巡りが悪くって。今日は豪勢にやりましょう! 新鮮なお魚がこんなにあるんだもの、おいしくなるわ! お酒も持ってきたから皆さん良かったらどうぞ」
どこからか一升瓶を取り出して、ドンッとデッキに置くアコ。
漁獲作業も鮫退治もほったらかして、酒盛りBBQ大会が始まった。
「海鮮BBQね! 手伝うわよ!」
勢い込んで駆けつけたメフィスだが、素手で魚をさわれないため軍手で四苦八苦している。
なにしに来たんだろ、この人。……ああ、BBQ食べに来たのか。
「ん。料理だね。まかせて」
Robinは巨大な出刃包丁片手にやってくると、生きたままの魚をバッサバッサと切り始めた。
返り血が顔にはねても気にしない。外見と裏腹に、えらくワイルドだ。
ぶった切った魚は、串刺しにして火あぶりに。胃に入れば同じとはいえ、豪快すぎる。
「よぉーし! 食べるぞー!」
ここまで出番のなかった咲・ギネヴィア・マックスウェル(
jb2817)だが、BBQが始まると同時に激しく活性化した。
彼女は漁獲調査も戦闘も調理さえもする気はなく、ただ海の幸を食べに来ただけ。潔すぎる。
ところで『海にゲートって意味ないですよね』とか言ってるけど……うん、そのとおりだ!
だって陸地にゲート作ったら、人がいっぱい死んじゃうだろ!(おい
そんなこんなで本格的にBBQ大会が始まり、飢えた撃退士たちが集まってきた。
「あぁ……いい匂いがする……でも今なにか食べたら、確実に吐く……!」
魚介類の香ばしい匂いを嗅ぎながら、聡一は脂汗を流していた。
そこへ、シーフードを持ったアコが嘲笑いながら近付いてくる。
「あら従兄様、どうしたんですの? まさか船酔いなんて情けないことはありませんわよね?」
「ははは……撃退士が船酔いなんて、あるわけ……うぷ」
「でしたらBBQも食べられますわね? 分けてあげても良くってよ? ほら、いい匂いでしょう?」
「いや、いまはおなかいっぱいだから……!」
苦しまぎれの言いわけをする聡一。
(おのれアコちゃんめ、こんな状態のときに限って食べ物を勧めてくるなんて……)
(んー、いまなら従兄様を殺す絶好のチャンスなのだけど、目撃者が多いのがいただけないわね……)
瀕死状態の聡一を見下ろして、物騒なことを考えるアコ。
だが、そこへ。
突如として襲いかかってきたのは、リュウグウノツカイ型ディアボロ!
体長は20m以上あろうか。しかも普通に空を飛んでる。
「くそ……このまま足手まといで終わるわけにはいかない。天魔の一匹ぐらいは撃破してやる……!」
ふらつきながら、聡一は立ち上がった。
どう見ても戦える状態ではないが、はたして──!?
「あんな雑魚、いまの僕でも殺れる……!」
そう言った直後、尾びれで引っぱたかれて海に転落する聡一。
今日なにもしてないぞ、この男!
「あらあら、一発KOだなんて。とんだお笑いぐさですわ」
悪女風に微笑むと、アコはエレキギターをかまえた。
オリジナルスキル『地獄の聖歌』発動!
「「グワーッ!?」」
敵味方識別しないもんだから、えらい勢いで周囲の人たち巻きこんでる!
おかげで、たのしいBBQ大会が血の宴に!
「……まぁ、よくあることですわ」
反省しないアコ。
「いかんよ、味方を巻きこんだら。この年代物の漁船も沈没しかねない」
峰雪が出てきて、きっちりコメットを撃ち込んだ。
『重圧』を受けて、巨大な天魔が空から落ちてくる。
『あとは私に任せてくれ』
と書かれたホワイトボードを持って、静矢が颯爽と飛び出した。
かならずや大型の天魔が現れるものと信じて、ずっとスタンバっていたのだ。
もちろん装備はラッコ着ぐるみに換装済み! 水中戦の準備は完璧だ!(注:着ぐるみにそんな効果はありません)
『では行くぞ! ルインズ最強!』
ホワイトボードに口上を書きつけると、十文字槍をかまえて静矢は全力跳躍した。
そのまま空中の天魔に槍を突き立て、もろともに海中へ落下する。
盛大な水柱。
その数分後。敵を仕留めた静矢は、獲ったどーポーズを決めながら『キュゥ!』と海面に出てくるのだった。
──が、船の上はそれどころではなくなっていた。
みんなが率先して死亡フラグを立てたおかげで、えらいことになってきたのだ。
まずは、直径5mのウニ型天魔。
カニと鮫の合体した、シャークラブ天魔(飛行)
イカと鮫の合体した、シャークィード天魔(飛行)
猛毒を持つヒョウモンダコ型天魔が舷側を這い上がって甲板になだれこみ、海面は血に飢えた鮫型天魔で覆いつくされている。
なにより危険なのが、ヤバい薬品の副作用で胸部が肥大化してしまった恋音だ。あまりの質量に甲板は割れ、船は今にも沈みそうなのである。こんな『ドキッ! 天魔だらけの海水浴大会!』みたいな状況で船が沈んだら、全員死ぬぞ!?
「うぅ……もしもの場合、私ひとりが船を下りますよぉ……」
「そんなことはさせません! 天魔を全滅させれば済むことです!」
自殺しようとする恋音を、雅人が止めた。
なぜか女体化してるが、時間(字数)も押してるので説明は抜きだ!
「よし、おまえら! 撃退士の力を見せてやれ!」
牛熊の指示が飛んだ。
が、そんなこと言われる前に学生たちは戦っている。
「なんでカニが飛ぶかなー。っていうか、あたし食べにきただけなのに、なんで戦ってるかなー」
華麗に空を舞いながら、咲はシャークラブと戦っていた。
シャーク愛ではない。カニの背中に鮫が乗っかった、どう見ても陸戦型の天魔だ。シャークネードの監督も驚くに違いない。
「そして、なんでイカが飛ぶかなー」
シャークィードは、イカの触腕の間に鮫が頭を突っ込んでるみたいなデザインの天魔だった。せっかくの鮫の大顎が使えないという、まったく意味のない組み合わせだ。
いくらなんでも、こんなのに負ける咲ではない。
一方海上では、シェリーが小天使の翼で飛行しつつウニ型天魔と対峙していた。
手に構えるのは、ヴァナディースロッド。試し振りするために持ってきたのだ。
こんな状況で試し振りとか、ずいぶん余裕だな!
「なんか、取説に『振るうだけで何らかの騒動が起こるという傍迷惑な杖』って書いてあるけど……迷信だよね?」
ここに来て、また死亡フラグか!
当然迷信ではないので、杖を振ったとたんイタズラな風が吹いてシェリーは海に落っこちた。
と同時に咲も上空から落ちてきて、シェリーと衝突。二人そろって海面に浮かぶのだった。
そこへ猛烈な速度で転がってくるウニボロ!
「まずい! 援護しないと!」
メフィスは海に落ちないよう注意しつつ、霊符でウニを攻撃した。
効いてるのかわからないが、やらないよりはマシだろう。
「ところで押さないでよ? 絶対に押さないでよ??」
だれにともなく言うメフィス。
そんなこと言われたら、アコは押すに決まってる。
「『押すなよ』は、『押せ』って意味ですわよね?」
「ちがうわよおおお!」
どぼーーん!
このあとメフィスはウニに轢かれ、サメにかじられ、ひどい目にあったという。
芸人的にはおいしい!
それはともかく、この天魔の群れはどうしたものか。
一応、雫、静矢、アイリ、バルドゥル、Robin、源次郎、千里……といった武闘派の連中が片端からぶちのめしてるのだが、しょせん焼け石に水。船が沈んだらオシマイなのであまり派手な攻撃もできず、打つ手がない。
ちなみにUnknownはずーーっと神経絞めした魚を食べてる。戦え。
「ところでおまえら、あれ見ろよ」
ラファルが沖のほうを指差した。
そこに現れたのは──まぎれもなく大怪獣ゴジ●!
撃退士たちの間に戦慄が走った。サメとかウニとは話が違う。だって、放射線ブレス一発で確実に漁船撃沈だからね!
「……つっても毎度毎度なめられっぱなしってワケにもいかねーから、みんなで引導渡してやろうぜー!」
などと妙に張り切るラファル。
船が沈んだら一番こまるのアナタでは……?
「よし、調査はここまでだー! 全力で逃げるぞー!」
恥も外聞もなく、おもいきり船を回頭させる牛熊。
さすがに反対する者はいない。って、そりゃそうだ。
ともあれ、依頼は無事に(?)成功した。
帰途につく船上では、千里の特製フカヒレラーメンが好評を博したという。
あれだけの騒ぎのあとで平然とラーメンを食う撃退士たちって一体……。
ああ、聡一だけは最後まで船酔いで死んでました。以上。