その日。風紀委員会からの依頼を受けて、8人の生徒が集まった。
目的は、スカートめくり研究会の活動停止と瀬野のパンチラコレクションを廃棄すること。
「変態天魔討伐の次は、学園の変態討伐ですか……」
雫(
ja1894)は溜め息をついた。
前回はスク水マニアのディアボロ。今回はパンチラマニアの撃退士。なぜか同じメンバーが3人もいるが、やはり類は友を呼ぶのか。
身につけているのは普段の青い衣装。スカートの中にはジャージを着込み、パンチラ対策は完璧だ。
「これはもう変態というより、犯罪じゃないの? こんな破廉恥なクラブ活動、許されるわけがない。絶対につぶさないと」
遠石一千風(
jb3845)も制服姿で、雫と同じくジャージを装備。
恥ずかしいほどダサい格好だが、なんせ相手はスカートめくりの達人だ。仕方ない。
「学園の風紀を乱す変態さんと、悪に身を染めた人は、魔法少女・マジカル♪みゃーこがお仕置きにゃ♪」
猫野・宮子(
ja0024)も制服姿だった。
ただしジャージは身につけてない。パンチラ対策? なにそれ。
「スカートめくり研究会とは、なんと破廉恥な……。変態滅ぶべしで御座る!」
大胆に見得を切る静馬源一(
jb2368)は、きっちり女装していた。
長い黒髪を下ろし、身につけているのは中等部の女子制服。
もちろん瀬野を釣るためだ。断じて彼の趣味ではない。だんじて!
「学園にいる嫁のためにも、この依頼は失敗できませんね……全力でかかりましょう」
同じく女装姿で気合を入れるのは、浪風悠人(
ja3452)
大学部の女子制服に身をまとい、ウィッグをつけている。それだけではない。ムダ毛処理にナチュラルメイク、香水で体臭をケアし、下着まで女物という徹底ぶりだ。胸に詰め物をするのも忘れない。
誤解されがちだが、これは彼の趣味ではない。説得力ゼロだが、趣味ではないぞ!
あと念のため前回の依頼で雫にもらったスク水も持ってきたが、着てはいない! 妻帯者はそんなことしない! 持ってきただけだ! くりかえすが着てないぞ! 前回のは知らん! でも着てたんじゃないかな、多分。
「うぅん……佐渡乃先輩さえ説得できれば、絵夢さんも味方についてくれるはずですし……瀬野先輩を制圧するのも、簡単だと思うのですけれどぉ……」
月乃宮恋音(
jb1221)は、いつもどおりの服装だった。
たしかに言うとおり、明日羽を味方にできれば少なくとも戦闘で負けることはない。
「とりあえず、月乃宮さんから教わった手段で説得してみますわ」
応じたのは、琴ヶ瀬調(
jc0944)
清楚な感じの白いワンピースがよく似合う。
が、その『手段』というのは清楚という言葉からはほど遠い。
「できれば穏便に済ませたいものだねぇ……。たとえ戦闘で叩きのめしても、心を入れ替えなければ再犯の可能性が高いわけだし……」
狩野峰雪(
ja0345)は淡々と言った。
服装は普通にスーツだ。男性陣の中で唯一の常識人である。
こうして彼らは互いの意思を確かめあうと、敵地へ乗りこんだ。
そこに待ちかまえていたのは、パンチラ画像を吟味する瀬野と明日羽。
絵夢はというと、四つん這いになって明日羽のイスにされている。
「なんだね、キミたち」
瀬野が問いかけた。
「マジカル♪みゃーこ参上! 変態さんにお仕置きしにきたにゃ!」
元気に応じる宮子は、いつのまにか猫耳魔法少女に変身していた。
フリフリのミニスカコスが目にまぶしい。
「スカートめくり研究会に自主規制委員会の御三方! 覚悟するで御座る! 変態さん撲滅すべし。慈悲はない!」
源一が宮子の横に並んだ。
ん? 自主規制委員会? なにか誤字ったようだ。
「意味がわからない。私は部活をしているだけだが?」
堂々と答える瀬野。
すると、一千風が前に出た。
「風紀委員会からの依頼だ。いますぐ研究会の活動を停止して、破廉恥な画像データを処分するように」
「ことわる」
「そんな活動を続けてたら、全女生徒がこんな格好になりかねないぞ? いやじゃないのか、女子全員がスカートにジャージなんて」
「ジャージをはいてない女子がそこにいるじゃないか」
「おとなしく従わないなら、痛い目を見てもらうことになるが?」
「8人いれば勝てるとでも? そんなことよりキミ、ジャージを脱いでくれないか? キミのパンチラは持ってないんだ」
「なるほど、噂どおりの変態……」
とりあえず自分の写真が撮られてなかったことにホッとする一千風。今の今まで気が気でなかったのだ。
一千風の説得は空振りに終わったと見て、次に雫が前に出た。
説得の相手は明日羽。こっちのほうが厄介だと判断したのだ。
「佐渡乃さんは、実物でなく写真で満足するのですか?」
「ん? 実物と写真は別物だよ?」
「それなら良いですが、その写真をたのしめるのはあなた一人ではないのですよ? もしかしたら、そこの変態が焼き増しして仲間に配るかもしれない。それが許せるのですか? あなたが持つ写真の価値を保つには、その変態が隠しているネガやデータを破棄して二度とハレンチな写真が撮れないようにするしかないと思いますが」
「そう? 雫ちゃんの写真もあるけど、この価値は不変だよ?」
「いつのまに……」
「有名な人のは大体あるんじゃない?」
「その写真も処分ですね……」
雫は説得を放棄して、冷静にスキルを入れ替えた。
戦闘準備の構えだ。
「まあまあ。暴力は最後の手段だよ」
今度は峰雪が説得する番だった。
が、説得するのは彼自身ではない。
「お母さん、どうぞ」
呼びかけに応じて、中年女性が教室に入ってきた。
なんと、瀬野の母親である。
「おふくろ!?」
さすがに驚く瀬野。
「あんた、また他人様に迷惑かけて……大学生にもなってスカートめくりなんて、母さん恥ずかしいよ」
「おふくろはわかってない! これは芸術なんだ!」
「パンチラ写真がかい?」
「そのとおり!」
「はぁ、いつからこんな子に……撃退士になんか、させるんじゃなかったよ……」
その後しばらく親子の不毛な会話が続いたが、これまた説得は失敗だった。
「ありがとうございました、お母さん。もう結構です」
とうとう見かねて、峰雪が止めた。
そして、一枚の書類を瀬野に突きつける。
「正直こんなことはしたくなかったけど……僕らの要求を飲まないと、停学処分になるよ?」
「なに……!?」
「社会通念上、性的道義観念に反する下品で淫らな言語または動作は、刑事罰の対象になる。撃退士の力を利用しての犯罪行為もまずいよねぇ……? 実際、瀬野君の行動には世間からも苦情が寄せられていたようだし……というわけで、学園長に一筆書いてもらったよ。さすがにスカートめくりで退学にまではできないってことで、停学にとどめられたけど」
「ふふ……スカートめくりで停学! それもまた一興!」
「この様子だと、退学処分でもよかったと思うねぇ……」
あきれて溜め息も出ない峰雪。
「では、私の番ですねぇ……?」
恋音がおずおずと話しだした。
「えとぉ……たしかに絵夢さんの風紀委員会は、公的なものではありません。でも、こちらの研究会の活動内容を報告すると、学園側からの正式な捜査令状が下りましたよぉ……」
「捜査令状!?」
「はい……セクハラ行為の証拠も、押さえてありますぅ……。いままでの会話で、スカートめくりの事実を何度も口にされてますよねぇ……?」
恋音がポケットからボイスレコーダーを出した。
「会話を録音してたのか!」
「はい……そしてこれは、学園側からの正式な依頼ですのでぇ……とりあえず、画像データは押収させていただきますねぇ……?」
「そうはさせん! 佐渡乃君、出番だ!」
瀬野は立ち上がり、戦闘態勢をとった。
つづいて明日羽が鎖を手に取る。
「まぁお待ちくださいな」
一触即発の状況を、調が止めた。
「佐渡乃さん、あなたの趣味は聞いてますわ。ものは相談ですけれど、こちらに協力しませんこと?」
「ん? 私に何か得でもあるの?」
「ええ。この研究会を無事に解散させたら、私と月乃宮を好きにして構いませんわ」
「それだけ? もともと恋音は好きにできるけど?」
「では……こちらの娘たち全員では、いかがかしら?」
と、携帯の画像ファイルを見せる調。
「ふぅん……? 一千風ちゃんも好きにしていい?」
「は……!? なにを言ってる?」
ぬめりつく視線を感じて、一千風は後ずさった。
「いいって言えば協力するよ?」
「冗談じゃない! まっぴらごめんだ!」
「そう? 強気な子を調教するのも、たのしいよねぇ……?」
明日羽の鎖がジャラリと鳴った。
「佐渡乃さん、まだ私の話が終わってませんわ。こちらの用意した娘たちでは足りませんの?」
「足りなくもないけど……あなたの困る顔も見たいよね?」
「そうですか……。ところで三条さんは、私たちに味方してくれません?」
「えっ、私ですか!? 私は明日羽先輩の命令どおりに!」
イスの姿勢のまま、絵夢が答えた。
「では、一緒に佐渡乃さんを説得してくれませんこと? じつは私、Sのほうもいけるのですわ。佐渡乃さんが応じてくれれば、そちらも試せますわよ? たまには違う責めも体験してみたくはございません?」
「そ、それは、すごく……」
飼い主の顔色をうかがうように、絵夢は明日羽を見上げた。
が、答えはこうだ。
「じゃあ私は恋音たちの味方をするから、絵夢はそのまま瀬野を支援してね?」
「は!? ええっ!?」
慌てふためく絵夢。
「佐渡乃君! 裏切るのか!?」
瀬野も大慌てだ。
「うん、裏切るよ? さぁみんな、全力で戦ってね?」
にっこり微笑むと、明日羽は号砲がわりの銃弾を瀬野の胸に撃ち込んだ。
パーン!
「グワーッ!」
──!?
予想外の展開に、一瞬とまどう撃退士たち。
だがとにかくチャンスだ。
「速攻で沈めます……!」
闘気解放した雫が、真っ先に大剣で斬りかかった。
瀬野はこれを予測回避。本職の阿修羅でないため、雫の動きが今いちだ。
「変態さんは速攻確保したいけど、簡単には捕まらなさそうにゃね? なら弱らせてから捕まえるにゃ♪」
宮子はミニスカをなびかせつつ、壁走りで瀬野の背後にまわった。
そしてマグナムナックルでの迅雷!
だが瀬野は、これも悠々と回避!
しかも回避しながらスマホでパンチラを激写する余裕っぷりだ!
「なにか写真撮られてるにゃっ!(汗」
「ふ……戦闘美少女のパンチラこそ、至高の芸術……!」
得意顔でスマホをいじる瀬野。
「どうやら回避力が高いようですが……当たるまで攻撃するだけです!」
悠人がスカートをひるがえして突撃した。
そのまま太陽剣の白刃に闇をまとわせ、全力で振り抜く。
が、これも当たらない。しかもパンチラを撮られてしまうという屈辱。嫁には見せられない姿だ。
嗚呼、制服でなくスク水なら……! 身軽さを利して命中判定が有利になったかもしれないのに……!
「それ以上の変態行為は許さない!」
一千風は雫衣で超ミニスカ&へそ出しルックになり、瀬野の視線を引きつけた。
反射的にスマホを向ける瀬野。
対抗して一千風は『逆風を行く者』を発動。一気に接近してスマホを奪取……と思ったが、これも失敗。瀬野との間にイス(絵夢)が置かれていたため、足を引っかけてスッ転んでしまった。
その様子を撮影する瀬野は、とてもたのしそうだ。
「ふ……全員のパンチラを拝ませてもらう!」
瀬野は磁場形成で源一に近寄ると、物理的に(手で)スカートをめくった。
「そうはいかぬで御座る! 風遁・韋駄天斬り!」
分厚い書物を抜き放ち、強烈な一撃をぶっぱなす源一。
まったく手加減なしの全力攻撃だ。
しかし残念ながら、命中値が500ぐらいないと瀬野には当たらないんだよね……とか言ってたらファンブルしたので、変態の顔面に光の十字架が突き刺さった!
「グワーッ!」
「この隙に追撃で御座る! ちょっと痛いかもしれぬで御座るが、撃退士なので死ぬことはないで御座ろう!」
ふたたびブチこまれる韋駄天斬り。
まるで天魔を相手にするかのごとき、無慈悲な追撃だ。
「グワーッ!」
「これはコメディではないで御座るからなぁ。殺らなきゃヤられる、仁義なき戦いで御座る。全力で殺らねば……ああ、ココロガイタムデゴザルナァー(棒」
そう言ってる間にみんな集まってきて、無力化した瀬野をいっせいにボコりはじめた。
これぞ人類が編み出した究極の戦法! 必殺・囲んで棒で叩く!
「絵夢、なにしてるの? 瀬野を助けてあげて?」
明日羽が無茶な指示を出した。
「え!? 一人でですか!?」
「がんばってね?」
「わ……わかりました! いきます!」
ありったけの強化スキルをかけて、突撃する絵夢。
直後、悠人のソウルイーターやら何やら雨あられのごとく攻撃スキルが飛んできて、絵夢は何もできずに倒れたのであった。
以上! 戦闘終了!
「さて……仕置きの時間ですね」
「変態さんはお仕置きにゃ♪」
雫と宮子が、手分けして瀬野と絵夢を縛り上げた。
しかも瀬野はパンツ一丁。絵夢も下着姿である。
おまけに絵夢の縛りかたは、なんか違う。いわゆるキッコー・バインドだ。
おかげで絵夢は、「ひぁあああ……♪」と顔を上気させている。
「なにか縛りかた間違えた気がするけど……喜んでるからいいかにゃ(汗」と、宮子。
「見苦しいですが、撮られる側の屈辱を味わいなさい」
「今後また犯罪行為に及んだら、この恥ずかしい写真をばらまくで御座るよ」
雫が無慈悲に告げ、源一が二人の姿をカメラに収めた。
「く……っ、この程度で私は屈しないぞ!」
パンツ一丁で正座しながら無駄に抵抗する瀬野。
「わ、私も屈しません!」
絵夢も強気だ。
無論、明日羽に命令されて言ってるのだ。
『私は変態さんです』と書かれたプレートを首から下げた姿は、まさに変態そのもの。
「この変態め。さっさと降伏して研究会を解散すると言え」
悠人が瀬野に剣をつきつけて、ヒールで胸を踏みつけた。
「いいパンチラだ。ぜひ撮影させてほしい」
「この期に及んで、まだそんなことを……。スマホもデジカメもパソコンも没収した。正式な学園からの依頼として、データはすべて削除させてもらう」
「や、やめろ! 私の血と汗と涙と煩悩の結晶が……!」
「だまれ、性犯罪者め。すべて初期化してやる」
「うぉおおおおっ! やめろおおおおおおっ!」
血の涙を流す瀬野。
だが、同情する者は一人もいない。実際犯罪者だし。
「まぁ自業自得だねぇ……。あんまり親を泣かせるものじゃないよ」
諭すように峰雪が告げた。
はたしてその言葉は、瀬野に届いたかどうか──
こうしてスカートめくり研究会は強制解散。
瀬野は2週間の停学処分となり、画像データはすべて処分された。
だが15000枚のパンチラ画像は、明日羽の手元に残っている。
新しく手に入れたペットとともに、今日も彼女は百合色の夜を過ごすのであった。