カルーアが天魔に食われたと聞いて、まず駆けつけたのは月乃宮恋音(
jb1221)と袋井雅人(
jb1469)だった。どちらも焼肉部員である。
「部長がワニ型ディアボロに飲みこまれた!? まずいですね。とにかく今の装備とスキルをフル活用して救助しなくては……。丁度いいことに今の私はアスヴァンなので、沼の中から敵をさがすのはまかせてください」
めずらしくマジメな戦闘装備の雅人。
もちろん焼肉部の標準装備として、背中には七輪を背負っている。
「生命探知を使える人は、多いほうが良いですよねぇ……三条さんを呼びませんかぁ……?」
「恋音、どうせなら明日羽さんにも来てもらいましょう」
「そ、それは……とても危険な賭けですよぉ……?」
それぞれ応援を募ろうとする、恋音と雅人。
だが、亜矢は一刀両断にした。
「どっちも却下よ! あんな変態どもの手を借りるぐらいなら、部長に死んでもらうほうがマシ! 大体あたしの出番が減るでしょうが!」
「そ、そうですかぁ……うぅん……」
そうハッキリ言われては、恋音にも返す言葉がなかった。
他人の命より自分の出番! それが亜矢のジャスティス!
「人が飲みこまれたって……大変じゃない! 急いで助けに行かないと!」
緊急依頼と聞いて、メフィス・ロットハール(
ja7041)は慌てて斡旋所へ駆け込んできた。
焼肉部とは無縁なので、これがどれほど馬鹿げた依頼なのか彼女は1ミリも理解してない。
「よく来たわね! さぁこれを装備して!」
亜矢が七輪を押しつけた。
「え……? なにコレ?」
「見てわからないの!? 七輪よ!」
「それはわかるけど……え? これ人命救助の依頼よね?」
「人も助ける! 天魔も倒す! 焼肉もたのしむ! それが焼肉部!」
「焼肉は依頼が終わってからにすれば……」
「つまらないでしょ、そんなの! いいから装備しなさい、その七輪を!」
「あ、はい……」
理不尽すぎるが、一応相手は依頼主だし……と自らを納得させるメフィス。
ああ、何故こんな依頼を受けてしまった!?
次にやってきたのは、スリーピー(
jb6449)
依頼の内容をしっかり把握してきた彼は、さすがに助けなければまずいだろうと真剣にカルーアの身を案じつつ、七輪を背負って登場した。
焼肉部でもないのに、なんたる準備の良さ! これには亜矢も驚きだ!
「やるわね、アンタ。焼肉部に入らない?」
「む……考えておこう。いまは依頼が最優先だ」
クールに答えるスリーピー。
だが、その中身は相当な外基地ぶりだぞ!
彼の行動ひとつで、今回の依頼はえらいことになるからな! みんな覚悟しておけ!
「話は聞きました。焼肉しながらディアボロを退治して、部長を救助すればいいんですね?」
造作もないことのように言って、エイルズレトラ マステリオ(
ja2224)が参戦を表明した。
彼もまた、焼肉部じゃないのに七輪を背負う男だ。
「さすが、よくわかってるわね! この依頼の目的が!」
「それはまぁ……あなたとの付き合いも長いことですし」
「よーし、いい感じね。今日の部活は成功よ」
したり顔でうなずく亜矢。
「あれ? もしかして七輪を持ってこなかったの僕だけ?」
首をかしげながら扉を開けたのは、咲魔聡一(
jb9491)だった。
「そう! アンタだけよ!」
亜矢が指を突きつける。
メフィスは無言のまま、首を横へ振った。
「これは失礼。では七輪を貸してくれないかな」と、聡一。
「言われなくても貸すわよ」
「ありがとう。いやあ、焼肉は素晴らしいね。焼いて食うだけというシンプルさがいい。カレーすら謎の物質に変えてしまう僕にとっては最後の砦だ。そうそう、こちらの部には従妹がいつも世話になってるね。礼を言うよ。いつも殺伐としてたけど、最近は楽しそうに焼肉部の話をしてるよ」
「あんたは入部しないの?」
「入部は……いいや。魅力的だけど、従妹の楽しみを邪魔しちゃ悪い」
そんな会話の最中、雫(
ja1894)が姿を見せた。
「私も七輪は持ってきてませんが、なにか?」
「ち……っ」
亜矢が舌打ちした。
彼女からすれば、雫が焼肉部に入ってないのは面白くないのだ。
そもそもカルーアが死にかけてるのも、元をたどれば99%雫のせいなのに。
にもかかわらず雫は、『部長が食材のエサになってどうするんでしょうね』などと他人事みたいに言っている。
「まぁいいわ。全員七輪を持って! 出撃よ!」
亜矢の号令一下、撃退士たちは背中に七輪、左手に小皿、右手に箸という格好で走りだした。
とても天魔と戦う姿とは思えない。大丈夫か、この人たち。
──1時間後。
目的の沼地に、一同は到着した。
「なるほど。もぐもぐ。これでは敵の居場所がわかりませんね。ここは私にまかせてください。むぐむぐ」
雅人が骨付き肉(カエル)をほおばりながら、生命探知を発動した。
が──
「反応が多すぎて、どれが敵かわかりません!」
そりゃまぁ5cm以上の生物すべてサーチしちゃうし、相手のサイズわからないし……。おまけに命中判定で勝たないと発見できないし……無理すぎる策だった。
「では僕の番ですね」
エイルズが肉を焼きながら進み出た。
なんと、まともなカルビである。途中、ジャングルのスーパーで買ってきたのだ。
「さあ、僕の(モリモリ)忠実なる下僕(モリモリ)ダイヤよ(モリモリ)部長を見つけて(モリモリ)助け出すのです(モリモリ)」
モリモリ言ってるのは、カルビ(チョコ味)を咀嚼する音だ。
召喚されたストレイシオンが、沼の中へダイブする。
が──
こんな泥水の中じゃ何も見えない! 澄みきった湖とかじゃないんだぞ!
「まぁ運が良ければ鉢合わせるでしょう(モリモリ)あとはまかせましたよダイヤ(モリモリ」
すべてを召喚獣にまかせて、焼肉をつづけるエイルズ。
「面倒ですね。敵が見つからないなら、手当たり次第に爆破してしまいましょう」
そう言って、雫は自家製ダイナマイトを沼に放り込んだ。
ドパァァァン!
爆音とともに、盛大に飛び散る泥水。
たちまち全員泥まみれだ。
「以前ガチンコ漁をして怒られたので、今回はダイナマイト漁で捕獲してみようと思います。知ってますか? 水中で爆破を起こすと爆発の威力より衝撃波のほうが破壊力が高いんですよ」
仲間の惨状を気にもせず、持ってきた爆弾を次々と放り投げる雫。四方八方に飛び散る泥水。
えらい力技だが、こんな手段で倒せるわけない。そもそも天魔に爆弾とか通じないし!
「え……? これまずいんじゃない? 敵が見つからないって……早く何とかしないと!」
メフィスがうろたえた。
言うまでもないが、全身泥まみれである。
「そのとおりよ! だれか何とかしなさい!」
任務を丸投げして焼き鳥をかじる亜矢。
「僕には捜索の手段がないから、みんなに任せるよ」
平然と言いながら、聡一は眼鏡のレンズを拭いていた。
「敵が見つからないなら……おびきよせればいい」
眠そうな顔で、スリーピーが沼の淵に立った。
どうするつもりかと皆の見守る前で、いきなり自らの手首を切るスリーピー!
「さぁ血の匂いに誘われてこい」
勢いよく噴き出す血液が、沼に流れた。
「ちょっと、大丈夫なのアンタ」と、亜矢。
「大丈夫。焼きレバーを食べて鉄分を摂れば問題ない」
その直後。
植物型天魔の蔓が、スリーピーの足首に巻きついた。
「ぬぉおおおお……っ!?」
そのまま、ジャングルの奥へ引きずりこまれてフレームアウトしてしまうスリーピー。
「大変! 助けないと!」
あわてたメフィスは、護符のかわりにフライドチキンを装備していた。
「待ちなさい! こっちが先よ!」
亜矢が引き止める。
見れば、沼の奥からワニが近寄ってくるではないか。
「おぉ……犠牲者は出ましたが、うまく釣れたようですねぇ……。カルーアさん、生きてますかぁ……? 生きてたら、返事をくださぁい……」
恋音が七輪で肉を焼きつつ、うちわでパタパタあおった。
焼肉の匂いでカルーアの意識を取りもどすのが狙いだが、はたして彼女は無事なのか?
「うぅん……まさか手遅れでしょうかぁ……カルーアさーん、生きて出てきたら焼肉食べ放題ですよぉー」
だが、返事はない。
「こうなれば殺るしかないわ! 先手必勝よ!」
メフィスは躊躇なくフライドチキン……もといスピアハートをぶっぱなした。
まだカルーアは生きてるかもしれないのだが、そんなことは考慮外。
しかし、撃ち出されたバンカーは鱗にはじかれてしまう。
「予想以上に硬いですねぇ」
興味なさそうに言いながら、エイルズは淡々と焼肉を食べている。
あくまでも自分で戦う気はないらしい。
「いやー、最近の焼肉部は命がけで焼肉するのが当たり前になっていますねー。私も負けてられません!」
と言いながら、雅人はワニを放置して野生の鹿を狩りはじめた。
さすが焼肉部員! 戦闘後の焼肉パーチーのこともしっかり考えている!
「え……? えええ!? なに、この人たち……。あ、あたま痛くなってきた……」
理解不能な行動をとるメンバーたちを見て、目を丸くさせるメフィス。
何故こんな依頼に(ry
「僕は真面目に戦うよ! これが効いたらラッキーなんだけど……ね!」
自信なさげに、聡一が『食虫植物の祭典』を放った。
駄目元の攻撃だが、これまた通じない。
「ならば……これだ!」
カッと眼鏡を輝かせて、身体強化呪術(物理)を活性化させる聡一。
二の腕をタオルで縛って注射器を突き立てる姿は何か違法な薬でもキメてるみたいだが、気のせいだ! 単なるアウルの注射だよ! 違法じゃないよ!
「はァ……ああァ……効いてきた……効いてきたァァ……!」
『覚醒』して、全身の筋肉をビクンビクンさせる聡一。
何度も言うけど、ヤバい薬じゃないよ! 合法! 合法だから!
とか言ってる間に刃物状の鱗がマシンガンみたいに飛んできて、聡一は血まみれになって倒れたのであった。
「飛び道具まで!? まずいわよ! 焼肉食べてる場合じゃない!」
真剣な顔で叫ぶメフィスだが、背中には七輪が煙を立てている。
「ちょっとアンタ! 肉が焦げてるじゃない! しっかり管理しなさいよ!」
メフィス以上の真剣さで、亜矢が怒鳴った。
やむなく、焦げた肉をかじるメフィス。
おちついて周囲を見れば、雅人は万能包丁で鹿をさばいてるし、雫は山椒魚を焼いてるし、エイルズは黙々と焼肉してる。スリーピーは食人植物に連れ去られ、聡一は血まみれで倒れ……戦力になるのは恋音だけだ。
「ああ……どうして私はこんな依頼を受けてしまったの……?」
七輪を背負ってガクリとうなだれるメフィス。
噛みしめる肉の味は、ほろ苦かった。
──ここで流れをブッたぎって、唐突に場面が替わる。
ここは密林のジャンゴー。雄大な自然が溢れかえりまくる、人外境だ。
見た目の怪しい、おいしそうな果実。飲んだら後が気になる、おいしそうな水。ダイエット中のボクサーなら喜びそうな気温。深呼吸をすればむせ返るような、大地の香りのする空気。そう、ここはジャンゴー……
「今日の夕飯……」
力なく呟きながら、密林を徘徊する男がいた。
バナナの葉で下腹部を隠した彼の名は、佐藤としお(
ja2489)
究極のラーメン作りのため新しい食材を探しにきたものの、遭難してしまったのだ。
このジャンゴーには想像を絶する生物たちがいる。そうした危険極まる生物の攻撃を何とかしのぎ、やっとこ生きてる状態だ。きっと日ごろから摂取していたラーメンの効能だろう。
──と、不意にとしおは足を止めた。
バベルの塔のように高い木の中ほどに、果実を発見したのだ。
撃退士の能力をもってすれば、これくらいの高さは容易に登れる。通常ならば──
「!?」
足を滑らせ落下するとしお。
この高さから地面に叩きつけられても無事なのは、撃退士ゆえだ。
「……人の気配……か!?」
ふと気付けば、彼は原住民に囲まれていた。
どうやら、天から降りてきたとか何とかで神様扱いされているようだ。
しかもとしおの持っていた七輪は、火を扱う文化のない部族民にとってまさに神のアーティファクトだった。
そんなわけで勝手に神として祭り上げられ、祭壇の頂上に座らされるとしお。
原住民たちの崇拝を受け、すっかり目標を見失った彼が学園に戻ってくることはあるのか!?
「……ま、いっか☆」
って、なにもよくないよ!
なんだコレ! わけがわからないよ! ラーメンの食べ過ぎでイカれてしまったのか!?
──まぁいい、場面をもどそう。
なんだかんだ色々あって、いま恋音はワニボロの胃袋の中にいた。
え、はしょりすぎてワケわからない? とにかく恋音はワニに食われたんだよ!
ちなみに胃袋の中は異界化してるなんてことはなくて、ふつうに粘液で包まれた肉襞で覆われてるぞ! おかげで恋音はえらいコトになってるが、描写したら確実にアウトなので想像におまかせします!
「こ、これは……考えが甘かったでしょうかぁぁ……!?」
『硬い敵は内側から破壊♪』と考えてわざと敵に飲みこまれた恋音だが、実際やってみると身動きひとつできなかった。OP薬さえ飲めば、恋音の胸部はすべてのパーマネントを破壊する。それらは再生できない。(MtG風)
だが、現実には指一本動かせないのだ。なんたる自殺行為!
ただ不幸中の幸いは、すでに敵が無力化されて拘束されているという点だ。
なに? どうやって無力化したのかって? きっとエイルズが囮になって、雫が太陽剣ぶちかましたんじゃないか? そういうことにしておこう!
「むやみに切ると二人を殺してしまう可能性があるので、ここは自然に出てくるのを待ちましょう」
という雫の提案で、縛り上げたワニボロの口に大量の下剤が投与された。
しかし、ここで命からがら舞い戻ってきたスリーピーが指摘する。
「待て。天魔に下剤など通じない」
なぜか全身に火傷を負い、焼肉のタレをしたたらせるスリーピー。
だが、いまさら誰もツッコまない。
「下剤などより、もっと直接的な手がある。まかせろ、俺は詳しいんだ」
自信満々に言うと、スリーピーは右手にマジカルステッキ、左手に釘バットを装備した。
そして、躊躇なくワニの尻穴にグッサリ挿入!
「これがワニのマスターキーだ……開錠(アンロック!)」
ドブシャアアアア!!
なにが起きたか、悲惨すぎてとても書けない。
天魔もウン●するんだね!
「うぅ……ひどい目にあったのです……」
「うぅ……まさか、こんなことになるとは……」
全身ウン●まみれでグッタリする、カルーアと恋音。
ほかの人たちも多かれ少なかれ浴びてるので、ちょっと焼肉どころではない。
「そんな! 焼肉パーリーできないなんて!」
雅人が嘆いた。
「はぁ……なぜ私はこんな依頼に……」
異臭に包まれながら、半泣きになるメフィス。
だが恐らく、そう思ってるのは彼女だけではなかった──