「またあんたなの!? いいかげん、さっさと帰りなさいよ!」
ここは依頼斡旋所。幸子の顔を見るなり、雪室チルル(
ja0220)は大声をあげた。
じつはチルルちゃん、2年前にも幸子の占いに巻きこまれてひどい目にあっているのだ。
「あたしも帰りたいけど、依頼なんだから仕方ないでしょ!」
「それはあたいたちが何とかするから。あんたは帰って。せーの、かーえーれ♪ かーえーれ♪」
全力で『帰れコール』を歌いだすチルル。鬼か。
「まぁまぁ。これでも一応、依頼人ですから」
雫(
ja1894)が歌を止めた。
しかし、続いて出てきたセリフはチルルよりひどい。
「こんな人にも使い道はあります。不運が集中するという話ですから、避雷針がわりとして少し離れた場所に立っててもらいましょう。その際ただ立ってるだけでは牧場さんへの心象が悪いので、穴を掘っては埋め戻すという作業をつづけてください。牧場さんからの依頼は、私たちが片付けますので」
「冗談じゃないわよ、そんな拷問!」
幸子が怒るのも道理だった。
「ふ……あまりにも楽勝な依頼ね。超絶不運? ただの占いでしょう。くだらない」
遠石一千風(
jb3845)はクールに言い切った。
「でも当たるのよ!」
「そうなのよ!」
幸子とチルルが同時に反駁した。
「あなた阿修羅でしょ? 見なさいよ、ほら!」
阿修羅のジョブ占いを開いて、見せつける幸子。
「いや、そういうの信じないんで」
と言いながらも、占いの文面をチラ見してしまう一千風。
そこには『金運だけは絶好調!』と書かれている。
おもわず、『今日は装備強化でお金使いすぎたし、うれしいかも……』などと考えてしまう一千風。
「ほら信じてるじゃない」
「し、信じてないし! ていうか、あまり近づかないで! 占いは信じてないけどっ!」
どう見ても信じてるが、そうは見られたくない一千風であった。
「ジョブ占いですか……じつは僕、占いは自分でやってしまうのでそういうサイトは見たことないんです。そんなに当たるなら、いちど見てみたいですね」
さわやかに言うのは咲魔聡一(
jb9491)
「見なさいよ、本当に当たるから」
幸子がスマホを手渡した。
「なになに……『アカレコのあなたは仕事運良好。努力がちゃんと結果に繋がる一日です。依頼に打ち込めば大活躍できるでしょう』……か。ふうん、僕の占いも案外当たるんだな。……ん?『ただし』? 『恋愛運は最悪。とくに年下の異性に注意。そばにいると運気をガンガン吸われてしまいます。まわりに3人もいれば、ダアトと同じくらいひどい目にあうでしょう。ラッキーアイテムはロードローラー、アンラッキーアイテムはタンクローリー。ラッキーカラーはピーコックグリーン、アンラッキーカラーはボトルグリーン』……って、最悪じゃねえか!」
そう、外見年齢こそ16歳の聡一だが、実年齢は232歳!
まわりは年下の異性だらけだ!
「まったく……みんな占いに振りまわされすぎなのよー!」
ドSスマイルで、加賀崎アンジュ(
jc1276)が駄目出しした。
超ミニスカの緋袴をはいた巫女さんである。
「そんな皆様におすすめさせていただくのは、こちら! 加賀崎家特製『幸運(笑)を招く壺(偽)』! これをご購入いただくだけで、なんと(怨霊・死霊が)ツキまくり! (妖魔をはじめとした様々な怪異に)モテまくり! いまなら、な、なんと! 大特価大出血大サービスで総額ウン十万久遠のご提供とさせていただきます!!」
あきらかに100均の壺を金色に塗っただけの品を売りつけようとするアンジュ。
怪異退治の巫女が、そんなん売っていいのか。
「高いわね。もうすこし安くならないの?」
本気で値切る幸子。
聡一も後ろでうなずいている。
「いや売らないわよ。大体あんたたち、占いやらなんやら気にしすぎなのよ」
すすめておいて売らないとは一体。
もしや巫女(一応)として励ます(?)のかと思えば──
「まったく、どいつもこいつも! いちいちどうでもいいことで神社に来ては適当な願いごとして帰るんだから! おまけにそういう連中ほど賽銭は小銭ばかりだし! 神社を何だと思ってるのよ!」
どうやら、ただの愚痴だった。というか八つ当たりだった。
……で、そろそろ出発しませんか?
「ちょっと待ってください! みなさん占いで一喜一憂してますが、最も重要な占いはこれですよね?」
そう言って、ゼフィ(
jc0492)はコピー用紙を取り出した。
そこに印刷されているのは──
【今日のジョブ占い:MS】
今日二番の運勢は、MSのあなたです!
金運、恋愛運、いずれも爆運に!
地面にしっかりと足を付けて歩いていけば
雷に当たっても小さくなって小銭を落とすだけで
不吉な事は無いでしょう!
どんなジョブの人とも相性最高!特にルインズな
んかに大成功を出せば運勢は最高潮に!
でも慢心するとその幸運が周りからの妬みのタネに…
場の空気を読むことも成功のカギ!
そんなあなたのラッキーアイテムは牛の革の
くびわ。アンラッキーアイテムはビデオカメラ。
ラッキーカラーは赤で、アンラッキーカラーは白。
ハキハキとしゃべる人とも相性抜群!
つまり簡単に言うと
落ちついて過ごせばだいたいのことは
ちゃんと良いことがありますよ!という事です!
こ、これは……まさかの縦読み!
そしてラッキーカラーは赤か。よしわかった。みんな血まみれにしてやろう、よかったな。
ていうか前置き長いよ! 出発しろよ! 字数が厳しいんだよ!
「ああ、面倒だな。占いなんぞ知るか。そもそも占いを信じた時点で、自分に枷をはめてるんだよ。どうせ、ものごとはなるようにしかならないんだ」
桜花(
jb0392)は占い否定派だった。
彼女はインフィルだが、占いは見てないし知ろうともしてない。とても潔い。
そんなインフィルのジョブ占いは、こんな感じだった。
恋愛運:大吉。意中の人と結ばれるチャンス!
健康運:大凶。意外なところで大ケガの危険が!
「うぅん……できれば、占いが当たらないと良いのですけれどぉ……」
弱々しく呟いたのは、月乃宮恋音(
jb1221)
だが、すでに彼女はジョブ占いを信じている。
というのも、本日最悪の運勢であるダアトの恋音は、『ジョブチェンジして現場に向かえば済むのでは?』と考えて実際そうしようとしたのだが、『今日はアウルが不安定で云々』などと聞いたこともない理由で却下されてしまったのだ。これが不運でなくて何だろう。
「言っておくけど、この占いは当たるから! 信じないとか言ってる連中は覚悟して!」
まるで自分が占い師であるかのように、幸子はドヤ顔で宣言した。
彼女自身が一番の被害者であるにもかかわらず。
ともあれ9人の撃退士たちは、ディメンションサークルで現場へ飛んだ。
──と思ったら、出現したのは高速道路のど真ん中!
そこへ突進してくる、ボトルグリーンのタンクローリー!
「ぬァ……ッ!?」
あきらかに自分の占いが招いたものだと悟って、あわてる聡一。
ここは物質透過で……いや自分だけ助かるわけには……しかし罪もないタンクローリーを攻撃するなんて……
とか迷ってる間にタンクローリーが突っ込んできて、みんなビリヤードのブレイクショットみたいに四方八方へ吹っ飛んでいったのであった。
撃退士じゃなければ、この時点で死んでる!
こうして散り散りになった撃退士たちは、各自の判断で現場をめざした。
とりわけ意欲旺盛なのはチルルだ。
「まずは野犬狩りよ! お荷物のダアトがいなくなったのは、逆に好都合ね! 獅子はウサギを狩るのにも全力をつくすというわ! 撃退士が犬を狩るのも全力よ!」
光纏し、大剣に金属鎧という完全装備で牧場へ向かうチルル。
前回は突然の雷にやられたので、今日はアースでばっちり対策してあるぜ! 方法は知らん!
そんな意欲の甲斐あって、現場に一番乗りしたのは彼女だった。
タイミングのいいことに、ちょうど野犬の群れが山から下りてきたところである。
「見つけたわよ、いぬっころ! あたいの一撃を受けてみろ!」
コンセントレートで剣のリーチをのばすと、チルルは地面を薙ぎ払って土砂を吹っ飛ばした。無駄に殺生せず、犬を追い払う作戦だ。おお、いつもより多めにアタマをまわしてる!
そこへ聡一が現れた。
「待った! 動物をいじめるのは反対だ! この場は仕事運良好の僕が『炎焼』で……」
「うっさいわね! 仕事運がなんだー! こっちは生活かかってんのよ!」
いちど走りだしたチルルに、ブレーキはない。
その直後。チルルの手からすっぽぬけた剣が聡一の眉間に突き刺さり、暴発した炎焼がチルルに命中した。
「グワーッ!」
「あちちちち! 水! 水!」
噴水みたいに血を噴いて倒れる聡一と、火だるまになって走って行くチルル。
血と炎でMSのラッキーカラーが完成だ!
野犬の群れはノーダメ!
次に到着したのは、恋音と桜花だった。
「なんだ、本当にただの犬じゃん。適当に追い払うか、捕まえればいいでしょ」
タカをくくって拳銃を抜く桜花。
空砲で脅かせば逃げるだろという、あまい考えである。
「うぅん……ここは慎重にいきませんかぁ……? 不運を生かして、私が囮になりますのでぇ……」
「よし、そうと決まったら……突撃だあああ!」
「人の話、聞いてましたかぁぁ……!?」
ヒャッハー状態で走っていく桜花と、あわてて追いかける恋音。
そのとき、恋音のアウルが乱れて足がもつれた。
そのままバランスを崩し、勢いよく転倒。
無意識に伸びた手が、桜花のスカートに!
「はわぁ……っ!?」
「れ、恋音!? こんなところで……!?」
とか言いながら、もつれあって地面を転がる二人。
気がつけば桜花のスカートはズリさがり、パンツ丸見え状態だ。
「す、すみませんんん……っ!」
顔を真っ赤にして謝る恋音。
あれ? これって幸運なんじゃね?
だが、そこへ容赦なく襲いかかる野犬の群れ。
「「はぅああああ……っ♪」」
雄犬にのしかかられ、全身をペロペロされて悦んでしまう桜花と恋音。
このままでは任務失敗だ!
「いまこそ私の出番!」
仲間のピンチに駆けつけたのは一千風だった。
相手はただの犬。ならば『咆哮』で十分と見て、雄叫び一発!
だが、ふだん使い慣れてないのでうまくいかない!
「く……っ。練習してきたのに!」
くやしがる一千風。
するとそこへ、通りすがりの現金輸送車が! どうやら運転手が『咆哮』で錯乱しているらしい。
おお、これは金運UPの効果か!?
まさか牧場に現金輸送車が現れるとは!
「グワーッ!」
輸送車に撥ねられ、血みどろで吹っ飛ぶ一千風。
たった一時間ほどの間にタンクローリーと現金輸送車に轢かれるとは、まさに奇跡!
「こんなバカな……金運のせいで現金輸送車に轢かれるなんて……。私は信じない……占いのせいなんてこと、あるわけない……!」
口では強がってるが、全身血まみれだ。
ちなみに現金輸送車は普通に轢き逃げしていったよ!
それにしても、なぜ金運がつかめないのか。原因は一千風の下着にある。彼女は読んでないが、アンラッキーカラーは黒なのだ。つまり、そういうことだった。最初からパンツをはいてこなければよかったんだよ!
こうして5人の撃退士が野犬の前に敗れた。
そんな仲間たちの様子を、ゼフィはビデオカメラで撮影している。
「これは……AV(アニマルビデオ)として売れますね!」
舐めるようなアングルで、恋音たちを激撮するゼフィ。
どうやら戦う気はないらしい。
そんなことをしてる間に、彼女も野犬に押し倒されてペロペロされてしまうのであった。
……で結局どうなったかというと、あとから来た雫とアンジュが普通に犬退治しましたとさ。
まぁこの野犬ってチワワなんだけどね。
以上! 犬退治終了!
あとは牧場の手伝いだ!
それにしても、チワワ相手に本気を出す撃退士ってwww
「おお、あの凶悪な野犬を退治するとは! さすが撃退士ですな!」
RPGの村長みたいなことを言いだしたのは、依頼人の牧場さん。
「そんなことより! まだ仕事があるでしょ!? 乳搾りとか、搾乳プレイとか!」
桜花が依頼人の胸倉をつかんだ。
「お、おお。ぜひおねがいします!」
「まかせて! こういうのは得意だから! さぁみんな、乳搾り! 乳搾りィ!」
とりあえず、雫とチルルとゼフィと……ええい面倒だとばかりに、女の子全員を小脇にかかえて牛小屋へ突撃する桜花。
そして始まる、女の子同士の百合搾り!
これはまさしく『恋愛運:大吉』の効果だ!
「さあ、貴女の乳を搾らせて……いっぱい搾ってあげるよ、私の指が忘れられないぐらいに……ふへへ」
やりたい放題の桜花さん。
一体これのどこが『運』なのか。
「まぁ落ち着いてください」
雫の太陽剣が、桜花の後頭部にブチこまれた。
「そうよ! まじめに働きなさい! こっちは生活かかってんだから!」
続けてチルルのツヴァイハンダーが、桜花の後頭部へ。
でも大丈夫! 峰打ち! 峰打ちだから! 両刃の剣だけど峰打ちだから!
「うぅん……とりあえず、乳搾りをしましょうかぁ……」
桜花の狼藉は見なかったことにして、恋音は普通に作業をはじめた。
ほかの仲間たちも、それぞれ牛舎の掃除や牛の世話にとりかかる。
「ああ、それにしても良い眺めだ……」
聡一も爽やかな笑顔で乳搾りを手伝っていた。
言うまでもないが、全身ズタボロの血まみれ状態である。
でも牧草は明るい緑色だし……などとラッキーカラーを信じて安心しているが、乳牛は確実に『年下の異性』であることは失念しているようだ。
そこへ、ようやく幸子が到着。
ダアト2名による不運の連鎖が始まった。
まずは、恋音のアウルが暴走して乳牛を刺激。
とたん、乳量が爆発的に増加する。
タンクがあふれそうになり、あわててホースをはずす恋音。
しかし暴れまわるホースが運悪く恋音の口の中へ!
「おぶぅぅぅぅ……ッ!?」
全身牛乳まみれになって、悶絶する恋音。
「恋音! この薬を飲んで!」
復活した桜花が、恋音の鼻から改造胃腸薬を押し込んだ。
これで胃の容量を増して、破裂をまぬがれ──
どぱあああああん!
暴発した幸子の魔法が恋音の腹に命中し、大爆発した。
あたり一面に降りしきる、牛乳の雨。
結果、桜花と幸子は肥大化した恋音の胸に押しつぶされ、聡一は乳牛に押しつぶされた。
ほかの人たちは、途中で結果を察して避難済み。
そもそもMS占いを見たときから、爆発オチはわかりきってたのだ。
「不幸ですか……でもよく考えてください。これだけ不幸な目にあっても生きている。つまり生きてるだけもラッキーなんですよ。薄木さんは不幸ではなく幸運の持ち主なんです」
しみじみと語る雫。
だが、血まみれ牛乳まみれで病院へ運ばれる幸子には何も聞こえてなかった。